やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

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※アドマイヤベガ実装された日

リディ「ガチャの可能性なんて!捨てちまぇぇ!!」

バナージ「うおおおおおおおおおおおッッ!!!」

石(バナージ…)

バナージ「!!!」

石(悲しいね…)

バナージ「引けませぇぇぇん!!」

アドマイヤベガ「」


※天井分はあるけど次の情報待ちでまだ引けない軟弱者です。だって次でミスターシービーなんて実装されたら投稿するモチベ下がってしまうから今引くことは危険なんですよ!カテジナさん!!しばらくは無料で粘るんやで…


ではどうぞ



第39話

 

誰かが言った。

 

 

 

__彼は危険人物だ。

__URAの秩序を乱す者だ。

 

 

 

それは私が言った。

 

私と同じ『名』を持つ者だから。

 

そして、私は彼の事を知っていたから。

 

 

 

 

マフTとは?

 

カボチャ頭のトレーナー。

 

素顔を見せない異端な指導者。

 

 

 

 

マフティーとは?

 

意味、概念、存在、名称、象徴、など。

 

マフTに備わる形のない表現。

 

 

 

なら、彼は一体何者だ?

 

樫本?

 

いや、ちがう。

 

マフTまたはマフティー。

 

 

 

 

「ウェーイ!1着取れチャブルだから!ご褒美おなシャースッ!」

 

「それは次の安田記念でな」

 

「うはー!ハドール高すぎ謙信!上杉謙信!目指す彼方も(あげ)スギ献身deウェーイ!」

 

「とりあえずタオルで拭いて来い。タトゥーシールが汗で崩れそうだ」

 

「マジィ!?あっはははは!行ってクルクルクールダウンってくる!」

 

「元気ありすぎだろ」

 

 

 

ウマ娘とコミニュケーションを取るその姿はあの頃の危険性を感じさせない。いや、本来はあの姿が普通であり、表舞台に出る時以外はウマ娘に寄り添うお手本のようなトレーナーなのだろう。URAの幹部職員としての視点を除けば周りと変わらぬトレーナーだ。

 

それでもマフティーとしての役割を果たした如くその落ち着きを見せていた。

 

それはマフTを警戒していた管理職員として一眼見てわかった。

 

どこかしら近寄り難いオーラも無く、生き物を遠下げるような雰囲気もない。

 

だから今はカボチャ頭を被ってるだけ。

 

でも担当ウマ娘だけにマフティーたらしめている、そんな気がした。

 

だから担当ウマ娘からしたら彼はまだマフTでありマフティーなんだろうか。

 

 

「トレーナー!次行ってきます!」

 

「ビターグラッセ、これはあくまで調整です。次の秋華賞に向けてのイメージとして走りなさい」

 

「わかりました!本気のド根性はその時まで溜めておきます!」

 

「それでよろしくお願いします」

 

 

私もマフTと変わらぬ普通のトレーナーとしてウマ娘を支える。

 

その姿に大差はない。

 

 

「…」

 

 

だからそれとは別で気になる。

 

マフTと言えども人間と変わらない。

 

そして『マフT』はカボチャ頭を被ったことで名乗った偽名。

 

私たちと同じ。

 

もしくはわたしと同じ『苗字』を持つ者。

 

それは……

 

 

 

「悪いが、今は詳しく語れる言葉を持たない…って、マフティーは言うよ」

 

「!!………言葉に出ていましたか?」

 

「こうしてマフティーするときはそう言うのに敏感でな。視線で分かる」

 

「便利ですね…」

 

「そうでも無いさ。時折鬱陶しくもなる。マフティー性のある飲み物を飲んで落ち着くときは余計だ。まあ、こればかりはマフティーたらしめた結果故だ。粛々と受け止めるさ」

 

 

少しながら理解が追いつかない。

 

しかし彼の言ってることが事実としたらまるで別の生き物だ。

 

人間だけど、人間以上の何かだ。

 

