やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

11 / 56
実装されないなら!促せば良いだろ!


前回のたづなさんに関しては結果論と言うことで。
言おうが、言わなかろうが…
伝えようが、伝えなかろうが…どっちでも良く。
でも、つい溢してほどにマフTは強く無かった。
だがマフティーとして前任者の書いた手紙に応えるべきだと思った故の行動です。 それは少なからず救いになり、結果的にマフティーとしての勤めを果たせた。 それだけの話だと言うことだ…


第11話

さて、ミスターシービーがGⅡレースの弥生賞を1着で勝ち取ると目指すべきはクラシック三冠の第一歩である皐月賞が待っている。

 

4月に開かれるのはホープフルステークス以来のG1レースであり、間違いなく強いウマ娘が集まる。

 

弥生賞で一度経験しているが中山の直線は短いし、仕掛けどころが悪ければスパートに乗り込めず、ポジションが悪ければ塞がれて前に出れず、パワーが無ければ勝負にすら参加できない。

 

強いウマ娘でなければ勝てないとわざわざ言われる辺りなるほど、と思える。 クラシック級におけるG1レースの恐ろしさだろう。

 

まあ、そんな訳なのでミスターシービーもイメトレだけではなく本格的に鍛えるのもアリだが、既に完成はしている状態。

 

これまで繰り返してきた究極のごっこ遊びによる視覚共有もより鮮明になってシービー自身が見ているモノもより見えるようになった。 そのためより意見や論議を交わし合って、伸ばすべき点や克服するべき点など着々と整えて行く。 認識のすれ違いを作らず、誤解なく共有して理解し合う。

 

互いに最高のパートナーとしてマフTとミスターシービーを作り上げる。

 

 

だが、ここはもうひと磨きするべきだろう。

 

あと彼女のモチベーションを保ちつつ楽しめるトレーニングが良い。 そして俺はひとつだけ考えていることがあり、また試したいこともある。

 

そのためたづなさんの元まで向かい、提案とお願いをすることにした。 それは…

 

 

「キャンピングカーですか?」

 

「はい。 トレセン学園にありますか?…と、言うよりありましたよね? 前のファン感謝祭で写真撮影のために利用してた事は覚えています。 恐らくレンタルだと思いますが学園の伝でキャンピングカーをお借りできたらと思いまして」

 

「ええ。 可能です…と、言うよりも、そうして頂くとむしろ助かります。 実のところ短日ではなく月間でお借りしてまして、今は使われず奥で眠っている状態なんですよ。 ちなみにいつ頃でしょうか?」

 

「次週の連休を利用してシービーに軽めの合宿を施したいです。 皐月賞に向けてもうひと磨き出来たらと考えてます」

 

「あら、それは素敵ですね。 分かりました。 ではこちらで手配の方はさせて頂きます。 あとはミスターシービーさん自身で寮長に空ける事をお伝えください。 マフTさん自身も外出届け……あれ? もしかして運転するおつもりで…?」

 

「はい。 運転します」

 

「なっ! き、危険ですよ!? まさかそのカボチャ頭を被って運転でもするおつもりですか!?」

 

「しません。 流石にその時は外します。 仮にカボチャ頭被って安全運転が出来ると真似する人が現れてしまうので、それは大変宜しくないと考えてます」

 

「そ、それはそうですが…いえ、ちょっと驚きました」

 

「自分は家に帰ったら流石にカボチャ頭くらい外しますよ? 流石にこの状態でシャワーを浴びたり、被ったまま寝たりなんてしませんから」

 

「そ、そうですよね。 でも…良いのですか? マフTさんはマフティーとしてあるために、そのカボチャで形にしている。 それを外して人の眼が入るだろう中に飛び込むのはマフティーとしての姿なのですか?」

 

「そこは対策など考えています。 なので問題ないと言えるでしょう。 まあ、仮にマフティーとしてカボチャを外してその行動を起こしたとしても、マフティーが失われる理由にはなりません。 何故ならマフティーは皆の中に残りますから。 俺と言うマフティー性は消えてしまう恐れもありますが、それでもこのカボチャを床に置く理由にはならない。 どうであろうとマフティーを果たします」

 

「そう…ですか、わかりました。 無用な心配でしたね。 マフティーなら私のことを呼び捨てにしてしまう程ですから大丈夫でしょう」

 

「…………え? 呼び捨て?」

 

 

せっかくのマフティー口調が崩れる。

 

てか、呼び捨てとは…??

