もう1つの交響曲   作:恋音

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五曲目、旅立ちの時。

 

 コレットの世界再生の旅にクラトス、リフィル、ニケが同行することになった。

 一方で、ロイドとジーニアスの同行願いは却下された。

 

「戦いは遊びじゃない。足手まといだ」

 

 クラトスの冷徹な一言に、ロイドは悔しさを噛み殺すしかなかった。

 

「むかついてるの?」

「別に」

「たった一つの取り柄をバカにされたからでしょ」

 

 図星だった。

 ロイドも理解はしている。自分は未熟だ。クラトスの言葉は正論だ。

 だが、それでも。

 幼い頃から一緒に育ったコレットを、ただ見送ることなんてできない。

 

 それでも彼は唇を噛み、拳を握りしめ、結局は引き下がるしかなかった。

 

 不貞腐れて帰宅しようとするロイドだったが、ジーニアスが行きたいところがあると着いてくることに。二人は家の通り道であるイセリアの森を抜けるために、北西へ向かった。

 

 

 

 ──だが、そこから先は予定外だった。

 

「ロイド! 顔、見られたよね! ごめん、僕のせいだ!」

 

 二人が訪れたのは、ジーニアスの友人「マーブルさん」に信託の話を伝えるため。しかしその場所は──イセリア人間牧場だった。

 

 本来、ディザイアンと人間の不可侵条約によって立ち入りは固く禁じられている。

 

 そしてロイドが直接目にした人間牧場は想像を絶する程の場所だった。

 

 枯れ枝のように痩せ細った人間たちが巨大な石を運ばされ、鞭で打たれている。

 怒号と悲鳴が交互に響く光景に、ロイドは息を呑んだ。

 

 マーブルと呼ばれたおばあさんと、塀をまたいでジーニアスとロイドが会話をしていた。

 要の紋が付いてないエクスフィアを付けた老婆はやせ細り、服というよりは布を纏っていた。

 エクスフィアとは肌につければ病気になる代わりに身体能力が向上する。故に、エクスフィアから毒が出ないようにする呪いを掘った特別な功績を土台にする。それが要の紋だ。

 ボロボロの人が大岩を運べているのはこのエクスフィアがあるおかげなのだ。

 

 そんな会話をしていた二人とマーブルだったが、悲しいことにディザイアンに見つかってしまったのだ。

 

 二人は一時的に離れたものの、マーブルが厳しい叱責にあって罰を受けているのを見て耐えられなかった。

 二人は協力してマーブルを助けることにした。

 

 ジーニアスは崖の上の高台からファイアボールを打ち、ロイドはジーニアスに敵が向かないように囮として崖下に向けて駆け下りて行った。

 ロイドこそ、要の紋の付いたエクスフィアを付けているため出来るやり方だった。

 

 ディザイアンに追われ、一瞬戦闘になりながらも、村とは別の方向へ逃げ出せたのだ。

 

 

「何言ってんだよ、大丈夫だ」

「でも……」

「顔を見られた奴らは倒したし、追っ手はまだ崖の上だ」

 

 ジーニアスは逃げる途中で転び、それを庇うためにロイドは身を晒したのだ。

 自責の念で表情を歪める友を、ロイドはいつも通りの調子で軽くどやした。

 

「また代わりに宿題やってくれよ」

「うん、わかった……!ロイド、マーブルさんを助けてくれてありがとう」

 

 ジーニアスは村へ、ロイドは自宅へ戻るため、それぞれ短く手を振って別れた。二人は別方向に歩き出し、森の小道にロイドの靴音だけが残る。

 

 だが──彼の右手はまだ震えていた。柄を握った感触が掌に残り、じわりと汗を滲ませる。

 

「(人に剣を向けるのは、すごく、怖いな)」

 

 自嘲するように息を吐き、ロイドは無意識に右手を左手で押さえた。木漏れ日の差さない森の奥は静かで、風のざわめきすら遠い。

 

 そのとき。

 

 背後の茂みで枝がはねる小さな音がした。

 

