転生最高司祭ちゃんが行く原作再現   作:赤サク冷奴

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これはRTAなんかじゃなかった、いいね?


If I Possessed Administrator
転生最高司祭ちゃんが行く原作再現RTA


 

 ……どこだ、ここ。

 

 朝、起床して一番に思ったのはそれである。

 

 寝ぼけた目で周りを見渡すと、木調のアンティークな部屋柄で、ちょっとお高めそうなベッドで寝ている。

 

 誘拐……とかじゃ無さそうだなぁ。こんな三十路を過ぎたばっかのおっさんを捕まえても意味は無いだろうし。

 

「はぁ……」

 

 くそっ、出勤だってのに……上司になんて言えば────

 

「……あ?」

 

 溜息を吐いた時、何だか喉から出る声に違和感を感じたが……もしや、これは。

 

「あ、あー、あー?」

 

 喉に手を当てる。……喉仏の消滅を確認。

 しかも声がかなり高い。

 

「……いや、まさか。疲れてるんだ。なんだ、夢か……」

 

 股間に手を当てた時、乾いた笑いが出た。

 

 背中にあったサラサラした物を手に取ったら、それは腰に届かないくらいの淡い紫の長髪。

 

 ……まさかの、TSですか?

 

 いや、これはただの夢だ。なんでロリになってしまったのかは知らないが、ともかく、これは夢だ。

 

 そう、夢。お願いだからとっとと醒めてくれ……

 

 ──コンコン

 

 突然のノック音。そっちに視線を向けると、ガチャリと音を立てて、アキバにいるメイド……ではなく、それより質素な格好のお手伝いさん的なメイドが入ってきた。

 

「おはようございます、クィネラ(・・・・)様。お食事の用意が出来ました」

 

 ……俺の名前はクィネラか…………クィネラ?

 

 寝起きで訳も分からず、取り敢えずコクリと頷き、メイドに付いていった。

 

 食卓らしき部屋で、厳ついイケメンと美人さんと一緒にそんな美味しくもないスープやらパンやらを食べていると、突然、イケメンさんがこちらを向いた。

 

「……クィネラ、今日は剣術と神聖術(・・・)の勉強をするぞ」

 

 は、はぁ……神聖術っすか。そうですか……

 

 

 …………は ?  神 聖 術 ?

 

 

 待て待て、俺の夢よ。幾らなんでもそれはアカンでしょう。

 クィネラとかいう単語を聞いて、冷や汗が出始めていたが、これはもう確信犯だ。

 

「……はい。今日も精一杯励みますわ、お父様」

 

 咄嗟に機転を利かせてニッコリと笑いながらそう言うと、内心で深く絶望した。

 

 

 

 

 

 ……あ、俺死んだわ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ソードアート・オンライン。

 

 言わずと知れた有名なラノベの、第三章にあたるアリシゼーション編で、仮想世界アンダーワールドのラスボスとして君臨する女性、アドミニストレータ。

 

 残酷で冷徹、手段を選ばない悪役っぷりは、ある意味自分の意志を貫き徹しているような感じで好きだったが、ラスボスはラスボス。勇者ことキリト君に倒されてしまう。

 

 彼女の本名を、クィネラと言う。

 天職によって神聖術の研究を幼い頃からし続けた結果、世界の法則に気が付いて、それを利用し瞬く間に世界の最高権力者になってしまった。

 

 ……さて、俺の今の名前はクィネラである。

 

 そしてこの世界では、人々に天職というものが授けられ、明らかに英単語で構成されているプログラム的な魔法、神聖術というのが存在している。

 

 ここ、アンダーワールドやんけ!

 

「……オーマイガー」

 

 朝食を食べた後、自分の部屋で頭を抱えていた。

 

 だって、ラスボスなんだもん。まだ何もしてないけど、このまま何もしないとプロジェクト・アリシゼーションは直ぐに完成してしまい、A.L.I.C.E.が菊岡さんの手で軍事転用。キリトとアスナは治療の為に来るかもしれないが、ギガスシダーを植えてないからユージオは木こりじゃないし、禁忌目録が無いから、捕まる筈だったアリスもそのまま。元老院や整合騎士は存在せず、セントラル・カセドラルなんて無かったんや……状態に陥ってしまう。

 

 わーお、原作総崩れやんけ!

 

 これが夢だったら良いのだが、これがなぁ……

 

 自分の左手に対し右手の人差し指と中指でS字を書くと、青色の線が描かれた。

 

 それをタップしてみると、あら不思議、自分のパラメータが目の前に現れた紫色の窓に表示されましたとさ。

 

 

 Unit ID:[CDI1-1089]

 

 Object Control Authority:04

 

 Durability:1392/1392

 

 System Control Authority:06

 

 

 自分や他人、生物や物体のパラメータを参照する事ができるこのウィンドウを、ステイシアの窓という。

 

 上からそれぞれ、直訳では個体番号、物質操作権限、耐久力、機能操作権限……と言ったところか。

 

 やはり、神聖術に関しても天賦の才があるからか、システムコントロール権限は少し高い。

 

「システム・コール……ジェネレート・エアリアルエレメント」

 

 人差し指に灯る緑色の光を見て、なんとも言えない溜息が漏れた。

 

 そのままにしておくのもアレなので、頭の中でイメージを働かせ、その光に更に効果を付け加えていく。

 

「フォームエレメント、ボール・シェイプ、フライ・ストレート、ディスチャージ」

 

 球体状になった風を射出すると、そのままふわりと見えなくなって消えてしまった。

 

 ……だよなぁ。普通に出るよなぁ。

 

「多分、夢じゃないんだろうな」

 

 あのキリトと会えるのは楽しみだが、何せ三百年後。しかも、その頃には天命を固定してもフラクトライトの記憶容量が一杯になりかけて、全裸で寝たきり生活。

 しかも、原作を忠実に再現しないとキリトとユージオは登ってこない。

 

 ただの地獄ですねこんちくしょう。

 

「……勉強するか」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 クィネラちゃんになってしまったあの日から、既に一年が経過している今日この頃。

 

 剣術や神聖術、歌、裁縫etc……を父からやらされまくると、このクィネラちゃんボディは圧倒的な才能を見せてしまった。

 

 ひとたび剣を持てば、一般兵なら卒なく倒して、神聖術は元々の知識も相まって複雑なものを、歌は美麗なソプラノボイスかつ前世の歌手顔負けの歌声で、裁縫ならどんな柄や刺繍だろうと難なく作り上げた。天賦の才どころの話ではない。

 

 家族や使用人は神童だと褒めそやし、その噂は他の貴族や街の住人にまで広まっていって、ある種の崇拝みたいのを受けかけていた。

 

 やろうと思ったらやれてしまうという事態に、前世で平凡だった俺にとって困惑だらけだったが……努力せずにすぐ出来るというのは、楽で爽快感もあるが、同時に虚しくも思えるというのがよく分かった。

 ゲームで縛りプレイをする人は、楽に敵を倒したりゲームをクリア出来ても、つまらなく思ってしまうからこそなのだ。かく言う俺も縛りプレイは好きだった方だし。

 

 現在の人界暦は27年。

 我らがロリっ子賢者カーディナルの話では、この時点で既に100年は経過しているはずだが、それにしても、人界の中央のこの街……セントリアはそれなりに発展していた。

 

 中世くらいの、荒い石のレンガや木の枠組みで作られたような家屋の数々。鉄や青銅で作られた様々な武器道具。

 

 たったの100年でこれなのだから、俺が何もしなければ現代社会ぐらい築いていそうなものである。

 

 ……まあ、そんな事にはさせないが。

 

 さて、今日はと言うと、父に部屋まで来いとお呼び出しされていた。

 

 コンコンとノックしてから、扉を開ける。

 

「おお、来たかクィネラ。お前には少し、大事な話があってな」

「? 大事な話……でございますか?」

「うむ……今日より、お前の天職を《神聖術の修練》とすることにした」

 

 ……ああ、遂に来てしまったか。

 

 この父の発言が、クィネラが、やがて人界を支配しアドミニストレータになる道程の始まりとなるからだ。

 

「この屋敷で神聖術の研鑽を積み、更なる高みを目指してもらいたい」

「はい。このクィネラ、天職を全うさせて頂きますわ」

「頼んだぞ」

 

 微笑みを浮かべつつ、軽く一礼をして部屋を出た。

 

 

 

 

 ……よーし、レベリング始めようか。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 この世界において、神聖術の行使権限を上げるには、神聖術を沢山使うか、神聖術を用いて生物を殺せばいい。

 

 手っ取り早いのは、生物を殺す方だ。

 要は経験値を集めてRPGみたくレベル上げをするだけなのだから。

 

 天職を与えられたその日の夜。

 全ての人が寝静まった頃になって俺は外に出ると、近場の森に入っていった。

 

 そこで、出歩いていたキツネを見つけた。こちらに気付いていないようで、何気なさそうに森を歩いている。

 

「……システム・コール」

 

 全ての神聖術の起句。それを静かに唱えた。

 

「……ジェネレート・サーマル・エレメント、フォームエレメント・アロー・シェイプ」

 

 人差し指に灯った赤い輝点が小さな赤い矢の形に変化する。

 

「……ディスチャージ」

 

 結びで放たれたそれは、遅れてそれに気付き、驚愕していたキツネを穿った。

 

 バサリと倒れると、確認する為に近寄る。

 

「……システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント、フォーム・エレメント、ボールシェイプ、フォロー・ライト」

 

 光が出来ると、そこで起きた惨状に思わず息を飲んだ。

 

 身体を突き抜けただけでは焼けなかったのか、血が腹からとめどなく流れ出ており、思わずハッと息を飲んだ。

 

 ここまで大きい生き物を殺したことがなかった俺に、動物を殺すのはキャパが足りなかったらしく……激しい恐怖と嘔吐に襲われた。

 

「おぇぇ……っ!!」

 

 撒き散らされる夜ご飯。口の中を侵食する酸の味。心臓の動悸は激しく、息が過呼吸になり掛けている。

 

 ……動物を殺すのって、こんなに怖いものなのか。

 

 動物でこんなにも酷い有り様なのに、それ以上のことを易々とやってのけるアドミニストレータに、なれるのだろうか。

 

「……うっぷ、気持ち悪っ」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ……とかそんなこと言ってた日もありましたね。

 

「クフフ、アッハハハッ! 恐れ慄け、平伏すがいい!」

 

 通い詰めて3ヶ月。

 ようやく俺の神聖術行使権限は30を超えた。

 

 まだまだ忌避感は拭えないものの、狩りの際に死んだ動物は全て血抜きして持ち帰り、厨房を借りて調理したのを街の住人に振る舞うことで、『狩りとは大切な命を頂くことである……』的な価値観で自分を納得させていた。

 しかも、この野生動物らは翌日になったらリポップするので、自然破壊にもならないのだ。

 

 最近、父から神聖術の実験の為昼間の外出を認められて、夜の時間も色々な事に回せていることもあり、アドミニストレータとなるのに必要そうな準備を着々と進められているので喜ばしい限りだ。

 

「システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント、ライトニング・シェイプ、ディスチャージ!」

 

 早速トビウサギを見つけ、雷の一撃を脳天に食らわした。

 このウサギの肉は食用として重宝されているので、首を切り内蔵を取って早急に血抜きをしておきたい。

 

 腰からナイフを取ると、首の勁を切ってやり、血抜きをしつつはらわたを取り出していく。

 近場の川まで持っていき、ある程度血を流してから、手持ちの袋に放り込む。

 

「……システム・コール、アドヒア、ディテクション・オールユニット。……っと、次はそこか」

 

 今日とて今日とて、森を駆け回って、全ての動物を狩るのであった。

 

 

 

 

 その翌日のこと。

 

 元気よく準備運動をしてから父さんの部屋に向かおうとすると、リビングにて母さんに呼び止められた。

 

「クィネラ、今日もケーキが美味しく焼けたけど、食べる?」

「──はい! 頂きます、お母様!」

 

 ケーキと聞いて、足が止まって素早く返事をした。

 

 これは、前世から続く一種の脊椎反射みたいなものだ。

 誰にも言えないけど、スイーツ巡りとかしちゃう系の30歳おっさんです。

 

 しかし、ケーキ……ケーキって言ったら、この時代だとベーキングパウダーすらなくて、甘くないしパサパサな硬いケーキを思い浮かべる。

 

 しかし、俺が母さんのケーキを初めて食べたあの日、微笑みを湛えた母さんが持ってきたケーキは、俺の予想を裏切った。

 

 それは、まるで生クリームの乗っていない、穴の空いたスポンジだけのケーキに見えるが、男のくせにお菓子作りが好きな甘党の俺は知っている。

 

 ……シフォンケーキ、だったのだ。

 

 こんな時代に存在するとは思えない、かなり文化的な代物。

 一口食べれば、しっとりとした食感、小麦の芳醇な香り。

 砂糖も貴重なものだからか、甘さも控えめだがそれがいい。

 

 料理の腕も俺を凌駕しており、既に幾つか料理を教わっている。ウチの母さん、貴族の娘さんって聞いてたのに、異様にスキル高いんだよなぁ。趣味だったに違いない。

 

 ……思えば、このケーキがアドミンの全ての始まりか。なんて頷きながら、はぐはぐと食べ進めていった。

 

 ……うん。やっぱ美味い!

 

 

 

 

 結局シフォンケーキに夢中になってしまったので、午後、父に許可を貰って外を出ていた。

 

 天気は快晴。

 夏の到来を思わせる激しい日照りに手をかざしていると、鳥や虫の声が心地よい音楽を奏でてくる。

 

 そんな、ひと狩りいこうぜ日和だった今日だが……

 

「だ、誰か助けてくれぇ! アンソンが森で大猪にやられて重傷なんだ! このままじゃ死んじまう!」

 

 助けを乞う男の肩に担がれた、そのアンソンとか言う男は、腹から大きく血を流していて、確かに重傷だ。

 

 ……たしか、原作のクィネラは、人々の怪我を治して地位を上げてったんだっけなぁ。

 

 ならば、これを活用しない手は無い。

 つーか、怪我してる人を助けられる立場にいて助けないのは鬼畜の所業過ぎる。

 

 二人に近付くと、肩を担いでやっている方の男がギョッとしてこちらを見てきた。

 

 このセントリアで、領主の一人娘かつ神童と称される美しい少女がいるというのはよく知られている。相手も一目見ただけで俺の正体に気付いたのか、即座に頭を下げようとしたので、それを手で制止させて、怪我をしている男の前に立った。

 

「診せて下さい。私が治療しますわ」

「ク、クィネラ様!? で、出来るのですか?」

「当然ですわ。私に不可能なんてありませんもの」

 

 アドミン的?傲慢ムーブをかましながら、その男にアンソンを地面に横に寝かさせてやると、両手を突き出す。

 

「システム・コール。ジェネレート・ルミナス・エレメント」

 

 計十個の光素を生み出し、腹を治していく。

 

「おお……神聖術の光だ……」

 

 わらわらと人が集まってきて、俺の治療を不安げに見守っている。

 

 だが、システム権限レベル34を舐めないで欲しい。

 これくらいなら、造作も無いのだ。

 

 やがて、光は無くなり……綺麗まっさらな腹がそこにあった。

 

「……これ、は……」

「おお、アンソン! 目覚めたのか! 見てみろ、クィネラ様が傷を癒して下さったのだぞ!」

「……なんと、それは……有り難き幸せ! 私めなどに、御身の高貴なる神聖術を行使して下さったとは……このアンソン、感謝してもし切れませぬ」

 

 いきなりの、平身低頭。内心では物凄く驚きつつも、外面を保つために咳払いをして、柔和な笑みを浮かべた。

 

「傷は癒しました。血が足りていないでしょうから、暫くは安静にして、食事をしっかり摂って下さいね」

 

 民への心遣いも忘れずに、そう忠言を言っておくと、アンソンが更に姿勢を低く、まるでメッカに向けて定時の拝礼をするイスラム教徒みたいなポーズをし始めた。

 

 ……えっ、あの、まだ神様じゃないんですが。

 

「神の子だ……クィネラ様は、ステイシア神の神子様に違いなかろう!」

「神子、クィネラ様……こんな所に居られたとは」

「神子様……!」

「クィネラ様が神子様だったのか……!」

「クィネラ様……!」

 

 ……ま、まあ、遅かれ早かれこうなっていたのだし、少しばかり前倒しになったと考えておけばいいか。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 そんな日々から三年後。

 

 三年もの間ずっと狩りをしていたので、今のシステム権限レベルは77。

 