 

 

「覚えてませんか? マフTさんが自身の存在を私に明かしたあの日、最後に私のことをさんを付けずに『たづな』と呼んだじゃ無いですか? ひどい人ですね。 その上秘書である私を口説こうとして…」

 

「!?…あ、あー、いや、アレはですね? ちょっと語るにしては色々と重た過ぎたと言いますか、自分自身もなんと言いますか、一度そうして濁すべきかと思いまして……その、すみませんでした」

 

「ふふふっ…マフTさんも案外不器用な人ですね。 ですがアレ限りで特別ですよ? あまりそうやって女性を口説こうとするのもよろしく無いかと思います。 あ、これ本当ですからね? 何せこの学園はウマ娘で集われています。 ウマ娘は何かと運命を感じやすい生き物です。 なのでそう言ったことに案外弱いものですから、軽はずみにそう発言してしまわぬよう気をつけてください。 もちろん仲が良い事は素晴らしいですが、その者が走り切るまではあくまで指導者と生徒の間柄でいてくださいね?」

 

「き、気をつけます…」

 

 

そうか、そうだったな。

俺はたづなさんにそんなこと言ってたよな。

 

いや、だってよ?

 

俺自身が世間的にマフティーである事を受け入れても、俺自身は憑依した一つの人格であり、マフティーである前に前任者の呪いに苦しんでいる一人の人間でもある。

 

世間的に美化されているマフティーであるが、俺にとっては誤魔化すための要素だ。

 

それもまたマフティーなんだけど、でも俺自身はこの1年間を耐えて、それで一人抱えてきた。 打ち明ける相手もなく、でも呪いのことを告げてもそこに解決は恐らくない。

 

でも何かヒントがあるならと思ってたづなさんに聞いてみた。 ある朧げな記憶。 でも手紙に書かれていたたづなさんに対しての感謝と後悔の文。 だから近くまでやってきた彼女に聞いてみた。

 

それで…まぁ、地雷を引いた訳だ。

 

言ったことに後悔はしたさ。

 

これで良かったのかも考えた。

 

でもそれとは別で伝えるべきだと思った。 あの手紙だけは前任者、唯一の正しい望みだ。 なら前任者の代わりとなった俺がそれを伝える必要はある。 ここにマフティーは介入していない。 俺の独断と弱さから始まっただけの話だ。 それでたづなさんも思った以上に前任者を気にかけていたし、それで人格の消失まで追い込んだのかと思って泣き出した。 俺はひどい男だ。

 

 

知らぬが仏って言葉がある。

 

この異常な有様はたづなさんにとってすごく不思議だったと思う。 でもいずれ気にしなくなり目の前に映るのはマフティーだけだ。 なら俺が前任者とは別の人格である事も隠し、有耶無耶に出来たんだ……俺が何も告げずに、俺だけが抱えて耐えればな??

 

けれど耐えれるのはカボチャを被ってマフティーを演じることだけ。 俺もマフティーって姿を求めなければならなかった。 そうして誤魔化すしか無かったんだ…この現状は。

 

でもそれ以外はどうだろうか?

 

マフティーでは無い俺自身が、三女神の像の前でカボチャの頭を外してしまった俺自身が、その瞬間だけマフティーであることを脱ぎ捨てた。

 

マフティーではない、憑依した哀れなオレ自身を三女神に見せた。 マフティーは仮初なんだとカボチャを外して訴えた。 けれど三女神からアクションは何もなく、たづなさんが俺の姿を見てやってきた始末。 慌てて被ったカボチャではたづなさんにマフティーを演じ切るのも半端だった。

 

だってマフティーは建前であり、そこに立っているのは俺なんだ。 でも1年間染み付かせたマフティー性があるから踏みとどまった。 俺が悲痛をあげる事は無く、変わりに前任者の痛みとこの呪いを知るためにたづなさんに聞いてみた。

 

そこにヒントは無く、泣き崩れてしまった彼女。

 

たづなさんに取って前任者は問題児のトレーナーだったのに、顔を抑えて泣いてあげた。 この人は優しすぎる。 この学園に100人か200人以上いるトレーナーの中でやや入れ込み過ぎだとも思うが、彼女は優しかった。

 