そう感じる。

 

 

「さて、URA幹部職員として牽制するしかない現状も込みで声をかけることを躊躇ったみたいだが、貴方から見て俺はまだ危険人物か?」

 

 

過去を振り返り、彼の危険性を未だに引きずるならそれはYESだ。

 

けれど今の彼の評価は変わった。

 

異端者である事には変わりないが、彼の成してきた成果や功績は認めざるを得ない。

 

 

「危険人物… と、言う認識は未だ引きずる傾向にあります。カボチャ頭を被る貴方はそれほどだった。だがマフT、貴方はURAに於いて高く評価されている人物でもあります。それも中央の世界で…」

 

「ありがとう、充分に伝わった」

 

「!」

 

「質の悪い質問をして悪いな。別にURAを目の敵にしている訳ではない。だが俺がマフティーだった時、この世に求められた立ち位置は皆等しいとは限らなかった。凡ゆる物事が敵となった。それは仕方ないことだ。しかし人類が地球の引力に囚われるように、固定概念からは簡単に離れることはできない。それこそ(まなこ)に当て嵌め続けた理解と知性を全て拭わぬ限り、真実は訪れない」

 

 

唐突に難しいことを言う。

 

まるで正当化に急ぐ政治家のように。

 

聞いてる側は試されているみたいだ。

 

だがなんとなく理解する。

 

今はマフTである以上にマフティーとして。

 

その両方が語っている。

 

 

「同じ枝分かれなのか、確かめたいんだろ?」

 

「!!」

 

 

尋ねたいことが分かっているように彼は言う。

 

そう言われた私は…

 

 

「……あとで、時間はありますか?」

 

「申し訳ないが、恐らくこの後は秋川理事長にお呼ばれされるだろう」

 

 

そう簡単に時間は許してくれない。

だとしたら、私はここまで___

 

 

「そのため今日は無理だな。しかし明後日__」

 

「空けます」

 

 

 

即答する。

 

 

 

「なら東京レース場で会おう」

 

「……その日の担当はいいのですか?」

 

「問題ない。安田記念の前のエプソムカップを見てから控え室に入る。そのタイミングで担当とは落ち合う予定だ」

 

「随分と放任的ですね…」

 

「むしろその時くらいしか非放任的だがと思うがな。もう少し距離感があっても良いが… いやこれは俺の甘さか。どうやらマフTはウマ娘に弱いらしい」

 

 

やや呆れながらもその事実を受け入れてるが如く視線は先程ウマ娘ダイタクヘリオスに向けていた。カボチャ頭で見えないが一人のトレーナーとしてその眼は担当ウマ娘を見守る優しさが含まれている。そんな気がした。

 

 

 

「わかりました、では東京レースで」

 

「悪いな、足を運ばせて。……言っててなんだが別の日でも構わないぞ?」

 

「明後日と決めました。それで構いません」

 

「わかった、では明後日だな。さて… この中距離が終わったら次は長距離レースだ。そしてマンハッタンカフェは自慢の担当ウマ娘だ。摩天楼を上り詰めた先で世代は間違いなくマンハッタンカフェのものになる」

 

 

それだけを言ってマフTは担当ウマ娘の元に去っていく。

 

いま中距離を走っているビターグラッセは1着になった。そして同じく走っていたミスターシービーはギリギリの入着。

 

もうあの頃の走りはない。

 

しかし今こうしてまだ走らせていると言うことは、まだ何か考えてると言うことだろう。

 

それは私以外の指導者も同じ考えをしている。

 

まだミスターシービーが走るのか?

 

それとも()()()()()()なのか?

 

だがマフTがそんなことするのか?