 そんな長い間やってこれかよと思われるかもしれないが、そもそも小動物では得られる経験値なんてたかが知れてる。

 RPGで言えば、最初の町の周辺でスライムなりゴブリンを狩りまくってレベルをカンストさせようとしているようなものだ。

 

 言うまでも無いが、この三年ずっと狩りだけをしていた訳ではない。

 怪我人を見つければ治療し、絶対に外れない神聖術の天気予報で災害を予測したり、天候に恵まれなければ風で雲を吹き飛ばし、雨を振らせたりもした。

 

 そうして、神の御業として世間一般に知られている神聖術を大規模に使用するその少女はステイシア神の神子である……という話が浸透すると、信奉する者が増えていったと同時に影響力も増していった。

 

 そこで、俺はこの生まれ育った町を発展させ、遂に《管理者》となる第一歩へと動き始めたのだ。

 

 中央に大きめな池と金木犀の木が立っているので、池を埋め立て大きな正方形の広場を設置。そこから、俺が神聖術を使って十字の道を敷設していって、その道に沿うようにならした土地に家屋を建てていった。

 

 大きな街を作っているという噂を聞き付けてか、そこかしこから商人やら住民やらが集まってきて、同時に俺を崇める人々も増えていった。

 

 しかしまあ、街の規模が大きくなれば人手も足りなくなるもので……

 

「クィネラ様、この場所の地下に大岩がありまして……」

「あら、術士はいないの?」

「ええと、他の場所に付きっきりで……」

「……分かったわ。システム・コール。ジェネレート・エアリアル・エレメント」

 

 空に舞い上がり、高速で示された地点へと向かう。

 

 どうも、家を支える杭を打とうとして、下にある岩に阻まれてしまったらしい。

 なので、ここでも神聖術を使わせてもらう。

 

「システム・コール。コントロール・オブジェクト、リディフィニション・オブジェクト」

 

 岩を取り出し、それを土に変換することにより、土壌を元に戻す。

 

 正直、中学生くらいの英語力さえあれば、英単語を知っているだけで作れてしまう魔法……それが神聖術だ。思い浮かべるイメージを固定化出来れば後は簡単である。

 

「ありがとうございます、クィネラ様!」

「何かあれば、またすぐ言いなさい。早くこの街を立派にしたいもの。分かったでしょうね?」

「は、はい!」

 

 今日とて今日とてアドミンムーブ。

 だけど恐ろしいことに、まだ俺、11歳なのだ。

 

 原作で言われてた支配欲求とかはサラサラないが、意外と街づくりが楽しくて、ついつい過剰に支援してしまい、今の街の大きさは大体直径3000メルほど。

 

 カセドラルをその内建てたいと考えているが、セントリアの街の大きさはどれくらいなんだろうか。

 

 紙に書かれた街の設計図には、これから直径8000メルにまで拡張するとある。

 

 ……まあ、いいか。多少違くても問題無いだろう。

 

 それよりも、家に帰って更なる料理の研究に勤しまなければ……

 

 内心で頷くと、足底にエレメントを集中させて、実家の方向へと飛び上がった。

 

 

 

 

「おかえりなさい、クィネラ」

「はい。ただいま帰りました、お母様」

 

 三年経った今でも、お母さんとの関係はとても良好だ。ついでに、お父さんもそれなりに仲がいい。

 

「今日は何を作るのかしら?」

「はい。遥か西に伝わるというケーキ……中でも、チーズケーキを作ろうかと」

「チーズでケーキを作るのね? でも、さっぱり味が分からないわ」

 

 ふっふっふ……Ifシリーズのキリトの轍は踏まないぞ。ちゃんと下にクラストの層があるのは知っているからな!

 

 そして、ケーキ作りに取り掛かった……のだが。

 

「あらあら、焦げて灰になっちゃったわね……」

「なんで!?」

 

 原因を探ったところ、単に熱素の量的な問題で、温度が高過ぎただけでした。

 その後の調整により、美味しい美味しい、カーディナル・システム製チーズケーキが作られた。

 

 やっぱり熱素の調整って難しいなぁ。電子レンジ欲しい……

 

 その完成品は、我が父にも献上することにした。

 

「ふむ……酸味もさることながら、この滑らかな食感……実に気に入った。とても美味しいではないか、クィネラ」

 

 いやぁ、それほどでもないっすよ、えへへ……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦30年6月25日 

 

 やる事が多くなってきたので、今日から少しずつでも日記を書いておこうと思う。

 

 将来、何かの拍子にフラクトライトの記憶を消すことになったら、この日記は役に立ってくれるかもしれない。

 

 さて、何故今日から日記を書き始めたのかというと、なんと、ちっちゃいながらも、あのカセドラルが完成したからだ。

 

 お父さんや血縁の領主におねだりして大理石の建材を沢山貰い、それを神聖術で組み立てることによって作られたこのカセドラルは、三階仕立て。

 まあ一階は金木犀の木のある庭園で埋められてあってないようなものだし、二階も三階もガラ空きなんだが。

 

「クフフフッ……これで、神に祈りを捧げる場が完成したわ」

 

 とか民衆に言ったら、みんなヒャッハーして喜んでいた。

 

 そして、公理教会という名前を付けて、俺はそのトップに君臨することになった。

 

 まだ三階しかないが、百層まで頑張って作ろうと思う。

 

 頑張れ、俺。負けるな、俺。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦30年7月8日

 

 カセドラルを立てて、神の神子なり巫女なりを自称していたら、我が家の血縁以外の各地の領主達が、「ウチの住人が君に貢ぐせいで税金が取れなくて困ってんですけど、どうしてくれるんですか? ねぇ?」という苦情が来たので、仕方なく神がお認めになった貴族として爵位を与えようと思う。

 

 これは原作でもクィネラちゃんが取った手法で、直々に神が認めたのならと、民がこぞって租税を献上させる仕組みにしたのだ。

 

 そうすると、苦情を呈してきた領主は民がちゃんと税を納めるようになったので何も文句は言えないし、このまま従った方が自分にとっても利があると判断するのだ。

 

 今日からそれを始めて、既に何人かの領主の首を縦に振らせている。他の領主の懐柔も時間の問題だ。

 有力な領主ほど高い地位を与えてやって、後々壁で人界を隔てる際に皇帝にでもしてやろうかとも考えている。

 

 俺の人界統一は、まだ始まったばかりだ……!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦31年9月2日

 

 今日は、兵士を養成する練兵場を建てた。

 街の力のある青年達から志願を募り、ゆくゆくはダークテリトリーから来る敵と対抗する人界軍となってもらうのだ……恐らく、350年ほど使われないが。

 

 ここのところ、大規模神聖術による建築ばっかりしていて、社畜に戻ったかのような気分になってしまっている。

 

 新たな神聖術士の育成に、セントリアの区画整理と新セントリア市の都市構想や設計、市内で行われる商業の管理統制のためのコミュニティの設置、郊外の農地の開墾、法律たる禁忌目録の策定と制定、公布、施行……

 

 ……書いていて思ったのだが、今更ながらに俺は何をやっているんだろうと思った。

 

 最後の禁忌目録はともかくとして、市場経済を作り上げて一体何がしたいのか。そんなもん教会の計画経済でええやん。赤でも問題無いじゃん。

 貧弱な知識では現代知識無双にはならないけども、クィネラちゃんボディのお蔭か信者共がやる気に満ちて、色々と発展してしまっているのだ。

 

 ……いやまあ、これくらい許容範囲か。やがては停滞の時代を作り出すのだ。

 多分、問題無いだろう。……多分。

 

 

 現在のカセドラルの階数──4

 

 一言コメ:大理石くれ。あとマーブルチョコ食いてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦32年1月13日

 

 術士の育成が着々と進んでいる。

 周囲からは、神子様のお弟子様だの言われているが、弟子を育てている気はさらさら無い。教師と生徒みたいなものだ。

 

 ……あれ? 弟子と生徒って教えて貰っている立場だし、もしかして同じようなものだったり?

 

 いやまあ、気にしても仕方ないが。

 

 育成した術士達は、公理教会の司祭にして、各地で布教やら神聖術での人助けでもやってもらおうと考えているので、地道に神聖術の鍛錬を頑張ってほしいものだ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦33年4月8日

 

 やっべ、クッソ腹痛い。

 

 俺の奴隷──ゲフンゲフン下僕──ではなく信者に、「疲れたから、今日は休むわ」と伝えて、ベッドでゴロンと転がる。

 

 ここの所体調が悪いとは思ったが、ここまで酷くなるとは……原因はなんだろうか。

 

 まあいいや、これだけ書いて寝よ。

 

 ……あ、それと寝る時に下着一枚って爽快感あるよね。

 

 なんかこう、スカッとする。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦33年4月9日

 

 朝起きたら股から血がドバドバっとしていた。

 

 ……は? と、しばし面食らったのは仕方ないだろう。

 

 即座にステイシアの窓で天命を確認したが、大した減少は見られず、もしや何かの病気ではと焦って、このクィネラ生で一番あたふたした。

 

 原因を探ろうと慌てて、実はかなりの博学であるお母さんにお問い合わせしたところ、くすりと笑いながら、女の子の日であることを教えてくれた。

 

 嘘だろ、アンダーワールド……なんで生理があるんだよ。

 

 ビックリしながら、パンツを神聖術でお洗濯して、先ほど取り込んだばかりだ。カセドラルの最上階は洗濯物がよく乾くので嬉しい。

 

 話がそれたが、確かカーディナルの話によれば、この世界の生殖システムは、システム上での婚姻がなされた夫婦同士が行為を行えば、一定の確率で妊娠し、後に出産するというものらしい。

 

 その一定の確率って、もしや女の子の日に近付くに連れて上がったりするんじゃないだろか。そうでなければ、トイレさえ無いこの世界に生理なんてものは必要ない。

 

 これから一ヶ月周期で生理が来るのは、御免被りたいものだ。

 

 

 現在のカセドラルの階数──6

 

 一言コメ:再現性なんていらねぇ。シミュレーションに理想を求め過ぎだと思う。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦33年7月23日

 

 今日は仕事を休んで、ダークテリトリーへ出張しに来た。

 

 この頃のダークテリトリーは、まるで原住民みたいな奴らしかいなくて、ゴブリンは言葉さえ話せない。

 

 そこからさらに遠く離れて、未来では帝都オブシディアのあるであろう山々に村があった。

 

 しかし、かなり寂れている。幸いここの暗黒人は日本語……ではなく人界語が通用したので、俺の来訪に腰を抜かす人々へ事情を聞いてみたら、元々土壌の悪いこの場所の農業では収穫量もかなり少ない上に、去年は凶作だったらしく食糧が尽きてしまったんだとか。

 

 このまま放置するのも忍びないので、大規模神聖術、『スペイシャル・リソース・エリア・トゥ・セルフ』で神聖力を掻き集め、神聖術の秘奥義にあたるらしい、『クリエイト・アイテム』でカーディナル製の固めなパンを大量に用意してやった。

 

 感涙に咽びながら、「おお……ベクタ様……! なんというご慈悲を……!」なんて言いながら俺を拝み始めたので、対応に困ってしまった。しかし、一度世話をしたのに、このまま不作の根本治療を行わずに放置するのも、なんだか申し訳ない。

 

 ……なので仕方なく、仕方なーくちょちょいと村を魔改造して、色々な知識を村人たちに授け、どんな環境でも一定量獲れるようになっているというアンダーワールド最強の食料たるジャガイモの種芋を進呈した。

 

 ……うん、多分、アドミンもそういうのやってたって事で! 

 原作再現にあたってはノーカンだよ、ノーカン。ノープロブレム!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦34年1月15日

 

 なんやかんやでまたダークテリトリーに来てしまった。

 

 村民達が俺の姿を見てワタワタと騒ぎ出して、最終的にメッカのポーズになっていた。

 

 また狂信者が増えてしまった……しかも聞いたところ、ここのところジャガイモしか食べていないという。

 これまた仕方無いので、暗黒界の土壌の一部を人界と同じものにしようとしてみたところ、システム的なロックからか神聖術が反応しなかった。

 

 やむを得ず、今度は育てている作物自体の情報を書き換えてやろうと、上位術式の単語として知られるものを組み合わせてサブスタンス・コンバージョンの術式を組み上げて使ってみたが、どうも今の権限レベルでは発動に足りないというのを本能で感じ取った。

 

 もう雑魚では上がらなくなっているので、俺と同じフラクトライトが思考のコアとなっている暗黒界の亜人……ゴブリンを殲滅することにより、俺の権限レベルは90に達した。

 

 彼らに罪はない。彼らも生きているフラクトライト。

 悪意を持てども、等しく人間の思考をしている。

 

 今はまだ言葉も通じないが、喋り出してしまったら、俺は彼らを殺すだけの度胸があるのか。

 

 ……殺せる頃には、きっと俺の心は既に壊れてしまっているということなのだろう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「神子様、本日のご予定は?」

「そうね……少し、最上階に籠るわ。調べたいことがあって」

「そうでしたか……お時間を取らせてしまい申し訳ございません。では、現時点で開始されている開発計画を続行致しますね」

「よろしくお願いね」

 

 45度の最敬礼でお辞儀してきた高い地位の信徒へ手をヒラヒラと振って別れると、一年で1階くらい増えていって、10階にまで到達したカセドラルの最上階……自分の寝室まで、神聖術で飛び上がった。

 

 寝室に着いてから、つい周りをキョロキョロと視線を巡らせてしまう程、不思議と緊張感がある。

 

 これからやろうとする事が事なので、かなり緊張するが……ふぅ、深呼吸大事。

 

「システム・コール」

 

 これから紡ぎ出す言葉は……本来なら、もっと先の未来で、クィネラが長年の思索と解析で導き出してしまうことになる、神へ至る術式。

 

「インスペクト・エンタイア・コマンド・リスト!」

 

 

[Entire list of system commands]

   〈Touch to expand each items〉

 

〈Element-related Commands〉

 

“Element generation”

-Thermal Element

-Cryogenic Element

 ・

 ・

 ・

 

 

 ……目の前に表示された窓には、このアンダーワールドに存在する全てのコマンドが存在している。

 

 これはフラクトライトの育成をした最初の四人の研究者の置き土産……もとい負の遺産だ。

 誰かさんの手によって消去されず、残っていたこの術式を、クィネラは偶然か見つけてしまうのだ。

 

 

〈Internal administration Commands〉

 

“Urgent administrative authority Acquisition”

-Full system control authority

 ・

 ・

 ・

 

 

 そのコマンドリストの末尾……最後の項目にある術式の一つにあったのは、《全権限の取得》。

 

 これにより、クィネラはカーディナルと同等の権限を手にし、やがてはカーディナル・システムそのものを消そうとするようになる。

 

 ……まあ、まだ俺には関係ないけどね!

 

 

 

 

 

 でも万一もあるから、念の為に、一応システムの全権限とアイテムの全権限について、取得だけはしておいた。

 

 ひゃっほい! チートひゃっほい!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦36年3月31日

 

 遂に18歳を迎えた。

 大人の色気は無いけど、鏡を見ると、美少女なアドミンがこちらを見ている。

 

 ab◯cさんが本気出してきた。

 マズい、キュン死とはこの事を言うのか。

 

 鏡の前で数分ほど身悶えてから、ふと思ってしまった。

 

 ──コマンド・リストあるし、いっそのこと天命値固定とかして半アドミン化すればいいんじゃね?

 

 思い立ったが吉日、早速天命上限の固定、容姿の固定、オブジェクト操作の全権限を取得した俺は、歳を取らないただのチーターになっていた。

 

 キバオウさんに「チートや、チーターや!」と言われてもマジで否定出来ない。

 多分茅場さんより悪辣である。手段なんて選んでられんのや……

 

 試しに、ステイシアの窓を出してみたところ、

 

 

 Unit ID:[CDI1-1089]

 

 Object Control Authority:Z

 

 Durability:4239/4239

 

 System Control Authority:Z

 

 

 的な事が書かれていた。

 

 全権限を取得したからか、二つの権限がZとか訳の分からん値に変化していたらしい。てっきり、255か32767か65535辺りだと思って居たのだが……

 

 うーん、取り敢えず満足と言っておこう。

 

 

 現在のカセドラルの階数──12

 

 一言コメ:コメ食いてぇ。米がない。何故?

