やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ!   作:つヴぁるnet

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If story _ Gray 8

 

 

 

 

体が、ふわふわとして、プカプカする。

 

あんなに大変だったのに、今は楽。

 

それよりも、ナニカ、が見える。

 

ああ___これは。

 

 

 

 

「土鍋ッッ!惑星サイズの土鍋だ!!」

 

「起きたか、オグリキャップ」

 

「…ほぇ……??」

 

「おはよう。時間的にはまだ夜だけど」

 

 

 

目を覚ますと私の顔を覗き込んでいたのはトレーナーのカシモトだ。あと夜空。

 

しばらく呆気に取られていたが、段々と体の感覚を思い出すと私は芝に寝転がっていることが分かった。私はたしか…

 

 

「どうだ?ニュータイプ空間?重たいのになんかフワッとするだろ?」

 

「…土鍋は?」

 

宇宙(そら)に消えてったよ。何故か現れた土鍋には呆気に取られたけど、でも君の抱える純粋さは確かに土鍋になりたいと願うユメのままなんだと納得した」

 

「そうか。何処かに行っちゃったのか。なら私はまだ土鍋になれないんだな…」

 

「いつかなれるさ。でもそのために食材集めしないとな。沢山の重賞勝利。そしたら笠松にいる皆もオグリキャップの土鍋を喜ぶ」

 

「ああ、もちろんだ……すぅぅ、ふぅぅ…」

 

「まだそのまま転がっとけ。これは心の練習だから。肉体と違ってコンスタントに繰り返さないほうが良い」

 

 

 

言われた通り、私は芝に寝転がる。

 

顔を動かして周りを見渡せば、夜のターフを照らすために一つだけ光っているレース用の大型照明と、その下でPCタブレットに練習データを入力しているカシモトの姿。

 

顔を戻して見上げれば夜の秋空。

 

秋の星達が見える。

 

ただし笠松にいた頃よりは見えない。

 

ここは光が豊富な都内街だから、明るすぎて光の少ない田舎に比べて星の姿が見えなくなってしまうらしい。初めて知った。

 

 

「…」

 

 

私はG1という大舞台で勝つためにカシモトと夜間練習を行なっている。

 

これはベルノライトが去年カシモトとやっていた事と同じだが、今回私に設けられたこの夜間練習はベルノライトとの時と目的は違う、

 

強者だからこそ持ち合わせる領域、または『ゾーン』とやらを知るために私はカシモトに視られながら意識を合わせ、領域の感覚をこの脚と身体に落とし込む。

 

最初は手を引かれるように招かれた。

 

マフティーとして視る世界を。

 

感覚に慣れたら最後はオグリキャップ本人でゾーンを引き出す。

 

そうしたら後は好きに出入りできるようになるからマフティーの助けは最初だけになる。

 

そのため二週間程度の練習らしい。

 

そうして使いこなせるようになった領域はウマ娘の走りの力となってくれる。

 

これはウマ娘として名を得た魂だからこそ可能としてくれるらしい。

 

 

しかしカシモトは本当に凄い。

 

カシモトも私がオグリキャップって名を背負っているようにマフティーという名を持っているからこそカシモトも領域を知る側にある。

 

それをトレーナーとして担当に落とし込む。

 

そんな者の元で走れる私は恵まれている。

 

 

 

「ベルノライトの場合はあまり考えさせないためにストレスを掛けまくるのが目的。考えるじゃなくて感じさせるジュドータイプとして。今回のオグリキャップも似たような条件だが、実戦的な感性で取り組んでもらうために領域を知ってもらった。言うなら君は劇場版カミーユタイプ」

 

「??」

 

「つまり、その歯でよく噛んだらただ胃袋に入れるんじゃなくて、オグリキャップに与えられた胃袋として意識して入れろって事だ」

 

「なるほど。私の胃袋としてか」

 

「消化器官って括りながら人も動物も生物も変わらん。でもその体にある胃袋はオグリキャップだけのモノだろ?沢山食べれるために与えられた唯一無二のオグリキャップ。それは君だけのモノであるなら、そこに欲する飢えた怪物は何を欲しがっている?」

 

「……土鍋」

 

「ああそうさ。だから視えたんだろう。ベルノライトでは絶対に見えない土鍋。オグリキャップが欲してたまらない未来の姿形。その感覚を意識的に捉えながらも他者を通じて分かり合えてしまった()る者とは、総じてニュータイプって言われている。ここにいる俺はオグリキャップってウマ娘を誤解なく識った」

