やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:つヴぁるnet

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If story _ Gray 3

 

 

こうしてまた目が覚めてもしばらく靄が掛かったような不安定さだったが、過去の所業はなんとなく覚えてる。

 

まるで魂レベルで刻まれたような重みだったから。

 

それから解放されると自分は重責をやり遂げたんだと、まるで他人事のように己を安堵させていると、時代に心の疲労を思い出す。

 

だから舞台(ちゅうおう)となった場所から一度降りることを選び、このような田舎町まで訪れるとこの身を労ることにした。

 

 

 

でも忘れたい訳じゃない。

 

ちょっと休みたいだから。

 

疲れていることを思い出したから。

 

 

 

けど、ウマ娘が走る姿は見ていたい。

 

夢中になれて、正しく狂えるから。

 

そんな欲張りな王様は芝でもダートでも構わないと欲して、いまこの笠松にいる。

 

これは、それだけの話だ。

 

 

 

 

そして、ウマ娘に出会ったんだ。

 

されど俺はトレーナーなんだと納得して__

 

 

 

 

「まぁなんだ。俺は新人だからな。表向き下積みのために地方まで来た。これはそう言うことだよ」

 

「でも中央の資格を持っているくらいにはトレーナーとして凄いんですよね?」

 

「資格だけを見ればな」

 

「それでも立派ですよカシモトさん!沢山沢山勉強して乗り越えた人の証明なんですから!」

 

「ありがとう。()()()()()誇らしいよ」

 

「はい!…まぁ、だからこそ、その…オグリちゃんはともかく私程度のウマ娘なんかがそれほどの資格者からトレーニングを受けるなんて、あまりにも勿体無いような…」

 

「関係無いな。どれほどの資格を持ち合わせようがトレーナーの肩書きを持つ以上はそれを誇りにどんな担当ウマ娘にも応える。それが指導者なんだ。俺はベルノライトだからとかこの3ヶ月で一度も気にしたことは無いな」

 

「!!」

 

 

学園内のターフを眺めれば、砂を踏み分けて駆ける芦毛のウマ娘、オグリキャップ。

 

あの姿を見て芦毛は走らないなど言えるわけもない。休憩中で階段に座っているベルノライトだけじゃない、周りのウマ娘もオグリキャップの力強い走りに釘付けである。

 

 

「凄いね、オグリちゃん。本当に早いよね」

 

「ぐちゃぐちゃな走りだけどな。まだフィジカルでゴリ押せるが、絶対強者の素質があるならばいずれ矯正はしとかないと。あれでは後の上澄達に勝てん」

 

 

オグリキャップは言わば初期値が高い。

 

あと成長率も高い。

 

よく食べてよく走れるから肉体作りの能力に長けているし、体が柔らかいから怪我もしにくいいし、育てられるために産まれてきたそんなウマ娘だ。

 

だから周りよりも強いのは当然。

 

 

難題は環境のみ。

 

アレほどのウマ娘、普通ならとっとと中央にスカウトしてココよりも良い環境で底上げしまくった方が絶対に良いに決まってる。

 

めちゃくちゃ勿体無い時を過ごしている。

アスリートとしてだけを見ればな。

 

 

 

 

やっぱり、どの世界線でもオグリキャップというのは化け物相当なんだろう。

 

 

ならその出会いは三女神の望みのままか。

 

それとも偶然として出会ったのか。

 

 

まあそこに誰かの意思が加入しようかしなかろうが、この世界で己がトレーナーであることを忘れるも捨てるもできなかった以上はスカウトしたくなるのは当然、あの(よすが)は欲張りになった俺にとってありがたかった。

 

 

「っ…トレーナーさん、私も走ってきます!」

 

「ならそのまま併せてこい。マブ戦術だ!」

 

「マ、マブって、私はまだオグリちゃんとはそこまで…」

 

「ぇ…ベルノ?私のこと、嫌いなのか…?」

 

「うぇ!?オグリちゃんいつのまに!?」

 

