やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:てっちゃーんッ
『この学園にいるカボチャ頭知ってる?』
『チョー知ってる!あれやばく無い??』
『カボチャ頭ってだけでイカれてるっしょ!』
『それよりオーラも凄くね?近づけねぇわ』
『あれでも学園の関係者らしいよ?…マジ?』
『さすが中央ってところだねぇ』
『率直に言うとトレーナーにしたいですか?』
『いやー、キツイでしょう』
それでも。
彼のことは。
自分にとっては。
あの人は。
太陽神のように大きな存在だから。
だから今の自分が、今この場所にいる。
…
…
…
「今頃乗り込んでる頃かなぁ…」
いつもより目覚めが1時間早い。
頭は不思議とスッキリしている。
二度寝も考えたが眠ろうとは思えない。
崩れた寝癖を整え、布団を綺麗に折り畳み、着なれたジャージに着替えてから同室で寝ている子を起こさないように部屋を出る。
顔を洗った後は携帯してる簡単な道具でメイクして、いつものタトゥーシールを張り付ける。
皆が知るダイタクヘリオスが完成した。
それをウマスタにあげた後は軽い足取りで外に出て背筋を伸ばす。
まだ少しだけ暗い空だ。
日は少しだけ出ている。
つまりここにいる自分が一番乗りだ。
「んー、どこまで行こうかな」
なんならキャンピングカーを追いかける?
なーんてね。
そんなの無理無理カタツムリ。
マフTと姉貴の道のりの安全を願いつつ、目的地も無いのになんとなく走り出す。
すると…
「あら?もしかしてヘリオスちゃん?」
「!」
信号待ちに声をかけられて横に振り向く。
そこには赤いスーパーカー。
だが一番驚いたのは乗っている女性。
その脚はスーパーカーと恐れられるひとりのウマ娘であり、日本にいないはずの先輩がそこにいた。
「マ、マル姐!?マジ!!?」
「うふふ、久しぶりね、ヘリオスちゃん。あなたの頑張りは聞いてるわよ」
「うはー!久しぶりやない!?もしかして帰ってきたん?」
「ええ、少し休養も兼ねて戻ってきたわ。あとタッちゃんと一緒に日本が恋しくなってね。だから年明けるまでは日本でしばらくカッとばすつもりよ」
「うぇーい!ジャパニーズホームシックってんねぇ!あ、それで、どこ行くん?」
「ふふふ、ちょっと遠出する感じね。なんなら一緒に来る?朝ごはんも兼ねてイタ飯でも奢るわよ?」
「ウェーイ!!ごちになりまーす!」
唐突なお誘いは大歓迎。
朝から超キマってるエンカにお目目も覚めた。
青信号へ切り替わる前に助手席に乗り込んでシートベルトを付ける。それから全く知らない年代の渋い音楽が車の中で響き渡る。すると青信号に切りわかって一気にスーパーカーが動き出した。
「うひょぉー!」
「さあ!ガンガどこまでもカッ飛ばすわよ!」
マルゼンスキー先輩の車には何度か乗ったことがあり、助手席から見えるこの光景は久しぶりだ。
サイドミラーを見る。早朝で誰もいない道路を突っ切る赤い車のタイヤが紅くアスファルトを切り裂いて走る姿が目に映る。
しかし気づいたら国道に出ていた。
あれ?
どこまで行くのだろうか?
するとウインカーを出して車線を切り替える。
そして首都高を走っていた。
「うぇ?ちょっと遠出って、どこまで行くん??」
「んー、そうね。例えるなら掟破り出来そうな場所かな」
「へ?」
「なーんてね。うそうそぴょーん。あ、その代わりにもう一台来たようね」
「うぇ?」
マルゼンスキー先輩に釣られて横を見る。
一台の車。
何処かで見たことある車。
あ、思い出した。
トレセン学園の近くにある商店街で構える豆腐屋の車だ。それと同じ。
んぇ??
どう言うことだ??
「あらら、これは偶然かな?でも…盛り上がってきたわね!」
「え?え?ええ?」
爆上げなパーティーは大歓迎。
しかし、限度はあると思う。
自分の中にあるハザードランプが「警告ウェーイ!」と勝手に盛り上がる。
するとマルゼンスキー先輩はアクセルを吹かした。
「うひゃーーぁ!!!?」
「ガンガン行くわよー!!」
「うああぁぁ!!ああ!あああ?!!」
「FOOO!!!」
「あ!あー!ああー!あ、あははははは!!!」
気づいたら恐怖心をかき消すように笑っていた。
法定速度は守られてるのか??
