ロイドたちは旅を続け、やがて〝遺跡の街 アスカード〟へと辿り着いた。街の中に古い遺跡が残るその場所では、石舞台に風の精霊が復活し、生贄を求めているという不穏な話を聞いてしまった。
ひょんなことから真相を確かめるため、一行は儀式の生贄の身代わりを立てることにしたのだった。囮にニケかリフィル、どちらかが立つことになったのだが、最終的に選ばれたのはリフィル。
結局儀式の場に現れたのは、風の精霊ではなく、異形の化け物だった。
「ニケ!」
「ハーレイ久しぶり」
「あれ?二人って知り合いだったの?」
「まぁ同族だしね。残念ながら結婚はしてくれなかったけど……」
「同族と言えば、流石に知識は確かみたいだな、あのリフィル先生って人も……」
「ハーレイ、聞いて、あの子23歳なの」
「えっ……」
アスカードで本当の風の封印の場所、バラクラフの地図によって、「バラクラフ王廟」が封印の地であることを知ったロイドたちは、風の封印を解放すべく、アスカードから東に位置するバラクラフ王廟を向かった。
最深部へとたどり着いたロイドたち。その前に風のガーディアン「ハスタール」が立ちふさがる。これを退けたロイドたちは、風の封印の解放に成功する。その後降臨したレミエルから祝福を受け、コレットは更に天使へと近付くのだった。
「封印って、あとどれくらいあるのかな?」
「さてな、先は進むしかあるまい」
短く返すクラトスの声はいつも通り落ち着いているが、その背中を見ながらロイドは小さく息を吐いた。ここまで来るのが、あまりにもあっけなかったからだ。もっと、どうしようもない壁にぶつかると思っていた。誰かが倒れてもおかしくないほどの困難が待っていると、どこかで覚悟していたのだ。
「よく考えたらさ」
ロイドは足を止めずに言葉を続ける。視線は前に向けたままだが、その表情は喉の奥に何かが引っかかったような様相を見せている。
「この遺跡の入口に入るために必要な地図が、アスカードにいた魔物が持ってたんだろ?」
「ええそうね」
「それって過去に世界再生の旅に出た神子はここまで辿り着けて無かったんじゃ無いかなって」
ロイドの着眼点は時々目を見張るものがある。リフィルはその言葉を聞いて顎に手を当てた。
「確かに、それを考えたら水の封印だってそうだわ。祭司様方が旅業で向かったとは言え、あそこは観光地。過去の神子が向かったのであれば噂や情報が流れているはずだわ。火の封印と違って観光地だもの」
「そこまでは…考えてなかったけどよ……」
ロイドは自分の考えを深掘りされてもちっとも分からない。リフィルとしてはいい線を突いてると言いたくなるのだが、一切自覚がないので困ったものだ。
苦労も邪魔もそれなりにあった再生の旅。
しかしここまで大きな犠牲もなく、順風満帆とも言える。過去の再生の旅が途中で失敗に終わり続けていると言うのに、自分たちの再生の旅はどうして上手くいっているのだろうか。
「まだ遺跡の中だ、いつ魔物が現れるか分からないところで会話をするんじゃない」
「悪かったよ」
ロイドはクラトスの少し後ろに並ぶ。
やはり、頼りになるのだ。この傭兵は強い。ロイドが逆立ちしたって敵わないし、たとえハンデを与えられたとしても敵わないだろう。
「(やっぱクラトスの力って大きいのかな)」
やがて視界の先に、外へと続く光が見え始める。長い遺跡の終わり、眩しい出口だ。外の世界の光が、こちらを白く塗り潰すように差し込んでいた。
ロイドは無意識に目を細める。
「──待て!」
遺跡の外の太陽が逆光となってしまって本気で見えないが、その声に聞き覚えがロイドとジーニアスがほぼ同時にうげぇ、と声を上げた。
「この声は……」
「嫌な予感」
「ようやくこの日が来たな、この古代遺跡がそのまま貴様たちの墓場になる……」
コレットのことを度々暗殺しようとしてくる変わった装束の女だった。ロイドは何度追い払ったのか分からない姿に呆れた顔をしていたが、コレットの顔はパァっと明るくなる。
「あなたもここに来てたんですね〜!」
「近付くな!動くな!ものに触るな!」
コレットの一挙一動に過敏に反応する。
「まぁ、初対面の時に神子様のドジっ子で坑道に落とされたのがトラウマなんでしょうね……」
「う、うるさい!そこ!黙りな!」
ニケの言葉に図星だったのか焦ったような指摘が入った。
「せっかくお友達になれたのに、どうして戦わなければならないんですか?」
「誰があんたと……っ、ゴホンっ!貴様らと馴れ合うつもりはない、覚悟!」
女は紙を片手に襲いかかってきた。
……──の、だが。
「くっ、どうして勝てない……?」
「正義と愛は必ず勝つ!」
「あのアホみたいな誓いを持ってくるなよ〜」
当然ロイド達は負けない。というより人数比がそもそも倍以上いるのだ。
式神とやらも強いが、手数の多さは比較にならない。毎度の事ながら、手加減をする余裕もある。本来であれば襲いかかって来る者は殺さなければキリがないのだろうが、何故だか憎めなくて皆手を出せないのだ。
すると女は怒りに震えた。
「……何が正義だ。お前達が正義なもんか!お前たちが正義だと言うなら、あたしたちだって正義だ!」
『正義』
ロイドはその言葉が嫌いだ。なんだかむず痒く恥ずかしい上に、責任感が無いように感じて嫌だ。正義という免罪符でなんでも許されるような、そんな言葉が嫌いだったのだ。
