やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

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第25話

__ヘリオスとデートしてくれない?

 

 

 

 

シービーからそう言われた夏の終わり頃。

 

マフティー性を失わせる季節の中で俺はもうひと頑張りする必要があるらしい。

 

 

今日は8月31日。

 

子供にとって楽しい時間が終わる。

 

 

そしてそれと同時に終わらせないとならない。

 

彼女の悩みを。

ダイタクヘリオスの不安を。

 

もしかしたら。

俺は指導者として失格なのかもしれない。

 

そんな不安がある。

 

 

 

「お、お待たせ…マフT」

 

「!」

 

 

片手に紙袋をぶら下げて現れたダイタクヘリオス。

 

デートスポットにしては殺風景な展望台。

 

しかしダイタクヘリオスがそこにいるだけで多くが飾られている気がする。

 

でも、足りない気がする。

 

彼女から。

 

 

 

「悪いな、気が利かない男で」

 

「ううん、マフティーはソレを外せんからね」

 

 

カボチャ頭さえ無ければ俺は彼女のために街中までデート出来たんだと思う。

 

まだ見ぬトレンドに触れさせてもらい、パリピならではの楽しみ方を教えてもらっていたはず。

 

だが世間にマフティーたらしめた、この体は、この器は、容易にひっくり返すことも出来ない。 マフティーは王だ。

 

庶民の中で裸の王様になることも叶わない。

 

これは外せないのだから。

 

 

「えとね? はちみードリンク持ってきたんけど、飲まね?」

 

「ありがとう」

 

「マフT用の長めのストローもあんよ。 ちゃんと用意周到できマフティー!」

 

「気が利くな。 俺には勿体無いウマ娘だ」

 

「!………とりあえず、座ろっか?」

 

 

デートと言うには程遠い雰囲気。

 

女性と男性ではなく、指導者と担当の関係。

 

ソレが健全であるからマフTとしては困らない。

 

けれどはちみードリンク以外何も味付けない時間。

 

ただ二人で座ってはちみードリンクを飲み、何も語らず展望台のベンチに座っているだけ。

 

ストローの啜る音が終わりの夏空に浸透する。

 

しばらく無言が続いた。

 

 

唐突な彼女とのデート。

 

もしくはシービーが大袈裟にそう言っただけだろうか。 彼女はそういうところは大いにあるからそうかもしれない。 俺はカボチャ越しに何か口を開こうとして……先にヘリオスが開いた。

 

 

 

「ウチさ、ミスターシービーに憧れてるんよ」

 

「そうなのか? ……いや、そうだったな」

 

「うん。 シービー姉貴ってさ、すごく強くて、すごく立派で、すごくカッコよくて、すごく優しくて、すごく…暖かい。 無敗の三冠ウマ娘だから本当ッッに憧れてしまう。 ウチだけでは無い、皆が注目するくらいに。 それでウチは一番近くにいるからちょっと優越感あるんやけど、でもそれと同時に分かってしまう。 憧れにしては…高すぎる」

 

「…」

 

 

 

ミスターシービー。

 

禁忌破りのウマ娘と恐れられる存在。

 

有マ記念でマルゼンスキーを倒したウマ娘。

 

その評価は去年の時点でとてつもなく高い。

 

 

「マルゼンスキーも凄いけど、ウチ的にはやっぱりミスターシービーが良い。 姉貴のようなウマ娘になりたい。 けどね。 ウチのソレはね、ただの拗らせから始まってた」

 

 

振り返る。過去に。

 

 

「きさらぎ賞は入着も出来ず、レースは終えた。 世間はマフティーのウマ娘がどうだとか騒いで、ウチはパリピの癖に笑い飛ばすことを忘れて、バイブスはどん底やった。 マフTは「次は一着を取る」と言って、ウチも頑張ってエプソムカップで有言実行した。 ウチは初めての重賞レースでトロフィーを獲得できてチョー上がった。 でも何故か満足感が足りなかった。 理由は簡単やったよ。 G3ではマフティーのウマ娘じゃ無いって」

