やってみせろよダービー!なんとでもなるはずだ! 作:つヴぁるnet
ウインバリアシオンの『どこまで走れば』は名曲だからまだのトレーナーは是非聞くべき。
日も跨ぎ、今日はジャパンカップ。
東京レース場は大繁盛。
まあそれもそうだろう。
日本 対 国外 の一大イベントなんだ。
見逃せない戦いが今日起きる。
「カシモト、人がたくさんだな」
「凄い熱気ですね…!」
「俺たちの定めた目標はそれほどなんだよ」
パドック開始2時間前に現地入りし、指定された控室まで向かう。外ではものすごい人数に包まれていた事を思い出す。やはりジャパンカップとはそれほどなんだろう。懐かしいなこの空気感は。
「で?その20人前の弁当を食べる気か?」
「ああ。いつも通りのエネルギーだ」
「オグリちゃん、基本的に緊張とかあまりしないからレース前だろうと箸が普通に進むんですよね…」
「はふはふ、はふっ!」
「ゲート入り直前になるまでは緊張感を抱かないからなこの娘。頼もしい限りだ」
まあそれでも闘争心は充分。
今は食欲が優っているだけで。
もう既に5箱無くなっている。
「食いながらで良いわ。とりあえず作戦のおさらいするから聞いとけ…と、言っても」
「ゴクン……予定通りに一番後ろからだな?」
「ああ、そうだ。お得意の先行策は無しだ。なにせ筋肉モリモリマッチョなウマ娘が何人か参加しているからな。日本と海外ではテーブルマナーが違いすぎる。それに…」
「?」
「シービー達との並走で揉まれに揉まれたあの感覚は重要だ。勝てなかったろ?」
「ああ……すごく強かった。ほんの2回だけしか勝てなかったな……悔しい」
「俺からすれば2回も勝ったのかよ…と驚きだけどな。でも総合的に見れば上々。それに今回のレースに於いてステータス面ではオグリキャップとタマモクロスの2強なのは確か。しかし今回のジャパンカップは日本勢がとても少ない状況にある。母国の東京レース場とはいえ、空気感って意味では間違いなく日本勢は遅れを取ってしまう。だからあの感覚だ」
「強者側を見ている感覚だな?」
「そうだ。繰り返すがステータス面ではオグリキャップはかなり強い部類にある。しかし敢えて今回のレースは全てがあの日の並走のように強者側がオグリの前にいる
天皇賞秋を終えてから最後の仕込みをしてきた俺たち。それを再びオグリキャップに伝える。
「地方上がりのオグリキャップはG1レースの経験不足を隠せない。だからこそこのレースは
「
「ああ。厳密にはその当時の純粋さ。もちろん走りの技術は中央で良い。しかし成功体験は地方を頼りに走って良い…てか、ソレで走る事がここまで積み上げてきたモノのトリガーになるから寧ろそうしなければならない」
「年明けに行った脚質変更。それが今日のジャンプカップに備えた伏線になるのか」
その通り。オグリキャップが俺に走って欲しいレースを問うてから半年以上が経過した。そして今日そのレースを走る日である。このために俺達は地方の頃から沢山準備してきた。
日本ダービーを走らない代わりに同じ距離のジャパンカップで日本一を勝ち得る。
これが俺から抱いた目標。
「G1レースによる勝利はまだ無いが、でも君は故郷となる笠松で東海ダービーを勝利したウマ娘なんだ。グレードが違えど、この成功体験は間違いなく俺にとって眼覚めに値した。だから今日この日まで抜かってない。全ての準備を完了させたと言えよう。あとはオグリキャップの箸がどれだけ進むかの内容だけ」
「それでジャパンカップは通用するんだな?」
「……いや、少し違うな。そうだけど…違う」
「?」
