やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:てっちゃーんッ
今日は一人のトレーナーが自宅謹慎から戻ってくる。
半年以上のやや長い期間の謹慎であったが、それでもそのトレーナーは記憶に強く刻まれている。
初めて新人トレーナーと出会った時はまだ普通の様に感じられたが、時間が進むにつれ、仕事は上手くいかず、業務実績は乏しいの一言だ。
何よりウマ娘に対してうまくコミュニケーションが取れず、スカウトも上手くいかない現状。 トレーナーとして致命的な状態で足踏みを続けていつしか焦燥感を見え隠れさせていた。
ウマ娘をスカウトも出来ないまま、サブトレーナーとして活動するも生徒との距離の取り方も苦手な様で見ていて危く、在籍して数ヶ月経った頃には暴力的な部分が現れた。
手をあげて生徒に振るう事はないが、自身の情けなさに苛立ち、彼はトレーナーとして欠陥になりつつあった。 いつしか生徒が帰った後に三女神の前で佇んで、強く睨み、ある日には持っていたレンガをぶつけるなどあるまじき姿を晒す。
わたしはそんな彼を何度も止めたが、彼は時折三女神の像の前に立っては憎む様に睨み、最後は叫ぶ。
問題児と言われ始めた彼の処遇を考えたがある日、ウマ娘をスカウトしたのかチーム結成の認可を受けようと理事長室までやってきた。
どんな経緯でそうなったのか知らないが彼の人格を考える。
なので様子見が必要としてチームの申請は一度却下したが、メイクデビューで結果を出せたらチームの設立を許可すると言った。
彼は張り切るとスカウトしたウマ娘を連れてる。
数日後、その彼にスカウトされたウマ娘はわたしの方までやってきて「助けてください!」と救難を求めた。
そしてそのトレーナーの元まで歩みを進めると…また三女神の像の前に立っていて、ゆらゆらと動く。
その姿を見て背筋が凍る感覚に襲われる。
そんな彼と視線が合えばひどく息苦しくなり、身の毛がよだつ。
わたしは説明する。
すると彼は唖然とした様な顔をして、スカウトしたはずのウマ娘に詰め寄り、そしてそのウマ娘は「いい加減にして!」と殴り飛ばすと三女神の像の泉の中に身を沈める。
彼は何かブツブツと呟き、そして白目を剥いて倒れてしまう。
医務室に運ばれる。
目を覚ました彼は虚な目で「どうして…何故?」と三女神の方を眺めていた。
それから彼はメンタルケアを行い、わたしはその報告を聞く。
ストレスによるものだと診断されてた。
だが彼を見る。
在籍したばかりの頃の姿と重ねて随分と疲れ切っていた。
絶望したように三女神を眺めている。
このままでは彼も、そしてウマ娘も危ない。
一度距離を置く事と、今回の件とこれまでの件を考えて自宅謹慎を言い渡した。 長めに期間を置く事で現状を緩和しようと考えた。
ただ言い方を変えればお払い箱の様なもので「大人しくしていろ」と追い払った状態だ。
本当なら中央にそぐわない指導者だと見做してトレーナーバッジを剥奪することが一番速いのだろうが、まだ、もう少しだけ、彼にチャンスを与えたいと思った。
いや、やはり、ちがう。
そんなことじゃない。
問題を先送りにするように彼をとりあえず自宅謹慎させたのだ、わたしは。
トレーナーバッジを剥奪して辞めてもらうにも色々と手続きが必要であり、そう簡単にできることじゃない。
それにメイクデビューに勤しむ期間だったこともあり、彼だけのために時間は割けなかった。
だから一番簡易的で、一時的ながらも問題を先送りできるのは自宅謹慎を言い渡すことだった。
そこからもし彼が落ち着きを取り戻し、また一から始めれるならそれに越した事はない。 まだ彼も若い年齢だ。
チャンスはある……と、勝手に私は正当化して、そうやって彼を自宅謹慎として追いやった。
それから彼は半年以上をトレセン学園から姿を消して、彼のことをよく思わない者達は胸を撫で下ろした。
比較的平和な時間が訪れて、わたしも胸を撫で下ろして大好きなウマ娘達のために業務を全うした。
そして今日…
彼が帰ってくる。
気持ちが落ち着かない。
また始まるのかと頭痛がする。
自宅謹慎を経て整理できただろうか?
望みは薄いと思える。
もし、あの頃と変わってなければ…
もう、彼は……
「お久しぶりです、たづなさん!