 

わからない。

 

だがマフTなら…と、そう期待してしまう。

 

 

 

そして…

 

 

 

「一人だけジュニア級か」

「しかも長距離レースと来たぜ?」

「既に担当は決まってるが、トレセンでは目玉となってるウマ娘だぞ」

「マフTの担当ウマ娘だ。計算の上だろう」

「だが長距離はどうなんだ??」

「実戦投入がないだけで長く走ってきた強化アスリート選手だ。期待はできる」

 

 

 

最後は長距離レース。

 

距離は2600。

 

周りが話すようにそこには今年デビューしたばかりのウマ娘、マンハッタンカフェが出走準備を行っていた。

 

長距離ではおおよそ最低値の2600だがそれでもデビューしたてのウマ娘からしたら長すぎる。

 

2000でも充分に長い。

 

だが、マンハッタンカフェの表情を見る限り不安や緊張感は全く見当たらない。

 

むしろクラシック級やシニア級のウマ娘と同じくらいリラックスしている。

 

見て分かる。

 

あれは本番に強い。

 

けれどそのメンタルどうやって経験を積んだ?

 

学園で行う模擬レースならともかくここ中山レース場はURAが管理する大舞台だ。非公式戦とは言え、周りの重賞ウマ娘に恐縮することもなくいつでも持てるポテンシャルを引き出せる状態はジュニア級の中では理想的な姿だと思う。

 

基本的にはジュニア級で足りないのがメンタルだ。実際に出走するレースでしか経験を重ねることができない。だがマンハッタンカフェには足りている、その強さが。

 

……イメージトレーニングで重ねたのか?

 

それもたくさん。かなりたくさん。

 

実戦を知らない以上はそれでしか経験を積むことしかできない。

 

だとしたら才能だ。

 

イメージの中で走れる才能だ。

 

もしくは……マフTか。

 

そういえばマフTの担当するウマ娘は皆デビュー戦で一着しか取ってない。

 

例え緊張の中で駆けていようと、実力を満遍なく発揮しての勝利を得ている。

 

これがマフTの手腕だとしたら、マフTの断言も理解できる。

 

 

__世代はマンハッタンカフェのものになる。

 

 

ステップを多く踏んで無ければ出来ない発言。

 

よーいドン!の位置が全く違う。

それがマフTの言う、マンハッタンカフェ。

 

 

「……」

 

 

長距離かつジュニア級のウマ娘はマンハッタンカフェだけ。周りは大舞台に慣れたクラシック級やシニア級ばかりだ。私の担当ウマ娘も重賞経験があり、長距離は走っている。故にマンハッタンカフェの結果は乏しくなる。実力は違うのだ。それはマフTも理解している。

 

だからマフTの自信は一体なんだ?

 

マンハッタンカフェの走りで何を見せてくれるのか?

__ゲートが開く。

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

「!!」

 

 

ああ、なるほど。

 

すぐにわかった。

 

たしかにその通りだ、マフT。

 

マンハッタンカフェは最後方。

 

周りからしたら「最後方に置いて行かれた」と思うだろう。

 

いや、寧ろ逆だ。

 

最後方に位置取ってバ群を見極めている。

 

 

___思い出す。

 

 

私は覚えている。

 

あれはマフティーのウマ娘だった。

 

皐月賞も、日本ダービーも、菊花賞も。

 

そして有マ記念でも。

 

あの走りで全てを促した

 

マフティーのウマ娘の再臨なのか。

 

 

 

「そう言うことですか…」

 

 

 

彼の言葉を理解した。

 

あれは、間違いなく()()()()()()()

 

()()()()()()()に追いつこうとしていた。

 

 

 

そして、それを…

 

__私の知る『男』が指導している。

 

約束したその日に確かめなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおー!いけー!」

「差せ!差せぇぇ!」

「がんばれー!」

「いけー!頑張ってー!!」

「私の推しバは凶暴ですよ」

 

 

 

 

 

東京レース場で行われる重賞レース。

 

安田記念が始まる前とは言え、エプソムカップも盛り上がりを見せている。

 

そして溢れる観客席の最後方に彼はいた。

 

周りの人々から「本物か?」と不思議がられている。壁を背もたれに腕を組んでレース場を眺めている彼以外を見渡せば他にもカボチャ頭を被っているマフTもどきな観客はいる。