いや、そんなこと確認する暇もない。
とりあえず速いことだけはわかる。
大型トラックや一般乗用車に大型バイク。
キャンピングカーなどを抜き去る。
「やはり日本の道路も良いわね!」
「うぇぇーいい!!」
同調する様にいつのまにか気分は爆上げ。
しかし悪くない。
朝早くから完全に目を覚まさせてくれるようなアトラクションにバイブスを上げる。
楽しそうにハンドルを回すマルゼンスキー先輩とサイドミラーに映る豆腐屋と書かれた車と共にしばらく首都高を突っ切った。
…
…
…
自分はそこまで頭は良くない。
だからここがどこなのかわからない。
気づいたら都内を抜けて田舎道を走っていた。
それから景色の良い山に停車。
マルゼンスキー先輩が車のキーを外して運転席を降りたので自分もシートベルトを外して助手席から降りる。
アトラクションのように駆け抜けた重圧感から解放されるが如く、綺麗な空気を肺にいっぱい詰め込んで体を伸ばす。
んー、やはりここがどこだかわからない。
そもそも東京の外なのか?
でも何故だか身が引き締まる。
この場所はどこか戦場のようにも感じられた。
この場所で何が起きているのだろうか?もしかしたら並走していた豆腐屋のお兄さんが知ってそうだ。しかし寡黙な故に少しだけ話しかけづらい。普通ならパリピ全開で絡みに行くところだが少しだけ疲れたからパリピっぴ属性はしばらく充電するとして…
「有マ記念、走ると聞いたわよ」
「!」
「どう?楽しめそう?」
「え?あ、うん!!もちのロン!バイブス超上がってんよー!バリっちょ楽しみ!」
「ふふふ、それはとてもいいことね。レースは楽しむことが大事。ヘリオスちゃんはそれが百点満点はなまるブイだから心配無いわね。でも今の貴方はそれ以上のことでいっぱいそうね」
「!!」
「ナニカに挑むことは…初めてかしら?」
「ぁ…」
有マ記念は楽しみだ。
多くのファンが投票してくれた。
マフティー補正込みとはいえあのシンボリルドルフと同じくらい投票された。
だがそれ以上にミスターシービーの投票が多くを占めていた。
他にもスターウマ娘はいるのにそれだけ彼女の走りは望まれていて、そしてその舞台で走る自分も同じくらい望んでくれている。
正直、このような感覚は初めてかもしれない。
見ている人達、応援してくれる人達。
そして自分自身がダイタクヘリオスの走りを見せたくてターフを走る。
そしてマフTの誇れるウマ娘として知らしめるようにパリピたらしめる。それが彼と約束した日から始まった太陽神の名前。
数年前に見たあの憧れに追いつきたくて始まった自分の独りよがり、から。
けど今は……挑みたくてその舞台に立つ。
それは恐らく…
いや…
間違いなく「あのウマ娘に勝ちたい」から。
何かに勝ちたい。挑戦に夢中なんだ。
生きていてあまり抱いたことない衝動。
慣れないこの感覚に少しだけ戸惑いはある。
それを笑顔で誤魔化しているところ。
その焦りはナカヤマフェスタにはバレてるようだが。
けど、この感覚は多分だけど…
「でもそれは間違いじゃない。正しく奮い立つあなたのハート。周りのためじゃない。自分のために慄える鼓動。それは正しい」
「…」
「それでも、すこしだけ怖い?」
「………正直、ウチはそんなウマ娘とは、言い難く思ってたから、かな…」
ウチがギラギラして睨むように__挑む。
そんなの自分のキャラじゃない気がする。
そう…脳死するが如く、はしゃぐ。
それが走りになり、笑顔になり、ダイタクヘリオスとしてただ証明する。
それだけだった。
別にそれでも良かった。そこに笑えるウマ娘がいて、応えてくれたマフTがいる。
それは充実だ。満たされる。
それだけで良いと考えていたから。
けど、けれど…
「でも、どこかでウチは強く望んでいたんだとおもうんよ」
