やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:つヴぁるnet
現状把握ってやつ。
この広大な宇宙には___我々には観測できない未知の生命体が存在する。
例えば、火星に。
そこには王がいるのかもしれない。
例えば、水星に。
そこには魔女がいるのかもしれない。
例えば、木星に。
そこには貴族主義がいるのかもしれない。
かもしれないは、一種の願望から。
だがそれでも、おとぎ話のように巡り合い宇宙はこの世に存在するかもしれないとロマンチストはいつだって望遠鏡に思いを馳せる。彼らにとって思考放棄した「ありえない」はピリオドにならないから。
しかしそれは『まだ』浅さはかだ。
ロマン溢れる地球外に思い馳せるのは当然だとしても、空を見上げることに夢中な人間は何故こうも考えれないのか?
この世には【
…
…
…
♢
狂気の入口となった、その引き出しの中には真っさらなメモ帳だけが残されており、引き金となった薬物は見当たらない。
また正当化を被るために用意されていた舞台装置もクローゼットの中に見当たらず、新品のトレーナースーツだけが何着か取り揃えられてるだけ。変なモノは何一つない。
しかし、見たことある真っ白な天井と味気ない個室は未だに覚えている。この環境なのはそれ以外に余裕が無かった証拠なのか、または禁欲的な生活を望んでいたのかどちらかだろう。しかしそれらを確かめる手段は持ち合わせてないため考えたところで無駄だろう。いまは俺がこうなった現状を理解するための判断材料として扱われるだけだ。
それから携帯を手に取り、スケジュール表を確認しながらこの家を散策する。冷蔵庫には冷凍食品とエネルギードリンクばかりであり、生活力の低さに顔を顰める。しかしこの頃はまだちゃんと生きていたのだろう。
何せいま、手に持っている携帯画面から映し出されたスケジュール表は見事と言えるほど綿密に管理されている。これがウマ娘の育成法として徹底管理主義を覚えたトレーナーの片鱗なのだろう。これだけを見ればまあ優秀だ。新人トレーナーの中では中々のレベル。
しかしそれでも奴は道は違えてしまい、神秘との向き合い方を間違い続けた。それが一年後には
携帯の電源を落とし、胸に手を当てて集中してみる。ああ、俺はまたやったのか?この体の持ち主は何処に行った?それともこの瞬間から居なかったモノとして扱われたか?それともこのファクターのために都合よく用意されたイレギュラーか?確かめようが無い。
でもこの体にマフティーを知る魂が入り込んだということはつまり、この世界にマフティーを求めるナニカに促さなければならないということ。それは前任者が強きビジョンを求めたのと同時に三女神もウマ娘の幸福を願い、マフティーを知る魂を呼び寄せた。身勝手なご都合主義の始まりがこの俺。そしてそこから更にマフティーをファクターとして繰り返す。そうなったら俺はもう普通じゃない。
「やれやれ、もしこれが二次小説から生まれた物語と言うならなんとも酷い作品だな。笑えないな」
携帯をポケットに仕舞う。
そして明後日、始まるトレーナー人生。
そんな俺は二度目だ。
新人トレーナーの皮を被った紛い物としてこの世界で二度目を始める。
つまり強くてニューゲームって奴だろう。
「前回と比べて随分と救済処置が効くじゃないか…」
前回は弱くてハードゲーム。
呪いの装備であるカボチャ頭でスタートだ。
しかし今回はただのトレーナー。
狂気を正当化して乗り越えてきた知識がこの体にある。
なに、怖がる必要なんかない。
マフティーをしていた俺なんだぞ?
それ以外に対して何に恐れるというのだ。
「しかしココは同じ世界線なのか?だとしたら今のトレセン学園はどうなっている?そして…」
外から舞い込んだ『声』は何処から??