 

「それもやはりマフティーだからなのか?」

 

「もちろん。マフティーだからな。仮にそうじゃなくてもこの世界の不思議さと都合の良さを理由にすればニュータイプじゃなくとも、他にマーベラス空間とか、あと学園の保健室とか、そういう固有結界たるモノは案外存在する…らしい」

 

「そうなのか。知らないモノばかりだな」

 

「認識しないから知らないだけ。でも知ってる者からすれば特に難しい話でもないんだ。俺の場合はマフティーって味付けだけで幾らでも出来てしまうだけ。あ、この意識が眠気無くスッキリ目の覚めた場合の話だけどな?」

 

「そうか。ふふっ、やっぱりカシモトって本当にすごいんだな。私は知らない事ばかりだ」

 

「君はそれで良いよ。一途に走る。そこに誰かのユメやら願いやらを乗せることが力となるのならそれは正しい。ガンダムとかもそうだし」

 

「ガンダム?」

 

「乗せて、乗せられる。そう言う意味だ」

 

「ガンダム……良い言葉だな」

 

「ああ。ロマンある言葉だよ。乗り手が宇宙(そら)に縛られないために彩られた自由意志の象徴だ」

 

「なるほど。と、なれば私は土鍋ガンダムか?」

 

「!?、くくくっ…!なるほど。それはなかなか良いな。そうか、ドナベガンダムか」

 

「変、かな?」

 

「いやいや。ありとあらゆる食材を詰め込んだオグリキャップの自由意志。でもその終点には笠松から託された皆の思いがあるわけだろ?」

 

「もちろんだ。今の私は宇宙(そら)のように広き中央にいるが、でも最後は笠松に帰る」

 

「それはいいな。めぐりあい宇宙にも帰るところがあるって」

 

 

笠松を思い出せば心が温かくなる。

 

中央にはカシモトとベルノライトがいるから寂しくないけど、でもやはり故郷の味を忘れることはできないんだ。

 

だからいつか帰って味わいたい。

 

でもそのためには土鍋を囲ったときに語れる沢山のオグリキャップを皆に伝えたい。

 

 

体を起こす。

 

心が飢えて堪らないんだ。

 

 

 

 

 

 

やっほー、こんな時間に悪い子達かな?」

 

 

「!」

 

 

 

体を起こしたタイミングでカシモト以外から声がした。私と同じ女性の声。

 

 

 

「学園から許可は貰っている。だから悪い子じゃない。代わりに君はとても悪い子そうだな」

 

「おっと、そう来るかー。でもアタシは別に良い子になりたいわけでもないよ。むしろ悪い子の方が楽しいかもね!」

 

「子供の特権だな」

 

「へー、大人には難しいのかな?」

 

「責任が伴っちまう悲しい生き物だから。なので悪い子するなら今のうちにと勧めておくよ」

 

「じゃあ今日はとことん悪い子になろうかなー」

 

「どうぞ」

 

「あはは!いけないんだー。責任ある大人の前で子供が悪い子って宣言してるのに、それを見逃すなんて」

 

 

眠気すら感じさせない軽々とした口調。

互いを知ってるかのように語っていた。

 

 

 

「二人は知り合いなのか?」

 

 

「「いや、全然??」」

 

 

 

あれ?

 

 

 

「噂とかでアタシが一方的に知ってるだけ。でも不思議とこのトレーナーさんの事が分かっちゃうんだよね。何故かな?」

 

「それは俺も君と言うウマ娘の表面を知っているからだな。

 ___ ミスターシービー

 

「あはは!案外アタシも有名人だね」

 

「三冠ウマ娘の意味をもっと理解した方がいい」

 

「えー、それは窮屈だなー」

 

 

三冠ウマ娘。授業で聞いたことがある。

 

皐月賞、日本ダービー、菊花賞。

 

これらを三つ勝ち得た者だけの称号。

 

私は東海ダービーを優先したことで獲る未来を選ばなかったから、もう無縁の話だ。

 

 

 

「因みにオグリキャップも出走していたら三冠を獲ってた。俺が言う」

 

「…へぇー?じゃあそっちの君はどう思う??」

 

「私か?そうだな。でもカシモトが言うなら走っていた私はそうなんだろう」

 

「ふふっ、そうなんだ。うん。でも…」

 

 

 

 

 

 