「…」
ウチにとって今ある原点は姉貴と同じところから。それは同じ。仲良し。
でも今はそれだけじゃダメ。
ウチは必要だからそうする。
それは
それと同じウマ娘に挑む。
だから、これは…これは……
ええと…
だから…
これ…は……
なんといえばいいか…
「無条件なんだ」
「!!」
「あら、珍しいわね」
静かに遠くを見ていたその人は呟くように言った。
それ以上の言葉はない。
でも、何故だか……スッと、身に入った。
「そっか、そうだ。これは…そうなんよ」
理解した。
これは、マフティーだ。
マフティーのようなモノだ。
そう、これは"無条件"なんだ。
そうしたいから、そうしている。
ウチは「キミとカチタイ」から、走る。
約束を果たすために、示すために。
なら、戸惑ってる意味なんかない。
そんな必要なんか無い。
そうしなければ__マフティーじゃないから。
「すぅぅぅ……」
呼吸する。
大きく息を吸う。
太陽に少しだけ近いこの場所で。
太陽に向けて。
「ウチはマフTのウマ娘、ダイタクヘリオス」
__俺の名はマフT、またはマフティー。
同じように言葉にする。
そうすれば、自然と定まる。
カボチャ頭を被るように、視える。
「迷ってる訳じゃない。ほんの少しだけ戸惑っていただけ。でも、今、ちゃんと決めた」
顔をあげる。
朝日が登り切った。
見下ろした大自然はオレンジと緑色に染まる。
緑色は心が穏やかに、でも陽の光で熱が灯るように、ここから自分自身を見る。
「そうだね。マフT。ウチは挑むよ。挑んでみせるよ」
憧れに挑む。
そして、マフTのウマ娘になると。
「……えへへ、やっぱなんか違うね」
やはりキャラじゃ無いかもしれない。
恐らくそんなウマ娘じゃない。
でも今回だけは『マジ』じゃない。
『
それだけ
「なら、そんなヘリオスちゃんに、お姉さんからひとつだけアドバイスするわ」
「?」
すると私の真後ろに立って、両肩に手を乗せる。
軽く手を乗せられただけ。
でも、ズシっと重い。
重みがある、マルゼンスキーと言うウマ娘に込められた重さ。
「最後に走る中山の直線は、望みなさい」
「望む…?」
「ミスターシービーが後ろから来てくれることを望みなさい」
「!」
「そしたらそのレースは、挑戦する者にも、挑戦される者にも、その脚と魂は、本当の本気になれるから」
その意味は少しだけ難しく思えた。
でも、わかった気がするんだ。
あとついでに豆腐屋のお兄さんもその意味にほんの少しだけ微笑んでいるように見えた気がする。
「……!!」
ウチは望んでる。
そうであって欲しいレースに。
「私の代わりに、あの子を打ち負かしてね」
その言葉を受け止めて。
「勝つから」
「負けないから」
真上に登り切ったその太陽は。
過去最高に__神ってるから!!!
♢
その男は最初、誰にも理解されない。
そうせざるを得ないカボチャ頭と共に。
しかし一人を除いて、彼と足並みを合わせる。
彼の存在が正しく狂ったモノとして。
たらしめれたのだから。
ゲートの開かれた音は始まりの合図。
始まった。
始まってしまった。
大歓声の中で夢を背負ったウマ娘が走る。
埋まりきらない人々の数、会場の外にも大型のモニターが建てられており、一部の道路は通行禁止にされて道路には屋台や椅子などが並べられている。現場スタッフもレースを気にしながら行方を見守っていた。
そんな会場の一番前の席にいる。
カボチャ頭を被ったトレーナーが。
「…」
もう見慣れた姿だ。
レースの固定概念を変え、トレセン学園も変えてしまい、ウマ娘のために現れた存在。
未だに謎は多く、未だに明かされ続ける。
その男が見ていた。
この有マ記念を。
ただ敢然とそこに立っている。
どこまでもマフティーだ。
いや。
本当にそうだろうか?
