やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

22 / 56
オカルトパワーもいいところだと思った…
なんやこのチート…(ドン引き)



第22話

とある一角の奥にひっそりと構える部屋。

 

しかしその知名度はひっそりとは言い難く、未知なる魔物が住んでいる。

 

 

最初は、ただの異端児から。

 

薄気味悪いオーラと謎の威圧感はウマ娘を怖がらせるプレッシャーとなり、興味だけでは近づけない。

 

トレードマークであるカボチャ頭をユラユラと揺らさせながらそのトレーナーは一人歩きを始めた。

 

常に警戒されて、同じトレーナーからも敵意を持たれ、異色なその者は一人省かれながらも悲痛を上げずに前を見続けて、どん底から這い上がる。

 

その名を広め、その存在を伝えて、その意味を知らしめ、禁忌を捻じ曲げ綴る一人のウマ娘を無敗の三冠バとして頂きに導き、伝説のレースと言われた有マ記念で"絶対"を打ち破った。

 

見る者たちを魅了させ、いつしかそのトレーナーは『王』と言われ始めていた。

 

走る者も、見る者も、レースに触れる者達でその名を知らない者は居ない。

 

そう言っても過言では無く、そのトレーナーはレース業界に於いて有名となった。

 

今となっては、その一角に構える部屋は王が住んでいる事になる。

 

無名から始まったどん底の平民が、富と栄誉を掴み取り王となる。 何が起こるか分からないレースのように、そのトレーナーはフルゲートの大外枠18番人気並みの最下位から差し切った。

 

 

くくっ、熱いねぇ。

 

熱すぎるもんだ。

 

 

奴にとって賭けたのはベット(賭け金)で無くヘッド()だろうが、一体何を考えてそのカボチャ頭に全て賭けるような大勝負に出ようと思ったのか?

 

そして何故それに勝ってしまえたのか?

 

そこに生ぬるさなんて無い。 益荒男すらも顔を顰める地獄道。 身構えてる時に死神は来ないだろうが、気を抜いた時にその死神の鎌はカボチャごと頭を刎ね飛ばしてしまうだろう。

 

だが奴は勝った。

勝ってしまった。

 

 

いや、違うか。

 

奴は勝てるから、勝ったんだ。

 

細い糸に繋がれた狭き狭き道に可能性を信じ…た訳でも無いだろう。 大雨が止まない重バ場はひどく歪んだ悪道で、光の一つも無い。

 

だがその平民は王へ這い上がれる打算が、また確信があったから、そこに全てを賭けたんだろう。

 

しかしどうであれ大勝負なのは間違いない。

 

一歩間違えれば二度と後戻りなど出来ないその姿はまさに、ウマ娘が全身全霊で最後の直線に身を投じたようだ。 末脚の2文字なんて生ぬるいほど。

 

それこそ"ありったけ"を投入したんだ。

 

 

は、ははは。

 

こんなにも内側がグツグツと唆らせる奴は初めてだ。

 

とあるオンラインゲームでも似たような奴がいたが、画面越しではない真に存在するカボチャ頭はマジもマジだった。

 

 

半端な勝負師なんてチリも同然だ。

 

名を馳せる勝負師なんかでは届かない。

 

歴戦練磨の勝負師すらも躊躇わせてしまう。

 

 

誰も賭けないだろう勝負に挑み、そして勝ち、だがそこに飽き足らず未だに挑み続ける。

 

そのカボチャはぬるま湯程度で茹で上がらない。

 

だから、その一角に住まう王の部屋に足を運ぶ。私は今日奴に挑む。

 

 

その扉を叩いた。

さあ、出てくるのは誰だ?

 

 

深淵を覗くポーンか?

 

双璧を飾るルークか?

 

太陽神のビショップか?

 

禁忌破りのクイーンか?

 

 

 

 

 

ガラガラ…

 

 

 

 

 

出てきたのはカボチャ頭のキング。

 

トレセン学園の___マフティー。

 

 

 

「どうした、何か用か?」

 

 

「______ぁは…

 

 

 

緊張感は好きだ。

 

重圧感はもっと好きだ。

 

そこに身を投じるとこで抗い、砕き、賭ける。

 

しかし彼から放たれるプレッシャーは味わったことない威圧感だった。

 

遠目からは幾らでも見たことある。

 

いつか挑むべきだとマフティーを見ていた。

 

だが、あと一歩踏み出せば触れられてしまうであろう、その距離でこちらを見下ろすその眼差しは、私ですらも震わせ、奮わせてくれる。

 

つい零してしまった嬌声も私は気づいてない。

 

