やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:つヴぁるnet
折り畳み傘の下にいた、私。
薄暗い影の中。
彼を通してマフティーを知ろうとした。
私は言われた通りに意識を繋いだ。
ほんの少し動けば触れ合えるような距離。
お互いに伝わりやすい場所で紡がれる。
私はゆっくりとその魂に触れ、溶け込んだ。
いつも宇宙を眺めるようにその追憶を辿る。
そして…
真っ暗闇の深海に落とされたが如く、私は展望台から別の世界に誘われていた。
ここはどこなんだろうか?
今、私はどうなってしまったのか?
すると私の足元から水が湧き出る。
どんどんと広がる水面。
それはほんの少し数ミリ程度の厚さ。
足裏にピタリと引っ付く程度だ。
しかしそれは見えない先まで広がり、その水面には広大な宇宙が反射する。
私はハッとなり見上げる。
「!!」
そこには、その場で観測するにはあまりにも広すぎる宇宙が、どこまでも、どこまでも、見えない先まで、どこまでも、広がり続けている。
コレが意識を繋いだ先で辿り着く場所?
「応える者のみ、許される空間」
「!?」
足裏にピタリと触れる水面を揺らしながら私はその声に振り向く。
動いたことで生まれる波紋が声主の足先にぶつかり、その存在は確かになった。
私はその姿をこの眼で捉える。
「カボチャ……頭?」
そこには、カボチャ頭を被った人間が一人。
「貴方は………マフティー?」
私はそう問いかける。
「そうだ」
簡単に答えが返ってきた。
「厳密には『マフT』だがな」
「どう…違うの?」
「君の言うマフティーとはまだ踊り狂うだけの概念に過ぎない。対象は無い。促すだけ。しかし解かれた呪いの果てで前任者の願い… その続きを行うべくウマ娘のトレーナーとして確立された時に誕生したのが『正しく狂う』ことを正当化した歪な名称。それがマフTである」
「ウマ娘に『正しく狂う』トレーナー…」
「それでもたらしめるこの魂はマフティーである事には変わりない。だから呼ぶなら好きにすれば良い。それでもこの意味を住み分けさせたいのならば、中央の世界でウマ娘のトレーナーをしてるからソイツはマフ『T』であろう」
「なら、ここにいるカボチャ頭の貴方は…… 私が、折り畳み傘の中で見ているトレーナー?それとも…」
「コレはただの追憶を形にしたモノ。俺がそうだった頃の姿。求める者の目印となるカボチャ頭を被り、正統なる予言の王として応え続け、独りよがりな正当化を繰り返すだけの彷徨えるジャック・オー・ランタンだ」
コレはただの追憶。
そうしてきたと語る過去の姿。
しかし私は理解した。
それはあまりにも残酷な軌跡。
常人には理解など出来ない。
あまりにも重すぎる役割。
それをカボチャ頭に全てを込めて世間に促し続けていた。
だから皆はこう言った。
彼は危険人物だ。
「だが、ネオユニヴァース。今ここにいる俺はマフTのファクターから引き出された追憶であり、結局は
なんてことなく簡単にタネを明かす。
そこまで大層な存在では無いと否定した。
それも本心から。
けれど…
何か、私は大事なモノを眺めてるみたいだ。
明白な理由はわからない。
けれどここまで……深く身を投じれる。
いや、ウマ娘に対して身を投じる。
その世界だからそうして当然の如く。
用意された【主人公】のように。
「……貴方は……あなたは……」
「?」
わたしはほんの少しだけ迷う。
コレを訪ねるべきか。
でも…
いや、聞いてみたい。
マフTに……
中央のマフTとなった『彼』に。
「貴方は…ウマ娘の走るところが……好き?」
「!」
訪ねるにしても脈絡のない質問。
元々、私は言葉のキャッチボールができない。
いつも変化球で投げ、ミットを困らせている。
それでももう少しマシに伝えれたはずだ。
もっと詳しく、伝わるように。
でも……コレが正解な気がした。
これだけで充分に伝わる。
