やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:てっちゃーんッ
究極のごっこ遊び。
ぶっちゃけると俺とミスターシービーが異常だったからこそ編み出せた練習法であり、説明して欲しいと言われても他のトレーナーが宇宙ネコするレベルなので、説明したところで理解できるトレーナーはいない……と思っていたが、実は説明して納得出来る部分が存在する。
同じデータ主義で刻まれた数字を優先とする東条トレーナーも一度は宇宙ネコしていたが理解はしてくれた。
さて。
ウマ娘にはそれぞれ必殺技的なモノが備わっている。
俗に言う【固有スキル】 って奴だ。
ロマン溢れるだろ?
で、ここから何が説明出来るかと言うと、コレも一部のトレーナーにしか通じない話なのだがウマ娘に備わった固有の力がレース中に解放された時、そのウマ娘の個性に比例して解き放たれるチカラが眼に見えるらしい。
それは備わったウマソウルの濃さによって眼に見えやすく、必殺技として解き放たれやすいのだが、あまりにもオカルト過ぎることで否定派が多い。
しかし何十年とウマ娘を見て指導して来た超ベテランと言えるほどの
まあそれでも指で数える程度だが、それだけウマ娘を見てくると分かるらしい。
今も中央に在席する玄人トレーナーの一人が「ワシの教え子に一人だけ見せてくれたウマ娘がいたが、基本は見えないモノだとして受け止められるため信憑性が低いのは当然だ」と言っていた。やはりオカルト性が高い故に存在しないモノとして受け止められるんだろう。
だがその玄人トレーナーは現役時代の嫁さん*1 が海外の化け物クラスのウマ娘とバチバチにやり合った頃に必殺技を持ってたらしく、電影弾して最後方からぶち抜いて凱旋門賞ウマ娘になったらしい。なにそれ凄く見たい。
一応当時の映像はあるらしいが画質の古さとか関係なく画面越しでは
だから論文に出されたところでオカルトだと切り捨てられてしまう。
まあその玄人トレーナーは特に気にして無いみたいで、電影弾したそのウマ娘の必殺技は今より未熟だった二人だけの若しき頃のアオハルとして胸に秘めているらしい。カッコ良すぎる。
ちなみにウマ娘を研究しているアグネスタキオンは肯定派だ。
「元々ウマ娘は謎が多い生き物だからねぇ。そもそもウマソウル以前に人間とは変わらない肉体から放たれる筋力だって説明がつかないのだよ。その摩訶不思議から引き出される必殺技とやらも今のところ証明には至らないが、絶対にありえないと断言できた証明も生まれてない。 現に必殺技の有無についての話が出ている時点でゼロでは無いのだからね、カボチャのトレーナーくん」
ウマ娘の練習を遠目から眺めながめる横顔はまだ中等部の子供だったが、大人じみた視点は持ち合わせる彼女の言葉は「何故?」を促させてくれる。その不思議を研究するウマ娘は必殺技に肯定的だった。
あとウマソウルの濃さに比例して放たれる必殺技の論文もちゃんと読んでるらしい。正直に言うとアグネスタキオンとは話してて面白かった。まず俺がこの世界がアプリゲームだと知っている憑依者として摩訶不思議を体現してるからだ。だからあり得ないと切り捨てない。まあそれ故にタキオンから興味を持たれてしまったのは失敗したが。あとモルモットにはならないぞ。
ちなみにマンハッタンカフェも肯定的で必殺技の存在は認めている。アグネスタキオンと同意見なのは嫌なカフェだったがウマソウルの濃さによって、その名前に相応しかった光景が必殺技として映し出されている。でもその必殺技は本人の努力とソウルの個体差。
つまりウマソウル、ガチャ。
「事前登録勢で終わった俺はなぁ…」
「?」
現れるウマ娘は史実を元に創り出されていることを。だが馬に関しては全く知識も無いし、12月に有マ記念があるって情報くらいしか分からない。もし競馬に詳しく、馬の事に詳しかったらどれだけのアドバンテージになったのか。
