やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

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第38話

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「またこの子は唐突に…それで何の勝負をするんだナカヤマフェスタ?」

 

「そうだな………腕相撲とか、どうだ?」

 

「おい、お前、オイ、おまえ」

 

「二度も繰り返すなよ、マフT」

 

 

 

腕相撲だと??

 

人間がウマ娘に勝てるわけ無いだろ!!

良い加減にしろ!!

 

 

「さて?この勝負にどうしてくれる?」

 

「賭けとか関係無しに俺を試してるのか?とんでもなく生意気な奴だな」

 

 

そう言いながらも俺はテーブルにタオルを置いて肘を付けば、同じようにニヤニヤとしながらタオルの上に肘をついたナカヤマフェスタの手が差し出される。

 

俺をそれを掴み取り……んん?

 

 

「手、スベスベで柔らかいな」

 

「……うるせぇよ…」

 

「こんなフニフニのお手てで賭け事やってるのか」

 

「だから、うるせぇ」

 

「こうして触れてみると女の子だな」

 

「…………」

 

「どうした?耳に動揺が見えるぞフェスタ。もしかしてお口に飴玉ないから落ち着かないのか?」

 

 

調子を崩すつもりはあったが握りしめた彼女の手は女性特有の柔らかさがある。あまりやり過ぎるとセクハラで訴えられるだろうが、勝負を仕掛けた側であるナカヤマフェスタはそんなことしないと考える。まあこの辺りにして仕掛けるとしよう。

 

だがその前に俺は平謝りしながら飴玉を取り出して彼女の口元に差し出す。

 

 

「ほれ、飴玉だ」

 

「んぁ…」

 

 

 

なんとも無防備なお口だろうか。

 

オイオイなんだこの子?

 

澄まし顔してるくせに素直にお口開けて飴玉もらうとか可愛すぎだろ。

 

 

 

「因みに" サルミアッキ*1 "って知ってるか?」

 

「んぐっッゥふ!!??」

 

「はい、よーい、スタート」

 

「げっほッッ!!おまっ!?お、おぇぇ…!!」

 

 

すかさず肘を倒す!!!

 

 

ガンっ!

 

 

勝ちを得た瞬間にボタンを押して終了!!

 

タイムは2秒でした。

 

それでは完走した感想ですが。

 

これはフェスタのガバに助けられましたね。

 

もし飴玉を間違えたら再送案件でした。

 

しかし絡め手を使っての撹乱は効果的で大。

 

あと予定より動揺した事に救われたでしょう。

 

もし追走する方がいらっしゃいましたら、一つだけ気をつけて欲しいことがあります。

 

それは…

 

 

ヒ ト は ウ マ 娘 に 勝 て な い。

 

 

これを忘れないようにしてください。

 

絶対とは言いませんがウマ娘に勝てるのはとても稀なケースです。

 

もし走る場合はチャートにちゃーんと書くようにして、コレを怠らない程度に、程よくガバを起こすようにしましょう。

 

以上で終了と致します。

 

おわりッ!!

閉廷!!

以上!!

 

 

 

 

「ま、まさかウマ娘相手に力技でいなされるとは……おぇ、やはりまずいな、コレ…」

 

 

 

口元を押さえながら絶不調になるナカヤマフェスタの姿だが、少しやりすぎたか?

 

 

「まー、ふー、てぃー!ウチも構ってぇぇー!」

 

「ぐへぁ!!」

 

 

そして痺れを切らしたバイブスアゲアゲのパリピに突進される。

 

突進を食らった俺は横に吹き飛び、頭からカボチャ頭がすっぽ抜けてトレーナー室の中で宙を舞った。

 

俺はまたか…と、悟りながらそのまま地面に倒れるとダイタクヘリオスは「んふッー!」と尻尾をブンブンしながら顔を擦り付けるように抱きしめる。

 

 

てか、痛い!!

 

ちょ、マジで痛い!!

 

ウマ娘パワーやめろ!

 

さっき凌いだばかりなのに!

これではマトじゃないか…!!

