やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:てっちゃーんッ

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第43話

前世では良くアウトドアをしていた。

 

社会人になっても月一で友人と集まれるくらいには謳歌していた身だ。それこそ瓦礫の崩壊にて死ぬ寸前のダンススタジオで俺が一番乗りで現地入りして、後に合流する友人達とマフティーダンスの動画を撮ろうとしたくらいには元気よくはしゃげていたと思う。

 

だからこそキャンピングカーを動かして遠出するくらいは余裕だった。今はカボチャ頭のマフティー故にバリバリのインドアと化したけどあの頃を思い出すようにハンドルを握りしめてアクセルを吹かせる。

 

キャンピングカーのベッドでゴロゴロ転がりながら目的地の到着を待っている一人のウマ娘の鼻歌を聴きながら進路を走っていると…

 

 

「ねぇ、あのスーパーカー見たことない?てかあの車タッちゃんじゃない?」

 

「はい?」

 

 

いま走っているのは高速道路。

 

その横を見る。

 

赤いスーパーカー。

 

ウマソウルを捉える暇もなく一気に追い越して行った。

 

だが一瞬だけ古めかしいサングラスを額に引っ掛けている激マブのチャンネーの姿を視認。

 

それは正しく…

 

 

「ぶふっ…!?おいおいおい!!?」

 

「あっはっはっは!!マルゼンスキー先輩日本に帰ってきてたんだ!!」

 

 

俺はいまカボチャ頭を外してサングラスとマスクを付けたペーネロペーのスタイルだが、あまりの衝撃映像に顔面から全部パージさせそうな勢いで噴き出してしまう。強引にオデュッセウスさせてくる激マブのスーパーカーとかマジ怪物じゃねーか。

 

てか、あれ?

 

彼女はもう現役終わったんだったか?

 

いや、マルゼンスキーはまだ走れるらしいからそれは無いから。レース好きだしそんな簡単に身は引かないだろう。

 

一時帰宅?それともまさか日本でかっ飛ばすためにざわざわ帰ってきたのか?だとしたら怪物の名に恥じぬバイタリティすげーな。アイダホの長い道路も悪く無いだろうに良く戻ってきたなマルゼンスキー。

 

 

あ、なんかよく見たら豆腐屋の車も並走して…

Deja Vu_⁉

は、え?

なにあれマジ??

おいおいおい…

 

ダメだ、これ以上考えるのはやめておこう。

 

ただでさえ中央のトレーナーの中にGジェネしている奴も存在しているのに峠で掟破りしている奴も含めたらこの世界の人間は人間辞めてることになるぞジョジョー!

 

まあそれを言ったらニュータイプしてしまったマフティーも大概だけどな。

 

しかし運転中に考え事は事故につながる。

 

だからマフTは考えるのやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥多摩。

 

大都会のイメージある東京に存在する山岳地帯であり、キャンプ地や綺麗な河、鍾乳洞など徒歩で満喫するにはとても良い場所だ。

 

人間もそうだが、この世界だからこそ存在してるウマ娘のために敷かれたジョギングのコースもあるため、おそらく前世より横幅広く道路が整備されている。

 

もちろんここは山。

 

そのため坂路が続くお陰で…

 

 

「ふー!ただいまー!」

 

「お帰り」

 

「空気と景色が綺麗で思わず足が止まっちゃった!」

 

「そうか?2年前よりも7分早いぞ」

 

「そりゃあの時はまだクラシック級のヨチヨチ歩きだったからね。流石に体も大きくなって歩幅も増えたから。ほら、もうマフTと身長同じくらいだよ?」

 

「カボチャ頭の分を減らしたらシービーが数ミリくらい俺より高いな。随分と大きくなった」

 

「あははは、入学した時から身長はそこそこ高かったけどね。でも更に伸びたかな」

 

「大人になったという事だ」

 

 

ここでは厳しい練習は設けていない。

 

坂路の続くこの道を上り降り往復させるだけの走りもなかなか足腰に来るだろうが、学園で設けたトレーニングよりは緩くてただジョギングを楽しむ程度に収まってしまう。

 

だがそれは別に構わない。

 

リフレッシュを目的としているから。

 

そしてモチベーションの確保。

 

とある育成ゲームに例えるならお出かけコマンドとかその辺りの話だろう。

 

あとは…

 

 

 

「約束通りに連れてきたが、気分はどうだ?」

 

「最高!」

 

「なら良かった」

 

「ありがとうね、マフT」

 

 

 

連れて行ってやる、そう約束したから。

 

