やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:つヴぁるnet

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If story _ Gray 6

 

 

 

年明けた練習場には既にウマ娘の声。

 

それを壁越しに聞きながらトレーナー室の椅子に腰掛け、そろそろ乾いてきた舌を意識しながらも通話相手と会話する。

 

 

「___無論、前年と気持ちは変わりない。東海ダービーはオグリキャップが走るべき軌跡として求めている。故にそちらが望む話は全てが終わってからになる。ま、強いウマ娘はいつでも歓迎なんだろ?それとも東海ダービー程度では箔付けにもならないと考えるか?シンボリルドルフ

 

『いや、そんな事はないさ。己がその場所でたらしめる。そう決めた道に大も小など有りやしない。しかしコチラの立場としてはあの瞬間に頷いてくれたのなら、オグリキャップはクラシック登録も間に合っていたと惜しくもなる。そうなれば世間的大レースにオグリキャップが走っていた、そんな夢が見れたんだろうと…な』

 

「理解はするよ。俺もオグリキャップがクラシック三冠を蹂躙するそんな光景、是非見たいと思うくらいにはな。興行的にも大盛り上がり間違いなく、世間はそこにいる彼女を間違いなく認めるだろう。確かに惜しい事ではある」

 

『でも貴方はコレを断った。大衆の輪に投じることを望まず、一雫に濃された夢のために。ふふっ…正直に言えば今でも頷いてくれたらと未練がましく思い返すこともあるんだ。けどあの場の私は貴方を頷かせるほどの力もを持ち合わせていなかった』

 

「そうか。それは残念だったな、皇帝」

 

『ふふっ、全く。悪びれる様子も無いと来たか』

 

「理解はするが納得はしてやらんだけだ。こう見えて俺はとても我儘だからな。でも安心しろシンボリルドルフ。俺は必ず東海ダービーを勝ち得えたら次はそちらの舞台を存分に踏み荒らしてやる。地方は荒地だからな。中央の上品な芝の上はさぞかし踏み心地が良すぎてくれるだろう』

 

『言葉と力には責任が伴う。しかし貴方はそれをよく知っている側であり、偽らない側だ。楽しみにしているよ、樫本トレーナー』

 

「楽しみにしておけシンボリルドルフ。

ではまたいずれ会おう」

 

『ああ___待っているよ』

 

 

 

ツー、ツー、ツー…

 

 

 

 

 

 

 

あ、そうだわ。伝え忘れてたわ。

 

 

 

 

 

プルルルル、プルルルル、ガチャ。

 

 

 

『…もしもし。どうしたのかな?』

 

「因みになんだが、その時が来たらベルノライトってウマ娘も連れて行って良いか?彼女はオグリの併せウマとして最高なんで入校の際に是非取り計らってほしいんだわ」

 

ゔぇ!?マジで言ってますトレーナーさん…!? <

 

『ああ、なるほど?…急に口調共々が軽くなったな…しかし、そうだな。それは()()()()()()()()かな?』

 

「ああ、そうだ」

 

『なるほど。では入校テストの際に水準以上に叩き出せたのなら中央は()()()()()()()()歓迎しよう』

 

「ほぉー、そう言ってくれるか皇帝?まあいい、分かった。話は把握したとしよう。ま、元からそのつもりだが」

 

『中央としては、の話さ。だからこそベルノライトの枠を開けておくことを約束しよう。しかし貴方ほど者が育てるウマ娘だ。私個人としては何も心配してない。是非来てしてほしい』

 

「ルドルフのお墨付きか。心強いな」

 

『ふふっ。それは光栄だよ。ではまた』

 

 

ツー、ツー、ツー。

 

 

 

 

 

 

「はー、久しぶりに長電話したぁー」

 

 

 

携帯を見ると43:20秒と出ている。

 

急須のお茶が冷めちまった。

 

まだ肌寒いし、温かいのを入れ直す__

 

の前に、グワン!!と、横から捕まれる。

 

今年もやかましくなりそうな子だ。

 

 

「ト、トトト、トレーナーぁざぁん!?今の話本当ですか!?本当なんですか!?わ、私を!?そそその!!中央にぃ!!?」

 

「何言ってんだよ。東海ダービーを終えたら俺はオグリキャップと中央に行く流れだぞ?てかそういう話だった。笠松に居続けるのも選択の一つだが、オグリキャップは土鍋を目指しているんだからそのための調理場(ステージ)は必要だ。シンボリルドルフも来てくれるならいつでも歓迎だと了承してる。しかしノープランのベルノライトは一人残されてしまう。そうなると離れ離れになるぞ?」