何せそこにいたのは紛れもなくキングだ。 もうバレているだろう、その笑みは誤魔化せない。

 

しかしせめての虚栄だ。

 

名も無き挑戦者として。

 

その城を一人で攻め、王の首を取りに来た。

 

 

私は 放浪のナイト として…

 

こう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、デュエルしろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引き分けか」

 

「いや、これは私の負けだな」

 

「何を言う? 数字は同じだろう」

 

「違うな。 認めざるを得ない数字だ」

 

 

マフティーにもトレーナーとしての果たすための時間がある。

 

彼にとっての1分は私なんかにその時間を捧げて釣り合うモノでは無い。

 

それでも勝負狂いなこんな私に割いてくれるこのひと勝負に全力を捧げる。

 

だから分かりやすくブラックジャックで勝負した。

 

私は5枚もトランプを引いた。

並べたのは 2、4、6、5、4 の数字。

数字は『21』と最大だ。

 

臆せずにこれだけ引いて出した。

このために研いできた完璧な勝負勘。

 

ナイトとして渾身の連撃だろう。

 

 

しかしさすがマフティーと言うべきか、彼もピッタリと21を叩き出して来た。

 

互いに同じ21。

どう見ても引き分けだろう。

 

 

 

 

しかし、私は負けを認めた。

 

 

 

 

「はは、なんだよ、それは…」

 

 

 

 

キング(13)エイト(8)スリー(3)

 

 

しかも勝負の終わりに気づいた。

 

テーブルの上に置いた8のトランプはこちらに見せつけるよう横に傾けて『∞』にしている。

 

つまり、その座は無限()に終わらぬ(キング)を表している訳だ。

 

更に言えば8は特別な数字だ。

 

あらゆるカードゲームで8は何でもなることが多い。 万能だと言うことだ。 流石にジョーカーの劣化だが、私の出したつまらない少数なんかよりも、それは特別に強かった。

万能だと言うことだ。

 

そして3はあの禁忌破りを三冠に導いた栄光ある数字…

マフティーだからこそ叩き出せた意味ある数字。

 

 

はっ、ははは…

なんだよ、2、4、6、5、4 って…

 

こんな弱たらしい数字で戦って、それで引き分けに持ち込めた?? バカを言うな。

 

奴はキングの13と禁忌破りな3の数字を出した上に8の数字を傾けて『∞』にしたんだ。 それもマフティーたらしめるような示し方。 紛れもなく彼は皆が恐れるマフティーだ。

 

最大の21を出せて満足な私に対して、マフティーは更にその手札でその意味を見せつけてきたんだ。

 

 

あーあ。

 

なるほどな。

 

 

そりゃナイト如きでは勝てない訳だ。

 

挑むだけ愚かだった訳か。

 

 

けど挑まずして何が勝負師だと血が騒ぐ。

 

私はその武器を振り下ろしたが、その刃は5回も振るって、王には届かなかった。

 

 

 

やれやれ、まったく誰だよ?

 

ウマ娘に人間が勝てるわけがないと言ったのは?

 

ああ、もちろんその力関係は種族差故にわかりやすいが、例えばその勝負性…また"勘"と言っても構わないだろう。

 

勝負の世界に全力なウマ娘は実のところ"勘"すらも人間よりも鋭く、そちらも人間よりウマ娘が勝っているとも言われている。

 

なんならとある実験ではカードゲームや運が絡む勝負を延々と行わせて、ウマ娘は人間に勝っていると証明されていた。 オルフェーヴルが付けていたテレビをたまたま見ていたが、信憑性の薄い実験に私はくだらないと切り捨てた。

 

しかしこの話が本当ならウマ娘は人間より強いことになる。

 

だから人間がウマ娘に敵わないとしたら、全てにおいてそうなのだろう。

 

 

しかし結果はどうだ??

 

私はヒトであるマフティーに負けたのだ。

 

勝率も五分五分に分けられた純粋な戦いに挑み、鍛え上げた勝負勘で5枚もカードを引いて、最大の21を出せた結果()()に満足してしまった。

 

しかしマフティーは21を()()の様に叩き出した。 まるで私が21を出す事が判るようにたったの3枚だけで勝負をした。 そう、彼はこの先の展開を分かって引き分けにした。

 

そしてこんな遊びに()()()()は引き分けにして、その結果はまず妥協する。

 

だがこの引き分けは私だけが感じていたもので、彼からしたら()()()()の引き分けに収めず、叩き出した数字に意味を込めて、そしてマフティー性を込めて勝負し私を下した。

 

 

