もう1つの交響曲   作:恋音

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六曲目、青い髪の男。

 

 トリエット地方。

 見渡す限り、砂と陽炎ばかりの世界。

 

 吸い込む息は熱く、喉の奥が焼けつくようだった。旅慣れた者たちは涼しい顔をしているが、暑さが容赦してくれるわけではない。

 コレットは足裏から来る熱と息苦しい空気と乾燥する空気に息切れをしていた。

 

「神子様、水分はしっかり摂ってくださいね」

「あ、ありがとうございます」

 

 神子コレットは火の封印、イフリートに通じる門を目指していた。

 

 道中、トリエットの街で占い師に場所を占ってもらい、一行は暴走で滅んだというオアシス跡へ向かっているところだった。

 

 途中、道具や装備の売ってある商店で壁に人型の穴を開けたコレットがいたのだが、未来の観光名所になるだけで大きな問題にはならなかった。

 

 

「火の試験の場所はともかく、その後はどうする?」

 

 クラトスが言う。

 トリエットで身動きが取れなくなっている人々から聞くと、オサ山道が封鎖されているようだ。

 

 このトリエット地方を抜けるためには山道を通る必要があるのだが。

 

「そうなのね。神子様はどうする?」

「えっと、私あんまり分かんないんだけど。ど、どうしたらいいかな?」

 

 自分の意思決定をあまり持たないコレットは判断に迷った。その時。

 

 

 

 

「──ト!……ッ──!」

「ん?」

 

 ニケが首を傾げる。

 その姿を不思議に思い、その方向を見れば、ふと砂漠の蜃気楼かと思う姿がコレットの目に入った。

 

「コレット──!!」

 

 ジーニアスだ。

 イセリアで別れたはずのジーニアスがノイシュの背中に乗ってやってきたのだ。

 

「ジーニアスっ、どうして!?ロイドは」

「ぼ、僕ら、イセリアを出てきたんだ」

 

 ジーニアスは息を継ぎながら続けた。

 

「トリエットに着いた時、ディザイアンがいたんだ。ロイドの手配書が出てて……番号は不明とか言ってて、フォシテスってやつの命令で!」

「手配書……?」

 

 リフィルが眉をひそめる。

 

「一旦落ち着くといい。……フォシテスという者の手配でロイドの手配書が出て、ディザイアンに攫われた。というんだな」

 

 クラトスが落ち着かせるように聞くとジーニアスは無言で何度も頷いた。

 コレットから差し出された水を飲み込むと、ジーニアスは続きを話し始める。

 

「ひどい似顔絵で見つかるわけないって思ってたんだけど、街を出る時に見つかって……!戦って油断してる時に、ロイド、後ろから電撃みたいなのを浴びせられて……」

 

 ジーニアスの声は震えていた。

 

「僕も連れていかれたんだけど、ディザイアンの建物の前で、泣きまねをして『ロイドに連れてこられただけなんだ、わーん』って言い訳して逃げたんだ」

 

 おそらく、ジーニアスがハーフエルフという同族で子供だと言うのが働いたのだろう。

 

 ノイシュがジーニアスを追いかけ、ジーニアスはノイシュの背中に乗り、ノイシュがトリエットからコレット達の匂いを辿って探し出したのだと。

 

「貴方、どうしてイセリアに居なかったの……?この旅は危険なものなのよ」

「それに関しては後で説明するよ姉さん、それよりロイド、ロイドを助けて」

「私もお願いします!先生!」

 

 リフィルとて心配するに決まっている。

 その悩みを後押しするようにクラトスが言葉を発した。

 

「神子の意向には従う」

「……えぇ」

 

 ホッとしたリフィルは、ジーニアスの案内を聞き、方向を定めたのだった。

 

 ==========

 

 

「いってぇ……」

 

 一方その頃、ロイドはとある場所でソーサラーリングのみの状態で装備も何も無く捕らえられていた。

 

 扉が勝手に開いたり建物の仕組みがよくわからない。

 幸い、ソーサラーリングを活用して牢屋から逃げ出し、装備を取り戻せた。

 

 剣を装備したロイドは隠密……と言っても隠れる場所のあまり無い建物。仕組みもよく分からない中、戦闘を何度か繰り返す。

 ソーサラーリングが変化し、電気の塊になり、何かを吐き出す機械を止めて帯電させて、なんかよくわからないギミックを一生懸命解いた。

 