「おいおい。嫌いな訳ないだろ。嫌いだったら並走なんかしないから。とりあえずオグリはそのままもう一度ベルノライトと走ってこい。ベルノライトの後ろに位置ついて呼吸を入れながら最後の直線で抜く。あとベルノライトはオグリキャップのスタミナ量を利用しながら直線前にグンと切り離せ。先行バは力を出し切ってなんぼだぞ」

 

「分かった、行こうベルノ」

 

「あ、うん!」

 

「あ、それと。私はベルノの事は好きだぞ?」

 

「ひぅぇ!?」

 

「私はベルノのお陰で頑張れるからな!」

 

「ふぇ、ぇ、あ、あぅ……そ、そう?」

 

「ヒヒーン^〜」

 

「っー!トレーナーさん!いつもいつも私を引き金にニヤニヤ眺めるのやめてください!」

 

「じゃあオグリに勝ったらやめてやるよ。ほら位置ついてヨーイ、ドン」

 

「ふっ…!!」

 

「ああいきなり!?ま、待ってよ!」

 

 

友情トレーニングほど練習効率が高いものは他にない。

 

そう考えるとチーム構えてるの正しいわ。

 

数値化に強いなら尚更である。

粗探しもやりやすいし、補いやすい。

 

やっぱそういうところで中央は優れてる。

 

 

しかしココでは一周たったの600メートル。

 

学園内にそう用意された練習場だから仕方ないが、中央と比べるとやはり物足りない。

 

これが地方のレベルか。

 

となると、これよりも長い距離を練習場を探してとっとと慣らすべきか?

 

いや、東海ダービー見据えてるならあまり急がなくても良いか。

 

今まだこれで良い。

 

あとベルノライトもいるからな。

 

やらば基礎力の叩き上げが重要。

 

準備期間のジュニア級だからこその特権。

 

ならそう急ぐ必要もない。

 

 

「……だが、そろそろ8月か…」

 

 

キャンピングカーとか探そうかな。

 

ベルノライトはともかく、オグリキャップはあの心臓の強さだ。とっとと夏場を利用して砂浜とかで底上げするべきだろう。

 

急がないとはいってもジュニア級だからといってボーッと学園内で完結してる必要も無い。

 

動ける脚と若さがあるから夏合宿をしない選択も無いな。

 

問題は……遠征先の食費か。

 

まあ行先をリサーチしておけば良いか。

あとはどれだけを経費にするか。

 

 

やってみせろよ、食費。

なんとでもなるはずだ…!(強がり)

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお。ココが浜松なのか」

 

「き、来ちゃった。まだ担当になって数ヶ月なのに合宿がためもう遠征なんかしちゃった…」

 

「使える手はなんでも使うぞ。季節もな。あと最終日は餃子食べ放題を予定してる。頑張るぞ」

 

「「は、浜松餃子ッッ!!」」

 

 

おうおう、お二人とも目をキラキラさせてしまっちゃって可愛らしい。ベルノライトも食い気に勝てなかったか。あとオグリキャップは言わずもがな。既に涎垂れてる。

 

 

ちなみにキャンピングカーは無しにした。

 

てかアレ、アウトドアがどちゃくそ好きな子がやりたがってただけだし。主に3名。自由な子と、太陽な子と、実は山登りが好きな子。モチベーション向上のために慣れないキャンピングカーを頑張ってた記憶がある。

 

 

今回は普通に遠征先で10日くらいコテージを借りてそこで腰を添えた。

 

なのでこういうのはミニバンで結構。

 

 

一応、女子学生とコテージが一緒なのはどうかなーって考えてたけど、オグリキャップは全く気にしないし、ベルノライトもカシモトさんなら大丈夫とのことで一緒になった。

 

信用が夏よりも厚くて逆に困る。

 

ま、そんな感じにお金が浮いたので合宿頑張ったら最終日に浜松餃子の食べ放題でも行ってみるか?と提案したらウマ耳と尻尾をブンブンして目を輝かせている二人。

 