 

 

 

「あの…マフT、コーヒーが煎りました」

 

「いててて!あ、ありがとうっカフェ!そ、そこに置いといてくれ!! ああ、なんならフェスタに渡してくれないか?サルミアッキでお口がフェスタしてるから」

 

「わかりました」

 

「おえっ、うぇ……くっ……」

 

「あははは!超フェスタってんじゃん!」

 

「ねー、マフT、そろそろ耳かきしてよ」

 

「マフT、この後の練習についてなんだけど…」

 

「そうそうバカボチャ、前の日本ダービーなんだけどさ」

 

 

 

担当が多いと言うのはそれだけ要望に応えなければならない。

 

それだけのキャパシティがなければ出来ないことである。

 

俺の場合担当ウマ娘が6名だから…まあそういうことだ。

 

皆お利口さんだからそこまで困らないが肉体が持つかは別である。主にパリピが原因だが。

 

 

ちなみに俺は担当を多く請けている方だ。

 

 

これは例えだが、この学園にトレーナーが100いたとしてウマ娘は1000近くが在する。

 

もし1000人にいるウマ娘全員がアスリートを希望をしていたらトレーナーは5人ほど担当を請け負わなければ中央は回らない。この学園からしたら一人当たりのノルマそのくらいだろう。

 

かと言って新人トレーナーに「5人ほどお願いします!」と言うわけにもいかない。

 

それでトラブル起きる方が一番危うい話。

 

そして中央の現状として人手不足は否めない。

 

だが中央で働いていたトレーナー達が地方からマフティーと言う旗印に中央へと戻っているため人手不足は少なからず解消されつつある。

 

さらに地方にいた頃のトレーナー達が地方で優秀だと判断したトレーナーを引き抜いて中央に集めているため、少しずつだがその数は増していく。中央の理事長である秋川やよいの評判も良い形で届いてるため、今年は新人トレーナーの数も多い。それに比例してウマ娘の数も増えていくが人手不足の四文字は将来何とかなるだろう。

 

それこそ「なんとでもなるはずだ!」が今の秋川やよいであり、秘書の駿川たづなは終始暴走気味なやよいに手を焼いているが暗黒時代より充実してるためそこまで不満はないらしい。

 

 

 

「ヘリオス、そろそろ離れてくれ。充分に構ってやっただろ」

 

「えー」

 

「そろそろ離れろパリピ」

 

「ぐぇ!」

 

 

シービーがヘリオスを持ち上げてソファーに投げ飛ばしたあと倒れていた俺の手を取って引っ張り上げてくれる。

 

俺はシービーにお礼を言いながら立ち上がりカフェからコーヒーを貰ってシチーを手招きするとノートパソコンを起動する。

 

前回のレース結果と今後のスケジュール表を見せながらシチーのモデル業のスケジュールと照らし合わせる。

 

 

「日本ダービーは惜しくも二着。だけど走り自体は完璧だった。もしこれが内枠だったら結果は更にわからなかったけど、こればかりは仕方ない。でも世間はアスリートの君に夢中だ。よく頑張ったと思う」

 

「うん、そうだと思う。SNSでも大きく反響があった。アタシが求めていたモノだよ。だからマフTに感謝してる」

 

「そう言ってくれると報われる。そして今度は秋の天皇賞を予定してる。枠が空いたら出走したい」

 

「そだね。可能なら今年もう一回くらいはG1に出たいよね。もっと世間に走れるゴールドシチーを魅せたいから」

 

 

首差の二着とは言え日本ダービーの時点でゴールドシチーの証明は充分すぎると思うが、天皇賞まで目指しているなら枠が空き次第エントリーしたいところだ。

 

まあトライアルは無しでゴールドシチーの成績なら秋の天皇賞の出走は認められると思うが今年になって中央は活発になって来ている。

 

今まで東条トレーナーの一強だったが、マフTである俺や、中央がまともに機能したことでウマ娘やトレーナーを含めて、埋もれていた原石達が次々と芽と蕾と花を咲かせている。なんなら地方から戻って来たトレーナーの後押しもあって今の中央は勢いがある。

 

あと秋川やよい理事長のいつもの暴走(マフティー性)が中央を盛り上げているからこそだろう。だがやよいの功績は大きく、輝かしかった頃の中央が帰ってくることを確信している東条トレーナーも「呆けていると抜かされるな」と何処かワクワク気味に微笑んでたのは印象深かった。

 

俺も頑張らないとな。

 