ウマ娘との間で苦しみながらも一線は越えずに、食いしばりながらトレーナーを勤めようとした独りよがりの前任者を気にかけていた。 そこから真実を聞いて泣いてしまうまでは予想外だったし、謹慎の手続きを半端強引に進めた自分が追い込んだと苦しんだ。 でもそれは違うと俺は言ってあげた。 たづなさんは何も悪くないから。

 

 

それで涙を指で拭ってから……気づいた。

 

 

__ここからどうやって慰める??

 

このまま「お前をコロす…(デデン!)」と言って指で拳銃を作れば良かったのか? え? ヒイロはそんな事言ってなければゼロは何も言ってくれない? ゼロシステムでマフティーの事を導いてくれないかなぁ……組み合わせ最悪かよ。

 

それで何を言い出したのかたづなさんも「私もマフティーになる!」と言い出した。 鳥になりたいな!って思うより危険だぞ。

__却下しちゃうんだよな!コレがぁ!!

 

それでなんとかマフティー取り繕いながらマフティーはやめておけって言ったけど、ここは鋼の意思のたづなさん。 いや、その意思はここで持たないでもろて…

 

それでまだなんとかマフティーでゴリ押すしかないと思い、美人さんがやるべき姿じゃないと告げるやり方しかその時思いつかなかった。

しかし、残念。

付け焼刃のマフティーでは流石にお粗末だった。

いや、付け焼刃のマフティーってなんだよ…

 

なので今日こうして注意を受けてしまう始末。

 

俺としてはすごく恥ずかしい。 これまでマフティーを建前にしてきたけど、マフティーを盾に口説いたのは初めてだ。 マフティーはそうじゃない。 たづなさんが美人なのは誰しもが認めるけど、でも流石にあのタイミングはマジで無いわ。 だから彼女本人から注意を受けて今やっと軽率なことに気づいた。 恥ずかしい。

 

これならまだ空気読まずにやって来てくれる筈のパリピギャルウマ娘に空気破壊して欲しかったわ。

 

けれどお前の罪は重バだからな? でも重バをなんとかするのもパリピギャルウマ娘とか、もうこれわかんねぇな。

 

 

とりあえず、たづなさんの件については経験不足故にテンパった若さ故の過ちです。

これはカミーユに殴られますわ。

あとついでにハサウェイも殴られとけ。

 

 

 

「あとマフTさん、私からもひとつトレセン学園の秘書としてお願いがあります」

 

「お願いですか?」

 

「ええ」

 

 

 

たづなさんからお願い?

 

なんだろうか?

 

 

「そのですね…? マフTさんは新人トレーナーである事は充分承知の上だと思っています。 ですが重ねてきた実績は本物であり、それ相応の力あるトレーナーであることも存じてます。 これまでミスターシービーさんが出走してきたレースは全てを1着に納めています。 G3、G2、G1と各一回ずつ出ている中で誰もが認める結果を出してきました。 あなたはトレセン学園の一端を担える一人のトレーナーです」

 

「!? きょ、恐縮です…」

 

「もう、そこはマフティーらしく堂々としてください! こほん…なのでマフTさん。 改めてトレーナーの腕を見込んでお願いがあります。

可能な範疇で構いません。

__あなたに受けてもらいたい話があります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ 担当ウマ娘を増やすことは可能ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンピングカーの使用許可が出たので早速出発することにした。

 

てか、女子生徒と二人でキャンピングを許されていることについて凄く気になったけど、レース出走のために遠出して泊まることとそこまで変わりないらしい。

 

もちろんたづなさんからも「くれぐれも、気をつけるように」と釘は刺されている。 もちろんマフTであり、マフティーとして信用されているので裏切るつもりはサラサラない。

 

あとせっかくのキャンピングなので楽しむことが好きなシービーと楽しむことにするのだが、運転時にカボチャの頭を外す必要がある。

 

ハイジャックじゃ無いにしろ流石に危険すぎる。 しかしカボチャの格好がマフティーたらしめる姿なので、人目が入る中で俺がそう簡単に外せるわけでもない。

 

 

なので……普通に考え方を変えた。

 

 

ハンドルを握り、首都高速を走る。

 

 

恐らくだが、ミスターシービーにとって新鮮な光景だろう。

 

 

夜の街中ってのは。

 

 

 

「おおおおお!! マフT、マフT!ねぇねぇ見て! アレ綺麗だよ!!」

 

「だな。 首都(こう)から見える夜の景色はなかなか良いと思うよ」

 

 

対策その1。

 