だからミスターシービーって馬が史実ではどれだけ凄いのかもわからない。しかしこうして三冠バになったくらいだらそれ相応に史実は強かったのか?それとも今あるこの功績は史実よりも下回る実績なのか?それともマフティーとして運良く史実以上を勝ち取ったのか?元の情報も知らないから測れない。
けど…ここにいる彼女は、違う。
ミスターシービーだけど、そのミスターシービーではない。
ウマ娘として走るのが好きな女の子だ。
「ミスターシービー、今回は大外枠で大阪杯を走ってもらう。理由としては今年の大阪杯はハイペースだったから今回の調整材料として利用価値が高い。今のスタミナ量に合わせてロングスパートのタイミングを早めた上でコーナーを修正する、いいね?」
「うん、ジャパンカップではパワーがあるウマ娘が海外から来るもんね。しっかりコーナリングを仕上げれば隙は無しかな?」
「…伸ばせるところはまだ伸ばす。君はまだまだコレからだ」
「!!……あははは、言うねー!ならもっとだよね」
俺はロープを取り出して、それを握る。
ミスターシービーもロープを受け取って握りしめて目を閉ざすと………立っている場所を中心に一瞬だけ世界が歪み、宇宙空間に投げ出された感覚と共に世界が動いた。
流れ星達が俺たちを中心に円弧を描くとその星々からウマ娘が降りてくる。
目を開く。
ミスターシービーの世界は今大阪杯の時と同じ臨場感が、マフティー性に触れた俺たちにしか見えないものとして映し出された。
「ッ〜! よーしっ!!」
ミスターシービーは心底楽しそうに笑みを浮かべる。
「…」
出会った時から……見ていた。
ターフに楽しさを描き続けたくて走るそのウマ娘の笑みはあの頃から変わらない。スカウト受ける前からいつだってごっこ遊びの様にターフを走っていた子供の様だった。
当時、彼女の憧れは皐月賞。もう果たされた夢だが母トウショウボーイと同じ栄光を求め、ミスターシービーはそこに夢見続けた。
でも彼女は「まず自分が楽しまないと走れない」と独りよがる。
それが産まれつき備わっていたミスターシービーと言うウマ娘の原動力、またはウマ娘として走るための
しかし、己が生まれつき抱えて来た、ターフに楽しみを描きたいその
彼女は、ミスターシービーらしさを求める。
それは己にも、他者にも、ターフに楽しみを描く要求に応えてくれるワガママな自分。しかしそれがミスターシービーだからと独りよがりを止めずに、許される限りターフに楽しみを見出して、走って、走って、皐月賞の様なレースをごっこ遊びにして走って、雨が降りそうな夕焼けの中で俺に出会った。
ミスターシービーはそんなウマ娘。
三女神から授かったこの
VRゲームの様に作り上げたターフの中に自己投影できる彼女の特技が、この
俺や彼女にとって、とても便利な
ハサウェイの様に、なんとでもなるはずの
言葉は便利な 形 となり。
形は三女神の 証明 となり。
証明は使命感としての 狂気 になり。
狂気はニュータイプとしての 力 になり。
その力はウマ娘のための マフティー となる。
これは、見えないモノ。
故にオカルトパワーとなんら変わりない。
果たされた先でも、果たされようとする過程でも、三女神の呪いが俺達をそうさせた。
今は便利に使われる力だ。
反則技に近い、賜物だ。
だがマフティーたらしめるために俺に躊躇いはない。これはマフティーたる俺の力だから。
「!」
何もない学園のターフ。綺麗に手入れされた芝と柵しか無い場所だが、マフティー性に触れたミスターシービーと俺にとっては公式レースで扱う様なゲートが見える。そこに収まった大外枠のミスターシービーと、周りにウマ娘が身構えている姿も見える。
