転生最高司祭ちゃんが行く原作再現   作:赤サク冷奴

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ツンデレ卑屈最高司祭vsヘタレ執事vs恋愛経験不足賢者
ファイッ!


I Wished You Loved Her
転生最高司祭ちゃんが行く原作改変RTA 4066時間28分43秒


 

 西暦2026年7月7日 AM8:00

 

「これは……」

 

 データの海の中で、ユイは《母親》から送られてきたデータと、先程ネット上に流れてきたとある情報を考証していた。

 

 送られたデータは、ラースと、《プロジェクト・アリシゼーション》に関するもの。魂であるフラクトライトについて、簡単に纏められており、キリトの現状が記されている。

 

 その情報を使い、ダメ元でフィルターを掛けて検索してみると、何件かヒットした内の一つに、日本のとある企業には魂の解析ができる機械があると仄めかされた投稿を発見したのだ。投稿された日時は、つい昨日。

 そのアカウントの過去の投稿を全て確認すると、ユイの思考は何百もの推論を導き出し……やがて、一つに絞られた。

 

「……パパとママが、危ない?」

 

 断定こそ出来なかったものの、可能性は限りなく高く、到底無視できる案件ではなかった。

 

「シノンさんとリーファさんを呼ばないと……!」

 

 今すぐ動けるのは、その二人だけ。ユイは通信回線にアクセスすると、二人の携帯にコールを掛けた。

 

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月2日

 

 

 ソードアート・オンライン・アリシゼーション War of Underworld救済RTA 最高司祭チャート、はっじまーるよー。

 

 

 いきなり何を書いているのかと困惑しているかもしれないが、軽く読み飛ばしてくれて結構だ。

 

 RTAを始めようと思った訳については、まあ、今日色々とあったからだ。

 

 まず、今朝、クリスチャンの爽やかなモーニングコールで起きると、俺は真っ先に確認した。

 日記の最後のページを。

 

 そうしたら、あったのである。

 

 見た瞬間、頭を机に叩きつけた俺は絶対悪くない。

 

 確かに、計画が終わったら日記を見ろとは言った。だが間違っても、俺が死んでないのに読むものではない。加えて返答を書くものでもない。

 あれ、れっきとした遺書なんですけどね?

 

 原作再現できるように軌道修正したのに、あのタイミングで電源を切ってサージ起こしやがったガブリエルは後で殺す。

 

 散々頭を打ち付けた後、カセドラルを降りたら、これまた最悪なことが起きた。

 

 クリスチャンやらカーディナルが、何をとち狂ったのか、俺が死のうとしていた事を言いふらしていたが為に、整合騎士に会う度会う度過度に心配されるようになった。

 

 特にベルクーリお前、出会い頭に撫でてくるとか、無遠慮にも程があるぞ。

 

 でも、そのお蔭で、一つ分かったことがある。

 

 こうして生き残ってしまった俺に、出来ることは何か。

 

 ユージオも生きているし、カーディナルもシャーロットも、死ぬ筈だった彼らがいる。

 

 

 そこで俺は考えたのである。

 やっちゃいなよ、そんな偽物(原作)なんか! と。

 

 

 もう修正不可能なまでに本来の物語が壊れてるなら、いっそのこと全部壊してしまおうと思う。

 

 それに、どうせフラクトライトの《魂の寿命》も僅かで、残り三年あるかという程度しか猶予は残されていないのなら、この大戦で最善を尽くして、心残りが無いように死にたい。

 具体的には、死亡フラグの抹殺である。

 

 主にベルクーリやエルドリエ、ダキラ。そして、シャスターとリピアがそこに当てはまってくる。

 それ以外にも、リルピリンの許嫁やオーク族の部下達、拳闘士ギルドの面々辺りか。

 

 出来ることなら全部救っていきたいところではあるが、一部はどうしてもクリスチャンやカーディナルに協力を仰ぐ必要がある。

 

 そうすれば、皆が笑って楽しくいれる世界というのも、不可能ではない。

 

 よって、それにあたってのレギュレーションを策定した。

 

 レギュレーションは、

 

・暗黒界との融和

・主要な人物の生存

・計測はこのノートを閉じた瞬間から開始、和平条約締結でタイマーストップ

 

 とする。

 まあ、最高司祭チャートならこんなの楽勝だよね!

 

 それじゃあ、はい、よーいスタート。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 日記をパタンと閉じると、《窓》に表示されたストップウォッチを押して、一息吐く。

 

 計画をキッパリと諦めてみると、意外にも心は穏やかだった。

 あんなに《死》に固執していたのに、今では誰かを《生》かす為に動こうとしている。

 

 まあ、元々死にたかったのは、逸れてしまった原作の道を元に戻したかっただけなんだが。

 

 でも、今はもう、生きる理由も出来てしまった。

 

 日記をもう一度開いて、今日のページから一つ前を見る。

 

 下に小さく書かれた、その文字をなぞる。

 

「……クリスチャン」

 

 現在、俺は〝前世の俺仮面〟を装着中だ。性自認はほぼ女と言っていい筈だが、やはり長年被り続けた仮面はしっくり来るのか、着けておくと安心する。

 

 しかしそうすると、今度は情緒不安定な本心の《わたし》が育たなくなる。仮面で覆い隠していた弊害からか、えげつなく弱気なクィネラちゃんがいるのだ。

 

 そこはまあ、その……クリスチャンが何とかしてくれると信じたい。あいつ、唯一俺仮面すり抜けて《わたし》に攻撃してくるし。隣に居るとめっちゃ心臓がうるさかった。

 

 ちなみに、仮想世界においての心臓の鼓動は、そういったドキドキする感情の発露によって引き起こされる非自然的なものだ。

 命のやり取りとかで心臓の拍動が聞こえなかったら興醒めになるとは言え、茅場さんの凝りようって半端無いよなあ……

 

「お呼びですか?」

「──うひゃあ!?」

 

 深く思案している中、突然割って入ったその声に、私の身体が反射的に跳ね上がる。俺が名前を呼んだから、飛んできたのだろうが……

 

 ……これは重症過ぎるな、いくらなんでも。

 

「……ふ、普通に話し掛けなさいよ」

「普通ですが」

 