消えるはずだったエリンが
ああ…教えてくれ。
俺はマフティーのファクターとして中央のマフTから別離した紛い物の紛い物だ。いまもジャック・オー・ランタンのように彷徨える魂。それでも俺は声を聞いてこの場まで促しに訪れたマフティー・ナビーユ・エリン、独りよがりを続けてきた正当化の塊である。
もし声を響かせるだけで手足は動かせない痛みを知った赤子だというならこちらから応えよう。
この世界がそうさせたなら間違いなくそうなる。
大丈夫だ。
___俺は繰り返すよ、マフティー。
だって……なんとでもなるはずだ。
そうだろ?___ああ、そうさ。その通りだ。
…
…
…
「何だ。随分と穏やかな中央じゃないか」
まあこれが普通と言うべきか、中央はよく統率の取れた良い環境なのがわかる。
腐敗した連中はいなかった。
いやまぁ、それでも年功序列を盾にした身勝手な奴らはそれなりにいたのだが、前回に比べたらかなりマシだ。新人トレーナーも生き生きしている。
それはウマ娘に幸せを夢見れなくなった三女神がマフティーを呼び起こしたいほど嘆いてしまう環境じゃないって事。そうなると前の世界は本当に酷かったことになるな。
だから…ありがとう、自由を愛するウマ娘。
君のお陰だよ。今の俺が健在なのもな。
まあ___それはそれとしてだな。
年功序列や立場を利用しただけの実力に伴わない悪質トレーナーは真っ先に粛清してやるよ??当たり前だよなぁ??正しくウマ娘に狂えない中央トレーナーはこの学園に不要だるるるぉぉぉお???
「うんしょ…うんしょ…」
中央の状況を確認しながら学園の廊下を歩いていると前から小柄なウマ娘が一人。その両手には頭よりも上に重ねた本の山。そして足元がおぼつかない。見ていて心配になるな。
「きゃ!」
そして案の定、両腕に抱えていた本の山は倒れ始めた。俺は手を伸ばして倒れる本を受け止める。それからそのまま半分ほど本を掻っ攫うことにした。また倒られても困る。
「あっ、あっ、あの…!」
「これだけの本、勤勉なのは関心だが、足元不注意なのは関心しないな。トレーナーとして見過ごせない」
「!?…ご、ごめんなさい!でもその本…」
「わかっている。図書室の本だな?俺もそこまで運ぼう。そう遠くない」
それから半ば強引に本を運ぶことにすると小柄なウマ娘は慌てたように跡を追う。
図書室にたどり着き、とりあえずテーブルの上に置いた。
「あの、ありがとうございます!」
「気にしなくていい。コチラが勝手にやったことだから」
「いえ、そんなことありません。トレーナーさんの言う通り危なかったのは確かです。心配おかけして申し訳ありません。その、なにかお礼ができることを…」
「そこまで言わなくて良い。何度も言うが勝手にやったことだ。あまり気にするな」
「ですが……」
若干おどおどした感じの大人しめな娘に見えるが中々引き下がらない。助けられたらしっかりとお礼をする辺り育ちが良すぎるのか、それとも彼女が本心からそうして生きてきたのか、どれかだろう。そしてこういうタイプはなかなか頑固だ。さてどうするか…
「それなら君の名前を教えてほしい」
「え?」
「この書物に刻まれているタイトルに夢見た英雄騎士とならんウマ娘が気になる。それだけだ。それで?汝の名は?」
「!」
少しだけ演技を加えてみる。マフティーをしてた身としてはそこそこ得意なところ。おかげで覇王なウマ娘がよく絡んできたことを思い出した。
「は、はい!わたくし!ゼンノロブロイと言います!」
「ロブ・ロイ……か、なるほど。それはとても良い名前だな」
英雄譚を好むウマ娘の名を覚えると俺は図書室を後にする。
そして俺はまだ知らない。
この彼女が外から聞こえてきた『声』に対するヒントを持ち合わせたウマ娘であることを…
♢
さて、この世界に来て早く一週間が経過した。
わかったことがあるとすれば。
『これは強い!これは強い!完全に抜け出した!二番手とのその差は三バ身!誰も追いつけない!そしていま1着でゴールイン!なんとなんと!今この瞬間!日本ダービーに続いて菊花賞を制し!クラシック栄光の頂きである三冠バとなりました!観客は大歓声!トレードマークのシルクハットを揺らしながらファンの期待を応えてくれました!二着はカツラギ__』
「こっちでも彼女は不変か。頼もしいな」
見ているのはこの世界では数年前の映像だ。
変わりない追い込みの脚質。
その脚で三冠を達成。
そして学園を謳歌した彼女は既に卒業している。
もうこの学園にその三冠バはいない、
なるほど。
どうやら……彼女達が先みたいだ。
「ま、それもそうか。外部から継承されるウマソウル次第では、段階的に走り出すのが速かったり、または遅かったりする。もしかしたら俺の知っているウマ娘は既にデビューを済ませているか、もしくは既に卒業してしまった子もいるんだろうな」
この世界はウマ娘ってタイトルの創作物。
史実の馬やレースがこの作品を形作っている。
けれどこの世界は自由極まってるプリティーダービーなため全てが史実通りに事進んでるとは限らない。この世界は酷似しているだけ。
そのため実馬の名前を受けたウマ娘がその時代に合わせてその通りに走っているのか?