タカキも頑張ってるし。

 

 

 

「それとアドマイヤベガは再来週だったな。覚えてるか?」

 

「ええ…地方のレースでしょ?」

 

「ああ、地方の模擬レースだ。ちゃんと芝でピックしてある。地方は広くない故に距離は800だ。まあ毎日カフェと2000近い距離を走り込んでるから距離的にはあっという間だと思う」

 

「そうね、そうだと思う」

 

「こっちきなよ、ベガっち」

 

 

手招きしたゴールドシチーがアドマイヤベガに場所を譲り、招かれた彼女はピョこっと顔を出してノートパソコンを見る。

 

物憂げな表情は変わらないが模擬レースの話を聞いてその眼は闘志に染まっていた。ゴールドシチーもその眼に気づいたらしく、彼女のそれが気に入ったのか口元を笑ませながら小さな一等星を見守っていると…

 

 

「マフT、私は反対です…」

 

 

カフェが意見する。

 

アドマイヤベガは実力を示す機会だとして何かと乗り気なのだが、面倒見の良いマンハッタンカフェは反対気味である。

 

初等部と中等部による体格差の違いで事故の危険さを考えてるため、カフェはアドマイヤベガの身を案じて参加して欲しくないようだ。

 

 

「カフェの考えてることはごもっとだ。けどアドマイヤベガの走りを見たらそこまで心配は無いと判断した」

 

 

そもそも体格差で勝負する気は無い。

 

彼女は、中団で争うような走りはしないから。

 

 

「それでも地方まで向かってやる意味は?」

 

「早い段階で実戦に慣れていれば今後の練習でもコントロールしやすくなる。何より彼女はこの学園に入学するまでとことん走り込んでいた娘だからな。()()()()()()()修正も兼ねて早い段階で見極めた方が俺も今後指導しやすいからな。手は先に打っとくさ」

 

「そう、ですか…」

 

 

説明したがカフェは心配なご様子。

 

するといつのまにか移動してたアドマイヤベガはマンハッタンカフェの袖をチョンチョンと引っ張り…

 

 

「あ、あの、カフェ先輩。わたしはあの星と確かめてみたい。だから走ってみたいです」

 

「!!」

 

 

そう言うが少しだけ不安そうに触れる尻尾。

 

だが、走りたいその意志は強い。

 

これまでよく面倒を見てもらい、頼れる先輩としてお世話になっているマンハッタンカフェだからこそその気持ちを伝えたアドマイヤベガ。

 

カフェはその言葉に驚き、同じように戸惑いを示すが…

 

 

「カフェ、別に良いんじゃないかな?」

 

「シチー?」

 

「志が強いなら走れる筈だよ。少なくともアタシはそうだったし」

 

「!」

 

「それにアタシが走った日本ダービーで一番釘付けだったのって、この()だったでしょ?そうなると今すぐにでも走りたい気持ちに溢れている…違う?」

 

 

ゴールドシチーは最後にアドマイヤベガを見ると、問いかけられた彼女はとっさに片腕を抱きながら少しだけ困ったように斜め上に視線を逸らして、耳と尻尾は正直に白状していた。

 

ちなみに困り顔がよく似合うステークスだとアドマイヤベガが一枠一番人気だと思う。

 

 

「おいバカボチャ、雑念見えてっからな?」

 

「気性難の尊重に、俺はアグニカ・カイエルが見えただけだ。気にするな」

 

「は?ぶっ飛ばすぞ?……それで話戻すけど、このバカボチャが大丈夫と判断するなら信じてもいいと思うよ。少なからずアタシはこんなカボチャトレーナーでも信頼は置いてるしさ」

 

「この一年で随分と扱いが雑になったよ」

 

「は?意味わかんねーし。マジでうっざ」

 

「よく喋る」

 

「ああもう!本当にうっざいな!!」

 

 

とりあえずゴールドシチーはアドマイヤベガの意思を尊重する側だ。

 

参加するレースは学年が上になってしまうがゴールドシチーは特に心配はしない。

 

挑む姿勢を崩さないアドマイヤベガに好感を持っているようだ。

 

するとマンハッタンカフェもその意思が変わらないアドマイヤベガを見て…折れる。

 

 