そんな気がして……
「ああ、好きだよ」
「!!」
答える。
カボチャ頭で表情は見えない。
まるでポーカーフェイスの私みたいに。
けれどその声に偽りはない。
マフTは本心からそう言って退けた。
混じりけのない答えとして。
「とても好き。俺はウマ娘が与えられたその名前らしく走るところを眺めるのが好き」
穏やかな声が耳触り良く響き渡る。
水面の波紋がマフTからゆっくりと広がる。
その波紋が私の足先に触れた。
気持ちがより深く伝わる。
この空間にいるから、それはより鮮明に。
「だが、その中で、特に好きなのは…」
「?」
マフTは続ける。
広大なこの宇宙を見上げながら…
「自由を愛する彼女の走りが大好きだった」
レース場で観戦している青年のように紡いだ。
心が温かくなる。
もちろん「好き」と言ったその対象は私じゃない。
なのに私がウマ娘としてマフTの『答え』を聞いてしまったからこんなにも騒がしくなってしまう。本当に危険人物だ。ウマ娘に対して何もかも無条件だ。こうしてネオユニヴァースの前に現れたことすら「マフTだから」と用意されたみたいだ。マフティーの概念を抱えたこの魂は間違いなく狂っている。ご都合主義も良いところだ。
「貴方は、そうなんだね…」
「そうでなければマフTである意味はない」
この人はウマ娘のためにマフTとなった。
ウマ娘に、正しく狂うために、形作った。
ああ…
そうなんだ…
コレが…
コレが…
コレが…
この宇宙に問いかけてまでネオユニヴァースが欲した【応え】なんだ。
「知りたいことは知れたか?」
「うん……知れたよ……たくさん」
「そうか」
「そうだよ…」
知りたいと願った、彼の追憶。
マフTだった頃の正しく狂っていた意味。
折り畳み傘を用意して見せてくれた。
枝分かれた根幹の元まで連れてきてくれた。
ありがとう……
マフTだった……トレーナー。
「では、コチラでもウマ娘に正しく狂うことを決めた俺の正体を見せよう」
「ぇ…?」
正体の…正体??
その言葉と共に宇宙がひっくり返る。
足元に感覚はない。
下に視線を移す。
浮いている。
私は無重力の中で浮いていた。
自由の効かない宇宙に放り込まれた。
すると、宇宙にナニカが流れ出す。
「な、に…?」
コレは…記憶?
それとも記録?
もしくは追憶??
映像のように次々と周りに流れる。
『__走る!走る!坂路の減速すら感じさせない!驚異的なロングスパート!そのまま直線に入った!マフティーのウマ娘が中山のレース場で赤の怪物マルゼンスキーに追い縋る!その距離は3バ身!2バ身!1バ身と縮みッッ!並んだ!並んだ!ミスターシービーだぁあ!!ミスターシービーだぁ!!やはり彼女だッッ!!すごい競り合い!そして!マルゼンスキーを追い抜いたぁ!!そのまま前に出る!!ミスターシービー!マルゼンスキーの2バ身先!そして!そして!マフティーのウマ娘ミスターシービーが最強を破ったァァ!!タブー破りのウマ娘!!ターフに絶対が無いことを知らしめた中山レース場!!これまでに無いほどの大歓声!!空気が!!ターフが!!全てが揺れている!!」
『__さぁ!さぁ!後ろからやってきたのは漆黒の摩天楼 !!その走りを受け継ぎ最後方からロングスパート!!息切れを知らないその長い足が後ろからやってきた!!全てを埋めるような漆黒のウマ娘!!後続を次々と置いていく!そして!そして!漆黒の勝負服が全てを抜き去って今ゴールイン!なんと春に続いて秋の盾を手に入れたのはマンハッタンカフェ!!G1重賞レース天皇賞を制覇しました!!』
『__世界と競り合う最終直線!!さぁ外からやってきたのは100年に一人と言われた尾花栗毛!!悪天の中に舞い散った重バ場に染まりながらも食いしばって追いかける!!追いかける!!追いかけて追い縋れ!負けるな!負けるな!接戦の中で二人もつれ込むように今ゴールイン!!さぁ、長い写真判定から……ッッと! なんとハナ差!惜しくもハナ差で敗れてしまったゴールドシチー!!悔しさのあまり地面を叩きつける… ああっ、駆け寄ったマフTの元で泣き崩れてしまった!全身全霊はほんのハナ差!…だが、しかし、世界の強豪相手にその強さを魅せてくれましたゴールドシチー!!』