ただし表情は暗がりで見えない。
それもそうだ。
その走りだけが究極のごっこ遊びとして現れているから表情も感情も分からないから。
けど大事なのは、走るウマ娘がいる事。
大阪杯と同じ空気感が広がり、その緊張感の中で見えないゲートが開いた。
大外枠のミスターシービーは走る。
最後方に位置付き、そしてタイミングを測る。
早めのロングスパート、G1レベルのウマ娘に迫り…そしてゴールする。
「はぁ…! はぁ…! はぁっ…! あ、はは! はぁ…! あはは…! えへ、へへ! はぁ…!」
同じ臨場感の中で彼女は手を抜かない。
いつだって公式戦の様に注ぐ。
だから息が荒れる。
普通の練習以上の緊張感を駆け抜け切った、荒れる息を整えながら、彼女は笑う。
感情の激しさが___伝わる。
__楽しかったから。
__ミスターシービーたる私は楽しかったから。
_もう一度走りたい。
__もっと! もっと! 走りたい!
__まだまだ楽しいはずだ!
__え?ジャパンカップが近い?
__なのにこんな激しい調整で大丈夫だって?
__はは! 何を言うか!!
__そんなの関係ないよ!!
__私がマフティーに求めて応えられているんだ。
__私がマフティーと走っているんだ。
__私の独りよがりに世間の声など意味が無い。
__これは私のごっこ遊びなんだ。
__余所者が邪魔するな。
__ミスターシービーを邪魔するな。
__心配なんて必要無い。
__このアタシに心配は不要。
__なぜなら問題無いから。
__それは…
__だって…
___だって…!
___だって…!!
____だっって…!!!!
「お前、意識共有の中で聞こえとるからな?」
「あっははは! 人バ一体だからね!」
「純粋に感受率が高いだけなんだよなぁ…」
「つーまーり? アタシとマフTの相性が頗る良いって事だよね!」
「誤解招くな。
「ふーん…?? そんなこと言うんだ…?なら……」
「!??」
「すぅぅぅぅぅ…」
「アアアアアアアアアアアアアアアア!!
いきなりクソデカ感情を打ち込むなぁ!!情報量が多くて神経がぁぁ!んぎゃァァァ!!」
「あっはははは!あはははははは!!!うぇ!か、かぁ、カボチャ頭が回って…る!! ぎあっあっはは!なんか知らんけどミノフスキークラフトも勝手に作動して!!あっははは!無理ぃ!!あっははは!腹痛くて立ってられぇない!あっはっはっはっは!面白すぎるてアッハハんんぐぅっ!?
げほぉ!ぐっ、おぇえっ…!
げっほ!げっほ!ッッ、げっほぉぇぇ!!!」
きたない(確信)
「また、先輩とあのバカボチャやってるよ」
「うぅぅぅ…! マー、フー、ティー!」
「シービーさん、子供の様ですね……」
「あの、何が起きて…??」
慣れた3人からは「ああ、またか」と感じに何も知らないアドマイヤベガは混乱している。
そして…
「 or2 」チーン…
「 orz 」げっほ…
二人揃ってうつ伏せターフに倒れる。
これはひどい。
「ぜぇ…ぜぇ…」
ミスターシービーはレース後に笑いすぎて詰まった呼吸を整えて、俺は突然入り込んだ
いつだったかマフティーダンスでミスターシービーを笑わせて過呼吸に追い込み、俺はカボチャ頭のミノフスキークラフトに髪の毛を引っ掛けてしまい、そのまま同じ床に撃沈した時を思い出す。
自分にも反省を促す好プレーを思い出しつつ立ち上がり、マフティースイッチをオフにして意識を切り替えて究極のごっこ遊びを終える。大阪杯の再臨で幻影として走ったウマ娘も視界から消え去れば、ピクピクしているミスターシービーと、何も飾られていない学園のターフに戻る。
「レース結果が、ええと、一着で、2番手の右側を、ええと…」
タブレットを取り出してデータを刻む。ミスターシービーのイタズラが原因で頭に残った記憶がごちゃごちゃしているが、マフティー性でカバーしつつ入力を終える。
立てていたカメラスタンドの録画も止めてから俺は肩下げバックから冷却スプレーを取り出してからミスターシービーの耳の付け根を狙って吹きかける。すると悲鳴を上げながら数メートル先まで転がって行き、そして尻尾をピーンとさせたまま猫のようにシャー!と威嚇する。
猫味ある顔だから余計に猫だよなコレ。
「おいウマ猫娘、この後どうする?」
「フー!! 散歩に行ってくるニャァー!」
「はい、行ってらっしゃい」
「シャー!」
高等部になっても子供っぽさの抜けないそんな彼女を見送る。
そして脇腹に強烈な一撃が入った。
「まー、ふー、てぃー! ウチだってマルちゃんエントリーするんだからウチにも構わんとイヤイヤー!」
「ぐぇっ…いでぇぇ…よぉ…」
ウマ娘パワーで突進して来たダイタクヘリオスが練習を促してきた。
ゴールドシチーも呆れた様にジト目の視線を突き刺し、アドマイヤベガもウマたらしだったことを思い出しながら元々のジト目にジト目を重ねて突き刺し、マンハッタンカフェはイマフレと会話をして俺を助ける気はない。そんな俺たちの練習風景。
担当が増えてからこんな感じだ。
練習はちゃんとしてる。
でもウマ娘パワー相手に体が持つかは、別だ。
でもそこに苦しさは無い。
呪いに苦しんでたあの頃よりも、俺はトレーナーを出来ているはずだから、頑張れるんだ。
そうだろ?