「そうですね。たしかに、これは貴方のターフでした。私が止める権利は有りません」

 

「あの…心配してくれることは、とても嬉しいです。でも、やはり、わたし…」

 

「大丈夫です。何度も言わずとも。…わかってます。貴方なら間違いなく勝てるでしょうから」

 

「!」

 

「ミスターシービーさんの走りを受け継いだ私の走りを隣で見ている貴方なら、そう負けません。これは確信してます、ふふっ」

 

 

レース中の怪我を心配してるけど、レース結果の心配はしてないマンハッタンカフェ。

 

慕っている先輩からそのお墨付きを貰ったのかアドマイヤベガの表情も嬉しそうになる。物憂げな表情がデフォルトだからその変化量はわからないだろうが耳が、ピコピコと動いて嬉しそうにしていた。そして期待されてる視線の中が慣れてないのか斜め上に視線を逃すような困り顔に変わる。マンハッタンカフェもそれがなんなのか分かっているため、優しく彼女に微笑んでいた。

 

…いい関係だよな、この二人。

 

 

「アタシの走りか。 あれ、なんか責任重大な感じかな?」

 

「もし負けたらミスターシービーの敗北になるからな」

 

「うわー、清々しいほどに指導者を放棄した責任転嫁だコレー!しかしそうなるとアヤベには勝って貰わないとね。秋はまた一段と盛り上がるからアヤベの走りで皆にバトンを託してもらわないと」

 

「!?」

 

「じゃあ、よろしく頼むね、未来の一等星」

 

「!?、!!?」

 

 

さりげなく高くしたカフェのハードルに対して俺とミスターシービーが悪ノリを起こした結果アドマイヤベガに責任が重くのしかかってしまい、本当に困り顔を起こすアドマイヤベガは周りを見渡して助け舟を求める。

 

だが彼女にクツクツと笑うだけで助け舟を出さないナカヤマフェスタと、今もソファーに沈んでるダイタクヘリオスは役立たず。

 

その上誰よりも信頼を置いているマンハッタンカフェもアドマイヤベガの勝利を疑わない。

 

彼女も心配してたのは怪我だけであるが、その走りが本物なら問題ないと飲み込んだ。

 

ゴールドシチーもにやにやとアドマイヤベガを見守るムーブで助け舟はもう出ない。

 

残されたのは地方でレースに挑む本人のみ。

 

最初はただの挑戦者だったが、今は役目を背負いし期待の勇者だろう。

 

 

さて、慣れない後輩いじりに困り果てた顔をしていたので俺はノートパソコンから離れてアドマイヤベガの頭に手を置いてわしゃとひと撫でする。

 

 

「ぁ!…ちょ!」

 

「一等星なら、なんとでもなる筈だ……ってマフティーは言うよ」

 

「!」

 

「スカウトする時も言った。君は賢いから俺は濁さない。それは今も変わらない。だから君には勝つか、負けるかのどちらかでしか述べてやらない。君のマフティーを託されたマフティーだった俺が言う。アドマイヤベガなら勝てる」

 

 

 

彼女は飛び級生である。

 

それは、中央に挑める強さを持っている。

 

それでも現時点ではまだまだデビューに満たない強化選手であり、デビューするその時まで鍛錬を積んでいる途中だ。

 

しかし土台作りとして彼女は幾度なく走り込んできた。どんな時でも()()()走り込んで来たストイックなウマ娘の初期値は高い。逸材とはこの子のことを指すだろう。東条トレーナーも一等星の彼女に興味を持っていた。

 

あとアドマイヤベガの父が元トレーナーだったところもあり、足が壊れない範囲で保たせながらも放任的に練習を見守っていた。

 

まあ放任主義はトレーナー失格なんだけど父の心情を考えると致し方ないのかもしれない。

 

そんなアドマイヤベガは分かってたのか誰にも頼らず、疲労や痛みでボロボロになりながらも負けじと走りを重ねて来たことで厳しさに耐える精神力は誰よりも高い。

 

それはマンハッタンカフェも同じ。彼女は爪が壊れるまで走ることを繰り返していた。壊れても気づかないまま走ることもあり、イマジナリーフレンドに後頭部を殴られるまで走り続けるようなウマ娘。お陰で俺に会うまでは爪の回復に手間取っていたが、それも懐かしい話。