 

 

「!?」

 

 

「うん、分かってる。 そんなの間違いだって分かってる。 マフTはそんなこと考えてない。 G3で1着は普通に凄いことだって知ってる。 紛れも無い重賞レース。 だから本来のウチならめちゃくちゃ喜んでたはずなんよ。 もう理事長室で勝手にパジャマパーティーするくらいにはバイブス上げてたんやと思う。 でも自分がちゃんと笑えてるかも分からないくらいに拗れていた。 マフティーのウマ娘として誇る思いは、いつしかミスターシービーのようなウマ娘としてマフティーの誇りとなるってね、ダイタクヘリオスを忘れてた。 ウチらしく無い。 拘り過ぎた」

 

 

半分ほど飲んだはちみードリンクは膝の上に置かれているが、使い捨てのプラスチック容器からミシミシと音が鳴る。

 

それはヘリオスの悲痛のように音が鳴る。 硬いはずの液体が分かるくらいに震えていた。

 

 

「それからさ、夏合宿で悪夢を見たんよ。 今年の秋マイルCSで走った夢。 G1の世界がソコにあった。 ミスターシービーの憧れを抱えて走ったのに、姉貴のように走れず、弱過ぎたウチは17着の悪夢を突きつけられた。 眠りの中で見せられた夢なのに、現実のように襲い掛かったベタつきにウチは現実を見た。 そして何かが噛み合わなくて、ウチのアイデンティティいつのまにか脆くなってた」

 

 

ダイタクヘリオスは良く笑うウマ娘だ。

 

くだらなそうなことも心の底から笑う。

 

病気にならなそうなほど笑う。

 

それが彼女。

 

でもここ最近の彼女は…いや、エプソムカップの終わりからどこか変わっていた。

 

俺は選手としての感情が芽生え、引き締まったのかと思っていた。 でもそんなことない。 俺は失敗した。 指導者として見失った。 彼女は変わらずダイタクヘリオスであろうとして、外れそうになっていたことを。

 

 

 

「それですごく嫌になった。 憧れが届かないと分かって、姉貴が羨ましくて、それで嫌になりそうだった。 これまで抱えた事ない感情に対してウチは分からんくなった。 でも、やはり憧れは止められなかった。 やはりウチはミスターシービーのようになりたかった。 これだけは譲れないんよ…まふてぃ……」

 

 

禁忌破りと讃えられた、無敗の三冠ウマ娘。

その名は__ミスターシービー。

 

ダイタクヘリオスだけじゃない。

 

皆が憧れるウマ娘の一人だ。

 

だからダイタクヘリオスが抱える憧れは健全であり、正常である。

 

だがその代わりその頂きは果てしなく高く、そこに並ぶことが出来るのは夢の中だけと思わせてしまう。 今後現れるかもわからないその偉業は、希望を与えるのと共に絶望になる。 それがアスリートの世界。

 

そこは選ばれた者だけの栄光だから。

 

 

「いつもなら俺は投げやり気味に『やって見せろよ』って言うけど…今は違うよな」

 

 

 

マフTとして向き合う。

 

失敗した指導者として向き合う。

 

 

「ヘリオス。 君は覚えてるな? マフティーの太陽神として誇らせるって言ったこと」

 

「うん、覚えてる。 その言葉がすごく嬉しかってん。 その上『パリピだろうと構わない』ってくしゃくしゃの紙で申請して、ウチのことをチームに入れてくれた。 めちゃくちゃ嬉しかったよマフT」

 

「俺はその言葉も想いも嘘じゃない。 マフTとして、またはマフティーとして、ダイタクヘリオスをそうすると決めた。 この気持ちは今も変わらない。 でも、俺は少し間違ったね」

 

「ぇ…?」

 