 

しかしその風貌と威圧感はただの一般人では備わらない姿だ。その違いがわかる人は「もしかして??」と彼の姿を伺っていた。マフティーの大ブームは終わったが、それでもマフTのファンは多くいるため、未だに真似をする者もいれば、秋になればそこら中がマフティーを思い出させるようにカボチャ頭のマフティーをしている。

 

中央を走るアスリートウマ娘はアイドルのようなものだが、マフTもそれに負けず劣らずなアイドル性があるため、憧れて真似する者も珍しくない。

 

私は彼を存じている。

 

迷わずその元へ歩き、互いに挨拶を交わしながら私はそのまま横に並んだ。

 

 

「ウマソウルって知ってるか?」

 

「?…ええ、知ってます」

 

「なら話は早い。俺はソレだ」

 

「…え?」

 

 

 

ガコン

 

 

 

唐突に出された話題と共にゲートが開き、重賞レースに慣れたウマ娘、また今回重賞が初めてだろうウマ娘達が一斉に飛び出した。

 

始まったエプソムカップは歓声に包まれる。

 

 

「マフティーとはそのような現象だと思っている。この体にも別の魂が入り込み、この体の前任者に成り代わった。それだけの話だ」

 

 

早くも確かめたかった結論が言い渡された。

 

…思考が追い付かない。

 

だが、もしかしたら…と、思っていた考えが先頭に躍り出た。

 

しかしそれは最初に否定しなければならない。

 

 

「疑わしそうだな」

 

「…貴方はヒトです」

 

「そうだな。だが人間にその現象が無いとは限らない。現におれは『マフティー』と名乗っている。それがなによりも理由だ」

 

「それは……」

 

 

 

違う___と、断言できなかった。

 

最初は『マフティー』をふざけた偽名のようなものだと思っていた。

 

しかし彼は世間の渦で大々的に名乗った。

 

カボチャ頭の中に込められた、有りと凡ゆるモノがマフティーの名前によって集約されたナニカだと。

 

だから姓名にマフティーなんて名前はない。

 

何故ならマフティーの前にこの男は私たちと変わらぬ人間であり、そして『名前』がある。

 

生まれつき貰うはずの、名前が……()()が。

 

 

 

「別に俺がウマ娘って訳じゃない。俺は人間で沢山だ。この血肉はナイフ一つで冷え切った床を赤く染めてしまえる。そんな生き物。ヒトと変わりない。けど魂は皆違う。この体にあった魂はこの世に怯えてしまい、宇宙(そら)に溺れて散った。痛みを知った赤子と、怯え切った子供を忘れなかった故に、理不尽な解に応えるために超越した紛い物を欲した。それがマフティーだとしたら、俺がここにいることは叶った依代なのかもしれない。ああ、もちろん覚えてるさ。

__確か、前任者のそれは……」

 

 

 

 

 

___ 樫 本 と言う名だったな。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

まるで他人事のように言い放った。

 

その名前は過去形のように。

 

……残酷だった。

 

 

 

「だとしたら、貴方は…」

 

「その通り、俺はもう()()()()()()ことを。それは恐らく貴方と同じ『樫本』だからこそ、貴方はこの違いがわかる。俺は『マフT』またはマフティー、それ以上でもそれ以下でも無い。そしてマフティーを求めた樫本に応えるがためにマフTである俺がこのカボチャ頭で示した。素顔を晒さないのは俺が貴方の知る樫本ではないから」

 

 

 

まるで自己暗示のようにも感じ取れる。

 

だが、そうたらしめようとする歪な強さも感じ取られた。

 

応えようとする役割。

 

それと同時にたらしめようとする使命。

 

どこか似ている。

 

そう…例えば。

 

言葉にするならば___独りよがり

 

そのカボチャ頭にはそれが似合った。

 

 

 

「本当に樫本はいないのですか?」

 

「もういない。マフティーである俺に全てを託した。そして消え去った」

 

 

淡々と告げた言葉はエプソムカップの歓声の中に消えさる。

 

…私はいまどんな表情をしている??