勝つために準備してきたの当然。
それは笠松の頃からの俺たちの目標だから。
しかし俺は
オグリキャップは秋の天皇賞をタマモクロスに一番を譲った事で、立ち位置的にはオグリキャップが後手に回っている状態だ。
だからオグリキャップと海外勢がタマモクロスに挑まんとする状況でもある。
もちろん今回の海外勢もドえらいメンツだからタマモクロス一強なんて扱いは流石に妄信的過ぎるが、でもあの稲妻が最後の壁となる。
オグリキャップはタマモクロスに負けているウマ娘って実績持ちだ。今回でその敗北体験をどれだけ走りで覆してくれるか。
ああでも、それとは別枠としてジョーカーたるウマ娘が1名だけいたのを思い出す。
なにせ現地入りする時___そのウマ娘からめちゃくちゃ視線を受けていた。
俺はその視線を捉え、目を合わせた。
すると少し驚いた後そのウマ娘はニコニコとした表情で手を振っていた。
海外ならではのフレンドリーな対応かと思われたが、しかし…その眼は俺からしたら穏やかさなど微塵も感じさせない。
冷たくて分厚い熱を捉えたから思わず「ほぉー?」と感心したもんだ。
被ってやがる___たらしめるという意志。
それは俺にとってあまりにも既視感過ぎた被り物であり、同時に感心したんだ。
徹底された自己投影と、その中に閉じられた渇望の果て。そのウマ娘はまさにそうだ。
俺もその手の経験者だ。理解する
だからプレッシャーが良く伝わった。
誰にもそのものはわからない、その者にだけ与えられた自分自身のプレッシャー。
ああ、懐かしい感覚だな。
「カシモト、なんか少し悪い顔をしてるぞ?」
「んん?…ああ、そうかもな。おかげで『やはり怖いことするよ?貴方』ってマルゼンスキーに言われているな。あとその本人とは先ほど顔を合わせきた」
「あ、来ているのか」
「ああ。前にマルゼンスキーと同じ日本ダービーにオグリキャップが出ていたらオグリが勝っていたと笠松で豪語してやったからな。だから今日はその日本ダービーと同じ左回り2400のジャパンカップで確かめにきたんだろう」
「そう言う事か…」
「ああ。さて__話を戻す。この悪いことしそうな顔でも先ほど言った
___
ガコン
_
__
___
____
やや曇り空に映るレース場。
少しだけ気分を落とさせるような湿気た空気が肌と喉をなぞるが、しかしここに集われたウマ娘達はどんな条件だろうと100%以上を引き出して走るだろう。
意地とプライドがこの日を証明するから。
「「「!!!」」」
ゲートの開く音、それと同時に湧き上がる歓声はあらゆる感情と夢を交えている。
それが全身を叩き、脚を早める。
なにせ凡ゆる故郷から集われたウマ娘の高速世界が、国内最高峰のレースで瞬き厳禁な時間を与えるからだ。そして勝利者は一人だけ。
だから既に曇り切った空気など熱量と稲妻によって密度高く入り混じり、今は自分の呼吸と相手の呼吸だけが走りを従わせるのみ。
だから他はノイズだ。
弱いヤツから崩れ、強いヤツだけが残る。
スタートからゴール。
たったそれだけの戦いだ。
そうしてウマ娘達は己のみ証明する。
それがウマ娘として生まれた意味。
だから今日も、変わらない。
勝利者として君臨するんだ、我らは__!!
______ 違 和 感 。
キ………ル、ルルッ…
聖地から、ノイズが触ってくる。
それを感じ取ったウマ娘がいた。
なにか___場違いな、音が聞こえた。
ココは走りの世界だ。
走りだけが全てだ。
それ以外でこの場に踏み込むなど冒涜の二文字に他ならない。
先行策で一番前に躍り出たタマモクロスが稲妻を轟かせた時の残響だろうか?