「──お前に何がわかる!お前たちが世界を再生する時、あたしの国は滅びるんだ!」
コレットはその言葉に困惑を返した。
「待って、どういうこと?私が世界を再生したらみんな助かるんでしょ?」
「……助かるよ、この世界はね」
吐き捨てるように、女は去っていった。
「待ちなさい!あなた何者なの!あなたに仲間がいるの!?」
リフィルの声が、背を追うように響く。
焦りが滲んでいた。今の言葉を聞き流していいはずがないと、本能が告げている。
だが女は足を止めない。
わずかに視線だけ向けると、躊躇うことなく光の向こうへと消えていった。
静寂が戻る。
残されたのは、戦いの余韻と、胸に引っかかる言葉だけだった。
「あの娘……まさか……」
「知ってるの?」
「いや、それよりここを出よう」
世界を再生したら滅びる国
その言葉がやけに耳に残って離れない。
==========
「──で、あなた達何を知っていて?」
「リフィルさんは天使物語を知ってる?」
「ニケ……」
天使疾患でコレットが倒れ、一行は休息を取ることにした。
ジーニアスは先に寝ようと横になり、コレットとロイドは2人で話がしたいとのことで離れていっていた。
温かいコーヒーを片手に辛そうな表情でコレットの元へ向かったロイド。クラトスはその浮かない表情に気付いて居たが、何も言わずに見送った。
「世界再生のおとぎ話」
──
かつて世界の中心には巨大な樹があった。それはすべての生命のみなもと。第一の元素であるマナを無限に生み出すという大樹。それは『樹』の生み出す『気』であった。人々はその『気』であるマナを使い神の如く大地を支配した。マナは魔科学を生み、魔科学は争いを生んだ。シルバラントとテセアラ。二つの国は互いを憎み、否定する。その争いは『樹』の気を奪いやがて大地は枯れていったが、それでも人は争いをやめようとはしなかった。やがて争いは愚かなるディザイアンを生み出した。世界はディザイアンに荒らされ、滅亡の危機に瀕していった。
──
事態を憂えた女神マーテルは荒れ果てた大地に少年を遣わした。
彼は女神の遺志を受け、争う二つの王国をいさめディザイアンを封じて世界に平和をもたらした。しかし、時すでに遅く、大地は枯れ果てていた。マナは世界から失われてしまったのだ。テセアラの王は言った。「われらは大地を離れよう。この世界に争いをもたらした償いをするために。」ミトスはそれを聞くと女神マーテルの力で天に続く塔を建てた。テセアラの民はその塔に登り天に輝く月へと去っていった。シルバラントの王はこう言った。「我らは遠くに離れたテセアラの民のためあちらとこちらを繋ぐ異界の扉を用意しよう。」ミトスはそれを聞くと女神マーテルの力で大きな石の扉を作った。テセアラの大地──すなわち月が満ちたそのときだけ開く扉を。
──
「いやぁ、バッカげてるよねぇ」
「ニケ!」
全4巻で記されたただのおとぎ話。
それにしてはやけに気にかかることがあるのか、リフィルは無言で渋顔を作った。
「……もちろん知っているわ、寝物語だもの。そのおとぎ話が何かしら?」
「ニケ、そのようなおとぎ話は作り物だ。分かっているだろう?」
「えぇ、もちろん。作り話なのは分かってる、けど、リフィルさんなら何か察するものはあるんじゃないかなって。歴史は伝承よ、それが歪められたとて、歪めなきゃ行けなかった理由も企みも存在する。この世の情報に全て理不尽なものは無い……──って、三番目の彼氏が言ってた」
「ニケ…………」
クラトスがニケbotになってしまう前にリフィルは新しい疑問を投げかけた。
「そもそも、貴女は一体何者なの?私たちの前で戦わないけど、クラトスの口ぶりからすれば強いのでしょう?」
「か弱い乙女はお鍋以上に重たいものを持てないのっ、魔法も苦手だし、ハーフエルフ辛いわー」
「嘘おっしゃい」
誤魔化されたと分かっているが、リフィルにとってニケはおそらく年上。
ハーフエルフだから見た目が変わらないだけで、リフィルのような見た目だけの小娘を煙に巻くのは得意だろう。
「あははっ、そんな警戒しなくても。裏表がないことで有名な私なんだから」
「そう?私はそんな噂聞いたことないけど」
「……でも、無駄に人生経験はあるからね。あっちの経験も」
「そこは一切聞いてないわ」
「ユニコーンにもし出会うことがあったらブチギレられるかも……」
そこを深堀する気は無いのだけど。
リフィルは深くため息を吐いて、クラトスは無言でニケの頭をしばき倒した。子供の前だ、という視線がストレートに降り注ぎ、ニケは肩を竦めた。
「でも黙ってることは多いから、あまり盲信しすぎるのは良くないからね、リフィルさん」
「……でも、貴女は神子の味方でしょう?」
「うーん」
返事が躊躇われることにおどろいた。それはリフィルもクラトスも同時である。
「イケメンの、味方?」
「ニケ」
「冗談ではないんだけど、強いて言うなら家族の味方かしら。あのね、リフィルさん、貴女にだけ教えてあげる」
ニケは困ったように笑った。
「──昔は、子供がいたの。血は繋がってないかったけど、大事な大事な、クソ生意気な男の子が」
流れ星に願うなら、その子供がいつまでも幸せになりますようにと、願うだろう。