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦38年1月1日

 

 新しい年が来た。

 

 カセドラルは十層くらいになって、央都セントリアが殆ど完成しきった感がある。

 

 料理が好きだという住人の女の子をひっ捕らえて、蜂蜜パイの作り方を伝授した。

 あと、もし店を開くなら跳ね鹿亭って名前にするようにも言っておいた。

 

 これで超老舗の名店が出来上がるぞ。やったぜ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦38年3月31日

 

 どうも。二十歳になりました。

 

 教祖というお偉いさんではあるが、成人の祝いをすることになった。

 

 他の貴族達も集まってきて、「ウチの息子なんてどっすか……?」とお見合いを持ち掛けてくる奴ばっかいたんで、「結婚する気はありませんよーだ」と言い返したら、お母さんが鬼気迫る表情で詰め寄ってきて、「好きな人を作りなさい!」とお説教されてしまったのが記憶に新しい。

 

 人界最高権力を叱れるお母さんって……もしかして我が母が人界最強なのでは?

 

 いや、それはさておき。

 

 何にしても、俺は好きな人なぞ作るつもりは無い。

 

 キャリアウーマンになっても、生涯独身を守り続けます。

 そもそも、まだ俺にソッチの気が無いというのも大きいのだが。

 

 

 

 

 もし、好きな人出来てしまったら、俺はどうなるんだろうか。

 

 

 

 現在のカセドラルの階数──13

 

 一言コメ:人界に足りていないものは食文化である。食堂作りてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦50年4月3日

 

 最近、忙しすぎて日記を書き忘れる日が多い。

 

 そしたら俺、もう三十越えちゃってた。三十二だよ。アラサーだよ、アラサー。

 いつの間にか前世の年齢と並んでて悲しいです。

 

 相変わらず俺の奴隷──ゲフンゲフン下僕は頑張ってくれている。特に信心深いのは公理教会の司祭とかにしてやって、俺の手の届かないところで働いている。

 

 ホント社畜時代に回帰したかと思った。俺一人が主に仕切ってるので、何かの調印やら署名やら何やらで働き詰め。神聖術で体力を回復させての労働。ダークテリトリーで現地の暗黒界人への教育活動。禁忌目録の執筆。

 

 精神がやられそうだったよぉ。

 

 というか、一週間前からずっと書いている事だが、性欲が溜まりすぎてつらたんだった。アドミンの体で自家発電したら背徳感がえげつないのでやる気が起きなかったが、なんと今日、やってしまった。

 まあやったらやったで吹っ切れたんだけどね。

 

 非常にスカッとした。ストレスも消えた。性欲が三大欲求に含まれる理由も納得というものである。

 

 俺に欠如していたのは、どうやらコレだったらしい。

 

 

 

 現在のカセドラルの階数──25

 

 一言コメ:クォーターポイント突入。アインクラッドならやべぇ奴が出てきて毎回死者が出る階層だ。フルダイブ型VRゲーやりてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦52年5月27日

 

 遂に、禁忌目録を公布した。

 

 禁忌目録とは、自分より権限の高い者を作らないようにクィネラが定めた絶対的な法律だ。人殺しとか、動物殺しとか、経験値の高い敵がわんさかいるダークテリトリーの侵入とかを防ぐためのものである。

 

 因みに、この世界において公布するのは施行することと同意義だ。

 人工フラクトライトを持つ住人達は、上位存在の命令には逆らえないという不思議ロジックが存在するからである。命令が全ての民に届いた時点で、遵守しなければならないと思ってくれるので有難いものだ。

 

 あと多分、大抵の事は原作と同じようになっているが、抜けがあるかもしれない。

 

 まあ、その時はその時考えよう。俺はちょっと、疲れた。

 

 

 現在のカセドラルの階数──27

 

 一言コメ:27と言えば、レンリ・シンセシス・トゥエニセブンを想起させる。つうか、早く原作キャラに会いてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦58年8月31日

 

 世の中の学生達が、目の前に広がる強敵と立ち向かいつつ、絶望の表情を浮かべているだろうこの日。

 

 ダークテリトリーに侵入したらしい、ベルクーリという愛すべきおっさんをひっ捕らえてきた。

 

 ふぉぉぉ諏訪部ボイスかっけぇぇぇ! シンセサイズしてぇぇぇ! とか思ってないぞ……諏訪部さんの声にときめいてなんかいないんだからねっ!

 

 北の守護竜から青薔薇の剣を奪おうとしただけあり、かなり強かったが、やはり神聖術をボコスカ使うチーターには勝てなかったようだ……ビバ、チート。

 そしてごめんなさい、諏訪部さん。

 

 勿論直ぐにディープフリーズで、新鮮なままをお届けいたしました。

 

 

 現在のカセドラルの階数──34

 

 一言コメ:将来一番の晩酌仲間を発見。一緒に酒を飲みてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦62年12月31日

 

 大晦日。

 

 またも、多忙な一年が終わった。

 

 見た目はピッチピチの高三JKなのに、中身は四十二歳。

 おばハンって言ったら皿にするぞコラ。

 

 ……よし。俺は決めたぞ。

 

 女子高生のブレザー作って、セントラル高校(仮称)生徒会長クィネラちゃんになってやろうじゃないか。

 

 だけど、今日はそろそろおやす────(唾液で文字が霞んでしまっている)

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦64年6月6日

 

 ダークテリトリーにて、十分な教養を獲得した人材が何人も現れた。

 

 これ幸いにと、なんと人界でも作られてない、アンダーワールド初の学校をここに作ることにした。

 

 人界産の、カセドラルにも使われてる大理石的なサムシングを持ってきて、神聖術で加工。半日で造形が作りあがったそれは、正しく日本の学校だった。

 

 昇降口、職員室、トイレ、屋上も完備。教室は一組から八組、それを六年生まである。

 

 内装はまだ無い。

 

 ……内装は無いそうで(ry

 

 話は変わるが、食料の生産量と人口というのは比例するものである……たぶん。

 

 古事記にそんな事が書いてあったような気もするが、事実作付面積が広がってきた今日で、ダークテリトリーの暗黒界人の人口は50人足らずだったのが400人ほどに増加している。

 

 まだ若い彼らを学校へ入学させたらどうなるのか、明白だ。

 

 「おお、ベクタ様のなんと麗しきお姿か……」と、完全に崇拝されている中で、ふと俺は日記を書いていて今更ながらに思ったのだが。

 

 ……俺、なんで敵陣営強化しまくってるんだろう、と。

 

 語学、算術、兵学、戦闘技術、薬学、礼儀作法、道徳、神聖術を主に教えているが、元々日本という超高等教育の国の出で、しかもそれを暗黒界人にも真似させようとしている訳で……

 

 特に、簡単ながらも、基本中の基本を押さえた軍隊の扱い方を教える兵学と、神聖術を教えたのはヤバいかもしれない。

 ヒャッハー! ミニオン乗りながら熱素の槍でパルティアンショットだぜぇ! とかやられたら人界軍オワタである。

 

 ……いや、うん。こちらの陣営も、職人やら兵士やらが強化されているし……まあ、いいや。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦65年11月23日

 

 最近日記を見返して思ったんだが、俺ってばもしかして、ただの働き詰めのブラック教祖になってる……?

 

 誰か、俺の勤労に感謝してぇ……そして労わってくれぇ……!

 

 俺、一日の睡眠時間2時間足らずだったし……

 働き過ぎじゃねって言うか、それを許容している周りってどーよ、そこんとこ。勤労感謝の日舐めてんの? 勤労できることに感謝しろってか? ブラックな職場でそんなこと思わないっての。

 

 何でもかんでも上司に仕事押し付けやがって……パワハラとはいい度胸じゃないか。

 

 なので、俺の下僕であるお偉い方に、来年4月より始まる、小中高を兼ね備えた学院の管理運営を任せることにした。

 

 まあ、これでも教祖なんで。忠実なお偉い方は二つ返事で引き受けてくれた。

 

 ……前に作った制服着たら、学校通えるかなぁ。

 

 

 現在のカセドラルの階数──41

 

 一言コメ:18歳のアドミンには制服だが、原作の20歳前半アドミンには、タイトスカートの女教師が似合うのは自明である。青春してぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦66年2月11日

 

 一人だとえげつない不便なので、執事のクリスチャンを雇った──もとい、拾ってきた。

 人界では全く居ないと思われた黒髪黒目の少年で、まだ12歳くらいだが、既にイケメンの風格を兼ね備えている。

 俺も前世はこんなイケメンだったら、大学は遊び放題だっただろうなあ……というレベル。

 

 北のダークテリトリーへ、ゴブリン狩りに遠征した際に発見して連れ帰ったのだが、なんとクリスチャン、人界に入ろうとしてくるゴブリンやら何やらを倒し続けてきた為に、権限レベルが60と、俺に次いで人界で二番目くらいにある。

 

 

 禁忌目録違反でよく捕まらなかったなと思えば、村から排斥されて、ゆく宛もなく彷徨っていたのだとか。

 お前よく守護竜の横を通っていけたな……と、その胆力にとても感心している。

 

 そんなクリスチャンは、最近紅茶を淹れ方を練習しており、段々と美味しくなっている。

 

 執事ということで、主人を守る強さを手に入れなければならないが、クリスチャンが繰り出す独自の剣術で俺と軽々渡り合い、剣の扱いなら俺よりも長けている。

 

 剣にソードスキルの光が纏われた時は焦った。この世界で奥義、秘奥義として扱われているソードスキルは、ゲームだったソードアート・オンラインの時の攻撃倍率がそのまま適応されている。

 

 普通の剣技がソードスキルに勝てるはずもなく……

 

 剣を吹き飛ばされ、間合いを詰められて、気がつけば首筋に刀身が当てられていた。

 これはもう降参だと手を挙げる他無くて、本人はと小さくガッツポーズして喜んでいた。

 

 これはとても良い拾い物だった。神聖術の勉強をさせたら、是非ともチュデルキンの代わりとして働いて貰おうと思う。

 へっ、チュデルキンなんて死んでも雇わねぇからな!

 

 

 現在のカセドラルの階数──42

 

 一言コメ:お友達増加記念に増築。チュデルキンは生理的に無理。あれとずっと居るとかマジ死にてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦75年3月31日

 

 もう大して気にもしなくなった誕生日。

 

 今日はなんと、久々に実家に帰った。

 

 もう20年以上も会っていなくて、すっかり老け込んでしまった両親の姿を見て、感傷的な気分になったが、変わらず娘として接してくれて心が暖かくなった。

 

 母は相変わらず元気のようで、何となく連れてきたクリスチャンを見ては目をパァと輝かせて、「娘のことよろしくお願いね!」だなんて言っていたので、クリスチャンが激しく動揺してしまった。

 これこれ、思春期の高校男児を揶揄うんじゃありません。

 

 父はセントリア市の領主の座から退いてからは威厳が消え去り、気のいいお爺ちゃんになってしまった。

 久しぶりにケーキでも焼いてあげて、大層お喜びになったので、良かった良かった。

 

 帰ろうとしたら、母が誕生日を覚えてくれていて、プレゼントとして母が大事にしていた地虹鉱のネックレスを貰ってしまった。

 

 これからは着けておこう。

 

 

 現在のカセドラルの階数──50

 

 一言コメ:第二クォーター。キリトはここで二刀流を獲得したらしい。二刀流使いてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦80年4月1日

 

 やっほー! 永遠の18歳クィネラちゃん(62歳)だよ! キャハ!

 

 ……嘘じゃないよ。俺もうオバサンだよ。なんてこったい。

 

 しかも、処女……! 男で言うところの童貞……! 彼女いない歴前世含め93年……!

 

 ……書いてて虚しくなってきたな。

 

 さて。そろそろ、カーディナル・システムと俺のフラクトライトとの融合を考えておきたい頃だ。

 コマンドは作っておこう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 人界暦80年5月8日

 

 久々に、街の方に視察に出ようと思う。最高司祭だとバレないよう、深めのローブを羽織って、街へ駆り出した。

 

「あら、このパイはお幾らなの?」

「はい! 4シアです!」

「そうなの……じゃあ、二つ頂くわね」

「毎度ありです! どうぞ!」

 

 的なやり取りをして、いつかの女の子が建てた店、跳鹿亭の蜂蜜パイを二つほど購入した。

 

 何故だか、俺が自作したものより美味しいような気がする。材料でも変わったのだろうか。

 

 もう一つは、俺専属の執事クリスチャンに渡しておこう。

 あいつも多忙期は俺と一緒に社畜した仲だ……労わってやんないとな。

 

 その後適当に街をぶらぶらして、カセドラルに帰宅した。

 

 

 現在のカセドラルの階数──55

 

 一言コメ:蜂蜜パイうめぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦81年11月30日

 

 実家の母さんが亡くなったと聞いた。

 

 前世じゃ、しっかりとお袋と親父は生きてたし、誰か親しい人が死ぬなんてことを味わった事がなかった。

 

 最近も忙しいから、あまりカセドラルを離れてなくて、一年に数回顔を見せるぐらいしか、親孝行は出来なかった。

 

 親しい者だけ集めて、葬式は実家の中でやった。

 

 ……他人の天命の上限を固定するのは、整合騎士だけにしたい。

 

 だから、こうなるしかないとは分かっていた。

 

 泣いたのは、前世も含めて80年ぶりかもしれない。

 

 アドミンの印象を崩さない為に、帰ってから、一人でずっと泣いた。

 

 ……辛いなぁ。

 

 

 

 

 現在のカセドラルの階数──65

 

 一言コメ:無心で作業をしていたら、いつの間にか10階増築してしまった。今は何も考えたくない。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦83年12月24日

 

 お父さんにも先立たれた。

 一人娘だったので、俺にはもう家族はいない。

 

 屋敷に居た使用人達は、カセドラルで雇うことにした。

 

 そしたら、執事のクリスチャンが「大丈夫ですよクィネラ様」とか、「まだ私やみんなが居るじゃないですか」とか言ってきたので、涙腺は崩壊した。

 それでクリスチャンの胸で思わず泣いた俺は悪くない。

 

 クリスチャンってぱ、泣きじゃくる俺の背中をポンポンって叩いて、子供をあやす様にそっと抱擁するんだよ?

 あらヤダ何この25歳。ちょっとイケメン過ぎじゃないですかね? しまいにゃ惚れますよ?

 

 いやねぇ……もう、人生を掛けて作り上げてきたアドミンの印象が……ほんと最悪。

 

 

 鬱だ、カーディナル・システムと融合しよう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「システム・コール」

 

 死ぬほど唱えた起句。それを、カーディナル・システムとの融合の為に使う。

 

「インターヴェンション・メインビジュアライザー……」

 

 原作では、自分と同じ権限の存在が居ることに不満を抱いたクィネラが、カーディナル・システムそのものを乗っ取ろうとする為に使う。

 

 この神聖術の内容は、ライトキューブクラスター中央部にある、メインビジュアライザーのカーディナル・システムに干渉し、内容をコピー……いや、ファイルごと俺のフラクトライトに格納すると言っていいのだろうか。

 

 とまあ、そんな感じに、あっけなく式句を唱えた。

 

 そして……

 

「あ……」

 

 意識が、すぅと遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ィネラ様! クィネラ様!」

 

 ……んぅ?