マフティー。
♢
「ねえ、マフT」
「なんだシービー?」
「マッサージにその水素水いる?」
「普通いらない。 まあ喉乾いた時に飲んだりとか、あとローションが硬い時に混ぜて柔らかくする時に便利かなと」
「贅沢だねぇ……ぐぇぇ、そこ効くぅ…」
「今回は大外枠から走ったし、内側へ切り込んだ脚首に負担が掛かるからな。 絶対疲れなんて残させないから」
「ぁぁ、そこぉぉ…うへぇへぇ…だぁめぇぇ、まぁふぅでぃにぃだぁめぇにぃさぁれぇるぅぅぅ…」
「蕩けすぎだろ」
全身の力が抜けてるならやりやすい。
あと彼女がアスリート選手だからこそピンポイントで前世の技術が活かせるのは大変ありがたい限りだ。疲れの溜まりやすいポイントを重点的にほぐしながら、活力の沸くツボを押しつつ施術を続けていく。
特に足腰。若いうちは湯船に浸かって、しっかり寝れば回復するけどアスリート選手は別だ。若いうちでもちゃんとケアはしないとならない。怪我につながる。特にウマ娘は疲れを残した状態での練習は危険であり、事故率が高い。
一応この学園にはマッサージ師がいる。あと将来的にマッサージ師を目指すウマ娘の生徒もその手のプロから手解きされながら、同じ生徒に施術を行ったりと技術を教わっている。
しかしトレーナー自身もそこら辺の技術は必要だと思ってる俺だが、その技術を習得するかは別だ。
なんというか…ウマ娘は女性だけしかいない。
さて、あとは何が言いたい大体かわかるだろう。
男性トレーナーの場合異性に対するリスクが潜んでるこの職業。そのため男性トレーナーがその手の技術を学ぶケースは少なく、仮に学んだとしても発揮する機会は無いに等しいと考える。あと必須科目として課せる養成施設は少なく、任意での習得になる。点数は増えるが基本女性トレーナーくらいしか学ばないと考えた方がよい。なのでマッサージが出来るトレーナーってのは結構貴重だ。ちなみに前任者は習得してない。学んだ記憶がない。管理能力は高いのに。
「ぅにゃぁぁ……」
「ここは痛いか?」
「んー、あまりぃ…」
「…こっちは?」
「…!」
「ん、わかった」
少し尻尾が動いたミスターシービーの反応を見て触り方のアプローチを変える。
なに、すぐ良くなる。
名前はそのままだが"スポーツマッサージ"は普通のマッサージとは違う。
怪我予防、怪我療治の効果が高く、パフォーマンス向上も見込める。
俺にとっては過去の賜物だけど、男女問わず色んなアスリート選手の施術は行って来たつもりだから、大事な担当ウマ娘の施術くらいはこなしてみせる。
しかし…
「ぁぁ、そこ良い……ぁ、良くなった…かも」
「…」
ミスターシービーの回復力が高い?……と、思っていた時期が俺にもあった。
もちろん彼女の回復力は高い。
俺がまだ呪い苦しんでた頃、この掌でウマ娘に触れることが怖くてマッサージなんて出来る筈もなかった。だからミスターシービーもトレセン学園のマッサージ師に任せていた疲労回復を行なっていた。もちろん集まっている者達はプロの技だから疲れを取る見込みは高い。まあそれでも完璧とは言えないため、体の疲れを取るには本人の努力も関わる。しっかり寝て、しっかり食べる。
だがミスターシービー曰く、俺がマッサージした方が一番疲れが取れると言っていた。
これはお世辞とかでは無く、本当に俺の方が誰よりも効果的と言っていた。
なんならゴールドシチーもそう。
施術後の調子が全く違うと言っていた。
あ、ダイタクヘリオスはわからないらしい。
「……ここ、痛いか?」
「んー、少し……響くかも…」
「そう…か」
医療系の国家資格を勉強して資格保有者になった。
プロかどうかともかく恥ずかしくないレベルの施術はできてるつもり。
だから中央トレセン学園に所属するマッサージ師もプロとして変わらない筈だ。
むしろ俺より上手いかもしれない。
もう一度言う。
ここは中央だ。
エリート達の、体を預かる立場にいる。
適当なマッサージ店とは違う。
だから下手な筈がない。
アルバイトを雇わない限りは。
「…」
この世界は今の俺にとって現実だ。
でも、元がアプリゲームだ。
ウマ娘と言う謎は多い。
それはウマソウルも、必殺技も、人参が好物なのも、人間以上の筋力も、設定も何もかもだ。
けどそれは、この世界の人間にも言えること。
この世界の人間は、俺の前世と同じなのか?