出した数字はキングとエイトとスリー。

 

 

認めざるを得ない数字の意味。

 

ただ相手よりも高い数字を出して戦えば良い訳でも無い。 彼はマフティーらしく示した。

 

マフティーの言葉に意味があるよう、この数字にも意味を伝えた。 そうして挑戦者に訴えた。

 

もし私がこれに気づかず満足していたら、それこそマフティーからしたら愚か者だった。

 

だから私はその意味を理解して気付けたことに安堵した。 負けた事すらも心地よく、それがマフティーだからこそ、納得もしている。

 

更に言えばこんなゲームのためにマフティーの片鱗を私なんかの勝負師に見せてくれたんだ。

 

感謝しかないだろう。

 

ナイトのヘルムを外して王に跪くべきか。

それとも代わりにこのニット帽を外そうか?

 

 

「時間をありがとうマフティー、また挑ませて貰うぜ」

 

 

それでも私は挑戦者である。

 

だから挑ませて貰う。

 

いつか勝ってみせる。

 

 

 

あとこれも信じてる。

 

この世に"絶対"はない。

 

マフティーがそう証明した。

 

 

ならマフティーも絶対では無いのだろう?

 

だったらいつしかキングに勝ってみせる。

 

だから今日は惨めに敗走させて貰おう。

 

ポケットに入れたトランプ。

 

山札に乗せられたキングは忘れないさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、言いたいことは?」

 

「いや、なんかさ? 俺とブラックジャックをしたいウマ娘がいたから相手しただけだぞ?? 適当に3枚だけトランプを引いて、それで引き分けになったけど、なんか相手が勝手に負けを認めてそれで去った。 なので別にそれ以上は無いぞ? 本当だぞ?」

 

「だからすれ違ったんだ、なるほどねー? …このウマたらし」

 

「好きでたらしてないぞ」

 

「愛バを放ってカードゲームなんてマフTもいい御身分ですこと」

 

 

ソファーでブー垂れるシービーに嫉妬されながら俺は相変わらずタブレットに連携させたPCにデータ入力を行っている。

 

ゴールドシチーも加入した今その量は増えている感じだ。 でも一年半前からシービーを通してある程度のタスクは完成させてるので、シチーならシチーの、ヘリオスならヘリオスの、カフェならカフェのプロセスを作り上げている。

 

あとは成長の変化、究極のごっこ遊びに対する日々の浸透率、日々変動する練習成果など、色々と数値化して、記録に残しながらこれまで土台として作り上げてくれたシービーのデータを比較して必要なモノと不必要なモノを暴き出す。

 

これはその作業の連続である。

 

だから定時には帰ろうと思えば急いでデータを打ち込めば全然帰れるし、シービー達も自分でやろうと思えば多分やれるだろう。

 

そのうちアプリ化して成長過程が目に見えるようにしようかとも考えているが、半分ほどは究極のごっこ遊びによる記録依存だから現実的では無い。

 

しかしその片鱗だけ情報化して別のアプリに統合して作り替えれば新たに記録用のアプリとして作れるはず…ってのをおハナさんに話したら試したいから是非頂戴と言われた。 あとエアシャカールからも。

 

おハナさんもデータ育成だから俺と同じタイプまである。 持ってるタブレットも同じで、手書きのバインダーは使った事ない。 そのかわり練習育成方法は全く別のベクトルである。

 

おハナさんは競争主義で沢山のウマ娘同士を競わせる。

 

つまり某野球ゲームに例えたら毎ターン延々と友情トレーニングしてる訳で、追加トレーニングすらも友情トレーニング並の補正になる事だろう? 準チートかな??

 

俺は究極のごっこ遊び……まあ、シービーの趣味であり彼女専用と言われた素敵な素敵な練習法だけど、三女神から授かった力も段々とマフティー性に触れて別の方に変化してることにより…

 

 

こう、なんというか………かなり化けた。

 

 

NT並の感受が出来るようになったと言うべきか?

 

その、例えば…だ。

 

シチーに映像やホワイトボードを見せて…

「このレースはこうしてこう」

「だからこの展開に発展する」

「そこにシチーを投影したらこうなる」

「じゃあ変化はこの程度に収まる」と、まるでゲーミングの中身の正体や情報をペラペラと明かしていく。

 

それでシチーが走ったら、それがスイッチとなってこう発展する……って事を、俺が遠距離からシチーの意識に触れて光景を伝えるよ! って事をしている。

 

カミーユも真っ青なオカルトパワーだ。

 

テレパシーを伝えるどころか、ララァのように見ているモノを見せる。

 

かなり馬鹿げてるだろ?