「………」
カボチャ頭の中は見えない。
その素顔を知る者は指で数える程度だ。
だからわからない、この男の顔を。
わからないからこそ、表情は明かされない。
しかし、それは幸運か、または不運なのか。
カボチャ頭のトレーナーは…
歪みそうになるその表情を…堪えていた。
「……」
マフTは、冷静なフリをしていた。
体に表れずとも、それは大きく揺れていた。
__どちらを応援する?
__自分はどちらを応援すれば良い?
__違う、どちらも応援するに決まっている。
__頑張る彼女達を応援する。
分け隔てなく、平等に……なのに。
それを拒んでいた。
心と頭が「一つを決めろ」と訴える。
思わず、拳に力が入る。
「…」
ウマ娘達が目の前を通過した。
蹄鉄によって芝がめくれる。
先頭にはダイタクヘリオスが。
そして中団には多くのウマ娘。
シンボリルドルフの姿もある。
大歓声をかき分ける有力なウマ娘が通り過ぎる。
そして最後方にはミスターシービーだ。
マフティーのウマ娘が走っている。
囚われなく自分のために駆けている。
「………っ」
「……マフT?」
大歓声の中で隣に立っていたマンハッタンカフェだけは気づく。
心配するように声をかけた。
他の担当は目の前のレースに夢中だ。
だからマンハッタンカフェの声と、どこかひび割れそうなマフTの音は周りに聞こえない。
「心配無い。少し……うるさいだけ、さ」
「……」
堪えるようにこぼす。
その声色にマンハッタンカフェは心配だったが、レースに集中した。
ウマ娘達は第二コーナーを曲がる。
その後ろ姿を見送る。
熱を感じた。
太陽神の後ろ姿だ。
1000mを超えても脚は衰えずまだ回る。
「俺は…」
__ウチは誇れる自分に…!!
その言葉は、見ている光景が答えとなって返ってくる。
マフティーに囚われず、マフティーの重力に潰されず、
彼女は立派になった。
周りが認めるほどになった。
だからこのレースで走っている。
ダイタクヘリオスが駆けている。
皆にその姿を見せることで。
そして何より、マフTに見せることで。
『さぁ向正面に入った!先頭を走るダイタクヘリオスは3バ身先!その脚は衰えない!!』
マイラーとしての距離はとうに超えた。
これからが厳しい。
ダイタクヘリオスの土俵外。
そしてこの長さはミスターシービーの土俵。
だがその3バ身は縮まらない。
向正面を走り切り、第3コーナーを曲がる。
横顔しか見えなかったウマ娘の必死な顔が見え始める。すると中団に位置づいたシンボリルドルフが大きく動きだす。いつもより少し速いが仕掛けてきた。差が開く前にダイタクヘリオスを差すつもりだ。
その皇帝から始まった勝負の仕掛けに中山レース場の熱は一段と高まり、そして周りのウマ娘も第4コーナーを入る直前に仕掛ける。
___ここでなら追いつける!!
集ったウマ娘は皆、重賞レースで挑んできた強者ばかりであり、弱いはずがない。
だから走りに間違いなんてない。
多少の誤差を有りしも、それを実力で補える者たちだ。
12月の最後まで走ってきたその自信を脚に込めて走ろうとして…
___喉が焼けるような熱波が襲った。
「「「「「ッッ!!!???」」」」」
驚く。
走っているウマ娘だけではない。
見ている者達もその姿に驚く。
なぜなら笑っていないから。
先頭を走る彼女は笑わない。
ダイタクヘリオスは、笑っていない。
タトゥーシールが崩れるくらいに歯を食いしばり、目の奥は溶鉱炉の如く滾り、12月の寒さに包まれた中山レース場の冷風はダイタクヘリオスを中心にかき消される。
「(これはッ…!!)」
シンボリルドルフは"見て"理解する。
その不気味さを。
また。
「(こ、この感覚ッ、どこかで…!!)」
7番人気で参加していたビターグラッセも数年前に感じたことのあるこの不気味さに思わず足が止まりそうになった。
分厚く頬を撫でる恐ろしさ。
いつだったか、とある人間と対面し、初めて心の底から恐ろしくなり思わず殴ったことのある痛い記憶が一瞬だけ過ぎる。
恐怖心が封じ込めていた記憶だ。
しかし深くは思い出せない。
だが感じたことが有る故に、ビターグラッセはそれを連想する。
それでもただ感じるだけ。
だが中団にいたシンボリルドルフだけは感じる他にソレが見えていた。
強くなったウマ娘のみがその高みを理解するようになり、見える。
ダイタクヘリオスから赤いオーラが。
喉を焼くような。
目が眩みそうになるような。
熱波のようなプレッシャーが。
「(まるで陽の熱…ッ!だが、ァ…!!)」
