やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:てっちゃーんッ
あとは”例のセリフ”を叫ぶだけや!!
中山レース場はあんなにも広く、あんなにも外の空気は冷たく、だが会場の熱は冬空を紅い色に染め上げている。
初めてだった。そう感じたのは。
マフティーの象徴を忘れ、マフTである事を忘れて、何もない俺と言う存在が、ウマ娘が走っていたそのターフに夢中だった。
だから狭かったその視界は、正しく狂っているカボチャ頭の中だけだからその重みは拭われたように感じて、カボチャ越しではないこの眼で見渡せたその世界は新鮮だったんだ。
そして思わず、この体は叫んだ。
この世に導かれた魂がウマ娘に惹かれたから。
ウマ娘の重力に囚われようとしたように、その存在はまるで地球の引力のごとく我々達を連れ去ろうとする。
真っ直ぐと力強いニュータイプに出会えた安心感を抱いたハマーン・カーンもこのような気持ちだったのかもしれない。
それはそうだ。俺だって目の前を駆け征くあの二人に惹かれたんだ。
安心すら覚えた、奮えと震えに襲われた。
俺のために二人が勝ちを得ようと巡り合っていた。
だから選べなかった。
けれど選びたかった。
軟弱に溺れず選びたかった。
だが選ぶなんて、それは出来なかった。
委ねる形だった。
__やって見せろよ。
そう言って、託した。
それはまるで…
「
まるで他人事のように呟いたその日は年が明けて、ふと真夜中に目が覚めた。
実家に帰投した担当ウマ娘から年明けの挨拶のメッセージが数件ほど届いていた。
それぞれのメッセージに返事しながら厚着して、外に出て、初詣に向かう者達を見送りながら俺は別方向へ足を進める。
気づいたら三女神の前に立っていた。
それから三女神に背を向ける形で水を貯める石に座み、囚われのない
そして声をかけた。
「君がコレを外したんだろ」
『外したよ』
その場所にいた事に驚きはなく、俺は言葉をかける。
寒さを描く白い吐息はここにいる俺だけ。
隣の存在は日曜日の静けさを知らせるように白い息は吐かれず、俺とマンハッタンカフェだけがこの存在を理解できる言葉のみこの場に吐き出されている。
「君は悪いことをする。皆はターフに夢中だったから、俺の姿を認知した者は全くいない。誰か一人か二人は俺の横顔か、または後ろ姿を見たかも知れないが、やはりこの素顔は皆が抱いてしまった概念にかき消されてしまった。だからその真実は変わらずこのカボチャ頭の中だ。その結果として俺はあの中山レース場で外した後もこうして何事もなく被っている。また元通りだ」
『…』
「だから少しだけ期待してしまったよ。俺はもう『マフティーで無くて良いのか』と安堵や期待があった。この重みを外せるのかと、囚われることなく、正しい形で地球の引力に惹かれてしまった痛みを知る赤子と変わりない、そんな一人に染まれるのではと願いそうになった。でもまだこの世界はちゃんとした残酷に招かないらしい」
『……されど、貴方はマフティー』
「だろうな。そうに違いない。まだ俺はマフティーとして、またはマフTとしてこの世界に促さなければならない。そう言うことだろう。まだまだ俺はこれを被る必要がある。そう、だからだな。少しは君を恨みたくもなった」
『そうだね、わかってる。……でも…』
「ああ、わかってる。だからありがとう。あの時、君が後ろから外してくれたから
もう先週の話。
有マ記念を走り終えたウマ娘達。
特段焦った表情したマンハッタンカフェからカボチャ頭を受け取って、俺は民衆集う中で何事なかったようにまた被った。
俺の姿を、もしくはこの素顔を見た者は把握してない。
どこかで見ていた者がいたかもしれない。
だがイマジナリーフレンド曰く、あの瞬間は全ての視線も、熱意も、声援も、意識も、有マ記念を走るウマ娘達に向けられていた。
それはマフティーに惹かれる以上の出来事が目の前にあったから、賞味期限切れのカボチャ頭に視線は合わされず、その味を知っている担当ウマ娘達しかその異常に気づかなかった。
