やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:つヴぁるnet

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三冠ウマ娘は伊達じゃ無い



第16話

 

 

 

「秋川やよい…さんですか」

 

「うむ! キミの事はたづなから聞いているぞ! 確かマフTと言ったな! トレセン学園の新風と聞いている!」

 

「新風かどうかは分かりませんが、これまでに無いトレーナーだと言うのならそれは否定はしません」

 

「そうだろうな! しかし、たづなも強く信頼を寄せている! ()してそのカボチャ頭も贖罪のために被ると聞いた! 何故カボチャなのかはわからないが、マフティーとしての意味を理解すればそれは分かるモノだとたづなは教えてくれた! …して、その頭とマフティーは譲れないモノなのだな?」

 

「ええ、もちろんです。 マフティーは自分にとって必要なモノです」

 

「納得ッ! キミに強い意志を感じた!!」

 

 

どうやらたづなさんは俺がこうなった経緯は隠してるようだ。

 

まあ、それもそうだよな。

てか、それでいい。

 

前任者の人格は無くなり、マフティーを演じるための俺と言う人格がこの体に宿りました…

 

とか言っても理解に苦しむだけだろう。

たづなさんの判断はナイスだと思う。

 

 

ちなみに、たづなさん自身もう前任者に対しての負い目は無く、忘れないようにすると乗り越えた。

 

__愚かながらもその人なりに頑張っていた

 

そんなトレーナーがトレセン学園に居たんだ…と、形で収まっている。

 

 

_あとは全てマフティーに任せろ。

_そのためのマフティーだ。

 

 

そう背負わせない方向に持ち込んでいる。

 

そのかわりサポートはお任せ下さいとより一層力を貸してくれるようになった。

 

たまに練習場に現れてはウマ娘が無理してないか確認している。

 

一人では気付かないことあるので遠目から見てくれるだけでも助かる。

 

俺は知識があってもこの体に経験は無いのでたづなさんのアドバイスは助かっている。

 

 

 

でも、たまに思って、考えてしまう。

 

俺の心が強かったら扱いは変わってたのか?

 

一人でマフティーを抱えて歩めたのか?

 

そんなのはわからない。

 

だが結果として、俺はそうではなかった。

 

カボチャ頭を外したことで一瞬だけマフティーを忘れてしまった俺は、俺自身を思い出す。

 

マフティーを演じない俺はそこまで強くなかった。

 

1年間抱え続けて、それで疲弊して、とうとう耐えれずにたづなさんに告げてしまった。

 

俺は前任者ではない人格だ。

そう言ってしまう。

 

 

でも今はそれが正解だったと考える。

 

これは正当化。

 

前任者に唯一残っていた良心(手紙)はこの体を貰うことになったマフティーとしての責任を持って伝えるべきだ。

 

前任者は消える前にマフティーを求めた。 その願いを聞き届けるために、俺はマフティーとしての役目を果たした。 なら、マフティーは応えるだけだ。

 

だからもう…

"お前"は気にせず、後はマフティーに任せろ。

 

俺はマフティーとしてそう飲み込んだ。

 

 

 

たづなさんに告げて、一つだけ重荷を拭う。

マフティーとしての在り方も強く定めた。

 

__ここからが地獄だぞ。

 

 

しかし、もう心は負けない。

 

それはマフティーだけではない、俺自身もだ。

 

このアプリゲームな世界を理解して、またこの世界で奮いたい理由を持ち、この世界でこの姿で歩むことを決めた。

 

ウマ娘を育てる一人のトレーナーとして、ミスターシービーを、マンハッタンカフェを、ダイタクヘリオスを、これから増える担当のために…!

 

俺はこのカボチャ頭にマフティーの意味を込めて敢然とマフティーするだけだ。

 

 

意味がごちゃごちゃしているだって?

 

ならこう捉えればいい。

 

 

 

 

これからも変わらずマフティーする。

 

ね? 簡単でしょ。

 

 

 

 

「秋川さんにマフティーとしての強い意志が伝わった事に感謝します。 もう間違いは犯さない所存でございます」

 

「反省ッ! 誰しも失敗はつきもの! 心機一転としてまた歩み直せるのならそれに越したことは無い! 覚悟ッ! キミにとってマフティーは覚悟なのだと私は見た! キミの強さはこの秋川やよいが深く理解したぞ! これからの健闘を祈る!」

 

「はい」

 

 

てか、マジでこの子はなんだろうか?

 

このトレセン学園で偉い人になるお方か?