夜の中で運転すれば良いことだ。 人が寝静まった時間を使って移動すれば良い話であり、注目も集まらないだろう。 走っている車の数も昼間の1割以下である上にわかりづらいから、この移動時間を考えた。

 

 

対策その2。

 

実は今はカボチャ頭を外してサングラスをかけている。 夜にサングラスは危険だと思うだろうが、サングラスにも外側は濃ゆく塗られている事に対して内側からは良く見える種類はある。 あと大きめのマスクも付けている。 ゴールドシップの知り合いであるオルフェーヴルってウマ娘が色んなマスクを付けていたのでそこら辺は参考にした。

 

ちなみにミスターシービーにはカボチャ頭を外したサングラスとマスクの姿は見られている。 でも恥ずかしいからあまり見ないでね?って言ったら「いいよー」と返ってきて、今は助手席には座らず後ろのベッドでくつろぎながら外を見ている。 そのかわりシートベルト甘いの怖いなぁ…

 

てか、怖くないのかな? 俺のこと。

 

視線はサングラス、あとマスクでだいたいを覆ってるから呪いの影響は無いと思うが…

 

いや、今となってはそもそも視線で怖がらせてるかも怪しいな。 けれど鏡に映った俺自身を見て背筋が凍ったからこの認識は比較的間違いでは無いと思うのだが、本当にどうなんだろうか? かと言ってシービーや他のウマ娘に試したいとも思わないし、何か誤ってひどい惨事を招くくらいなら現状維持を決めるしか無い。 そのためのマフティーだ。

 

 

「マフT、そう言えばどこに向かってるの?」

 

「奥多摩」

 

「ぇ…うそっ!?」

 

「マジ。 せっかくキャンピングカーを借りれたんだ。 だから楽しもうか、シービー」

 

「っ〜〜!! マフT大好き!」

 

「褒めてもカボチャと蟹しかでない」

 

 

キャンピングカーのベッドの上で尻尾ブンブンしながらゴロゴロ転がりまくって喜ぶミスターシービーをバックミラーで確認しつつ運転する。 微笑ましい。

 

 

そして途中パーキングエリアで休憩を挟みながら進み、シービーは珍しく写真を撮っていた。

 

彼女はそこまでウマッターやウマスタにあまり触れないのだが、撮ったものでも投稿するのだろうか?

 

少し騒ぎになるから遠征が終わってからにしてとお願いする。

 

「コレは二人だけので誰にも教えないよ」と彼女は画像を見て微笑んでいた。

 

それからキャンピングカーの中で眠りにつくミスターシービーを揺らしながら、数時間が経過。

 

朝日の中で到着。

 

まだ眠っているシービーを残してキャンピングカーから降りる。

 

運転で縮こんだ体を伸ばしながら遠くを眺める。

 

朝日に染まる奥多摩湖がマジで綺麗だった。

 

キャンピングカーの上に寝袋広げて一眠りした。

 

 

 

 

 

ミスターシービーが起きたあと空気を堪能しながらトレーニングを開始。

 

あらかじめ作っておいたトレーニングメニューを渡してミスターシービーの体作りを始める。

 

今だけは究極のごっこ遊びも無く、奥多摩にある環境を全力で楽しんでトレーニングに励むミスターシービー。 環境が変われば気持ちの入り用も変わるし、こりゃ練習効率も高いな。 またそのうち計画するか。

 

 

ああ、それにしても良いなぁ。

 

カボチャ頭さえ無ければ俺だってこの辺りで気持ちよくバイク走らせるのに、ちくしょう。

 

 

そんなこんなで充実したトレーニングを終わってから蟹鍋を作って1日が終了する。

 

 

2日目も同じようにトレーニングを行い、ミスターシービーは坂道を往復して足を鍛える。

 

休憩する時も奥多摩湖を眺めながら会話を挟んでは皐月賞に向けての思いを語る。

 

 

彼女とこんな会話をした。

 

 

 

「アタシの母がウマ娘としての名前を持っている頃…そう"トウショウボーイ"は皐月賞を走ったんだよ。 その時の映像は見たことがある。 すごくね…ギラギラとしていたんだ」

 

「…」

 

「外に膨らみながら第4コーナーを曲がり終えた直線に入ったトウショウボーイは強引にバ群から放たれるとその脚で抜き去り、5馬身近くを切り離して皐月賞を勝ち取った。 圧倒的な勝利。 その末脚はアタシも真似できるか想像できなかったけど、でもそれ以上にトウショウボーイだった頃の母の眼を真似できるかもわからなかった。 だってトウショウボーイは勝利を得るのと同時に高揚感の中で滾る感情を全力で楽しんでいたから」