ここにいる者の半分以上が
己の魂が何処に向いているかを理解した最高峰の集いである。
キュ、ルル……ルルルルッ…
だからそれは違うモノだと理解した。
そして、それはとても歪だった。
色染まらない歪なメドレーのようだ。
与えられるなら黒か白、それだけが入り口。
後は濃く映された色か、薄く透き通った色か。
強者から映されるソレを判断することで、その者がこれまでどれほどだったのかを判断する材料にもなるから、全身に感覚を行き渡らせた強者は強者を知り往かんとする。
そして圧倒的に知らしめる。
残酷に結論付けてやる、己の走りで。
この瞬間を賭けて。
だが、届いた歪なメドレーは誰も測れることはできずにいつまでも背首に絡みつくんだ。
「なん、や??」
先行にいたタマモクロスは違和感を覚えた。
何せ、一度だけ競い合った関係だから。
自分と同じ、速く走る芦毛のウマ娘。
だから真後ろから感じ取ったことのあるこの引っ掛かりが、それが付焼きの刃だった時の熱量をタマモクロスは経験上として一致させる。
何せ、このレースに出ている日本のウマ娘はとても限られているから。
ならばそれが正体だ。
だからタマモクロスの予測は当たっていた。
キュルルル、キルルルッ…!
段々とその歪なメドレーが聞こえてきた。
あまりにも場違いなノイズ音だ。
まるで警鐘のような飛行音のようだ。
なぜそう感じているのか?
ウマ娘だからこそ、こう言う答えが出る。
走り____じゃない。
そのノイズ音は意識的に理解させてくる。
故に、未知数として響く恐怖心がこの走りを蹂躙せんと銃口を突きつけてくるんだ。
私達は凌駕する。凌駕してやる。
強者だから、これができる。
でも、この歪さは……
___ 蹂躙 の二文字に相応しい音だ。
「ぇ…?」
最後方から二番目にいたウマ娘が気づいた。
曇り空ゆえに影の一つすら作らないはずレース状況で、足元が灰色に塗り潰されている。
それが深まるノイズ音と共にじわりじわりと侵食し、ウマ娘を絡みついて離さない。
タリナイ。
「ヒッ!?」
「ちょっ!なにっ!?」
まだ領域を知らないゴールドシチーでさえもこの違和感を強制的に理解させられ、この状況を理解した。
しかしその頃には心臓音がこのノイズ音と呼応するように膨れ上がる。
耳は無意識に絞られる。
足は無意識に早められる。
迫り来る未知数が、次第に膨れあがる重圧感としてウマ娘の背首に手を掛けようとしている。
__刹那、ガリッと削られる感覚に襲われた。
タリナイ。
「ッ!!?」
目を見開く、自慢の尾花栗毛を逆立てて。
だからゴールドシチーは横を見た。
レース以外にも、音楽などに堪能なモデルウマ娘だからこそ無限に侵食する歪なメドレーの正体をその眼で確かめるために、正体を視界に収めた。収めてしまった。
「ぇ…」
鉄の怪物…??