 顔がじんわりと熱くなる。

 俺がこうなるの絶対分かってて声掛けただろ、お前。

 

「……それで、如何されましたか」

 

 言ってたまるか。ただでさえ俺は重症なのだ。追い討ちを掛けられたら即死だ。

 

「なんでもないわよ……。先に寝てれば?」

「ほほう、昨日の日記を読み返して……なるほど」

「ねぇ話聞いてる?」

 

 ツッコミを入れても、本人は惚けた様子しか見せない。

 我ながら、面倒な相手に好いてしまったものだ……色んな意味で溜息を吐きたくなる。

 

 そんな奴に、いつの間にか、こんなキザったらしい返答を貰って、喜んでいる自分がいるのだ。……特にここ、『貴方様を一生──

 

「──放しません。そちらで会った時は覚悟しておいて下さい』……読んでくれて有難いですよ」

「なんでピッタリなの……」

 

 読み終わるタイミングと完全に一致していた。しかも、耳許で囁かれるハッピーなセット付きだ。羞恥心も天元突破してしまっている。

 

 もう、こいつに一生勝てる気しないんだが?

 俺がキリトポジで、クリスチャンがアスナポジだ。前世の俺が男だったのが悪いのか……

 

「……あのね、頼むから、そういうの止めてくれると嬉しいんだけど。ほら、その、親友として……ね?」

「それは無理でございます。だって」

 

 ──俺がクィネラの事が好きですから

 

 耳許に殺到する声と熱い吐息に、理性がグラりと揺らいだ。

 クソっ、まだメス堕ち自覚から体感でそんな経ってないのに、言葉の破壊力が強い……! んぐぐ……!!

 

 アレか? アレなのか? クリスチャンの声がやたら鈴村さんっぽいのが悪いのか? マーヤさんハートが呼応してるとか……!?

 

 なんにせよ、これは非常にまずい!!

 

「無理無理っ、お願いだから! それに、そういうのはちょっと早いというかなんというか……」

「いいじゃないですか。いっそ既成事実でも作れば素直になりますか?」

「私をなんだと思ってるの?」

 

 一瞬で真顔に戻った気がする。今の心の性は完全に女性の方に振り切れているが、俺が消えた訳じゃない。カッコいいものを見たら、今でもワクワクさせられるし、その一方で、クリスチャンの一挙一動に、クィネラとなって培われた乙女心が反応するのだ。

 だから既成事実とか気軽に言われると、フラクトライトの片隅にいる独身アラサーの俺がうへぇっと呻くのだ。

 そこら辺はちゃんとしてくれ。

 

「いい? 私だって、少しは夢見たいの。私が良いって言うまで、そういうのはナシだからね」

「ふふ、了解する前提で安心しました」

「〜〜っ!! 揚げ足取らないっ!!」

 

 ペンを投げつけると、それを華麗にキャッチして、胸ポケットに仕舞うと、それでは、と退出していった。

 

 執事としての対応が、何だかおざなりじゃないだろうか? 俺をからかうだけからかって、結局何もせずに出ていきやがったし。

 

 やっぱり、俺の日記を読ませてしまったのが原因かなぁ……

 

 溜息が漏れそうになりながら、傍のペンに手を掛けて、引き出しに────

 

「あ」

 

 ……俺のペン、勝手に持ってかれてるし。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月3日

 

 今日は安息日ということで、一ヶ月ぶりの茶会を催した。

 

 キリトが自我喪失中なので、ケーキは自分で焼いてきた。

 ふははっ、これが本場のシフォンケーキよ!と自慢げに出した一品は、同席者を大いに驚かせた。

 その時のカーディナルの顔が今でも目に浮かんでくるわ、あの間抜け面がな!

 

 今回の議題はズバリ、最終負荷実験への対応だ。カーディナルも、今の俺ならと様々な案を持ち出してきた。

 

 先ず、《東の大門》の補強。こちらは継続して行っているので、恐らく来年まで持つと見ている。

 

 人界軍の配備。これは既にいる、東西南北帝国の騎士団とやる気のある上級貴族達、そして整合騎士で対応中とのこと。

 あと、後々の為に皇帝は出陣させない事にした。ムーンクレイドルで吠え面をかかせるのが楽しみだ。

 

 最強の切り札、キリトの蘇生。

 これに関しては、時間の経過を待つ他ないので、どうにも出来ない。

 《ワールド・エンド・オールター》で菊岡と話をするのも一つの手だが、先にアリスがラースの手に渡っては、ガブリエルもプーさんも倒せなくなる。

 アスナ達だけ早くこっちに来てくれたら、被害が最小限に済むんだけどなぁ。

 

 更なる戦力増強についても話し合われた。先ずは真っ先に使える戦力として、凍結中の整合騎士を四人目覚めさせた。鎌使いと短剣使いと斧使いとブーメラン使い、もといレンリ……皆個性的な神器を持っている。貴重な戦力となってくれる筈だ。

 

 まあ、そもそも俺とクリスチャン、カーディナルが十分に強いので、戦力としては申し分ないか?

 

 

 

 

 それよりも、なんだが。

 

 最近、クリスチャンの猛攻が凄まじい。

 

 さりげなく顔を近付けたり、耳許でイイ声を囁いたり、二人になった瞬間、所構わず抱き着いて来たり……

 

 そういうのは大戦が終わった後でと釘を刺しておいたから、大丈夫だと思いたい。

 

 

 大丈夫、だよな?

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「……ってことで、アリスを復活させるわね」

「……え?」

 

 気の抜けた声を出して、俺の居室である百階で目をパチパチとさせるユージオ。そして、隣のアリスはいきなりそんな事を言われたからか、何もできずに当惑している。ユージオが把手を持っている車椅子のキリトは特に反応を示していない。

 

「さ、最高司祭様……それは、アリス・ツーベルクを復活させると、そう言っているのですか?」

「まあ、そうだけど……あ、でもアリスちゃんが消える訳じゃないの。大丈夫、大丈夫だから、そんな顔は止めてちょうだい」

 

 しゅんと肩を竦め、死刑宣告を粛々と受け止める罪人みたいになったアリスを宥めて、落ち着かせる。

 ごめんね? アリスちゃんに消えて欲しい訳じゃないから、ね?