___中央を無礼(なめ)ない方が良いよ?

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

言葉は朗らかで、雰囲気は活発的で、総じて自由気ままに映るウマ娘から放たれたソレは大地すら軋ませるほどに、重たい。

 

先ほどのニュータイプ空間とはまた違ったプレッシャーが、この身体を襲う。

 

 

 

だが……

 

その重さは途端に消え去った。

 

 

 

「なーんてね。アタシは三冠だけどルドルフみたいな三冠にはならないよ。それに夢ってのは誰でも見るべきだ。私自身ならやれた。自分自身ならやれる。そこに世界も重力も引力も縛る権利はない。思い馳せてるからこそウマ娘は果てしなく走れる。それがたらればでもアタシは大歓迎だよ。ま、アタシは己の気ままさを強欲にたくさんの夢を踏みつけてきた側だ。実はわがままなんだ、アタシ」

 

 

自傷するように過去を語る。

 

でもそこに後悔はない。

 

ただ事実は捉えた上で、己の「やりたい」を通してきた。

 

私も、笠松に持ち帰りたい夢達のために沢山を踏みつけて走るんだろう。

 

でも…

 

 

 

「わがままでも良いと私は思う」

 

「!」

 

「現に私は、カシモトにわがまま言ってる」

 

「まぁそうだな」

 

「あ、キミも認めるんだ」

 

 

秒とも迷わずに肯定するカシモトに少しだけキョトンとするミスターシービー。

 

そんな三冠ウマ娘の彼女にカシモトは言う。

 

 

 

「競い合いの中で己たらしめる。なら踏みつけていって上等だろう。俺はこれまでの勝利と、これから勝ち得て行くだろう数多ある道になんら後悔は抱かない。そんなのは中央の門を潜る前からこの魂に刻んである」

 

「!!」

 

 

その通りだ。カシモトは。

 

マフティーをする樫本はそうだ。

 

ウマ娘を勝たせるために健在とする。

 

それは目の覚めたその視線の中でウマ娘の走る姿を見たいがために、踊り狂うカボチャ頭。

 

私はそれをあの日から、知ったはずだ。

 

 

 

「アハっ。やっぱりキミ、怖いことするね」

 

「なんだ?マルゼンスキーの受け売りか?」

 

「あ、マルゼンスキーのこと知ってんだ!」

 

「去年地方で会ってから、後ココでも何度か顔を合わせている。この夜間練習を終えたら今度並走頼む予定だ」

 

「おおー!なるほど。じゃあアタシも参加しようかな。マルゼンスキーが走るなら面白くなりそうだし」

 

「ならついでにルドルフも誘ってくれ。いつぞやの笠松の応酬を通してから俺に若干の引け目持っちまってな。あの日のお粗末さは今でも忘れれないと僅かに萎縮しちまってね」

 

「おっとアタシを橋渡しにする気なんだ。でも良いよ。ルドルフもたまには立場を忘れて走るべきだからね。なら今度誘うよ」

 

「よし。友情トレーニング確保!」

 

「??」

 

「あ、そうだ!連絡先交換しようよ!トレーナーさん」

 

 

それから連絡先を交換したミスターシービーはシルクハットを揺らしながらご機嫌に去ると再び私とカシモトになる。急に静かになった。

 

 

 

「急な三冠ウマ娘のせいで長めの休憩になっちまったな。流石坂路知らずのロングスパート」

 

「…カシモト」

 

「なんだ?」

 

「ミスターシービーのことは本当に知らないんだな?」

 

 

 

初対面なのは確かだ。

 

けれど、そうも感じられなさが違和感として何故か絡みついている。

 

それをカシモトに訪ねてみると…

 

 

「ああ__()()ミスターシービーは何も知らない。知ってても表面上にある情報だけ」

 

「……そうか」

 

「不安にさせた?」

 

「……ちょっとだけ。なんか…楽しそうに見えたから

 

「そうか、ごめんな。なら、こうしようか」

 

「?」

 

 

カシモトはタブレットPCを手放すと私の元まで近づき、近くで眼を見る。

 

 

 

すると___無重力空間に引っ張られた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

急な展開に手足をバタつかせそうになるがカシモトに手を掴まれて、姿勢が安定する。

 

ふよふよ、と漂うだけの異空間。

 

そこに恐怖はなく、寧ろ居心地が良い。

 

 

 

「オグリキャップ。君は沢山の人達から愛されるべきウマ娘だ。ならば俺も君を愛そう」

 

 

「カシモト?」

 

 

「俺はオグリキャップだけを見ている」

 

 

「!」

 

 

「俺はオグリキャップしか見ていない」

 

 

「っー!」

 

 

 

心が、溢れんばかりに満たされる。

 

これは……これは、なんだ!!