半ば強引気味に決まったけど、もう一度くらいこの場所に連れてきたいとは思っていたから不満はない。

 

またこのような彼女とこの場に来れたこと、懐かしく思っている。

 

 

「エンジンは入れてある、水なら暖かいぞ」

 

「ほんと?ならシャワー浴びるね」

 

「ああ。その間に夜ご飯は用意しておく」

 

「ん、わかった」

 

 

ダイタクヘリオスを連れた時と同じように乾麺を湯がいて適当に味を付ける。特段彩りあるような夜ご飯ではないが秋の真っ只中で暖かい麺類は身に染み渡るだろう。

 

それから早めにシャワーから上がってきたシービーと夜ご飯を頂いて、俺はお茶を淹れながら秋の奥多摩を楽しむ。前世とこの世界は酷似しているがウマ娘の存在故に変わっている部分もある。

 

キャンピングカーを停めている大きな駐車場から公道を見下ろせばウマ娘用の歩道レーンが伸びている。

 

そしてミスターシービーと同じようにジョギングをしているウマ娘もちらほら見かける。

 

運動の秋と言うやつだろう。

 

 

「暗くなるのも早いね」

 

「まもなく11月も終わる。そうすれば冬も本格的に始まる。暗くなるのも早い。既に星もよく見える」

 

「またアヤベがソワソワしそうだね」

 

「星を眺めるのが好きだからな。あの歳で随分とロマンチストだ」

 

「… ふーん、やはりそうやってアヤベを口説き落としたらしいね」

 

「……はい?」

 

「アヤベから聞いたよ。マフティーしようとしたらマフTが『それは俺がやるからお前は一等星として走れ』みたいなこと言ってスカウトしたんだって。やはりウマたらしだ」

 

「人聞きの悪い。俺はただその歩みが地獄に等しく厳しい道であることを体感した本人だからこそ、まだ幼い彼女がその眼をするのに苦しかっただけの話だ」

 

「アタシはアヤベからアヤベ自身のことを詳しく聞いた訳じゃない。でも知ってるつもりだから、マフTが差し伸べた意味と行動がアヤベにとって、またウマ娘にとってどれほど嬉しい事なのか理解できるよ。アタシをミスターシービーとして走らせてくれたように。もうこうなるとマフT無しでは走れないよね。 ……やはり狙ってる?」

 

「それこそ人聞きの悪い。ただアドマイヤベガがその幼い年齢でその心境へ身を投じてしまうに危うかっただけだ。だがな。マフティーたらしめる先に救いがあると信じていたその眼はすごく惹き込まれた。ああ、この子はこれまでとんでも無く走ってきて、この後も顧みずに走るんだと」

 

「……アヤベはマフTでよかったよね、見つけてくれた人が」

 

「さぁ、どうかな。彼女は賢いから俺じゃなくてもアドマイヤベガらしく走るだろう。あの子はとても強い。君が言った通りもしかしたら最強になれるかもしれない。そんなウマ娘だ」

 

「でも責任取らないとね。マフTが宇宙の一等星を見つけてしまったんだから」

 

「随分と躊躇いもなく言葉にして重たくしてくれるな」

 

「だってそれほどなんだよ君は。何せ…」

 

 

 

__アタシがそうだったからさ。

 

 

そう言って笑う彼女の横顔はスカウトした時よりも随分と大人びてしまい、今よりもまだ落ち着きなくはしゃいでいた頃の彼女は数年前だったと感じさせる。

 

そのくらいに、彼女は走ってきた。

 

片手で数える程度の年数。

 

でも俺たちにとってそれだけ濃い時間。

 

ほんの少しは寂しさも思う。

 

でも今の彼女を誇らしくも思う。

 

 

「さ、片付けよう。明日も朝から走りたいし」

 

「そうだな。帰りは温泉にでも行こう」

 

「それは嬉しいけどマフTはキャンピングカーでお留守番?」

 

「穴場がある。そこなら問題は無い。ヘリオスの時もそうだったからな」

 

「そっか。なら良かった」

 

 

 

でも…

 

いつかは…

 

そのうちは…

 

この重さを世界が外してくれる時が来るとしたら…

 

 

いや、違うか。

 

そんなことは起こらないだろう。

 

その考えを振り払い夜ご飯の後を片付ける。

 

横から聞こえる鼻歌を拾いながら今日もカボチャ頭を揺らす。

 

それを繰り返すだけだろう。

 

この世界がそうする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2段ベッドがあったとしたらアタシは何となくだけど上が好き。1段目は階段を登らずにそのまま布団へ転がるには楽だけど、ちょっとした階段を登って、登った時にほんのちょっとだけ襲ってくる疲労感に身を任せてだらしくなく布団に転がる。結構好きかな。