同じだと思う。
変わらないと思う。
価値観とかは、まあゲーム特有の設定があるから俺の知ってる倫理観とか色々食い違いがあるかもしれないけど、そこまで気にしすぎないで良い部分と比較すれば現世と前世に大差ないと思っている。
だが…異常な事がある。
俺はダイタクヘリオスに良く横腹に突進されて痛めることが多い。手加減はしていると思うけどウマ娘のパワーは尋常じゃない。故に手加減してるけど「メラゾーマでは無い、メラだ」がリアルに起きてる可能性は高い。
この世界の人間……の、肉体。
何かと丈夫過ぎるのだ。
これは、もしかしたら…
「(ウマ娘の血が流れてるからか…?)」
いや、わからない。
それは断言できない。
でもこの世界の基準値を考えると俺が生きていた前世よりも肉体面での強固さが違っている気がする。 俺はそこまで筋肉質じゃないし、前任者がゼリーばかり食べて痩せ細っていたような体付きだった。あの頃よりはかなり時間は経って健康体だが、少食を続けるこの肉体はお世辞にも鍛えた体とは言い難い状態だ。
けど体の真正面よりも、弱い横腹からダイタクヘリオスの突進を受けて骨の一本や肉離れなど起こしてないこの世界の体は前世よりも強い。不思議なんだけどそれがゲームの世界基準だからと納得するしかない。それこそオカルトパワーを『正』と認めない人々の感覚と同じである。俺からしたらこの肉体が
__じゃあ、つまりだ。
この話をした上で俺が何が言いたいのか?
丈夫な体にも筋肉量や骨の強度はもちろん、神経や血液、またそれを動かす脳みそ。
体の凡ゆる部分が弱そうなこの肉体でも認識以上の力を秘めている。
それはこの世界に生まれ育った人間の
この世に降り立ったのは俺は【魂】だけ。
【肉体】は前任者の続きである。
なら、この世界の人間の体は前世よりも変わっている。
そしてウマ娘の肉体も未だ研究が続くレベルで変わっている。
__結論を言う。
俺のマッサージは前世の人間に施して来た技術である。 言わばパラレルから持ち込んだ技だ。
そして前世とは体の作りが違う、この現世の生き物達。 この世界のウマ娘や人間たち。
そこから叩き出される回答。
それは…
「んんー!ふぁぁ…寝てたぁー!」
「おはよう。 体はどうだ?」
「うん! めっちゃ動ける!疲れて無い!」
「そうか」
前世から持ち込んだこの技術は、ウマ娘に肉体に対して大いに影響を与えてる事だ。
そうじゃ無ければ説明がつかない。
「じゃあ今日はここまでだ」
「うん!ありがとう、マフT!」
この世界の基準で習得されたマッサージ技術はこの
だがこの世界でない前世のマッサージ技術はこの世界に於いて施術が異なる故に、この世界の生き物の肉体にそれ以上の効果をもたらしてしまった。
その結果がほんの2時間程度の施術で
「………」
ウマ娘は不思議な生き物。
アグネスタキオンは言っていた。
筋肉の作りも、体の中にある細胞も、骨の強さも、時速70キロだって出すことが出来る説明付かない肉体も、全てが謎であることを。
俺はここがゲームの世界だと知る。
しかしここは現実。
前世が介入する余地なんか無い。
この世界が作り上げたルールとして、この世界が育んだ基礎が、全てだ。
それが解明されない話が多くても、それはこの世界にとって現実であり、この世界から始まる研究対象であり、この世界で続くだろう疑問であり、この世界の絶対とする正しさから。
だから、俺は戸惑いながらもそれが普通なんだと順応していく。それは何度だってこの世界で繰り返してきたのだから。
「……?」
片付けていると携帯から音が鳴る。
確認する。
ダイレクトメッセージだ。
《マンハッタン》
お疲れ様です。突然すみません。
あなたに見せたいモノがあります。
学園のターフにいます。
もし忙しければ明日でも構いません。