「…」
そしてあの後の担当ウマ娘の反応はそれぞれだ。
ゴールドシチーはやや呆れていたが気持ちを汲んでくれたのか俺の奇行に納得してくれた。
ナカヤマフェスタも最終的にロリポップを口から落として驚いていたがその意味を理解してたのか分からないが最後は笑って受け流していた。
アドマイヤベガはマフティーを知るマフTとして約束した俺の行動を見て何か考えるようにして視線は再びターフの方に戻された。
あとゴールドシチーに連れて来られていたユキノビジンはしばらく固まっていただけでその感情はわからない。
そして…
__ウチ、知ってる!聞こえた!見えてた!。
__だから!あざまる水産!
__そんなマフTのこと!ウチ!好きっピよ!
と、頬を描きながら。
__聞こえてた。聞こえてたんだ。
__だから、
__
と、こちらの肩に頭を押しつけながら。
それぞれを乗せられた気持ちは、それぞれの言葉となって、俺はそれぞれを受け止めた。
マフTも、マフティーも、あの一瞬だけ忘れることができた。
「どちらを」とか「どちらも」ではない、ハッキリとしない答え。
それは結局「マフティーだから」としてあやふやにしながらも意味がそこに存在してるように子供騙しを繰り返して、けれどやはり意味は存在するようになってしまう。そんな流れを勝手に見出しながら、思い描きながら、深くは考えてなかった。
だが、後悔は無い。
あの時、外せることができた事実がある。
あの時、叫ぶことができた事実がある。
あの時、ただ一人として見ていた事実がある。
カボチャ頭の中で回答を描かない、俺自身が答えでもあったように、中山レース上は真冬の寒さに負けない熱量をこの素肌で感じ取れたのなら、間違いなんかでは無いはずだから。
『今年も、マフティーするの?』
「するだろうな。恐らくは」
年が明けても外してない時点でそれは答えだ。
何せもう去年となった最後のレース、有マ記念で外したのにまた被っているから。
拾い上げてくれたマンハッタンカフェから受け取って何事もなくマフTまたはマフティーに戻したから。
あの中でコレを外せたことに喜びはある。しかしまたコレを被れたことに抵抗もない。それとも慣れすぎた故にそれが普通となってしまったからなのかわからない。外せるなら、外す。被れるなら、被る。
結局、選びきれないだけ。
地球の引力に囚われた人間そのまま。
脚を地面に付けているから仕方なく歩く。
そのくらいマフティーはこの世に定まった。
しかし忘れてはならない。
ただコレはウマ娘プリティーダービーの世界で誤魔化すに便利だったからそうしていただけなんだ。
救われるために行った致し方なさ。
そこまで綺麗な産物では無い。
救いきれなかった哀れな魂が異物なジャック・オー・ランタンと化しただけの話だ。
それがこの体、そして魂。
もしくはこの世にある因子とやら。
マフティーを知ってるファクターなんだ。
だからこのカボチャ頭自体大したモノではない。だって。
「やはり、外すと外は寒いな」
こんな簡単に外せてしまう。
大したモノじゃない。
誰もが百均にある材料で創作できる頭。
前世から持ってきたマフティー性をカボチャ頭にしただけで、それが結果的に偶像礼拝のように神格化されただけ。ミスターシービーの頑張りによって世間に促せただけ。
見てみろ。中身を見ればなんてことない人間の顔が水面に映るではないか。
どことなくテロリストと化したマフティー・ナビーユ・エリンの顔立ちに似ている気がするがあの頃よりも一回り成長した。もう大人だから体に変化はないと思ってたが境遇が合わされば顔つきも変わるらしい。
あの頃は随分と弱々しい感じだったから、今はどうだろうか?