「マフティーとして慢心して、マフTとして甘かった。 俺は……未熟故に、今回のようなことにしてしまった。 もっとデートらしく出来たかもしれないのに」

 

 

はちみードリンクをベンチ横に置いて立ち上がり、彼女と向き合う。

 

そして俺はカボチャ頭を外す。

 

ダイタクヘリオスは目を見開き、驚く。

 

 

 

「マフティーたらしめる過程で、君がそこまで悩んで苦しんでたとは思わなかった。 本当に申し訳ない。 ダイタクヘリオス。 俺はトレーナー失格だ」

 

「ぁ、ち、違っ…! 違う!! ウチがアホみたいに拗らしただけで! ウチがマフティーに拘って、それで忘れてただけで! マフTは…!!」

 

「でも俺はその前に生徒を預かった指導者だ。 担当が苦しんでしまったのに、何もしてやれず、こうしてシービーがデートとして場を設けなければ俺はおそらく君に気付かなかった。 それがマフティーでも気付かなかった。 俺は指導者として未熟だった。 本当に申し訳ない…」

 

 

 

東条トレーナーに言われたことがある。

 

生徒に入れ込み過ぎるな…と。

それは指導者として一番正しい事だ。

 

教えて、教わらせる。

 

その線引きをしっかり行った上でウマ娘と接して、アスリート選手を仕立て上げる。 それがトレーナーという者だ。 東条トレーナーの言ってる事は正しい。 だからウマ娘の頭を撫でる行為は実のところタブーである。 褒められたいウマ娘は頭を撫でられて喜ぶから、そうしてしまうトレーナーは多いが、それは線引きを忘れてしまった者の行為。

 

だからまぁ、ウマ娘の卒業と共に攫われていく男性トレーナーは都度都度現れるらしいが、とりあえず指導者としてウマ娘との距離感は大事である。

 

間違えたとしても線引きを忘れてはならない。

 

 

俺は、それに反している。

 

俺はマフティーとしてウマ娘に入れ込む。

 

マフティーたらしめるから、そうしている。

 

それは抗えない禁忌。

 

だからどこまでも沈み込む。

 

だから俺は指導者として未熟だ。

 

線引きを出来ないトレーナーだ。

 

()()T()なんて言葉、ただのネタであり、駄洒落に落ちた産物である。

 

それはいまここに表れている。

 

 

 

「マ、マフTは悪くない。 マフティーほどの、ト、トレーナー、に、あ…頭下げさせた、ウチがダメなんよ。 ウチなんてパリピがマフティーにそぐわないだけ…で…」

 

 

 

だから、嫌になる。

 

怒りが込み上げる。

 

何故…!!

そんなこと言わせたんだよ、マフティー!!

 

何故…!!

そんなこと言わせたんだよ、マフT!!

 

彼女にそんなこと言わせるな!

認めさせるな!!

 

俺は……ッッ!!

 

俺が許せなくてたまらない!!

 

 

 

 

「そんなわけあるか…!」

 

 

「!!」

 

 

「俺が選んだんだぞ! マフTとしても! マフティーとしても!! 俺がダイタクヘリオスを選んだ! そんな訳あるか!! それとも誰かが君にそう言ったのか!? ならそいつの事は俺が粛正してやる!!」

 

 

「ち、違う! 違う! ウチが勝手にそう思ってるだけで…」

 

 

「なら思う必要なんかない!!」

 

 

「!!」

 

 

 

__君はパリピ、俺はマフティー。

__それだけだろ?

 

 

 

「俺たちに、そぐう、そぐわないなんて無い! そんなこと言わせない! 思わせない! 君は俺のウマ娘だ! 周りなんて関係ない!」

 

 

「!!」

 

 

「俺は…俺は…!! おれは、さ……君に救われたんだよ…ヘリオス」

 

 

 

マフティーだったから。

 

マフティーでなければ。

 