今日からまたよろしくお願いします」
めっちゃ変わっとるやん。
♢
あれからポンポンと話は進んだ。
いや、まぁ、色々質問された。
とりあえず「すごく落ち着きました」と説明してみた。
もちろん怪しまれたし、むしろ心配されたが「トレーナーとして活動するにはメンタル面で問題ありません」と答えた。
わざわざ自分でそれを言って克服したと強めに発言してみた。 当然たづなさんからは目を見開かれたし、理事長からは鋭い視線で貫かれる。
この理事長は百戦錬磨って感じで、この虚栄は見抜かれるのではないかと思った。
いや別にこのハリボテな状態を見抜かれるのは良い。
ただ憑依してる事について見抜かれるのは困る。
でも俺自身がその時の彼を演じれるかと言うと無理な話だ。 それなら人格が変わってしまったくらいに思ってもらった方がいい。
そうすりゃあちら側も、悟りを開いたのか?とか、取り憑きものが落ちたのか?とか、勝手に憶測立てるだろう。
それにこれ以上人格面で問題を起こさない様に見せるのが大事。
言わば俺がこの学園で危険分子であることを少しでも多く拭うことだ。
もちろん業務で迷惑はかけるけど、まだ掛けていい迷惑とか、掛けてはならない迷惑だとか、種類がある。
俺の場合は前者であるつもりだ。
サポートされてもいい状態を生み出しておくことである。
「ふむ、ではトレーナーとして活動を再開するのだな?」
「はい。 もう、前回の様な事は起きない様に心がけます。 これまでご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
頭を下げる。
社会において頭を下げる行為は効果的だ。
そして自分の非を認めて、謝罪する。
建前だとしても、言葉に出して頭を垂れる。
それができる人間か、そうじゃないかの、社会。
なら俺は頭の一つや二つは下げてやる。
ここから生きていけるならな。
辛くてコンテニューゲーム。
ため息が出るけど、やるしかない。
…
…
…
さて、職質を終えると生徒達が帰った夕方の時間帯になる。
この時間を利用してから学園の見取り図を開いて歩き出す。
もちろんフードを深く被り、サングラス並みに色が濃ゆい黒い眼鏡をかけて視線を遮る量を増やす。
実のところ職務中も強く断りを入れてフードと眼鏡の着用を許してもらった。
何せたづなさんも俺の事は理解しているようで、視線を合わせると恐怖心が走る云々で許された。 すごく不思議な現象なんだけど理解はあった。
あと理事長も把握してたので特別に許してくれた。
__視線を合わせない方がいい…
飛行機の乗り込みテロかな?
「しかし、でも、トレーナーとして活動するなら致命的だよな、この呪い……嫌になるわ」
致し方ないにしろ本当にひどい。
憑依したならしたで、俺はソイツとは別人なのだから呪いは取っ払ってくれても良かっただろうに。
正直トレセン学園に来るまで何十回とため息を吐いている。
でも向き合うべきだろう。
本当に嫌なんだけど、もう仕方ない。
「あと、たづなさんと理事長はともかく、それ以外のトレーナー達もどうにかしないとな…」
付き合い方を考えないとならない。
俺の事は評判は絶対に良くないだろう。
一応帰ってくる事は伝えられてるはずだ。
理解者がいるとは思わない方がいい。
でもどうしようか?
こんな問題を起こしたトレーナーはどうしようもないだろうけど、トレーナーとして活動して見せると言った以上は対策が必要だ。 まあ簡単な話。 呪いは現状どうにか出来ないとして、この忌々しい視線を何かで強く遮るか、中和するかで考えなければならない。
その過程でこれまでのカルマを拭うようなインパクトもあれば良い。
道化や仮初の姿でも良い。
少しずつ拭うか、それとも塗り替えてしまうか…
「………」
過去の記憶を引っ張り出して、なにか対策はないかと模索する。
そして死んだ時のことを思い出す。
あまり思い出しくないが、それでも頭を捻る。
最後は何をしてたっけ?
スタジオでカボチャの頭を被って踊ってたよな…
踊る?
被る?
カボチャの頭??
「あ、これかぁ!!」
周りからしたら随分と狂った様な発想。
でも仕方ないだろう。
俺自身は憑依云々で随分と狂っている。
人格も変わった様になり、正体は異常。
でも周りからしたらそれは何なのか理解はできない。
そう、出来ないで良い。
形だけの異質で、塗り替えれば良い。
だから、狂ってるなら、狂ってやる。
正しく狂ってやる。
トレーナーなら、トレーナーになれ。
正しくトレーナーのようになってやる。
鳥の様になりたいなら、鳥の様になれ。
正しく鳥のようになってやる。
カボチャになりたいなら、カボチャになれ。
正しくカボチャのようになってやる。
身構えてる時には死神が来ない様に、この忌々しい呪いには身構えて、それで俺自身の全てを塗り替えてそうしてやる。
その道は険しく、でもそうするしかできない。
それに、そうしてやるしか出来なかった一人の主人公を知っている。
映画で見た"あの存知"の様に、道化でも、ハリボテでも、どうしようもなく奮ってやる。
だから、そのためには
なら、俺が一番最初に浮かんだソレを使ってやろう。
それで、なんとでもなる筈だ。
「
この日、俺はカボチャの頭を被ることになった。
つづく
主人公完全なとばっちりで笑えないけど、マフTだから大丈夫。
あと理事長はまだ『秋川やよい』じゃないです。
あと、もっといいタイトルないかなぁ?
マフティー構文色々あるからタイトル困る…
あまり評価されると連邦に知られるから評価しないでね♡
ではまた
原作:閃光のハサウェイを読んだ事あるニュータイプの方はいますか?
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読んだ事ある。
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読んだ事ない。
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ゲームや映画や動画並みの知識。