 各ブロック?ブロックシフトヴォール?何を言っているんだ。訳分かんねーとロイドは文句を言いながら閃きと運を使って迷いながら道を進んだ。

 

「ダメだぁ〜〜!出口、ちっともわかんねぇ〜……!」

 

 色々機械を触っているうちに、ロイドは迷い込んだ先でディザイアンに見つかってしまった。

 

「やべっ」

 

 ロイドは慌てて近くの部屋に飛び込み、ドアを閉める。

 荒い息を整えながら、そっと背を壁に預けた。

 

「……ふぅ、危なかった……」

 

「──何者だ!」

 

 鋭い声が響いた。

 ロイドは反射的に顔を上げる。

 

 部屋の中はやけにきれいで、落ち着かないくらい整っていた。

 薄い黄色の壁に、ところどころ紫の模様。天井から垂れた深緑の布はいかにも高そうなものだ。

 床には高そうな絨毯、奥には机と本棚。どれもこれも手入れが行き届いていた。

 

 それよりもロイドは目の前の男を見た。

 鮮やかな空のような青い髪を後ろで束ねて、長いマントを羽織っている。

 指先には小さな雷がちらつき、バチ、バチと乾いた音を立てており、鼻の奥に焦げ付くような匂いが漂う。

 

「人を名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るもんだぜ」

 

 その問いかけに何がおかしいのか男は笑った。

 

「貴様のような下賎なものに名乗る名前は、生憎持ち合わせていない」

「奇遇だな、俺も生憎と自分がいやしいってことを知らないような能無しに名乗る名前はないぜ……!」

 

 一触即発のその時、ロイドの手の甲に付けられたエクスフィアを見て男は『ロイド』だと言うことがわかった。

 男はロイドをじっと見つめ、二人の目が静かに合う。

 

「……なるほど、面影はあるな」

 

 なんのことか知らないが、ロイドの脳裏にふいに何かが掠めた。その引っ掛かりをすくいとろうとした、その時。

 

──ウー!ウー!

 

 けたたまく鳴り響く警告音と共にボータと呼ばれた大男が部屋に駆け込んできた。

 

 神子が来た、との報告に対し青い髪の男は『必ず貴様を我がものとする』という変態的な言葉をロイドに残して去っていった。

 

 残されたボータとロイドが睨み合う時間は10秒にも満たなかっただろう。

 

「ロイド!生きてる!?」

「だいじょぶ?怪我は無い?」

「ロイドさん、私、怖かったぁ……」

「(嘘つけ、って顔)」

「(絶対うそ、って顔)」

 

 心配してくれる幼なじみの傍らでニケがうるうると涙を浮かべる。

 

「あれ…………」

 

 何かしらの違和感を感じたロイドだったが、ボータが敵対していることに変わりは無い。考えを振り払い目の前の敵に集中した。

 

 ボータの体躯は2mは超えている。ロイド1人ではキツかったが、こちらには仲間がいる。

 

 リフィルの回復やジーニアスの魔術など、ロイドを支えるものは多い。何よりクラトスの存在は大きかった。共に前線を張るが、傷1つ負わず敵を追い込んでいく腕は、ちょっと、いやまぁだいぶすごい。

 

 必然と、ボータは敗北することになる。

 やはり貴様に対して私一人では荷が勝ちすぎた、とクラトスに向かって言い残し、怪我した体を引き摺るように逃げていく。

 

 落とした武器がゴロリと音を立てて転がった。

 

「これは……」

 

 リフィルが杖に着いたエクスフィアを見た時、ロイドは戦闘が始まる前にあった違和感を思い出して探り直そうとする。

 

 

 ロイドはニケの顔をじっと見つめた。

 

「やだ……ロイドさんったら、キスは結婚のあとよ。めくるめく蜜月の日々を送りましょう」

「みつ……?よく分からないけど、結婚はしない」

 

 そうじゃなくて、とロイドは横に話をおいた。

 しかし、喉元まで上がっていた話題はけっきょく忘れてしまった。

 

「積もる話はあとだ、ここに留まるのも良くない」

 

 クラトスの鶴の一声に全員はトリエットに戻ることにしたのだ。

 

 

 ==========

 