 

だからキャンピングカーでも寝るときは2段目を使った。奥多摩へ来るときは1段目でゴロゴロしていたけど、今その1段目はマフTが使っている。それからキャンピングカーのカーテンを締め切り、鍵を閉めた後カボチャ頭を外して首を鳴らしていた。

 

そんな彼を真上から見下ろして、だらしなく腕を垂らしてヒト耳を突っつこうとして、避けられてしまう。

 

 

「貴様ぁ〜、なんで分かるかなぁ」

 

「分かるんだよ、マフティーだから。それよりなんだその口調は?」

 

「ええとね、結構前におばあちゃんがいる海外に遊び行ったらアイルランドから小さな客人が来てね。急にそれを思い出した。それでお目付役の人たちにそう言って少し困らせていた」

 

「お目付役…??まあ、いいや。それでミスターシービーは何をしたんだその客人に?」

 

「ジェラートのお店を案内しただけだよ。その日は少しだけ暑かったから。あと四葉のクローバーを耳飾りにしてかわいかったな。同じウマ娘でかわいかったよ。昔のアタシみたいでとてもかわいかった。……チラッ?」

 

「寝るぞ、シービー」

 

「ええー!少しは構ってよー」

 

「お前は寝れない修学旅行生かよ」

 

「アタシはバリバリ学生だもーん。特におかしいところ無いもーん」

 

「じゃあ顧問の俺は学生と同じ部屋を共有しちゃまずいな。なので上の寝袋で星を眺めながら寝るとするか」

 

「あ、ならアタシも同じにしよ」

 

「絶対面白いだけで発言してるだろ?」

 

「うん」

 

「 し っ て た 」

 

「 い き が い 」

 

 

 

あとどうやらそう簡単に「可愛い」とは言ってくれないらしい。

 

まあ特段言われたいわけでもないけど。

 

言われたらそりゃ嬉しいかもしれないが、可愛いと言われるより「素敵」と言われたいからそこまで求めてない。

 

なので寝る前にマフTの素顔を眺めながら言葉を交わし合って、ぐっすり眠るに充分な満足感を胸に込めて転がる。

 

キャンピングカーの狭い面積。

 

だから天井は近い。

 

寝ぼけたら思わず頭をぶつけてしまいそうだ。

 

そんなこと考えていると電気が消える。

 

夜の9時。または21時。

 

早いけど本格的に寝る時間だ。

 

一段ベッドから光が刺す。

 

 

「何してるの?」

 

「ヘリオスから写真付きのメッセージ来てたから返しているところだ。だが写真を見るとなんか高いところにいるみたいだがこれは展望台か?寒いのによく行く」

 

「パリピって何よりね」

 

「だな。彼女は彼女でちゃんとリフレッシュしてるらしい。強敵だな」

 

「だね。1番の強敵だよ、アタシからしたら」

 

 

 

そう、彼女は強敵。

 

距離によっては全盛期のアタシでも彼女に勝てるか分からない相手。

 

そして今のヘリオスはとんでもなく強い。

 

最強のマイラーであり、太陽神の名に恥じない頂きで輝くウマ娘。

 

それはアタシも無敗の三冠バになった時はそうだったように今はヘリオスの時代。アタシが登っていた頂きはいつしかその場から降りて真上を見上げている。

 

だから似ている、皆。

 

 

「マフTの担当するウマ娘って、みんな等しいよね」

 

「?」

 

 

タブレットの電源を落とす音が聞こえる。

 

マフTもメッセージを返して転がったらしい。

 

 

「皆、"高み"を目指しているかな」

 

「それはマフTの担当で無くとも誰も同じだろ?」

 

「んー、なんと言うかな。例えばだけど、マンハッタンカフェは漆黒の摩天楼って期待されてるでしょう?なんか表現が高いじゃん」

 

「え?…あ、あぁ、そう言う『高い』って意味か…なるほど」

 

「あっははは!なんかごめんね語彙力無くて。奥多摩が良すぎて気が抜けているかも。でも言わんことわかるでしょ?」

 

「わかる。そうなるとダイタクヘリオスは太陽神としての高さかな?…こんな感じか?」

 

「うんうん、そんな感じ。そうなるとシチーはステージの高さかな。あと人物像や目標としての高さも込みで。モデルもレースもやってみせろよ!って感じ」

 

「そうするとナカヤマフェスタはベットとしての高さだな。重ねてきたコインの枚数は相当だろう」

 