 

私に何が起きている!?

 

 

 

「日常はもう仕方ない。目が覚めた以上は担当以外にもウマ娘とか見てしまう。走る彼女達が好きだから。でもココにいる俺はオグリキャップだけしか視ていない」

 

「!」

 

「だから不安にならないで良い。俺は君のトレーナーなんだから。オグリキャップ」

 

「カシ、モト…」

 

 

 

偽りなく伝わり合うニュータイプ空間。

 

もしくはウマ娘の心を映す世界。

 

だからオグリキャップに正しく伝わる。

 

 

しばらくしてスッと視界が引き延ばされると体に重力を感じ、そして学園のターフにいた。

 

意識が現実に覚めると私はカシモトから頭を撫でられていることに気づく。

 

 

 

「さ、今日はここまでにしようか」

 

「え?…ぁ」

 

 

タブレットPCを見ると時刻は23:28。

 

日が変わる前だ。

 

今日はいつもよりも長居してしまった。

 

 

 

「まだ不安かい?」

 

「いや…何も、不安はない…!」

 

「それは良かった」

 

「ああ、でもカシモト。私だけじゃなくてベルノライトも私と同じくらい見てくれ。カシモトの担当ウマ娘って言うならベルノライトにも偽りなくして欲しい。今と同じくらいに」

 

「当然だ。俺の愛バだぞ?もう眠気なんて勿体ないないほどに、いつまでも見ていたいほどに」

 

「ふふっ、いつまでもか。それはちょっと難しいかもしれないな。私だってこの奇跡を有限としていつかは走れなくなってしまう。寂しいけど、そうなってしまう」

 

「なら尽きるその日まで瞬き厳禁としよう。眼を合わせてる内は死神も来ないからな」

 

「ああ。それで良い………死神?」

 

「視線を外すことは己を忘れたと同義。つまり刈られてしまう証拠さ。だが俺は君たちのトレーナーであることを忘れない。ならばいつまでも見ていよう。これはそういうことだ」

 

「なるほど。ふふっ、カシモトは詳しいんだな」

 

 

それから私たちは夜間練習を終えた。

 

そろそろ一週間目になる。

 

ニュータイプ空間も把握した。

 

あとは私が自分でどれだけ引き出せるか。

 

オグリキャップならではのゾーン。

 

そして。

 

その先に視える___ドナベガンダム。

 

 

 

大丈夫だ。不安はない。

 

胃袋もしっかり飢えている。

 

 

だってカシモトとなら「なんとでもなるはずだ!」と、この脚は前に進めるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴール!!タマモクロス1着!!』

 

『秋の天皇賞を勝利したのは勇き稲妻!!』

 

『東京の空に雷鳴を轟かせました!』

 

『2着は1バ身差でオグリキャップ!!』

 

 

 

 

ぅぅーー!!!

 

ぐぬぬぬぬ!!!

 

あれだけ頑張ったのにッッ!!

 

む、無念だッッ!!

 

 

 

 

「くっ、負けてしまった…!」

 

「へへ、やるやん、アンタ」

 

「っ、タマモ!」

 

「東海ダービーに行っちまってから戦えるんかちょっと心配なったんやけど、でもアンタはこの世界にも勝利を喰らおうと来てくれた。ウチは嬉しいで」

 

「ああ、私も君と走れて嬉しいタマモ。勝てたらもっと良かったけどな」

 

「悪いがそう簡単に勝利はあげれへん。ウチも勝つために走っとるさかい」

 

 

タマモクロスコールを交えた歓声の中で私は負けてしまったことを再認識する。

 

前列の観客席に目を向ける。

 

少し耳が垂れているベルノライトの姿が最初に見える。一緒に悔しがってくれている。

 

そして隣にはカシモトの姿だ。

 

表情になんら変化は無いが着順掲示板に視線を向けて何かを考えているようだ。

 

 

「しかし驚いたでオグリキャップ。既にゾーン入れてたんやな。G1の洗礼とばかりに見せたろ思ったんやけど要らん世話やったか」

 

「ゾーンはカシモトのお陰だ。私一人ではこの力を引き出すのは無理だった。しかしまだ私のは付焼きに等しいらしい」

 