 

「そ、それは、そう…なる、かもですけど」

 

「まあ一応サポート課による教育実習生とか、あと中央からの推薦状による裏口入校とかでも入れるけど、ルドルフには併せウマとして重要だから枠開けろって話にしちまったからな。パリピよろしくノリで」

 

「ノリでぇ!!?」

 

「まあベルノなら大丈夫だろ。周りからは勝てる側としての実力は認められてる。ならテストも容易さ」

 

「え、えと…もしダメだった場合は?」

 

「カサマツで頑張れ」

 

「うあああん!!オグリちゃぁぁん!!カシモトトレーナーが意地悪するよー!!」

 

 

と、今年もいつも通りの逃げ場に助けを乞うがベルノライトだが。

 

 

 

「むむ…カシモト、ベルノ()()()意地悪はよく無いな」

 

「うわーん!オグリちゃーん!!……ゑ?()()??」

 

「二人が仲良しなのは知っている。でもだからと言ってベルノばかり構うのはなんかズルい。それはよくない。だから私にも意地悪しないとならない。ベルノライトだけでは不公平だからな!」

 

「オグリちゃん!?」

 

 

と、年が明けでも愛嬌たっぷりオグリキャップに変わりない。

 

とりあえずオグリキャップのご要望通りなにか意地悪してやろうか考えるが、俺から邪気を感じたベルノライトが「純白無垢なオグリちゃんを汚さないの!」とオグリキャップを守るように頭を抱きしめながら威嚇してきた。

 

なのでオグリに意地悪は諦めることにする。

 

 

 

「ふかふかだ…」

 

「ぐぇっ!!」

 

「あと、ちょっとだけお腹がモチモチだ…」

 

「ぐはっ!!」

 

「(やっぱり肥えてたか…)」

 

 

年明け特有の増量は仕方ないとしてだ、オグリキャップは変わらずベルノライトのふかふかする正面部分が好きである。

 

丁度目の前にあるふかふかするところにオグリキャップは頭を埋めるとイージスガンダムのように抱きしめてベルノライトがいつも通り苦しみ始めた。

 

なーにやってんだよォ!

オマエらぁ!(CV 強い方のオルガ)

 

 

 

「まぁいい。とりあえず今年もベルノライトの頭部は俺が貰うか。新年の充実を願って」

 

「ならわたしはベルノの胴体をこのままだな」

 

「二人とも私に何か恨みでもあるの!?」

 

「「無い」」

 

「じゃぁなんでぇ!?」

 

 

 

 

しばらく友情(マブ)トレーニングをした。

 

 

 

 

オグリキャップのやる気が上がった ▽

ベルノライト のやる気が下がった ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!もうっ!!今日は二人の事が嫌いになるからね!なるんだからね!!」

 

「な、なぜだ、ベルノ…」

 

 

友達(マブ)のベルノライトに嫌われた事でかんたんオグリちゃんになってしまい、上がったはずのやる気が元に戻った。

 

これではやる気ボーナスは無しだな。

 

まあ体力有り余ってるのでガッツリと練習はしてもらうけど。

 

 

 

「ああそうそう。今日の練習からベルノライトはオグリキャップよりも前を走れ。逆にオグリキャップは後ろからだな。しばらくこの練習スタイルで鍛える」

 

「え?急に脚質の変更ですか?」

 

「ああ。必要だからな」

 

「きゃくしつ??…誰かを招くのか?」

 

「それ客室(きゃくしつ)の方な?俺が言ってるのは前の方を走るか、後ろの方を走るかの違いだよ。君達はこれからクラシック期を走るウマ娘として多めの手札が必要になる。仮にこの脚質変更で走り自体モノには出来なくても、走る相手の位置取りをその身で理解しておくのは重要だ。あと…」

 

「?」

 

「ベルノライトが中央の入校テストを合格するためにも技術的にやっておいた方が良い」

 

「!!」

 

 

去年の夏明けに追い込みとして魔改造したベルノライトだが、元は前のめりに走り…というより、俺が担当するまではとりあえず前を走っていたウマ娘だ。先行の経験はある。

 

まあ言うてアスリートとしての素質が無いに等しいウマ娘だったので…

[ 逃げE 先行D 差しE 追い込み E→C ]

と、数値化(ランク分け)すればこんな感じ。

 