 

このような事実を聞いて何を思うか?

 

私は…ただ確かめたかった。

 

正体を知りたかった。

 

この男が()()()()出来る人間とは思わないから。

 

だから危険人物だった、その意味でも。

 

あのような狂い方、出来そうにない。

 

まるで別の世界から来たような狂気だから。

 

それを行うなど…

 

私が知る『樫本』がたらしめるなど…

 

 

「何も残ってないのですか?」

 

「いや、むしろ…」

 

 

 

___沢山、残されていた。

 

重たそうに言葉が吐かれた。

 

マフTの視線が下を向く。

 

どこか眼を合わしたくないように。

 

もしくは視線を濁すように、弱々しく思える。

 

でも…

 

 

「それが役割だから、マフティーとして」

 

 

__マフティーとして。

 

『求める』ことで『応える』存在になる。

 

それがカボチャ頭を被ったマフTの役割。

 

ウマソウルのように備わりし魂は、樫本だった男に応えた。

 

だとしたら、それは…

 

 

「それは、何に向けて?」

 

「無念や後悔だ。喉を掻きむしったように形として残った。それを払拭する… いや、代わりにこの傷跡を抱え、その傷はカボチャ頭で覆い隠し、応える意義によってマフティーはこの体で生きた。だから俺は同時に樫本だったこの体でURAも見ているホープフルステークスの中で言い放った」

 

 

__あるのはこれを被るまでの後悔。

__そうしなければならなかった己の脆弱さ。

__そうしなければ求められない己の貧弱さ。

__そうしなければ進めない己の軟弱さ。

__全ての怠惰と拭えきれぬ罪の形を穴あきのカボチャにした。

__故にマフティーと名付けてこの厳しい世界へ挑む事を決めた。

__これは覚悟でもある。

____トレーナーとしての。

 

 

 

「それが初めてマフTとしてのG1、そして前任者への手向け。言うならば反省と促し。ウマ娘の中のウマ娘が示してくれた」

 

 

カボチャ頭の異端者がミスターシービーと共に1着を勝ち取り、マフティーは本物であることを促した。

 

それから始まった、世間への 促し が。

 

そして彼の中にあった魂への 反省 が。

 

世間に対してマフティーが始まった。

 

 

「しかし、マフティーは神様ではない」

 

 

この男は人間だ。ウマソウルが備わった話が本当だとしても、その肉体は周りと等しい。

 

あっちも人間、こっちも人間。

 

カボチャ頭を外せばなんてことないヒトの素顔がそこにあるんだろう。

 

 

「時折カボチャ頭と答え合わせをしていた。マフティーたらしめる世界の魂なのか。己にも前任者にも、求めるに値する役割なのか?しかしそれしか残らない道筋に進めるしかないこの足を託されたとしたら、マフティーはトレーナーとして果たすことが決まった。それを役割として飲み込み、もしくはウマソウルのように名前と共に受け渡された使命としてターフに駆けるべきマフティーだと世界が指すのなら、それが世間に促した『王』と言う存在だった」

 

 

まともではない。

 

そんな考えと、そのようなストーリーテラーに身を投じるなど、普通はありえない。

 

狂っている、この魂は…

 

別世界の生き方だ。

この世界にない狂信的な歩みだ。

 

マフTにとって、マフティーとはそれほどなのか??