 

「俺も見たさ。 あの皐月賞は圧倒的だった」

 

「今の母はすごく落ち着いていてね、当時の皐月賞のことをはしゃぎすぎた過去の栄光だとコロコロ笑うの。 でも幼い頃に一緒にその映像を見たときの母の眼は一瞬だけ…鋭かった。 いつまでもあの時の高揚感は覚えていて、それは走って楽しかった証拠なんだとアタシは知った。 だからアタシは憧れたよ…母の皐月賞に」

 

「…」

 

「マフT、アタシはアタシだけの楽しみを描くよ。 そして皐月賞を勝ち取るよ。 母…いや、トウショウボーイが走ったあのレースでアタシも描いてやるんだ。 皐月賞の中でミスターシービーは隠せない程の笑みを浮かべてゴールを切り抜ける瞬間を、アタシは描いてやる」

 

 

休憩時間を終えてミスターシービーは再びトレーニングに身を投じる。

 

この時、究極のごっこ遊びは無く、ただひたすら皐月賞の栄光を夢見て彼女は走る。

 

描くのでは無い。

 

その瞬間を夢見てミスターシービーは自分の脚を作り上げる。

 

だからそんな彼女の姿を初めて見た気がした。

 

雨の中でも構わず散歩する彼女はたまに泥を被ってカラカラと笑っているけど、今だけは汗水を垂らして疲労に堪えながら歯を食いしばり、そのジャージ姿とトレーニングシューズを汚す。

 

その姿は皐月賞を本気で目指す一人のウマ娘であり、都合よく描くだけの子供じゃなかった。

 

 

まあ、それもその筈だ。

 

こんなに景色が良い奥多摩でわざわざ想像や空想を目の前に描かなくてもすでに彩り豊かなのだから描けるはずもない。

 

だから良かった。

キャンピングカーを使ってこの場所まで来__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Z________

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

なんだ!

 

か、感じるぞ…!?

 

 

この感じ…邪気か!?

 

いや、違う…

 

 

これは純粋な視線だ。

 

視線で牽制してたトレーナーの邪気とは違う。

 

でもまっすぐ見られているような感覚。

 

 

誰か見ている??

 

どこからだ??

 

 

どこに…

 

 

 

 

「じーーぃ…」

 

 

「ちょわっ!?」

 

 

 

び、びっくりした!?

 

キャンピングカーの影に誰かいた。

 

でも隠れる気もなく、ただ見ているだけ。

 

もしや厄介なファンか?

 

確かに今はカボチャ頭だし、いつでもマフティーできる状態だ。

 

それに世間的に有名になってしまった俺のことだ、カボチャ頭を見て興味が湧くのも普通だろう。

 

しかし最近はカボチャ頭を被ってマフティーの真似する一般人が多く、そこらにマフティーがいる。 だから本物の俺を見ても偽物のマフティーだと思う人もいるだろう。

 

それに今はミスターシービーも走り込みのために近くにいないのでトレーナーのマフTとも思われず、キャンピングを楽しみにきた一般通過マフティーもどきだと考える筈だ。

 

それと驚いて気づかなかったがウマ娘かこの子。

 

しかし格好が登山する時の姿であり、リュックサックを背負っている。 つまり登山のために奥多摩まで来たことになるのだろう。 また鍾乳洞が目当てか? そこらへんはまあ良いとして…

 

このウマ娘。

 

暗がりの中に光る目は金色で綺麗だけど少し怖いなぁ。

 

 

いや、でも待てよ?

 

どこかで見たよな?

 

 

もしや、トレセン学園の…

 

 

 

「見える」

 

「……へ?」

 

「いや、見えるようで見えない。 でもあなたはあなたじゃないナニカが見える。 これがマフティー?」

 

「!」

 

 

俺のマフティーを見破った…?

 

いや、演説の中で作り上げた姿だと解釈されるなら見破られたも同然だけど。 マフティーは演技だろ? そう言われたら否定できないが肯定してやるつもりはない。 俺なら「どうだかな」とはぐらかしてやる。

 

でも目の前のウマ娘が言う『マフティー』の言葉は違う。

 

俺がマフティーとしてあろうとする"別の人格"だと言うことだ。

 

つまり"憑依"したことが知られたと言うことになる。 でもまだ確信的ではない。

 

それもまたマフティーであることで染めるしかない。 俺はマフTだがマフティーになれる存在なのだから、小娘一人に暴かれるなど許さない。

 

 

 

「…あなたも見えるのかな? 私の周りを」

 

「え?」

 

 

 

周り??