※翌年の理事長(1番偉い人)

 

 

あと扇子に書かれている大きな二字熟語が閉じて開くたび変わっている。

 

これ純粋にすごいな。

俺の知らないモビルスーツとでも言うのか?

 

 

 

「帰省ッ!! 私はまた国外に戻る…だが! また直ぐに戻ってくるだろう! それまでこのトレセン学園を任せる!」

 

「え? あ、はい、任されまし…た??」

 

「うむ!!よろしくたのむ!」

 

 

あの、たづなさん??

あなた一体何を言ったんですか??

 

マフティーの事を強く信頼してくれるのは俺も嬉しいですけど、何かそれ以上に買い被りを起こしてませんか?

 

あのヘッドバン残念美人(乙名史記者)の妄想癖がエグザムシステム(素晴らしいですぅ!)することで過剰に受け止めてしまうのは仕方ないと理解しているが、たづなさんまでもが歯止め効かなくなるとマフティーとして少し困りますね??

 

 

「では! また会える事を祈る!」

 

「あ、はい、お気をつけて」

 

 

そうしてガラガラとキャリーバッグを引きずってタクシーに乗り込んだ秋川やよいを見送る。

 

しかし不安になり始める頭の中ではウッキー!今年は申年ィ!と全覚抜けしてそのまま覚醒落ちした時の状態で脳裏が思考を拒み始めていた。

 

 

え?

 

俺は未来で一体何をされるんだ??

 

 

 

………もしかしてマフティーダンス??

 

 

 

 

 

「いや、あの倍速結構疲れるからなぁ…」

 

 

しかしウマ娘の身体能力なら可能だったようで、去年シービーが過呼吸にされた仕返しとしてハロウィン中の商店街で例の踊りを再現度高く踊っていた。

 

踊ったのは一部分だけど、他は何かでアレンジしつつハロウィンらしさのある振り付けで盛り上げていたのは一年前の話。 あとパリピも踊ってた。

 

 

もしかして今年の秋もそうなるのか?

 

多分そうなるだろうな…

 

 

 

「マフTさん…」

 

「カフェか、どうした?」

 

「いえ、見かけたので、思い耽るあなたをずっと見てました」

 

「相変わらず人間観察が好きだな。 そんなに楽しいか? こんなカボチャ頭のトレーナー見て」

 

「はい」

 

 

断言された。

 

まぁ、ヘリオスも言ってたけどコンテンツとしては面白い方だからな、マフティーな俺って。

 

見せ物になったつもりは無いけど、こればかりは致し方ないとしか言えない。

 

 

「カフェはお昼食べたのか?」

 

「いえ、まだです」

 

「そうか。 俺は……皆の前では外せないのでお付き合い出来ない。 悪いな」

 

「いえ、大丈夫です。 マフTはマフティーとしてある為にその覚悟を脱ぐことは出来ません。 それはわたしも理解しています」

 

「でもカフェには助かっているぞ? 君が作るアイスコーヒーはカボチャ頭を外さずに長いストローで飲める。 唯一マフティー性を保ったままマフティー性を高めてくれるマフティー性ある飲料で俺好みだな」

 

「ふふっ、ありがとうございます。 まだほんの少しだけ暑い時期が続くので放課後にまたお作りします」

 

「ありがとう」

 

『__』冬はどうするの?

 

「え? んー、そうだな。 とりあえずストローは厳しそうかもな」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

 

そう言ってイマジナリーフレンドと会話しながら去っていくマンハッタンカフェと別れて俺もトレーナールームに戻ることにした。

 

 

 

ところでマフティー性の高い飲料って何さ……?

 

横格ブンブンで脳死寸前。

 

自分で言っててわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム名はまだ貰えない。

 

チーム名を貰うくらいならもっとゆるい条件でも良いはずだが、長きに渡る伝統云々に厳しく、昔から染み付いたこのルールをそう簡単に変えることは出来ない。

 

だがチーム名がある事は中央にとって大きな誉なのでそれを目指そうと奮闘するトレーナーは多く、トレーナー達のやる気や目標に繋げたりと影響を与えている。 決して悪いことでは無い。

 

だが問題なのはチーム名=権力に強く繋がってしまうこと。

 

トレセン学園の場合チーム名の無いトレーナーは肩身が狭く、実力主義が重視される中央では横暴気味な先輩トレーナーに舵を捕られるパターンが度々起こっている。

 