「なーにが付焼きや。こちとら頭から喰われるかと思ったわ。ああでもなオグリ。アンタほどのウマ娘なら自分一人でも必ず入っとったで。同じ芦毛としてウチが保証したる」

 

「タマモ…」

 

「こちら側に来てくれて嬉しいで。またバチバチにウチとやろうや。いつでも挑戦受けたる」

 

「っ!次こそは勝つさ!」

 

 

 

 

天皇賞の前走にテストプレイとして出走した毎日王冠では今よりも半分程度のしか引き出せ無かった。

 

ならばそれよりも緊張感のある秋の天皇賞ならと思ったが、しかし自分よりも強いウマ娘に食い破られたこの感覚は初めだ。

 

 

でも理解した。

 

私のはまだ小さな燈。

 

最後の200メートルは追い縋れたと思ったがタマモクロスの方が凄かった。

 

アレがホンモノ。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

タマモクロスは凄かった。

 

雷鳴が耳を劈く勢い。

 

その稲妻に手すら届かないと思わせる程に。

 

アレが最前線にある本当のゾーンとばかりに。

 

 

 

 

 

でも、でもだ。

 

でもなんだ、タマモクロス。

 

まだカシモトが見せてくれた領域はもっともっと大きなホンモノだったんだ。

 

マフティーとしてのファクターを持ち合わせたからこその、魂との呼応。

 

視える側にいるからこその凄み。

 

カシモトの内側にあるソレはもっとすごい鉄の怪物(クスィー)だった。

 

こんな程度の胃袋では到底喰らえないようなプレッシャーの塊だったことを知っている。

 

 

だから言える。

 

私はまだ、強者として……弱いっ!!

 

 

 

「ああっ、カシモト!何処まで喰らえばそこにいるいけるんだ!マフティー!!」

 

 

 

初めてのG1レースを終えた。

 

全てを出し切ったつもりでいる。

 

 

しかし満たされない気持ちは誤魔化せない!

 

もっともっとオグリキャップで!

 

ベルノライトのようにこの名に誇らしさを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、秋の天皇賞は悔しい結果に終えてしまったが、次の勝負はもう既に始まっている。

 

次走は目標としていたジャパンカップだ。

 

てかここからが本当の本番だ。

 

 

秋の天皇賞はオグリキャップのゾーンをモノにさせるために強敵との競い合いを求めて出走した目的だ。もちろん1着を獲るために仕上げてきたがタマモクロスがド偉い強かったのでそう甘くない挑戦だった。ただ強いだけのオグリキャップではあの稲妻は食いちぎらない。

 

 

やはり【強者】ならではの要素が必要。

 

 

 

 

 

なー、のー、でー!!

 

 

 

 

 

「本気の君には負けたくないな!」

「良いね!ルドルフ!楽しくなってきた!」

「ひゅーひゅー!カっ飛ばして行くわよー!」

「おいおい!随分と凄い組み合わせだな!」

 

 

「くっ!!は、速いっ…!!?」

 

 

 

強者(つわもの)達を揃えましたとさ!!

 

 

いやマジで凄いなこのメンバー??

 

ミスターシービーの人脈を中心に集ったウマ娘が達まず全員G1勝利者だろ?

 

それでクラシックの三冠バの達成者がシンボリルドルフ含めて二人いる状態だろ?

 

そこに他メンバーと実力に遜色ないマルゼンスキーもいるだろ?

 

更に過去のジャパンカップで三冠ウマ娘二人から逃げ切ったカツラギエースも加えているとかいうなんともまぁ、とんでもなく贅沢な友情トレーニングが発生している。

 

トータルで20冠くらいあるか??

 

と、言うよりミスターシービーの付き合いとしてカツラギエースも来たのはサプライズだな。

 

次走のジャパンカップのためオグリキャップを鍛えているところ、実際にジャパンカップを勝利したカツラギエースが参加してくれたのは非常にありがたい。

 

 

 

「これが中央の環境か。やはり来て正解だな」

 

 

上澄みのなかの上澄み。

 

その中に放り込まれたオグリキャップも並走のために参加してくれたこのメンバーに負けじと食らいついているが、レース展開とペース配分が最高クラスすぎて実力差を感じる。

 

 

「と、とんでもないメンバーですね…」

 

「ベルノライトも走ってきて良いんだぞ」

 

「い、いえ……も、もう、良い、れふ…」

 

「満身創痍じゃねーか」

 

 

一応、ベルノライトも参加したが全員から30バ身差とボコボコにされて帰ってきた。

 

 