俺は『10分後に向かう』とメッセージを刻んで手早く片付ける。
結局今日も使わなかった水素水を飲み干してからカボチャ頭を被って、トレーナールームを出る。
少し急ぐ程度に足を早める。
そしてターフまで到着するとジャージ姿のマンハッタンカフェが星空を見て待っていた。
「カフェ?どうした?……練習してたの、か?」
「あ、マフT、突然で、すみません」
「いや、構わないが…どうしたんだ??」
「はい、あのですね…自主練してまして…」
マンハッタンカフェは下を向いて、足を差し出すように少し前に出した。
「もしかして、爪割れた??」
「いえ……違います。 逆です。 何も割れてません。 逆なんです」
「?」
「私は前に深く爪を割ってしまった走り方をしたことあります。 そして、先程誤ってその走りをやったのですが……割れずに、済んだようです…」
「…え?」
「爪…どうやら、昔よりも…強くなっているかも知れません」
「!」
顔をあげる。表情の変化がミスターシービーやダイタクヘリオスほど激しく無いウマ娘だが、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「ふふっ…マフTが、毎日10分ほど足のマッサージと、定期的な物理治療があったから、それが結果を出してくれた、みたいです……」
「!!」
マンハッタンカフェは爪が弱過ぎるウマ娘だ。
走り方を間違えると簡単に割れてしまう。
彼女の爪はそのくらい脆く、悪化しないように長い長い治療を続け、足先に負担のかからない走り方も強制され、現役で走るためには根気を必要とする処置と付き合い続けなければならない。
マンハッタンカフェはそのくらいのハンデを持ち合わせていた。 だから少しでも回復するために足のツボを押したり、血流を良くしてあげたりと爪が少しでも、ほんの少しでも良くなるように、強くなるように、毎日と言って良いほど彼女の足をマッサージしていた。
「それで、少しだけ、見てほしい…走りがあります」
「見てほしい走り?」
「はい、マフTなら、すぐにわかるかと…」
「分かる?」
そう言ってマンハッタンカフェは走り出す。
爪先に負担のかからない走り方。
ローペースに走り、少しずつ調子を上げる追い込みに近い差しの脚質。マンハッタンカフェは長い距離で競わせる方がもしかしたら結果を出しやすく、爪の脆さと付き合いやすいかも知れない。そのかわり常に爆速を必要とする短距離な走りはタブーだ。彼女には危ない。
だからマンハッタンカフェにはローペースで走り続けてもらい、スタミナを付ける練習ばかり行っている。たまにミスターシービーと並走してレースの感覚を鍛えたり、調子の悪い日は見学している。あとはイマジナリーフレンドが見えるマンハッタンカフェだから、ミスターシービーの
そんな感じに爪の脆さを意識したうえで、治療を進めながら彼女なりに基礎作りを3年を予定して作り上げていたのだが…
「!!?」
マンハッタンカフェを見る。
第3コーナーに入るタイミングでスパートを掛けた。
「なっ!? カ、カフェ……!?」
まだデビューもしていない彼女にとって、ロングスパートは厳しすぎる。
そのためのスタミナは彼女にあるかもしれないが、ペース配分と脚の負担を測りながら最後までそのスタミナを無駄なく全てを使い切らなければならない。身体能力だけで演じれない走り。
無駄のないロングスパート。
それは天才だから出来る技術。
__天才。
俺にとっての天才はミスターシービーを連想する。
彼女はレースのセンスが高く、追い込みバとして全てが詰まっている最高のウマ娘だ。
無敗の三冠バが証拠だろう。
だから、ミスターシービーを天才と俺は言う。
なら、今、マンハッタンカフェが見せてくれるあの走りはどうだ?