 

……ああ、なんか、いるね。

 

 

 

「薄らだけど小さいのは見える」

 

「!!??」

 

 

 

なんかすごい驚かれてるな…

 

でも、見えているんだよなぁ…

 

シービーと究極のごっこ(イメージトレーニング)遊びしてるせいからか?

 

 

 

「な、なら! これがなんなのか見えますか…!?」

 

「え? いや、特には…」

 

「っ?!……っ、そ、そうですか…」

 

 

耳が一気にシュンとなる。

 

どうやら期待してたらしい。

 

 

でも、それは見えずとも何となくわかる。

 

 

 

「だが、これはウマ娘じゃないかとは思う」

 

「!」

 

「もしかしてコレは…

__君が思い描く走りたい相手か…?」

 

「ぁ、ぁっ! あぁッ!」

 

 

 

え? え?? うぇ!?

 

な、なに?

 

こ、怖いな。

 

めっちゃ目が見開いてるし…あ、でも暗がりの中に薄らと光る金色のハイライトが強まった気がする。

 

なにそれ、モビルスーツのモノアイかよ。

 

 

 

「ふー! ただい()フティーってね! トレーニングメニュー全部終わったよ〜、そろそろ夜ご飯とか……んん? お客さんかな?」

 

「あ、おかえりシービー」

 

 

シービーが戻ってきた。

 

てか坂道の往復だったろ?

 

奥多摩は場所によっては結構坂だぞ?

 

トモが強いなこの子。

 

 

 

「あれれ? よく見たら君は、確か…」

 

「こんばんは、お邪魔してます、シービーさん」

 

「珍しいね! あ、今日はここでお散歩?」

 

「い、いえ、今日は登山で…あ、でもコレもまたお散歩のようなものですか。 はい、それで間違いではありません」

 

 

二人は知り合いのようだ。

 

学年は違うそうだ。

 

あとやはりトレセン学園のウマ娘か。

 

 

 

「あ、マフT、この子とは初対面だよね? 私と同じトレセン学園の生徒で今年の入学生だよ」

 

「はじめ、まして…」

 

 

 

頭を下げて挨拶する不思議なウマ娘。

 

黒くて長い髪が靡く。

 

 

 

「ああ、初めまして。 恐らく知ってると思うが改めて自己紹介しよう。 俺はマフT。 またはマフティーと言ったほうが有名だろうな」

 

 

「はい、一方的に存じてます」

 

 

「そうか。 それで君の名前を伺って良いか?」

 

 

「はい、申し遅れました。 私は……」

 

 

 

 

薄い金色に染まる目と、黒くて長い髪の毛。

彼女が持ち合わせる雰囲気を揺らしながら…

 

 

「 マンハッタンカフェ と申します」

 

 

彼女は小さく微笑んで自己紹介をする。

 

 

 

 

「よろしく、マンハッタンカフェ」

 

 

「はい、よろしくお願いします。 私のトレーナー」

 

 

 

 

 

 

 

…??

 

 

 

「はい?? なんて??」

 

「はい、そうです」

 

 

 

いや、聞き間違いだろうか?

 

なんか最後言われたよな?

 

そう思っていたのだが…

 

 

 

「ふーん? もしや逆プロポーズかな? マフTはウマたらしのカボチャだったと言うこと?」

 

「………え」

 

 

 

ミスターシービーに揶揄われる事で理解する。

 

どうやら聞き間違いじゃ無かったようだ。

 

 

 

 

 

つづく




あー、奥多摩また行きたいなぁ…


高等部1年
マルゼンスキー、メジロアルダン

中等部3年
ミスターシービー

中等部2年
シンボリルドルフ、パリピギャルウマ娘

中等部1年
マンハッタンカフェ、ゴールドシップなど


察しの良い兄貴は多いと思いますが、担当一人増えます。
やったねタエちゃん! 仲間が増えるよ!

ではまた

フルアマーフクキタルは引けましたか?(震え声)

  • 単発で引けた。
  • 10連で引けた。
  • 20連以上で引けた。
  • 100連から数えてない…
  • 当たるまで引けば確定だから(天井)
  • 今回は狙っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。