いや、わかりやしないか、そんなことは。
「……」
脱いだカボチャ頭を見る。
コレはマフティーとしての形。
概念をわかりやすくした、目印。
「
『でも、間違いではない』
「矛盾してるな」
『好きの反対は"嫌い"じゃない。なぜなら好きの反対は"無関心"だから。そして正しさの反対は間違いではない』
「なら、その反対は?」
『正しさの反対は"不正"。それは正当ではないと言うこと。まともじゃないと言う意味』
「それは結局間違いって意味じゃないのか?」
『正しいとはまっすぐであること。まともじゃないと言うのはまっすぐじゃない歪さから。でも歪なだけで、進むべき道が報いになるならそれは歪みきった道標だろうとも正しくあるんだよ』
「勝てば勝者だろ、それを言うなら」
『あなたは正しかった。それがマフティーとしての正しい答え。でも言葉にするなら』
「
肯定とも受け取れて、否定とも受け取れる。
どっちも俺であり、どっちも俺じゃない。
もしくはマフTでもマフティーでもない。
マフティーしていた、俺のみに対する解答。
『そして…… どっちも言葉の通り』
続く声に手元にあるカボチャ頭から視線を外し、その横を見れば暗がりで表情の見えない日曜日の静けさを思わせるイマジナリーフレンドがこちらを見て続ける。
『有マ記念に引き込まれた貴方はマフTまたはマフティーとして見るべきじゃない。真っ直ぐとターフを見ていたのならそこに歪さなんて不正だ。だから言ったんだ。その時の貴方は本当の意味で正しくあってよかったんだと』
「それでも、俺はトレーナーのつもりだよ」
『それは役割。けどあの時の貴方は中央のマフTでも無く、ウマ娘のマフティーでも無い、ウマ娘を見ていた
「…」
その言葉は、恐らく俺を忘れさせてくれる。
カボチャ頭を被っていた人間だったことを過去形にしてくれるんだ。
でも、これは…
「呪いだからな」
三女神から与えられた怒り、または悲しみ。
そして最後は願いとして変化した。マフティーと言う概念がウマ娘の世界に促されたから。
だからウマ娘のために始まったんだ。
この体は呪われた。ウマ娘の三女神によって。
その呪いを再び…被る。
カボチャ頭として。
また狭くなる視界。
そしてほんの少しだけ減ってしまう酸素量。
夏は暑さで鬱陶しく、冬はそれなりに便利。
それが世間でカボチャ頭を被ると言うこと。
「俺はマフTまたはマフティー」
三女神を見上げて「それから…」と続ける。
もうこの世に亡き魂に向けて名を告げて。
「マフティー・ナビーユ・エリン」
それが元々あった名前の正しさ。
縮めてマフティー。
前任者の魂を乗せれば、マフティー・エリン。
呼び名はさまざまだ。
でも自分を名乗るなら。
「この学園ではマフT、それ以上でもそれ以下でもない」
月を見上げる。
月上がりに反射するカボチャ頭の額に刻まれた三つのマークだ。
蹄鉄は ウマ娘 として。
十字架は 贖罪 として
傾いた月は正しさを失った 歪さ として。
それを世間に促す。
マフティー・ナビーユ・エリン。
正当なる預言者の王。
俺自体はそれほど大それた存在では無い。
だがウマ娘がマフティーを求めると言うのなら、マフTとしてやることは一つ。
『それと、マフT』
「?」
この魂はいつだって__
『「明けましておめでとう、これからもあの子をよろしくね」』
「ああ。こちらこそ、今年もよろしくな」
応えるために在るのだから。
♢
「まぁー、ふぅー、てぃー」
「ンふーッ!」
「…」
ぎゅぅぅぅぅぅ…!!
ブンブンブンブン!!
みしみしみしみしみしぃぃ… と、圧迫されてそこそこ苦しくなっている。
現状を整理。
ソファーの真ん中に座った俺。
そして右腕には有マ記念を最後に駆け抜けたミスターウマ娘が一人。
その反対の左腕には有マ記念の栄光を勝ち撮った太陽神が一人。
年明けに担当が帰ってきて早々にこれだ。
有マ記念が終わった後もこのような状況に発展したのだが、今年いきなりこの状態から始まるとは思わなかった。
さて、これが幸せと言える人がいるならその人はとても慕われているトレーナーの一人なのだろうが、かれこれ1時間はずっとこの状態であることを考えると流石に疲れる。
あとウマ娘パワーが怖い。
これが、G1ウマ娘の姿とでも言うのか…?
「おいたわしや、兄上……………ふふっ」
「カフェ〜?少しは助けてくれてもええやんで?」
「遠慮しておきます。重賞ウマ娘に勝てませんから」
「あ、はい」
二人目の担当ウマ娘だけあって今の俺たちに対する扱いを理解するマンハッタンカフェはアドマイヤベガとユキノビジンにコーヒーを淹れながら微笑ましそうに眺めるだけ。こちらを助ける気は無い。
またこちらを無視して携帯を弄るゴールドシチーからの助けは期待できない。
目線で訴えてもナカヤマフェスタも完全にこちらをスルーして飴玉を転がしながらスポーツ新聞を開いていた。
そのため左右からしがみつくこの二人の自制心に期待するしか無いらしい。
掛かっているようですね?