いや、これは違う。
そうだけど、でも違う。
だってこのウマ娘は。
「オグリ、キャップ…ッッ!???」
「 ガァ ァ ァァ ッァァ ッ ァァア !!! 」
顔は見えない。
黒く塗り潰されているから。
辛うじて眼だけは見える。
しかし赤と黒を交えた化け物の色をして最後方から荒れ狂うように駆け上がる。
「!?」
「!!?」
「!?!?」
後ろから迫る影が加速してくる。
テーブルマナーよく最後方に居たはずのウマ娘が豹変させてながら、歪なメドレーを奏でるようにキュルルルと飛行音のようなノイズ音を発して大地を踏みしめている。
とても飢えている音にも聞こえる。
だから侵食する灰色が
「なんだ!?コイツ…!?」
「オグリキャップッッ!?」
食べれば、食べるほど、に。
喰らえば、喰らうほど、に。
その欲求は収まりを知らない。
なにせ灰色はどの色にも染まらない。
既に白も黒も両方を欲張っているから。
だから他の色に加入余地などない。
しかしされど飢えは止まらない。
タリナイ、マダ、マダダ。
「「「「!!???」」」」
その声は明らかになる。
奴はオグリキャップで間違いない。
それは間違いないんだ。
だが、しかし、これはナニカが違う。
ウマ娘の走りから生まれたモノなのに。
なのに、私達と違う領域がこの世界に存在しない未知として食い荒らさんと迫っている。
そして、とうとう先頭にその姿を晒した。
「ッッ、オグリキャップ…!!?なのか!?」
タマモクロスの稲妻なんかでは埋め尽くせないほどに巨大なナニカが姿を晒した。
深々とした曇り空ですら薄い天幕のように見せてしまうソレはあまりにも異次元だった。
灰色の怪物はレース場を見下ろす。
ここは
どれもこれも食べ放題だからキュルルルと腹の音を鳴らすようにウマ娘の耳を劈く。
「what's !!? なんだ、コレは…!?」
この日のためにジャパンカップ全て情報を支配したはずのオベイユアマスターですら、この事情により仮面を剥がされつつある。
取り繕うことすら困難な程のイレギュラー。
そう、とても巨大。
なにせ__全長32.5メートルの怪獣が御馳走だらけのウマ娘を胃袋に制圧せんと笠松から降り立ったから。
「タァァマァァモォォクゥゥロォォスゥゥッッ!!!!」
「ッッ!!??」
稲妻すらデザート代わりに喰い荒らしながら追い縋るオグリキャップはもうただの怪獣。
怪物なんて言葉では甘いほどに足りない。
「アアアアアアアアアッッッ!!!」
このジャパンカップに飢えて堪らない。
一年近く、この飢えに渇望してきた。
笠松の頃から、待ち焦がれた彼女の夢。
だから、一人のトレーナーは確信的にこの状況を怖いことする悪い顔で語ったんだ。
「だから言っただろ。
ジャパンカップが地方に挑むって、な」
飢えて、乾いて、願っていた笠松のウマ娘。
そうして全ての
『オグリキャップ1着でゴールッッ!!!』
稲妻も、情報の仮面も、全て引き裂いた。
鳴らない言葉は一度どころか、何度でも。
ああ、美味しかった。
これがカシモトと選んだジャパンカップ。
確かに、良い日本のレースだった。
でも……
これならまだ腹八分目だ。
だって___
カボチャ頭のマフティーでなければこの飢えは満たされないんだから。
ああ、でも願っていたこのレースは。
「最高っ……だったな、よし…っ!」
と、ガッツポーズを行い。
くぅぅぅ… と彼女らしく。
「むぅ、お腹が空いたな…」
歪さを感じさせない綺麗な空腹のメドレー。
笠松のウマ娘は空いたお腹を擦っていた。
いつも通りに、胃袋を飢えさせたまま。
1着 オグリキャップ
2着 オベイユアマスター
3着 タマモクロス
♢
>> やってみせろよダービー! <<
>> なんとでもなるはずだ!! <<
ワァァァァァ!!!!
ワァァァァァァァ!!!!
ワァァァァァァァ!!!!!!
