やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:つヴぁるnet
むかーし、むかし。
あるところに。
……いや、そこまで昔でも無い話。
それは指で数えられる程度に時間が流れた話であるが、それでも未だ人々の記憶に根付くとある歴史。それは始まった革命の二文字。
誰もが出来ないことを成し得たとある異端なトレーナーの話。ウマ娘の走りに魅入られた者ならば誰もが聞いたことある不思議な名前。
それは偉業の言葉に相応しい。
しかしある程度の時間も経ち、人々の中で「それは凄かった」と言える位の平穏に落ち着けば、その名前は日常の中でなんとなく呟かれる程度。
故にカボチャの如く賞味期限は切れてしまう。
食べ慣れた味はいつしか特別から普通なモノへと世間で変わり果てる。
それが世の中の流れ。
話題は新しさを求めて次へと動く。
それは正しい。
新しさを求め、新地点へと目指すのが生き物としての定め。
そう… 例えば。
増えすぎた人口をコロニーに移し、宇宙の深さと広さに魅入られた者達と、新しさを得ようと人類と、重力から解放されるためにヒトは進化を遂げようとする、そんな物語があるように次へと目指す。
それは宇宙世紀であろうと、ウマ娘プリティーダービーであろうと、もしくは史実通りに描いた馬達であろうと、皆等しく、次へ、次へ、と運ばれていくだろう。
この世界ではその出発地点にカボチャ頭があったことを時折思い出しながら、ウマ娘達は次の物語へとターフを踏みしめて目指していた。
無数の宇宙と共に。時は流れる。
…
…
…
「ひ、広い、ここは何処なんだろう?」
新品の制服を揺らしながら学園を彷徨う。
中央の門を叩き、夢を抱いてこの学園に入ってきた。
しかしあまりにも広すぎるこの学園は誰もが必ず一回は迷子になってしまう。色んなものがある。色んなものがあり過ぎるから。
だから広すぎるこの学園の何処かで今は右往左往している。コレが中央と言う規模なんだろうか。
しかし冷静に状況分析するほど不安になる。
どこかこの学園全体がわかる見取り図は…
「ねーねー?どーしたの?」
「!」
するとひとりのウマ娘から声をかけられた。
活発な声に振り向けば春の香りが漂う。そこにはこの学園で指定されたジャージを着こなしたウマ娘が一人。見たところこの学園に在学する先輩だ。そして頬につけた絆創膏などや鉢巻は厳しい練習を乗り越えてきた証だろう。
しかしその眼は桜色に染まった強い意志を感じる。乗り越えてきた者の眼差し。
「え、ええと、迷子になりまして…」
「あ!そうなんだ!えへへ、でも仕方ないよね。ここは広いから!学園祭に来た人たちも良く迷うんだ。私も最初はよく迷ってたよ」
「はい、本当にすごいところですね」
「うんうん。あ、ところで何処かお探しかな?よかったら案内しようか?」
「ほ、本当ですか!?…ええと、ですね。ここに向かいたくて…」
「およよ?おお、なるほど、ふむふむ。だったら丁度いいね!実はその場所まで向かおうと思ってたんだよ!だから一緒に行こうよ」
「え?あ、はい!」
案内してくれるそのウマ娘は目的に向かおうと軽くその場でターンを行う。
そして一歩前に軽く踏み込んだ。
「!!」
踏み出されたその音は違った。
ただその場から一歩前に出てだけ。
しかし、見て、聞いて、理解する。
その脚並みは果てしない。
中央のウマ娘だ。
「こっち、こっち!」
風を切るように。
いや、砂塵を切り込むように見える。
そしてその走りを見て思い出す。
そう、確か___このウマ娘の名前は。
「あ!トレーナーだ!ちょっど良かった!」
案内してくれた先輩ウマ娘がひとりのトレーナーを見つける。それから嬉しそうな駆け足。
「どうした?」
歩きながらタブレットを確認していたそのトレーナーはこちらに気づいて声を返す。すると案内してくれた先輩のウマ娘は手を振りながら嬉しそうに近づく。見たところ普通の男性。
なんてことなさそうな、中央の関係者。
だが…
「!?」
一瞬だけ。
一瞬だけ感じるプレッシャー。
何だ?