一息つけると良いですが。
「まふてぃー、まふてぃー、なんか色々とまふてぃー」
「雑な構ってちゃんだなオイ」
「だってぇ!だって!!なんだかんだで負けてお家帰ったもん!!」
「痛い痛い!やめい!耳のテシテシ痛い!」
「負けたー!まけたぁー!しっかり負けたし!頑張ってまけたんだ!まけたんだよー!負けヒロインだぁー!アタシは負けたヒロインなんだー!うああああああん!!」
「痛い痛い痛い痛い!耳元で暴れるな!神経が苛立つ!!」
「まぁ、ヘリオスに負けたのなら納得かな」
「うわ急に落ち着くな」
それでも耳のテシテシを止めるつもりないみたい。
てか「テシテシ」より「ベチン!ベチン!」って感じの愛情表現なんだが普通にウマ娘パワーで叩かれているから痛い。
ヘルメットがなければ即死だった…あ、いや、今なにも付けてねぇや。
てかヘルメットすら無いこの素顔で親にもブたれたことないのに!されてるのか。
「でも後100メートル距離があったらアタシが勝ってたと思うけどね」
「それな!!」
「ぐぇ」
「あ、めんご」
ミスターシービーの言葉に同調するダイタクヘリオスはブン!と顔を振り向かせるが、その時にまた耳がベチン!と頬を叩く。
に、二度もぶったな…!?
親父にもぶたれたことないのに!!
あ、でも、よく考えたら前任者が過去にビターグラッセからぶたれた事あったな。
……どうでもいいわ。
「でも正直に言うともう100メートルあったらウチは負けてたんよ。それは間違いないんね」
「全力で2000走った後に襲う中山の坂はキツかったでしょ?あれは足が壊れる」
「それな!マフTの施術が無かったらウチのあっしーがムリムリでカタツムリってた!でもお陰でウイニングライブはテン上げでガチアゲの超アゲちゃぶる!!今もあの日の峠超えてんねぇ!」
「……峠?」
「山!上!下!文字を合わせて峠!」
「タカトラバッタ風に言われてもね」
「それよりヘリオスさんは峠書けるんですね」
「カフェちんひどくね!?」
「でも後輩のアタシがヘリオス先輩の勉強教えてんだし、カフェの反応はごもっともじゃない?」
「シチーんの援護射撃きたァー!チョーつらたにえん!」
数日前まで有マ記念であんなに激熱していたと言うのにこの部屋に戻ればいつも通り。
ダイタクヘリオスを中心に騒がしい。
カボチャ頭の笑みも強まってる気がする。代わりに素顔の俺は時折本気で締め付けてるような痛みに堪えているけれど。
前任者、お前の体は思ったより丈夫だな。
「あ、あのぉ…」
「「「?」」」
「ひぇ!?」
「どうしたの?ユキノ」
「いや、その、ええどですね?わ、私もここに居ってよろしいのかと思いまして、なんかコーヒーも頂いて、すこぐおいしいんですけど、お邪魔してるのではと思いまして…」
「別に邪魔でもないよ?ユキノは友達じゃん」
「け、けどぉ…」
「まあ、そうね。強いて言うなら…」
ゴールドシチーの言葉に全員が振り向く。
ナカヤマフェスタもスポーツ新聞読みながら目線だけこちらにジロリと見せて、アドマイヤベガはコーヒーを啜りながらも突き刺すようなジト目でこちらに牽制して、テーブルに置いてあるカボチャ頭も俺を見ている。
そして、皆が口を揃えて。
「「「マフTの素顔を見たからかな」」」
「ひぇぇ、やはり都会は恐ろしいべ!!」
ダイタクヘリオスを除いた追い込みバ達の眼光に都会慣れしないユキノビジンは怯む。もちろんゴールドシチーやナカヤマフェスタのように脚質が差しのウマ娘もいるけどレースの位置取りは追い込み寄りなのでそこまで変わりなく感じている。
なので最後方から貫かれたようなプレッシャーはウマ娘を怖がらせるに充分だった。
これがマフTのウマ娘の性能だと言うのか!