でも俺は現にシービーとそれが出来るわけだし。

 

それも一年前から。 だからこそ『ごっこ遊び』って名前なんだけどね。

 

 

そんなわけでシービーの趣味に俺のマフティー性でより鮮烈に描かせる。 当時は"呪い"と思っていたモノは三女神から授かったとんでもない"力"だった。 それはマフティーとしてニュータイプの方向に変化した。

 

そしてマンハッタンカフェもイマジナリーフレンドのこともありそう言った超常現象は見える。 高い読解力が備わったその金色の目は良く見えて、よく分かるみたいだ。 あと彼女のお友だちも一緒に走ってるらしい。 俺も見えてる。

 

それでダイタクヘリオスもノリでわかるらしい…と、言っても逃げだからあまり気にならないと言った方が良いか。

 

でも何事も楽しむパリピはある意味ミスターシービーと同じベクトルだ。 なのでマフティー性に触れたヘリオスはやや半端ながらも究極のごっこ遊びの中に身を投じて描く事が出来る。

 

だから幻影でも後方からの圧はノリを含めて伝わるらしい。 まあそこは俺がNTのオカルトパワーで補強してる。

 

 

そしたらゴールドシチーもそうなのかと言うと彼女はシービーと同じレベルで熟してしまう。

 

正直これには驚いたが、そもそもモデルとして『演じる』事に慣れているのでその技術が加速させていた。 なので究極のごっこ遊びで走る事は苦じゃなかった。 あとはマフティー性に触れたシチーをNTのオカルトパワーで補強すればカフェやヘリオス以上に究極のごっこ遊びの中に身を投じて走る事が出来る。

 

 

それで彼女は言っていた。

アスリートとしてのセンスが無い。

 

いや、それは全然違うな。

 

ゴールドシチーはトレーナーのような専門家やその手のプロフェッショナル無しで、ただがむしゃらに鍛えてただけである。 そりゃ中央のレベルや環境に追いつけないのも当たり前だ。

 

てかシチーの場合は自主練が下手なだけで育てるべきポイントを自分で把握しない。

 

トレーニングはちゃんとしてきた()の認識だった。 あと起床難として限定的に練習もしてきたためアンバランスに体を育てていた訳だ。 がむしゃらな走り込みは根性を鍛えてたから、直線の伸びだけ良かったのはそう言う事だろう。

 

ステータスの偏りって奴だ。

それが許されるのはサクラバクシンオー*1だけ。

 

 

でだ、ちゃんとゴールドシチーを見た。

 

伸び代はしっかりあった。

てか、伸び代しかなかった。

 

まず根性あるウマ娘だから揉めば揉むほど抗って、それを力にするから練習でボコボコにしてやればその分強くなる。 あと要領は悪くない。 努力家でしっかり練習成果を吸収する。 それと理解力も高い。

 

RPGゲーム風に言うと経験値獲得量1.5倍のスキルがシチーに備わってると言ったら良いだろうか。

 

起床難で気性難なのはご愛嬌だとして、ゴールドシチーはちゃんと強くなるウマ娘だ。

 

ただ自分を理解してないから自主練が下手だった。休憩も碌に取らないし、モチベーションの持続も上手くいかず、無理した練習は効率が悪かった。 俺に出会うまで追い込まれてたから八つ当たりな走りは体を苦しめるだけだった。

 

だから経験値のバフがあっても、ステージの一面の雑魚敵ばかり倒してるような練習では伸びるわけもなかった。

 

あとはモデルとしての仕事があるから純粋に時間も取れていないことも練習効率の悪さを加速させて、トレーナーが付かない彼女は弱いままだった。

 

しかし環境を設ければゴールドシチーの成長は加速する。

 

一面のステージでしか経験値稼ぎ出来なかった彼女を、常にボーナスステージな究極のごっこ遊びに招き入れる。 そこは体力が続く限りエンカウント回数は無制限である。 負けてもペナルティー無しで経験値を多く貰える。 強敵を通してレースのコツを掴める、まさにボーナスステージ。 レース風に言うならボーナスステークスか。 得るのは金じゃなくて経験値だが。

 

それで分からないところは俺やシービーが理解できるまでちゃんと教えてあげる。

 

カフェの濃厚な読解力がジュニア級の感覚で伝えるのでデビューしたばかりのウマ娘に分かりやすい。 これに関してはヘリオスも随分と助けられたようだ。

 

そして回数を熟すほどマフティー性を高めてNTのオカルトパワーもより感受性も高まる。

 