今のは…
近づこうとする脚が一歩分拒む。
怖いから? いや、わからない。
だがこれ以上近づいたらどうなるか。
何かが警戒して、何かが警告する。
わ、わからない。でも何故かわかってしまう。
その男は__危険人物だ。
ウマ娘と言う存在はその男に深く溺れさせられてしまいそうな、普通とは違う異質な感覚。
ならウマ娘である自分はその男に近づいて大丈夫なのか?
わからない。
「?」
踏み出せない足と戸惑いながらもタブレットに吊り下げられたキーホルダーに目が入った。
「あれは…」
不気味に笑うカボチャ頭のアクセサリー。
それから『C』と『B』の二文字も添えて。
どこかで見たことあるトレードマークだ。
それがトレーナーの手元で一緒に可愛らしく揺れていたから不意に感じた恐ろしさを緩和させてくれた。あと人懐っこく耳をぴょこぴょこさせながら足元まで擦り寄る先輩ウマ娘は尻尾を嬉しそうに揺らしている。この雰囲気からしてトレーナーが悪い人に見えず、少しだけ近すぎたような距離感を除けば普通だ。
なら今一瞬だけ感じた恐ろしさはなんだったのか?もしくは
「あのねトレーナー!この学園の新しい子を案内しているんだけどね」
「そうか」
するとそのトレーナーはタブレットの電源を落としながらこほんの数秒だけこちらを見て、ぴょこぴょことさせる先輩ウマ娘を見て…
「わかった、案内しよう」
「え?」
「さすがだねトレーナー!えっへへ、大丈夫だよ!着いておいで!」
「!」
何も話していない。
先輩ウマ娘も詳しく伝えていない。
だが私が探しているものは知ってるみたい。
迷いなく招かれる。
まるで超能力者のようだ。
だからこそ不安になってくるが、しかし『これが正しい』と根拠のない自信と感情がどこからともなく現れて、この背中を押す。脚は自然と動いた。
「トレーナーあのね!前のテストで50点取れたんだよ!すごいでしょう!」
「君は来年で卒業だろ?良いのかそれで?」
「去年の有マ記念が評価されたから、ええと、たしか、めんじょ… ?って事で少しは大丈夫なんだって!」
「普段ダートの君があの結果だ。そりゃ評価されるだろうが免除は今だけだぞ?本当に大丈夫か?」
「へーきへーき!ヘーキだから!パパパッとやって終わり!閉廷!」
「おい、その語録誰から学んだ?」
「ヘリちゃん!前に街で会ったんだ!」
「あんのパリピ… !いたいけな娘に要らん知識を落とし込みやがって…!」
後ろから見れば普通の苦労を背負って頭を悩ませる大人の姿。そして尻尾を揺らしながら会話を楽しむ担当と日常的会話を行う教育指導者。普通の姿だ。
やはり今のプレッシャーは気のせいか?自分でも気づかなかった緊張感に襲われて寒気でもしたのか?ここは中央。一部の人達からは魔境と言われる世界。ならば早々に慣れて走れるようにならないと。
何せ私は、あのレースに出て王座を飾りたい。
いや、違うか。
王座と言うよりは…
「ねぇねぇ!着いたよ!」
「え?…あ」
気づいたらとある部屋の前に辿り着いた。
メモ帳代わりにしていたパンフレットを見る。
辿ってきた道を見て、到着した場所を確認。
ああ、ここだ。
間違いない。
とりあえずお礼を言わなければ。
「あ、あの!ありがとうございました!」
「ああ。では…入ると良い」
「え…?」
そのトレーナーは扉に手をかけて……開いた。
「!」
ほんのりと香ばしさが鼻に触れる。
これはコーヒー?
