パルマコスタを後にしたロイドたちの前にドアの使者が現れた。その使者によれば旅業に出たショコラがディザイアンに誘拐されたというのだ。
ロイドたちは彼女を助けるために、ハコネシア峠の南東にある、パルマコスタの人間牧場へ急いだ。もとより人間牧場を潰すつもりだった一行からすれば手間ではない。
しかし大きな問題が発生した。牧場についた時に、ニールが『このまま去って欲しい』と告げたのだ。
「やはり罠か」
「ドア様はディザイアンと通じ神子様を嵌めようとしています」
節々にあったパルマコスタとディザイアンの疑問が紐解ける。
そうしてドアの真意を問うためにパルマコスタに戻れば、総督府の地下でディザイアンと取引をしているドアの姿を見つけた。
ドアは税を徴収し妻のクララを救うためにディザイアンと繋がっている事が分かる。
「どういうことだ?」
「「!?」」
「なんだよその面は。まるで死人でも見たような顔じゃねぇか」
「ねぇロイドそのセリフありがちだよ」
「うるせぇっ」
「あんたの奥さんがどうしたってんだ?人質にでも取られているのか?」
「人質?笑わせるな、妻なら」
「──ここにいる!」
視線の先にあったのは、人の形をした異形だった。
服だけがかろうじて人の名残を伝えているが、その下の身体は、常軌を逸した大きさに膨れ上がっている。高さは三mを超えるだろう。
腕は異様に長く、指先は太く湾曲した鉤爪に変わり、顔と呼べる場所には、目も口も存在しなかった。
ロイドは一歩、反射的に後ずさった。
息を吸ったまま、言葉を失う。
コレットには苦しいと叫んでいるように思えた。
「これが私の妻、クララの変わり果てた姿だ」
その言葉が落ちても、ロイドの頭はすぐには追いつかなかった。
目の前にあるものを、人だったと理解するには、あまりにも形が違いすぎる。
見せしめとして悪魔の種子というものを植え付けられたとドアは語る。
ドアの顔は憎悪と後悔に染まっていた。
やりきれない気持ちをぶつけるようにドアはロイドに『自分だけが正義だと思うな』とぶつけた。
ロイドの胸の奥が、焼けつくように熱くなる。
理解しようとする前に、感情だけが先に噴き上がった。
「ふざけろ!正義なんて言葉チャラチャラ口にするな!奥さんを助けたかったのなら、総督の地位を捨てて薬でもなんでも探せば良かったじゃないか!あんたは奥さんのために地位も捨てられない屑だ!」
「ロイドやめて!皆が強いわけじゃないんだよ。だからもうやめてあげて」
「コレット……」
「…………それ、悪魔の種子っていうかエクスフィアでしょ?」
檻の前でフンフン確認していたニケがそう言い放った。
「へ?」
「この状態から人間に戻せるのかは分からないけど、原因はエクスフィアを要の紋無しで装着したから。だから病気というよりエクスフィア関連だよ……」
「──黙れ」
突如、隣にいたキリアがニケに向かって攻撃。
ザクリという音がして、ニケが地面に倒れる。
「キリア……?」
ドアはその場から一歩も動けず、ただ娘の名を呼んだ。見慣れたはずの小さな姿が、まるで別人のもののように見える。
理解が追いつかないまま視線を落とすと、床に広がる赤だけが、はっきりと現実を突きつけてきた。
震える喉で息を飲み込みながら、ドアは娘の顔を見上げる。
そこにあったのは、幼さの名残を踏みにじるような、歪んだ笑みだった。
「ふっ、用済みだ。ドア、冥土の土産に教えてやろう。お前の娘キリアは亡くなっている」
その言葉を飲み込む前に、キリアの姿が紫色の肌に変わっていく。
「私はディザイアンを統べる五聖刃が長、プロネーマ様のしもべ。マグニスの新たな人間培養法とやらを観察していただ──」
「──くたばれ」
「おごぉっ!!!」
そこには拳を握りしめたニケが、殴りかかっていた。
グルンっとキリアが宙を舞う。
「拳を抜いたからには、殴られる覚悟があるって言うんだろうなぁ?」
「うわ、出た物騒ニケ」
「なっ、なぜ生きて…っ!?」
一方的にボコボコにし始める前に、変貌したキリアとニケを地下に残し、クラトスは子供たちとドアを連れ出したのだった。
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「で、何をしてきた」
「暴力なんて野蛮なことはしないよぉ……?お話し合いだもんっ」
「お話し合い(物理)か」