そうすれば究極のごっこ遊びの浸透力が高まって更に得る経験値も全体的に多くなり、あとは同じように繰り返すだけ。

 

だから延々と強くなる。

 

だからこそ、ミスターシービーは強い敵に対して強くなり、禁忌破りのウマ娘と言われた。

 

マルゼンスキーに勝った彼女は伊達じゃない。

 

 

そりゃ、おハナさんも俺のやり方に首傾げるよな。

 

マルゼンスキーに勝ったからマフティー性に触れた成長は事実だけど、絶対に真似できないと分かってから理解を止めた。 それで普通なので構わないし、俺がおハナさんなら宇宙ネコ出来る。

 

 

てな…訳でね?

 

三女神は凄い力を寄越した、そう感じた。

 

そりゃ前任者に扱える訳無いんだよなぁ…

俺もここまで来れたの奇跡だから。

 

 

だから、もし…

 

ミスターシービーがいなかったらと思うと…

 

ああ! 嫌だっ!!

ッッ、考えたくないッッ!!

 

 

 

「ひゃ! ちょ、マ、マフT…!?」

 

「ニット帽のウマ娘とのカードゲームでそんなに嫉妬されるとは思わなかった。 でもこれは本当だから。 担当が多くても俺の愛バはミスターシービーだから」

 

 

隣に座るとガバッと彼女を引き寄せて頭を撫でる。

 

何度もマッサージして気づいたけど耳の付け根が弱点なのでそこを少しなぞる様に触れると身を捩らせて驚く。

 

そしてそのまま後ろ髪を梳かすように撫でてあげると徐々に無言になって耳が垂れ下がる。

 

 

「わかってるよそんな事。 マフTが大事にしていることくらい。 アタシは知ってるから…」

 

「そうか。 なら良い」

 

 

互いに困ったように軽く笑い。

 

俺はその場から離れようとする。

 

 

「ぁ、だめ……もうちょっと撫でて」

 

 

腰に尻尾が絡みつく。 俺は離れずに再びソファーに腰掛けて頭を撫でる。

 

 

「ん…」

 

 

こうなったのも一つのチャンスだと思ったのかここぞとばかりに擦り寄って頭を差し出した。

 

高等部になっても2年前から変わらない愛らしさ。 あとこうなると彼女のウマっ気はしばらくは止まらない。

 

完全に太ももに頭を乗せて膝枕である。

 

打って変わって「ん〜」とご機嫌な声を漏らす彼女に対して、俺はPCをスリープモードにして置けば良かったと少し後悔しながらその頭を撫でる。

 

するとシービーはテーブルの引き出しに手を伸ばして、とあるモノを取り出す。

 

 

「!」

 

 

 

細く長い棒と、ローションオイル。

 

俺はそれを受け取る。

 

シービーは仰向けになった。

 

甘えるように目が「シて…」と訴えた。

 

 

 

俺はカボチャ頭を外す。

 

 

 

「ぁ……まふてぃ…♪」

 

 

あまりみせない素顔が嬉しかったのだろう。

 

細めた目は恍惚に染まったように声を溢す。

 

あと高等部になってその声も大人っぽさも増した気がする。

 

嬉しそうに頬を染めてソファーから飛び出した尻尾は揺れる。

 

そして目を閉ざして完全に身を任せた。

 

俺はウマ娘のローションオイルを手のひらに取り出して、指で少しだけ絡めとり…

 

 

そして…

 

 

 

 

シービーの耳に塗る。

 

それから細くて長いモノ……… 耳かき棒だ。

 

ウマ娘用に少し長めの耳かき棒だ。

 

耳かきの綿の部分でサラサラと耳に付着するオイルを広げて、付け根に触れる。

 

 

「んっ、ぁ…」

 

 

くすぐったそうにするシービーの反応を伺いながら綿を戻して、ヘラの部分に耳かき棒をひっくり返して本格的に始める。

 

カリカリとヘラの部分で耳をかき、オイルを充満させながら奥に入れてかく。

 

ちなみに……この状態ではあまりウマ娘の耳は見えない。 少し傾ければ良いだろうが俺はそうしない。 自然体のままで耳かきを行う。

 

ライトを照らしたり、ライトの付いた耳かき棒を使えば良いだろうが、必要ない。

 

 

 

――――――

 

「………」

 

 

 

ミスターシービーに触れてわかる。

 

俺には彼女の気持ちが伝わる。

彼女が隠したいと思う部分はわからない。

 

でも耳かきで気持ち良い部分は明かされる。

だからそこに触れてあげるようになぞるだけ。

 