 

 それでも、顔の物憂げな表情は取れないまま、難しそうな顔をしている。

 こうなれば、実際にやらなければ表情は晴れないだろう。

 

 そこで、パチンっとフィンガースナップを一つ。

 すると、ボトッと音を立てて、俺の隣にそれは現れた。

 

 白色の人型。一見すると、顔は無いが精巧なマネキンのようだ。

 

 これは、一口に言えば、ゲームのアカウントと言うか、アバターと言うか……そういうのに近いものだ。

 

 もっと根本から説明すると、このマネキンモドキはフラクトライトの入っていない空のライトキューブが仮想化された物である。

 何も設定されてない、新しいアバターデータ……キャラのクリエイトも済んでいないような、空っぽのデータがこれの正体だ。

 

 ここに、赤ちゃんのフラクトライトコピー……精神原型(ソウル・アーキタイプ)をインストールすれば、俺達と同じ人工フラクトライトになる。

 

「これは、私達の魂の器よ。みんな、この器の中に魂を入れられて育つの」

「……なんというか、不気味な見た目ですね」

「当たり前じゃない。人の個性はなんにも与えられてないもの。顔なんて無いに決まってるでしょ?」

 

 心意でマネキンモドキを立たせ、アリスと向かい合わせる。

 

「今からやるのは、シンセサイズの逆……アナライズ。統合されたものをバラしちゃうの」

「え、ええと……?」

「そんなに難しく考える必要は無いわ。ちょっと魂を複製して、この器に移して、後はそっちに記憶モジュールを挿入すれば終わりだし」

「魂の複製ということは……一時的に私が二人に?」

 

 その通り。

 鷹揚に頷くと、アリスがサァッと顔を蒼褪めさせた。まあ無理は無いけどね。

 

 それに、アリスはアリス化したフラクトライトなので、自分のコピーが居ても、己のフラクトライトが崩壊するような事態は起き得ない。理論上では、アリス化したフラクトライトは天然フラクトライトと同等の対応力を持ち合わせている筈なのだから。

 

 そして、もう一度フィンガースナップ。マネキンモドキに昔のアリスと同じエプロンドレスを着せて、準備完了。

 

「じゃあ、アリスちゃん……神聖術の起句の後に、リムーブ・コア・プロテクションと続けて」

 

 ユージオの身体がビクッと跳ねた。ユージオにとっては軽くトラウマだろうし、俺だって二度と聞きたくない術式だ。

 これからはシンセサイズなんてやってやるものか。

 

 アリスも、俺たちの様子を機敏に感じ取ったのだろう。少々、躊躇いがちに口を開いて、起句を唱えた。

 

「……システム・コール、リムーブ・コア・プロテクション」

 

 唱え終えた途端、アリスの身体に紫のラインが走り、額の辺りで収束した。

 

 そうしたら、アリスの額に触れて《敬神モジュール》を抜き取ると、術式を唱えて、フラクトライトの操作ウィンドウを呼び出した。

 

 次に、マネキンモドキの額を掴んで、アリスのウィンドウにある[copy]ボタンをタップする。今度はマネキン側のライトキューブの設定をちょちょいと弄って[paste]すれば……

 

 白のマネキンモドキが、淡い光を帯びた。頭頂から、光の粒子が寄り集まって身体のパーツを作り出す。黄金の髪、透き通った白磁の肌色、細く際立つ柳眉、小さくまとまった鼻稜etc……

 

 アリスの姿と全く変わらないそれは、正真正銘、アリスの複製されたフラクトライトが入ったライトキューブだ。ややこしいが、こちらもアリス本人という訳だ。

 

 なんか、変身シーンみたいだなぁ……と見入ってしまったが、作業を再開させる。

 

「ほ、本当に、アリスが二人に……」

「もう一人居るからって、そっちのアリスちゃんにオイタしちゃだめだからね?」

「し、しませんよそんなこと!」

 

 顔を赤くして手をぶんぶんさせるユージオ、可愛い。

 

 複製が終わったら、元のアリスに《敬神モジュール》を挿入し直して、次に、ユージオから預かっていた《記憶の欠片》を、エプロンアリスに挿入する。

 

 ……これで全ての工程は完了した。

 

 原作で、キリトがアリス・シンセシス・サーティとアリス・ツーベルクのどちらかを選ばなくてはならないだの、なんかうだうだ悩んでいた気もするが、早い話コピーしてしまえばその問題は無かったことにできる。

 

 コピーしたアリスのフラクトライトに、アリス・ツーベルクの《記憶の欠片》を挿入した時点で、アリス・シンセシス・サーティの人格は完全に消滅し、アリス・ツーベルクの人格が蘇るのだ。

 まあ、確実にキリトが倫理を説いてくるだろうから、その時は平社員の如く平身低頭するしかない。

 ふふ、俺の社畜術が唸りを上げるぜ……

 

 まあ、これにて一件落着、とユージオに振り向いた……刹那。

 

 俺の身体が仰向けに倒れた。

 

「い゛っ!?」

 

 後頭部が大理石の床を直撃。凄まじい痛みとぐらつく視界、そして金色が見えた。

 

「あ、あたまが……うぎゅぅ……!」

「ふぁ!? 最高司祭様!? ごご、ごめんねっ!」

 

 俺に馬乗りになっているっぽいアリスの、溌剌で高い声音が聞こえてきた。

 いや、謝ってくれるのは良いんだけど……

 

「アリスちゃん……一旦退いてくれない? 私、立ち上がれないんだけど」

「あっ……」

 

 いそいそと降りてくれたので、片手で光素を作って天命を回復させながら起き上がった。

 うう、頭がすごいズキズキする……

 

「……あの、本当にごめんね?」

「き、気にしなくていいわよ、これくらい。それに目の前に突っ立ってた方が悪いもの」

「でも、それを最高司祭様が気負う必要は無いわ!」

 

 見慣れた金髪碧眼の美少女で、申し訳なさげな姿も、頑固な性格も、アリスそのものと言っていい。

 しかし、アリス・シンセシス・サーティではない。

 

「……って、そんなのはいいのよ。久しぶりね、アリスちゃん」

「ええ、久しぶりね! 正気に戻ってくれて何よりだわ」

 