最初からパッとしない脚質持ちだ。

やはりアスリートとしての素質は低い。

 

しかし先行だけは手探りとはいえ、とりあえずやってくれてたのである程度は出来る感じだ。

 

経験があるならば利用するべきだろう。

 

 

「でもいきなり脚質を変えて大丈夫ですか?」

 

「君達は10日以上も練習を空けている。実戦的走り方がある程度抜けている。だからこそチャンスだな」

 

「チャンス…??」

 

「まあ、ほらアレだよ。空きっ腹なら何食べても美味しいだろ?つまりそう言う事だ」

 

「なるほど。今ので全て分かったぞ!」

 

「えぇ…」

 

「よし、ならカシモト!早速練習だな。ベルノは先に走ってくれ!わたしは後ろから狙う。それと…手加減はしないぞ!」

 

「っ!の、望むところだよ…!私だって自主練はしてたんだからね!もちろんカシモトさんから提示された範囲内で!」

 

「それはえらい」

 

「名門樫本による徹底管理主義。強くなるとはいえ、少しだけ食事量が制限されてしまうのはやはり苦しいな…」

 

「なぁーにぃが食事制限だぁ!腹八分目にしろって話だるるるぉぉ??アスリートは胃袋にも気をつけるんだよ。てか八分目でもたんまりと食ってる方だろうがよぉ!」

 

「くぅーん…」

 

「ああ、またオグリちゃんがワン娘に…」

 

 

とはいえ、よく食べるからこそ体も丈夫成長するし、疲労の回復力も上がる。

 

沢山食べれるのは別に悪い事ではない。

 

練習に当てるべき必要量はちゃんと摂取してほしい。多かろうが少なかろうが。

 

しかし暴食ならば話は別だ。

 

まず身体に負担が掛かる。よく無い。

 

あと増量の度に練習量を増やして減量に勤しむなどナンセンスだ。忘れてはならんがウマ娘の脚は消耗品だ。替えが効かない。なのに食い過ぎた結果肥えちゃってそれで脚という消耗品を削って減量なんてのはあまりと無駄行動。

 

練習の成果分が減る。

 

正直、徹底管理主義の方針を掲げる名門樫本としてはそんな状態は許せない。

 

なのでオグリキャップには沢山食べても必要以上に食べるなと言っている。彼女はその言い付け通りに頑張って守っているけど、それでも思わず過剰に食べちゃう。困った奴だ。

 

 

まあ、ここら辺は俺の手腕だな。

 

制限させてもストレスになるだけし。

 

なんとかうまくコントロールするさ。

 

 

 

「ベルノ、ワタシ、オマエ、マルカジリ」

 

「カシモトさぁーん!オグリちゃんが食べ足りなくて私を食べようとしてるよ!たすけてぇー!」

 

「なら追いつかれないようにそのまま逃げろ」

 

 

どうやら腹八分目の足りない残り腹二分目はベルノライトで満たすんだろう。

 

年明けから胃袋も元気だ。

 

 

「ぅゥゥー!トッ、トランザム!!」

 

「なに!?分身したベルノライトだと!?これでは沢山食べれるじゃないか!!やったぞ!!」

 

 

 

 

あ、裏目に出た。

ベルンザムかわいそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぅぅ、効くぅ、そこぉおぉぉ…」

 

「まったく、遊び気分で武力介入(トランザム)ごっこやりやがって」

 

「別に遊び気分じゃないよぁ…走りでめいいっぱいに引き出そうとすると無意識にそうなるんだもぉぉん…わたし悪くなぁい…頑張ってるだけだもぉぉん…ぁぁ、そこ効くぅ…やっぱりカシモトさんマッサージうまい…」

 

感受性(そしつ)が高いのも悩みモノだな…」

 

 

アスリートとしての素質は低いが、それ以外に対してはめっぽう高い状態にあるなんとも不思議なウマ娘。

 

だからこそ昨年の夜間練習でモノにした。

 

簡単に言えばベルノライトにはニュータイプ適正あったということ。

 

しかし本来はあんな荒技はジュニア級に落とし込むべきモノじゃない。練習のストレスに耐えれるくらいに体作りが完了した段階でやるべきだからな。身も心も覚悟完了してやるべきか。

 

 

んぁ?

ジュニア期のミスターシービー?