そのまま香りに誘われたい衝動。
しかし、それよりも足が止まった。
「ッ」
知らない雰囲気だ。
コーヒーの香りと合わさって落ち着きがありそうな部屋の感じだが、その先に一歩踏み出すことを躊躇いそうになる。そんな重圧感。
だがそんな私を他所に案内をしてくれた先輩ウマ娘はまるで住み慣れた家に到着したかのように耳をぴょこぴょこと軽い足取りで入り、そのトレーナーも追うように脚を運ぶ。
この二人からしたらなんてことない。
いや、違う。
もしかしなくともこの二人は…
「っ」
退けない。
そのためにやって来たから。
溜まった唾液を飲み込んで、パンフレットは無意識に強く握りしめて、案内してくれたトレーナーとその先輩ウマ娘に続いて部屋に招かれる。
部屋に入れば少しだけ日差しに目が眩んだ。
まだ4月。今日はとてもいい天気だ。
再び感じられたプレッシャーを踏み締めながら次第にその光に目が慣れると眩んだ視界はまっすぐ見えるようになった。
「!、!?」
そこにはウマ娘が多くいた。
それはテレビ越しでも、ネット越しでも、見たことある強き者たち。
ここにいる者たちに足が一歩退けそうになる。
「あー!フラッグちゃん!何飲んでるの?」
「特別なコーヒーですよ。先輩が開いた喫茶店から少し分けていただきました」
「その落ち着き具合を見ると妹の君はあのゴルゴル星の宇宙人とは正反対だな、本当に」
「あ、トレーナーさん。いまから淹れましょうか?とても美味しいですよ」
真っ黒な黒髪美人のウマ娘。
トレーナーを見て嬉しそうに微笑む。
そしてこの中央の世界で走る、学園の先輩。
「あー!ナリちゃん!それってなーに?」
「これですか?はい、コレはですね、すごいモノでして、なんというかまずとしてすごいんですけど、ええと、そうですね!とりあえず、すごく、すごいんです!」
「そうか、わからないが色々とすごいのか」
「はい!すごいんです!」
すごい語彙力が飛んだウマ娘。
だが紛れもなくすごい走りをする。
強烈な世代を走り抜いた、学園の先輩。
「あー!スカーレットちゃん!ここでも勉強するの?」
「はい、そうですよ。私はいつだって一番の成績を残したいので、時間は無駄にできません」
「それは構わないが、練習前に区切りは付けておけ」
「ふふん、心配いらないわ。あともう少しだから」
優等生の香りがするウマ娘。
でも本当に優秀な走りをする。
有マ記念は圧倒的だった、学園の先輩。
「あー!マーちゃん!マーちゃん!そんなところでそんなに見てたらみんな驚いちゃうよー?」
「じー」
「相変わらずハシビロコウみたいでむしろ安心するよ」
「じー」
小さな冠と共にこちらを凝視するウマ娘。
でもそのレースと冠は本物。
走り出せば旋風を巻き起こす、学園の先輩。
「あー!ドトウちゃん!そんなことに隠れてると埃まみれになっちゃうよー?」
「あのぉ、そのぉ、お構いなくぅ、わたしなんか程度のウマ娘なんて、この場所で、隅っこで、端っこで、じゅうぶんなんですぅ」
「あの覇王と渡り合って『私なんか程度』ってのはまず無いだろ?そこから出てきなさい」
「は、はぃ、すみませぇん…」
まるでヒツジかヤギのように感じるウマ娘。
でもこの記憶が正しければこの中…最強格だ。
あの覇王すら怒涛に喰らった、学園の先輩。
「あー!そうだー!忘れてたー!にんじんプリン冷蔵庫にそのままだった!誰も食べてないよね??」
「変わらずお子様だな」
「えへへ、よく言われる。でもでも?卒業したユキちゃんも似たような感じだったよね?」
「シチーガールはどの年代でも憧れる。ただしにんじんプリンはそうじゃない筈」
「えー!にんじんプリンはいつでも美味しんだよ!」
とても活発で愛嬌たっぷりに見えるウマ娘。