例えば、グラウンドやプールにトレーニングルームは基本的に予約制なのだが、使用者としての優先順位はやはり地位や評価の高いトレーナーだったりする。 チーム名を授かっている実績も直結するため、入社したばかりで何も持たせない新人トレーナーは利用権を獲得し辛く、そうして省かれる事が多い。

 

もちろん俺もその一人であり、現時点でもそうだ。 いつも遅い時間にやっとグラウンドを使えるが門限の関係上で使用時間は主に1時間と短い事は良くある。

 

シービーが二冠を取ってからはマフTは成績を残せるトレーナーとして多少なりと認められているが、それでもまだ肩身が狭く行動を強制されている始末。 それもチーム名が無いだけでそうなる。

 

そのため雨の日は室内トレーニング施設を使えないことも珍しく無い。

 

先月の夏は強化合宿が始まるまでプールはほぼ使えない状態が続いていた。

 

8月に強化合宿が始まった事で半分程のトレーナーがトレセン学園から抜けてやっと自由にプールが使えた感じである。 それまで涼めない夏をしばらく過ごしていた。

 

まあ、こんな感じに実績の無いトレーナーは活動範囲が狭められる現状下、しかしここは実力主義の中央としての厳しさだと納得しなければならない。 かと言って実力主義の社会が悪いとは言わない。 大きなコンテンツを扱う世界で競争主義は必要な事だと思う。

 

しかし、方向性が良くない。

 

私欲を満たすために権力を獲得する目的は協調性が無く、いずれ反発を起こす。

 

その一端としてだ、将来有望と言われるほど成績優秀のトレーナーが狭き門を潜って中央まで来たが、トレセン学園の優しくない環境で上手くいかず、活躍もできないまま1年で中央を去ってしまう事が起きてしまう…てか、実際に起きてるらしい。

 

このトレセン学園にベテランとして長くいる東条トレーナーも何人か見てきたようだ。 サブトレーナーとして捕まえれば良かったトレーナーが何人もいたようで、それで去ってしまう形にしてきたことを後悔していた。 ただでさえ人手不足が加速しているのにもったいないと悔やんでいた。

 

それなら新人にもチャンスを設けられるようにもう少し規制やら権限やら緩くして、トレーナー全体にトレセン学園の環境が行き届きやすくなれば良い…と、簡単に行動できるなら先駆者が昔から幾らでも行なっていた筈だ。 そうならないのが社会の難しいところだ。 けっこう面倒な話。

 

そうさせない者がいる。 トレセン学園に古くからいるトレーナー、あとそいつらに因んだ関係者とかだ。

 

 

 

_新人にも場を設けやすくしろ!

_もっと平等にチャンスを与えるべきだ!!

 

 

_ダメだ、今いるトレーナーで地固めを行う。

_下手に取らず、安定を取る方がマシだ。

 

 

 

どこまでが本音で建前なのかわからない。

 

だがせっかく中央までやって来た新人すらも土台として踏み潰して、今ある高みに縋り続けるのは如何なものか?

 

先駆者として、経験者として、後輩を育てる社会的義務があるだろうが、そうしない輩はチラホラといる。

 

だがそんなトレーナーでも経験豊富なので腕は確かであり、中央に存命する力があると言う事はベテランを意味する。 強いウマ娘を育て、トレセン学園やURAに貢献しているのは事実なのでソイツらを制御するのはそう容易く無い。

 

なのでそんな奴らが組織上で姿勢を変えない限りはこの環境を動かす事は難しい。

 

ならトレセン学園の全てをまとめる理事長にその現状を変えれるように頼めば良いのでは無いか? __無理だった。

 

今の理事長は風格だけは強くも、やはり歳を取ることで自然と安定を求める様になり現状維持を良しとしていた。

 

もちろん見逃せない事も多々あったみたいだがいつも行動が遅い。

 

話を聞くだけだと理事長が情けなく思えるが、老体故に昔ほどの管理力は無い。

 

現状を変えようと動いたとして、もしトレセン学園内の政策にミスを起こした場合、中央の戦力低下に繋がってしまう事態は避ける。 そのリスクがある故に理事長は現状維持を取ったのだと思う。

 

けれど俺はこれが英断とは思わない。

 

俺からしたら理事長が情けないと思う。

 

もっと早く手を打つか、そうならないための対策くらい立てるのが大きな組織を任された者の責任だろうに。 それを今からなんとかするために、トレセン学園にたづなさんが秘書として来たのだけど彼女自身も痛感してる。 正直に言えば焼石に水だ。

 