俺はダメだった。

 

 

潰れそうだった。

 

歩けなかった。

 

呪いに苦しめられて、マフティーが無ければそれこそ自殺だって考えた。

 

そのくらい追い込まれてたから俺はマフティーとしてカボチャ頭を被り、トレセン学園の門を叩いた。

 

そこでミスターシービーと出会い、俺がマフティーたらしめるためにも走り、周りから異端な者として視線を向けられても、彼女と三冠を目指しながらマフティーし続けた。 互いに互いを求めて。

 

 

そして、その過程で…

 

 

「ヘリオスは俺を怖がらないで真正面からやって来た。 正直、凄く驚いたんだよ。 くしゃくしゃな紙まで用意して、それでマフティーを求めてやって来た。 俺はマフティーとしても動いたけど、マフTとして応えたくなった」

 

 

 

__入ってくれないか??

 

 

マフティー性のカケラもない言葉。

気を抜いた先で吐き出された縋るような言葉。

 

 

 

「俺は、本当に報われた。 俺は君に助けられたんだ」

 

 

 

 

__情けない話さ。

__俺は皆から怖がられている。

 

 

 

 

「俺はマフティーをやめられなかった。 そうし続けなければならないから。 だからシービーやカフェのように特別な子で無ければマフティーが邪魔するのかなって、少しだけ諦めがあったんだよ…」

 

 

 

 

__俺はマフティーを辞められない。

__そう覚悟していたが…君は違ったな

 

 

 

 

「でも、パリピな君が現れて、俺は救われたんだよ。 間違いなく、俺は君がそこに現れて嬉しかった」

 

 

 

 

__ヘリオスはいい奴だ。

 

 

 

 

「くしゃくしゃの紙を、たづなさんに持って行って『紙は新しく変えましょうか?』と言われて俺は必死にその紙で通してほしいとお願いした。 マフティーのために握りしめてソレがお日様のよう温かったからさ…」

 

 

「マフ…てぃ…」

 

 

「そしてダイタクヘリオスを担当ウマ娘に出来て嬉しかったんだ。 マフティーきメてたけど、カボチャ頭の中ではニヤケそうになる顔で仕方なかった。 何度も言ってるけど、嬉し過ぎたから」

 

 

「そんなに…ウチのこと……」

 

 

「同情なんかじゃない。 マフティーとして応えるためにも君をスカウトした。 でも最初はマフTから。 そこはちゃんと知って欲しい。 だから自分がマフティーにそぐわないとか思わないで。 そうじゃないと俺は困ってしまう…」

 

 

 

初めて、彼女に弱いところを見せた。

 

いや、カボチャ頭(マフティー)が無ければ俺は弱い。

 

それは明らかだった。

 

でも、カボチャ越しじゃないからこそ伝わった事もある。

 

 

 

「そう、なんや…ね。 いや、そうやった、ね。 ぅぅ…マフ、てぃ…ご、ごめんね…うちって……ほんどうに"…バが…ぅぅぁぁ…」

 

 

 

俺はダイタクヘリオスを大事にしている。

 

カボチャ頭が無かろうとも大事にする。

 

俺が初めて、このウマ娘をスカウトしたいと思ったのがダイタクヘリオスなのだから。

 

 

 

「泣かないで、ヘリオス」

 

「ぅぅぁぁぁ…!」

 

「ごめんね、マフTが弱くてごめんな」

 

「うぁぁぁぁあ…!!」

 

 

 

カボチャ頭を地面に落として、泣き崩れる彼女を慰める。 抱きしめて、涙を覆い隠すか、黙って胸を貸すかだ。

 

俺に女の子を慰めるなんて器用は無理だ。

 

 

__他のやり方あるならば。

__教えて欲しいってマフティーは聞くよ。

 

 

マフティーが知るわけがない。

 

女の子の慰め方なんか。

 