 反射的にロイドは半身を返し、腰の剣に手を伸ばす。荒い息を抑え、視線だけで音の方を睨みつけた。追っ手か、と考えたらタイミングだ。

 

「やっぱり、ロイドさんだ」

 

 現れたのは、息を切らすでもなく、のんびりとした声音の少女だった。

 

「ニケ……!」

 

 胸の緊張が一気に抜けて、ロイドは剣から手を離した。

 

「どうしたの?迷える子羊してるところ?あれ、怪我してる……少し待ってちょうだいね」

 

 ロイドの腕を取ると、ニケは眉をひそめた。指先に触れた血の跡に、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「少し待ってちょうだい」

 

 彼女は深く息を吸い、低く呟くように詠唱を始めた。

 

「──〝ファーストエイド〟」

 

 淡い光がロイドの腕を包む。治癒魔術の温かさが傷に染みていく一方で、ニケの表情はどこか険しい。治癒魔法は苦手です、と誰が見てもそう読み取れる表情をしていた。

 

「……っし。これで良し」

 

 魔法を終えると同時に、彼女は肩を回しながら軽く舌打ちした。

 

 

「それで、ロイドさん。何があったの?」

 

 その言い方は責めるでもなく、ただそこに立って受け止めるだけの大人の声音だった。

 不意に、ロイドは何かを堰き止める必要はないと思ってしまった。

 

 姉のような、母のような、そんな不思議な安心感があった。

 

 気づけば、牧場で起きたことも、マーブルを助けたことも、怖かったことも、全部――吐き出していた。

 

「……なるほどね」

 

 話し終えるとニケはゆっくり頷き、そっとロイドの頭に手を置いた。

 

「……っな、なんだよ急に!」

 

 わしゃわしゃと撫でられ、ロイドは反射的に一歩下がった。顔が少し熱くなる。

 

「そっ、それでニケはどうしたんだよ、こんなところに」

「あぁ。ロイドさんの親に会ってみたくて。あと神子様が心配していたから追って来たのよ。『今日は聖堂まで着いてきてくれて、きっと疲れてるだろうから。普段のロイドなら平気だと思うけど』ってね」

 

 たしかに蓄積した疲労は体を蝕んでいる。

 人間牧場でのこともあり、気を紛らわすという意味でもニケがいるのは少しありがたかった。何より、コレットに心配をかけているという状況がむず痒く、頬をかいた。

 

 

 

 ロイドたちは森道を抜けてダイクの家へ向かった。木々の間を抜けるたび、木漏れ日が揺れ、土と樹皮の匂いが鼻を通る。

 

 崖沿いに建てられた木造の家が見えてくる。その横には小さな墓標――ロイドの母が眠る場所だ。

 

「ただいま、母さん」

 

 ロイドが墓に手を触れ、小さく囁く。ニケは少し離れて立ち、風に髪を揺らしながら墓標に向かって軽く会釈をした。

 

「母さんは、俺が小さい頃亡くなったんだ。そこで、親父が拾ってくれて、ここまで俺を育ててくれたんだ」

「そう……──お久しぶりですお義母さん」

「うん、違うな」

 

 全部違うな。

 

「お前の母さんではないし、初めましてな?」

「ほら、私旅してるじゃない?しかもハーフエルフだし多分どこかでは会ったことあると思うのよ。人類皆おひさしぶり」

「ごめん、そこよりお義母さんの方に言及してもらっていいか?」

「結婚する?」

「結婚しない」

 

 断固拒否の姿勢である。

 ロイドは苦笑しながら母の墓石の周りにある雑草を抜き取って端に投げ捨てた。

 

「ロイドさんのお母さんは、アンナって言うのね」

 

 

 

「親父、ただいま」

「おう、おかえり。おっと、お客さんか。見ねぇ顔だが、友達か」

 

 ロイドは父のダイクにニケのことを紹介した。今朝知り合ったばかりということから。

 

「初めましてお義父さん」

「うん、違うな」

 

 ロイドはすぐさま否定をし、ニケの肩を掴む。

 