「まあ素顔見た云々は冗談なんだけど、マフTはユキノのことそれなりに気にかけてたよ」
「え?」
「んぁ…?………あー、まぁ、そうだな」
そう話題を振られたことで耳テシによる現実逃避から引っ張り戻されて意識はゴールドシチーとユキノビジンの方に。
一応聞こえてはいたので気の抜けた表情を少し戻して言葉を送る。
「まあ、このお喋りの言う通りかな。あの後模擬レースで満足の行く結果を出せたのか気になってたよ。一応走りを見てやった身だ。その後もうまくいってるのか、多少なり…な?」
「お喋り言うなバカボチャ」
「よく喋る」
「はぁてめぇ年明け早々にぶっ飛ばすぞ」
「やってみろよ起床難。今年はちゃんと起きれるといいな」
「アッタマきた!ヘリオス先輩!シービー先輩!抑えてくれませんか?」
「このままでいるから別にいいよ」
「ヨロたんウェーイ」
「やめろー、やめろー、ウマ娘パワー反対!ちょっと落ち着けシチー!話せば分かる。そう、お喋りだけに話せばわかるから」
「ああもう!!うっざ!!!もういい!動くなよバカボチャ!!」
「心配せずとも動けねぇよ」
そう言って軽く耳を絞ったゴールドシチーに真正面からウマ乗りにされる。
香水の甘い香り。それから練習で鍛えられたモデル体型の整った体。
何よりこの至近距離だと顔は誰もが綺麗だと見惚れてしまうだろうが生憎俺からしたら落ち着きのない子供が気性難しているウマ娘に変わりない。煽ったのは俺だけど。
「言い残すことは?」
「相変わらず綺麗だな、シチー」
「それは知ってる。ありがとう」
「ああ、どういたしま_痛い痛い痛い痛い痛い!!耳テシやめろ!!本気でやってんじゃねーよ!?」
ミスターシービーとダイタヘリオスの耳テシが耳ベジに脚質変化して、シチーも追撃とばかりにウマ乗り状態から腹パンしてくる。
もちろん手加減はしてくれるけど、向かい合うようにこちらの膝に座るゴールドシチーによって俺はソファーに押し込まれてしまい、なんなら左右にはミスターシービーとダイタクヘリオスの拘束だったりと完全に逃げ場が無くて普通に辛いところさん。
もちろんマンハッタンカフェやアドマイヤベガはコーヒーで一息つくことを優先しているから見ているだけで助ける素振りもなく、ナカヤマフェスタに関しては眼中にないらしい。
なんならユキノビジンも「濁りねぇ笑顔で心許しきってるシチーさんも美しいべ… 」と何故か見惚れていた。ニューガンダム並みにシチーガールも伊達じゃ無いな。
てか、オレ、ニンゲン、ウマムスメ、カテナイ、タスケテ。
『私メリーさん、いま貴方の後ろにいるの』
気づいたら全方位されてるじゃねーか。
おまえら脚質ファンネルかよ。
てかマジで何だこの状況。
ユキノビジン関しては上京だし。
左右から両腕を圧迫かつ耳テシの刑。
目の前は腹パンかつ言葉責めの連続。
後ろからは強く感じるだけの視線。
残りは放置プレイ決めて助けてくれない。
あとシチーガールはヤミノビジンしてるし。
「はぁ」
なんというか。
個性豊かな担当ウマ娘に囲まれて。
それぞれ想い想いに今年を過ごし始める。
それと賞味期限切れのカボチャ頭がひとつ。
そして昔は威圧感で怖かったはずの俺。
マフティーも随分と安くなったモノだな。
そうだろ?三女神。
俺はこんなもんだよ。
…
…
…
…
「ってことがあったんけど、都会って時間の流れが早くて激しいんだなぁ」
「どうした急に?」
まだまだ寒い季節。
あと数ヶ月もすれば学園祭。
それまで体を温めようとウマ娘は走る。
もちろん、カチューシャをつけたこの子もだ。
「あ、いえ、なんでも無いです。ただ電撃的な加入からもう一ヶ月経ったと思いまして、時の流れって早いんですねぇ、えへへ」
「あの時はシチーが掛かっていたようで、なんか悪かったな」
「き、気にしないでください!驚きとかいろいろありましたが、自分でも納得した上で加入させていただいたんで、あまり気にしないでください。それに…」
「?」
「遅かれ早かれトレーナーさんを見つけないとなりません。それで知っているトレーナーさんでしたら私としてはとても安心しちゃいますのでここでマフTさんやシチーさんに気にかけてもらえて良かったんです。まだ新学期なる前の少し早めのスカウトですが、素顔見たうえでスカウトされて良かったとか、勝手に思ったり、色々しちゃって、ええと、なんちゃって、えへへへ…」
「納得した上でここにいるならスカウトしてよかったよ。あと、素顔見たことに関しては気にするな。俺は分かったうえでそこに甘んじた。誰も咎められないよ」
ゴールドシチーはユキノビジンを気に入っていたからあの時あの場所にいた。俺も同行を断らなかった…と言うより、現地入りが早かったからユキノビジンが一緒に来てたことは後から気づいた訳で断るタイミングもなかった。まぁ特に断るつもりはなかったが、でもそれでカボチャ頭が拭われたあの展開だ。
しかし今こうしてスカウトされてしまった、またはスカウトした展開がイマジナリーフレンドの思い描いてた通りだとしたら、あの場所で、あのタイミングでカボチャ頭を外させた行為は計算ずくなのかもしれない。
ユキノビジンは問題なかった。そう言うことだろうか?