 

 誰かと思ったら……クリスチャンか。

 

「……どうかしたの?」

「どうかしたのじゃありません! いきなり目の前で倒れて……お具合は?」

 

 具合、具合か……

 

「そうね……かつてないほど良いわ」

「かつて、無いほど……?」

「ええ、そうよ。だって、私は支配者にして管理者……

 

 

 

 

 今日より私は、公理教会最高司祭、アドミニストレータである」

 

 ……はてさて、カーディナル・システムさん。

 

 

 

 

 ……秩序の維持って命令、ちゃんと俺の中に埋め込まれてるんですかね、これ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 結果から言えば、カーディナル・システムと俺のフラクトライトの融合には成功している……らしい。

 

 カーディナル・システムは消え去り、最高の権限は俺のみ。そこまでは良い。

 

 だが、カーディナルの基本命令、秩序の維持は、すっぽりと消えて無くなっていた。つまり、カーディナルのメインプロセスは完全にお釈迦になったのだ。

 一応、カーディナルの全機能が使えるようになったが……使う日が来ることは無いだろう。

 

 しかし幸いにも、メインプロセスのエラーチェックを担うサブプロセスのプログラムは壊れずに生きていた。

 というか、サブプロセスさえ生きていれば良いのだ。

 

 俺がわざわざこんな真似をしたのは、サブプロセスの複写……リセリスと呼ばれた少女にアドミニストレータの記憶を植え付けて、大図書室の賢者、カーディナルを作り出すことが目的だ。

 

 彼女がいないと、キリト達はカセドラルに入れず、記憶解放術も、この世界の真実も知ることが出来なくなる。

 

 だから、俺的には完璧な結果と言える。

 

「くふふ……私の計画はまだ始まったばかりよ」

 

 ……よし。取り敢えず、フラクトライトの記憶容量が無くなるのを待とうか。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦84年1月4日

 

 ここから暫く暇になるので、まずはソードスキルを鍛えてみようと思う。

 

 実は、インスペクト・エンタイア・コマンドリストみたく、ソードスキルも発動方法やら何やらが書かれた、インスペクト・エンタイア・スキルリストが存在する。

 

 主に使う武器種は、片手剣と細剣とカタナ。

 

 原作のアドミンが使ったのは、クルーシフィクションやら絶空やら……まあ他にも技を覚えてみたいけども。

 

 体が引っ張られるというか、体が勝手に動く感覚というのが慣れないもので、盛大にぶっ転んだ所をクリスチャンに見られた。

 

 そしたら、その瞬間……俺の体が別の何かに乗っ取られて、何を思ったかカセドラルのガラスを突き破り、そのまま転落していた。

 

 しかし、落ちたと同時に、俺の片手をクリスチャンが掴んでおり、その時にやっと体が制御できるようになった。

 

 非常に突然の事だったが、その現象が何なのかを俺は瞬時に把握した。

 

 潜在意識にあるカーディナル・システムのサブプロセスが、俺が精神的に動揺があった時に、体の支配権を一時的に奪った結果、あの自殺未遂が起きた訳だ。

 

 これからは、死なないように気を付けなければ……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦87年10月31日

 

 マジで死ぬかと思った。

 

 色々な自殺未遂をやらされたが、神聖術の全力行使で、天命が一桁代にまで減少して、あと数秒でゼロになるところだった。

 

 カーディナルさんマジ怖ぇって……

 

 クリスチャンも気を張り詰めていて、カーディナルに乗っ取られないか、ずっと俺に随伴している。

 

 そんな状況なので、明日からとある実験を始めようと思う。

 

 それは俺が、恐らくアドミニストレータになる為に最も危惧している問題。

 

 ……非道な人体実験の始まりだ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 違反指数、という隠されたパラメータがアンダーワールド人にはある。

 

 簡単に言えば、法やルールなどに背けば背くほど高くなる数値だ。

 これを利用することで、禁忌目録に背いた人間を見つけ出し、捕まえて凍結処分にするのだ。

 

 既に、ベルクーリやファナティオは確保済みであるが、今回はその他の咎人で実験を行う。

 

 フラクトライトの直接操作……下手をすれば、人格さえも壊してしまう禁断の実験であり、ラースの研究者さえも躊躇したそれを、俺がやろうと言うのである。

 

 カセドラルの地下……凍結処分された人々を格納する倉庫から、とある男を一人引っ張り出す。

 

 記憶では、彼の禁忌は殺人だ。何かの事故だったと聞いているが、権限レベルも上昇してしまい、こうして凍結処分の運びとなった……

 

「システム・コール、リファー・フラクトライト、ID、ENC4-1366」

 

 窓が出現すると、現れたのは、もやもやと揺らめく雲が集まって出来ている球体だ。

 

 これが、彼の持つフラクトライトか。

 

 しかし、ディープフリーズによって、完全に活動が止まってしまっている。

 

 その場で鋼鉄の鎖を生成して、柱に磔にすると、術式を唱えてディープフリーズを解いた。

 

「……あれ、ここは……って、鎖?」

 

 窓を見ると、フラクトライトが活発に収縮を繰り返している。

 

 その窓……フラクトライトの活動の画像外にある欄には、大きく『Edit』と書かれているので、多分これを使うのだろう。

 

「……く、クィネラ様……」

「目覚めたようね。貴方はこれから、ちょっとした実験に付き合ってもらうわ」

「実験、ですか……それが、私への処罰ということですね」

「まあ、そんな所よ」

 

 『Edit』のボタンを押すと、タブレットのお絵描きツールでも使っているのかと言いたくなるカーソルが出現し、『erase』やら『add』やらが書いてある。

 

 試しに、『erase』でフラクトライトの隅を削除してみようとすると、次に文字の羅列が表示された。

 

『The lightcube is being protected』

 

 ……なるほど。このプロテクトの排除が、シンセサイズに必要な工程の第一段階なのか。

 

「システム・コール、エンタイア・コマンド・リスト」

 

 サッと目的の項目に目を通し、その通りに術式を唱えた。

 

「システム・コール、リムーブ・コア・プロテクション、ID、ENC4-1366」

「うがっ!?」

 

 そうすると、ライトキューブへのエディットが実現する……

 

「すまない、ミレナ、君に何か償えたのなら────ッ!!?」

 

 3Dの立体画像の、フラクトライトの丁度中央の部分を削除した。

 

 その瞬間、男は声にならない叫びと、激しい痙攣と共に、がくりと頭が項垂れ、手足から力が抜けて、目覚める気配が無くなった。

 

 その男に近づいて、反応を検証する。

 

 目に光はなく、腕に少し切り傷を付けても特に目立った反応はない。

 

 口に食べ物を突っ込んでも、反応はなかった。

 

 再度フラクトライトの画像を見てみると、先程まであった雲のような球体のもやは完全に消え去り、そこには虚無のみ。

 消した直後までは存在していた筈だが、どういう事なのか。

 

 ……分かったのは、フラクトライトの中央部には、人間としての最も重要な何かがあり、これを破壊すると周りの性格や記憶といったあらゆる情報も纏めて消え去る、と。

 

「……もうコレは使い物にならないわね」

 

 鎖を消し去り、ディープフリーズで再凍結して、別の場所で横たわらせておく。

 

 

 …………。

 

 

「あははっ……初めて、認識内での人という存在を殺しちゃったのね……私」

 

 ……そう考えれば考えるだけ、持ち上げた左手は、なぜだか震えてしまっていて。

 

 頬から顎の輪郭を伝って、しとっと、落ちるものもある。

 

「…………外道になろうってのに、なんて体たらく。冷酷で利己的、手段を選ばない狡猾さと無慈悲さのある最高司祭には、ほど遠い……」

 

 思わず、そう皮肉った笑みを浮かべながら、そこにある、先程まで生きていた彼の姿へ視線を向けていた。

 

 ラスティ……それが、彼の名前だ。

 さっき、記憶の内容を参照した。

 

 崖の端に膝を突いて、呆然とする彼を立たせて、ディープフリーズを施した。

 

 その時の絶望に歪んだ表情に、ひどく心が痛んだ。

 

 だがそれでも、そうする他になかった。俺がクィネラとして……アドミニストレータとしてあり続けるには、そうするしか……

 

「……クィネラ様。お気を確かに」

 

 その言葉が聞こえて、ハッと正面を向くと、彼は少し腰をかがめ、顔を覗き込むように見てくる。

 

「……私はいつだって正気よ?」

「貴方様はお優しい……その様な非道を続ければ、やがては自らの心を壊されます」

「──控えなさい、クリスチャン!」

 

 そうやって声を荒らげても、彼は微動だにせず、立ちはだかっている。

 

 一呼吸して、心を落ち着かせてから、睨みつけ払い除けるように歩いていく。

 

「……これは私が私である為にやっていること、所詮従者ごときに、どうこう口出しされる筋合いは──」

「クィネラ様」

 

 ……そう呼び掛けられれば、ふわりと、優しげな匂いが体を包み込んだ。

 

 俺……というより、アドミニストレータからすれば、このクリスチャンの身体は、執事服を着こなすような細身なのにしっかりとしていて、つい寄り掛かりたくなってしまうような心地がしてしまっていあ。

 

 しかし、そんな彼とは言え、本当にたかが一従者だ。この人界を統べる最高司祭が抱え込まれているというこの状況……正しく事案なのに、微動だにしていない。

 

 彼は静かに耳元で口を開いた。

 

「無礼を承知で聞いて下さい……貴方様が、宿願故に仁に背く道を貫き徹すことを、私は否定できません。全ては、我が主の御心のままにあります」

 

 しかし、と続けて、力強い言葉で続ける。

 

「同時に貴方様が傷つくことを、私は容認しかねます。全てを超越した最高司祭様と言えど、一人の女性です。もっと、私を頼って下さい……それとも、そんなに私が不甲斐ないでしょうか……?」

「……クリス……チャン……」

 

 そんなことは無い。いつだって、俺の隣で色々な事を助けてもらった。クリスチャンがいなければ、俺は今も、深い孤独を味わいながら、最高司祭という役職に忙殺されていただろう。

 違反指数の高い民を捕えようとして、一人に気を取られている隙に、もう一人いた仲間の凶刃を弾き飛ばしてくれたこともある。

 

 不甲斐ないんじゃない。お前は何も悪くない。

 

 逆なんだ……俺が弱いからなんだよ。

 忠誠を誓ってくれるお前の前でも、強く在ろうと、最高司祭として振舞ってやりたいんだ。

 

 俺じゃ、アドミニストレータにはなれないと分かっているのに。

 

「……私みたいのが最高司祭で、幻滅しちゃうわよね。こんな、罪人だってまともに殺められない私が、この人界の頂点に君臨してるって、おかしいわよね」

 

 だめだ……悔しくて、悲しくて……お前の温もりで泣いてしまう様な、単なる弱虫だ……

 

 涙を散らし、震えている俺の頬と目頭を拭ってから、彼は首を横に振る。

 

「……おかしくなど、無いです。クィネラ様が過去六十年渡り、民の為に身も心も削って尽力していることのどこに、幻滅しろと仰るのですか。クィネラ様は、クィネラ様自身が思っているよりも、遥かに毅然たる御心をお持ちです」

 

 宥めるような口調のクリスチャンに、俺は顔を赤くした。

 

 ……それは、激しい怒りだった。恥ずかしさだった。

 

 勝手なことを宣う、目の前の従者にも……他ならぬ、自分にも。

 

 優しく包み込む彼の腕を跳ね除けて、

 

「そんな訳が無い! 現にこうやって泣いているのは、迷いがある証に他ならない! 毅然なんて、この()に最も相応しくない言葉だ!」

「では貴方様は、目的の為と、人を殺める事に何の思いも抱かない者を毅然だと仰ると!?」

 

 ビクッと、体が跳ねた。

 強い怒気を孕んだ声音に……初めてのクリスチャンの怒りを前にして、思わず固まってしまった。

 

 俺はクィネラとして生を受けてから、褒めそやされ称えられ、信奉される事はあれど、一度も、誰からも叱って貰ったことが無い。両親にも、よく出来た子だと愛された。だと言うのに、こいつはそれどころか、俺が怒った事に逆ギレされた。

 人界の頂点の人物にそんな愚行をする者はまず有り得なかったというのに……

 

 およそ、70年。誰からの叱責も無く生きてきた俺には、その怒りが堪えた。

 

「……人の情の無き者。殺める行為に慣れ、死にゆく者をどうとも思わぬ者。それらは決して、心が毅いとは言いません。真に毅きは、哀しみや怒りを裡に受け入れる事のできる者。仁の道を逸れようと人を思い、信念を徹さんとする者が毅然たる者なのです」

 

 それがクィネラ様であり、御身の強さなのだと。

 

 信じられなかった。腑に落ちないし、俺はそんな殊勝な人間じゃない。

 

 でも、目の前の彼は認めてくれていた。敬神(パイエティ)モジュールを埋め込んですらないのに、醜態痴態を曝け出してしまったというのに。

 

 なあ……こんな、泣き虫で、弱虫な最高司祭で、いいのか……?

 

「それは、優しさに満ちているからです。だから、泣きたい時は泣いて下さい……私を頼って下さい。いつでも、貴方様のお傍におります」

 

 ……お前の前だと、もう敬愛する最高司祭で居られなくなるよ?

 

 もう、今だって嗚咽でまともに喋れず、涙がざめざめと流れて威厳もへったくれも無いというのに……俺の前に来ては跪いて、だらりとぶら下がる右手をそっと掬い上げると、忠誠の誓いの口付けを甲にした。

 

「何を仰いますか。クィネラ様はクィネラ様です。気さくな姿で話されるのは、畏れ多くも、喜悦の限りでしょう」

「クィネラ様じゃ、ないって……アドミニ、ストレータッ……だってのぉ……!」

 

 いつまで経っても直してくれない呼び方に、ムキになって怒れば、「おっと、これはすみませんでした、アドミニストレータ様」と、わざとらしく戯けて言ってのけた。

 

 いけ好かないイケメンだ。いつかその自信たっぷりの笑顔を歪ませてやりたい。

 

「……ありがとう、クリスチャン。俺みたいな頼りない最高司祭を、説得してくれて」

 

 そんな内心とは裏腹に、口から飛び出たのは感謝だった。

 どうしても、伝えたかったからかもしれない。

 

 しかし、クリスチャンは意外な切り返しをしてきた。

 

「……個人的に、素の状態で『俺』という口調になる理由が気になります」

「え、そこ?」

「正直、そのお姿で男口調というのが……その……私の中のクィネラ様像が音を立てて崩れていくような気がして」

「……やばい。それはかなり堪える……」

 

 せっかく収まりかけてた涙が、なんか溢れ出てきそう……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦87年11月2日

 

 泣きわめいたら、クリスチャンと仲良くなった。

 

 一人の時でさえ出さなかった素を初めて出して、二人の時は喋るようになり、孤独感が、更に薄れた。もうボッチなんかじゃない!

 

 セントリアを作り上げる時の苦労や、もっと色々遊んでみたいことがあったとか、この世界に神なんて存在しないとか。でも別の世界がこちらを監視していて、俺達はとある実験の為に作られた存在だとか。その実験は、向こう、ダークテリトリーの軍勢が襲撃してくるというものだと。

 

 色々まとめて聞かせたので、面をくらって暫く飲み込むのに時間が掛かっていたが、一度理解すると、「どうされるので?」と聞いてきた。

 

 なので、こう答えてやった。「正面きって、バリバリ正攻法で立ち向かう」と。

 

 でも先ずは、自分のフラクトライトの情動回路を消し去らねばならない。

 

 ……そういえば、かなり今日は精神的に揺さぶられたのに、カーディナルが表に出なかった。

 

 不思議なこともあるもんだなと思いつつ、明日は実験をやると決めた。

 

 

 現在のカセドラルの階数──73

 

 一言コメ:(73)と言えば海だが、この世界には淡水魚しかいない。寿司食いてぇ……!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦88年4月29日

 

 ダークテリトリーを久し振りに訪れた。

 

 20年以上経っているのに、みんな俺を覚えているみたいだった。

 

 あんな小さかった村も、今では白き学校を中心に街々が出来上がっていて、そこには確かな賑わいと活気があって、色々な形で俺をもてなしてくれた。

 

 教育も行き届いているようで、学校では、子供達が熱心に勉強する姿が見られる。

 

 しかし、小学校しかないのが困ったな……

 

 なので、人界の先生を拉致って中学校の講師とさせることにした。俺がいない時の仕事は頼んだ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦89年8月20日

 

 今日は実験をしていたのだが、イレギュラーな事態が起きた。

 

 カンセルという男だった。記憶を覗かせてもらったところ彼は、禁忌目録に逆らってものを盗む盗賊に奥さんを殺されて、激情に駆られ盗賊を殺して罪人となった男だった。

 

 彼は俺に対して、禁忌目録の理不尽さを説いた。「何故仇を討つことが罪なのですか」と。

 

 即答出来なかった。中世っぽく、魔法的なものがあるこのアンダーワールドでは、罪らしい罪ではないように思える。日本ではそれでも殺人罪として取り扱われるだろうが、この世界ではそういう認識にならないだろう。

 

 「……じゃあ、あなたは仮に無罪になったとして、どうするのかしら。子供がいた記録は無いのだけれど」と質問したら、彼は、「故郷に帰りたい」と一言。

 

 幸いにして、彼が捕まったのは数年前だった。

 

 なので、釈放した。騎士を同伴させて故郷に送り、最高司祭によるサイン付きの証書でも渡せば、故郷とやらの住人は納得するだろう。

 

 カンセルは、酷く感謝していた。まさか帰れるとは思ってなかったのだろう。

 だが、人を殺してはならないと強く厳命した。アンダーワールド人の性質上、これで大丈夫のはず。

 

 クリスチャンも、そういう理不尽な罪人は本人に釈放の意志を聞くのが一番だと言っていたので、記憶閲覧術で事前に記憶を観てから被験者にするか判断しようと思う。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦90年10月27日

 