俺も食べたいので頑張るか。

 

 

 

 

「あ、足が取られる、お、重い…!」

 

「かなり効くだろ?大変だろ?」

 

「は、はい!でも、それ以上に…!」

 

「ふっ!!」

 

 

奥の方で砂煙がドカン!と舞う。

 

オグリキャップだ。

 

しかし錘付きであの威力か。

 

普通にやばいな。

 

こういうのは教育者としてあまり言ってならん言葉だが、やっぱ言うわ。

 

頭おかしいわアイツ。

 

マジすげーなオイ。

 

 

 

「す、すごいな!砂浜は!すごく脚にすごく来て、なんか…こう、とりあえず、すごく脚にすごくクるんだな…!」

 

「語彙力トプロする程か。まあ砂浜とはそういう事だな。でもこの深さに身体が慣れたらダートとか砂遊びみたいなもんだぞ。気張れ」

 

「ああ!カシモトがそういうなら…!」

 

「ほんとうに素直な子だなぁ」

 

 

いつも「ガンダムがそう言っている」並に「カシモトがそう言うなら」と疑いもなく練習に取り組んでくれるから本当に手が掛からないウマ娘。

 

しかし頑張りすぎるからトレーニング用のジャージは1日目から既に汗と砂塗れでもう汚れてきっている。トレーニングシューズとかも何着か用意させてるから良いが、この調子だと10日迎える前に消耗品が全部無くなりそうだ。

 

 

「うぅ、飲み水が温いです…」

 

「熱を溜めた体に冷たい飲み物は悪手やぞ。水分取るならそれで良いんだよ。冷たいのは終わってから。頑張ったらアイスくらい奢るから」

 

「が、頑張ります…」

 

「あとオグリはまだ走ってるのか。相変わらず無尽蔵だなあのスタミナ。丈夫過ぎんか?」

 

「すごいですよね。長く練習できるからステータスの向上も多そうで…」

 

「いや、長い練習に美徳は見出さん。重要なのは日々の継続力だよ。体を追い込むというのは殺す事じゃなくてギリで生かすこと。そもそも殺しきったら回復じゃなくて蘇生魔法を挟んでしまうだろ。それで1ターン無駄にするとか育成でナンセンスだ」

 

「カシモトさん、ゲームお好きなんですか?」

 

「かなりな。これでも君たちのトレーニングが終わったら夜3時間くらい遊んでる」

 

「そんなに??…ええと、そうなると練習メニューの構築とかは?」

 

「参考資料とかを漁って、君たち専用に数ヶ月分を落とし込んで、あとはその都度付け合わせて行くだけ。なので最初の4日くらいは練習メニュー作りを遅くまで頑張って、あとは暇になるからゲームしてる」

 

「えぇ…」

 

「担当が二人だけだとこんなもんさ。まあ肩の力を抜けきれてるから、俺的にはこれでいいんだけど」

 

「トレーナーって大変なお仕事だと聞いたのでイメージとはあまり…」

 

「もちろんちゃんと大変だぞ?…そうだな。仕事をするとして一番大変なのは情報収集だな。目が痛くなるまでパソコンに張り付く。それで国内国外問わずに資料漁ってはひたすら読んで、時には通訳しながら解読して、そんで資料に等しい映像探したらそれを何時間も見て、担当バとの情報を合わせて、それがこの先の練習で何%活かせるかを経験上で擦り合わせて、もし経験外だったら外付けでも構わないから勉強して、そんでもう一度擦り合わせてとか色々すれば一日じゃ足りないな。しかも擦り合わせ終えた段階で担当バの状況が変化してたら調べ物なんて全然お釈迦になるし、そうなるとまた一から情報収集だな。しかもこれが一人分。複数になると仕事量は必然的に何倍もなるわけでね」

 

「ぼ、ぼぉえぇっ…!!」

 