そして俺もよく知らない。 だからマフティーならと少しでも考えていた俺は嫌になる。

 

マフティーが無くなった途端コレなんだから、俺はどうしようもなく、俺が嫌になる。

 

 

 

__厄介なものだな、生きると言うのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マフTごめんね、ギャンギャン泣いて」

 

「いや、良いよ。 …ごめんな」

 

「もうそれ無し。 ウチも、マフTも、互いに拘らない。 もう少し……落ち着かんとね」

 

「…アイシャドウが崩れたな。 ハンカチあるけど使うか?」

 

「ありがとう。 使って良い?」

 

「良いよ」

 

「ん、マフTは優しいね」

 

 

 

優しい…か。

 

君の方が果てしなく優しいと思う。

 

俺に比べたらな。

 

 

 

「はちみードリンク、少し温くなったね」

 

「飲み干すさ……ぐぇっ、おぇ…」

 

「あはは、ウケる……おぇぇぇえ!」

 

「ヘリオスの方がよっぽどだろ」

 

「あっはははは!」

 

 

未知の味だ。 ぬるい蜂蜜がこんなにもしんどいとは思わなかった。 違う。 ストローで勢いよく飲もうとして失敗した。 マフティー性が足りないようですね。 もっと賢さを上げた方がいいでしょう。

 

 

 

「姉貴には頭が上がんないね」

 

「…そうだな。 そもそも、俺がもっと君たちと時間を増やせば良かったんだよな」

 

「元々あったと思うよ? 練習終わりにマフTがマッサージしてくれるから、それで二人っきりになるでしょ? 時間はあったと思うんよ」

 

「でも、こうして何もない時間はあまり無かった。 故に足りなかった。 悔やまれるかな」

 

「もう、気にしナイル川! 泣いてスッキリギリスで高跳びバイブス上げちょウィーい! マフTもね!」

 

「君はやっぱり優しいな」

 

「褒めても何もで出ないないバー!のいないないバー!」

 

 

ほんの少しだけの元気。

 

彼女らしさはほんの少しだけ。

 

でもまだからげんきだ。

 

俺はそれが分かっていて、ヘリオス自身も見抜かれていることが分かってた。

 

らしくなく彼女は落ち着く。

 

 

 

「マフTは、ウチのことが特別なん?」

 

「…少し違うかな」

 

「そこは嘘でもハイかYESで答えんとダメージコントロール」

 

「悪いな。 でも普通よりは、特別だよ」

 

「なら許す!」

 

「チョロいな」

 

「マフTに言われたく……なーーい!」

 

「!」

 

 

 

真正面から抱きしめてきた。

 

それから「ンふー!」と声を零しながら顔を埋めて尻尾をブンブンさせる。

 

俺は数秒だけ驚き、手を伸ばして彼女の頭に置いて撫でる。

 

尻尾の勢いが無くなるけど激しい喜びより、柔らかな喜びが尻尾に表れる。

 

しばらく撫でると無言になり、彼女は一言。

 

 

「ありがと」

 

「?」

 

「ウチは、マフティーにそぐわないとか、マフティーに相応しく無いとか、悪夢の中でもそう言われたから、思わないで良いことを勝手にそう思い込んで、マフTを信じなかった。 ごめんなさい」

 

「…こちらこそ本当に悪かった。 そこまで追い込まれてたとは思わなかった。 やはりシービーには頭が上がらないな」

 

「本当だよね。 ウチも泣いてるところ姉貴に抱きしめられて、それでデートと言う名目でこの場を与えられて、やっと…色々と整理できた。 やはり姉貴はすごいよ。 その憧れが更に高くなる」

 

 

完璧なウマ娘…と、までは行かないけど俺はなんだか嬉しくなる。

 

2年前は「まずアタシが楽しむ」と言って走っていた。 自分がまず最初であることにこだわって彼女はターフに楽しみを描いていた。 それが後の究極のごっこ遊びだけど、ミスターシービーらしさの始まりでもある。