~♪
~♪
設営された最高品質の音響から響き渡るのはこの日のために用意されたオリジナル曲。
と、言っても前世の知識から引っ張りだしてそれらしくアレンジした渾身の作曲だ。
ただし前奏前のセリフは原作のまま。
ある瞬間にてGUNDAMをした時の曲だ。
それが今日、オグリキャップのウィニングライブとして使われており、この歴史の証人となった観客達は黒と白のペンライトで灰色の怪物を演出してくれている。
それでいつの間にか最前列で陣取ったノルンエースが満足そうな顔で気絶し、笠松組とベルノライト達が介抱のために慌てている。
せっかく作曲したのに勿体無いな。
ちゃんと聞いてくれよ。
名曲をこの世界でも名曲にするんだから。
「少し、よろしいですか?」
「??」
舞台袖でオグリキャップのウィニングライブを眺めていた俺に、一人のトレーナーが話しかけてきた。その人を見るとジェントルマンって言葉が似合う程の米国紳士が立っていた。
てかよく見たらシャリア・ブルみたいなイケおじゃないか。もちろんヒゲマンの渾名を付けられそうなほどに立派なお髭をお持ちだし、その老い具合に値するほどの貫禄持ちだ。
生き残りって感じだな。
とてもカッコいい。
「アー、英語で大丈夫だ。ところで何か?」
「ありがとう。まずジャパンカップの勝利、おめでとうございます。見事でした」
「そう言ってくれて助かる」
「勝ちは勝ちです。貴方が育て、ウマ娘を勝利させたことに変わらない。トレーナーとしての責務を果たした結果でしょう。私は賞賛します」
朗らかに笑う米国紳士トレーナー。
笑い方にすら渋さを見せ、気品を感じさせる。
それから一言、二言、今回のレースを祝ってくれた後に少しだけ真面目な雰囲気に変わった。
すると、その米国紳士トレーナーの横から一人のウマ娘が現れた。
___ オベイユアマスター だ。
しかし随分と元気が無い。
まあ、負けたからだろう。
「彼女はよく頑張った。しかし、負けた」
「……」
その言葉によって気丈に保っていたウマ耳が少しだけ垂れてしまう。オベイユアマスターの握りしめる拳の音を耳にする。同時に割れ切った仮面の破片が更に顔元から崩れていく。
そんな風に見える。
やはり被っていたんだな、どこまでも。
「貴方はどう思いますか?彼女を」
言葉足らずに聞こえるが、しかしそれは多く語らずとも今回の勝利者となった俺なら分かってくれる、ある種の試しにも聞こえた。
まあ、表面的情報ではトレーナーになってまだ2年も行かない新人だからな。
何年も刻んできたベテラントレーナーからしたらある程度測らなければならない相手だ。
「ああ___そうだな。勿体無い」
「!」
オベイユアマスターは淡白に聞こえたその言葉にグッと拳を握りしめ、その瞳の中に星を浮かべる余裕もなくコチラをグッと睨む。
しかし米国紳士トレーナーはその言葉に満足度したかのようにクツクツと笑い、オベイユアマスターは驚いていた。俺は補足する。
「あぁこれは侮辱じゃないぞ、オベイユアマスター」
「……では、勿体無い、とは…?」
気丈に振る舞っていたが、それでも内側は悔しさに溺れ切っていたため言葉は絞り出されるように吐かれた。
俺は米国紳士トレーナーに視線を向けながらこの接触に理解を示すように言葉を続ける。
「で、なぜ俺に?」
「これでも歴40年。貴方と同じ歳いかぬ若造から続けてきた職柄だ。分かる。コレだと」
「コレとはひどい足長おじさんだなぁ。そんなに抽象的な扱いか?」
「年の功は案外と役に立つ。その歪さ、コチラの世界にもある。だが貴方のような若さで秘めた者は初めて見た。長生きするものだな」
その眼は、もう新人トレーナーとして俺を扱ってないようだから、躊躇いゼロだ。
「オベイユアマスター、質問良いか?」
「…はい、なんでしょうか?」
「君は___自分がウマ娘のオベイユアマスターとして走るのは好きか?」
「!」
残酷な質問だろう。
だってこの質問は「君を分かっているぞ」というメッセージと他ならないから。
「わたし、は…」
もう飾る余裕も、ひび割れた仮面も、そして今日この日まで抱えてきた筈の情報すらも被れなくなったこのウマ娘はジャパンカップに渇望してた敗北者。
同じくジャパンカップに渇望していたオグリキャップの飢えに負けてしまったウマ娘だ。
俺の質問から数秒。
オベイユアマスターは震える口を動かす。
でも吐き切ることはなかった。
「オベイユアマスター、質問を勘違いしないでくれ。これはただ『それでも…!』と、たらしめた己が誇らしいかと俺は聞いているだけなんだ」
「!!」
表舞台では鳴り響く歓声と音響。
曲はボルテージ最大まで上がっている。
正直、見ていたい光景だ。
でも、今は目の前に『応える』ことが重要。
でなければ俺は言葉通りに誇れない。
「……わたし、は!」
ギュと目を瞑り、そして目に星を入れていた時よりも偽りなく透明に見開かれる。
「オベイユアマスターで勝ちたいと今日この日まで偽ったことは一度もないっ!!そうでなければ私はジャパンカップに出なかったんだ…!!」
情報も、仮面も、被る物だ。
でも選ぶのは被る
そうたらしめたのは、まごうことなき彼女。
なーんだ。
言わずもがなだったな。
さて…
「良いよ、その話は受けようか」
「おお、受けてくれるのか。有り難い」
「??……あ、あの、トレーナー…?」
あれ?なんだその反応は?