今は昔よりどうにかなっているがそれでも力不足を否めない。 いずれ未来ではまた収集がつかなくなり、たづなさんだけでは必ずキャパシティーが足りなくなってしまう。 そうなると次に被害を被るのはウマ娘の生徒達だ。 学園生活を不自由なく送ってもらわないと。 だからそこだけは絶対に死守しなければならない。

 

だからなのか、たづなさんは新人トレーナーを……まぁ、前任者のような奴でもどうにかトレセン学園で頑張って欲しくて良く気にかけているらしい。 やや入れ込み過ぎだと思うがそれだけの思いがあっての行動だろう。 トレーナーの存在がトレセン学園を支えるのだから。

 

けど支えるトレーナーの全てが良識を持ってるわけでもなく、今こうして困っている。

 

そんな訳なので新人トレーナーにとって弊害となってしまう奴らはたづなさんの抑止力があっても可能な限り権威を振る舞いつづける。

 

現時点で何も出来ないことを好機として自分が優位になるように根回しなどを行なって甘い蜜を多く啜るのだろう。

 

 

……聞くだけだとやはり連邦軍じゃねコレ??

 

でもそこまでは腐ってないし、なんなら原作はもっと酷いし、トレセン学園は善か悪かと言われたらまだ比較的善寄りだから腐り切ってはないよな。

 

ほな連邦軍では無いな…

 

けどオカンが言うにはな、腐らせようとする奴がいてそれが除去出来ないねん。

 

ほな連邦軍やないか。

 

 

「まあだからと言って、そいつらをなんとかするラプラスの箱がある訳でも無いから、まずはトレーナー達で何とかしないとダメだよな」

 

 

それでもトップがビシッと動かしてくれたら困らないんだけど、人手不足が加速している以上は現状維持が最適なんだろう。

 

あと俺はまだ恵まれてる方だと考える方だ。

 

一応これでも最低限はトレセン学園の機能を使わせて貰っている。

 

いや、だからといって最低限あるからヨシ!ってなって良い理由にはならないけどね?

 

共有施設なんだから平等に使えないとそれこそ共有じゃ無いし。

 

それに強化合宿の件は未だに納得していない。

 

そもそもマフTと担当するウマ娘のミスターシービーが二冠を取るほどで、将来的に有望な俺たちこそが強化合宿を使う権利があって良いと思う。 なのにチーム名が無いだけで抑制されるのは正直納得行かなすぎる。

 

あとこれ(のち)に知った話なのだが、ここ数年で俺よりも成績叩き出せてない先輩トレーナーが抜け抜けと強化合宿に向かったらしい。

 

しかもジュニア級のウマ娘も一緒に連れて満喫したとか?

 

 

いや、マジで(カボチャ)頭に来たよネ?

 

それならクラシック級に入ったシービーを優先して連れて行けよと神経が苛立ったモノさ。

 

お陰で紫色のオーラらしき物が体から出て怖いとパリピ語が消失したヘリオスに言われた。 怖がらせてごめん。

 

カフェのアイスコーヒーが無かったらマフティー性が即死だった。 ありがとう。

 

ちなみにシービーは「アタシにはマフTがいるからヘーキだけどね」と言って強化合宿に参加出来なかった事に関しては何も気にして無かった。 彼女のおかげでこの無力さは救われた気がした。 俺には勿体ないウマ娘だ。

 

 

まあここまで話したが、色々と不自由して面倒だけど最低限は保証されてるので頑張れていると言う話。

 

その中でチーム名が無いとトレセン学園で活動するのは厳しい現状下だよねって再確認。

 

それでも俺はミスターシービーのために三冠を目指している話だ。

 

 

 

 

 

だからさ…

 

 

 

 

「この模擬レースで倒せる算段がついてると思っているなら、とんだ愚か者だと思う」

 

 

秋川やよいを見送ったその日の放課後にメールが届いていた。

 

急な話だが翌日、模擬レースがトレセン学園内で開催される事になっていた。

 

いつもならマフTを仲間外れにしていたのだが今回は誘われていた。

 

怪しい……

 

なので信頼できるトレーナー、東条ハナさんに連絡して模擬レースの話を持ちかけると話自体は本当だと言っていた。

 

ちなみに模擬レース自体は1週間前から決まっていたらしく俺は知らなかった。

 

模擬レース自体は元々中堅レベルのトレーナーを中心に集まって模擬レースを行うようだったので、新人トレーナーにはあまり関係ない話だった。

 

しかしミスターシービーの強さは見逃せないようでマフTも誘う話になったらしく、模擬レースが開かれる前日にメールが届いた。

 