『__早い!早い!独走状態!これは何時ぞや赤い怪物の如く!今は真っ赤な太陽!いや違う!太陽神として後方にいる眩さをウマ娘に見せつける!!熱気が伝わる爆走を得て一人だけの爆上げたマイルCSを描いている!!コレは余裕のセーフティーリード!そして余裕のゴールイン!やはり!やはり!マイルの最強はこのウマ娘ダイタクヘリオス!!3回目のマイルCS制覇!!たった一人だけの三冠ウマ娘!!世界でたった一人だけの栄光!!笑顔絶えないウマ娘が最強の歴史を残しました!!』
『__春の陽気の東京レース場でクラシック級のウマ娘!最終直線に入りました!前方には3人のウマ娘が!!いや、違う!もうひとり!!もう一人後ろから追い縋る!やってきたの雪国からの雪将軍!!春の陽気を吹き飛ばさんばかりに迫り来る雪将軍!!ありったけの雪国根性!!絶やすことのない熱量!!そしてッ!!全てを追い抜いた!!このままゴールイン!!なんと一着はユキノビジン!!初めてG1の称号を獲得!!マフTのウマ娘にひとりの女王が誕生しました!一着はユキノビジン!!』
『__さぁゲートが開いた!日本勢の… いや、これはなんと最後方スタート!?なんと言うことだ勝負師!!慣れないこのターフで自ら悪手を選んだ!?宝塚記念とはまた違う試み!普段よりも位置は後ろ!バ群からやや外に踏み込みながらもレース展開を伺う日本勢!苦しそうな位置…だがしかし…! もしかしたら!もしかしたら!このウマ娘ならもしかしたら番狂わせを見せてくれるかもしれない!負けるな!負けるな!ナカヤマフェスタ!そして!そして…!!』
『__それは自由なる頂きから!それは漆黒の摩天楼から!先駆者の軌跡がこの菊花賞にありました!しかし!このウマ娘はそれらよりも高く輝いた宇宙の一等星!それを証明するように全てのウマ娘を抜き去った!やはりこのウマ娘は強い!とんでもなく強い!まるで二人分の強さ!一人が二人分の強さ!そして!そして!栄光を勝ち取ったゴールイン!!なんと!なんと!三冠を制したのはアドマイヤベガ!!皇帝に続いて早くも三冠ウマ娘が誕生!!しかも過去最年少での三冠ウマ娘!!強い!強すぎる!その一等星はこのレースで二人分の強さを見せつけましたその名はアドマイヤベガ!!クラシック級最強の誕生だ!!』
触れることも叶わない映像。
なのに多くの熱気が頬を撫でる。
これも全てマフTだった頃の追憶。
マフTに集ったウマ娘達が想いを乗せてターフを走った、カボチャ頭越しの記録。
それらが私の後ろへと流れ行く。
ああ、これも彼が辿ってきた奇跡と軌跡。
チーム【G U N D A M】の彩り。
音が聞こえた。
ゲートの……音?
でも少しだけ違う。
すると不意に……背筋から重圧を感じる。
「ッッッ!!??」
ナニカがいる。
知らないナニカが私を見ている。
重たい。
重たすぎる。
だが、その威圧感はどこから来てるのか分かる。
後ろだ。
後ろにナニカがいる。
わたしは、ゆっくりと振り返る。
そこには……
「!!」
怪物のように大きな
動いていない。
無重力空間で佇んでいるだけ。
それでも見ているだけで威圧される器。
もしこれが動いたらどうなる??
容易く消し飛ばされしまうだろう。
それほどに恐ろしい。
「そうなんだね……これが…」
これが【プレッシャー】の正体。
あの時、見せてくれた威圧感。
ただの人間が出せるような重圧感じゃなかった。
これが内に秘めた彼のトリガー。
マフTはこんなのを形としていた。
これも……マフティーなの?
たらしめるための器なの?
『こっちだよ』
声が聞こえた。
静かな日曜日のような声。
私はキョロキョロと見渡す。
誰?
今のは…誰?