んんー?
もしかしてそういう前提じゃないのか?
おいおいだとしたら彼女にとって急だな。
と、言っても今の会話の流れ的にも予測できるだろうけど展開の筈だ。
しかし情報を被っていたウマ娘がそれすら分からないほどにジャパンカップの敗北は相当だったのだろう。まぁいい。
「俺の連絡先だ。貴方達が向こうに戻って落ち着いた頃に連絡していただければこちらでも話は進んでいるはず。では、そういうことで…」
「ま、待ってくれ!」
オベイユアマスターは引き留める。
彼女も状況を察したのだろう。
コレがただの会話じゃないことも。
しかしこの米国紳士トレーナーも悪いことをしてくれる。俺が
「君は日本の芝で走れ。勿体無いから」
「!!!」
目を見開いたオベイユアマスター。
それと同時に仮面は全て破れた。
床に落ちる偽りの情報が砕けた音。
それと対照的に、飢えを本物にしていたオグリキャップのウィニングライブは曲の終わりと共に表舞台は大歓声に包まれていた。
…
…
…
…
で、レースから10日後のことだ。
ジャパンカップの熱量がやっと落ち着いた頃に俺はオグリキャップとベルノライトをトレーナールームに集める。
そして、一人の新しいウマ娘を紹介した。
「はい。てな訳なので本日から日本中央トレセン学園に
「また君か、(領域が)壊れるなぁ…」
「オグリちゃん!?」
プロテインチップをボリボリと食べながらそういうオグリキャップにベルノライトは慌てて顔を向ける。てか食べるの一旦やめなさい。
「えと…こ、こほん。ご紹介に預かりましたオベイユアマスターです。本日から樫本トレーナーの元で指導を受けることになりました。交換留学生という形で限定的な在日期間になりますがそれまでよろしくお願いします」
と、腰をしっかり折り曲げて頭を下げる。
するとオグリキャップはプロテインチップを置いて拍手し、ベルノライトも遅れて拍手する。
「と、とても日本語がお上手ですね…!」
「!!…ええ。勉強致しましたので。特にオグリキャップとタマモクロスを調べるためにも日本語は必須でした。新聞、ネット、実況、全てを把握するためにもこの語学は必要でしたから」
「す、凄い…!」
「そ、それほど、でも…」
褒められ慣れてないのか?でもベルノライトの純粋な尊敬の眼差しにオベイユアマスターも少しタジタジする。仮面が剥がれたらこんなにも可愛らしくなってしまうのか。
「でも急ですね?交換留学なんて」
「この時期では珍しいかもな。でも中央では交換留学自体は積極的にやっている事だ。で、今回はオベイユアマスターが選ばれた流れだな」
「ジャパンカップ明け後に大変ですね…」
「そうですね。結構、急でした…から」
あの米国ヒゲマンも悪いことする。
でもだからこそ俺があの場に居るうちに接触して頼んだんだろう。
日本の芝適正が高いと思われるオベイユアマスターを、普通以上を秘めている俺になら国外のウマ娘だろうと任せられる。
年の功が判断させたらしい。アレが40年トレーナーやってる者の目か。見習わないとな。
「でも判断は正しい。実際にオベイユアマスターは日本の芝適正の方が高いとされる。ならとっとと舞台を日本に移して研鑽積んだ方が良い走りが出来る。それとも故郷に拘りあるか?」
「それほどは……無いかな…」
「じゃあ日本でその名を果たそう。俺はウマ娘のトレーナーとして協力する。だから来年もジャパンカップだ。これをオベイユアマスターの第一目標とする」
「!」