 

そんな経験があったマンハッタンカフェはアドマイヤベガをどこかしら自分と重ねている。あとは純粋に可愛がれる後輩として受け止めている。アドマイヤベガも先輩のカフェに対して満更でも無く、二人の相性は悪くない。だからこそカフェインレスできない過保(かふぇ)護気味になってしまうカフェの気持ちはわからないでもない。

 

しかしマンハッタンカフェにもわかる。

 

同じで、似たようで、重なるから、その読解力で描きやすい。アドマイヤベガの走りがどれほどなのかを頻繁に並走してきたマンハッタンカフェはその力量を正確に測れる。地方のレースなら早々負けないだろうと。

 

まあ故に期待が大きくなった。

 

でもそれを確信に変えるのが俺の役目。

もしくは『支え』を作るのが俺の約束。

 

マフティーとしての誠意を挑める一等星に。

 

 

「決まったとは言えレースは再来週だ。時間はある。だからその日まで、確信を確定に、確定を断定に、星座の如く言葉の意味を君の掲げていたマフティーまで繋げて俺が証明にする__だから、勝つぞ」

 

「!!」

 

 

カボチャ頭を外す。

 

あの時と同じような角度で見下ろし、俺の眼が嘘じゃないことを。

 

 

 

 

「っ、わたしは、あの星と一緒に勝つから…!」

 

 

 

 

 

そして2週間後。

 

 

地方に赴いた飛び級生のウマ娘。

 

マフTの登場に少しどよめきが走る。

 

しかし次に感じた視線は落胆に近い感情。

 

周りの半数から指を差される一等星。

 

そしてスタートを切り、その星は最後方から。

 

注目は最初だけで、バ群に置いていかれるような展開。

 

流石に勝てるわけもないと、誰かが言った。

 

しかし、横にいた誰かが言った。

 

 

 

「踏み込みが強い。直線で伸びるだろう」

 

「君は?」

 

「ああ、突然ですまない……少し気になったんだ」

 

「か、構わないが……その大量の焼き芋は?」

 

「これか?デザートだ。少し足りないが…」

 

「あ、そう…」

 

 

 

胃袋を疑うような芦毛が焼き芋を頬張る。

 

そして次の瞬間__織姫星(ベガ)が瞬いた。

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

遊び気分だったウマ娘を一気に追い抜き。

 

この中で一番強いだろうウマ娘に追いすがり。

 

気づいた時には……もう手遅れだった。

 

漆黒の影を見てきたそのウマ娘は強かった。

 

 

 

 

わたしは、あの星を背負って生きていく

 

 

 

 

勝つことがもう一人との約束。

 

 

そこに理屈など関係ない。

 

 

勝つ必要があるから、勝つだけ。

 

 

それがアドマイヤベガと言うウマ娘であり。

 

 

マフティーを求めた、一等星の独りよがり(使命感)だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アオハル杯のテストレース?」

 

「試験ッ!過去に発案されたアオハル杯に関してなのだがまだ公式に取り組むことは決まっておらぬ。だが現段階で計画しておるURAファイナルズの進行が安定するようになった時、更にこの計画にも取り組む予定だ。まあ軽く見積もって10年は先になると見越してるが、それでも実戦の流れを一度確認しておきたい。まあテストレースと言えどもやることは大規模な模擬レースになってしまうだろうが一見に如かずと言うだろ?イメージは付けておきたい」

 

「なるほど。しかしアオハル杯か…」

 

「うむ、全てそこに書かれてる通りだ」

 

 

 

出された資料を見る。

 

そこにはチーム戦によるレース。

 

短距離、マイル、中距離、長距離、ダート。

 

五つの種目に分けて勝敗を決める。

 

参加するチーム数によってドローも発生する。

 

 

 

「アオハル杯は聞いたことないな。URAファイナルが個人戦なら、アオハル杯は団体戦。そんなところか」

 

「その認識で正しい。少しずつ息吹を返してる中央で切磋琢磨築き上げるには良き興行だと思うが…どうだろうか?」

 

「催し自体は良いと思うな。だが走るのはウマ娘で体はひとつだ。正直に言えばURAファイナルズと同時進行で行うのは怪我のリスクが高いと思う。選手生命を考えると欲張れないのがトレーナーとして真面目な見解」

 

「うむ、やはりそうだろうな。それは私も理解しておる。だからあくまで初期計画段階で収めておる。あ、これ、たづなに続いて教えたのはお主で二人目だからよろしくな?」

 

「相変わらず人柱でけぇなオイ!?」

 

 

なーんでそんな大事な話を俺にするんですかねぇこの理事長は??