センス=天才が直結するとは限らない。
感覚の良さも大事。
どれだけ自分を把握してるのかが重要だから。
でも、けど、あれは…
「ミスターシービー????」
思わず、カボチャ頭を外す。
良く見える。
見えてしまうから、分かってしまう。
ああ、間違いない。
俺が言うのだから間違い無い。
あの走りは……
「はぁ…はぁ……マフT、はぁ…」
「……カフェ、お前…いつのまに」
言葉が出ない。
驚いているから。
カボチャ頭を被ればマフティーとしての言葉は出せるだろうが、俺は彼女を見る。
「わかり…ました…か?」
「……ああ。 分かったよ。 理解できた」
なんとか冷静なフリをするが理解が少し追いつかない。
だが目の前にいるウマ娘は演じた。
俺がよく見て来た走りを。
「そう…ですか。 爪も、大丈夫です。 でも、無茶はダメですから、今のは、今回だけにします。 けど、証明になったのなら、私も、あなたに誇れるウマ娘に……だから…」
息を整えた彼女は顔を上げて俺を見る。
マフTを、マフティーを見て…
「走れます。 マフティーのウマ娘として」
「!」
ターフに秋風が舞い込む。
俺と彼女以外いないにこの場所に摩天楼が揺れ動いたから…
「カフェ」
「はい」
すこしだけ聞き取りつらい、彼女は特有の静かな声だが、この場に二人だけしかいないターフだから余計なモノが割り込まない。
「今の走り、今の爪の状態と合わせて調整して、もし先程の走りが君の強さに直結するのなら、その
「はい」
「カフェは賢いからこれは先に言っておきたい。 その上で自主練でも、イメージトレーニングでも、意識してその影に投影し続けてほしい。 出来る?」
「はい、大丈夫です。 何故なら……私はあなたの担当の……2番目ですから…」
そう言って彼女は笑みんだ。
俺は彼女の頭を撫でる。
黒髪美人なその肌触りからほんのりとコーヒーの香りが広がった。
されるがまま受け入れて、ほんのりと頬を染めて彼女は目を細めて委ねる。
数秒ほど撫でたその手を下ろしてから、カボチャ頭を被り…
彼女に言い放った。
「明日から追い込みとしての練習法を考える。 だから君が…」
__
彼女だからこそ出来る脚質がある。
その摩天楼は恐らく、ミスターシービーの頂きに届くのかもしれない。
そのビジョンは、この先で起こり得るか?
それとも
それは俺の手腕と、彼女の走り次第。
でもこの世にウマ娘の想いが"継承"される概念があるなら、マンハッタンカフェは「もしかしたら」に期待させてくれるかもしれない。
つづく
彼女の代表とするスキル"登山家"は『坂路』に強い効果を持ち、同じイニシャルの『M』を背負う漆黒の摩天楼のウマ娘。 マフティーのウマ娘としてミスターシービーの2番目に続いた彼女の名は次世代ステイヤーとしてターフを描き、その姿を幼き一等星もまた同じように眺めている。何故なら追い込みバは常にウマ娘の後ろから追いかけ続ける役割を持つから、そうなるのは必然だった…
みたいな妄想と共にカフェ強化です。
一年以上の期間をミスターシービーと並走したり、感受率の高い中で見学としたりと、常にミスターシービーを見ていたお陰で追い込みの適性を上げながら、デビュー前から爪を治療したり補強したりしてたのでデビュー後は爪に悩まされず走りは安定するでしょう。
またミスターシービーが後続のため土台を作りながらマフTの呪いを救ったので、マフTもトレーナーとして安定した働きが出来るので、このマンハッタンカフェはアプリ版以上に最高のスタートを切って走れる状態です。
正直に言えば。
作者もこのマンハッタンカフェがこの先どうなるのかわからない。
ちなみにマッサージ技術に対する前世と現世の件、あと人間の体が丈夫や解釈はタグの通り『独自設定』からです。
まあウマ娘に蹴られて生きてたり、王子様に夢抱くプリンセスなウマ娘と3年間付き合ってきたトレーナーがいるくらいだし、へーきへーき。
ではまた
新衣装クリスマスガチャのお目当ては?
-
オグリキャップ
-
ビワハヤヒデ
-
マヤノトップガン
-
ナリタタイシン
-
全部(独占欲のコツ)
-
とりあえず爆死ッンですね!
-
今回は見送る(様子見のコツ)