「ニケ?」

「あ、今はまだ、よね」

「ニーーーケーーー???」

 

 ニケは平然と肩をすくめてみせる。

 

「だって私、婿探しの旅の途中だし?将来性は大事よ?」

 

「今!そういう話!してないからな!」

 

 ロイドは全力で突っ込みながら深くため息をついた。ここで黙らなければ話が進まない。仕切り直すように息を吸い、真剣な眼差しで父に向き直る。

 

「……親父、頼みがある。要の紋を作ってほしい」

 

 その言葉に、ダイクは会話をするほほ笑みからするどい目つきに変わった。

 

「要の紋、だと?」

「あぁ、どうしても必要なんだ。放っておけない人がいる」

 

 要の紋のないエクスフィアは手遅れという訳ではなく、そのまま外すと危険なので、要の紋の材料となる抑制鉱石使ったアクセサリーをつければ平気だそうだ。

 安心したロイドに、ダイクの鋭い視線が飛ぶ。

 

「その要の紋がないエクスフィアってのは、どこの誰が身につけてるンでぇ?」

「……えっ、あ、あー、えーっと」

 

 今日たまたま出会ったニケやクラトスのことを思い出し、旅の傭兵だと言い訳するも見抜かれてしまった。

 

 言うのを躊躇っているロイドだったが、一人余裕で口に出せる女がいた。

 

「人間牧場よ」

「──牧場に行ったのか!」

「わ、悪かったよ!ちょっと色々あってよ」

 

 慌てて言い訳をする。

 

「……ディザイアンに、エクスフィアを見られなかっただろうな?」

「あぁ、大丈夫だよ。でもどうしてそんなにこいつのことを隠すんだ?」

 

 クラトスは堂々と装備していたのに、どうしてロイドだけなのだろうかと疑問を口に出した。

 ダイクは神妙な顔をしながらロイドのエクスフィアが特別なものなのだと説明した。

 

 ロイドの持つエクスフィアは母親の肩身で、ディザイアンはそれを奪うために母親を殺したのだと言う。

 牧場近くの崖でロイドを拾った時、母親に意識が微かにあったためダイクはそれをはっきり聞いたのだ。

 

「なんで黙ってたんだよ!」

「いえばお前はディザイアンに突っ込んで行っただろう?」

 

 ダイクはロイドの性格をよく分かっていた。だからこそ黙っていた。

 ロイドは理由を言わずとも守るだろうと思って。

 

 救いの塔が出現し、コレットに任せていればディサイアンは滅びる。

 

 図星だったが、まだまだ子供であるロイドは納得できなかった。

 

 何より、ディザイアンに親を殺されておきながら、ディザイアンと不可侵契約を結んでいる村で暮らすなんて耐えられない。

 

 ロイドは飛び出した。

 

「お父さんも大変ね」

「まぁな。すまんな嬢ちゃん、こんな息子で」

「いいえ。きっとそれがロイドさんの良いところだもの。昔、あんな子と仲良くしていたからよく分かるわ。二人で育てていきましょうね」

「違うな?」

 

 ロイドとダイクの似ている所にニケはフフフとほほ笑みを浮かべた。

 

 

「あ、皆……」

 

 家を飛び出したロイドは、玄関を出て数歩進んだところで立ち止まった。夜気の冷たさに肩をすくめながら周囲を見渡すと、家のすぐそばに人影がいくつも並んでいる。月明かりに照らされたのは、心配そうな目を向ける幼馴染たち。コレット、ジーニアス、リフィル。そして少し離れたところに腕を組んだクラトス。その視線だけは、ロイドではなく横の家へと注がれていた。

 

「ニケ、あなたもここにいたのね」

 

 リフィルが視線を移し、ロイドの後ろに続いて出てきたニケに気づく。

 

「ええ、こんばんはリフィルさん」

 

 ニケは軽く会釈しながらスカートを摘まみ、礼儀正しい淑女の仕草をしてみせる。

 

「改めて明日からよろしくね」

 