いや、ほら、あの子は……アレだよ、アレ。

 

ジュニア期の段階でクラシック級くらいの強さ秘めたオグリキャップみたく、シービーも初期値が高い子だったから究極のごっこ遊び(イメージトレーニング)が可能だっただけだし。

 

あとそういうのをノリで楽しむ上にちゃんと理解してやってのけるタイプ。

 

それでかつ他者に囚われない自由なウマ娘だからニュータイプの感応に溺れなかった。

 

つまりストレスフリーなウマ娘。

 

ガンダムでいえばジュドー・アーシタみたく心の強いタイプなんだよ彼女。

 

 

だから俺がマフティーしても彼女は容易に背負ってくれたし、むしろそれすらも楽しんでたから踏み出す一歩は本当に凄かった。

 

今考えるとあの三冠バおかしいな。

 

やっぱ自己完結型って恐ろしいわ。

 

 

だから……最初に出会えたウマ娘が彼女で本当に良かったよ。本当に…な。

 

 

 

「ねぇ、カシモトさん…」

 

「なんだ?」

 

「わたし…本当に中央に、行けるかな?」

 

「今の2倍強くなれたら余裕で」

 

「あ、あはは……2倍かぁ…」

 

「まあ、その時までに俺がなんとかするからベルノライトは練習を頑張れ。昨年の段階で身も心も覚悟完了してんだ。あとは実行力だけ」

 

「私として走る…だよね?」

 

「ああ。ベルノライトであることを誇りに。そしたら俺は幾らでもベルノライトを誇らせれるそんなウマ娘にしよう。約束する」

 

「んっ……ありがとう、トレーナー…」

 

 

 

直向きに頑張る子だ。

 

それでとても賢い娘だ。

 

 

だからこそ理解が早かった。

 

___足りないものが圧倒的に多すぎる。

 

 

初めてのレースでそう受け止めた。

 

なによりオグリキャップってすごいウマ娘を近くで見ているからこそ、今の自分はどれほどの走りをしなければならない事を理解し、そしてそこに行き着くまでの必要要素を高い理解力だけで把握した。

 

もし育成に70ターンあったとして、それで今ある環境と自分の成長力でどこまでこの強さを高めれるか?……そう考えて、行き着く。

 

 

__ああ、だめだ。

 

ベルノライト程度では無理だ。

デビュー戦にすら勝てない。無理だ。

 

彼女自身をそう判断する。

 

 

 

 

……走る以外を与えてしまっている。

 

それがベルノライト。

 

ウマ娘として嫌だろうな、こんな扱い。

 

 

 

でも俺は彼女のことを分かっている。

 

彼女は___けっこう負けず嫌いだ。

 

引っ込み思案を自称してるけど芯が強い。

 

本人は自覚ないが結構胆力もある。

 

ただ、高い理解力がベルノライトってウマ娘を諦めさせている。そこに行き着くまでが足りなさ過ぎる。そう定めてしまう。そこが彼女の弱いところだった。分かっちゃうから。

 

 

 

これはとある話。

 

マヤノトップガンってウマ娘がいる。

 

 

このウマ娘は凄かった。

 

とんでもない天才だった。

 

それでいて考えを能力に変換して変幻自在に走れる。愛嬌ある見た目の中にそれだけの頭脳とずば抜けた直感力、そしてアスリートとして高い身体能力。可愛らしい見た目に騙されてはならない凄みをこのウマ娘はとんでもなく高い総合力として秘めている。

 

 

マヤノトップガン、実はベルノライトはこのウマ娘と似たようなタイプだ。

 

考えを走りに変換させれるほどの頭脳と理解力の高さ。まだ開花してないが相応の直感力も持ち合わせている。時間を与えれば一人で辿り着くことができるそんな賢いウマ娘だ。

 

でも、ベルノライトにはマヤノトップガンほどの身体能力が秘められていない。生まれつき走ることに関する出力が足りないんだ。これは最初から定められた彼女の能力。言わば低すぎる初期値とそれを補わせるための成長力の低さ。

 

だからアスリートとしての素質が低い。

それをベルノライト自身が理解している。

 

 

カシモトという練習レベルが高い環境で練習コマンドを叩いても成長量は低い。に、対してオグリキャップはモリモリと成長していく。そりゃあ諦めすら覚える。抱く夢に対して脚が応えきれないから。それがベルノライトだった。

 

 

 

 

だから、考えさせる必要性を奪った。

 

そして、悩まさせる理解力も奪った。

 

 

 

ひたすら___ひたすらに走らせる。

 