 

 

「人間だからこそ…そこに狂えた」

 

「ああ。何せ、器用にカボチャ頭を被るなんて人間くらいだろ?つまり、そういうことだ」

 

 

東京レース場の観客席を今一度見渡す。

 

マフティーのようにカボチャ頭を被って応援する者もいる。

 

それは神様ではない、人間だからできる所業。

 

そしてマフTはそれを『まとも』にした。

 

これが狂えたカボチャ頭の成果。

 

そしてURAが恐れた存在の力。

 

樫本に代わって、この世界にたらしめた結末。

 

 

 

「だから何度でも応え返そう。俺は君が知る樫本ではない。なぜなら俺はマフTまたはマフティー。ウマ娘に狂うことで応える存在だから。それは前任者に代わって成すことを決めた魂だから」

 

 

 

ウマ娘達が第四コーナーに差し掛かり、観客席の盛り上がりが再燃し始める東京レース場。

 

その光景を後ろから眺めるマフTの姿は、とてもじゃないが隣に並んでいるにも関わらず遠く感じた。

 

 

「まだ聞きたいことはあるか?」

 

「いえ…もう充分です」

 

「そうか」

 

「…」

 

 

これ以上、聞くことはない。

 

そして聞こうとも思わない。

 

ここにいるのはマフTと言う存在。

 

そしてカボチャ頭がその証。

 

それが何よりも答えだから。

 

 

「…後悔の中に、樫本には誇れるモノがあった」

 

「誇れる…?」

 

「徹底管理主義と言う教育方針の信条」

 

「!」

 

「それは樫本にとって誇れる賜物と化した。その指導はウマ娘に対する自衛のため、歪んだような目的だったが…その能力は本物だった」

 

「…それは、今も?」

 

「ああ、知識として生きている。だからわかる。樫本は傲慢な人間だったが間違いなく樫本と言う血筋の天才だ。怯えすぎた故ウマ娘に違えたが積み重ねてきたその力は彼の中でマフティーのようなものだ。たらしめよう(支配と克服)とする意志から始まった間違った強さだけど、認めなければならない努力だよ」

 

 

その男に樫本の遺伝子は生きていた。

 

そして…

 

 

「だから樫本理子、貴方のお陰で樫本は生きようとした。この世界で」

 

 

もう生きていない、魂。

 

マフティーを求め、委ね、託し、消え去った。

 

しかし、その知識はまだ生きていた。

 

それは喜ばしく思うべきなのか…

 

わからない…けれど、マフティーが代わりとしてその努力に応えてるとしたら、樫本にとってうれしいことであって欲しい。私にとってそう望むほかないから。

 

 

「ありがとうございます。少しだけ報われた気がしました」

 

「…」

 

「少なからず、気にかけていましたから」

 

「_____誰も悪くないんだ……誰もな」

 

 

 

その言葉は何か濁すように吐き出される。

 

そして観客たちの歓声でかき消される。

 

最後の直線に入ったウマ娘の姿に盛り上がりはピークだ。

 

 

 

哀戦士って…聞いたことあるか?」

 

「あい、せんし?」

 

 

単語だけならある。

 

だが聞いたことない言葉だ。

 

 

「死に()く漢たちに向けた(わか)(うた)

 それは、愛とか、哀とか、逢とか、色々とある。

 言葉にするだけなら『あい』それだけだ。

 しかし形にするなら様々だ。

 何故なら時によって変わるから。

 それは歌詞のように物語を綴って行く。

 そうやって意味が求めだすため。

 …つまりだ。

 この体にいた樫本は『哀』だったけど『』になった。

 もうこの体に樫本の魂はいない。

 しかし逢するその者から託された。

 この世界に生きていた哀しい生き物が…

 どうかウマ娘で()()()()()ように告げたから…」

 

 

エプソムカップのレースに決着が付く。

 

湧き上がる歓声の中に哀しさなど無い。

 

しかし最後方から眺めるターフは不思議と寂しさがあるような気がした。

 

今だけ、そう感じている。

 

 

「連絡を確認すると担当ウマ娘が到着したようだ。俺はそろそろ行くよ」

 

「貴重なお時間をありがとうございます、マフT」

 

 

 

彼は背もたれにしていた壁から離れ、観客席の歓声を横目に歩き出す。

 

不意に一つだけ思い出した。

 

 