そしてちゃんと込めてあげる。

愛バを大切にしている気持ちを。

 

今だけはちゃんとした1人のトレーナーとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふふ〜」

 

「シービーさん、ツヤツヤしてませんか?」

 

「ヤバ!マジなんか超潤ってね? 何やったん??」

 

「ぁ、後で私も……ぁ、いや、何でもないです…」

 

コイツらうまぴょいしたんだ

 

 

シービーの耳かきが終わり、カボチャ頭を被り直したタイミングで集まった担当バ達。

 

とりあえず今日はミーティングなのでカフェがアイスコーヒーやアイスカフェ・オ・レを用意してる間に俺はホワイトボードを傾ける。

 

それぞれ飲み物を受け取ると、シービーとシチーはソファーに座り、人もウマ娘もダメにするクッションにヘリオスが寝転び、カフェは少し離れた縦長の椅子にちょこんと座る。

 

俺もアイスコーヒーでマフティー性をチャージしながらマジックで四人の名前を書き殴った。

 

 

 

「さて、とりあえずだ。 これから俺の苦手な季節は本格的に始まるだろう」

 

「だったらそれ脱げば?」

「さっき脱いでたけどね」

「え、それってマ(フティー)??」

「ふぅ……美味しいです」

 

 

ちなみに俺の素顔は全員見てる。

 

シービーが10回以上。

 

ヘリオスやカフェがそれ未満。

 

シチーが片手で数えるくらい。

 

あまり脱がない方がマフティー性高いけど、一度見られてる以上はもう関係ないだろう。

 

なのでこの部屋くらいは外す。

 

あと見られるのが担当バならまだ良い。 俺もこれから何年も隠し切れるとは思わないのでいっそ「見せて?」と言われたら一度だけ意図的に見せるようにしているつもりだ。 あとは基本的に見せないスタンスで行くつもりだ。 マフティーだし。

 

ただし先程の耳かきのように必要あらば外す。

 

その時に見られる分は仕方ないだろう。

 

担当バなら良い。

 

 

まあ事故で秘書のたづなさんに一度見られてしまったけど、シービーが手作りで頑張ってくれたアナベルショコラ……あ、違う。

 

ガトーショコラが優先だったので10秒くらいもぐもぐしてから、カボチャ頭を被って、固まっていた秘書のたづなさんに声をかけたら頭の上で星の屑作戦(お星様ぐるぐる)してたのでその混乱状態解いてから一度帰して、生徒が帰った後に改めて謝られた。

 

俺の記憶には無いがたづなさんもこの素顔は覚えてたのか懐かしそうにしていた。 昔よりも逞しい顔になったと教えてくれた。

 

それで「もう一度外しましょうか?」と冗談で言ったが、たづなさんは「あなたは前任者ではないマフティーだからその頭は大事にして下さいね」と言われた。

 

あまりにも高すぎるこのマフティー性の解答を受けて、俺は軽率な冗談だったと謝罪してから解散した。

 

なのでマフティーに信頼を置いてくれるたづなさんは一回だけ素顔を見られたが、たづなさんのマフティー性がノーカウントにした。

 

トレセン学園の秘書は伊達じゃない。

 

 

 

「さて、おとといシチーが未勝利戦を堂々の1着でゴールした。 それを起点に今後の方針を再確認する。 シービーは春天2着で惜しかったから夏合宿挟んでから毎日王冠で慣らして、秋天だな」

 

「いやー、マルゼンスキー強かった」

 

 

メジロアルダンがトレセンを卒業してから基本的にミスターシービーとマルゼンスキーの2強になった。 それでマルゼンスキーが天皇賞の秋をラストに飾ると天皇賞(春)のインタビューで面向いてシービーに言ってたので是非、春秋制覇の盾は阻止してやろうとシービーも意気込んでいる。

 

あと天皇賞の春は距離的に勝てる筈だった。 でもクビ差でシービーの負け。 それでも3着のウマ娘とは6バ身差だった。

 

それでゴール直前のシービーとマルゼンの写真がめちゃくちゃ売れていた。 大怪物と禁忌破りの2強はURAを熱くさせている。

 

そんでもっておハナさんも熱くなったのか、去年の有マ記念を通して躊躇いを捨てると天皇賞の秋に向けて元々強いマルゼンスキーの強化に勤しんでる。

 

いやー、それは流石にキツいっすよ。

 

ただでさえシンボリルドルフが菊花賞で三冠目を目指してるのにその勢いに便乗されたら簡単には止まらねぇだろ。

 

これにはオルガ団長もニッコリかな。

あとタカキは休め。

 