「…と、そうなっちまうのは当然。なので資格を取る前に死ぬほど勉強して自己完結できるくらいの知識を入れておく必要がある。その点、樫本家や他名門の桐生院家とかは死ぬほど勉強できる環境が最初から用意されてる。なので青春時代を殺せばあたふたしなくて済むんだよ」

 

「せ、青春時代をこのために……あ、だからその反動でゲームを??」

 

「そんなところだな。大人にだって遊ぶ時間は必要だ」

 

 

まあ半分嘘なんだけど。

 

本当は前任者がウマ娘に対する恐怖心を理由にとんでもない量の勉強をしてたからその知識がこの体にあるわけで、本来は俺が備えた知識ではない。まあだからといって俺も勉強しなかった訳じゃないけど。でも今ならわかる。とんでもない量の知識量だった。間違いなく青春時代を殺しまくったトレーナーの末路だ。

 

 

……報われて欲しかったな。

 

ウマ娘はヒトを凌駕した生き物だから、そのため知識量で上回ることでウマ娘という上位種に対抗し、徹底管理主義に任せて支配する。

 

そんな歪な心で中央の門を叩いた結果、スピリチュアルすら上等なこの世界で三女神から怒りを買ってしまい、あの結末である。

 

現在は『エリン』としてとある一部からその名を貰いながら三女神と共に何処かでウマ娘を見ているのか、それとも『樫本』は大丈夫と納得してハマーン様のように後を任せて消えてしまったのか、もうエリンとなった前任者の行方は分からんな。

 

 

でも、ウマ娘を理解しようとするために備えたこの知識量は本物だ。

 

アイツはすごい。

確かに名家樫本の血を継いだ人間だわ。

 

だから俺は青春時代を殺した人間の力を持っていることになる。

 

もしくは思春期を殺した少年でもあるのか前任者は。ヒイロ・ユイかな?まああのエースパイロットって間違いなく思春期を殺したからこそのイカれ操縦技術だし。となると前任者の知識量もつまりそれ相応になるのか。

 

今考えると、どっちもエグいって。

 

 

 

「トレーナー、ただいま」

 

「1日目から張り切り過ぎだ。まだ9日あるぞ」

 

「すまない。でも砂浜がとても楽しくてな…!」

 

「才能かな…?」

「才能ですね…」

 

「?」

 

 

首を傾げてる無垢なオグリちゃんはとても可愛いが、この練習を楽しいと思えるのは才能だ。

 

苦しいと思いながら登れた山よりも、楽しんでいたら登り終えてた山。

 

これは圧倒的に後者の方が優れてる。

そしてオグリキャップは圧倒的に後者だ。

 

ベルノライトも理解してる通りこれは確かにオグリの才能である。

 

ここら辺も含めて後の怪物と扱われる所以か。

 

 

「あ、それと海水に脚をつけると気持ち良いぞトレーナー。なんか疲れが取れるんだ」

 

「おお。それかなり効果あるぞ。脚に熱を溜め過ぎたと感じたら自主的に海水に飛び込んで良いからな。欧州のスポーツ選手とかも練習後はドラム缶に溜めた氷水に全身浸からせてクールダウンさせる。効果は保証する」

 

「え、氷いっぱいのドラム缶風呂!?」

 

「熱の溜めた体内に冷水を入れるのはあまり良くないが、皮膚を通して筋肉を冷やすのは膨張し過ぎないように放熱を助ける処置になる。捻挫とかに例えたら分かるかな?」

 

「あ、そう言うものなんですね?」

 

「ああ。だから外側から冷やすのはかなり正解に近い。まあ冷やし終えたら冷却の冷気が必要だけどな。これはあくまで疲れを取る段階を早めさせる処置であり、疲れが取れた訳じゃないからな?ちゃんと休まないと怪我するぞ」

 

「ええと…ゲームに例えると冷却は回復じゃなくて回復速度の上昇…って感じですか?」

 

「おおー、それ良いな。例えが素晴らしい」

 

「え、えへへ…」

 

「??」

 

 

何かと頭の良いベルノライト。

 