しかし冬の最後を入着に飾った規格外。
真冬の芝を砂塵に塗り替えた、学園の先輩。
「まったく、個性的で飽きない奴らだ」
「「「「貴方がそれを言う?」」」」
「ニュータイプばりのシンパシー、身に染みるよ本当に」
「じぃー」
それからそれをまとめるトレーナー。
そしてここに集まったウマ娘達。
答えは定まった。
このチームで間違い無くて、そしてそのトレーナーはここに集われたウマ娘達を担当する者なんだと。
しかし、まだ少しだけ疑う。なぜなら首の上からトレードマークが見当たらないから。
でも、その人と、その者が、同じなら…
「さて、とりあえず改めて。まずはようこそ中央トレセン学園に。入学式でも堅苦しいマイクを握ってスピーチをやらせて貰ったが、そこまで緊張しなくていい。あとウマ娘パワーでパンフレットが引きちぎれるぞ」
「え?…ああ」
パンフレットは握力でくしゃくしゃ。
どれだけ体が固まっていたのか。
「まぁまぁ、とりあえずコーヒーでも飲みませんか?あまりコーヒーを飲んだことない人でもスッと飲めるモノを喫茶店の先輩から頂いたので」
横から腰まで長い黒鹿毛のウマ娘が声をかけてくれる。
しかし一瞬だけ。一瞬だけなんだが学園の前で何故か今川焼きを売っていた奇行種なウマ娘と姿が重なってしまう。しかしその佇まいと仕草は全く正反対だ。流石に宝塚記念で会場全体を悲鳴に染め上げさせてしまったあのウマ娘と重ねてしまったのは失礼かもしれない。
でも見た目は非常にそっくりだ。
白と黒。奇行と正常。
それさえ除けばよく似ている。
そんな彼女に招かれてソファーに座らされる。
後ろから視線を感じてそちらに振り向く。
牧場のヤギがヒツジのように姿勢低く震えているウマ娘と、どこからともなく現れた猫に背中に乗られてしまうなんとも言えない姿。
あと先程から小さな冠を傾けながらこちらを凝視するウマ娘が視覚内に入り込む。
少し怖い。
視線を前に戻しながら目を閉し、すぅぅと軽く呼吸して心を落ち着かせて、ゆっくり目を開く。
「じー」
「!」
先程後ろにいたのにいつのまにか視覚の中に収まっている冠のウマ娘。
え…いつそこに移動したの??
少しギョッとしてしまったので窓側を見る。
トレーナー専用のデスクには…
「あ、カボチャ頭…」
やはり__あった。
もうコレで確定的だ。
このトレーナールームにいる者達は間違いなく本物のだ。
そして見ていたデスクの横には再び視覚の中に収まっていた小さな冠のウマ娘。
い、いつの間に…
常にこちらを見ている。
「さて、お待たせしたな」
「!!」
トレーナーが二つ分のコーヒーを持って目の前に座る。
差し出されたコーヒーへ視線を移して液体に揺れる自分の顔を見る。まだ緊張している顔だ。でもいい香りに緊張が薄れていく。あとついでに冠のウマ娘の姿もコーヒーの液体に反射して映る。視線を横に動かせば数歩横に立っていた。気づかないフリをして一口だけ飲む。
「っ、美味しい…!」
「担当だったウマ娘がブレンドしてくれたコーヒーだ。今度喫茶店にでも足を運んでくれ。趣味で開いた小さな店だがこの味は好きになるよ」
「はい、とても美味しいです!」
「それはよかった。まあ、とりあえず……だ」
「?」
__ようこそ。
__チーム『
「__!!」
そう言って紙を差し出される。
このチームに加入するための紙だ。
コレにわたしが名前を書いて、この人が管理下に申請すれば認められる。
「あ、あの…わたし、何も…」
「その眼を見て俺がわからないとでも?」
「!」
「君は"求めて"に来たんだろ?ここまで」
私は憧れた。
ここにいた"先人"に。
私は見ていた。
ここにいた”先駆者”に。
私は抱いたんだ。
ここにいた"雪の女王"に…!!