 

 

「はいはい! ウチはマルチャン!」

 

「マイルCSな? エプソムカップは1着だったから、あと一つくらいレースで入着以上の結果残せばマルチャンは選ばれるだろう。 なので夏合宿は頑張るぞ」

 

「ヨロたんウェーイ!!」

 

 

エプソムカップは結果を残した。

堂々とした逃げの1着ゴール。

 

 

しかし、その前のきさらぎ賞は6着と結果を出せなかった。 その汚名は返上した。

 

いや、ヘリオス的には自分じゃなくてマフティーに傷ついた汚名を返上したらしい。

 

俺はマフティーの名は気にせず走ってくれと言ったが「ウチはマフティーの太陽神だから!」といつものように笑って……いや、目はそこまで笑ってなかったかも知れない。

 

多分ヘリオスも知っているのだろう。 きさらぎ賞の後日に『マフティーのウマ娘6着で敗れる!?』と新聞に載せられていた。 それでテレビでも度々流れていた。

 

てか、わざわざ6着のウマ娘に狙い定めるとかひどく面倒だった。 もっと入着のウマ娘を称える方針で報道しろと思った。 この世界でもマスコミは碌でもないようだ。

 

まだヘッドバンの残念美人はまともだぞ?

まともじゃないけど、まともだぞあの方。

 

 

だから…失敗したと考えた。

 

ミスターシービーの築き上げたマフティーとしての期待値はヘリオスにとって高すぎた。

 

そしてヘリオスがそこまで意識するとは思わなかった。 学園に帰った後、切り株の近くで腰かけていた彼女を慰めてから、挽回するようにユニコーンステークスで1着を取った。

 

これでプラマイゼロにしたつもり。

彼女の心は一旦晴れた。

でも……………まだ心配だ。

 

トレーナーとして、しっかり支えないと。

 

 

 

「シチーの目標は阪神JFだな」

 

「うん、そこだね、調整よろしく」

 

 

ゴールドシチーはマイル中心のつもり。

長すぎるのは無理。

短すぎるのも無理。

 

でもエリザベス女王とか出走させたいかな。

なんとなく似合ってる、気がする。

 

え? これではお人形扱い?

 

いやいや、違う違う。

 

お人形のように綺麗だけどめちゃくちゃ強いウマ娘って証明する流れだから。 ならレースもそれ相応に飾った上でゴールドシチーを魅せれば良い話だろ? 本人もそれで良いと納得してたし。

 

てかエリザベス女王ってG1だろ? ならお人形扱いどころの話じゃないのですがそれは。

 

上澄みの上澄みでマジで強いやつしか勝てないのが重賞だから俺もそう軽く見ていない。

 

 

もし仮に、ゴールドシチーを勝てるレースしか出さないで、綺麗な姿だけ飾れば良いとか戯言を吐くトレーナーがいたらソイツはかなりのアホだろう。

 

その感覚で中央に挑めるなら日本のレースとか滅んでるレベルだぞ。 俺はトレーナーとして2年目になってよく理解した。 中央は魔境も良いところです。 マルゼンスキーが目立ってただけでそれ抜きにしても中央は激戦区。

 

 

 

「カフェは来年か再来年にデビューだな」

 

「はい……」

 

「焦るなよ? 体は段々と丈夫になっている。 いざデビューしても、これまで蓄えた知識力は絶対に誰よりも先に行く」

 

「うん、それはアタシも保証するよ。 カフェはずっとアタシの走りを見てたからね」

 

「はい……がんばります、シービーさん」

 

 

カフェは体が丈夫ではない。

 

無理すると身体のどこかしらを痛めたりと弱い。

 

奥多摩で出会った時にはキャンピングカーに乗せてトレセン学園に帰ったんだが、実は足の爪が割れていたから歩かせるには見逃せなくてキャンピングカーに乗せて帰ったのだ。 ヒッチハイクじゃない限りは見知らぬ人にホイホイ乗らせるのもいかがなものだが、心配になって乗せた判断である。

 

あとカフェは痛むことにあまり敏感でない。

 

なんならカフェのイマジナリーフレンドが知らせるまで気づかないことはあるらしいが、なんというか反応がやや鈍い。

 

それを知ったから放っておけなくなった。 そうでなければあんな忙しいタイミングでカフェの加入申請に手をつけてない。 シービーの日本ダービーが終わってから話を進めれば別に遅くもなかったが、虚げに揺れるこの摩天楼は今にも崩れそうで怖かった。 日本ダービーに連れて行ったのも近くに置いておくためだ。 マフティーの新たな担当として騒ぎにはなったけど、別にそこはよかった。