 18歳のアリスの見た目そのままに、中身は16歳程。ちょっとだけ子供っぽく見えるが、彼女が幼馴染三人組のうちの最後の一人である、アリス・ツーベルクだ。

 暇を見つけては神聖術などを教えていたからか、俺に懐いている可愛い子だ。ついつい頭を撫でたくなってしまう。

 

 手を広げて抱き着いてきたアリスを受け止めて、微笑み合う。こっちも可愛いよなぁ……

 

「ほ、本当に、君なのかい……? アリス」

 

 アリスの感触を堪能していると、ユージオは車椅子から手を離すと、疑り深く、或いは縋り付くような目で、足を擦らせて近付いて来ている。

 

 一度、修剣学院で期待を裏切られた事もあってか、ユージオには冷静さが伴っていた。本当に、自分の知るアリスなのだろうか……と言っているかのように、警戒の色が強くさせて。

 

 その不安は、全くの無意味であると知らずに。

 

 ユージオの尋ねる声を聞いたアリスは、俺から離れて、くるりとターンして後ろに振り返る。

 ユージオは、ハッと息を詰まらせていた。悪戯っぽく、つんと澄まして、自分に笑いかける姿が、きっと昔の記憶と重なっていたのか……

 

「もう、何言ってるのよ。一緒に剣になって戦ったことも、北の洞窟に行ったことも忘れちゃったの?」

 

 その言葉で確信したのだろう。ユージオの眼から涙が溢れ出した。次の瞬間でユージオは駆け出し、アリスの身体を胸に引き寄せた。

 

 

「ごめん……ごめん……! こんなに、迎えるのが遅くなっちゃって……」

「それでも構わないわ。ちゃんと来てくれたんだもの。それだけで嬉しいに決まってるでしょ?」

「アリス……!」

 ……これは、堕ちたな。

 

 アリスの見た目にそぐわない可愛らしさというか、包容力というか……これに抵抗できる男の子が居るのなら教えて欲しい。

 

「キリトも、久しぶりね。あれからもう九年だけど、こうして三人揃って良かったわ」

「……ぁ……ぁぁ……」

「キリト……アリスだよ。アリスを取り戻せたんだよ。僕たちの、三年の旅の目的が果たされたんだ……!」

 

 ユージオとアリス、キリトも一緒になって抱き合う。

 原作では叶わなかった、幼馴染三人組の再集合だった。

 

 キリトはまだ心神喪失状態にあるから、三人が肩を並べて歩く日が先の話になるとしても、原作の顛末を知る身では、これだけで不意に涙腺が緩んだ。

 面目もあるから、ここで泣くつもりは無いけどね。

 

「……あれが、本来の私なのですね」

「まあ、そうなるわね。記憶を失う前の過去……彼女が元になって、貴方が生まれたから」

 

 そう言おうとも、騎士アリスは、俺に非難がましい目で見たりはしなかった。キリト、アリス、ユージオの三人が揃う光景から顔を逸らさず、目に焼き付ける。

 

「……そうであるならば、最高司祭様……私とは、アリス・シンセシス・サーティとは一体誰なのですか……? 彼女から枝を別れて存在する私は、この世界に居て良いのでしょうか……? 私が何者なのかも、何にも、分からなくなってしまって……」

 

 右手で左腕を抱いて、目をそばめる。アリスは分かりやすく悄然としていて、その視線は、チラチラと《アリス》に向けられている。

 

 ……それを、《わたし》に聞かれても。

 

 仮面を外し、内心でそう独り言ちると、大きく溜息を吐いた。

 

 アリスの隣で、心意の空気椅子でふわりと浮かび、頬杖を突く。

 《わたし》とて、彼らが羨ましい、と思わないことは無かったのだから。

 

「……私も、実際は分からないの。私が何者で、何を為すべきか。何にも知らないの」

「……そうなのですか?」

「だから、私は死のうとしてたのよ?」

 

 自分にとっては、一昨日の出来事。

 

 まだ、《わたし》は心の整理も出来ていなかった。

 

「私も、アリスちゃんと同じで……この姿は、本当のアドミニストレータでも、クィネラでもないの。近いけど、また違う別人」

 

 それに気付いた時、感じたのは絶望だけ。

 

 《わたし》とは、〝俺〟でもクィネラでもない、また別の、知らない誰かだったから。

 

「知ってる? 自分の人格ってものはね、他人や社会環境の影響を受けて育つの。キリトやユージオ、ルーリッド村に影響されて、明るい少女として成長したのがアリス・ツーベルク。私やクリスチャン、ベルクーリ、公理教会に影響されて、整合騎士として成長したのが貴方なの」

「え……」

 

 主に、キリトに強い影響を受けていたアリスは、キリトの記憶の穴に《敬神モジュール》を挿入された事で、明朗快活な性格が消え去り、そこに新しくベルクーリなどの影響が加わって、容赦の無さと、割と毒舌っぽい性格が現れた。

 

「要するに、ありのままの自分を受け止めなさいってことよ。結局、自分が誰なのかなんて、本当に分かってる人なんて居ないの。私とアリスちゃんは、必要に迫られて、自分の意義を問うようになったから、こうして悩んでるだけ」

「……しかし、それを知っていてなお、最高司祭様は思い悩まれているのでしょう?」

「……ええ」

 

 ……ごめんね、こんなに弱い人間で。

 

 自分は、アリスよりも色々な知識があって、人生も長く生きている。

 

 それでも、うじうじと悩む。

 

 《わたし》という人間の弱さだ。

 

「〝我思う故に我あり〟……なんて言葉もあるけれど、わたしはそんなに強く居られなかった。でもアリスちゃんなら、時間をかけてゆっくり飲み込める筈よ。アリス・シンセシス・サーティという、貴方だけの個性を大切にすれば、自分を受け入れられる日が来る」

「……そうだと、良いのですが」

 

  自分ほど心の弱い人間はそういない。何が起きようと、アリスはちゃんと乗り越えられる。

 

 仮面を着け直して、アリスとの対話で摩耗した《わたし》の心を覆い尽くす。

 

 はぁ〜……心が安らぐ。

 

 自分を抑圧する筈のペルソナが精神安定剤になるというのは何とも皮肉だが、偽りでも拠り所になる信条や信念があった方が、生きやすいのは確かな事だ。

 