 

けど三冠となり、シニア級になるのと同時に高等部へと成長して、気づいたら俺と同じくらいの身長になっていた。 それでお姉ちゃんというよりお姉さんと言う方が似合う風貌を備えるようになり、今となっては可愛い後輩3人のために並走したり、俺の代わりにカフェテリアで一緒に食事してあげたりと色々と頑張っている。 俺はミスターシービーにすごく助けられている。

 

そんな彼女だから…

 

 

「ウチは、ミスターシービーに憧れる。これからも変わらない」

 

 

その憧れは、理想となる。

 

ミスターシービーは数多のウマ娘が目指すべき存在となった。

 

 

「それと同時にマフティーの誇りになれるように頑張る。 これからも変わらないよ」

 

 

俺はミスターシービーほどの器か?

 

マフティーはそうだろう。

それを演じるマフTも同じだ。

 

なら、俺もそこに誇るべきだろう。

 

 

「だから求め続けて良いよね? マフTにも、マフティーにも、ダイタクヘリオスは応えてもらうために走って良いよね?」

 

「もちろんだ。 俺からも頼む。 マフTはヘリオスが必要だ。 そしてマフティーは君を選んだ。 だから俺が君を誇らせる。 ミスターシービーと同じくらいに誇らせる」

 

「……うん」

 

 

 

抱きしめていたヘリオスは離れて、俺は落としていたカボチャ頭を拾い上げて、汚れを払って再び被る。

 

 

 

「マフT」

 

「なんだ?」

 

「マフティーに求めたら、応えられるのは、これからも??」

 

「ああ。 そこに濁りなく、純粋となら」

 

「そっか。 ならさ__マフティー

 

 

 

彼女は問いかけた。

 

俺はカボチャ頭を被って答えを示す。

 

お前の目の前に居るのはマフティーだと。

 

 

 

「マフティーに聞きたい事がある」

 

 

 

ダイタクヘリオスは展望台の先まで軽い足取りで走り、そしてこちらに振り向く。

 

その時に、夕焼けのオレンジ色が強くなった。

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の背後に映る太陽は沈むのに、まるで朝明のように上がっている。

 

でも、後ろの太陽は沈む。

 

まだその太陽は、ナニカが足りない。

 

 

 

「ウチはさ、どう足掻いてもマイラーだから姉貴のような三冠なんて無理。 デビューも遅れたし、夏合宿も最後は調子崩して、成長幅がシチー以下。 今から何か取る強さも無い。 出来るのは秋のマルちゃん(マイルCS)だけ」

 

 

 

ダイタクヘリオスは今から伸びる。

 

言い方を変えれば、やっとこれからだ。

 

 

 

「でもウチはさ、ミスターシービーに憧れ続けたい。 だから…」

 

 

 

太陽を背にしてぴょこぴょこ跳ねていた彼女はその場に留まると、パリピの軽い雰囲気を消して、真っ直ぐとマフティーを見た。

 

 

 

 

「マフティー、ウチはそれ相応になりたい」

 

 

 

 

 

濁りないその眼で。

 

 

 

 

「マフティー、ウチは憧れを追いかけたい」

 

 

 

 

変わらないその心で。

 

 

 

 

「マフティー、ウチは誇りたい! だから!!」

 

 

 

 

彼女らしさをそこに乗せて。

 

 

 

 

「マフT!! ウチのために!!