見るも、聞くも、考えるも、思い返すも、ベルノライトから全てを取り上げて、ウマ娘がままその脚で走らせる。

 

 

 

俺は彼女がやり切れる事を分かっていた。

 

それだけのウマ娘を見てきた身だから。

 

 

当然、リスクはある。

 

問題ないと言い切れない程のリスク。

 

 

でもベルノライトならやり切れる。

 

この課題と呈した練習を最後までその精神力でやりきってくれる。信じていた。

 

 

ま、やり切ってもらうための『餌』として「樫本とは?」を吊り下げて頑張らせのもあるが。

 

 

でも彼女は知りたがってたからな、俺を。

 

だから最後はマフティーを知った。

 

走り切ったその脚で止まらずたどり着いた。

 

これにはオルガ団長もニッコリだろう。

 

 

 

 

「本当に頑張ったな、ベルノ」

 

「ん、ぇ…?とれー、なぁ…?」

 

「よく信じて頑張った。本当にえらいよ」

 

「え、へへ……そうか、な…」

 

 

 

尻尾がゆらりと揺れる。嬉しそうに。

 

 

 

「ねぇ、トレーナー…」

 

「?」

 

「このままがんばれたら…いつか私も、あの日に視えた、マフティーのウマ娘達のように…そこに堂々と立っていられるかな…」

 

「!」

 

 

 

驚いた、そんな事まで考えていたのか。

 

ちょっとだけ侮っていたな、このウマ娘。

 

やっぱりベルノライト程度じゃないな。

 

ベルノライトだからこそ、だな。

 

 

 

「ならば___受けたその名を誇り高く。それがマフティーたらしめた意味であり、マフティーに応えられるべき証。そしたらベルノライトだって視えるべきファクターになれるさ」

 

「そっか…」

 

「まぁ、せめてG1に勝つくらいの証明をその身に刻まないとな。それ相応ってのは世論も込めてこそだよ。でなければ何事も名を残せない」

 

「……なら、ベルノライトとして、わたし…」

 

「ああ__やってみせろよ。ベルノライト」

 

 

 

 

 

そしたら、なんとでもなるはずだ。

 

そう叫んで挑めるはず。

 

ウマ娘の脚で応えられる世界ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして5月の終盤。

 

レース場は熱気に包まれている。

 

 

 

 

「トレーナー、行ってくる」

 

「ああ。カサマツの花道飾ってこい」

 

 

 

今日は東海ダービーだ。

 

俺とオグリキャップが目標としたレース。

 

中央を蹴って、この地方で華を飾る。

 

それを笠松の人達が願っている。

 

オグリキャップの栄光を。

 

あと通話越しであるがシンボリルドルフも激励してくれた。オグリキャップの勝利を願って。

 

 

 

「トレーナーさん。お隣良いですか?」

 

「ええ!待っていましたよ___奥方」

 

 

 

オグリキャップの母親だ。

 

同じ芦毛のウマ娘。

 

奥方とは面識がある。

 

片手で数える程度だが話した事は何度か。

 

それと元アスリートウマ娘だ。

 

 

 

「私の子は、オグリは言ってました。素晴らしいトレーナーがたくさんを与えてくれたと」

 

「それを言ったらオグリキャップも沢山を与えてくれますよ。そして東海ダービーという栄光を今日は与えてくれます。だから責任者として見ていましょう。彼女のレースを」

 

「……樫本トレーナーさん」

 

「?」

 

 

ファンファーレの中、横目に反応する。

 

ふわりと揺れる芦毛と共に奥方は告げる。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ。オグリキャップを。最高のウマ娘をありがとうございます」

 

 

 

 

そして、ゲートは開いた。

 

ウマ娘達は走る。

 

寝ぼけている暇など与えず、目を見開いてこの世界の神秘を目の当たりにする。

 

 

 

「行け!オグリキャップ!!勝て!!」

 

「ああ!私は……負けんっ!!」

 

 

 

この熱量は【勝利の鼓動】にして。

 

 

芦毛の怪物は砂塵を蹴り上げて走る。

 

 

最後の直線、後方からライバルたるフジマサマーチすらも撫できったオグリキャップは。

 

 

 

 

 

 

『オグリキャップ!一着でゴールイン!!』

 

 

 

 

 

 

 

実況席から響く声。

 

それに比例して湧き上がる歓声。

 

眠気すら忘れるような目覚めを芦毛のウマ娘が走ってくれた事で味わう。

 

 

 

 

 