 

俺は役割としてただ身構えてるだけの話の筈だったろ?ちなみに死神も来ないのに身構えてる理由は簡単だ。

 

マフティーの作り上げた影響力の関係上そうする事で地方などからカボチャ頭を目印にトレーナーが集まりやすくなる。

 

そのため総リーダーって名ばかりを俺は背負わされて、あとは偉そうに腕を組んでるだけの存在。

 

正直そのような役割は東条トレーナーとかの大ベテランにやって欲しかったが、マフティーほどの存在感は俺だけしか出来無いことらしい。

 

何より中央の大粛正と改革は俺が居て成り立ったからである。

変えたのがマフティー。だから俺が適任とか。

 

……まあ、100歩譲ってそれは請け負う。

 

あと新人トレーナーを見極めるために面接官紛いな役割だって請け負う。

 

俺も今の中央を保ちたいからそりゃ危険分子は秋川やよいと見極めていたい。

 

だが、このような大型の興行は普通なら定期会議の時でもいいから沢山の者から意見を集めるべきでは??

 

 

 

「これ…やよい個人で俺に持ち込んだ話か?」

 

「そうだ!!」

 

「そうだ!!キリッ、じゃねーよ!信頼が厚すぎてカボチャ頭が貫通してるわ!」

 

「たづなの次にお主のことを信頼してるからな!」

 

 

扇子に『信頼』の二文字をバッと広げてケラケラと笑いながらパタパタと扇ぐ子供店長。

 

ただのトレーナーが秘書の隣に並べるくらい心寄せられてる現状に荷が重い。

 

いや、よく考えたら俺はただのトレーナーと評するには些か酷か。

 

カボチャ頭を除いたこの実績を考えるとなんだかんだでマフTは無敗の三冠ウマ娘を中央から出して、その後はマイルCSでチャンピオンウマ娘も一人出して、6番人気で大外枠だった日本ダービーでも頑張った。あと地方とは言え学年一つ二つ上の相手に飛び級生に勝利をもたらしたりと、中央を管理するやよいからしたらカボチャの色眼鏡なしに俺はかなり評価されるトレーナーなんだろう。

 

それでも長く続けている東条トレーナーには負けてる気がしてるが、やよい本人の心からすると気軽に話せる相手と言うのは俺なんだろう。

 

 

 

「それで……どう思う?アオハル杯は…??」

 

「どう、思うか……」

 

 

なんとしてもマフTから意見が欲しいらしい。

 

ガンプラファイターでは無いがその本気に応えるべきだろうと考えて、俺は数枚の資料を再度手に取って確認する。

 

手に取った資料の隙間から目の前に座る秋川やよいを見る。

 

ソワソワ気味に座っているがほんの少しだけ不安な色を眼の中に潜ませる。

 

秘書のたづなに聞いてみたとは言え、それでもこのプロジェクトをひっそり考えた孤独感はあるらしい。

 

やれやれ。どこまでウマ娘に狂うやら。

 

 

「真面目な話。もしコレをウマ娘に本気で取り組ませたいとしても流石にURAファイナルズと並行してアオハル杯を開くのは選手生命を考えてあまり開けない。皆がそこまで丈夫じゃ無いから」

 

「うむ、やはりそうだろうな。いや、その言葉が指導者から聞けたのならそれで良__」

 

「だが」

 

「??」

 

「この企画はとても良いと思う。俺は出来るならアオハル杯は開きたい」

 

「!!!」

 

 

これは結構いいと思う。

 

これまで個人戦(重賞)を主軸に置いてきたレースだった。もちろんそれはそれで良い。

 

一人一人の熱い勝負になるし、それは単純かつ大いに盛り上げれる。URAもそれは安定卓としてこれからも引き続きレースを取り締まるだろうから。

 