 ソードスキルの動きに合うように体を動かすと、速度が早くなるというキリト流のシステム外スキルを、大体の技で使えるようになった気がする。

 

 付き合ってくれたクリスチャンにも感謝だ。

 

 二刀流の技が使いたかったが、この世界にはエクストラスキルは存在していなかったので敢え無く断念している。

 原作でキリトがスターバースト・ストリームを使えたのは心意の為せる技なので、俺には到底無理だろう。

 

 とか書いてて思ったんだが。

 俺、心意全く使えないや。

 

 これからは、実験の合間に心意を鍛えよう。そうしよう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦91年11月3日

 

 エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶といった、記憶の種類の特定化が完了。

 

 感情の解析にはまだ時間が掛かりそうだ。

 何せ、弄る度に情動回路を強制的に活性化させなくてはないし、そういう微調整を繰り返さなくては、フラクトライトの操作など出来ない。

 

 それより、クリスチャンとまったり何もしないのが唯一の心の安寧になっている。

 

 罪人とは言え、魂を弄る時に出るらしい恐怖による悲鳴、慟哭、命乞いetc……を毎日のように聞いている。

 

 クリスチャンに頭を撫でてもらうと、ちょっと魂に手を加えるだけでSAN値チェックが入って、常に目が100でゴリゴリ減っていくSAN値が一気に回復する。

 なにこれ、俺メス堕ちしたん? と正気に戻って考えみたのだが、二人きりの時は素に戻って対等な関係になるので、多分友情とか親愛とかそういう類いのが絡んでいるんじゃないのだろうか。

 メス堕ちしてたら嫌だし、『おれはしょうきにもどった』作戦でいこう。気付かないふり大事。

 正気じゃない方が人生やってけるのだ。SAN値直葬しかねないし。

 

 

 現在のカセドラルの階数──78

 

 一言コメ:この階層に、照明も何もない暗室を作った。そして暗室といえば現像だ。めっちゃ写真撮りてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦94年5月9日

 

 マズい。先にフラクトライトの解析が終わってしまった。

 

 勢いでクリスチャンとハイタッチした。アドミンが「へーい!」ってハイタッチする構図とか、笑わない自信がない。俺のアドミン像がぶっ壊れてしまう。クリスチャンは既にぶっ壊れてしまったらしいが。

 

 先ず、俺のフラクトライトをコピーし、それを物質化。

 用心バックアップ。これ大事。

 

 それから、情動回路を司るフラクトライトの粒子を破壊。それと同時に、自分の魂を弄っていて恐怖していたはずの感情が消え去った。

 

 次、怒り。俺はあんまり怒んないので、まあ実感は無かった。

 

 次、驚き。本当に感情が消え去ってるなぁという事実に対しての驚きを感じなくなった。まだ、感心している気持ちがあるが、驚きがなくなるとここまで淡白になるのかと思ったものだ。

 

 最後、悲しみ。これを消した瞬間、俺の世界の何かが変わった。

 俺を構成している要素の大半が悲しみから来ているのか何なのか。喜びの気持ちさえ薄れていっていくような気がしてならなかった。

 世界が色を失うというものが、今なら理解できる。悲しみが無ければ、俺は俺でないし、何かをしようという興味が湧かないという状態。

 

 このままクリスチャンに会うのは避けた方が良いのは明白だった。

 彼は俺の感情を肯定する人間。感情を捨て去ることをどう思うのかは分かりやすい。

 その為に、あのバックアップが作られた。

 

 なので、消し去った部分を、バックアップからコピペする。

 

 その瞬間、また世界が変わった。輝いて見える訳では無いが、生き生きしているようだった。

 俺、色の消えた世界というのを知ってしまう。SAN値チェック、失敗。10減りました。

 

 多分、そんな感じの出来事。名状しがたいとは正にこの体験のことを言う。

 

 そんな訳で、感情を消した事については色々あるが今日はここまで。

 寝よう。そしてクリスチャンに撫でてもらおう。心がわりとしんどいんだよな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦100年10月28日

 

 かれこれ10年、心意の練習をしているが、ちょっと何か動くかな? 程度のお粗末なものだった。

 

 えっ、嘘でしょ? 心意バカ難しくないですか?

 

 もうすぐ2世紀になっちゃいますけど?

 

 

 現在のカセドラルの階数──87

 

 一言コメ:花と言えば、俺は沈丁花という花が好きだ。非常に香り高く、遠くからでもそこそこ匂う。香水作りてぇ……

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦107年10月28日

 

 17年目突入しても、心意は不完全だ。

 

 それよりも、不可解な事がある。

 

 二年ほど前から俺の前世の記憶はどこに格納されているのかと、記憶を参照する実験をやっていても、俺のフラクトライト内のどこにも前世の記憶にまつわる記憶が発見出来なかった。

 

 では、どこにあるのだろうか。謎だが、解明出来ないものは仕方ない。前世の記憶が相手に渡らない事を前提に考えなくては話が進まない。

 

 考えているとややこしくなった。もう寝る。おやすみ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦118年2月14日

 

 心意の太刀が放てるようになった。

 

 心意の腕を修得してからはコツを掴んで、かれこれ数ヶ月で使えるようになって内心驚きがある。

 

 次は、ゲームのリコリスで使われた心意の盾とやらを修得しようと思う。

 

 だが、なんとクリスチャンの方も心意の腕使えるようになったらしい。俺が二十八年くらい鍛錬してようやく使えるようになったのに、あいつは十年と掛からなかったという……

 

 俺、才能無さすぎ……?

 

 

 現在のカセドラルの階数──96

 

 一言コメ:95階は望楼となるので、吹き抜けにすべく最上階の寝室を96階に追いやり、とりあえず原型だけ作り上げた。もう、とっとと完成させてぇ。

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦118年3月31日

 

 心意の腕を極めてたら、ジェンガもどきが出来るようになった。

 

 これまで沢山崩しまくったり破壊したり勢いあまって吹き飛ばしたりして、天命がゴリゴリ削れて何回も作り直したジェンガよ……ありがとう。

 

 そうだ。今度はプリンを崩さずに皿に盛る練習をしよう。そうと決まれば、明日からやるしかない。

 

 それと、百歳になりました。クリスチャンやカセドラルのみんなが祝ってくれた。

 

 ……いや、最高司祭の誕生日祝うって、今思っても奇妙だな。嬉しかったけど。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦124年6月22日

 

 今日、やっとのことで指を鉄砲に見立てて放つ心意の弾丸の完成系に到達。

 心意の◯◯シリーズ第10弾。これがなぁ、飛距離がとんでもなくて、カセドラルから放ったら、果ての山脈をぶち抜いていたらしく報告が来ていた。ビックリだよ。

 

 そしたら、なんかよく分からないが、魂が奥深くに接続したような感覚に陥って、心意なのにそんなに意識せずとも使えるようになってしまった。マジで心意ってなんだ。

 神聖術も、もう殆ど詠唱要らずでノータイムの発動が可能だ。

 

 キリトみたく、メイン・ビジュアライザーに強く繋がりができたのかもしれない。

 

 そこら辺を解明しようかと思ったが、深く考えるのもめんどくさいので、大人しく、永遠に燃え続けるという炎を入れた永炎の窯で料理でも作ろうと思います。

 

 ……コックさん、雇おうかな。食文化大事。

 

 

 現在のカセドラルの階数──99

 

 一言コメ:え? もう四年前からずっと99のままだって? んな事は知ってるよ。でも元老の爺ちゃん共がうるさいんだよ、「六年後の百周年記念式典まで待ってくれ」って。

 あーもー、ムカつく。自動化元老にしてやりてぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦130年6月25日

 

 

 現在のカセドラル──100

 

 

 公理教会発足より、百年という歳月がたった今日この日。俺は99階で留めていた階数を一つ上げた。

 

 央都では大々的に祭りが催され、俺や四皇帝出席の式典が執り行われた。

 俺が会場に来るだけで市民が大興奮になるから、かなり気恥ずかしくもあった。まるで人気セレブの気分である。

 

 禁忌目録に続き、目標の一つをようやく達成である。NKT(長く苦しい戦いだった)……

 

 残る目標は、自動元老院とか大図書室、整合騎士、カーディナルの準備、剣機兵とか、なんか、色々。

 

 色々あり過ぎて、萎える。この仕事はいつ終わるのか……

 

 

 

 

 

 

 

 一言コメ:誰か解放してくれぇっ!!!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦136年7月7日

 

 クリスチャンの天命が、もうそろそろ尽きようとしていた。

 

 俺の側にずっと居てくれた、頼れる執事で、相棒。

 

 それを失うのはとても辛かった。

 

 誰かを失う悲しみは、百年以上生きてきて、何回も味わった。

 

 ……これくらいの我儘くらい、許してくれてもいいだろうと、勝手に思ってしまった。

 

 「この命果てるまで、クィネラ様に仕える事が本望です」と言ったから、遠慮する必要は無かった。念の為、「俺はアドミニストレータだって言ってるだろ……」と訂正させてから、神聖術を使って、天命の上限値を固定し、年齢を若くした。

 

 長いことこき使わせて申し訳ないけど、まだまだお前には働いて貰いたい。

 

 そうだ。チュデルキンを元老長にするのは激しく拒否反応を起こすので、クリスチャンを元老長にするんだった。日記書いてて良かったよ。元老院完成するまで伝え忘れるところだった。危ない危ない。

 

 まだ元老院は作りかけなので、ディープフリーズして確保した元老の人数も全然いないけど、明日にでも伝えておくか。

 

 ……でも、つまりクリスチャンもフラクトライトの容量が無くなってきているということだ。

 

 彼の後継を、チュデルキン以外で誰か欲しいな……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦180年6月28日

 

 三十年前から作っていた大図書室が完成した。

 

 アンダーワールドとは別の世界と言っていいほどかけ離れた座標をランダム移動するこの図書館は、カーディナルに使ってもらう為だけに用意したものだ。

 

 表向きは、完全に記録の貯蔵用で、俺が用意した扉を神聖術でこじ開けなければ入れない仕掛けだ。しかも、その扉が壊されれば、座標がランダム移動するので二度と入ることは出来ない。

 今は神聖術を使えば、大図書室に置かれた扉に直結するので、どこからでも大図書室に入れるが。

 

 アドミンも、よくこんな面倒な施設を作ったと思う。

 労力に見合う価値あるのか、これ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦193年9月13日

 

 多分もう、アドミニストレータになって160年間くらい人界を管理し続けているのだが、この身体にもガタが来てしまった。

 

 やる事の無い停滞(ステイシス)の時代。俺は久々に日記を書いた。フラクトライトの消耗を抑える為に休む時間が増えてきて、半日以上眠り続ける生活を送っていたから、日記を書こうと思える内容は、前ページの大図書室と、その前のクリスチャンとの模擬戦くらいだった。これはマジだ。

 

 さて、今日わざわざ書いたのは他でもない。俺のフラクトライトの容量不足に陥ってしまった為だ。

 

 頭に突然靄がかかったような奇妙な感覚に、まさかと思ってステイシアの窓を出すと、やはり警告が出ていて、俺の記憶容量はあと数パーセントしか残っていないとあった。

 

 ……遂に、実行に移す時が来たらしい。

 

 既に、ここ数年でリセリスという名前の少女がカセドラルに居ることが判明している。

 

 彼女を呼び、シンセサイズの秘儀を行う。そして権限レベルが同等になって、サブプロセスがインストールされたら戦い、大図書室に引き篭ってもらう。

 

「私の計画に抜かりはないわね。くふふ、あっははははっ!!」

 

 と高笑いしてたら、「気でも違いましたか?」とクリスチャンに言われた。

 

 アドミンは高笑いしてナンボやろ!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 俺が最初に始めたのは、自分の記憶の消去だ。

 

 カーディナルシステムは、俺の過去を全て知っている。当然、弱虫最高司祭ちゃんの俺の弱点はかなり多い。

 

 だから、その記憶ごと全て消し去るのだ。

 

 先ずは、情動回路の封鎖……恐怖、驚愕、憤怒、悲哀の消去に成功。

 

 次に、記憶の操作。俺の前世の記憶に関しては、フラクトライトの記憶領域に存在しない事がかつての実験で証明されているので、この場合消せばいいのは、己が犯した失態の数々のみ。

 

 動物を殺して吐いたこと。両親との楽しかった思い出。女の子の日はクソ痛かったこと。ダークテリトリーを戯れに強化してしまうというやらかし。お菓子開発の記憶。性欲の発散。クリスチャンとの出会い。両親の死と、クリスチャンとの交友の変化。フラクトライト操作実験で分かった、俺の最大の弱点と利点。クリスチャンとの大切な思い出。日記を書き記したということ。

 その他、不利になりそうな記憶は全て消す。

 

 ボロボロと、土台を壊すように崩れ落ちていく記憶達。さっきまで思い出せたはずなのに……もう、何も思い出せなくなった。

 

 クリスチャン……そんなに親しい覚えは無いのに、無性に会いたくなってきた。

 記憶が無い。記憶がない。思い出も全部ない。何でだ、あいつは、あいつは……

 

 あれ、両親の名前も思い出せない……このペンダントは何だっけ?

どうしてクリスチャンと仲が良いんだ? なんで、なんで。

 楽しい思い出なんて、一つも無い。ただ、働いていただけだ。

 

 ……いや、違うだろう。

 

 俺の記憶は、ある。まだ消え去った訳じゃない。

 

 ……準備はオーケー。やるか。

 

「……よく来ましたね。さぁ、こちらへ。」

「……はい」

 

 本物のリセリスちゃんは、俺の目の前にいた。

 

 今から、この子のフラクトライトを完全に掌握するのだと思うと、正直、自分に対して吐き気がする……とでも思うのだろうか。

 

 止むを得ない事である以上、躊躇する意味は無い。

 

「目を閉じなさい……システム・コール」

 

 相手のフラクトライトの領域に入り込んだ。

 

 フラクトライトのオーバーライトはとても簡単だ。単純に、自分の記憶を上書きすれば良いだけなのだから。

 

 右目に、カーディナル・システムがインストールされる時の表示が浮かぶと、だらりと頭が俯けになる。

 

 ……今、この目の前にいる人物は、アドミニストレータそのものだ。

 

 原作で比嘉さんがやっていた実験に、自分のフラクトライトをコピーしたものとコピーの原型たる自分自身が話すと、自分がもう一人いることを認められなくなった脆いコピーされた方のフラクトライトが崩壊してしまうというものがある。

 

 しかし、目の前の人物を見ても、俺にはアドミニストレータのフラクトライトがコピーされた見習い修道士のリセリスとしか認知していない。

 

 ……原作通り、自分がもう一人いるという根源的な恐怖を喰らうと予想していたが、どうやら転生で自我が変わっているからか、自己とは認識していないようだ。

 

「これで、この子のフラクトライトは私の物──」

 

 そうにっこりと笑みを浮かべると、目の前の彼女の口から、静かに、小さく、その言葉が紡がれた。

 

「システム・コール。ジェネレート・ルミナス・エレメント、ライトニング・シェイプ、ディスチャージ!」

「なっ────」

 

 雰囲気が様変わりし、雷撃が俺の体に殺到する。

 

 どうやら、上書きした俺……アドミニストレータのフラクトライトが崩壊して、宿っていたカーディナル・システムのサブプロセスが肉体を支配したらしい。先制攻撃を受けてしまった。

 

 だが、俺はアドミニストレータだ。しかも、原作よりも遥かに面倒だろう。

 こんなもの、一つ受けた程度でどうということはない!