もちろん世間知らずなオグリキャップには分からないので「大根おろしが消化を助けてくれるようなもんだぞ」と例えたら「なるほど!」とウマ耳をピンとさせて納得してくれた。

 

本当に可愛いな、この子は。

 

地方のウマ娘って愛嬌たっぷりなのがデフォルトなんかね?なぁウララちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、寝る前の虫除け用意し忘れた…」

 

 

 

ウマ耳だから良く聞こえる。

 

蚊の音に起こされる。

 

ウマの尻尾ではたき落として解決したが、半端に目覚めてしまった。

 

同じ部屋のオグリちゃんは鼻提灯を作って全く目覚める気配はなく、羨ましい。

 

でもまあ毎日アレだけの練習量だ。

グッスリと寝ついてなければおかしい。

 

半端に目覚めた私は寝直すために一度水を飲もうと起きて2階から階段を降りていく。

 

月と星の明るさを頼りに、ゆっくりと。

 

 

 

「もう浜松に来て7日なんだね…」

 

 

 

観光地として足の運ばれる浜松まで来たとはいえ、今回は練習のためなので今のところ観光みたいなことはしていない。

 

一応リフレッシュのために近辺を歩き回るくらいはしているが、都内街から離れてる場所なのでこの辺はあまり観光地はない。

 

あ、でもオグリちゃんを連れて駄菓子屋に行くのはとても楽しい。

 

なんだか小学生に戻った気分だ。

 

あとは学生として、夏休みの宿題とかもあるので外出しない時はコテージで勉強の消化を行っている。カシモトさんが携帯ゲーム片手間に勉強を教えてくれるので結構捗った。中央資格者だけあって勉学面も隙無し。何気にマンツーマンで先生をしてくれる。凄いひとだなぁ。

 

 

なので、そのお陰で宿題がほぼ終わった。

 

 

いや集中期間として用意された10日なのは知ってたけどトレーニング以外は特段やる事は他になく、なので時間潰しとして必然的に宿題の片付けになるんだけど、宿題の消化に集中し過ぎたからか、これがほぼ終わってしまった。

 

カシモトさんのバックアップもあったから良く進んだの確かだが、同時に外部からの情報を断ち切った環境だからこそ集中できた。

 

これはそういった成果なんだろう。

 

ただしこれは誰かに用意されないと難しい環境作りだ。間違いなく私一人では無理。そうなると指導者って本当に重要なんだと再認識する。

 

あとは宿題以外にもボードゲームしたり、またカシモトさんが持ち込んだテレビゲームでコントローラをお裾分けして遊んでいる。

 

ゲームしている時のカシモトさんは結構少年ぽさがあるから歳の差とか感じさせずにワイワイと遊べている。

 

オグリちゃんも見た事ない遊びにお目目をキラキラさせて、駄菓子屋で買ったきたお菓子を頬張りながら練習以外でも暇していない。

 

 

それから夜ご飯、オグリちゃんが良く食べるから私とカシモトさんで早めに支度する。

 

ある意味トレーニングよりも大変になるけどこれはこれで楽しんでいる。

 

レンタルした大きなお鍋で20人前のうどんを湯掻いたり、冷凍コロッケを山のように揚げたりとカサマツトレセン学園の食堂の苦労が伺える。この苦労は間違いなく夏の思い出になるだろう。

 

 

 

 

____充実している。

 

この夏合宿を風に感じている。

 

 

 

でもまさか、ジュニア期の夏にこんないきなり夏合宿と乗り出すなんて考えなかった。

 

実のところ合宿自体は地方だとあまりない。

それほど__地方は力が入ってないから。

 

でもカシモトさんは地方とか関係無く、使える手段はなんでも使う。

 

なのでジュニア期の段階でも計画を立てた。

 

こんな風に浜松まで足を運ぶなんて全く予想できなかった。

 

海辺を使った、主に砂浜でのトレーニング。

 

1日だけトライアスロンをしたりと、夏にしかできない追い込み方でウマ娘を鍛え上げる。

 