__飾るっぺ!飾るンだ!飾ってみせる!
__わだしを応援してくれる皆のために!
__この名を!美人と誇らせてくれたッ!
__彼に応えるためにも!負けられない!
__絶対に負けられないンだぁぁぁぁあ!
今でも思い出す。
歯を食いしばりながら、眼の色は雪の冷たさに埋もれなかった熱く滾る情動の限りを尽くしていた。
最後の直線を激しく捲り上げるその脚と、トレードマークのカチューシャですら泥まみれに染まりながらも一着を勝ち取った季節の早い冬将軍。
北の大地に錦を飾ったその栄光を私は東京レース場で見ていた。
その後の宝物記念も、オークスでたらしめた走りを見せてくれた。
そんなウマ娘に、そんな走りに、描いてみたくて憧れたから。
「は、はい!」
「そうか。…… ここまで脚を運んで来てくれたのはトレーナーとしてすごく嬉しい。だが…」
そう言ってコーヒーを置いた彼はこちらを見る。
「このチームで無くとも果たせるはずの夢だと言ったら、君はどう思う?」
「え?」
「ここの場まで求めて来てくれた君に失礼なことを言ってるのは充分承知だ。しかしこの学園は随分と変わった。とても良い方向に。トレーナーの数も、質も、充実した。故に、俺よりもすごい奴は多く現れた。いろんな方面で。だから叶えたい夢にもっと近づけてくれるトレーナーだって俺以外にも多く存在する。それだけウマ娘の幅は広くなった世代だから」
「それは…」
たしかに、それ知っている。
この学園の昔をよく知ってる訳ではない。
今より酷かった…
そう口を揃える人は多くいた。
しかしこのトレーナーを中心として革命を起こし、改革した。
URAに危険人物として認知されながらもその実績は計り知れなく、中央の質は中央の名に相応しくなった。
去年開催されたアオハル杯はこの学園を支える秋川理事長と大成功のプランに収めたりとこのトレーナーを筆頭にトレセン学園は充実した学園に変わる。
そうなればトレーナーだって優秀な人が集うようになり、彼限定でなくともそれ以上はもっといる。彼の言うことは正しい。
この学園は中央として幅広くなった。
それだけ選択は多い。
だから彼の言ってる事は正しくて……
「はー、バカね。何が『自分以外だ、キリッ』とか言ってんのよ。ここ7年間ずっと有マ記念を占領しといて良く言ったものだわ、このおたんこにんじんバカボチャあたま」
「その7年目は君のせいだろう優等生?ぶっちぎり一着を獲ったじゃないか」
「うんうん!すごかったよねー!もう、バビューン!って感じに突き放して全然追いつけなかったなー!」
「いやいや何を言ってるんですか先輩!?普段はダートで走るのに入着まで漕ぎ着けたのは正直凄すぎると思いますけど!?ええ、本当にねぇ!?」
「その上こいつはまだまだ走るからなぁ。怪我にも強くて、長いし、元気だし、よく走るし、よく食べるし、ダート部門のチームリーダーにんじんプリンだし。どこまでにんじんプリンにこだわるんだよ」
「えっへへー!すごいでしょ!」
「じー」
危険人物とは思えない程穏やか。
いや、それはもう過去の話。
今の彼は昔と比べて名を広げていない。
すごいトレーナーには変わりないが。
「さて、賑やかすぎて悪いな。とりあえず言いたいことはそのくらいだ。だからそれを踏まえて尋ねる。何故ここを選んでくれたんだ?まだ君は入ったばかりだ。今から数週間先の選抜レースに出て実力を証明する機会だってある。そうすればもっとお眼鏡に叶うトレーナーも現れてくれる。この学園最強のチームリギルの東条トレーナーや、去年の中距離部門でURAファイナルズの覇者となった桐生院トレーナーもそうだ。俺だけに限らない」