 

「システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント!」

「システム・コール、ジェネレート・アンブラ・エレメント、ボール・シェイプ」

「「ディスチャージ!!」」

 

 中央で互いの神聖術が当たり、爆発を起こすと、記憶にある流れの通り、俺は近くにあった燭台を手に持って、

 

「システム・コール、リディフィニション・オブジェクト、ソード・クラス!」

「システム・コール、リディフィニション・オブジェクト、ロッド・クラス!」

 

 おっと、やっぱり杖を選んだか……だが、それは不利になるぞ。

 

「システム・コール、チェンジ・フィールド・アトリビューション!」

 

 神聖術使用不可の領域を作り出すと、リセリスは分かりやすく驚いた。

 

 さて……ただ叩き合いをするのもあんまり面白くないしな。

 ちょっと、本気を出そう。

 

 剣を背中の方まで後ろに下げて、剣を仕舞うかのようなポーズを取ると、途端に剣が淡い光を放った。

 

「っ! まさかっ」

「せあぁぁぁ!!」

 

 突進系のソードスキル、ソニックリープ。

 躱されたが、それで一気に距離を詰めると、更に次を畳み掛ける。

 

 挟み込むような剣の二連撃……スネークバイト。

 これも、杖で防御されてしまう。

 

 からの、バーチカル・アークによる振り下げと振り上げで追撃する。

 だが、やはり全て見切ったかの如き杖捌きで攻撃を逸らした。

 

「お主……そんなものまで」

「あら、気に食わなかったかしら」

 

 そりゃあそうだ。茅場さんが遺したザ・シードのカーディナル・システムに付随するソードスキルだ。

 ある意味兄弟のようなそれを、勝手に使われているのだから。

 

 俺が微笑みながらにじり寄っていくと、リセリスはドアの方へ脱兎のごとく逃げ出した。

 

 という訳で、逃がすためにギリギリ当てないよう、跳躍から大きく振りかぶって攻撃する。

 

 ……なので勿論、そこには誰もいなかった。

 

「ふぅ……エアリアル・エレメント」

 

 リセリスもいないし、口で言うのも手間なので心意でシステムを操作すると、体に風を纏って加速する。

 

 ドアを抜けた先に、神聖術で逃げようとするリセリスが。

 

 ……まあ、わざわざ俺が何かをするまでないか。

 

「システム・コール、ジェネレート・プリザーブド・ゲート──ゼロワン!」

 

 突如出現した光のゲートに入って、ゲートは直ぐに消えた。

 

 それを見届けると、神聖術を切り、その場に立ち尽くす。

 

 ……はぁ。これで、ようやく全てが始まる。

 

 そう思うと、俺は嬉しさと同時に、えも言われぬ寂しさが胸を埋め尽くすのだった。

 

 ……おっと。記憶を取り戻した俺宛に手紙を書くのを忘れないようにしないとな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦193年9月13日。

 

 カーディナルを大図書室に封じ込めたらしい。

 

 それと同時に、記憶と感情の復旧を始めた俺は、バックアップされた俺のフラクトライトが入っていると思われる結晶からデータをインストールしたようだ。

 

 伝聞の形になっているのは、その記憶が上書きされて、リセリスからカーディナルを作る前にバックアップした記憶に戻っているからだ。それが本当かは、俺しか弄れない最下層の大図書へ続くはずの扉が無くなっていたので確認し終えている。

 

 何はともあれ、カーディナルが誕生した事を祝おう。

 

 ロリババア万歳!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦198年7月1日

 

 丁度いい頃合かなぁと思って、セントラルカセドラルの水晶板……もといシステムコンソールを呼び出して、出てきたGUIからエクスターナル・オブザーバー・コールをタップしたら、外の世界にいる研究者を名乗る男が応答してくれた。

 

 その名前を、柳井という。……ククク、計画通り。

 

 ……なので、ちゃちゃっと通信して、STLからダイブしてきたら、物の見事にアドミンの美貌にやられて陥落。下僕第一号にするとか言ったら咽び泣いて喜んでた。

 端的に言ってキモいっす。

 

 こんなのは原作再現の駒だ。クズの極みの柳井さんは、ハッキリ言って作中でもすごーさん並に悪印象しかないので、こいつからは色んな情報を吐かせるだけ吐かせて、今日のところはご退場願った。

 

 「また会いに来るねアドミーちゃん!」とか言ってきたのが凄い腹立つ。

 お前もう来ないでくれ。

 

 ……このまま書いてたら、ただの悪口で埋め尽くされそうだ。

 もう寝るか。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦200年12月8日

 

 元老院が完成した。

 

 あまりに非人道的な行為だとは分かっているが……これも随分前から覚悟してきたつもりだ。

 でも、社会人だった立場から言わせると、永遠の社畜にしてスマンと言いたい……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦204年4月25日

 

 ウェスダラス西帝国に行って、数体、飛竜を捕まえてきた。

 

 妙に俺に懐いた白銀の竜を雪織、もう一体、良さげな蒼い竜を星咬と名付けた。

 

 俺専用機の雪織くんだけど、多分使われる事はほとんど無いだろう。

 人界一周の旅をしてから、雪織にディープフリーズを掛けて、また乗る時まで眠らせておくことにした。

 

 残りは繁殖のために、ちゃちゃっと籠絡して捕獲した。

 

 なので、ハイナグという男を雇って厩舎長にし、三十階に作り上げた飛竜用の厩舎で飛竜の世話を任せることにした。

 

 頑張って子供作れよー、お前たち。

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦207年12月17日

 

 北の大地で開拓を進めていた英雄、ベルクーリ・ハーレンツ。彼をディープフリーズから目覚めさせて、フラクトライトをちょちょいと弄らせてもらった。

 

 ハーレンツ家は随分と前に没落したが、ディープフリーズで保管されているおっさんだけは生きている。

 

 初めて行うシンセサイズの秘儀で敬神モジュールを埋め込み、絶対なる忠誠を誓わせた。

 

 諏訪部さんの声は流石の格好良さだ。いつでも聴きたくなる安心と信頼の声だよ。

 なんか赤い服外套着せて夫婦剣持たせたら紅茶淹れたり料理作ってくれそうだ。若返らせてから、時穿剣じゃなくて干将莫耶持たせようかな……

 

 アドミンも中の人坂本さんだから凄い好きだけどね。

 百年くらい前の話だがクリスチャンに耳元に顔を近づけながら、「ネ◯フのワンコくん♪」って言ったら激しく赤面させてしまい、「ドン引きです……」って言ったら絶望した表情を浮かべられたので、中の人ネタは現在封印中。みんなキャラ濃いし破壊力が強くてな……

 

 それと、「あなたは天界から来た整合騎士、ベルクーリ・シンセシス・ワンである」と、洗脳も始めました。

 やっぱりこの設定も大事だ。エルドリエとデュソルバートのイベント作りに必要不可欠。

 

 そしてベルクーリと言えばの、カセドラル内に持ち込まれた古時計──システム・クロックを神器化して、《時穿剣》を作成した。これは後々渡す予定である。

 

 ……大戦で、裏斬使ってベクタ殺すまで働いてくれよ。

 

 そう思いながらベルクーリの頭をポンポンと撫でてやってから、彼を任務に向かわせた。

 

 

 

 でも、やっぱ死なせたくはないなぁ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 人界暦230年3月10日

 

 ベルクーリのおっちゃんが、「20年経って騎士が俺一人ってのもおかしいんじゃねえか? それと、任務は一人じゃキツい」という話を聞いたので、これはもうファナティオさんをシンセサイズするしかないと思って早速シンセサイズ。

 無事、シンセシス・ツーと相成った。

 

 それと、ファナティオさんには必要だろうと思うので、アルキメデス的な物理兵器を作ろうとして失敗したから再利用したという建前の元、《天穿剣》も作った。

 

 コンプレックスからか常に兜を着けているが、せめて俺の前では外して欲しい。

 

 あと、最近はクリスチャンも記憶容量に限界が来ているので、俺の隣にもう一つ天蓋付きベッドを用意して寝かせるようにした。

 

 ……はぁ、余ってるライトキューブで、容量増やせたらいいのになぁ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦232年4月6日

 

 ファナティオと料理長のハナに、九十四階の厨房にて、永炎の窯に接続されたオーブンでチョコのクッキーを焼いている所を見られてしまった。

 

 俺が声を掛けると、跪いて、ビクビクと謝ってきそうな雰囲気を醸し出していたので、口にクッキーを突っ込んでやって黙らせた。感想をせがむと、咄嗟なのにビックリするレベルの表現力で食レポして、凄い褒め称えてきた。

 

 しかし、ファナティオはどうやら厨房を借りて何かを作る為に来たようだったので、そろそろ退却しようと思ったのだが、まだ大量の生地がこれでもかとボウルに詰まっていたのを途中で思い出した。

 後になって、クッキー換算で百三十六枚だったと分かった時は、苦笑いしてしまったが……

 

 なので急遽ファナティオとハナを動員。全員でクッキーを焼き上げ、二つのクッキーでチョコを挟み、チョコが足りなくなって追加したり……色々大変だったが、計六十八枚のチョコクッキーが完成させた。

 

 それにしても、お菓子好きの人がカセドラルに居てとても良かった。

 

 思えば、ファナティオさんは料理ができるって何かに書いてあった気がする。

 もっと早く誘えばよかったなぁ。

 

 出来上がったクッキーは到底二人で食べ切れる量ではなく、ファナティオの提案でベルクーリにも振舞った。

 それでも余ったので、クリスチャンやら、十階と九十四階のコックさん、修道士にもプレゼント。

 

 全員が絶賛する美味しさだが、チョコ以外の生地部分の味付けを担当したのは主にファナティオやハナで、俺は小麦を練り心意で細かく形を作っただけだ。

 流石は将来のベルクーリのお嫁さんと公理教会が誇る料理人……主婦力はアスナさんレベルでした。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦232年9月7日

 

 なんで原作で居ないんだろうと思ったスリーさんこと、フェノメア・シンセシス・スリーを作り出した。

 

 何でも、ディープフリーズを掛ける前はサザークロイス南帝国で賢者と呼ばれていたらしく、多種多様な神聖術を扱い、俺と神聖術の勝負が出来そうなレベルだ。

 まあ、そのせいで崇める奴らが出てきて、捕まってしまったのだが……

 

 それなら修道士にすべきなのだろうが、シンセサイズを施した後に気付いたので、特例としての整合騎士任命だ。

 

 なので、整合騎士では珍しく剣を使えず、神聖術だけで戦う。

 

 この人、傍から見ればただの美少女だが、性別はキッチリと男。

 いわゆる男の娘って奴だ。こんな掘り出し物が居るとは思わなかったが、非常に優秀な神聖術士であるので、原作のアドミンなら逃す手はないだろう。原作にスリーは居なかった事から、もしかして彼は死んでしまったのかもしれない。

 

 与える神器は、宝晶典。世界で一番最初に記されたという本に、神獣の竜の涙が結晶化したという宝石を使って作り出したものだ。功績を挙げたら渡す予定でいる。

 なんか青空なファンタジーの課金石みたいな名前になっちまったが、軽課金勢だったので仕方ない。

 古戦場から逃げるな!

 

 内包する記憶は、宝石と叡智。強化の形態では、強力な結界を展開するだけの一品……になるのかな? 記憶解放術は本人の心意によってその性質を大きく変えるので、あくまでも想定だ。

 ただまあ、チュデルキンなんて目じゃなくなるのは確かだ。

 

 だけど、確かに序列第三位となるアリスに比べたら、若干見劣りするかな……?

 いや、支援がメインだから仕方ないけど。多分、能力からして死ぬことは無いと思うなぁ。

 

P.S.

 この子に対するクリスチャンの態度が少しおかしい。明らかに気まずそうにしているので、事情を尋ねたがはぐらかされてしまった。気になるし、上司と部下がそれでは問題も出てくる。いつかは改善したい所だ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦244年5月20日

 

 ベルクーリとファナティオが、サザークロイス南帝国の不死鳥を討伐した。

 

 本来なら、あれも人界守護の要となる存在なのだろうが、《熾焰弓》の為にも、そして公理教会の絶対性の確立の為にも、どうしても狩らなくてはならなかった。

 

 まあ何にせよ、何度でも蘇る強敵を相手したということで、ベルクーリに何か褒美を取らせようとしたら、デカい風呂が良いと言われた。

 

 まさか大浴場の起源がベルクーリにあるとは……なんとも彼らしい。

 

 よし。明日にでも作ってやろう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦252年2月14日

 

 デュソルバートさんを捕まえてきてしまった。

 

 シンセサイズする際、奥さんも引っ捕らえる。奥さんはソードゴーレムの為に物質にされて、デュソルバートさんはそれを知らずにシンセサイズされ、セブンとなった。

 

 シンセサイズの秘儀は、気が向くものでは無い。やったらその日は引きこもってこうやって日記を書き留めるぐらいだ。

 まあ、その日記ももう年単位で飛んでしまうが……

 

 

 

 

 はぁ、シンセサイズ……やりたくねぇ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦257年10月18日

 

 ソシャゲオリジナルのキャラ、イーディスちゃんがいつの間にか禁忌目録違反で捕まっていたので、勿論さっさとシンセサイズ。

 ウチのクリスチャンとなんか仲良さそうにしてる。チュデルキンじゃないからかね。

 

 しかし、記憶が無いのに、あんまり困っていそうには見えない。いきなり、天界から招かれた〜的な話をされて、困惑しているだけの模様。

 肝っ玉ってこういう人の事を言うんだろう。なんと頼もしいことか。

 

 ウザったいチュデルキンも居ないし、我らがアドミンの中身もかなり適当な性格した一般市民()なので、ファナティオと喧嘩さえしなければ心地の良い環境になっているだろう。

 

 それとカーディナルさんあなた、せっかくシンセサイズしたイーディスちゃんにちょっかい出さないでくれ。シャーロット使ってうろちょろさせてるの知ってるからね?

 

 と思えば、さっきベルクーリさんが無断入室してきた。要件を聞いたら、イーディスと一緒に風呂入って来たらって何? 何でそれ提案したん?

 つーか、日記書いてる最中なんだから入室を許可してないんだけど。アドミンちゃんぷんぷんに怒ったお!

 

 それにしても、風呂か。

 

 久しぶりに入ろうかな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦261年7月20日

 

 風素の扱いが上手い女の子を連れて来て、その子を昇降係にした。

 

 命令は、新しく作った昇降盤……もといエレベーターの操作。これでキリト達が来てもバッチリ対処してくれる。

 

 この子の夢はちゃんと叶えてやりたいが……はてさて、俺が死ぬまでにどう伝えようかな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦261年12月1日

 

 精神に異常のあると話題のシェータさんが、大会に優勝してカセドラル入りした。

 

 やべぇよ、シェータさんやり過ぎだよ。相手にした出場者が皆殺しってなんだよ。

 仕方なく、シェータの存在を歴史の闇に葬った。アレが残っていたらなんの影響が出るか分からないし。

 

 シンセサイズしたはいいのだが、当の彼女が無表情でジーッと見つめてくるから、さしもの俺も目を逸らさずには居られなかった。なんかあのまま見てたら無性に謝りたくなる。

 意気地無しのアドミンでごめんなさい……

 

 やっぱりサイコパスの気質がおありのようで、それを言った時の驚いた顔を見れて良かった。

 

 斬り続けてたらお婿さんが出来るからね〜! と言ってやったが、顔を傾けてぽかんとされた。悲しいな。

 

 しゃあないので、「ダークテリトリーでそれっぽい花でも見つけてらっしゃい」と言ってやった。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦286年8月31日

 

 ネギオもといネルギウスがやって来たので、シンセサイズ。デキる男なので上位の整合騎士として採用した。やったね!

 

 ……まあ、その代わり人が一人犠牲になってるけど。

 代わりどころか、何もかも奪ってるがな……

 

 今日はキ◯ーピーだかどっかが決めた野菜の日だったので、腹いせにでけぇネギから作った萌嵐槍をプレゼントした。

 

 記憶解放しないと目立った効果はないだろうに、なんかめっちゃ喜んでる。

 野菜好きなのかな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦300年10月20日

 

 なんか、起きなきゃならなそうな日にちになっていたのでちょっと起きた。

 

 現時点で、整合騎士は26番まである。その内、魂の崩壊が止められず凍結処分になったのが、フォー、シックス、エイト、ナインの四人だ。調整に失敗したり、長年生きる事に耐えられない子もいた。

 思い入れのある子はいなかったけど、久々に元老院で顔を見たら、胸の中から込み上げてくるものがあった。多分、日記帳に彼らの番号を凍結した時のことが色々書かれているはずだけど、きっと荒ぶってたり滲んでんでろうなぁ。

 

 そんな訳で、俺はもう寝る。おやすみ

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦330年11月11日

 

 日本のチョコのお菓子の日の今日。ついに、東の大門の天命が減少したのを確認した。

 

 最終負荷実験……これにより、ダークテリトリーから異種族のフラクトライトが侵攻してくる。

 

 天命を直してきたが、気休め程度だ。

 

 アンダーワールド大戦が近いと実感させられて、俺は四帝国の皇帝を呼び出し、兵士を集めて訓練を行うよう命令した。

 

 ……今日も疲れたなぁ。寝よう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦372年7月19日

 

 デュソルバートがアリスを連れてきた。やったぜ。

 

 ということは、遂に原作が始まったのだ……ここまで、ずいぶんと長かったなぁ。

 

 アリスは権限レベルが低いので、神聖術の勉強をさせたり、動物を狩らせる事でレベリングを図ろうと思う。

 

 はぁー、6年後が楽しみだ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦374年3月4日

 

 四帝国統一大会に優勝したというレンリが連れてこられた。

 

 ……いや、うん。シンセサイズした後すぐは、トラウマで雙翼刃が全く使えないし戦えないってのは良く知っている。だって、俺が死んでから活躍するからな、この人。

 

 まあ、ちゃちゃっとシンセサイズして、雙翼刃をプレゼント。

 

「貴方には期待しているわ」的な発言でプレッシャーを与えつつ、今日も寝ることにした。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦375年8月18日

 

 アリスの権限レベルがかなり高くなったので、シンセサイズの秘儀を施す。

 

 レッツ元老院で強制シンセサイズかと思いきや、俺が手ずからシンセサイズしたら、なんか普通に受け入れてくれた。

 マジかよ、苦しませたくはなかったけど、そんなにすんなりいっちゃうの?