にしても開催がメールを受けた次の日にとかふざけてる。

 

それにあと1ヶ月後には菊花賞が始まり、それまでミスターシービーを仕上げる大事な時期だ。

 

例え、参加すれば経験として大きい模擬レースだとしても、下手に集まって怪我でもしたら危ないので普通なら回避するのが好判断。

 

てか、究極のごっこ遊びそのものが模擬レース紛いに経験値を重ねることができる練習なので別に改めて参加する必要もなく、俺やシービーにとって必要ではない。

 

そう考えていたが…

 

 

 

_へぇ……良いんじゃないかな?模擬レース。

 

 

ミスターシービーは参加の意思を見せる。

そのかわりやや好戦的な声だった。

 

普通なら「楽しそう」と理由にしてワクワク気味に参加するだろう。 もちろん今回の模擬レースは楽しそうだとは思っているだろうけど、シービーの雰囲気が少しだけ変わっていた。

 

それで後に知ったが、彼女も少しバカにされてると思ったらしい。 何よりマフTに対するぞんざいな扱いにちょっとだけイラっとしたようだ。

こんなシービーは初めてだった。

 

 

それで参加の最終判断は俺なのだが、ひとつだけミスターシービーに聞いてみた。

 

 

_参加の意思が強いのはどうして?

 

_皆にマフTのウマ娘は弱くないと教えたい。

 

 

俺がここで「NO」と言って参加を拒否すればシービーも「そっか」と気にしないだろう。

 

しかしこの時の彼女には「YES」と頷いて模擬レースへ殴り込みに向かいたい気持ちが強かった。

 

トレーナーとして感情に左右されてしまった判断は褒められたモノでは無い。

 

けれど俺とシービーは少なからず、周りに対して思うところはあった。

 

だから俺も考える。

 

 

_シービー、参加はするけど菊花賞が大事だ。

_だからこそタイミングが良かった…試せるな?

 

_うん、そうだね、丁度良かった。

_アタシも試したいことがあるから…

 

 

せっかくの参加だ。

なら参加した上で走りを試す。

 

それに強化合宿の参加の有無で差が縮まるとか安直なことを考えているトレーナーはいるだろう。 その考えがミスターシービーを相手に意味がないことを教えてやるに丁度いい機会だ。

 

参加を決めたその日に休みの予定だったダイタクヘリオスを呼んでミスターシービーと仕込みに入り…模擬レース当日になる。

 

姿を現せば俺のことが気に入らないトレーナー達から目線など牽制されるので、こちらも圧を飛ばせば、急いで逸らされる。 随分と弱気だな? マフティー相手にそんな惰弱で挑もうなど良く思ったものだ。

 

しかしトレーナー同士の優劣なんてのはこの場で意味がない。

 

始まるのは結果が全てとなる模擬レース。

 

 

 

「マフT、しっかり見ててね!」

 

「ああ」

 

 

 

ミスターシービーからシルクハットを預かる。

 

そのかわり彼女はシルクハットに付いていたCとBの文字を手に取る。

 

ダイタクヘリオスからお裾分けしてもらったアクセサリーの紐をCとBに通してソレを首に掛けてぶら下げる。

 

それから今日だけ目元には星の形をした小さなタトゥーシールを貼りつけて、気分はパリピ並みに好調としている。

 

2000メートルの模擬レースの外枠で出走。

 

 

 

「アタシが、アタシたちが…」

 

 

菊花賞の前哨戦として…

 

 

 

 

 

__マフティーだ!

 

 

 

 

 

 

 

ガコン!

 

 

 

 

 

 

 

「「「 「「 !!? 」」」」」

 

 

このためにわざわざ用意されたゲートが開く。

 

ミスターシービーが綺麗なスタートダッシュを決めた。

 

 

「「「 おい、まさか…!?」」」

 

 

既に何人か察したトレーナーからどよめきが走る。

 

 

「まさか…」

 

 

追い込みバは、集中し過ぎず、緊張も高め過ぎず、緩やかなスタートで良い。

 

程よく出遅らせる技術も必要とする。

 

けれど今日のミスターシービーはこれまでに無いほど集中して、場所を譲るまいと息を鋭く吸ってレースを待ち構える。

 

__身構えてる時に、出遅れは来ないものだ。

 

違和感に思った他のウマ娘はミスターシービーを一段と警戒する…が、遅かった。

 

ゲートインの時点で勝負はあった。

 

 