「___やっぱり、ウマ娘が走っているところは何度見ても愛おしいもんだな…」

 

 

 

 

 

中央じゃなくとも、地方でも輝かしい。

 

東海ダービーを1着で走り抜けたオグリキャップの姿は、もうそれは本当によかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この脚で立って走る。

 

それだけが幸福だと思っていたわたしはこの脚で走ることで皆に恩返しを考えた。

 

そしてオグリキャップならではの軌跡を刻むために東海ダービーへ出走し、名誉を掴んだ。

 

たくさんの人達から祝われ、カサマツにオグリキャップあり!と証明されながらも未だ勝利の鼓動は止まらない。満たされているんだ。

 

でもお腹は空いたので土鍋を50人前も食べてしまった。勝った喜びで箸が進んだ。

 

カシモトとお母さんは呆れたように土鍋をかき込む私を見ていたが、でも笑っていた。

 

 

さて、そんな勝利祝いを得てから実は既に6日が経過しており、私はとある準備に勤しまれていた。

 

私のトレーナーであるカシモトも何処か忙しそうに動いている。

 

あとベルノライトもひと足先に私達が予定としている場所に向かって行った。

 

とても緊張した様子だったのはまだ記憶に新しい。

 

 

 

さて、カサマツで一区切りを終えた私は何をするべきか?

 

 

実は6日前の東海ダービーのウィニングライブ後に私は中央に移籍する事を皆に伝えた。

 

この情報はベルノライとフジマサマーチ、後はカシモトと私のお母さん、あとは一部の関係者だけだ。

 

あまり話を広めないようにカシモトから言われていたため、私が東海ダービーを走り終えたら中央に行く話は友達に言ってない。

 

なので同室のノルンエースが白目剥いて気絶していたのは記憶に新しい。

 

ちょっと悪い事をしてしまったか?

 

 

そんな友達の中でも唯一、フジマサマーチにだけ移籍の話を伝えたのは私をライバルとして扱ってくれた特別な存在(ともだち)だから。

 

 

 

「やはり行くんだな」

 

「ああ。去年から決めていた事だからな」

 

「そうか…」

 

「本当は中央のスカウトと接触した段階で移籍の判断はあったらしいんだ。でもカシモトが断ったんだ。中央移籍は別に東海ダービーを走り終えてからでも良い。わたしもそれで行こうと頷いたんだ」

 

「なるほど、そうか。つまりオグリキャップは私との約束を優先してくれたんだな」

 

「!…そうだな。君とのレース。それを走ってから中央って場所に向かえるなら、それが良いと思ったからな」

 

「ふっ、わがままな奴だな」

 

「なっ!我儘って!マーチ!わ、わたしは!」

 

「冗談だ。でも私が東海ダービーでオグリキャップに勝てたら中央移籍の話を撤回させれたかもされない。今更だが、そう考えれたらなんだか少し悔しいと考えてしまうんだ」

 

「マーチ…」

 

 

でもカシモトが行くと言っていたら、私は東海ダービーの道を捨て、今頃中央の世界で走っていたんだろう。

 

カサマツに沢山の人たちを置いて私だけがそれ以外で走り征く。

 

残酷と考えてしまうのは贅沢だろうか。

 

中央は名誉ある世界だと聞いている。

 

そこに招かれることはとても素晴らしい事なんだと知ったから。

 

 

「中央で暴れてこい、オグリキャップ」

 

「!」

 

「私は東海ダービーの敗北を得て、また一から鍛え直す。そしてオグリキャップに負けないほどに走り続けてやる。それがカサマツで私のやるべきフジマサマーチとしての道だ」

 

「マーチ…!」

 

 

でも背中を押してくれる私のライバル。

 

レースに、その世界での走りに、勝ちたいという心を灯してくれた友達。

 

そんな友達が願ってくれる。オグリキャップが中央で走る事を。

 

 

 

「あと……オグリキャップ。ありがとう。一緒に走ってくれて」

 

「っ、こちらこそだ!わたしはマーチに!勝負で勝ちたい気持ちと!あとレースで負けたく無い気持ちを教えてくれた!これは中央に行っても変わらない!マーチのお陰さっ!」

 

 

二度と会えない訳じゃないが、でもしばらく会えなるから、既に寂しさを感じて抱きしめてしまう。マーチは驚いたが受け止めてくれた。

 

 

 

 

 