「……」
このチームに憧れたから__と言えばその響きは素敵だ。
でもたしかに彼の言う通り。
その憧れはわざわざこのチームでなくとも叶えれる。周りには優秀なトレーナーは多い。
あと選抜レースはまだ三週間先だ。
そこで実力を示せば彼だけに絞らずもっともっと自分を早く走らせてくれる、そんな人に巡り会えるかもしれない。
…
…
でも。
「導かれたから、じゃ、おかしいですか?」
「!」
ここなんだ。
何故かわからないけど、ここなんだ。
私は、この場所なんだって思った。
もしくは……
__やっほー、未来のミスターウマ娘。
__東京レース場は素敵な場所だよね。
__え?アタシ?
__あはは、まあそこは良いんじゃない?
__今はもうただの過去の栄光だからさ。
__それにこの先の主役は君たちからだよ。
__……それで、何を見てるのかな?
__オークス?うん、それは知ってるよ。
__でもそうじゃないんだ。
__コレを見てナニと一緒に描きたいのか。
__それが大事なんだよ。
__早いとか、すごいとか、そうじゃない。
__ウマ娘を見てくれた、そんな隣人。
__雨の日に折り畳み傘を渡してくれる様な。
__ソレがあるなら、あとは簡単。
__走り出せば、主役は__
「詳しくはわからないんです。でもその時になんとなく心に染まったんです。走るなら。描くなら。私のためにある。そんな場所が用意されている。そして気づいたら、ここでした。そうまるで…」
__地球の引力に惹かれたように。
「すごくわかります!!」
「うぇ!?」
「わかります!すごくわかりますその感覚!説明はすごい難しいですが、なんかこう、はい!すごくわかります!!」
「あ、は、はい…!」
語彙力がすごく飛んでいるが共感は得られた。
そして彼女だけではない。
にんじんプリンを食べている先輩ウマ娘もスプーンを咥えながら頷き。
コーヒーを飲んでいる黒鹿毛のウマ娘も微笑みながら頷き。
自身なさげな印象あったウマ娘もその言葉には力強く頷き。
なんならいつまでもこちらを凝視していた冠のウマ娘すらも瞬きなく開け続けていたに眼を閉じると同調するように軽く頷く。でもまた眼を開いてこちらをじーと見続ける。
そして…
「君も、そうなんだな」
「え?」
彼はコーヒーを飲みながら微笑む。
「いや、悪いな。ちょっと確かめたかったんだ。別に何か特別が無ければ加入を許さないなどそんな事はない。俺は昔と変わらず応えるための存在であるつもり。ならば求めてきた者に対してたらしめるがコレを被る者としての…役割」
そう言ってコーヒーをテーブルに置いて、代わりに置いてあったカボチャ頭を手に取って、目の前で__被る。
「ッッッッ!!!!」
雰囲気が変わる。
強引に酔わされたような。
もしくは狂わされたような感覚。
視覚や嗅覚ではない。
このウチなる魂が。
この体に名を与えてくれたウマソウルがそこに引き寄せられる。
ああ、間違いない。
間違いないんだ。
私は……
「俺の名は、マフTまたはマフティー」
それは呪いだ。
私を……いや、ウマ娘を惑わせる呪いだ。
っ…!なにが賞味期限切れのカボチャだ…!
なにが過去の産物で…!
なにが終わった役割だ…!
これはとても危険だ。
その象徴が、その中に染まる男の眼差しが、無条件に思わせてくれる役割が、私に応えようと問いかけてくれる。
ああ、なるほど。
コレが中央のマフTで。
そしてマフティーなんだ。
「ッ、わ、わたし!このチームで走りたいです!」
本当はもっと会話を挟み、この学園の幅広さに甘んじてもっと考えるべきだ。
なのに、それはもう違う。
ここしかない。
そう思えて仕方ない。
なぜなら体の中に宿るウマソウルがこのカボチャ頭を目印として離れない。
そして私は気づかない。コーヒーの液体に映る自分の眼はもう既に怯えた姿は無い。カボチャ頭を被るこの存在に求めて染まり切ったような眼は、それ以外を見ていない。
だから…
「ああ、わかった___応えよう、ウマ娘」
簡単に言い渡された。
それが当然かのように。
だからこの日、私は始まった……
…
…
…
「すぅぅぅ、はぁぁぁ…」
夢見た舞台は今ここに。
周りを見渡せば多くの観客。
東京レース場の芝と香り。
夢を乗せて走る時間が始まる。
「もう、あの言葉から一年か」
胸に手を当てて思い返す。
あの場所でウマ娘は始まった。
私は彼に応えられようとした。それはこれまでの担当ウマ娘のそうだったのかもしれない。
「ウマたらしの意味がわかったかも」
緊張感あふれる舞台。
そして夢見た舞台。
なのに私は笑っている。
GUNDAMの『U』としてオークスを走る。
「…」
観客席を見る。
そこにはこれまで共に走ってくれた仲間達。
私を応援してくれる。
そして、私を乗せてくれた彼に…
__やって見せろよ、
そう訴えられる。
ああ、もちろんやってみせる。
ここまで頑張って来たんだ。
だから私はマフティーにこう応えた。
そう言い放てば後は簡単だ。
だってこの世界は。
このターフは。
走り出せば。
そこからはウマ娘の世界。
それをCとBを飾ったシルクハットのウマ娘とカボチャ頭の彼が教えてくれたから。
__いまここで一着のゴールイン!!
__見事にオークスを制覇しました!
__今ッッ!
__ターフの上から吠えたように!
__そんな風に映りました!!
メジロパーマは引けましたか?(震え声)
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単発で引いた。
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10連で引けた。
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20連以上で引けた(勢い任せのコツ)
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100連以上で引けた…
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爆死ッン!バクシーン!!
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親の顔よりも見た天井。
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今回は見送り(逃げのコツ)