「ねぇ、貴方も一緒に来て!」

「え?」

「貴方も私だったのよ? 仲間外れになんてしないわ」

「ま、待って下さい、私は……」

「早く! それと、これからはアリスって呼ぶから、私をアリスって呼ぶこと。いいわね?」

「それでは、紛らわしくないでしょうか……?」

「う、うーん、今はいいわよ、気にする人もいないし」

 

 アリスに手を引かれ、困惑のままキリトの所へ連れて行かれるアリス。しかも並んで立ってるから、服装でしかアリスとアリスの判別が付かない……いや、体捌きに違いはあるか。

 

 もし服装と口調を入れ替えでもしたら、大半の人がどっちがどっちだか分からなくなりそうだ。

 

「ねえ、アリスも最高司祭様と仲良いのかしら?」

「ええと……そうですよ。友人と仰っていました」

「なら、そんなに畏まらなくても、最高司祭様は許してくれるのに」

「そ、それは出来ません! 私は最高司祭様に忠義を誓っている身でもあるのですから」

「でも、砕けた話し方のほうが、友達って感じで良いと思うけど」

「ですが、最高司祭様にため口なんて利いてしまえば、お皿にでも変えられてしまうのでは……?」

 

 ちょっと待った。

 

 話を聞き流してたら、なんか聞き捨てならん言葉が聞こえてきたんだが。

 たまに思うんだけどさ。アリス、俺の事なんだと思ってるの? そんなやたらめったらお皿に変える外道じゃないよ? 敵を宝石とかに転換した事はあるけど。

 

「大丈夫よ、お皿に変えるって言ってるけれど、最高司祭様の脅しの常套句だから、本当にする事はないわ!」

 

 ……むかっ。

 

 確かに、そうではある。そうであるが……そんな大声で、しかも自信満々に言われると、なんか腹立つ。

 ユージオまで、マジか……みたいな驚きで硬直している。

 

「……なるほどね。貴方たちの私への認識がよ〜く分かったわ」

「げっ!?」

 

 企みの最中で誰かに見つかったキリトみたいな顔で、アリスがぐりんっと俺を見た。

 その横でアリスが目を泳がせた後、アリスをビシッと指差す。

 

「あ、アリス! あんな大声で言うからですよ! 私には何も責任はありませんからね!」

「酷いわ! アリスだって、最高司祭様をあたかも簡単にお皿に変える人みたいに!」

「じ、事実無根です! そんな事は一言も言ってませんよ!?」

「だ、駄目だよ、二人とも! 全員で一緒に謝らないと、本当にお皿にされちゃうよ!?」

 

 ユージオが仲裁を試みようと、アリスとアリスの間に入ろうとして、更に激化する争い。

 

 …………いや、なんだこれ。

 

 どちらも名前がアリスだから、騎士アリスとか区別を付けていたけど、どちらも入り乱れたら頭の中も訳が分からなくなった。

 

 名前の区別を検討しないと、ベルクーリとかの頭がこんがらがりそうだ。

 

「ま、それはそれとして……喧嘩両成敗ね」

 

 光素と闇素を反発させることなく合成し、自前の紫電を掌に形成する。

 

 ギョッとする二人。ユージオは、既にキリトの車椅子を持って退散していた。

 

「……ディスチャージ」

 

 直後、二つの悲鳴と雷鳴が轟いた。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「……そういう訳で、こいつが復活したと」

「こいつじゃないわ、アリスって言ってるでしょ!」

 

 うへぇ、という表情を浮かべるクリスチャンと、ムスッと頬を膨らませて、腕を組むアリスちゃん。

 

「むぅー……クリスチャンは相変わらず意地悪ね」

「いえいえ……ただ、面倒なのがもう一人増えたなと」

「……もう一人は誰よ」

「アリス・シンセシス・サーティ」

「酷いわ! アリスは真面目なのに!」

「あの生真面目さが、ちょっとなぁ……」

 

 腕を組んで悩むクリスチャンの姿に、どこかキリトの面影が見えるんだが、気のせいだろうか。

 

「それに、どっちも打てば響くものですから」

「──!? もうっ、もう!! 貴方って本当にどうしようもない人ね! そんなに私が勝手に夏至祭に行ったのが気に入らないの!?」

「……ああー、あの日の事はもう気にしてませんよ。ですが、全体的に生意気じゃないですか。なんかこう、クソガキみたいで」

「──っ!? よ、よくもクソガキ呼ばわりしたわね……! システム・コール!」

「その反骨心、やっぱりアリスだなぁ……」

 

 見た事もない顰めっ面で熱素を解放するアリスと、それを楽しげに笑いながら避けるクリスチャン。

 

 騎士のアリスちゃんも、よくクリスチャンに突っかかっては、軽くあしらわれていたし、その光景と今の光景が重なって見える。

 

「ははははっ! 全然当たってませんよ!」

「う、うるさいわよ! 大体クリスチャンが避けなければいいじゃない!」

「それでは詰まらないじゃないですか。ほら、もっと良く狙って……」

「うぐぐ……っ! 大人しく、当たりなさぁ──い!!」

 

 ……不覚にも、良いなぁ、と思ってしまった俺は、もう駄目なのだろうか。

 

 ああやって、クリスチャンに楽しく弄ばれたり、ムキになって戦ったりしてみたい……してみたくない?