それからホワイトボードにオグリキャップ、ベルノライト、オベイユアマスターの3人の名前を書いて注目を集める。
「オグリキャップは今年の有マ記念を終えたら来年からはマイル路線で走ってもらう。因みに芝だけじゃなくダートのマイルもだぞ?わんこ蕎麦なみに貪るぞ」
「私は元々適性がマイラーだからな。それで行こう。あと今度わんこ蕎麦食べに行こうカシモト」
「帰りに長野に寄れるようにレース考えておく」
「マイラーなのにジャパンCであの走り…?」
「オグリちゃんって、そういう子なので」
オグリキャップの総スペックに諦めを感じているベルノライトにオベイユアマスターも察したのかそれ以上言わず、むしろこのウマ娘に私は挑んでいたのかと情報以上のスペックに再び戦慄する。なに驚いてんだよ。
まだまだ強くなるぞオグリキャップは。
「ベルノライトは来年だな。重賞レース出れるように頑張ろう。その前にオープン戦の勝利な」
「うんっ!それでいつかG1にも出るから…!」
中央という上澄み世界だろうと、もうベルノライトに諦めという言葉はない。ベルノライトでやり切ってみせる。そうした輝きだ。
「で、オベイユアマスターは先ほど言った通りに来年のジャパンカップだな。交換留学として日本にいる以上は他レースも出れるように中央も取り計らってくれるが、でもジャパンカップには拘るぞ。挑み続けないと君は嘘つきだ」
「!!」
「やるぞ。そのために来たも同然。ならその栄光を母国に持ち帰れ。俺はそうさせる。応える」
「ッー!!」
実のところ、どこか流されるように交換留学生として日本に来たオベイユアマスター。
もちろんこちらの適正の高さを知ったことでヒゲマンが推奨させたから、オベイユアマスターも歴40年の経験量に従ってやって来た。
それでもジャパンカップの敗北を得てやや枯れ気味だったオベイユアマスターだが、ジャパンカップを挑み直し、母国に栄光を持ち帰ることを伝えるとその眼に熱が灯される。
「ッ…カシモト、トレーナー」
「??」
彼女は萎れていた背を伸ばし、俺の身長も超えた182センチで一歩ずつ近づく。
そして___目の前に跪いた。
「!?」
「……」
それの光景にベルノライトは驚き、オグリキャップは静かに状況を見守る。
そして跪いたオベイユアマスターは言う。
「この国に、この場に、この脚をここにいる貴方に預けます。どうか私のトレーナー、オベイユアマスターが従うことを覚えてください」
米国式ってやつか、なるほど。
しかし、そういうことか。
だから『オベイ、ユアマスター』か。
……ほぉ〜。
であるならば___俺は【王】が良いか。
「覚えよう。そして執事に支払おう」
「!!?」
トレーナールームの空気が変わる。
それはもちろん___コレはマフTから。
「この身はウマ娘に応えんと正しく狂う、正当なる予言の王。ならば
これが米国式は知らないが、俺の知っているやり方でこのウマ娘に約束を刻む。
そしてたらしめることを約束する。
「俺の名はマフTまたは、マフティー」
こちらも告げる。
支払うことをこの場で約束する。
マフティーに従うこのウマ娘に。
「じゃあ、オベイと約束もしたので行くぞ」
「うん。行こうか。待っている」
「え?二人ともど、何処に?」
「??」
オグリキャップは分かっていて、ベルノライトは分かってない。もちろんオベイユアマスターも何のことか分かっていない。そりゃあ…