それからマーチと別れ、私はなんとなくトレーナー室に向かう。一年近く使ったこの部屋もお別れになってしまうんだな。そうやって名残惜しさを感じながら扉を開けると…

 

 

 

「やりました!!やりましたよぉぉぉ!!」

 

「だから言っただろ。問題ないって」

 

「ベルノ!戻っていたのか!」

 

「っ!オグリちゃぁぁん!わたし!わたし!中央の入校試験で合格したよぉぉ!しかもアスリートウマ娘として!これで2人と一緒に走りに行けるよぉぉ!うわぁぁぁんっ!」

 

「試験官の見ている前で後方脚質を知っているウマ娘が先行策で前のめりに走れる証明。ポテンシャルはともかく技術があると知れば磨くに相当しているって判断してくれるだろ。突破するに決まってんだよなぁ」

 

「ああ、なるほど。だから年明け早々に脚質変更させたんだなカシモトは。あと私もか」

 

「中央移籍後はいきなりクラシック級に介入するんだ。ならフィジカルだけでは通じないレース展開をその脚で早めに知っとくに越したことはない。もし順当に重賞レースに勝てれば前に話したジャパンカップに出れるだろうし。なら仕込みは早い方がいいよな」

 

「おお!前に言ってたシャンパンカップか!」

 

「ジャパンカップね?なんか酔いそう…」

 

「そう、それだ!ジャパンカップ!私が東海ダービーを選んだことで日本ダービーを走ることなかった。でもそのレースと同じ条件が今年の秋に開催される。次目指すはそこだな!」

 

「笠松のウマ娘が日本一を目指すか。もうしそうなったらもの凄いシンデレラストーリーだな」

 

「あははは。それならカボチャのバ車でも用意する感じですか?」

 

「俺が魔法使い(キルケー)だからか?残念だけどそれは叶わないな。何せこのシンデレラは腹ペコだから、カボチャのバ車を用意しても食べ尽くされてしまう」

 

「あ、それは確かに」

 

「??」

 

 

また二人だけの難しい話をしている。

ずるいな。もっと私にも構ってほしい。

 

むむ…!!

 

 

「カシモト!私は君のために走るぞ!」

 

「うぉっ、急にどうした??」

 

「ここまでオグリキャップたらしめさせてくれたのはカシモトなんだ!その恩返しする!」

 

「お、おお。そうか。なるほど…そこまで言ってくれるのか。ならオグリキャップにはジャパンカップを頑張って貰おう。だが出走権を得るためにも東海ダービー以上の箔付けは必要だ。移籍後もすぐに忙しくなるぞ?踏ん張れるな?」

 

「当然だ!それで行こう!」

 

 

眠たげな___雰囲気はもう一つも感じさせないカシモトは本気の眼で伝える。まさに中央を知ってからこそいる者の眼。そう感じさせる。

 

 

 

「あの、因みにわたし、は?」

 

「ベルノは猛練習だな。まだ弱いし」

 

「ハッキリ言いますね!?」

 

「5戦2勝の入着率50%以上は成果として申し分ないが、中央のクラシック級は急成長した化け物たちが蔓延る世界だぞ?ジュニア期に中央を去らずに走り続けてるウマ娘ってつまりそういうことだからな。ベルノライトは成長した方だけどそれでもまだ上積みに足は突っ込めてない。なので中央には行けるが、中央で示せるほどの力はまだ備わっていないんだ」

 

「…つまり、わたし次第??」

 

「いや、ベルノライトはこれまで通りの負けん気でいてほしい。だからここから先はトレーナーの俺次第。中央のトレーナーとして俺が君たち二人を世間が認知する上澄みのウマ娘にしてみせる。だから俺にまかせろ。

もう既に___眼は覚めているから」

 

「「!!」」

 

 

ドクン__と、私たちの心臓が叩く。

 

まるで___ここからが地獄(ほんばん)だぞ。

 

和やかなカサマツで眠たげにいた目を完全に覚ました鉄の怪物は中央という世界に刻まんと動き出す。

 

 

 

ああ、そうだ。

 

この人の最初は、そうだった。

 

 

初めてランニングですれ違ったこの人をカボチャ頭として見間違えていたあの瞬間。

 

そこで感じたプレッシャーは今でもこの魂が覚えている。

 

私自身がウマ娘であることを理由に二度と忘れることない記憶。

 

ベルノライトもこの人を『キルケー』なんて不思議な例え方をするほどに、この人から感じ取れたあのファーストコンタクトはそれ相応。

 

 

___たらしめると、いう覚悟が違う。

 

 

そして既に、中央と戦っている。

 

ここにいるオグリキャップとベルノライト。

 

このウマ娘をどのようにして中央という世界で戦わせて、そして勝たせるのか。

 

 

 

ッッ、ッッッ!!!