それでいて担当ウマ娘の管理は完璧。

担当の私達には怪我も体調不良もない。

 

カシモトさん自身も遠征先だろうと教育者としての手は緩むことなく、日傘の下でタブレットに触れてはデータ入力を行い、担当ウマ娘の成果を数値化したりと何処にいても管理主義を掲げる名家樫本として健在だった。

 

しかし私たちのトレーニングが終われば、持ち込んだテレビゲームにのめり込む。

 

それは一緒のコテージにいるからこそ彼の生活スタイルも理解できた。むしろ安心した。

 

あんなにも完璧に熟す人が業務外になると自分のことだけ考え、自由に遊んで楽しむ。

 

それを私は隣で見ていて、オグリちゃんも目新しいものばかりと目を光らせてはこの7日間はとても楽しく……そして、あと3日しかない。

 

 

恋しくなってきた家にそろそろ帰れるんだとホッとする面、寂しくなる気持ちもある。

 

ここでの合宿も楽しいけどやはり故郷のカサマツが良い。

 

そんな気持ちで残り3日、私は明日も基礎体力作りとしてカシモトさんから指導を受ける。

 

 

 

 

だから。

 

私は___強く、なれているだろうか??

 

 

 

 

「…」

 

 

 

階段の手摺に少し力が入る。

 

私は悩む。悩んでしまう。

 

時折こうして不安になる。

 

不安になって、その度にカシモトさんから「大丈夫だ」と言ってくれる。

 

でもオグリちゃんは物凄い速さで強くなる。

 

 

オグリキャップという才能の差。

 

 

そう言われた時は納得もしたし、ベルノライトの私にはない、オグリキャップだからこその強み。

 

 

そこにカシモトさんの指導。

 

凄いと凄いが合わさったらそれは凄い。

 

言わずもがな、そうなって当然。

 

 

 

では、私は??

 

 

 

私は……その『凄い』をするカシモトさんに等しい程にこの身はベルノライトとして応えれているだろうか??

 

 

 

「最初よりもタイムは縮んだ……ちゃんと私も強くなっている。だってカシモトさんが鍛えてくれるから……くれてるから」

 

 

 

 

僅かに___焦燥感が、心を追い込む。

 

成果は有るのに、何故だか怖くなる。

 

 

 

 

 

ッッ!!

 

っ、ダメダメ!!

 

私は、私だ…!!

 

ベルノライトのペースがある!!

 

そう教えられたはずだよ!!

 

 

 

 

ブンブンと頭を振るって気持ちを切り替える。

 

まだ3日あるんだ。

 

気持ちを沈めてるようでは耐えれない。

 

とっとと水を飲んで寝よう。

 

 

そう考えて___ベランダに誰かいた。

 

 

 

「カシモト…さん?」

 

 

 

時刻は深夜の1時。

 

ゲーム好きとはいえ流石にこの時間まで起きてることはない人だ。

 

同じコテージで生活を共有しているからカシモトさんの就寝時間も知っている。

 

実際に管理主義者だけあって自身の寝る時間も決まっていたりと、趣味にも生活にも隙がない立派な大人だ。

 

でもこうして起きているのは珍しい。

 

私は音を立てずに腰を低く、階段の手摺りからカシモトさんを眺める。

 

 

 

「……」

 

 

 

視える___かな、あの日のように。

 

 

 

今でもわからないあの瞬間。

 

ただあの不可思議な瞬間を目の当たりにできたのは『ウマ娘』だから許されたんだと、私はなんとなくで認識している。変かな?変だよね。

 

しかしオグリちゃんも似たような感覚であることを教えてくれたから、多分引き金はそうなんだ。けれど説明ができない。

 

 

あの人にある、それほどの不思議さを。

 

 

 

「あれは、気のせいじゃなかった筈だよね…」

 

 

 

担当として選ばれる直前まで、私は河川敷でコッソリと見ていたんだ。

 