 

 

 

 

 

 《わたし》も……クリスチャンにコロコロ弄ばれたいなぁ……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月5日

 

 アリス・ツーベルク復活から一夜明け、再度ユージオを呼び出した。

 

 彼の至上目的が果たされた今、今後の進退を尋ねてみると、整合騎士として、キリトやアリス達の為に力を振るいたいと言ってくれたので、これを機に、上位騎士、ユージオ・シンセシス・サーティツーに昇格させた。

 勿論、シンセサイズはしてない。

 

 上位騎士となると、神器を下賜するのが通例ではあるが、ユージオには《青薔薇の剣》があるので、それは無しとなった。

 

 そしてもう一つ、上位騎士となった際には、整合騎士長との試合を行わなくてはならないらしい。

 

 つまり、再現できなかったベルクーリとユージオの戦いが、しかも俺の目の前で行われたのである。

 

 素晴らしい戦いだった。特に、あの氷の剣を作って、ベルクーリの意表を突く戦法が有利に働き、結果、ユージオが勝利した。

 騎士アリスも、初の試合という利点を用いたユージオの戦い方を賞賛していた。

 しかし、本当に勝つとは思っていなかったらしく、勝敗が決した時のアリスのポカンとした表情が頭に焼き付いている。

 

 その後もてんやわんやで、ベルクーリが「俺が負けちまったから、今日からお前が整合騎士長だな」とイイ笑顔でユージオの肩に手を置いたりして、それをアリスとファナティオが止めにかかって……もう、色々と大変だった。

 

 因みに、続く第二試合としてクリスチャンが乱入してきたら、ユージオは割と呆気なく倒されてしまった。

 

 えぇ、うっそぴょーん……? と、真面目にポカンとしてしまったのは仕方ないと思う。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月13日

 

 ベルクーリは有能で助かる。もう人界軍全員に《バーチカル》と《ホリゾンタル》を覚えさせたと聞いた時は思わず英語で聞き返してしまった。

 やっぱ整合騎士長辞めない方がいいよ、絶対。前世で日本に居た時に、あんな上司か部下が居たら良かったとずっと思っているくらいだ。

 

 日本と言えば、俺も頑張って生きれば日本に行けるのだろうか。

 

 専用の身体(サンエモン)を用意してもらって、ソードアート・オンラインの世界の日本を歩き回ったりするのだ。

 

 そしたら、クリスチャンと一緒にディズニー……ではなく千葉のネズミーランドに行ったり、ぶらぶら途中下車しながら新宿駅地下大迷宮で迷ったり、キリトの家に乱入してアリスを揶揄ったりと、夢が止まらない。

 

 でも、同時にそれが不可能である事も知っている。

 ライトキューブの容量は百五十年分。俺の容量もいつ完全に無くなるか分からない。

 クリスチャンだってそれは同じなのだ。

 

 たとえこの戦争を乗り切っても、その後は二百年間の限界加速が待っている。その間をディープ・フリーズで乗り過ごしても、残り数年だけしか生きられない。

 

 仕方ないのは分かっている。原作を壊したのは俺だ。

 本来アドミニストレータは、もう死んでるはずの人間なのだ。今こうして生きているのは、過去の行いを清算するために与えられた、ほんの少しの奇跡みたいなものなのだ。

 

 それを引き伸ばすような真似は、あまりに傲慢だろう。

 

 だからこの奇跡は、物語を変える為だけに使う。

 それが、俺にできるせめてもの償いなんだ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月26日

 

 

 

 何故かクリスチャンが一緒に寝てくれなくなった。

 

 もしかして、昨日の事が悪かったのだろうか。そんなはずはないと思う。でも、どこか苦しそうに言ってきたから、断れずに認めてしまった。

 

 鬱だ。これ以上何も書きたくない。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月27日

 

 

 

 ベッドで一日中転がっていただけだった。

 

 どうして、一緒に寝てくれなくなったのだろうか。

 

 考えるあまり物事が手につかない。改変を誓ったのではないかと叱咤したとしても、心をかき暗すのはクリスチャンのこと。

 

 駄目だとは、分かっているのに。

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月28日

 

 

 

 クリスチャンに嫌われたのだろうか。

 

 とうとう、愛想を尽かされたのか。

 

 それもそうだ。こんな男とも女ともしれない混ざりものなんか────(以降、紙面が波打って、文字のインクが滲んでいる)

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月29日

 

 

 

 さむいよ

 

 さびしいよ

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年6月30日

 

 

 

 

 一人に しないで

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年7月1日

 

 いや

        いやだ

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦──

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人──

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年7月9日

 

 思えば、もう何日も日記を書かなかったらしい。

 俺、あんまりにもメンタル弱者過ぎない?

 

 そんな訳で、俺はどうにか復活できた。

 

 いつまでも最上階に篭りきりでは、話せるものも話せないのは自明だったし、話をしないとと思っていたのもあって、やっと今日、カセドラルを下りる決心がついたのだ。

 

 よわよわ精神のまま、吹けば飛ぶレベルに弱体化した仮面を着けて、クリスチャンに会いに行ったが、今思えば大きな賭けだったなと自分で自分に感心している。

 

 ペルソナ、すなわち外面を作る事は、振る舞いに関する一種の自己暗示であるので、無論本人のコンディションに依拠する。

 だから仮面を着けようが陰鬱な気分は晴れないし、悪口でも吐かれようものなら一瞬でメンタルブレイクだ。……お前それでも最高司祭か?

 

 そんな捨て身戦法でクリスチャンに尋ねた所、意外な事実が発覚した。

 

 曰く、一緒に寝ているとナニがスタンダップして、いつ襲ってしまうか分からない。処理に困る。それよりクィネラ様が魅力的すぎるのが悪い。だから苦肉の策として一旦離れることにした────という事のようだ。

 

 とばっちりを食らってるだけじゃん、と心の中で突っ込んでしまったくらいだ。

 

 そりゃまあ、一応夏至祭の最後にアレをした自分も原因とは思うけど、まさか性欲にやられてるとは思わないじゃん?

 

 その事で完全に嫌われたと思って、三週間も絶望していたんだとこの野郎と怒ったら、クリスチャンは土下座して謝ってきた。

 

 そこは、なんかこう、抱き締めたり、慰めてくれたりした方が良かったのにと思わないでもなかった……傲慢ですよね、ごめんなさい。

 

 スタンダップする件に関しては、理解はあるので同情はする。

 何百年も一緒に真っ裸で寝ているとは言え、男子たるもの若さゆえの欲求不満は目の上の瘤だろう。

 

 それを黙って勝手に行動したのは頂けないけど。まあ許す。

 

 クリスチャンには、どんな事情にしろ、俺に関連する事は報告第一にすることと、偶にでいいから一緒に寝てくれないと、不安で自殺しかねないと言っておいたから、これで問題は解決した。

 

 

 

 

 まあ、俺はすっかり依存してるけどな!