「歓迎会だ。タマモクロスがオグリキャップのジャパンカップ勝利祝いにたこ焼きパーティーを開いてくれるらしい。ついでにオベイユアマスターも呼んで構わないと言ってたから歓迎会も合わせてジャパンカップお疲れ様会だな。ほら行くぞ」
「あ、そういうことですね」
「タマモのたこ焼きは美味いぞ!オベイ!」
るんるん気分のオグリキャップにオベイユアマスターは呆気に取られたが、でも歓迎されていることを知り、雰囲気が柔らかくなる。
「樫本トレーナー」
「?」
オベイユアマスターの声に振り返る。
すると彼女はコホンと咳き込み…
「Thank you very much ⭐︎〜 !!」
「!!?」
両手で即席のツインテール作りながらジャパンカップの時のオベイユアマスターで言われる。
だから不意を打たれて俺は驚いた。
「ふふっ、なんてな。ちょっとした仕返しだ」
ストイックな雰囲気から一気に豹変したフレンドリーな被り物は、おそらくジャパンカップの時の仕返しなんだろう。
そうしてやり返してやった彼女はどこか満足気な表情をしながら小走りでオグリキャップ達を追いかけ、尻尾はご機嫌に揺れる。
「はぁ…やれやれ、ったく。同じ被り者としてこれは一本取られたてしまったようだ。とんでもないの寄越してくれたなあのヒゲマンは」
やれやれと頭をガシガシと掻く。
それで数メートル先にいるウマ娘を眺めれば俺も安い生き物なんだと満足しちゃう。
なにせ小走りだろうとウマ娘の走る姿ですら愛おしく感じて仕方ない。
目を覚まさずにいられない。
そうだろ?
マフティー・ナビーユ・エリン。
そして1年の時が流れた。
次回、最終話
マフTがクスィーなら。
オグリキャップはペーネロペー。
つまり怪獣オグリの誕生ですね(公式ネタ)
でも揃ったのはダブルオーガンダムでした。
これは中央に武力介入ですわ。
【カシモト】
ジャパンカップを終えて一息ついたところに米国のトレーナーから話を持ちかけてオベイユアマスターを担当として受けることになる。何気に国外からのウマ娘を担当するのは初めて。
【オグリキャップ】
中央に上がりたての笠松の地方バが、アレほどの面々が参加していたジャパンカップの勝利者なるとかいう前代未聞の結果に日本は大爆発を起こさせてしまった。もう中央と笠松はこんがりや。それはともかく樫本との夢を果たせてめちゃくちゃご満悦。
【ベルノライト】
オグリキャップの活躍によって自身もますますG1レースの世界に憧れているところ。肉体レベルが上がればベルノライトもオグリキャップレベルの夜間練習を行えるだろう。まだまだこれから。
【オベイユアマスター】
樫本とかいうイレギュラーによって見事に砕かれてしまい、着飾っていた自分すら不安定になっていたところ、ヒゲマントレーナーの計らいによって樫本の担当バになる。日本に所属している以上はジャパンカップ以外にも出れるが、樫本に拘り続けることがオベイユアマスターだと焚き付けられて従うべきトレーナーとして跪いた。身長は182だとか。
てな訳で次回は最新話です。
あくまで if なんで長すぎずにね。
しっかり終わらせます。よろしく。
じゃぁな!
閃光のハサウェイ"キルケーの魔女"は観に行きましたか?
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観に行った
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観に行ってない