「おいおい、まさか掛かったのか!?」

「ふっ、初の模擬レースで緊張したわね…」

「G1ウマ娘が模擬レースで緊張するか!」

「ソイツの言う通りだ!良く見ろ!」

「まさか、あの位置は…!」

「ああ、アレは意図的な位置取りだ…!」

「くっ、これは…!! やられたか…!?」

「ほぉ、マフTの奴…なかなか頭がキレる」

「どう言うことだ??」

「掛かったのでは無いのですか!?」

 

 

トレーナーは三者三様の反応を示す。

 

それもそのはず。

 

ミスターシービーは" 先頭 "に躍り出たから。

 

 

参加していたトレーナーはシービーを見てこう言う。

 

奴の作戦は_____" 逃げ " だ。

 

 

 

「そんなバカな!?」

 

普通なら、バ鹿げてると思うだろう。

 

 

「追い込みバが逃げにシフトだと!?」

 

普通なら、リスクを背負ったやり方だろう。

 

 

「クラシック級の今でやる事かよ!?」

 

普通なら、急な脚質の変更は愚策だろう。

 

 

皆の意見はごもっともだ。

 

でもそれは皆が思う 普通なら の話だ。

 

 

ミスターシービーは周りと違うぞ?

 

 

 

「マフT、これはどう言う事?」

 

「あ、東条トレーナー、連絡の件感謝します」

 

「気にしないでいいわ。 あと辿々しさを拭えない敬語はマフTらしく無い、もういっそ辞めておきなさい。 それで…これはどう言う事?」

 

「これは厳しいな東条トレーナー。 さて、そうだな…俺としては君たちの意図はわかってる。 まずこの模擬レースは担当するウマ娘が強化合宿を超えて、強化合宿に参加しなかったミスターシービーに通ずるか試したいのだろう?」

 

「私はそんな疚しさでミスターシービーを見てないわ。 でもミスターシービーは菊花賞の壁なのは確かだ、皆がそう思っている。 だからこそ対策として強化合宿は足腰を重点的に鍛えた。 けれどこれは…」

 

「ああ、お察しのとおり。 王道を行く君たちに対して邪道を取らせて貰った」

 

 

 

ミスターシービーはどんどん皆から…逃げる。

 

CとBのアクセサリーを揺らして。

 

「戦いから"逃げる"訳ね……っ、やられたわ」

 

「合宿先にある砂浜や海での練習は自然とパワーが鍛えられ、夏の暑さで競り合いに負けないように根性も鍛えられる。 そうなると差しや追い込みに対しての突破力と足並みを合わせる時に力負けしないで済む。 砂浜は鍛えるには持って来いの環境だから、必然的にシービー対策として重点的に鍛えるトレーナーはいるだろう。 だが、そのために鍛えて来たウマ娘と勝負に付き合ってやるかは別だけどな」

 

 

アタシが後ろにいるから警戒される? なら前に出るからアタシ抜きで駆け引きしてね!

 

つまり、こう言う事だ。

 

 

「しかしマフT、あなたはこの模擬レースで担当ウマ娘を苦しめる気?」

 

「?」

 

「ジュニア級で脚質を模索するのは良い。 私も定める期間として設ける。 だがクラシック級では決めた長所を伸ばさなければウマ娘の負担が大きい。 余計な能力配分はウマ娘の力を削ってしまい怪我などのリスクを伴う。 追い込みバが逃げに切り替えるなんて危険よ…」

 

「それは承知の上だ。 けれどあくまでこれは模擬レース。 ただの調整期間であり凌ぐ時期だ。 むしろミスターシービーのことを考えた上の逃げを使ったレースだ。 それに見てるとわかる。 シービーは脚質の切り替えに苦しそうな顔してるか? むしろ……」

 

 

「あっははは! トランザムゥゥ!!

「むりー!」

「むりー!!」

 

 

 

「これまでに無いほど余裕面ね」

 

「シービーはレースだけは器用だからな」

 

 

ミスターシービーは一人でどんどん前に進み、既に先行策のウマ娘と3バ身差を作っていた。

 

第2コーナーを曲がり終えて直線に入り、ぐんぐんと前に行く。

 

ミスターシービーを対策していたトレーナーは焦りを隠せず、そのつもりは無かったトレーナーもこの奇行に驚きを隠せない。

 

また走るウマ娘達も"いつも通り"後方に位置付くミスターシービーをマークして警戒する予定だったが、それとは真逆の展開に焦りを生み出し、思考とペースが崩れて追いつこうと必死になってしまう。 今となってはクラシック級で走るウマ娘であることを忘れて皆ジュニア級のように必死だ。

 

 