 本日はコレットの誕生日で、明日はコレットの旅立ちの日である。コレットの誕生日であることをすっかり忘れていたロイドは、慌てて細工をしなければならなかったを

 「あと少しで完成するので旅立ち前に渡す」と言い訳をして居たため、一晩で仕上げなければならなかったのだけれど。どうやら間に合いそうにもない。

 

 ロイドはその申し訳なさを感じながらも、明日の同行を再び願い出ることにした。

 

 

 

「まてニケ、どこへ行こうとしている」

 

 ニケがふらりと闇夜の中に消えていきそうになるのを一番最初に気づいたのはクラトス。

 

「どこって、やだ、レディに行き先を聞かないでよ……!ちょっと気になる人がいて」

 

 クラトスの低い声が名を呼ぶ。だが、ニケの唇は意味ありげに弧を描いた。

 

「クラトス・アウリオン」

 

 その声音は、まるで名前それ自体に刃が仕込まれているかのように鋭かった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 翌日。

 コレットの出発の時間になっても、ロイドはまだ村の外れの家にいた。昨夜の疲労と眠気で作業は遅れ、結局ほとんど寝ていなかった。

 

 

「ジーニアス? どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「どうしたじゃないよ! ばっかじゃないの!? コレット、とっくに出発しちゃったんだよ!?」

 

 ようやくロイドは事態を理解した。

 昼頃の出発のはずだった。だからロイドは、「午前中いっぱいで仕上げれば、間に合う」と油断していた。

 

 しかし現実は違った。

 

 ──ロイドを置いて、コレットは旅立った。

 

 急いで家を飛び出し、コレットの家へ向かったロイドは、そこで一通の手紙を渡される。震える指で紙を開く。そこには、優しいけれど決定的な拒絶の言葉が並んでいた。

 

 

 旅は危険だから。

 ロイドは平和になった世界で、生きて欲しい。

 さようなら。

 

 

 そんなコレットの遺書のような手紙を握りしめたロイドは、行き場のない無力感に苛まれる。

 

「ロイド、ジーニアス。君たちにも、村のみんなにも隠していたことがあるんだよ」

 

 コレットの父、フランクが悲痛に顔を歪める。

 心臓がいやな音を立てた。

 

「コレット、いや神子様は、もう……」

 

 ファイドラはそれを聞きながら静かに目を伏せている。

 

「──人として生きられんのだ」

「……? どういうことだ? コレットは天使になるんだろ?」

 

 ロイドは反射的に疑問を口に出す。しかしフランクは答えず、戸惑ったように、躊躇ったように口を閉ざした。

 

「あぁ、そう、そうだな。……すまない、困ったことがあればいつでも頼りなさい」

 

 コレットの家を出た2人。ロイドは手紙を再び読みながら途方に暮れていた。

「……ロイド、どうしよう」

 

 隣でジーニアスが、不安を押し殺したような声で言った。

 

「……まずマーブルさんに、要の紋を届けに行こう」

 

 ロイドは感情を押し込め、短くそう答えた。コレットのことを考えれば胸が壊れそうだった。だから、今やるべき事を最優先で行動することにした。

 

 今度こそ、見つからないように。

 そう決め、二人は息を潜めて森を抜け、人間牧場の壁の間近までたどり着いた。

 

 そこで、二人は息を呑む。

 

 そこには、昨日とは全く違う光景が広がっていた。た。

 

 

 

「──え、なん、で?」

 

 思わず言葉が漏れた。

 昨日までそこにあったはずの、人を物のように扱う醜悪な施設――あの人間牧場が、見る影もなく崩れ落ちていた。鉄骨はねじ曲がり、建物は瓦礫の山と化し、地面には無数の焦げ跡。半日離れていただけなのに、まるで戦場の跡だった。

 

 鼻をつく焦げた匂いと、むせ返るほどの血の臭気が漂う。

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

 地面に転がる影に駆け寄ったロイドは、倒れているのが牧場の被害者ではなく、ディザイアンたちだと気づいて動揺した。

 