わからないな。もしくはたまたまなのかもしれないし、アドマイヤベガと巡り合った時のように俺へ用意された
「でも、マフTさん、よかったです…」
「んー?なにが??」
「ぇ?…あああぁ!!ち、違うんですよ!そこまで深い意味は無いと言いますか、なんというか、あ、あははは…」
「気になるな」
「ええ…?!い、いや、大したことでもないんです。なんというか勝手にわだしが生意気ぶってるだけですから…そんな」
「生意気かどうかは俺が決めるよ」
「そ、そうですか?あはは…そ、そうですか……」
「聞かせて。マフティーに何を思ったんだ?」
「マフティーと言うより、マフTさんの方でして、その…あのぉ、何というか、その、マフTさんはマフティーすることが中央で必要だからと言うことでカボチャ頭を被ってたと教えて頂いたんですが、でもそれってマフTさんはマフティーで在ることを続ける大変さがあるんじゃないかと思いまして……それで、ですね…」
「ああ、心配してくれたのか?」
「!!…ぁ、その………………はい」
「そうか、ありがとうな」
「い、いえ、とんでもないんです」
マフティーすることも、マフTであることも慣れてしまったと言えばそれは間違いなんだろうけど、俺が征く道としては正しくなった。そして正しく狂うことができた。この世界だからこそ出来たことだ。だからユキノビジンが心配する必要はない、そう考える。それにマフティーとしての孤独な重圧はもうないんだから。
「あ…その、やはり、お尋ねしたいと言いますか、聞きたいことと言いますか、もしかしたら失礼なんじゃないかと思いまして、迷いまして…」
「言ってごらん」
「!!…はい。え、ええとですね。こう、なんというか、去年の有マ記念で叫んでたマフTさんを見て、実はホッとしたんですよ」
「ホッとした…?」
「はい」
そういった彼女は笑う。
いたって普通に笑う。
俺に対する安堵が込められたようで。
「マフTさんも、普通なんだなぁと」
「!」
「自分の事を重ねるように語って失礼するんですけど、私って見ての通り鈍臭くて、世間知らずで、シチーガールに憧れる特別なんて何一つないわだすですが、故郷の皆が応援してくれるから、そんな皆にこたえようと故郷に錦を飾りたくて、それで上京してきただけのウマ娘なんです。ほんどうにそこらへんのウマ娘。だからですね、マフティーに集う者って特別だからなんだと思ってたんですけど、いつだったかシチーさんに教えられたんです。案外あの場所はそんなことないって」
「やはりお喋りだな、アイツは」
「あはは… で、でも色々と良いことを教えてくれるんですよ。マフTだろうと、マフティーだろうと、そこに大差は無いんだって言ってくれたんです。特別に見えてそこまで特別にならない。カボチャ頭が他者を敬遠させるけど、案外身近なんだって」
「…」
「それが有マ記念でわかったんです。マフTさんがカボチャ頭外して、大きく叫んで、担当ウマ娘の名前を喉の奥から。そう見ると周りの人たちと変わらなかったと…」
「そうか」
「はい、そうです……え?…ああ、ああ!!べ、別に悪い意味じゃないですよ!?マフTさんが変だとかそうじゃなくてですね!?ただわだすは!!」
「ユキノビジン」
「は、はい!」
「君は名前の通りに、そう…
「ふ、ふぇ…?」
「君がそう感じたのならそれは正しい。なにせ俺自身もそこまで大それた者だと思ってない。やること成す事は狂いに狂って、でもたらしめることが出来た。けどそこにミスターシービーがいたから成り立った。俺はカボチャ頭を被って怖がらせていただけ。カボチャの中身は味気ない男がいたんだ、それだけさ」
何度も言う。
俺は一人では何も出来なかった。
ミスターシービーがいたから。
もうチームを抜けた彼女がいたから。
だから俺は今があるんだ。
「でもですね!こ、これは確かなんですよ!」
「?」
しかし悲観する暇もなく、彼女は続ける。