「オグリちゃん、惜しかったですね…」

 

「……んん?まぁ、そうだな」

 

 

秋の天皇賞のことだろう。

 

ベルノライトはオグリキャップが勝てると信じていた。

 

 

しかし中央という経験の差は大きい。

 

 

俺たちは最初に地方の狭き世界を望んだ。

 

広き世界は後から望むことにした。

 

故に、自身よりも上澄みに座する者達を知らないその弊害は、今のオグリキャップの足りなさとして降りかかる。

 

 

 

そしてタマモクロス。

 

己の全盛期を理解した上での走り。

 

現代最強として自覚があるからこその強さ。

 

オグリキャップにはそれがまだその自覚が無い側だ。

 

 

 

「オグリキャップとタマモクロスのスペック差はそれほどない。だがそれはあくまで肉体レベルの話であってタマモクロスのゾーンは介入余地が無いほどに密度が高い。もしオグリキャップがゾーンに入るための力が無かったらあのレースは3バ身以上の結果に終えてたな」

 

「そ、そんなに…??」

 

「ゾーンはそれ程の火力があるんだよ。だから最後はオグリも追い縋れた。しかしタマモクロスの方がゾーンに慣れ親しんでやがる。やはり怖いね、自己投影って出来る奴は」

 

「それマフティーたらしめるカシモトさんが言う事ですか?」

 

「それはそれ。これはこれ。タマモクロスのは己を稲妻()()()()()結果があの走り。ウマ娘だからこその強みなんだよアレれは」

 

「ならカシモトさん。()()()()()()って言葉が本当なら私にも出来ますか?ゾーンを」

 

「肉体が追いついたらどのウマ娘でも可能だ。ただベルノライトの場合はゾーンに理解はあるけどそれを引き出すほどの鍛え方をしてない。肉体が応えきれん」

 

「そう、ですか…」

 

「最低でも重賞で勝てるほどの走りはできないとだな。感覚を知ってるだけでも引き出せない理由はそこにある。ベルノライトなら言語化されたその身体で分かるだろ?」

 

「そう…ですね。扉の奥にある景色はわかっていても重たくて開けれない。そんな感じですね…」

 

「夜間練習はいわば精神修行だ。ベルノライトはもう既に終わっている。仮にまた行ったとしてもそれはオグリキャップのように強者側になってからになる。なので今は中央にあるこの環境を存分に使って鍛え上げるだけ。その日まで垂れんなよベルノライト」

 

「っ、もちろんですよ!私も中央のウマ娘としてこの場所に来ました!もう…垂れませんっ!」

 

「じゃあもう一度行っといで。どんなに置いていかれても強者側の走りを知っておくんだ。どうしてそうなってるかをベルノライトの得意とする言語化を脚と脳に落とし込む。オグリキャップには出来ないベルノライトには出来るやり方で、ね?」

 

「それがベルノライトならではの誇り…だからですよね?」

 

「そうだ。虚栄心だろうと構わん。俺はそういう眼をするベルノライトを素敵と思って眼を覚まさずにいられない。未来に悩ますのは俺に任せとけ。だから存分に走れウマ娘。()()()()()()()使()()としても君達を見ているから」

 

「うんッ!!………え?あれ?ちょっと待って!なんで()()()()()()()使()()って言葉を知ってるの?!」

 

「前に練習後のマッサージで涎垂らしながら寝言で溢してたぞ。なかなか面白い異名を付けてくれるじゃないか。良いね、キルケーの魔法使い」

 

「一応、キルケーって魔女扱いなんだけど…」

 

 

それからベルノライトも再び参加して再びボコボコにされる。

 

けれど萎縮し過ぎず、最後まで三冠ウマ娘相手に視線を外さないベルノライトの姿にシンボリルドルフから関心が寄せられる。

 

普通なら皇帝の二文字に周りは引き目を取ってしまうからな。

 

しかしベルノライトは未だ重賞で成果を得れてないようなウマ娘レベルだろうと、皇帝から目を離さずに得れるものを得ようと走る。

 

アレがベルノライトの強みだな。

 

あと地方の負けん気、素晴らしいな。

 

 

 

「??…あ、そろそろ飲み物が届く頃だな」

 

 

さて、バイブレーションの鳴る携帯電話を開くと間も無くUma Eatsから荷物が届くとの事。

 

俺は芝に突っ伏してるベルノライトに少し外すことを告げてターフから外れる。

 

それから受け取り先に選んだ校門前まで歩みを進め、配達員を探そうとして___

 

 

 

 

___刹那、視線を感じた。

 

その方向にバッと振り向いて、見つける。

 

 

 

「やぁ」

 

「ひっ!?」

 

 

 

目があって驚くのは一人のウマ娘か。

 

さて誰だ??