 

 とまあ、色々ありながらも、ベルクーリを師匠に、アリスは剣を学び始めた。

 

 その内、金木犀の剣を渡すことになるだろうし、準備だけして、今は実験の方に専念しなくては。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦377年1月24日

 

 《蘇生術》の実験を終えた。

 

 リネルとフィゼルがいるからと始めた実験も、これで終わったのだ。

 

 気が狂いそうだった。子供達が殺し合う様を見て、どれだけ精神をすり減らしたか分からない。

 

 蘇生に失敗し、身体が爆散したもの、異形になったもの、まるで別人になったもの、廃人になったもの、記憶喪失になったもの、全て見てきた。

 

 何回も殺し殺され、その都度俺が蘇生術で0の天命を回復させる地獄。

 

 実験の途中で、ここの所何も食べてない腹の胃酸が、何回も喉元までせりあがってきた。一体俺は何をやっているんだろうと何回も思った。

 

 ようやく最後の二人が残って、それがリネルとフィゼルで、その事に安心してしまった。

 

 こんなクズなのに、クリスチャンは労わってくれたし、慰めてくれた。一人じゃなくて、本当に良かった。

 

 傍にいてくれて、ありがとう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦378年3月19日

 

 この世界に、一つのイレギュラーユニットが発生した。

 

 我らが主人公、キリトだ。

 

 2年後、俺を殺しに来るであろう、勇者。

 

 殺しに来るからには、俺も全力で相手しよう。原作よりもしかしたら強化されてるかもしれないが、そこは勘弁してほしい。

 

 それと、二年間監視するのは時間の無駄だ。どうせ知っている物語であり、何か変化が起きても、アリスの為にここに来る事実はどうやっても変えようが無い。

 

 セントリアに来てからは、偶に様子見ぐらいするが。

 

 ……さて。この何百冊もある日記も、そろそろ終わりだ。

 ここの所百年はずっと寝ている日も多くて途切れ途切れでも、俺が歩んできた大切な軌跡が記されている。

 

 ……最後の準備に取り掛かるとしよう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦380年3月4日

 

 エルドリエが統一大会に優勝したので、シンセサイズした。

 

 実の所、まだエルドリエのお母さんには何もしてない。

 

 最近、シンセサイズをしようとすると体がトラウマか何かで拒絶してしまうのだ。エルドリエのシンセサイズに一苦労なのだから、ユージオの時はかなり面倒なことになりそうだ。

 

 カーディナルが悪魔の儀式と言うように、本来俺みたいな小市民がやっていいものでは無い。

 

 まあ、一人くらい居なくたって問題ないだろうと思って、霜鱗鞭をプレゼント。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦380年3月10日

 

 エルドリエが、カセドラル内でアリスを見つけたからか、「我が師よー!」とか言ってる姿が可愛い。

 その度に追っかけ回されてるアリスは不憫でならないが……

 

 なのでアリスちゃんを100層に招いたら、エルドリエの愚痴を沢山言われて、それをニコニコしながら聞いてたら、顔を真っ赤にしてヘッドバンキングするみたいに謝ってきた。可愛い。

 

 たまにはこういう癒しがあってもいいと思うの。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ふむふむ、キリトとユージオがそのまま統一大会に優勝と。流石だなぁ。

 

 遠隔監視術式で練習風景からもう何度も見ているが、あれを試合じゃないと思う奴は整合騎士以外じゃあそうは居ないだろ。

 

『人界暦381年3月4日

 

 監視してたら、キリトとユージオが四帝国統一大会で優勝していた。普通に素晴らしい演武だった。

 

 これで、二人は無事に整合騎士へと────』

 

 

 ……んん? ちょっと待て??

 

 

  優 勝 し た ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや日記書いてる場合じゃねぇ!!!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 想定外の事態が起きてしまった。

 

 ちょっとした外伝作品にあたる特典小説の短編、If youだかweだかシリーズ。一時期、その特典小説が入った円盤の表紙が物議を醸したのは懐かしい話だ。

 その短編ではなんと、キリトとユージオがライオスやらを殺したりせずに統一大会に優勝してカセドラルで整合騎士になる、というものだ。

 

 目の前に、背筋をピンと伸ばした、黒髪の青年と亜麻色の髪の青年が並んで立っている。

 

 そうだよ、ifストーリー! 何で失念してたんだ!?

 

 最初は、なんか頑張ってんなぁーぐらいにしか見てなかったが、そもそもライオス達が邪魔するから学院代表にもなれないし、大会にも行かずに罪人行きだよ。何さらっと見逃してんの? アホなの?

 

 ……そんな俺はというと、ちゃんと服を着て、《霊光の大回廊》にて二人を睥睨するアドミンムーブをかましていた。

 

「キリトとユージオ……ね。ふうん、坊やたちが今年の優勝者?」

「はい、そうです」

 

 ガッチガチに身体を強ばらせながらも、キリトがハッキリと答えた。

 

「どうして二人いるわけ?」

「それは、決勝戦で引き分けたからです」

「……引き分けねぇ。クリスチャン、アレって時間制限とかあるのかしら」

 

 傍に控えるクリスチャンにそう聞くと、「無制限です」と簡潔に言われた。

 

「……お前たち、同じ北セントリアの修剣学院出身って聞いたけど……まさか、示し合わせて引き分けに持ち込んだんじゃないでしょうね」

 

 かるーい心意による覇気を纏わせて、目を細めつつ真意を尋ねてみる。

 

 ……まあ、示し合わせたことなんて知ってるけどね。

 

「とんでもありません、最高司祭様。俺……じゃなくて自分とユージオは全力で戦い、しかし優劣をつけることができなかったのです。ご不満でしたら、いまここで決勝戦の続きをお目にかけますが」

「それも面白そうね……でも、それより私が戦う方が楽しそうだと思わない? 剣の腕はそこのクリスチャンに次いで、人界で二番目くらいに強いもの。優勝して浮かれてる新しい部下の鼻をへし折ってやるのも上司の務め。そうじゃないかしら?」

「……へ? いや、ええと、最高司祭様自ら……?」

 

 おおー、キリトの絶望したような表情……なんかちょっと楽しくなってきた。

 

 しかし、あんまりにおふざけが過ぎるとクリスチャンに怒られちゃうので、一転して微笑みを浮かべると、キリトの額を小突いてやる。

 

「ふふふ……坊やったら真に受けちゃって。冗談に決まってるでしょう? 私が相手をしたら、お前たちなんて秒で小間切れ肉になってしまうもの」

 

 小間切れ肉になる……そう聞いてか、キリトとユージオの顔が更に青ざめていく。

 

 ……アドミンムーブが完全に裏目に出た。冗談ではないけど、洒落にならん発言だ。

 お蔭さまで、隣のクリスチャンの視線が痛い。

 

「……これも冗談よ。小間切れにはしないわ。もしかしたら、お皿にするかもしれないけど……いたっ」

 

 クリスチャンにデコピンされた。

 うぅ、痛い……俺はアドミンムーブしてるだけなのにぃ。

 

「……クリスチャン」

「お二方をご案内すれば宜しいのですね」

 

 このクリスチャンには、キリト達の目的が何なのかを話してある。

 

 アリスの事に関しては、キリト達に上手いこと誘導してくれるだろう。

 

「承りました、クィネラ様」

「だからアドミニストレータよ……もう、何で直さないのかしら……」

 

 溜息を吐くと、キリトがビックリしたようにこちらを見てきた。

 「なんだよ、文句あっかこの野郎。皿にするぞ」と睨みつけたら、萎縮してそそくさと扉から退散していった。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideキリト

 

 

 意外とあの人可愛いところあるんだな……とか失礼なことを考えながら、クリスチャンさんとやらに付いていく。

 

「クリスチャンさんって、いつからここで働いているんですか?」

「クリスチャンで良いですよ、キリト殿。ええと、私は……もう250年ほどになるでしょう。騎士団長のベルクーリ閣下よりも長くいますね」

「「250年!?」」

 

 驚きのあまり、ユージオと一緒にオウム返ししてしまう。それもそうだ。彼の見た目は20代前半程度だし、そもそも天命は歳と共に減少して、最後には寿命となって死ぬはず。

 

 ……いや、確か高位の神聖術には、天命をも自在に操る術もあるらしいから、となればその類いなのか。

 

「はい。天命はクィネラ様……コホン、アドミニストレータ様によって凍結されました。ですが、今はもう、ライトキューブ? とやらの記憶容量が一杯になってしまいまして、もう長くない命です。なので恥ずかしながら、ほとんど寝たきりで生活しております」

「そ、そうなんですか……」

 

 分かったように頷くと、考察がさらに深まる。

 

 ライトキューブを知っている……? ということは、現実世界とコネクションがあるのか?

 

 やはり、現実と連絡できる方法がこの世界にあるのかもしれない。

 

 最高司祭は、あまりに色々なことを知り過ぎている。そうでなければ、説明がつかないだろう。

 

「ああ、それと、お二人はアリス殿について探っているとアドミニストレータ様からお聞きしておりますが」

 

 ……なんだって!?

 

 聞き間違いでは無かった。隣のユージオも、目を見開いて、口をパクパクさせている。

 

「な、なんでそれを……」

「何故なのか、という詳しい理由はお伝えできませんが、アドミニストレータ様は、お二人がアリス殿を捜しているという事を知っていて見習い騎士にさせたのは確かでしょうね」

 

 それなら、尚更理解できない。

 

 ユージオは、ダークテリトリーに指一つ侵入してしまっただけで罪人として連れて行かれてしまったアリスに再び会うため、そして公理教会に抗議するためやってきたのだ。そして、俺の目的もこのカセドラルにある。

 

 そんな危険人物をわざわざ本拠地に入れる理由は何だ? そうしても問題が無いと思っているからなのか?

 

 思考を巡らせても、その答えは出てこない。

 

 クリスチャンの口が開いたのは、俺が深い思考に足を止めていたその時だった。

 

「真実というのはいつも残酷なものです。もしも彼女と相対する時がくるならば、覚悟をしておいて下さいね」

 

 ……真実? 覚悟をしておけ?

 

 意味深な言葉を残していきながら、更に道を進んでいって、最奥。

 

 そこで俺たちは、エレベーター? らしき物体と遭遇していた。

 

 この昇降盤を動かすらしい少女より、上の階まで行こうとすると……クリスチャンがにこやかに笑ってエレベーターの外に出た。

 

「気が済むまで上の階を探索してみても構いませんよ。九十階には、クィネラ様が作られた最高の物がご用意してあります。確かこの時間では……おっと、失礼。用事が出来たので、先に二十八階のお部屋にてお待ちしております」

 

 なんかわざとらしい態度で去っていったクリスチャンを怪訝な目で見届けると、昇降係に一番上の階に行くよう頼んだ。

 

 それから、九十階に着いて……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「おい、クリスチャン……」

「おやおや、キリト殿。どうされましたか?」

 

 二十八階の自分達の部屋に入ったら、真っ先にクリスチャンを呼び付けた。

 

 この執事……外見が優しそうなイケメンだと思ったが、騙された。中身が腹黒だ。菊岡さんタイプの人間だった。

 

 九十階の大浴場は、なんと今の時間帯では女風呂になっているらしい。元老長であるクリスチャンは、それを分かっていてあそこに誘導してくれやがった、というのが此度起こった事故の真相である。

 

「あんたには少し、言っておかなくちゃいけない事がなぁ……!!」

「ですが、その様子では無罪放免となったようですね。入浴時間もお分かり頂けたようで何よりです」

 

 まるで無罪放免になるのさえ分かっていたみたいに立ち振る舞っている。

 こうなることも予測していたんだろうか……

 

「……それに遅かれ早かれ、アリス殿の真実を知ることになったのでしょうし、初日から知れて良かったのでは? そうでしょう、ユージオ殿」

「……そう、ですね」

 

 大浴場で出会ったのは、俺達が捜していたアリスだった。しかし、ユージオを見ても表情を変えず、それどころか知らない様子だった。

 

 実質大胆な覗きをしてしまったので、滅茶苦茶謝り、そもそも時間で切り替わるとか知らなかったと言えば、不承不承といった感じに今回の件は許してくれたが……

 

「それはそれとしてクリスチャン……お前のせいでぇ……!!」

「おっと、そろそろお腹が空いてきたのでは? 十階に食堂があります。そこの調理師さんに言えば、仕込み中の今でも簡単な料理を作ってくれますよ」

 

 ……ちょっと待った。今聞き捨てならないことを言われた気がする。

 

「十階に食堂?」

「騎士見習いや修道士が行く食堂です。とても美味しい料理が出ます。クィネラ様……アドミニストレータ様も、庶民の味が食べたいと来られるほどですから」

「さ、最高司祭様も来るのか……」

 

 それは、さぞ素晴らしい料理が出るのだろう……

 

「ユージオ、一緒に行くか?」

「……ごめん、ちょっと、休ませて」

「あいよ。じゃあ、お前の分も持ってくるから、待っててくれ」

「うん、ありがとう」

 

 ユージオは、まだ夢見心地といった感じだ。

 

 やっぱり、アリスとの出会いが堪えてしまったのだろう。

 

 そして、二十八階の廊下に出てから思った。

 

 ……クリスチャン、いつか絶対仕返してやる。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideアドミン

 

 

 キリトとユージオがここに来て一週間。

 

 クリスチャンが慌ただしい様子で俺の部屋に入ってきて、何事かと思ったら、カーディナルが俺と対面したい……という話をキリトから伝えられて、急ぎ連絡したとの事。

 

 ……ということは、アレだな? キリトは遂に完成させたのか。この世界では俺しか作った者のいないアレを。

 

「明日の正午、九十五階にある《暁星の楼望》で待つと伝えなさい。それと、アリスちゃんとシェータ……あ、それとフェノメアを護衛にするから、三人に言っておいて」

「はい、そのように」

 

 クリスチャンに伝えると、俺は明日を楽しみにしながら、静かに眠った。

 

 

 

 

 翌日。正午になったので、クリスチャンを引き連れ下に向かう。

 

 アリスもシェータはちゃんと剣を携えて凛と立っており……

 

「やっほ〜、アドミン様!」

「……フェノメア? 貴方、まだその口調を直さないつもり?」

「いや〜、どうもボクには敬語って無理で〜。ごめんちゃい☆」

 

 可愛いから許しちゃう。って感じに溜息を吐いて目線を逸らす。

 

 フェノメアは、アリスと違い公理教会修道服のスカートの丈が膝上までで、術士であるが故に鎧は最低限しかの部分しか覆われていない。つまり露出が多い。

 

 肝心な容姿は、この世界ではクリスチャンの他に居ないと思われた黒髪黒目。髪は肩にかかるくらいの長さで目尻が丸く、線が細いというより華奢という表現が似合う手脚の綺麗さだ。

 しかも、掌に収まるサイズの小さな王冠らしきものをちょこんと頭につけているのがこれまた……

 

 俺知ってる。思い出したけどリ◯ロにこんなキャラいたわ。フェリちゃんっていうんだけど。

 

 すると、テーブルが用意されていたので、ここでもアドミンムーブをかまして真っ先に上座のお誕生日席に着く。

 

 さりげなく、キリトとユージオを見てやると、ビクリと震えて冷や汗を垂らしているのが丸わかりだ。

 

 すると、塔の下から、風素を使った神聖術で飛来してくる者が一人。

 

 虫眼鏡の杖を持ち、大学を卒業した時に被る四角い帽子みたいなのと、ローブを身に付けた宿敵……? のカーディナルがやって来た。

 

 そして、杖をぷかりと浮かせると、さりげなく俺の対面の席に座った。

 

 正午の鐘が鳴る。アリスが俺のポットに紅茶を注ぎ終わり、カーディナルのポットにも紅茶を注ぐ。

 

 さて、頃合も良いし、お話をしようか。

 

「久しぶりね、リセリスちゃん。また会えて嬉しいわ」

「わしをその名で呼ぶな、クィネラ。いまはカーディナルと名乗っておる」

「あら、私もアドミニストレータを名乗っているのだけれど、何でそっちで呼んでくれないのかしら?」

 

 カーディナルの殺気が倍増するにつれて、俺は穏やかに紅茶を啜る。

 

 ……アドミンムーブ、つらたん。

 

「それでどうかしら、200年ぶりの外の空気は?」

「ふん、いまならお前が手の届くところにあると思うと、そんなものどうでも良いわ」

「……なにそれ、愛の告白?」

 

 ……おっと、これは非常にまずい。

 アドミンムーブが崩れてしまった。

 

「……お恥ずかしながらクィネラ様、今のは単に宣戦布告してきたのでは……」

「ちょっとクリスチャンは黙ってなさい」

 

 お前もお前でクィネラって呼ぶなよ! 何回も訂正してるだろ!?