「最後に尋ねたい事があります」

 

「?」

 

 

マフTは足を止める。

 

カボチャ頭だけ振り向いた。

 

 

「貴方はビターグラッセ(殴ったウマ娘)覚え(知っ)てますか?」

 

「……」

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

「申し訳ない事をした、彼はそう言ってたよ」

 

「そうですか」

 

 

 

その会話を最後に彼は立ち去る。

 

エプソムカップの次に安田記念が始まるから。

 

「……」

 

 

まだ幾らか理解が追いついてない部分がある。

 

しかし私は()()()()()から答え合わせをするごとに納得する。

 

その素顔はあまり覚えてない。

 

けどその人間が何者だったのか記憶にある。

 

 

「ウマ娘に怯えていた、そんな男…」

 

 

この世界を考え、この世界を知り、この世界に怯え、この世界に縮む。

 

ウマ娘に寄り添えない人間だった。

 

だが彼は中央を目指していた。

 

しかし中央は広い。

 

そして門は狭い。

 

どこかで朽ちたと思った。

 

音沙汰ない現状。

 

少しは心配した__分家の彼を。

少しは意識した__本家の私は。

 

 

そして……

 

マフティーが現れた。

 

 

 

「ウマソウル…」

 

 

研究者が出した論文でも読んだ事がある。

 

なんなら在学中のアグネスタキオンと言うウマ娘の論文も読んだ。ロマンチストな部分を見え隠れさせながらも興味は惹かれた。

 

故に理解する。

 

別人だということ。

 

もう彼は マフT と言う人物だ。

 

登録名義は『樫本』に変わりない。

 

しかし彼は自分を『樫本』だとは思わない。

 

 

 

「託されたと言うのなら、マフティーを知った私はその事実を受け止めるしか無い。恐らくそう言うことだろう」

 

 

 

これを__死んだと言うのは違うだろうか。

 

しかし、消えたと言った。

 

それで完全に成り代わったと言う事。

 

樫本はいない。

 

そういうことだ。

 

なんとも、表現し難い事だろうか。

 

 

「ですが…」

 

 

傲慢ながらも、歪ませながらも、彼は挑んだ。

 

ウマ娘が集う中央の世界に、樫本の血筋を持って資格を得た。

 

それは、同胞として、少しは誇らしくも思うことだ。

 

けど、私も同じ人間だ。

 

だから無いものだって求めてしまう。

 

 

 

「貴方がもっとこの世界に寄り添えて、この世界がもっと応えてくれたのなら、貴方はもっと樫本家の人間として、ウマ娘の一陣の風になってくれたのかもしれない」

 

 

 

 

痛みを知って、変わろうとした。

 

もうこの世に亡き…男の物語。

 

たしかに_____哀・戦士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たづなさんだけ、そう思ってたけど」

 

 

まあそもそもたづなさんに打ち明けたのは俺が弱かったから。アレはつい吐き出してしまったから。

 

そしてそこまで前任者に入れ込んでたとは知らずに泣かせる結果になった。そこは反省している。まあ当時の中央は中央だったから、そりゃ希望一つは抱きたくなるわ。それでたづなさんも現状の打破がはかどらず追い込まれていた状態でのマフティー当時だから、そりゃ色々感情が押してくるわ。反省してます。

 

まあ結果としてマフTの正体を打ち明けてくれた事に対してたづなさんも自分がトキノミノルであることを明かした。

 

それは中央を支える同胞としての証。

 

共に秋川やよいを支えてウマ娘に正しく狂える学園を作ること。

 

誓いのようなものだろう。女性って強い。

 

良い女ってあの人のことを言うんだろう。

 

 

 

「しかし樫本理子か」

 

 

まさか本家の人間がURAの幹部職員として働いてるとは思わなかった。

 

もちろん樫本家のことは調べている。

 

並行して桐生院家とかウマ娘に強く関わってきた家系はいくつかピックアップしている。

 

