もう1つの交響曲   作:恋音

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十二曲目、爆発の音色。

 

 

 

「あの暗殺者ってなんなんだろうね。変なこと言ってたけど」

 

 オサ山道で出会い、パルマコスタでちらりと姿を見かけ、必死に祈り、そして水の封印で会うという執念とガッツの塊を持った暗殺者をロイド達は思い返していた。

 

「こちらでは苦しむ人々がいる……とか」

「でも悪い人には見えなかったけど」

「お前なー、自分を殺そうと狙ってきたんだぞ」

 

 そうだった、と笑うコレット。

 

「でも優しい目をしてたんだよ?」

 

 

 

 噂をすれば影が差す。

 

 

 

 

「──そんな、ひどい」

 

 ロイドたちはマナの守護塔を管理する『希望の街 ルイン』にたどり着いた。だがしかし、そこはすでに廃墟と成り果てていた。

 

「これは…………」

 

 街の入口に架かる橋は半ば崩れ落ち、今にも奈落へと落ちそうに軋んでいる。建物は無残に崩れ、壁は抉られ、地面には爆ぜたようなクレーターがいくつも穿たれていた。

 

 瓦礫の間からは、焦げた匂いが立ち上る。

 かつて酒場だったのだろう建物は、青い瓦を散乱させたまま焼け落ち、その一部が今も燻っていた。

 

「何が希望の街だか、絶望の間違いでしょ」

 

 街の中心にあったはずの噴水は無残に割れ、水が止めどなく溢れ出していた。

 

 その瓦礫に人影があった。

 

 壊れた噴水に背を預けるようにして、崩れ落ちるように座り込んでいる女。

 全身に傷を負い、服は裂け、血で濡れている。肩で荒く息をしながら、それでも鋭い視線だけはロイドたちへ向けられている。

 

 噂の暗殺者だった。

 暗殺者は殺されても仕方ないと言わんばかりの態度で吐き捨てた。

 

「大チャンスってわねサ、今のあたしなら、戦う力も残ってないからね……」

 

「先生!手当してあげて」

「そうね、でもその前に何があったのか教えてくれるかしら」

 

 ソダ間欠泉にてこの暗殺者が単身ではなく仲間がいると判明したばかり。罠の可能性を考え、リフィルは治癒は後、と結論を下した。

 

「……。この街を見てみなよ、何もかも無茶苦茶だ。攻め込まれたんだよ、ディザイアンに」

 

 ルインは北東に人間牧場がある。

 この街は牧場から逃げ出した人間を匿っていた。それがディザイアンに露見してしまった。

 

 人の気配がない理由も、説明はいらない。

 全員強制的に牧場送りとなってしまったのだった。

 

 

「じゃああなたの怪我は」

「なんでもないよ、ちょっとドジっちまっただけさ」

 

 女は自分を馬鹿にするように鼻で笑った。

 

 

 その時、崩れた壁の奥から、ひとりの老人がよろめくように姿を現した。瓦礫が影になり、ディザイアンに連れ去られなかったのだろう。

 司祭服は汚れ、所々が裂けており、足取りもおぼつかない。それでも、女の姿を見た瞬間、顔に安堵が広がった。

 

「君は、先程の……!」

「じいさん、無事だったのかい!?」

 

 女が驚いたように声を上げる。

 老人は息を整えながら、ゆっくりと頷いた。

 

「いやはや私だけが助かってしまった。君がこの街を守ろうとディザイアンに立ち向かってくれたと言うのに、今は私だけだ……」

「やめとくれよじいさん、あたしはあたしのやりたいことをやっただけサ」

 

 リフィルはロイドと目を合わせた。

 暗殺者なんて似合わないほど善良な人間だ。コレットを、神子を狙うということさえ起こさなければ迷うことなく助けただろう。

 

 そのためらいに気付いたロイドはリフィルに『助けてくれよ』と言いたげな視線を送る。

 リフィルはその後押しに、小さく息を吐いてファーストエイドをかけた。

 

 

「なんであたしを助けたのサ」

「ロイドに聞いてちょうだい」

「あんたがこの街の人を助けたのと同じ理由だよ」

 

「……あ、ありがとう」

 

 しいなはむず痒くて視線を逸らしたが、恥を忍んでグッと息を止めると、ロイド達を真っ直ぐ見た。

 

 

「虫のいい話かもしれないけど、あんた達に頼みがあるんだ。この街の人には一宿一飯の恩がある。頼む、この街を助けとくれ」

 

 街の惨状を見たロイドたちは、さらわれたルインの人々を助けるために一時休戦し、アスカード人間牧場へ潜入を試みることにするのだった。

 

「名前は?」

「あたしかい?あたしは……藤林しいな」

「そっか、じゃあしいな、よろしくな」

 

「それにしたってディザイアンとかいう連中、人を人間牧場に連れ込んで何がしたいんだろう……」

「分からねぇ。人間牧場に閉じこもって痛めつけてることしか知らねぇんだ」

「……なんにしたってあたしは奴らを許せないよ」

「あぁ、俺もだ!」

 