「そしたらアヤベは一等星が光る宇宙の高さだよね。物理的に考えたらアヤベが最強かも」

 

「君がアドマイヤベガは最強になると言っていたな。強ち間違いでは無いかもしれない」

 

「かもね」

 

 

なんてことない会話。

 

アタシはそれが好き。

 

こんな時間がもっと続けばいいのに。

 

 

「シービーは…」

 

「んん?」

 

「ミスターシービーはどんな高さだ?」

 

「アタシ?んー、それはマフTが言ってよ」

 

「俺が?言わなくてもわかるだろ」

 

「あっははは、そだね。でも言って欲しいな、マフTが」

 

「…そうか。なら、ミスターシービーは」

 

 

 

 

 

 

 

__マフティーのような高さ。

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は燃料だ。

 

 

アタシをミスターシービーにしてくれる。

 

 

だから終わりを迎えそうなこの脚でも。

 

 

終わりそうになる自己満足だとしても。

 

 

最後の数滴にしかならない振り絞りだろうと。

 

 

アタシを見てくれた彼が言葉にする

 

 

マフティーである彼がそう言ってくれるなら。

 

 

ミスターシービーであるアタシは。

 

 

 

 

 

 

なんとでもなるはずだ

 

 

 

 

 

 

「「「ワァァアアァァアアア!!」」」

 

 

 

 

 

 

目を開ける。

 

周りを見渡す。

 

溢れんばかりの歓声と、それを埋める観客。

 

中山レース場の外からも聞こえる。

 

真冬のターフが熱量で揺れていた。

 

 

 

「姉貴……いや、ミスターシービー」

 

 

 

声をかけられて振り向く。

 

彼女らしく飾られているメイクと勝負服。

 

だけどその色とは正反対に滾る。

 

真冬を忘れさせてくれような、その名に相応しい彼女がアタシの前に来る。

 

アタシの名を呼んで。

 

 

 

「何かな、ダイタクヘリオス」

 

「決着、付けるからね」

 

「それは……マフTのウマ娘として?」

 

「その通りだよ、マフティーのウマ娘

 

 

 

ゲートインする前にアタシと彼女が向かい合えば会場の盛り上がりはまた一段と増す。

 

だが気にならない。

 

目の前にいる。

 

アタシの前に太陽神たらしめるウマ娘がいる。

 

 

 

 

「勝つから」

 

「_」

 

 

 

 

一瞬だけだ。

 

パリピらしさを捨てた彼女は……少し怖かった。

 

 

 

「…」

 

 

 

ダイタクヘリオスらしさを飾る。

 

それがマフTとの約束。

 

だけど、今の彼女は『マジ』ではない。

 

『本気』を全身に出している。

 

なんなら青いオーラすら見えしまう。

 

マルゼンスキー先輩の覇気を思い出す。

 

彼女も"怪物"だったから、そう見えた。

 

でもここにいる彼女はダイタクヘリオス。

 

けど、彼女もソレを迎えている。

 

ヘリオス(太陽神)としての魂が全身から。

 

ああ、そう言うことか。

 

震えてるのは中山レース場じゃない。

 

アタシの方かもしれない。

 

だけど。

 

けれど…

 

 

 

「マフティーのウマ娘に挑むと言うのならそれは簡単じゃないよ」

 

 

アタシだって譲れない。

 

目の前のウマ娘は強いと認めている。

 

誰もが認めて、自分自身も認めようと走る太陽神の名に相応しいウマ娘。

 

彼に応えるためにターフを駆けるウマ娘。

 

だから負けるな。

 

その形に負ける。

 

さぁ応えろ。

 

ここにいるのは誰だ?

 

この場に立っている自分は誰だ?

 

この名前はなんと言う??

 

考えずとも簡単。

 

それはアタシが一番よく知っている。

 

多く語る必要は無い。

 

多く吐き出す意味はない。

 

そうやって彼がアタシを見てくれたから。

 

なら、いつものように、描くだけ。

 

 

 

 

 

「負けないから」

 

 

 

 

 

 

 

アタシはミスターシービー

 

それだけで十分でしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




 


次回

ミスターシービーVSダイタクヘリオスVSダークライ


ではまた

ニシノフラワーは引けましたか?(震え声)

  • 単発で引いた(スプリントギアのコツ)
  • 10連で引けた。
  • 20連以上で引けた。
  • 100連以上で引けた…
  • 爆死ッン!バクシーン!!
  • 親の顔よりも見た天井。
  • 今回は見送り(阪神レース場のコツ)

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