シンボリルドルフは折れない。
鍛えられてきた精神と肉体はダイタクヘリオスに負けない。
皇帝として"絶対"を見せる。
この有マ記念の注目がマフTのウマ娘だろうと一着を取って、皇帝の名に恥じぬウマ娘として証明するから。
そう気持ちを切り替えて、踏み込もうとして…
レースに絶対は無いよ、ルドルフ。
「____」
一瞬、躊躇いそうになる。
聞こえてしまったから。
でもそれはすぐにわかった。
プレッシャーは一つだけじゃ無い。
もう一つこのレースにあったんだ。
『ミスターシービーが上がってきた!!ミスターシービーが最後方から上がってきた!!やはりこのウマ娘は上がってきましたミスターシービー!!』
第3コーナーからロングスパートを掛けていたミスターシービー、しかしその速度上昇はあまりにも緩やか。
どこか距離的判断ミスでも起こしていたと思っていた。
けれどそんなことはない。
利用された。
ダイタクヘリオスのプレッシャーに。
そこに意識を奪われた、ほんの数秒。
切り替えようとして溜めた脚を解放しようとした呼吸一つ分。
だから、不意をつかれる。
それを板挟みにする形で…
「(真後ろかッッ!?いつのまに……!!)」
「(何が衰えだよ!全然じゃないか…!!)」
警戒していた位置取りに不意を打たれたシンボリルドルフと、その少し後ろにいたビターグラッセは計り損なった上にそのパワーの違いに驚きを隠せない。
まだクラシック級とはいえ秋華賞を取ったことは実力の高さを証明する。だからビターグラッセは周りに劣っているつもりはなかった。しかしそれはもう意味がない。実力以上のナニカを感じていた。
「っく…!!」
それよりもやばい完全に射抜かれている。
最後方から、マフティーのウマ娘に…!!
「(油断してたわけではない。警戒はしていた。だが私に一歩分遅れを取らせるためにヘリオスを利用してさらに畳みかけるこのピンポイントな牽制力を…!!だ、だが、それはつまり…!!)」
ダイタクヘリオスを信じていた。
その強さを。
それが無ければ成立しないこの現状を。
プレッシャー。
前方から襲いかかる熱心と、後方から襲いかかる重圧、思わず毛を逆立ててしまうような流れは完成しなかった。
「(ッ、
思わずだ。
思わず、悪態をついてしまう。
素直にいえば、怖かったから。
こんなの経験にない。
こんなの、正しく説明できない。
別にこれまでプレッシャーを感じたことの無いレースを走ってきたつもりはない。
むしろ皇帝の名に恥じぬ活躍を望まれたプレッシャーだらけのアスリート人生。
だから慣れている……つもりであり。
勘違いをしていた。
これは____駆け引きだ。
これは 期待 と言う重みでは無い。
これは…
こ、これは…
マフティーと言う重みなんだ
先に行くよ。
ルドルフ。
「っ!!!」
呟いたわけでもなく、目で訴えられた訳でもなく、追い越してしまうその姿が解答。
もうアレに追いつけない……かもしれない。
「(まだだ!まだ終わらんよ!!)」
遅れそうになったがまだ距離はある。
この直線で差し切る。
そして勝つ。
シンボリルドルフは目を開き、声を振り絞るようにミスターシービーの後を追いかけて、その声を埋め尽くす大歓声は中山レースの地を揺るがすと、同じ
またゴールドシチーはモデル業で歓声に慣れていたが、今回ゴールドシチーの付き添いに甘えてやって来ていたユキノビジンは都会の迫力に目を回していた。
それからマンハッタンカフェもG1の歓声に慣れているためそこまで驚かず、あとイマジナリーフレンドが不思議なパワーで耳を緩和していた。
だからマンハッタンカフェは夢中になりすぎて爆声の対応策を遅らせてしまったアドマイヤベガの耳を代わりに両手で押さえる。
それでも片目を瞑って煩さに堪えるその表情はウマ娘の苦労が伺える。
そして唯一、反応が薄く思われるトレーナー。
「……」
ただ、敢然と見ている。
変わらない。
いつだって変わらない。
数年前のミスターシービーの皐月賞も、日本ダービーも、菊花賞も、有マ記念も、天皇賞だって、静かに見守るだけだ。
だからマフTはいつでも変わらない。
そう思っていた。
そう思っている。
周りはそう考えて。
「……ぁ…ぁあ……!」
そう見えるだけ。
全てをかき消すような歓声の中で声が密かに震えていた。
「ぁ__ぁぁ、ぁ…!!」
無意識だ。
見ている光景に対して、無意識だ。
それと同時に 選択 が襲いかかる。
走っているこの光景が締め付ける。
どうして??