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 人界暦381年7月13日

 

 ユージオと二人のアリス達が、キリトを連れてルーリッドに帰郷するらしい。

 

 今回の帰郷の理由は、無論だがキリト処刑の声が上がったからではない。騎士アリスが、妹のセルカを一目見たいと言ったからだった。

 

 いや、それって行って帰ってくるだけじゃん……と思った俺の粋?な計らいにより、任務の体で向かわせた。いやまあ、ゴブリンも襲ってするしな……しょうがないと思っている。これでルーリッドが滅んだら、それこそ最悪だ。

 

 みんな沈痛な表情に満ちていたが、カーディナルから侵入を報せてくれる使い魔を付けてくれるそうなので、襲撃まではどうか、平和な日常を謳歌してほしい。

 

 出発は十日後の23日を予定しているようだ。

 遠隔監視術式で、セルカ達の反応でも盗み見ようかな。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年7月23日

 

 ルーリッドに行くユージオ達を見送った後、カーディナルから《ソードゴーレム》に使われた人々を元に戻してやってくれと打診が来た。

 

 でも、元に戻したら、デュソルバートとか取り乱しそうだし、エルドリエがマザコンにならないか不安だ。

 

 なので、ちょいと待ってねと返しておいたが、カーディナルは不服らしい。

 

 でもなぁーとか、あーだこーだ言っていたら、交換条件にと、明日一日は暫くクリスチャンを借りていいかと言われた。

 別にそれくらいは構わないのだが、どうしてクリスチャンなのかは謎だ。しかもやけに嬉しそうだったのが気になる。

 

 なにか用でもあるのだろうか?

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年7月24日

 

 アリスが二人現れた時のセルカの顔といったら、あれは傑作だった。その前にも、かなりうるっと来てしまった。歳を取ると、感情が制御できなくなるのは本当だったんだな……

 いやぁ、今日ほど遠隔監視術式があって良かったと思った日は無いだろう。

 

 それはさておき、裏で頑張ってくれていたフェノメアが、過労でぶっ倒れたらしく、いま俺のベッドで寝かせている。エルドリエが大慌てで最上階に駆け込んできたからビックリした。

 

 パラメータを参照する限り、あの子はどうも、ここ数ヶ月間でまともな食事睡眠を取らなかったらしい。疲労値が90、健康値が−80なんて数字は初めて見た。

 

 確かに、昔は公理教会の抜本改革に奔走していたものだが、最近になってブラックな労働をしていた理由が不明だ。

 後で問い質すべきだろう。

 

 それにしても、あのエルドリエの焦りようと言ったら凄まじかった。顔面蒼白になって、今にも泣き出しそうになっていたのだ。

 そんなに仲良かったっけ、エルドリエとフェノメアって。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

『人界暦381年7月28日

 

 今、この日記は私が書いている。

 

 だから、いつもは思う事そのままにすらすらと書ける筈の日記も、途中で筆が止まる。ここまで書くのに十分以上掛かっているくらいだ。』

 

 

 

 ……と、書いた所で、またも《わたし》の筆が止まる。

 

 今日は、特筆に値すべきものは何もなかった。居室のベッドに転がり、ただ永遠の自問を繰り返していただけだった。

 

 ──《わたし》とは何か。

 

 色んな問答があったが、結局その一点に集約される。

 

 心理学、哲学においても、しばしば議論される命題ではあるが、普通誰もそんな事を気にしてはいないし、人に聞こうものなら一笑に付されるだろう。

 

 しかし、こうして考えるのも訳がある。

 

 ……そうだ、ここに脳内会議の記録を残しておこう。

 

『他愛もない事だが、私は今回、脳内会議というものを開いた。

 

 誰かを好きになる私は本当に私であるのか、出来るだけ客観的に観察してみようとしたが、果たしてどこまで正確かは分からない。そもそも、それが真に本当かさえ分からない。

 

 だが、幾つかの結果が得られたので、ここに記す。

 

 フラクトライトの観点から見るわたし

 →クィネラと俺が合わさって出来た、新たなる一個体として位置づけられると考える。

 しかし、現時点で俺が持つはずのフラクトライトの記憶領域は未発見である。

 

 好悪の観点から見るわたし

 →クィネラと俺に共通するものであると推察される。

 好:菓子作り, 花, 神聖術, キリト, カーディナルetc...

 嫌:虫(蜘蛛は例外とする), 柳井(871), チュデルキン

 

 性格から見るわたし

 →クィネラ寄りだと推測される。

 大雑把で気まぐれであるが、何かと整頓されていないと気が散るタイプでもある。』

 

 この日記にもあるように、書いたはいいものの、果たして、これが本当に合っているのかは、とてもじゃないが確信できない。

 

 自分を客観的に評価するのは難しい事だ。

 喩えるなら、突然自分の長所や短所とは何ですかと問われた時、大半の人は暫時考えなくてはならないように、自分を常に意識的に考える人なんて、そういないものだからだ。

 

 でも、それにしては情報量が少な過ぎないだろうか……

 

「……更に加えれば、乙女思考といったところか。あれこれ理由を付けんと、自分の行いを正当化出来ないタイプじゃ」

「……そう、かしら」

 

 筆先を帳面に滑らせ、新しく情報を書き加える。そうして、書き出された文字を再読して……ぶわりと総毛立った。

 

 こんなこと、そもそも思った事すら無いことに。

 

 意識が冴え渡り、頭は現状の認識に取り掛かる。どうして直ぐに気が付かなかったのか。

 

「か、カーディナル……」

「珍しい事もあるものじゃ。まさか、お主が仮面を被っておらんとは」

 

 後ろから覗き込むカーディナルの存在を知覚して、しまったという後悔と、日記を見られた事への羞恥で、顔が熱くなっている。

 

「なんでここにいるのよ」

「最高司祭代理が最上階に居てもおかしくなかろう?」

「……でも、ここは私のプライベートスペースなのよ。ちびっ子なんかが勝手に入らないで」

「つれない奴じゃの」

 

 そうは言いつつ、表情は愉しげだ。カーディナルからすれば、《わたし》なんて、ただの小娘に過ぎないのだろう。

 

 そう思うと、《わたし》の中に僅かながらに存在する自尊心の欠片が震える。

 

「いつまでも悪戯心が抜けないのは感心ね。ずっとおちびちゃんなのもそのせいじゃないの?」

「それを言ったらお主もじゃろう。いつまでも乙女ったらしく永遠の十八歳を気取りおって」

「……!?」

 