もしくは史実とは違う時代で走っているのか?
または名が与えられたとしても走ってすらないないのか?ウマ娘次第では様々だと思う。
だから俺はこのトレーナー人生が2回目と言えども前回と全く同じだとは思わない。
前に出会ったゼンノロブロイって娘に関しては初めてだった。出会ったこともなければその名前も聞いたことなかった。全く知らない。
だから本当に、与えられたウマソウル次第。
本人の気持ち次第では歩み方が変わっていることも珍しくないだろう。
先ほど見ていた過去の菊花賞のレースに出走していた彼女が証拠である。そこにマフティーがなかろうとも彼女らしく走り、三冠バとなって人々を魅了していた。
「なるほど。今の中央がちゃんと機能しているのも過去に生徒会長していたシンボリルドルフが居たおかげなのかもな。有難いことだ」
この二度目は一度目の世界線は違う。
しかしウマ娘の影響を受けやすい便利な世界であることに変わりない。
ここはそういうところだ。
あと秋川理事長も既に居た。
これには少し驚いた。
もちろんたづなさんも一緒にいた。
二人は健在だった。
あの二人がいるなら大丈夫だろう、中央も。
もちろん力が必要なら俺も力を貸すが、今は新人も活動しやすいこの環境、ひたすら現状維持すれば良いだけの話だ。大きな問題にぶつかった様子もない。俺の知っている中央とは違って随分と平和なところだ。
「……」
しかし不思議な気分だ。
この世界に来て一週間経ったが今でも二周目が始まっているんだなとシミジミ思う。
いや正しくは三週目か?
カボチャ頭のマフティーしていた時は二周目であるが、生きたまま周回した意味ではコレが二周目になるだろう。
しかも今回は呪いもなく中央は平和で強くてニューゲーム。
ネットではウェブ小説とかでループ系を読んだことあるが、その展開が今の俺だ。
それが実際に起きている。
「あまりにも都合が良すぎて怖いな…」
俺は時々考える。
この世界は生きている。
俺を除いてまともだ。
全てが正常だ。
ああ、平和だ。
故に__マフティーなんていらない。
マフティーなんて紛い物は必要とされていない。
しかし俺はエリンの拾った行先に導かれてこの場所にやってきた。選ばれてここに来た。
しかしそれはマフティーとしてなのか?
それともマフティー
「これではポッカリと空いてしまった穴空きカボチャだな」
俺はマフティーを知る者。
もしくはマフティーたらしめれた器。
またはその魂。
URA風に言えば『危険人物』。
取り扱い注意なジャック・オー・ランタン。
必要とされたこの歪さをウマ娘の世界で完成させたのが『俺』であることを……俺自身が知っている。
G U N D A M 達がそうさせてくれた。
だが、それはもう過去の産物。
今は違う。
カボチャ頭を被らない一般人。
普通のトレーナーとして新たに始めた身。
呪いに苦しまない二度目の__樫本。
約束通り、命を返された者だ。
「俺に普通のトレーナーを全うしろ、と……そう言いたいのか?」
この一週間、学園を見て回ってきた。
苦楽を謳歌するトレセン学園。
厳しい実力主義の世界で皆が奮闘する。
何も促す必要がない。
イレギュラーなんかに居所がない。
そう考える。
けれど…
「聞こえた『声』には応えないと」
世間にマフティーは不必要。
これは確かだ。
表舞台に出る必要はない。
しかし外から届いたあの声は
なにせマフティーたるエリンが声を聞いた。
ソレが答えになっている。
ならマフティーだった俺はその声にだけマフティーとして拾い上げる必要がある。
なら今一度、正しく狂え。
そうしてまで欲するその声に応えろ。
この魂は既に独裁者としてたらしめた。
ならば
それが二度目として降り立ったファクター。
その『声』だけのために求められろ。
「絶対に聞き届けてやる」
PCの電源を落として寝る準備をする。
明日はウマ娘の選抜レース。
中央を夢見た者達のアピールタイムだ。
それはトレーナーも同じ。
それと明日の天気は晴れ…のち曇りの様子。
あの日とはやや違う。
折り畳み傘は___一応、持って行こうか。
next
結局、ウマ娘に正しく狂うだけの魂。
それは残酷か、または幸福か。
そう感じるのは本人次第。