すると鉄の塊から音がする。
鉄の塊の胸元にあるハッチが開いた。
私は驚く。
しかし中には誰もいない。
誰もこれに乗っていない。
しかし…
『次は、あなた』
私は声と共にゆっくりと引き寄せられる。
拒絶すれば簡単に振り払えそうだ。
けれど……わたしは手を伸ばした。
そこに導かれようと。
鉄の塊の引力にひき寄せられる。
そして…
コクピットの中に足を踏み入れた。
やはり誰も乗っていない。
しかしナニカが浮いてある。
それを一つ手に取った。
「これは…」
CとBを飾るシルクハット。
それが無重力に浮いている。
だがそれだけじゃない。
「これも……これも……こっちのも……」
お気に入りのマグカップ。
コーヒーの香ばしさが漂う。
持ってきたくしゃくしゃの紙。
太陽のように暖かい。
泥に塗れた綺麗なお人形。
誰かの忘れ物のようだ。
コインがクルクルと回る。
賭け事に使われてた。
暖かそうな防寒具の数々。
持ち主は雪国の美人さん。
色んな物がコクピットの中に漂っている。
これもマフTに込められた追憶。
もしくはこの鉄の塊に乗った者達の軌跡。
すると外にナニカを感じ取る。
私はコクピットの外を見た。
「!!」
宇宙に一筋の青い光が奔った。
まるで二人分を背負ったかのような光。
もし…
未来が違うならコレは一つじゃ無い。
二つ一緒に彗星となっていた。
そんな気がする。
気がするから…
「私も……僕も……ネオユニヴァースが……違う未来があるなら……この先に……もっとターフに描けるなら……」
頬を伝う生暖かい雫。
ここにいると誤魔化せなくなる。
この場所にいるから想いが溢れる。
そうやってここに集ったウマ娘は応えられた。
安心感がある。
無条件がある。
なんとでもなるはずだ…!!
そう奮える心に私は情動を抑えれない。
ハッチを支えにもう一度この宇宙を見る。
ここは何もかもが伝わる。
マフティーがあって、ウマ娘がある。
入り口は限定的。
応える者のみ許されるらしい。
そう言っていた。
なら、つまり…
ここにいる私は…
「ネオユニヴァースが……ネオユニヴァースに……『応える』ができる…」
促す__それがトリガー。
この鉄の塊に用意された【閃光】
それらを動かしてたのは【
歪を始めるための___タイトル。
「私は……
変われることは知った。
マフティーという無条件を見たから。
マフTという築いた追憶を見たから。
だからネオユニヴァースの未来を変えれるはず。
この『声』が届くことを許されたから。
だから…
だから…
すると、宇宙を駆け巡る一等星が光る。
それが二つに分かれ、一つが目の前を奔る。
眩しくて少し目が眩んでしまう。
しかし何ともない。
何が起きた…?
すると「パラ」と乾いた音。
目を開ける。
これは一枚の紙…?
いや、違う…!
これは『希書』のとあるページだ。
声を探そうと最後に読んだ部分。
天体に纏わる歪な文章が刻まれていた。
それを手に取り…
__貴方も大丈夫だよ!
__私のお姉ちゃんと同じ!
__その脚で運命を乗り越えたんだから!
元気な少女の声が聞こえる。
可能であれば、走って欲しかったもう一人の声。
何故かわかってしまう。
それは恐らく宇宙を見ている者同士だから。
__大丈夫……お姉ちゃんは大丈夫
__だから…そこで見ていて
__わたしは、あの星を背負って生きていく
宇宙をなぞる
それは願い。
それは贖罪。
二人分を選んだ者の声。
しかしそれはマフティーが代わりに背負った。
与えられた『名前』らしく『ウマ娘』が『無条件』に走れるように。
「…………」
わたしはハッチから退いてコクピットに座る。
握りしめた『希書』をこの中で手放した。
ここに残された軌跡と同じように漂わせる。
そして、宇宙と意識を繋ぐ。
大丈夫だ、ネオユニヴァース。
やることはひとつだけ。
ここにいて。
ここで見て。
ここで触れて。
答え合わせは済んだ。
「私は…僕は…ネオユニヴァースは…」
この場で表した者達のように。
先駆者が求めていたように。
この鉄の
それは…
その【トリガー】は……
呪いの言葉を吐くことだ。
…
…
…
…
…
♢
「ええと……その………?」
「いや、だからスカウトしたいなぁって」
「……」
「……」
「……もしかして怒ってる?」
「ふぇ?」
「いや、さ?前日の模擬レースで応援してるとか、頑張ってこいよとか、らしく走っておいでとか、色々言っておいて放置したから…さ?」
「え、あ、その………ちょ、ちょっと、待ってください?ええと…あの…今トレーナーさんはその…聞き間違いでなければ…ですね?今、わたしを…」
「スカウトした」
「で、ですよね?」
「うん」
「そ、そうですか…スカウトを…」
「おう」
ここは図書室。
大きな学園だけあってココもそこそこ大きい。
そのため色んな本が置いてある。
俺もトレーナーとして勉強する時とてもお世話になっていた。一応トレーナーに関する知識は樫本から都合の良く継いでたので困ってはいなかったが、それでも今一度勉強しておきたくて図書室から教本など借りたことがある。
あと興奮すると語彙力皆無になる学級員が学園のトレーナーをすごく目指したいです!とか言ってたのでココを利用した経験を活かして色々役立つものを薦めた。そしたら「すごくすごい助かりました!」だって。日本ダービーと菊花賞を取ったウマ娘なんだけなぁ… 語彙力適正が心配だよ。アッチの俺大丈夫かな…? ちゃんと導いてやれてるだろうか?