「ところで、なんでオタクのとこの青髪はむくれた顔をしてるんだい?」

「へ?」

 

 ロイドは青い髪と聞いて1人しか浮かばなかったためそちらを向いた。

 

「ニケ……?」

 

「…………ルインには」

「な、なんだよ」

「めちゃくちゃ綺麗な式場があったのに……っ!!!!」

「綺麗な式場」

 

「ロイド、聞き返すな」

 

「あっやっべ」

 

 ロイドが口を噤んだが、ちょっと手遅れだった。

 

「花が綺麗で、あとお酒が美味しくて、スタッフがイケメンで」

「式場てスタッフにうつつを抜かす花嫁って結婚からは程遠いんじゃなくて?」

「く、確かに…!」

 

 リフィルの指摘にニケはムッと口を尖らせた。

 

「まぁそれはそれとしてディザイアン君達は許せないから、ロイドさん達頑張ってくださいね」

「そりゃ頑張るけど、ニケの頑張る理由がなんだかなぁ」

 

 ロイドのぼやきにニケは少し悩んだ後、言った。

 

「あと私ここら辺出身だから、地元が外来生物に犯されるの、ちょっと許せないかも」

「そういうことはもうちょっと早く言えよな!?」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「──人間牧場に来た、まではいいけど……」

 

 

 

 厳重な警備に、潜入したくてもなかなか出来ない。ということでディザイアンに変装することになったロイド達。

 しかし問題がひとつあり、ディザイアンの服が数着必要になるため中々手に入れるのも厳しい、という点だった。ちょっと森へ芝刈に、と言い放ったニケがガサゴソ消えていったのだが、十分後、息を荒くした戻ってきたニケの手には、お土産があった。

 

『たまたま、ディザイアンの服、落ちてましたよ』

『うっそだろニケ!』

 

 多分絶対強奪した。

 

 それでも人数分とはならず、ディザイアンになるのは3名。

 リフィル、しいな、そしてニケに決まった。

 

 

 

「私はハーフエルフだから潜入しやすいでしょうけど。にしたって、警戒心がないというか、歓迎というか」

 

 ニケが先頭を歩きながらロイドたちを引き連れて建物の中に入っていく。

 

 

「プロネーマ様に変わり、クヴァル様が五聖刃の長に変わるだろう」

「でかしたな!五聖刃の方々でさえも失敗したロイドを捕獲するとは!」

 

 

 指名手配犯であり、貴重な培養体を持ち込んだ名の知れないディザイアン、というのはアスカード人間牧場のディザイアンからすれば感謝が留まるところを知らない。

 

 

 中を歩いていくと、最初にコレットが異変に気づいた。扉が開き、そこにはボータと呼ばれていた男と鉢合わせたのだった。

 

「ぬっ、お前たちは!」

「やべ、こいつらトリエット砂漠で会ったディザイアンだ!気をつけろ」

 

 ロイドの警告に皆が警戒を顕にする。

 

「まだ我らをディザイアンだと思っているのか」

「しかしボータ様、これは好機です」

 

 一触即発と言った所で、ボータはクラトスの

 

「……まて、クラトスがいる。ここは一旦引くのだ」

「知り合いなのか?」

「さぁ?イセリアとトリエットで会っただけだが」

 

「ちょっと待って」

 

 その時ニケが動いた。

 しいなはゴクリと息を飲んだが、ロイド達はちょっと嫌な予感がしてきていた。

 

「ボータって、言ってたよね?」

「そうだが………………」

「──もしかして、私の元カレじゃない?」

 

「求婚じゃなくて元カレなんだ」

 

 ボータはその言葉に思わず目を見開いて──ガタガタと震え始めた。

 ヒュッと喉の奥が小さくなり、顔をどんどん青くしていく。

 

「ま、まさか貴様……」

 

 元カノに向ける言葉でも態度でも無いだろう。それだと言うのに、ちょっとどころか盛大に理解っちまったクラトスは視線を逸らした。見る目がない男だ。

 

「イセリアではファーストエイドとクラトスに必死で気付かなかったけど、そうよね?髭がとっても似合う男になってるとは思わなかったけど」

「貴様は、悪夢の暴力色欲女、ビ…ッ」

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

 

 

「───ファイアーボール!」

「粋護陣ッ!」

 

 横合いから、焼けつくような熱が空間を切り裂いた。扉が勢いよく開き、放たれた炎が一直線に突き抜ける。咄嗟にクラトスが子供たちを守った。

 

 

 卑怯な不意打ちではあるが、先程までしていた会話の枕詞は子供たちに聞かせるよう内容では無かったから、今だけはその不意打ちにクラトスとリフィルがホッとした。

 

「ほう、これは驚きました。ネズミと言うからてっきりレネゲードのボータだけかと思いきや手配書の劣等種まで居るとは……。今の魔法を食らって生きているとはしぶといですね」

「くっ、俺は去る。貴様はさっさと死ね!」

「どストレート悪口……」

 

 アスカード人間牧場の主、五聖刃のクヴァル。

 