 

この学園の……者ではあるか。

 

 

 

「や、やばっ…」

 

 

このトレセン学園の制服を着ているので中央所属なのは分かるが、トモを見るとアスリート選手じゃないことが一目見て分かる。

 

つまり、それ以外の目的か。

 

とりあえず見つかるとは思わなくて慌てふためいている。

 

そのウマ娘の手元にはカメラとメモ帳か。

 

 

 

……なるほど、情報収集か。

 

 

 

 

「何処からの回し者だい?」

 

「な、何のことでしょうカ…」

 

「隠さなくて良い。大方、次走のジャパンカップのためにトレーナーとウマ娘の情報を集めている情報屋さんだろ。そうだな?」

 

「…………………はい…」

 

 

随分と素直さんだ。

 

まあ敵わないと思ったんだろう。

 

なので白状したようだ。

 

 

 

「その、よく視線に気づきましたね…?」

 

「得意だからな!」

 

「え、えぇ…」

 

「あと中央のトレーナーを無礼るなって事さ」

 

「あ、はい」

 

 

 

情報屋さん自体はそう珍しくない。

 

ウマ娘は個性的だ。

 

このくらいアナログなタイプもいる。

 

ただニュータイプ相手に視線を向けると言うことは見つけてもらうのと変わりないがな。

 

 

 

「依頼主に伝えておけ。オグリキャップは沢山食べるぞ、ってな」

 

「食べ、る??」

 

「ああ。俺がモリモリ食わせる」

 

「??」

 

 

 

それだけ伝えてその場から去ると校門前まで向かいUma Eatsのウマ娘配達員から商品を受け取ってターフに戻る。

 

注文したのはにんじんソーダだ。

 

あと補食用のカップケーキ。

 

どれも美味しそう。

シービー達には担当の並走を手伝って貰っているから差し入れくらい用意しないとな。

 

 

「6人とも、クールダウンに飲んでくれ」

 

「あら!なかなかイケイケね!」

「おおー、嬉しいな。やったね」

「これは…ふふっ、かたじけない」

「これはいいな!有り難く頂きます!」

 

「おお!カシモトぉ!好きだ!貰うぞ!!」

「カシモトさん、頂き……え?好き??」

 

 

乾いた喉に流し込む炭酸飲料はさぞかし美味しいだろう。カップケーキも放り込んで糖分による充電も捗る。

 

 

 

「さてオグリ、並走はどんな感じだ?」

 

「感じ?そうだな……このカップケーキは胃袋に受け付けるが、並走はまだ胃袋がちゃんと受け付けれていない、そんな感覚にある……でも」

 

「でも?」

 

「この飢えは、なんだが悪くない…!」

 

 

ああ、これは良い傾向だ。

 

絶対強者相手に軽く捻られながらも敗北の味を重ねているお陰でオグリキャップは飢えを感じている。

 

つまり、勝ち得たいという欲求。

 

言語化を得意としないオグリキャップだからこそ胃袋の訴えには素直になる。

 

それが「悪くない」という短い言葉から。

 

 

 

「笠松で食べ慣れた味はこの中央の世界に存在しない。一口齧るまでが大変だけど、でも味わい深いと知ったらオグリキャップの飢えは正真正銘になる。なのでお行儀の良さなんてのは後回しにして今は臆せずに掴み取りして来い」

 

「っ、ああッ!!」

 

 

 

俺の担当ウマ娘は本当に良い子だ。

 

走るためのウマ娘らしく、背負ったその名に偽りなく、このら行先に疑いもなく、いつだって誇らしさをその脚に込めながら何処までもマフティーの見る前で走ろうとしてくれる。

 

そのためなら俺は喜んでウマ娘のために正しく狂えるマフTにもなろう。

 

それがこの身に許された権利。

 

そして前任者のために紡いだ約束であるから。

 

 

 

__やってみせるさ。

 

幾度なくそう臨んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンー、これは困ったねー。何かひどく歪なモノを感じる。この違和感はなんだろう?」

 

 

 

薄暗い部屋に張り巡らされたポスター。

 

すり減るほど再生されたビデオ。

 

あと付箋だらけの雑誌達。

 