でもURAにまで樫本がいる事に意識が向いてなかった。

 

それで中央に樫本の名前は俺一人なので勝手に安心していた。死神では無いが身構えてなかった結果だろう。まあ一応アオハル杯のテストレース前日に名前が知れたからまだ良かったけど、確認した時は非常に驚いた。

 

だから接触してくること前提で身構えて今日この日である。本当は対話自体いつでも良かったが、あまり俺のこと話してるとたづなさん以上に余計なことまで打ち明けてしまいそうで怖かったから、当日のエプソムカップを見に行くことにして担当の安田記念を理由に離脱する。それで対話の時間を調整したつもりだ。上手く行ったと思う。

 

なにより樫本理子の食いつきが良かったから今日この日に取り付ける事にできた。あと幹部職員だけあって特にマフティーを知りたい人間だっただろうから、今日仕掛ける事にした。

 

まあ……大凡真実は告げた。

 

色々まだ隠してることもあるが、この世界で生まれて生きている人間がそれ以上知る必要が無い。三女神なんて知る必要は無い。

 

これは俺と前任者の話だ。

 

マフTであることを知ってもらう。

 

それが目的だから。

 

 

 

「まー!ふー!てぃー!」

 

「ぐぇぇ!!」

 

 

そして廊下から一直線に向かってきたのは勝負服に着替えまダイタクヘリオスであり、一気に目の前に突っ込んできた。

 

そのまま地面に押し倒されて、尻尾ブンブンしながら「ンふー!」とグリグリ顔を擦り付けてきたが、途中スンスンと鼻を動かして。

 

 

「別の女の香りがする」

 

「パリピ語抜き怖いからやめろ」

 

 

真顔で言われる。

 

しかもパリピ抜きのヘリオス。

 

いや!こんなのダイタクヘリオスじゃないわ!

 

ただの在宅ウマ娘よ!!

 

 

 

「なーに?またウマたらし??」

 

「待て、今回は違うぞ、シービー」

 

「へー?何がどう違うのかな?」

 

「そりゃ…」

 

 

出会ったのはウマ娘じゃない。

 

俺が出会ったのは…

 

 

「ヒトだからな」

 

「「________ヒト?」」

 

 

 

 

するとミスターシービーとダイタクヘリオスの眼の色が変わる。

 

え?

 

え?

 

なに?

 

 

「……俺、なんかやっちゃいました?」

 

「ヒトかー、なるほどー」

 

「はえー、そう言うことー」

 

 

あ、これ、あかんヤツや。

 

そう思って遅し。

 

耳を絞ったシービーに腕を掴まれ。

 

真顔のヘリオスにもう片方の腕を掴まれ。

 

呆れ顔でドアノブを回したシチーが待ち構え。

 

ジト目で見ているアヤベの視線が突き刺さり。

 

少しだけ同情するカフェに見送られ。

 

興味なさげに飴玉転がすフェスタを添えて。

 

 

 

「ちょ、待て、力強い__(カチャン」

 

 

用意された控室に連行された。

 

 

 

 

__身構えてる時でも、女難は来るものさ。

__ハサウェイ。

 

 

やかましいわ!!!

 

このあと、無茶苦茶いろいろ強請られた。

 

 

 

 

つづく

 




たづなさんに続いて2人目です。
SSR持ちの友人サポカ枠は頼もしいですね。

え?桐生院葵?あの子は無垢だから可愛んですぅ。なんならお友達と遊ぶ事に憧れている彼女をダート距離1814広さの公園に連れてから砂遊びで子供のようにお目目キラッキラさせてから公園の水道水でお手てを一緒に洗いたいステークス。


ではまた

アドマイヤベガは引けましたか?(奮え声)

  • 単発で引いた。
  • 10連で引けた。
  • 20連以上で引けた。
  • 100連以上で引けた…
  • 爆死ッン!バクシーン!!
  • 親の顔よりも見た天井。
  • 今回は見送り(冷静のコツ)

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