それに対してアプローチを変えた団体戦(アオハル)()()()()()()として考えるなら企画としては良いモノだと思う。俺は出来るなら賛成したい。

 

 

「ただこれを大規模で開くのは難しい。しかしある一定の規模に抑えた興行としてなら大賛成だ。中央におけるレコンキスタ(回復運動)の一つとして喜べる。だがそれだけのウマ娘やトレーナーが必要になるだろうし、芝だって多く必要になる。でもそれは結果的にURAファイナルズを設立すればアオハル杯だって着手が出来る流れだ。だから将来的に考えればアオハル杯は開ける」

 

「!!」

 

「だがそれを踏まえてもう一度言う。ウマ娘の優先順位を考えた上でアオハル杯は開く。学園を盛り上げるための祭り事も大事だが重賞レースの栄光がなによりも優先される。それが中央としての存在意義だから。それで怪我に繋げるのは却下だ」

 

「ふむ。では、そうなると…」

 

「例えば甲子園のように開催するとかな。春と秋。G3やG2を蔑ろにしてるわけではないが、G1と被らない程度に開けるならあとはトレーナーの手腕でなんとでもなる筈だ。何せこれはあくまで…」

 

「学園の祭り事だな?」

 

「そうだ。言い方は悪いが本気のレースを開く訳ではない。あくまで祭り事。学園祭で開かれる長距離マラソンとかそんな感じ。まあアオハル杯の規模はそれらよりも大きくなるだろうが中央の管理力で広がりすぎない程度の範囲を抑えれる。開く自体は賛成だって、マフティーは言うよ」

 

 

まあ基礎となるURAファイナルズが出来なければアオハル杯は無理だろう。

 

それはやよいも理解してる。

 

だから空論上の計画はここまでだ。

 

渡された資料に書かれている規模で開く場合は10年とか先になるだろうが、レコンキスタが目的なら早いほうがいい。

 

上手くコントロールすれば5年は掛からないと考える。

 

でもやはりURAファイナルズ次第だろう。

 

だから目の前のものから片付けよう。

 

 

「と、なると、テストレースか」

 

「やってくれるか!」

 

「こっちが本題だろ? 短距離、マイル、中距離、長距離、ダート。ウマ娘の調整として走らせる程度なら問題無い。まあ他にもウマ娘は多く必要になるだろうがその一旦として抱えるならテストレースは参加する。他にも呼ぶんだよな?」

 

「無論ッ!全体における参加者は最低でも30人必要だ。その中でマフTの担当ウマ娘の力を借りたい」

 

「わかった。因みに参加者の選出は?」

 

「トレーナー1人に対して約3人ほどだ。マフTは6人だったな。その中で半数ほど頼めるか?」

 

「良いよ。こっちはシービーとヘリオス、あとマンハッタンカフェを出そう。了承してくれたらの話だが、この三人は秋まで重賞に出ないから走る自体に問題はない」

 

「決定ッッ!これでアオハル杯を開けるぞ!」

 

「あくまでテストレースだからな?」

 

 

まあでもミスターシービーのようなウマ娘が出るなら学園の盛り上げに繋がるだろう。

 

恐らくシンボリルドルフとかも出てくる。

 

……少しだけ楽しみになってきたな。

 

でもこれは調整として走る。

 

やりすぎない程度に抑えよう。

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

始まったアオハル杯テストレース。

 

混合チームだが俺は"セカンド"と仮名が付けられたグループに入る。

 

 

 

そして相手はチーム名のファースト。

 

しかし、そこには…

 

 

 

 

 

 

「…………あなたは…」

 

「!」

 

 

 

記憶に無いが、記憶にある。

 

俺にはないが、奴にはあった。

 

いずれ会う事になるだろう人物。

 

前任者の始まり、トリガーとなった存在。

 

それこそ始まりの ファースト(初 代) として。

 

その人物がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

つづく

*1
不味い飴ちゃん




ガ ン ダ ム(ファースト) だ と ! ! ?

ではまた

バレンタインガチャでお目当ては引けましたか?

  • ミホノブルボン
  • エイシンフラッシュ
  • ニシノフラワー
  • サクラバクシンオー
  • 全部引いた(独占欲のコツ)
  • バクシン!!爆死ィィィィン!!
  • 今回は見送り。

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