「マフTさんがいたお陰が学園にいっぱいあるんです!その中身が味気無い人物だろうとマフTさんがソレをやった!それが大事なんですよ!だからシチーさんはあんなに走っているんです!だから特別だからとかそこに関係ないんだって思えたのなら!わ、わたしだって!上京してきて私だって出来るはずです!中央で!」
「!」
「わたし!中央で走りたいです!普通でも構わないです!特別でなくても!味気無くても!走れる脚があるなら信じるっべ!私でも!ユキノビジンでも!なんとでもなるはずだ!そうに違いねぇんだ!」
「__!!」
ああ、そうだな。
特別でなければならない理由は無い。
集ったウマ娘がマフティーのウマ娘だからとか色々と言われるけど、別にそうじゃない。
このカボチャ頭を目印にして、ウマ娘がそのマフティー性に触れて求めるとしたら、応えてあげるのが役割なんだから。
そうすれば、いずれその名前が世界の中で特別になる。
中央のマフTと言われるように、ミスターウマ娘と言われるように、太陽神と言われるようになって、その後も少しずつ名前が広がる。
なら最初から普通で、それは正しい。
「ユキノビジン」
「!」
「君の目標は故郷に錦を飾ることだったな」
「そ、そうです!」
「なら、飾るか、その名の通りに」
「うぇ?」
「
「!!」
俺は最初、違う意味で特別だった。
呪い殺されると言う意味で普通じゃない。
普通に憧れたし、普通を目指していた。
だがこの魂は役割だ。
マフティーを知っていたことによる歪み。
そしてカボチャ頭の色に染まった。
それが今の俺。
マフTまたはマフティー。
けどカボチャ頭を外せるくらいにはまともを受け入れて、再度被ってしまうくらいにまだまだ狂い続ける。
それが俺からしたら普通なこと。
でも忘れない。
俺は大した生き物じゃない。
腕に刃物を突き立てれば血は流れ、地面は赤く滲み、赤子の頃の痛みも思い出せる、痛みを理解する周りと変わらないヒト。
沢山だ。俺は人間で沢山だ。
普通であるんだから。
そして特別からそう遠くない存在。
もしくは俺の知る特別は実はそこまでかけ離れてないかもしれない。
それを知るいい機会かもしれない。
なにせ答えは一つじゃない。
応えることだって一つじゃないんだから。
「素顔の中を知った君なら、この特別とそう遠くないと強言ができるなら君は走ってみるか?この味気ないトレーナーと共に」
「ッッ!!や、やるっぺ!!やるんだ!!それが大変だろうと上京してここまで来たんだ!!雪国根性でいてこますっぺよマフT!!」
____なら、そこまで言うなら。
「やってみせろよ、ユキノビジン」
「なんとでもなるはずだ、べ!」
笑ってしまうほどに相変わらず呪いのような言葉だけど、根性論から始まるこの熱意はいたって普通な賜物で、それでいて特別感はない。でもこれは間違いなんかじゃない。
まだ降り積もろうとする雪の中で美人のウマ娘が意気込む。
またこうして応えようと冬空かき分けて動き出しただけの話。
マフティーする。
そういうことなんだ、この体と魂は。
G ゴールドシチー
U ユ キ ノ ビ ジ ン new‼
N ナカヤマフェスタ
D ダイタクヘリオス
A アドマイヤベガ
M マンハッタンカフェ
つづく
シチー「お前も『家族』だ(腹パン)」
ユキノ「!!?」
特別な何かがあったわけじゃないが、それだけ孤独に抱えていたマフティーと言う引力から離れていて、一瞬だけだが周りと同じになる。そう感じた彼女は案外マフティー性があるのかもしれない、そんな最後のウマ娘の加入だった。
長かったぞ!!ここまで!!!
ではまた
轟け、エール!トレセン学園応援団ガチャでお目当ては引けましたか?
-
ナイスネイチャ
-
キングヘイロー
-
シーキングザパール
-
バンブーメモリー
-
全部引いた(独占欲のコツ)
-
バクシン!!爆死ィィィィン!!
-
今回は見送り(様子見のコツ)