 

「ほう、従者には本名で呼ばせておるのか。……まさか、その男と親密な間柄ということじゃ……」

 

 っ!? し、親密な間柄って……まさか、こいつ消し去った記憶を復活でもさせたのか!?

 

「そそ、そんな訳ないでしょう!? 全く、これだからお子ちゃまは……妄想も甚だしいわね!」

「ほほう……そんなに顔を紅くするとは……どうなんじゃ、クリスチャンとやら」

「……どうでしょうか。かれこれ300年は共に過ごしております。夫婦の契りをした覚えはありませんが、泣いたり笑ったりと、二人きりの時は可愛らしい素の性格で接してくるので、近いものがあるのではないかと……」

「わぁーーっ!! わぁーーっ!! いいから黙ってなさいっ!! そして百階に帰りなさい! いいわね!?」

 

 こ、こんにゃろうクリスチャン……何俺の黒歴史を赤裸々に語ってんだ!? 俺のアドミンイメージが崩れるからこの場で話さないでくれ! 後で何でもするから!

 

「では、私はこれにて……」

 

 恭しく一礼してから、螺旋階段へ去っていったのを睨みつけて見送る。

 あいつ後でどうしてくれようか……

 

 俺が持つ百の嫌がらせの内のどれを味わわせようか悩んでいると、目の前には手を組んで、ニヤニヤと笑うカーディナルが……

 

「……お主、情動回路を復活させおったな」

「……はぁ。そうよ。行動原理の為に感情を消したおチビちゃんと違って、私はまだ人間でありたいもの。秩序の維持に、感情はあってもなくても大差無いわ」

「どうだかな。秩序の維持の傍ら、そこなクリスチャンとやらを愛する為じゃろう」

「だから! 私はそんなんじゃないわ! 主従よ、しゅ・じゅ・う!」

「ふーん……まあ、そういうことにしておこう」

「わ〜、アドミン様かっわい〜〜!」

 

 こいつ絶対信じてない奴やん……俺、まだノンケだと思うよ? クリスチャンはただの馬鹿やってる悪友というか親友というか……決して恋人なんかじゃないんだよ。

 ほら、ホモは嘘つき理論でいけば、俺は嘘つきじゃないからノンケだし。

 

 淫夢な理論武装で納得していると、心做しかキリトの視線が畏敬のそれから生暖かい何かに変わっている。こいつも俺がホモだと言いたいのか。

 

 取り敢えず、「ねぇねぇ今どんな気持ち?」みたいにピョコピョコしているフェノメアの顔に、メタリックエレメントで作った土玉をディスチャージしてカセドラルから落としてやる。ノンケなので慈悲は無い。

 

 俺は顔を俯かせながらぐったりとキリトに丸投げした。

 

「……とっとと本題に入って。もう疲れたわ」

 

 何にしても最悪だ……カーディナルに素を知られる訳にはいかなかったのに。

 

 全部はクリスチャンのせいだ……もうあいつラスボスなんじゃね?

 

 落ち込む気分のまま、どうにか佇まいをアドミンに戻して、キリトをジト目で睨む。

 

「あ、あの! 俺から、一つ提案があるんですが!」

 

 俺の視線の影響か、キリトの声が上擦った。

 

 あー……他人の醜態を見ると、自分の心が落ち着く……犠牲になってくれてありがとう。

 

「見習い騎士になったばっかりの坊やが何を提案しようっていうの? だいたい、さっきから気になっていたんだけど、そのでっかい箱は何なわけ?」

 

 おっし、アドミンムーブは正常に動作してる。

 

 そのまま、キリトは長いテーブルの中央に箱を置いた。

 

 箱を開けると、レストランで出てくるような銀の蓋が中にあり、それを包むのは、氷の冷気だ。

 

 さらに、その蓋が開かれて……中から出てきたのは、お誕生日とかクリスマスとかによく食べられるアレだ。

 

「……何じゃ、それは?」

 

 そりゃあ、カーディナルは知らないだろう。

 

 この子に複写した記憶からは、過去にやらかした醜態の記憶と料理の記憶はあらかた取り払ってある。

 なので、俺が根性無しの料理好きなポンコツアドミンもどきではなく、完全無欠で冷酷無慈悲な大魔王という印象が植え付けられたままなのだ。

 

 俺が大して驚いていないからか、キリトが「えっ」という顔をしている。

 ごめんな。この世界だと、それを開発したの、俺なんですわ。

 

「イチゴのショートケーキね。よく作られてるじゃないの」

「なっ!? し、知っているんですか、これを」

「だって、私がつい最近気まぐれに作ったお菓子だもの。寧ろ、私しか作り方を知らないのに、お前が作れる方が奇妙だわ」

 

 実は三百年前から作られてました、……とは言えないそのケーキを、地道に練習してきた《心意の太刀》で八等分に切り分け、《心意の腕》でそれぞれの皿に取り分ける。

 

「……い、今のは?」

「シェータから教わらなかったのかしら? 《心意の太刀》と《心意の腕》。慣れればこれくらい普通に出来るようになるわ」

「そうなんですか、師範?」

「……最高司祭様だから、別格。騎士長でもあれを運ぶのはできないと思う」

 

 全然別格じゃないです。普通には出来ません……時間はあったからめっちゃ練習しました。隠れてジェンガしてました、ホント、練習大事だなって。

 

 ごめんねシェータ、正直心意の腕が使えるだけで凄いからね? 練習すれば才能ない俺よりも上手くなるよ。

 

「お前たちも座れば? アリスちゃんとシェータちゃん、フェノメアと昇降係ちゃんも」

 

 フェノメアはいつの間にかエアリアルエレメントで上がってきていた。

 まあそうなると分かってて落としたんだけど。

 

「いえ……」

「えー、アリスちゃんったら、アドミン様のお誘い断るの〜? というか、ボク的にも一緒にいて欲しいんだけど〜」

「……はい、分かりました」

 

 フェノメアに促され、アリスが渋々相席したのを確認する。

 ここで脳裏に浮かんだのは、前世で見た整合騎士キリトの短編小説での、まさにこの場面カーディナルとアドミンの会談。そこでもアリスは遠慮していたが、促されて座ることになったはずだ。

 

 となると、フェノメアの代わりって……と考えが至って、ふとキリトを見つめる。

 

 いや、正しくは彼の前髪だ。よくよく目を凝らせば、複眼がこちらをジーッと見ている。シャーロットだ。

 彼女も甘いものが好きなようで、人に変身することで味覚や嗅覚を獲得し、ケーキを食べることになっていたが……なんか、本当にすみません。

 

 心の中で本来食べるはずだった人……ではなく蜘蛛に謝ると、手を合わせた。

 

 ……あ、キリトがビックリしてる。

 食べる時のこれは、なんか前世の癖が抜け切ってなくて、しかもずっと直してないんだった。

 

 まあ、いいや。バレても特に何かある訳でもないだろう。

 

「じゃあ、頂くわね」

「わしも頂こう」

 

 フォークでさきっちょを切り、パクリと食べる。

 

 ……あれ。なんか俺が前に作ったのより断然美味しいんだけど。

 

 材料に違いでもあったか……? それとも材料が足りてなかった……? いや、足りてなかったらシステム的に失敗になるはず。

 

 うーん、謎が知りたい。

 

「キリト……なんじゃこれは?」

「ふぅん。不味くはないわね……サーティースリーが作ったにしては」

「えっ、さりげなく貶された……?」

 

 小声でもバッチリ聞こえてますよ……本物のアドミンだったらなんか罰を与えているところだ。

 しかしケーキが美味しいので許す。

 

 そんな風に食べ進めていると、いつの間にか無くなっていた。

 

 ケーキの魔力……恐ろしい。

 

「そのわりには、なくなるのが惜しそうな顔をしておったぞ?」

「うるさいわね、こんなもの、少し時間があればいつだって作れるもの。それにちびっ子こそ、大きいイチゴを最後まで取っておいたくせに」

 

 まあ、イチゴを残しておく気持ちは分からんでもないが、俺は生クリームとイチゴの調和が好きなので、まとめて食べてしまう。

 元が俺のフラクトライトなのに、何故こうも違ってくるのか。

 

「……それは良いのよ。それで、このケーキとサーティスリーの提案に何の関連性があるのかしら?」

 

 ……あ、しまった。

 

 俺がケーキを知っているせいで、キリトが主張したいことが言えなくなってしまった。

 

 これはかなり面倒なことに……ここはフォローしとくしかないか。

 

「あ、ええと……ですね。お、俺が言いたかったのは……」

「……たぶん、お前は私がショートケーキを知らないと思っていたのでしょう? そうね……私でさえ知らないことがあるのなら、私がやってる方法よりも、確実なのが見つかるんじゃないか……こんな所かしら?」

 

 ズバリと、名探偵っぽく、含みのある笑みで言ってみせると、「お、仰る通りです……」と、キリトが絶望感たっぷりで消沈してしまった。

 ふはは、愉悦愉悦。ラスボスムーブできないから絶望顔なんて見れなくなったし、丁度いい。

 

「キリト……大丈夫だよ。とにかく、意図は分かってもらえたんだからさ」

 

 うん、そのままユージオくんはキリトを慰めてやってくれ……

 

「そこのちびっ子の入れ知恵だかなんだか知らないけど、理屈は通ってなくもないわね。と言っても、私がこのケーキの作り方を知っていたから、説得力には欠けるけど」

「うぐっ……」

「でも、知る知らない以前に、そんなのは無理よ」

 

 キリトからちびっ子……じゃなくてカーディナルの方へ目を眇めると、咄嗟に考えついた俺とカーディナルの対立構造について、話してみることにする。

 

「この世界は私がいる以上、独裁なのだから合議制である必要はないし、故に議会というものは存在しないけど、私とカーディナルは、謂わば与党と野党の関係ね。しかも、議席数はフィフティー・フィフティー。日本だったら、せっかく総理大臣がいても、野党のいずれかが与党に与さなければ、法案なんて通りもしない。でも、ここには最高権力者が二人。合議制にしたとしても、互いに殺し合う関係で、何を目指すかさえ違うというのに、坊やはそれで本当に決まると思ってるの?」

「……な、なるほど。確かに……」

「独裁国家に元首は二人もいらないのよ。ローマの独裁官カエサル然り、ファシストとして国を率いたヒトラーとムッソリーニ然り……私は同等の権限を持つ者の存在を許さないわ」

 

 この場で、列挙した例示を理解できた人物は、おそらくキリトのみ。

 いや、ゲームに命賭けてる最強のゲーマーだし、ヒトラーは分かってもムッツリと『ブルータス、お前もか』の元ネタは知らんか。

 

 カーディナルも、日本の国会や独裁者については知らなかったらしい……が、言わんとすることは理解したらしい。ふん、と鼻で笑ってから、俺を睨みつけるように瞼をスッと窄める。

 

「おぬしのそれは独裁というより、放置による恒久の停滞じゃろう。それと、儂がおぬしを消そうとしているのは、そんなつまらん理由などでは無い。おぬしは、近々この人界を滅ぼすからじゃ」

「……へぇ、システムと一体化して、行動原理さえ書き換わったこの私が、自ら管理してきたこの人界を滅ぼすと言うのかしら」

 

 もし、このままアンダーワールド大戦が始まろうものなら、整合騎士を総動員し、キリトに現実世界とのコンタクトでスーパーアカウントのアスナ達をご招待させ、俺も出向いて一掃するつもりだ。

 管理者権限を用いれば、巨大な岩で大軍を押し潰したりできるし。

 

「おぬしらの整合騎士だけでは、ダークテリトリーの精強な軍隊……数万人を、此方の被害を出さずに抑え切るのは不可能と言っていい。それどころか、人界全てが戦火に包まれるぞ」

「……確かに、耳が痛いと言う他ないわね。戦力不足を否めないのも事実よ」

 

 俺の全力の神聖術で、どこまで出来るか……ガブリエルが来ようものなら、アスナ達を頼らないと本当に全滅だ。

 

 ハッキリとした俺の物言いに、「うぇっ!?」とフェノメアが驚き、アリスは少しムスッと口を開こうとして、シェータに制止させられたのが見えた。

 

 そんな二人と、そしてカーディナルに、「でもね……」と続ける。

 

「おちびさん。あなたと私が睨み合うようになって長い年月が経ったのよ。そこの坊やの言う様に、知らないことの一つや二つあるに決まってるじゃない。例えば、《剣機兵計画》が実行出来れば、軍勢から守るに留まらず、ダークテリトリーへの侵攻も可能にするわ」

「剣機兵……? どうせろくでもない計画じゃろうが、ならばなぜすぐに実行しない?」

 

 何故? そんなもの、言えるはずがない。

 

 こんな冷酷無慈悲なイメージの神様が、まさか弱虫の泣き虫でシンセサイズさえまともに出来なくなっただなんて。

 

 もう何人も、何百人もシンセサイズしてきて、何を言っていると思うだろう。

 

 俺には、心を無にして、人工物のAIだと思い込んでこのフラクトライトの命を奪うのには耐えきれない。クリスチャンがいなければ、本当にフラクトライトが崩壊してたかもしれない。

 

 身体が竦み上がり、言い知れぬ恐怖がゾワゾワと身体を包み込んできて、今では式句を唱えようとすれば口が動かないのだ。

 

 幸いにも、物質に転換した人々を元に戻す術式もあるので、何らかの形でキリトに伝えておこうとは考えている。

 

 ……あわよくば、アンダーワールド大戦も、ムーンクレイドルも、知性間戦争も、アビッサルホラーとかいうSAN値チェック案件も体験したいが、アドミニストレータはここで終わる人物だ。

 

 それ以上を求めては、傲慢というものだろう。

 

「……あの計画はね。つい最近中止……いえ、もう破棄することにしたのよ。そこのカーディナルちゃん同様、二人をずっと監視させて貰ってたのよ……メモリを開けるために要らなそうな記憶を消して、二年間ずっとね……」

「……えっ!?」

 

 ユージオが驚いて、俺とカーディナルとを視線を行ったり来たりさせている。

 対しキリトは苦い顔だ。監視していたならば、示し合わせも知っていた事になると気付いたらしい。

 

「カーディナルちゃんの監視が始まったのは村を出てからだけれど、私は坊やがダイブしてきた瞬間から知ってるのよ? まさか、アンダーワールドにリアルワールド人が降りてくるなんてね」

 

 キリトがあからさまにビクゥッと跳ねた。冷や汗も掻きまくってる。

 

「……そこまで知っておいて、なぜ整合騎士へ引き入れた?」

「……あわよくば天然フラクトライトの構造でも解析でもしようかしらって」

「え、えぇ……?」

「あら、冗談よ。ソウル・トランスレーターへのアクセスは内部からじゃ無理。つまり弄れないの。命拾いしたわね、坊や」

「そう口では言っておいて、元からその気などなかったろうに」

 

 なんで思考読むんだよ。ちょっと冗談言ってるだけなのに酷くない?

 

「まあいいわ。この二人は私のだからね? あれこれ吹き込むのは止めて」

「だからと言って盲従しておるわけではないじゃろう?」

 

 ここからの話し合いは大筋は原作……というか短編のifに沿った形となった。

 

 キリトとユージオのケーキが俺とカーディナルの睨み合いを止める為の犠牲となり、新作ケーキ持って来るなら話し合いをしようという事で、解散した。

 

 ……うーん、これ。本当にどうしよう。

 

 

 

 

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