__やって見せてよマフティー!!」

 

 

 

「___」

 

 

 

三女神の呪いよりも強い、言葉の呪い。

 

合言葉の如く、マフティー動かす呪文。

 

それさえ口ずさめば踊ってくれる。

 

ありとあらゆる動画でそれは証明された。

 

だから、俺はマフティーするだけだ

 

 

 

「3つだ」

 

 

 

マフティーとして応えるために。

 

マフTとして前から考えていた。

 

 

今、それを言う時だろう。

 

彼女がターフに『描く』とその覚悟あるなら。

 

 

 

「マイルCSを、3回だ」

 

「!」

 

 

 

彼女が憧れを追いかけ続けるウマ娘なら、可能な、はずだ。

 

いや、違う。

言葉にするなら…

 

___なんとでもなるはずだ。

 

そう秘めてマフティーすればいい。

 

 

 

 

ダイタクヘリオス(きみ)だけの三冠を取ろう」

 

 

 

 

この時、史実は壊れたらしい。

 

でも俺は全く知らないのだ。

 

何故ならダイタクヘリオスって()がどれほどなのかを俺は知らないから。

 

実際に存在したかも分からないし、調べる手段もない。 だから分からないまま。

 

けど、マフティーには関係ない。

 

求めてきた者に対して応えるための存在だ。

 

だから「やって見せてろよ」と言われたのなら、俺がやる事は一つだけだから。

 

呼吸をすることが当然の如く……俺だって。

 

 

 

「やって見せろよ、ヘリオス」

 

 

 

マフティーの隣に立つための名前を兼ね備えたパリピウマ娘の少女に言う。

 

君が太陽神(ヘリオス)なら、憧れに上り詰めてみろ。

 

その名前と共に、なんとでもなるはずだから。

 

 

 

 

「あざまるッ! すいさん…!!」

 

 

あの時と同じ彼女らしさで答える。

 

涙はない。 何故なら憧れもなったウマ娘が拭い取り、その場所まで預かったから。

 

大丈夫。 届くはず。

 

彼女なら、上り詰めれる。

 

故に…

 

 

 

 

「!」

 

 

 

夜に落ちたはずの太陽が上がる。

 

錯覚だったが、その理由はすぐにわかった。

 

 

 

世界は夜に沈んでも、底抜けに明るい太陽を俺は知っている。

 

後ろのお日様は落ちた。

でもまだ明るい。

 

何故ならそこに太陽神(ヘリオス)がいたから。

 

 

 

 

つづく

 






太陽は沈んでも必ず昇る。
それは二度だけでは無い。
三度も日を登らせたから。

てな感じのポエム(?)を添えてダイタクヘリオス編を終了します。

てかダイタクヘリオス編のつもりはないけどしばらくスポットを当てたような進行でした。
正直に言えば流れは無茶した。 あと変に拗らせてしまった。 らしくないことしたのでは?とビクビクしてます。 でもこれで実装されるんじゃないかなと、淡い希望を抱いてます。
ほら、確か10日後にマイルCSあるし。
てかトーセンジョーダン来たんだからそのままギャル仲間を実装してサイゲさん(促し)

あと文章読みにくい案件は…
楽しすぎて調子乗りました!!
ガンダム乗りこなしたあの感覚です!
ほんますんません。
お詫びにタマモ貯金を貯める権利を与えます。
(今も貯めてる人いる??)


朗報ッ!! 大変嬉しい報告だ!!
なんと初のファンアートを頂いた!
感謝ッ! この場で喜びを表す!!
6年間書いて来て本当に良かった!
刮目ッ!! 是非見てくれたまえ!!


【挿絵表示】

絵師さん『 んこにゃ 』様から頂きました!
マフティー性の高いイラストです。
ありがとうございます。
本当に嬉し送り物でした!

小説の"目次"では『タイトル付き』の一枚も載せてるのでそちらも是非ご覧ください!!よろしくお願いします!!

ではまた!!

トーセンジョーダンは引けましたか?(震え声)

  • 単発で引けた。
  • 10連で引けた。
  • 20連以上で引けた。
  • 100連以上で引けた…
  • 爆死ッン!バクシーン!
  • 親の顔よりも見た天井
  • 今回は見送り(逃げ直線のコツ)
  • キタサンブラック(コーナー巧者のコツ)

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