 なんでディザイアンが倒れているのだ、と考えたがロイドは躊躇いなく駆けつける。

 

「人……間……っ、どうして、助け」

「俺が人間だとかどうでもいいだろ!ほら、アップルグミ!」

 

 ロイドは問答無用でアップルグミを口に押し込み、水筒の水で無理やり飲み込ませる。荒っぽいやり方だが、男は咳き込みながらも呼吸を取り戻し、驚いたようにロイドを見上げた。

 

「我が名は……フォシテス。ディザイアン五聖刃の一人……。貴様は……ロイド・アーヴィング、だな……」

「お、おう。なんで俺の名前を知って」

「ふっ、昨日、不可侵契約を破り、ここに潜り込んだのは、知っている」

「お前らだってコレット、神子を襲ったじゃないか!」

 

 フォシテスはその言葉を聞いて意味深に顔を歪めた後、ロイドの服を握りしめた。

 

「このファームは、壊滅した……!たった一人の、侵入者によって……!よもや、貴様では、ないだろうな……」

「一人で……ここを!?」

 

 信じられなかった。フォシテスは強い。それは素人のロイドでも分かるほどに。その彼を含め、多くのディザイアンが「たった一人」にやられたというのか。

 

 嬉しい反面、得体の知れない恐怖が込み上げてくる。

 

「貴様が、培養帯F192に接触した、ことは、分かっている……!我らディザイアンは……お前を捕らえる手配した……」

「なんだと!?」

「せいぜい、逃げ延びるがいい、ロイド・アーヴィング……!」

 

 ロイドの手についたエクスフィアを目視したフォシテスは血を吐きながら笑うと、ふらつく足で立ち上がり、仲間を肩に担いで闇の中へ消えた。

 

「エンジェルス計画……ロイド……我らはお前のエクスフィアを、諦めんぞ……」

 

 背を見送りながら、ロイドは拳を握りしめる。仇だと分かっていても──弱った相手に剣を振るうことは、やはりできなかった。

 

「ロイド、マーブルさんは……!」

「あ、ああ!」

 

 2人は顔を見合わせ、すぐに瓦礫の中へ駆け込んだ。倒れたディザイアンは何人もいるのに、牧場の人間の姿がどこにも見えない。

 

「マーブルさんーー!」

「マーブルさん!どこー!?」

 

 声の限りに呼び続ける。

 

「ジーニアス、ロイド、こっちだよ!」

 

 すると瓦礫の向こうから、確かに聞こえた。

 

「マーブルさん、良かった……!」

「二人とも、こんな所まで入って……」

「大丈夫だ、ここのディザイアンはみんな倒れてて。皆は怪我は無いか?」

「大丈夫だよ。昨晩、急に悲鳴が上がり始めて、それで……」

 

 混乱の中、説明するマーブル。

 とはいえ、彼女たちが知っていることは少ない。突然のことだ。

 

 悲鳴と血の匂いが突如上がり、いつもの時間になってもディザイアンが来ないのだ。誰に殺られたのか分からないが、人々はひとかたまりになって怯えるしか無かった。

 

「この森を上がっていったらダイクってドワーフの人が居るんだ、俺の親父で、要の紋を作ってくれる。そのエクスフィアを付けたままじゃ危ないからさ、ロイドの紹介って言えば何とかしてくれると思うんだ」

 

 ロイドはそちらに向かうように人間牧場の人々に声をかけた。

 

「……ロイド、どうしよう」

「コレットの所に行く。ディザイアンに狙われてる俺が村に戻るのは危険だし、こんなヤツらに狙われてるコレットのこと、やっぱりほっとけないよ」

「……僕も行くよ!」

 

 ジーニアスの宣言にロイドは目を見開く。

 

「ずっと一緒だよ」

「ありがとう……っ」

 

 二人の間に短い沈黙が訪れ、しかしその沈黙は不安ではなく、覚悟の重みで満たされていた。

 

 瓦礫の間から、血の匂いがかすかに漂う。

 二人は肩を並べ、コレットが向かったトリエット砂漠の方へ歩き出した。

 

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