 

 

 

「ふんッッぐぐぐぐぐっっブルブルブルブルヒルドブルブルブル!!!!」

 

「うわっ!オグリちゃんいきなりブルブルしてどうしたの!?」

 

「まるで風呂上がりのワン娘だな」

 

 

ジッとしてられなくて体をブルブルと奮い、内側の感情を外側に表す。私は不器用だからこんな風にしかできない。でもこの感情は本物。

 

 

「カシモト!ちょっと走ってきて良いか!」

 

「制服姿でか?…まぁ満足する程度にどうぞ」

 

「ああ!行ってくる!」

 

 

 

丁度いいマーチ!走るぞ!! >

せ、制服のままの姿でか!? >

 

 

 

「わっ、オグリちゃんあんなにも目を滾らせて走り出した。ど、どうしたんだろう…」

 

「晴れ時々ワン娘だろうと彼女はとてもウマ娘だからな。ま、俺は素敵だと思うよ」

 

「!!、わ、私だってウマ娘ですよ…!!だから私も少し走ってきます!実は中央入校合格書受け取って走りたい気分なので…!!」

 

 

マーチを見つけた私はそのまま巻き込む形でグラウンドを走ると、その後ろからベルノライトもやや遅れ気味に追いかけてくる。

 

すると同室のノルンエースやその友人のルディモーノやミニーザレディもノリと勢いで思い出作りと割り込み、しばらく6人で走った。

 

 

 

 

やはり、笠松はいい場所だ。

 

ここは大好きだ。

 

 

だからこそ、この笠松で奇跡と軌跡を証明したオグリキャップとして、次は中央に。

 

まだ見知らぬ世界だが、でもそこにはカシモトがいてくれる。あとベルノライト。

 

なら私は大丈夫。

 

 

___なんとでもなる筈だ!!

 

 

 

そう吼えて挑もう。

 

オグリキャップとして。

 

 

 

 

 

 

つづく







勝った!! 笠松編 完!!




一応、地方所属(カサマツ)のままJCを蹂躙して日本の脳をめちゃくちゃにするルートとかもあったけど、流石にあのジャパンカップの出走メンバー相手に地方の環境のみで鍛えて競わせるのは想像つかないので素直に中央に環境整ったら行く流れです。ベルノライトもいるからね。ま、休暇も終えて目が覚めたので中央に戻ってトレーナーするのは自然な流れよ。それはともかくジャパンカップは食い荒らすので対戦よろしくお願い致したします。




【カシモト】
笠松で一年と数ヶ月間トレーナーして目が覚め切ったのでここからマフTだった頃の本気モードになった。と、言っても樫本の頭脳に時代を先取りしたトレーニング方が組み込まれているので笠松時点では既にトレーニングレベルが5ある。つまり一人だけ俺teeeしてるような状態…から更に力が増すらしい。ハーメルンではよくあること。

【オグリキャップ】
東海ダービーを3バ身で圧勝した笠松の星。中央に移籍したらまずは美味しい料理を食べると決めている。あとカシモトに恩返しするべく東京2400左回りのレースで1着を捧げようと意気込んでいる。

【ベルノライト】
原作と変わって一人のアスリートウマ娘として中央トレセン学園に入校することになった。それでも中央の感覚からすればオープン戦に入着できるかもわからないレベル。まだまだこれから。

【シンボリルドルフ】
友人のマルゼンスキーから樫本の連絡先を貰ったので連絡を取れるようになっている。あの時はあの時として現在の関係は身分問わず軽口を叩き合えるくらいには良好。無論として警戒の対象であるが、先駆者としての外連味ある言い回しから始まる敢然とした姿勢に対して高い興味を抱いている。もちろん立場上として恨めしい相手でもある。

【オグリキャップの母親】
描写は無いがちゃんと面識はある。てかオグリキャップの胃袋を知り尽くしている人物なので徹底管理主義の育成者としては担当バの事を訪ねないとならないので接点を持つのは至極当然。そのため樫本トレーナーのことを信用している。




【中央トレセン学園】
なんかヤベー奴が来たくね??怖くね??




じゃぁな!

閃光のハサウェイ"キルケーの魔女"は観に行きましたか?

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