クラトスの呆れた表情に対してニケは全く知らんふり。
「ニケ、怪我、怪我は大丈夫!?」
「大丈夫だよジーニアスさん。心配してくれてありがとう、結婚する?」
「しないけど」
心配して損した、とジーニアスは肩をすくめる。
「よし、じゃあニケも来たことだし、人間牧場潰しに行くぞ」
「おー!」
──パルマコスタ人間牧場。
ここではドアとニールが共に協力して人々を救い出していた。
「すまない。私は、取り返しのつかないことをしていた。……ショコラを頼む」
「あぁ、任せろ」
施設内で二手に別れ人々の救出をドアに任せたロイド達。
面倒なギミックを突き進んだ先でディザイアンに連れていかれそうになったショコラをようやく見つけた。
「総督府のドアとニールがここに収容されている人々を連れて脱出しています。私たちは管制室を抑えて彼らを安全に脱出させないと」
リフィルの言葉にショコラは案内を買って出る。
ショコラの案内の先にはマグニスがいた。
投影機で全ての行動が筒抜けだったようで、マグニスは大勢のディザイアンと共に迎え入れた。
「ニケ、ショコラを守っててくれ」
「私に出来るか分からないけど、頑張る!」
「(多分出来るんだろうなぁ)」
「エルフの血を捨てられねぇ愚か者共々、神子を葬りさってやる!」
マグニスとロイド達の戦闘が始まり、ニケはショコラのそばにいた。
「ところでショコラさん、私あなたに相談があるんですけど」
「わ、私に出来ることでしたら」
「パルマコスタに──いい男居ないかな?若くてイケメンで生命力と性欲が強そうな男」
「………………それ、今必要ですか?」
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「ニケ、お疲れ様」
「クラトスも、お疲れ」
深夜。焚き火も消え、仲間たちの寝息だけが遠くにある中、二人は森の縁に立っていた。
月明かりが木々の隙間から差し込み、足元の影を細く伸ばしている。夜露を含んだ空気はひんやりとして、昼間の騒動のおかげで疲労困憊の子供たちは、もう既に寝入っていた。
「まさかリフィルさんが基地を爆発する案を出すとはね。驚いたけど、無事帰って来れてよかった」
「あぁ」
「それにロイドさんも目を見張るほど強くなってきて、もちろん物理的な力だけじゃなく、心の強さもだんだん強くなってきた気が……」
穏やかな調子で語るニケとは対照的に、月明かりに照らされたクラトスの表情は硬いままだった。
「──お前は何を企んでいる?」
切り込んだクラトスの言葉。睨むような目をニケに向けている。
普段人格者として子供たちを諭す立場にいるクラトスと違い、随分子供っぽい表情だ。
「私はいつも、いい男を見つけるために生きてるのよ」
「だが……!それとこれとは話が違っ」
「五聖刃って何?」
ニケの質問にクラトスは静かに答えた。
「ディザイアンの、幹部だ」
「それは──クルシスとやらより下?」
「ビア……っ」
「黙りなさいクラトス・アウリオン。私が聞いているの、答えなさい」
クラトスは何も答えなかった。
いや、答えられなかった。
「私はクルシスや再生の神子とか全然気にしたこと無いけど。……ロイドってとってもいい男よね?」
その言葉にクラトスは固まる。
「ニケは、間違っていると思うか。この世界再生の旅が」
「えぇ。大いに。でも2つのことを覚えておいてクラトス」
ニケは腕につけた2本のブレスレットに軽いキスをした。
「私だって、愛してる」
その声は軽いようでいて、冗談には聞こえなかった。夜の冷たい空気の中で、その言葉だけが妙に温度を持って残る。今もずっと。
「そしてもう1つ。私は、貴方にとっての誰なのか。貴方達にとっての何なのか」
夜風が二人の間を抜けていく。
無言の時間は張り詰めており、最初に雰囲気を崩したのはニケだった。
「クラトスが今動いているのは、弟子のためでしょ?」
「……。」
クラトスはまたしても答えられなかった。
「師匠が弟子の為に動く、当たり前のことね」
ニケのその言葉に、クラトスは目を見開いた。
その目から警戒が消えており、月の光を反射させていた。
ニケはそれに気づいたような、気づいていないような顔で、いつもの軽い調子に戻った。
「ま、そういう人の背中って、結構かっこいいのよ。あーあ、早く結婚したいなぁ」
クラトスは何も言わなかった。
ただ、ニケの表情を見つめたまま、静かに息を吐いた。