まあともかくだ。
図書室はお世話になった記憶が強い。
なので当然マナーも知っている。
まずマナーの一つとして図書室では、あまり大声で騒がな__
「えええええええええ!!!???」
「ふぁ!?ぅーん…」
ウマ娘の肺活量で鼓膜にダメージを受ける。
てか急に大声を出すな!
知的マフティーが乱れるだるるぉ???
神経が苛立つ!!
「ななな、なんで、ですか!?えええ?!?スカウト!!?わ、わわわ、わたしを!?」
「お、おう……そうだけど…?」
「え……ええッぁぁ!!ぁ!?むぐ!!むぐぐぐっ!!」
「図書室では静かに…な?」
「むー!むー!むー!」
「なんだ?セイウンスカイ*1の真似か?君は脚質的に先行ど真ん中だろ?あまり変な走りを選ばない方がいい」
「ぷはっ!……ッもう!トレーナーさん!やっぱりあなたは意地悪です!」
「いやいや待て、図書室で大声を出す__」
「口答えは無しです!!…めっ!!」
「あ、はい」
怒られてしまった。
ほっぺ膨らませてる。
でもなんかすごいボスっぽかったな。
こう、威圧感というか、その辺りが。
……気のせいか?
「ふぅぅ……と、とりあえず、今一度落ち着きましょう」
「そうだな。で、また改めてなんだけど…」
「はい…スカウトですよね?…その、何故ですか…?」
「理由?簡単だよ。良い目をしてたから」
「……」
「……」
「……え?それだけ?」
「ああ。俺の好きなタイプだな」
「そ、そうですか……って、ッ〜!?す、すす、すすす、好き!!?」
「自分の名前らしく走りたいと願えるウマ娘はとても良いウマ娘だ。俺はそういうウマ娘を育てたい。その中で君がジャストだったよ。だからスカウトしたいって思った。これが理由」
「ふぇ?……あ、そ、そうですか…なるほどです……少しだけ驚きました……」
「どした?」
「な、なんでも無いです!…それでええと、わたしをですよね?で、でも…わたし…走りは…」
「うん、弱かったな」
「ひゅぃぃ!?ぁぅぅぅ…」
「でも関係ない。弱いなら…強くなれば良い」
「!」
そうとも。
弱いなら、己を強くすれば良い。
中央にはトレーナーって便利な道具がある。
利用して強くなれば良い。
俺たちはそのために力を得てきた。
「でも、わたし…」
「英雄は最初から強かったか?」
「!」
「君の名前と同じその英雄も最初は平民だったろ?しかも底辺といえるくらいに。でも這い上がって民達のために戦える英雄になった。それは今の君と同じではないのか?ゼンノロブロイ」
「っ、それは…」
「諦めの悪いウマ娘」
「え?」
「ゼンノロブロイは溶け込むくらい英雄譚が好きだって教えてくれた。あとロブ・ロイのような英雄になりたいと。それを希う。だから今もこの図書室で英雄譚の本を探している。しかも這い上がるタイプのジャンル」
「!!」
「英雄譚の中身に憧れる。英雄譚で活躍する英雄に憧れる。もし憧れに手が届かず嫌になったら読まないだろ普通。でも君はまだその追憶から自分のターフを探し求めている。そのくらい諦めの悪いウマ娘。ならこの先に絶対に強くなってくれる。俺はそれを確信している。だからそんな諦めの悪いゼンノロブロイをスカウトしたいんだよ。これ以上の理由は必要か?」
「ぁ、ぁ、でも…わ、わたし…」
こんなにも『らしさ』を望むウマ娘。
強くならない訳がない。
それも諦めが悪いとしたら尚更だ。
内側に強い意志がある。
そんな聖剣を持っているこのウマ娘。
スカウトしない理由がない。
…
…
マフティーだって這い上がったさ。
内側に歪な魂を秘めて、促した。
この名を、中央に、世間に、URAに。
「少し…考えても良いですか?」
「わかった」
「ありがとうございます。お答えは…」
「……はい、少し経った!じゃあ、お答えをどうぞ」
「トレーナーさん!?」
「なに?5秒って少しだろ?」
「いやいやいやいやいや!?」
「え?10秒が良い?おいおい二倍かよ。欲張りなウマ娘だなぁ…… ちぇ、仕方ねぇ!これはスカウトして責任取るか」
「待ってください!待ってください!ちょっと待ってください!」
「んー?ちょっと待って欲しい?じゃあ5秒くらいか?」
「もう!トレーナーさん!もう!!」
そんな感じにゼンノロブロイと関係を築く。
意地悪が過ぎると問題になるので先ほどので最後にしだが「でも本気だからな?」と念を押して図書室を後にした。
俺は彼女を担当にしたい。
だって…今の俺はただのトレーナー。
これまではマフTとして応える側だったけど、そうだったと言える今の俺なら、求める側になってもそれはおかしくないよな?