「皆驚いてるな」

 

「やってることは真逆よ。 私も驚いたわ」

 

「しかし作戦に関してはそこまで驚くことか? 逃げは作戦じゃない。 ステータスをゴリ押すためただ前に出るだけの無策だと思ってるが」

 

「前者は同感する、しかし後者に関しては選手生命を考えると別よ。 後ろで溜める。 前で逃げる。 これは全くの別物よ? それを両立して出来ることなんて…」

 

「両立するつもりはない。 模擬レースくらい付け焼き刃(昨日やった)でなんとでもなるはずだと、思っただけだ」

 

「今回だから試したとでも…?」

 

「言ったはずだ東条トレーナー。 これは模擬レースだからと。 参加させてもらったのはありがたいがトレーナー達の思惑や私情に付き合ってやるほど俺たちの目的(三冠)は甘く無い。 これは菊花賞のための過程だ。 強化合宿で鍛えて来たウマ娘に対する試し斬りだ」

 

「先輩に対してリスペクトにかける考えね」

 

「耳痛く思うが、それ以上を強要したこのトレセン学園が悪い…って、マフティーは言わせてもらうよ」

 

「そう、なら示し続けないとならないわね?」

 

「謹慎明けにあなたに言われた言葉は覚えている、これからも果たすさ」

 

 

このレースの勝ちは揺るがない。

 

東条トレーナーも理解してるみたいだが、ほかのトレーナーはいまだ受け入れないものが多い。

 

やはり強化合宿の差で追い付き、追い越したと思ったのだろう。

 

しかしミスターシービーはそれ以上を行った。

 

特技と言えども反則技に近い。 ミスターシービーは究極のごっこ遊びで色々とやって来た。 それは誰よりも多くレース経験を積んだ"つもり"で走っている。 それが描いた空想の世界でも、その脚で走った事実に変わらず、誰よりも多くを重ねて来た。

 

恵まれた身体能力と天才肌、レースだけは器用なシービーだからこそ、逃げのやり方を今だけ感覚だけでやっている。

 

体に染み付いた追い込みの走り方は拭えないのは当然の話。 けれどほんの一回だけ試すならただのお試し期間として足の負担は気にならない。 それを後は二冠を取れるほどの身体能力で補うだけだ。

 

 

「それでもただ逃げるだけの練習では完成度は低かった。 しかし運がいい。 ミスターシービーと同じ感性で走るウマ娘(ヘリオス)が俺の近くにいたから幾らでも参考にできた。 レースだけは器用なシービーだからこそソレを可能にしただけの話」

 

「それなら…」

 

「お察しの通り、菊花賞で逃げはしない。 流石に追い込みの脚質で定まったその脚を逃げにシフトするのはリスクが高すぎる。 それに俺が個人的に嫌だからな」

 

「?」

 

「追い込みをするから ミスターシービー なんだ」

 

 

 

彼女の行方を見守り、付け焼き刃で行った逃げ戦法は1バ身差の1着を勝ち取った。

 

ミスターシービーは味わったことないこの疲労がむしろ面白かったのかゴール後も笑っていた。

 

 

「とりあえず無事にゴールしてくれて良かった」

 

「それなら模擬レースに参加しないこと自体が1番の安全策。 なのに参加したあなたも随分と人間なのね?」

 

「マフティーはただの形で、そうじゃない俺は東条トレーナーと同じ人間だ。 人間で沢山さ」

 

「そう……なら私も、この屈辱はあなたらしく次の菊花賞で晴らすことにするわ、マフT」

 

 

まだ少しだけどこか納得のいってない東条トレーナーだが、それがミスターシービーというウマ娘であることを再確認しつつ、マフTのことを"強敵"として認めてくれた気がした。

 

今日の収穫に満足しながら俺は東条トレーナーと反対の方向に歩き、ミスターシービーを迎えに歩き出してこの場を去った。

 

 

 

 

「………」

 

 

去り際に東条トレーナーは横目にマフTを伺う。

 

その表情は…

どこか悲しそうに見え隠れさせて、視線が俯く。

 

何かを考えるような素振りを見せて…

 

 

「ミスターシービーが三冠を取れるほど強いウマ娘なら、マフティーたるあなたがウマ娘に最強は存在しない事を世間に示してくれるなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__あなたは あの子 を助けられる??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マブいレース……羨ましいわね、ふふ…」

 

 

 

おセンチにエンジンが凍え切ったスーパーカーは遠目に模擬レースを見下ろし、寂しさを感じないようにする。

 