なぜならマフティーだから。
そしてマフTなんだから。
_頑張っているんだ。
_果たそうとしているんだ。
_たらしめようとしているんだ。
_なのにどうしてこうも揺れ動く??
彼は自分が強く無いことを理解して、カボチャ頭がなければ挑めないことも承知する。
理不尽の中で戦えたのは概念があるから。
そう言った知識と記憶。
ソレは無条件だから、この世界で作り上げたマフティーと言うのは。
だから彼自身はそうじゃない。
今この場に立っているのはマフT。
マフティーではない。
だがマフティーなら無条件だ。
叫べる筈だ。
叫ばなくても伝えれる筈だ。
やって見せろよ、シービー
やって見せろよ、ヘリオス
そのくらい簡単だ。
ならこのカボチャ頭の重みを思い出してマフティーに染まれば、いつものようにマフティーすることはできる。
だから「やって見せろよ」と言え。
いつものように言えばいい。
そうすれば、間違いない。
そうできたらマフティーとして正しい。
だから、言うんだ。
そうすれば__
そうすれば___
そうすれば______
「___違う」
『中山の直線に入りました!!先頭はダイタクヘリオス!!決死の想いで坂を駆け上がり!!そして外からミスターシービーが来ている!!ミスターシービーが来ている!!』
やって見せろ___よ
『だがミスターシービーが追い縋る!!残り200メートルだ!!これが短いかはたまた長いのか!!しかしこの直線は二人の世界だ!!今ここに二人しかいません!!』
やって見…せ__ろ___
『残り100メートル!!シンボリルドルフ少しきついか!?ああ!ミスターシービーが並んだ!!いやダイタクヘリオスが前を出る!!だが並ぼうしている!!互いに!互いに!譲らない!!』
やって見せ______
____
___
__
_
「__……ば…れ」
こぼす。
「うおおおぉぉぉぉおおおお!!! 」
「 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
はしる。
「…ん……ば…れ」
こぼせ。
「ウチがぁぁ!!ウチがァァァア!!」
「アタシが!!!アタシがぁぁぁ!!」
さけべ。
「……ん、ば……れ…ぇ…!」
さけんで。
「シービーィィィィィィッッ!!!!」
「ヘリオスゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」
さけぶんだ。
「…がぁ…ん、ばれ…っ……!!!!」
これでいいのか…??
「っ……!!」
掠れた声は、カボチャ頭の中だけ。
それは、絶対に響かない。
マフティーで無ければ、それは響かない。
促せやしない。
届きや、しないんだから。
だからまたこの便利な頭に頼るのか?
それともマフTとして見守るそれが正しのか?
なにを…
なにを選ぶと言うのか??
分からない。
分からない。
なら、マフティーで無ければいいんじゃない
「ぇ…」
声が聞こえた。
時間が止まったようだ。
それは聞いたことある、声だ。
まるで 日曜日の静けさ を思わせる、そんな音。
だからこう応えられた。
「ぇ…」
「マフ…てぃ…い?」
「!?!?」
「なっ……!!」
握りしめて、それを手離して、ソレは落ちる。
目を開ければ視界が広がった。
呼吸しやすいその場所で息を吸い。
よく見える中山レース場から。
カボチャ頭を無くしたトレーナーは__叫んだ。
それはあまりにも残酷だった。
とても、とても、残酷極まりなかった。
このカボチャ頭で選ぶなんてできない。
約束を果たそうとする彼女にも。
最後を描き切ろうとする彼女にも。
どちらかなんて決めれない。
そうしなければならないから。
そこまで背負ったからこそ、必要だから。
でも、それで構わない
構わないんだ。
この選択を選び取り。
ここから地獄だとしても。
それでもここにいる。
自分自身が
「ッッ、!!!」
「ッッ!!!!」
なんとでもなる筈だ。
「マフTィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」
「マフティーィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」
そのレースは同着のように見えたらしい。
つづく
一人の”マフティー”として考えた結果。
これも一つの『応え / 答え』だと思っている。
ただ、それだけです。
あ、ちなみに写真判定はダークライに任せました。
ではまた
ヤエノムテキは引けましたか?(震え声)
-
単発で引いた。
-
10連で引けた(ペースアップのコツ)
-
20連以上で引けた。
-
100連以上で引けた…(闘争心のコツ)
-
爆死ッン!バクシーン!!
-
親の顔よりも見た天井。
-
今回は見送り(食い下がりのコツ)