その前に、授業中にカシモトさんの姿を見て駆け寄るオグリちゃんを見て、気になった。

 

入学時から、砂だらけのジャージのまま出席する不思議なウマ娘で、それで世間知らずを服に着ているような彼女がむしろ気になった。

 

そしてカシモトさんの姿を見つけた時、目の色を変えていた。

 

オグリキャップってウマ娘をまだ全く知らなかった段階なのに、でも私はオグリキャップが夢中になる時はそういう眼になってしまうんだと分かっていたかのようになり…

 

そして、そうさせる程の彼が気になった。

 

それからの電撃スカウト成立。

 

周りの困惑と驚きをそっちのけに、オグリちゃんはカシモトさんとトレーニングを積む。

 

しかも噂ではカシモトさんは中央の資格を持っているトレーナー。

 

でも地方で下積みのためにやってきたと言ってカサマツまでやってきたとトレーナー。

 

その気になればライセンス取得者としてすぐに中央で働けるのにと、カシモトさんの行動は不思議だった。

 

だから、そんな人に選ばれたオグリキャップが気になって、それで放課後に河川敷で練習している二人を私は眺めていた。

 

気づいたら柱の裏で隠れて二人を見て、カシモトさんに見つかってしまう。

 

気づいたら担当バになっていた。

 

 

私も、アスリートになりたくてトレセン学園に入学したウマ娘、トレーナーは必要だ。

 

でも私程度の実力では誰からも目を向けられなかったし……余っていた。

 

このままではレースに出れないし、夢見てたアスリートウマ娘としての学生生活も頓挫してしまうと心に焦っていて…

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、たまたま拾い上げられた_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルノライトか?どうした?」

 

「ふぇ?」

 

 

いつのまにかベランダからリビングに戻っていたカシモトさん。まったく気づかなかった。音も拾えなかったのかウマ耳も反応していない。

 

 

 

「あ、ええと…その、水でもと。えへへ…」

 

 

わたしは誤魔化すようにやや早足で冷蔵庫を開けて自分のペットボトルを取り、一口だけ水を飲んで冷蔵庫にしまうと急ぐように階段に戻ってカシモトさんに振り返る。

 

 

 

「お、おやすみなさい!」

 

「……ああ。おやすみ」

 

 

 

カシモトさんは一階の個室を使っている。

 

だから私達は二階部屋が避難先にもなる。

 

そこまで行けばもう大丈夫。

 

 

なにが、大丈夫なんだろう。

私、何を考えていたんだろう。

 

 

 

「……寝よう…」

 

 

 

逃げ込むように布団の中に潜り、薄いタオルケットを被って朝を待つ。

 

練習の疲れが眠気を誘うから、眠りに落ちるには苦労しない。でもまだ僅かに絡みつく。

 

それが鬱陶しくて……嫌で、耐え難いと知る。

 

 

 

 

 

 

「………私の…足りないものが多すぎる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

今だけこの3日を、長く感じていた。

 

 

 

 

 

つづく

 






マフTしてない時の彼は基本的にウマたらしなのでね!!(ダイタクヘリオス&ゴールドシチー公認)


【カシモト】
そこそこの地方で中央レベルのトレーニングを積ませたらそりゃそうなりますよね!って状態。そこに100%どころか200%で応えれるオグリキャップはやはり中央最上位レベルのウマ娘である証拠。すげーヤツとすげーヤツが組んだらこうなるのは当然。

【オグリキャップ】
カシモトのせいで灰色の怪物どころか白い悪魔になりそう。それに比べるとジオンのザクなんかカスや。そんでツダはもっとカスや!(政治)

【ベルノライト】
リアリストだからこその悩み、そして被害者。つまりアスリートを目指す者として正しい感性を持ったウマ娘。オグリキャップのようなネームドウマ娘は強いことが約束されてるからあまり意識ないけど、他モブウマ娘は毎日学園を去っている現実。ベルノライトはその1人。


じゃぁな!!

閃光のハサウェイ"キルケーの魔女"は観に行きましたか?

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