大阪杯以来、理不尽ながらレギュレーション違反にされてしまったその脚はアクセルを踏むことも叶わず、諦めと共に車庫に収まった。

 

しかし…

 

それがクリスマス最後のレースで再びフルスロットルが叶うことをまだスーパーカーは知らない。

 

寒さすら感じなくなる、そのレースは後に歴史となることを……まだURAは知らない。

 

 

 

 

 

 

__URAの過ちは、マフティーが粛正する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、ドキドキしたー、こえー」

 

「あっはは、やはり東条トレーナーは怖いね。 アタシも一年の頃にスカウトされたことあるけどアレはマフTとは違う怖さを持ってたね」

 

「でも良い人だぞ? ウマ娘の事をちゃんと見ている。 かなり厳しいトレーナーだけど、強くなる保証は付く。 あの人のことをベテランって言うんだろうな」

 

「でもアタシには向かないね。 マフTが良い」

 

「ありがとう。 それより脚は大丈夫か? 提案したのは俺だが君は乗り気でやってくれた。 正直に言うと心配だったし、東条トレーナーの言うことはごもっともだと考えてる」

 

「平気だよ。 それに……結果は得られた」

 

 

模擬レースで設けられた距離は2000。

それを逃げとして全力で走り切った。

何も考えずひたすらに脚を進めた。

脚質に関係なくひたすらに脚を進めた。

 

彼女にとってそれが手応えとなったから…

 

 

「菊花賞は、アタシが1着になる」

 

 

その眼は栄光を求めている。

 

その笑みは楽しさ以上を欲してある。

 

その表情はミスターシービーだ。

 

 

「自信あるみたいだな」

 

「うん、そうだよ」

 

 

 

だってさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__アタシはマフT(マフティー)のウマ娘だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

固定観念は生き物を制御するに過ぎない…

だから

 

 

 

 

 

そのウマ娘は、禁忌(タブー) を犯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんと言うことだ!ミスターシービー!!』

『その脚は一体どこまで可能とするのだ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常識すら追い込み、すべてを追い越す。

故に

 

 

 

 

 

最後方から上り、一気に先頭へ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2回目の坂路も関係ない!彼女は加速する!』

『強者のその笑みに苦痛を感じさせない!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊れそうなのは体ではなくその 常識 である。

だから理解する

 

 

 

 

 

そうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『減速すら感じさせないロングスパート!!』

『これが三冠を求めるウマ娘の強さなのか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

見ていた者は思い出して、納得すらしてしまう…

ああ、そうだった

 

 

 

 

タブーは人がつくるものに過ぎない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(マフティー)のウマ娘は普通を置き去りにする!』

『先頭と3バ身以上!未だ!未だ!未だ加速する!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、京都レース場は一つの歴史を見る。

しかと見よ

 

 

 

 

そのウマ娘の名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴォォール! 圧倒的な着差で勝利をした!!』

『栄光だ!歴史だ!三冠を達成したのは…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスターシービー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ アタシはマフティーのウマ娘だから(あなたの愛バでよかったです)

 

 

 

 

模擬レース後に放った、言葉。

それはとても誇らしそうに微笑む。

 

 

だから彼女は描いて証明した。

 

三冠の栄光を マフティー に捧げることで…

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




流れるような三冠ウマ娘…
俺でなきゃ見逃してたね…


Q_模擬レースとは言えミスターシービーは逃げで勝てるほど適正はあるのですか?

A_逃げを得意とするパリピが一時的にバフ(継承)ったのであとはステータスでゴリ押しました。

ちなみに模擬レースで"逃げ"の作戦で走らせたのは、なにかの間違いでバ群に飲まれて攻撃されないようにするため。
ロングスパートの加速具合を本場のレースで確かめるため。
模擬レースを通して菊花賞で逃げを思わせ揺さぶるためです。

それで三冠を取れたのでミスターシービーとマフTの作戦勝ちですね。
あとパリピのお陰。




あと前話(15話)ですが。
『__』のイマジナリーフレンドとの会話。
主にPC版で確認しやすいが、クリックしたまま横に伸ばしてみると良いことあるかもしれませんよ。
↑前話の時点で気づいた方は間違いなくニュータイプだと思います。
※ある条件を除いて基本的には見えません(携帯の設定次第)

ではまた

ハロウィンで目当ては引けました?(震え声)

  • ライスシャワー
  • スーパークリーク
  • タマモクロス
  • ゼンノロブロイ
  • 全部引いた(独占欲のコツ)
  • 今回は見送り
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