 

 ロイドに待っていたのは説教だった。

 

「全く!貴方って子は、これで村に何も無く、貴方達に心身共に傷も無いから安心しましたけれど、ジーニアスから話を聞いた時どれだけヒヤヒヤしたことか」

「ご、ごめんなさい先生ーー!」

 

 リフィルの言葉は平和だったからこそ行われる説教だった。勝手に人間牧場へ行ったこと、更に言うならフォシテスという敵を生かしてしまったこと。そのせいでロイドが指名手配されているのだ。

 遅かれ早かれ、という気はしなくもないが、甘い判断にリフィルは叱っている。

 

 例えば、そう、もし例えば。

 ロイド達の身に起こった『一晩でディザイアンが壊滅する』なんて言う不思議なことが起きなければ、記録されたデータ、というもので『村までディザイアンが攻めて来た』未来があってもおかしくない。

 

 この未来で、二人はディザイアンに殺されたかもしれないし、追放されたかもしれないし、最悪なことを言うならば人の手によって殺されたかもしれない。不幸中の幸いとは言えど、二人の心に傷を負っていないのがラッキーだ。

 リフィルは治癒魔術が得意ではあるが心の傷という見えないものまで一瞬で直せたりしない。

 

 目の前で苦しむ人を見過ごせないロイドの気質はリフィルとて分かっている。倫理的に正しくても、法はそれを許しはしないのだ。

 

「ねぇリフィルさん、バラクラス王朝の壺なんてどこで手に入れたの?少し前に滅んで無かった?」

 

 ニケの言葉にリフィルの意識が変わったのを見て、ロイドとジーニアスは逃げ出した。

 

「ひぇ〜〜!先生の説教、おっかねぇ……。もう深夜だぜ?」

「仕方ないよ、僕らは甘んじて受け入れよう。幸い、今はニケが姉さんの興味のある話題を振ってくれたおかげで、説教は終わったみたいだし」

 

「ニケもよく先生の話についていけるな。……ん?これ要の紋じゃねぇか?」

 

 リフィルのガラクタに目を向けると、天使言語が擦り切れた要の紋を発見した。ロイドはそれを修繕出来る旨を伝えると、リフィルは目を輝かやかせた。

 

 先の戦闘でボータが落とした武器に着いていたエクスフィア。要の紋が無ければ人間には毒になるため装着出来ない上に、要の紋はドワーフでないと作成出来ないと言われていた。

 

 先程まで散々『人間牧場に行って!』というお叱りをしていたリフィルの口から出た『人間牧場の前で拾った』という言葉を危うく聞き流す所だったが、ロイドは修繕をすることにしたのだ。

 

「でもロイドさん、今日は遅いから、明日以降にした方がいいんじゃない?」

「それもそうだな……」

 

 ニケの言葉に、ふとクラトスの姿が居ないことに気付いてロイドは姿を探しに行った。

 

 残ったリフィル、ジーニアス、コレット、そしてニケはリフィルの集めた遺物を前に屯っている。

 

「ねぇ姉さん僕眠いよぉ」

「お黙りなさい。それでニケ、これなんかどうかしら」

「マーテル教会の……がらくた?確かそれ、なんにも価値なかったんじゃない、かな?パチモン……えっと、偽物をわざと作って流通させたとかって話を聞いたことがある気が」

「500年以上も前の記録だからあまり残っていないのだけど……。そうか、その説もあるのか」

「だいたい未来で神聖とか言われるものだって当時は大したこと無いものが殆どよ?神子様の穴とか、いい例じゃ無い?」

「に、ニケ…!」

 

 コレットは恥ずかしそうに手をワタワタと振った。

 

「ところでニケ、貴女の口ぶりだと大分歳行ってない?」

「やだっ、乙女に年齢の話はNGよ!リフィルさんだって対して変わらないんじゃない」

「……私23なのよ」

「え゛ッ」

「何よその声……」

「私みたいなハーフエルフの換算ではまだ子供よ……」

「私より歳下のジーニアスやロイドに使っている色目はなんなのか問いかけたい所だけど、一旦置いておくわ。それで、ニケは一体どれくらいなの?」

「くるみ500個くらい」

 

 それ体重の言い方じゃん。つっこむのもめんどくさくてジーニアスは居眠りしているフリをした。

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