 

でだ、ここまで話したようにカフェは体が弱い。

 

なので練習はあまり走らず、主に見学で済ませている。 たまにシービーが直々に走りを見てあげてるが1週間に一回ペースだ。

 

無理に負荷をかけるのは得策ではない。 今は食生活で整えたり、マッサージで体の活力や代謝を上げたりと、少しでも丈夫な体を作ろうとしている。

 

なのでデビューする気配が全く無いのはそういうことだ。

 

ちなみにカフェは中等部2年だ。 俺のところに来たのは中等部1年であり、カフェはかなり早い段階でトレーナーを捕まえた。

 

彼女が俺を選んだ理由は色々とあるが、俺はどんなカフェでも受け入れたと思う。 もちろんカフェのことは心配だったが、マフティーに恐れずマフティーを求めてくれた事が俺にとって救いであり、存在意義になった。

 

なら俺も彼女を救ってあげたい。

 

なんとでもなる筈だ(覚悟完了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夏合宿が始まる。

 

暑さは何とかなった。

日陰とか、夕方に砂浜を使えばやり過ごせた。

 

なんとでもなる筈だ(満身創痍)

 

 

 

つづく

*1
実はまだ未デビュー




NTと究極のごっこ遊びの説明が難しい。

シャドーボクシング的な感覚で伝わったらいいけど。 グラップラーで例えると『リアルシャドー』で説明すれば、わかる人にはわかると感想欄から分厚いマフティー性をいただきました。 ありがとうございます。

そもそもNTってそんなんだから分かり辛いよね??
【固有結界】と考えたら話が早いかな??
生成するのはレースで丸写しされた幻影のウマ娘たち。
描写に関しては作者の力不足ですね。
本当にごめんなさい。

・マフティー性に触れると道が開通する。
・マフTはサイコミュ的なパイプの役割。
・三女神から授かった力はNTに変化する。
・ファミチキ並みに直接イメージが届く。
・見ている景色に描いたモノが映し出される。
・レースと同じ臨場感を得る(VR的な状態)
・そうして究極のごっこ遊びに身を投じる。
・身体は闘争を求める。
・アーマードコアの新作が作られる。

ちなみにシービーはこれが1人でできる。
マフTがいると負担が軽くなってより鮮度が上がる。

ほかの担当はできないので、これを行う前にしっかりマフTと息を合わせて、段取りをとってから行う。 だがその代わり感受するウマ娘側にもセンスが無いとだめです。

・シービー 100%
元々自分でできてたのでこればかりは語らずとも。

・カフェ 98%
元々その素質がある。アプリでカフェの育成をやるとどれだけ異常なのかわかる。

・シチー 85%
モデルとして演じる力がある。 カフェほどじゃないにしろ吸収力が高いためNTの感受性が高い。

・ヘリオス 70%
一定のノリで熟せてしまう。 逃げウマなので実のところあまり気にしなくていいので後方の圧力だけ感じる。

これが相互理解によるニュータイプの力です。
そりゃ東条トレーナー(おハナさん)も首傾げて思考を放棄しますね…
俺ならそうなる、うん。
圧倒的なオカルトパワーだけど、これがガンダムだから仕方なね(投げやり)

そもそもNTに関しての解釈って作品によって色々あるので、複雑なんですよ実際に。
あまり考えないでそんなもんだと受け止めてください(他力本願)

それとシービーは5話とか6話(中等部二年)で比べると高等部になって後輩ができたから段々と落ち着いたキャラになりましたね。 自身が楽しむためなら禁忌に触れてでも危ない走りもする独りよがりな姿から、ちゃんと大人になってるあたり無敗の三冠ウマ娘の貫禄出てる。

そんなわけだから…
カフェも実装されたし、シービー実装まだですか?
かわいいやんちゃだといいなぁ。
あとヘリオスも実装してね。
なんならシチーの新衣装でもええよ。
どこぞの8番人気な勝負師でも全然OK(よくばり)


まぁそんなわけなので…
とりあえず 太陽神 ”編” のつもりで進めるから。
彼女には、ほっっっ…んの少しだけ曇ってもらうね(予定)

マンハッタンカフェは引けましたヨね????(慄え声)

  • 単発で引けた
  • 10連で引けた
  • 20連以上で引けた
  • 100連以上で引けた(登山家のコツ)
  • 引けたので致命傷では無いが?(天井)
  • バクシン!!爆死ィィィィン!!
  • 今回は引かない(差し牽制のコツ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。