…
…
…
そして、次の日。
「さーて、とりあえず最初のトレーニングなんだけど…いやー、新人トレーナーに人権がないのでキャンピングカーを借りて何処かに行こうと思います。丸太は持ったかー?」
「おー」
「え、嘘でしょ……いつのまにかスカウトされてる…?」
さて、この世界の中央は随分と環境が良くなっているがそれでも新人トレーナーの肩身が狭いことには変わりない。
まあ使用可能残り1時間とかになるとターフは空くことが多いが、しかしそれだと彼女達の門限が関わったり色々段取り付かなくなる。
あとケア。または施術。
俺の場合、前職として携わっていたスポーツマッサージの事だが、この技術を使って彼女達の練習の疲れをとってあげるタイミングが門限の関係でお辛いところがある。
そうやって怪我防止を効かせれないジュニア級とか最悪な時期を彼女達に過ごさせたく無いんだよなぁ…
だからターフ使用可能残り1時間の練習とか頼りにしない。
こんなことするくらいならとっとと車に乗せて銭湯でも温泉でも近くにある場所で練習積ませた方が時間効率が良い。あ、もちろん中央の芝は質がいいから外に比べて練習濃度は高い。けれど練習時間が少ない方が致命的だ。なら外を利用してでもクラシック級までに長い練習に耐えれるよう身体作りに勤しまなければならない。今度適当に誰か連れて来るか。
「あの、ちょっと、わたし、現状把握が間に合わないと言いますか…」
「しかしネオユニヴァース。君の言う通り10秒ほど待って
「ロブロイは『天才子役』だよ……英雄譚だけに」
「え、まさか二倍の『10秒』はこの伏線だった…ってコト!?」
驚いているちいかわロブロイを半ば強引に車に押し込んでやると「わ……ァ……ァ……!!」と泣いてるのかどうかわからない
え?なに?肯定する皇帝だって?
後ろからドライヤー吹きかけてたぬきにするぞ会長。
あとゼンノロブロイは仮入部状態だ。
まだ少しだけ迷っているらしい。
でも面倒見るからにはちゃんと指導する。
それは約束する。
「とりあえず移動しながらだけどこの3人のチーム名どうしようか?」
「"TEAM"……『コネクト』のための証……ランデブーに必要なアクセスだね…」
「あの、わたし、まだ仮入部……」
「まあチーム名は追々として、一番大事なのは目標なんだけどやっぱりクラシック三冠は獲りたいと思う。二人とも頑張ってほしい」
「アファーマティブ……トレーナーとなら栄光は掴めるよ……そうすれば『未来』も変わる……」
「あの、仮入部ですから、未来の前に…」
「じゃあロブロイ、クラシック三冠と、春シニア三冠と、秋シニア三冠と、有マ記念はシニア級でも三年出続けて、卒業するその日まで走ったら、その時に仮入部止めれば良いよ」
「うん、それが良いね、ロブロイ」
「あ、はい……」
俺はアクセルを踏んで車を公園まで移動させ。
ネオユニヴァースは楽しそうにアホ毛を揺らし。
アイルランドの殿下は564に試作2号店を奪われ。
そして、ゼンノロブロイは考えるのをやめた。
次回、ラスト!
そんなわけで、チーム完成です。
この3人ならなんとでもなるはずだな!
え?それよりロブロイの扱い?
彼女は振り回したり。
空回せた方が味が出る(俗物)
公式ゲームもそうしている。
かわいい。
わたしがそう判断した。
それと盗まれた試作二号店は焼きそば屋に改良されました。
なお、奴は絶賛指名手配中。キサマー!