それは即ち、ある日までの情報の塊。

 

 

 

「オグリキャップ、タマモクロス。これは間違いなく最高水準のウマ娘。参加するトニビアンカ達も凄いけど日本の芝は違うからね。やはりアウェーほど怖い話は無い。コレはそういうこと」

 

 

四方向から聞こえる実況の音。

 

どれもマークしている日本の2名ウマ娘。

 

無論、オグリキャップとタマモクロス。

 

それも中央から、地方のものまで。

 

日本語を勉強してまで聞いている実況。

 

そこから捉えれる声量、あと歓声。

 

現地の熱量は一体どれほどだったのか。

 

それすらも彼女にとっては情報。

 

お金を払ってでも欲しがる要素。

 

そして半年以上の時間を掛けてきた仮面。

 

目に浮かべる星はまるで表舞台のアイドル。

 

片足でクルクルとゆっくりと回っていた。

 

 

 

 

 

 

だが、ある不安要素にピタリと止まる。

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

目に入ったのはカボチャのアクセサリー。

 

ただのアクセサリーだ。

 

しかしコチラを深く覗き見ているかのようだ。

 

まるで「分かっているぞ」と訴えてるみたいに。

 

ああ__なんとも歪な笑みだろうか。

 

 

 

「カシモト、何者だろうね、この人」

 

 

 

名門樫本だけは分かる。

 

あと中央の資格を獲得した地方のトレーナー。

 

現在は中央まで担当と共に移籍した。

 

それからは中央だろうと怒涛の勢いでオグリキャップに1着を取らせている敏腕トレーナー。

 

実力者なのは戦績で全てわかる。

 

でも、分からないが、分からない。

 

 

なにか…

 

何かが、既視感となって引っかかる。

 

 

 

「なんだろう。この鏡のような違和感は…」

 

 

 

オグリキャップとタマモクロスの情報はこの体の周囲に纏わりつき、それを離さない。

 

しかし樫本と言う名のトレーナーを情報として掴もうとする時、仮面が鈍る。

 

気味が悪過ぎるんだ、あの未知数は。

 

 

「ただのエリート。そうであるなら何も変わりない。けれど何故か分かっちゃうね。言語化できない既視感がこの仮面が本当に仮面でしかないと引け身になる。なんだろう。気持ち悪い…」

 

 

段々と嫌悪感になるそれから意識を外す。

 

戦う相手はオグリキャップとタマモクロス。

 

それは間違いない。

 

育てるトレーナーも無視できないが、しかしあの舞台を演じるのはウマ娘。

 

だからノイズとなる情報は止める。

 

必要なモノだけを、その瞬間のために。

 

 

 

「ジャパンカップ、それは私のユメ」

 

 

 

被った仮面はいつだって徹底的に。

 

誰が見てなくても、その日まで徹底して。

 

だから彼女は待ち侘びる。

 

この飢えを___何処までも飼い慣らして。

 

 

 

 

「絶対に___だ」

 

 

 

 

 

 

ジャパンカップの日は近い。

 

 

 

 

つづく

 






オグリキャップだけ温泉シナリオ並みの友情トレーニングが発動しちゃってますね。こんなんチーターや!!


チーターですか?
でも私の方が速いですよ?(先頭民族)



【カシモト】
マフTを思い出しながらジャパンカップのためにオグリキャップを鍛え抜いている。

【オグリキャップ】
秋の天皇賞ではタマモクロスからの敗北を覚え、学園ではレジェンド達から絶対強者を覚え、そしてカシモトからはゾーンを覚えた。中央様々の環境ですね。いつかドナベガンダムになれそう。

【ベルノライト】
まだまだ足りないので沢山鍛えているところ。本格的にレースを行うのはシニア期になりそうだが、樫本トレーナーを信じて焦らずに中央の技術を吸収している。目標はG1レースに出ること。そして勝負服を作ってもらう事。

【前年のレジェンド達】
お陰で全ステータス+400にしてくれた。強い奴が強い奴に影響与えると強い奴になるのは当然ですね。これはそういう話や。

【情報屋さん】
時代が時代なので結構アナログ。しかし情報戦も立派な戦いなので使ってなんぼですね。もちろん依頼主はジャパンカップを目標としたあのウマ娘。日本の情報はこうしたコミュニティーを使わないとね。まあニュータイプの樫本にはバレたんですけど。



じゃぁな!

閃光のハサウェイ"キルケーの魔女"は観に行きましたか?

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