 逃げ出すボータよりも優先すべき男がいたため、クヴァルなロイドの手を観察し、報告通りのエクスフィアが手に装着されていることを確認して笑みを浮かべた。

 

「なるほど、フォシテスの連絡通りだ。たしかにそのエクスフィアは私の開発したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね…!」

 

 状況は不味い。

 

 ロイドたちは囲まれる前に体制を立て直すためにこの場を離れることにした。

 

「逃げろ!」

 

 コレットの不意を突いた一撃のおかげで別の部屋に向かう。

 

 

 

 扉を閉めた先。

 

 そこにあった光景に、誰もが足を止めた。

 

 一定の速度で流れていくベルトコンベアの上で人間が無造作に運ばれていく。その先、無機質な装置の中へと吸い込まれ──やがて、別の形で吐き出される。コンテナだ。

 

 規則的な金属の擦れる音。何かを加工する気配。

 人の気配が、物の気配に変わっていく。

 

 

 リフィルの視線が、その流れをなぞる。理解には時間がかかったが、嫌なことに気付いてしまった。

 

 ──人間、否、培養体に埋め込んだエクスフィアを取り出しているのだ。

 

「ここは、まさかエクスフィア生産工場!?」

 

 しかも材料は人だ。

 

「エクスフィアはおそらく、人の養分を吸い上げて成長しているのであろう」

「つまり人間牧場は、エクスフィアの生産のための場所。劣等種と人間を下に見るディザイアンがなぜ人間を飼育なんてしているのか……ずっと謎だったけど、そういうこと…………」

 

 まさかエクスフィアが人の体で作られているだなんて。その衝撃に誰もが頭を真っ白にした。比較的クラトスとリフィルは正気を保っているとはいえ、その顔には嫌悪などといった悪感情が宿っている。

 

 ロイドは無意識に拳を握っていた。爪が食い込むほどに力を込めても、目の前の現実は何一つ変わらない。

 

 先程の空気の軽さのせいで、落差が激しい。

 猫を上手く被っていると思っているニケの素の気軽さが清涼剤になるとは思ってもみなかった。

 

 ちょっとした救いを求めた時、彼は1人足りないことに気付いた。

 

 

「……あれ?ニケは?」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「おやおや、小娘がひとり残りましたか」

 

 ロイド達が一時撤退をせざるを得ない、敵に囲まれた状況。

 

「私共が大事に作成したエクスフィアを盗んで使っている君たちこそ、罰せられるべき存在でしょう。ロイドのエクスフィアはユグドラシル様への捧げ物。返して貰いましょうか」

 

 

「コレット、今から聞こえることに関して、極力何も聞かなかったことにして欲しい。忘れて、とまでは言わない。けど聞こえないふりをしていて」

 

 

 ニケは一言だけそう呟く。

 

 

「薄汚い培養体の女に持ち去られたままでしたが、ようやく取り戻すことが出来ます」

「そう…」

「なるほど、君は何も知らないのですね。では教えてあげましょう。あのエクスフィアはロイドの母親である培養体A012、人間名アンナが培養したものです」

「ふぅん」

 

「……興味が無さそうだな。お仲間のことではないのかね?」

「知ったこっちゃないんだよ、あんたの一人語りなんて。こちとら、胸糞悪くて仕方ないってんだ」

 

 ガシガシと頭を搔く。

 その仕草にクヴァルは眉を吊り上げた。

 

「まぁあれでしょ。あんたはロイドの母親を殺した張本人ってわけだ。くっだらない、計画」

「要の紋がないまはまエクスフィアを取り上げられアンナは化け物に、それをロイドの父親が殺したのです」

 

 

 バチリ。バチリ。

 稲妻が走る。

 

 

 

「私は貴方を殺さないけど、殺す寸前まで痛めつけることはできる。お前を殺すのは、お前への恨みを持った者だけ」

 

 

 怒鳴りも、荒げもしない。

 彼女はただ、静かに断罪を告げる。

 

 

 

「──腹ァ括れ、クソガキ」

 

 

 直後。

 

 光が弾けた。

 

 

 

 

 

「あ、ニケ!居た…ってなんで」

「迷子になっちゃったの」

「逃げるぞって時に普通迷子になるか?」

「迷子になったついでに転んじゃったら、変な機械が動き始めてね、クヴァルとかいう薄汚い男の頭に直撃しちゃって、感電しちゃってね、はわわ、どうしよぉ。ニケ怖かったぁ」

 

「(絶対ボコったんだろうな)」

「(ボコったわね)」

「(普段から戦ってくれたっていいのに)」

 

 

 ディザイアンは感電したように倒れ伏している。

 クヴァルでさえ今にも息絶えそうだ。

 

 

「この──劣悪種が……」

 

 掠れた不幸を願う声が地面から漏れる。

 

 

「クラトス」

「……ッ!」

 

 

「殺れ」

 

 

 その短い言葉にクラトスは静かに息を吐いた。

 

 

「……──感謝する。クヴァルよ、地獄の劫火で先に待っていろ」

 

 剣が、迷いなく振り下ろされた。

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