 所詮わしと同じ穴のムジナじゃよ、と付け加えられてしまい、僅かな自尊心が粉々に砕け散った。

 

 何も、そこまで言わなくても……

 

 たまらなくなって、拒絶の意思表示として机に突っ伏した。

 

 カーディナルと話していると、《わたし》の心が何もかも見透かされて、嫌になってしまう。

 性格、好み、思考を全て知り尽くし、なおかつ客観的に見ることの出来る唯一の人間なのだから、見透かされるのも当たり前ではあるけども、その度に思い知らされるのだ……

 

 《わたし》は神様じゃない。

 

 そして、絶対の支配者でもないと。

 

 だから自分はずっと弱いのだ。自分を頑なに拒絶して、理解しようともしない。振り子みたいに、自分がどこにいるのかも定まらないまま、ふらふらと揺れている。

 

 ──《わたし》とは何か。

 

 クィネラはアンダーワールドを支配しようとした。

 〝俺〟は非情になりきれずとも、在るべき物語の演者になりきろうとした。

 

 だが結果として、《わたし》はどちらも選べないまま、成り行きで救済という選択肢を取った。

 

「……ねぇ」

「なんじゃ」

 

 机に反響して、くぐもった声で呼ぶと、少し不機嫌そうに反応された。まだ居るなんて、少し意外だ。

 

「……私って、何なのかしら」

 

 それでも隠すことのない、不愉快という感情をひしひしと感じ取りながらも、《わたし》は顔を上げて尋ねる。

 

「逆に聞くが、そんなものをわしが知っていると思ったと?」

「そ、そうよね……」

「……斯く言うわしも、自己同一性については悩みの種じゃったがな」

 

 驚きはない。寧ろ、そうだろうと思ったからこそ、カーディナルに尋ねたのだから。

 元はただのプログラムに過ぎなかったのが、人格を得たのだ。自分とは何かと考える事は多かっただろう。

 

 そして、《わたし》を誰よりも……それこそ自分よりも知っている人物、それが彼女だから。何か助言をくれるのではと、勝手に期待していた。

 

「……そもそも、お主は既に自分だけのものを見つけておるじゃろう? 前世ともクィネラとも違う、お主だけの感情がな」

「……感情?」

「自覚も無しとは……本当に困り果てた奴じゃな、お主は」

 

 こうして、呆れた目を向けられるのも、何回目なんだろう。

 

 思わずムッと睨み返すと、お手本のように肩を竦め、やれやれと短く息を出した。

 

「先日、わしがクリスチャンと共にデートに出掛けた事は知っておるな?」

「──待ってそんなの知らないんだけど!?」

「話の腰を折るな馬鹿者」

 

 勢いよく立ち上がったら、カーディナルの杖でボガッと頭に一撃を食らわされた。

 い、痛い……! 理不尽……!

 

「……まぁ、そんな事があったのじゃよ。それで、お主はどう思った」

「あ、あたまが……っ」

「こ、この……! それぐらい自分で回復出来るじゃろうが!」

 

 あ、そうだった。

 

 指から光素を生成して頭に当てると、痛痒が和らいでいく。

 優先度40オーバーの攻撃は、普通に殴られてもその五倍は痛い。

 

 《わたし》の武器(シルヴァリー・エタニティー)はもう無いのに……酷いとは思わないか。

 

 椅子に座り直して、むっとしながら言い返す。

 

「で、さっきから何が言いたいのよ」

「そう急くでない……もう一度尋ねるぞ。わしとクリスチャンは央都デートに行ったのじゃ。いやはや、実際に歩いて回るのも刺激が違っての。食べ歩きというのも、乙な文化じゃよ」

 

 へ、へぇ……央都デートね。それも、カーディナルとクリスチャンが。

 

 昨日カーディナルが妙に嬉しそうだったのは、このデートのためだったらしい。

 

 ふーん、へぇ〜……そうなのか。わたし(・・・)に黙って、ねぇ……?

 

「……クィネラ?」

「あら、どうしたの? 私今忙しいんだけど」

 

 お前とクリスチャンを、一体どうしてやろうかを考えるのに。

 

 びくり、とカーディナルが体を一瞬だけ震わせて、咳払いをした。

 

「率直に、さっきの話を聞いてどう思うたかを、わしは尋ねておるのじゃよ」

「どうって、殺意だけど?」

「……お主、さては病んでおるな」

 

 病んでるって……自分は別にそんなじゃない。

 明らかにヤンデレとは違う。

 

「まぁ、それは良いのじゃ。わしが問題とするのは、その気持ちがあるという事じゃよ」

「……?」

「クィネラ、お主はわしに嫉妬しておるじゃろう?」

 

 嫉妬。妬み嫉み。

 類義語は羨望。

 

 その意味をちゃんと理解した時、顔が真っ赤に染め上げられるのを感じた。

 

「クリスチャンこそ、お主が最も愛する者……それを取られて、お主はわしに嫉妬しておるのじゃ」

「そんな訳は……」

「あるとも。わしに取られて殺意を抱く。つまり、それは行き過ぎた嫉妬心がもたらすものじゃ。ちゃんと頭の中で整理してみよ」

 

 嫉妬に狂う……つまり、アレだ。キリトが他の女の子……例えばアリスとイチャイチャしているのを傍目で見ているアスナみたいな状態を言うのだ。

 コミケとかの同人界隈でも、ヤンデレとして定評があったし……

 

 そう考えると、確かに、わたしは嫉妬しているのかもしれない。カーディナルがアリスポジにいるのは絶対におかしいと思うけども。

 寧ろ、わたしの方がアリスに近いまである。

 

「はぁ……そうね、認めるわ。私は嫉妬してる。でも、それがどうしたって言うのよ」

「ここまで来て分からんか? お主はもう、この時点で一つのアイデンティティを得ているようなものじゃ」

「そうなの?」

「当たり前じゃ。クリスチャンを愛し、そして嫉妬する。そんな人間的な感情を、果たして《クィネラ》は持っておったか? 誰かを愛することを、前世のお主は身をもって知っておったか? ほれ、見てみい。これでお主のプロフィールは出来たようなものじゃ」

 

 すらすらと手が動いて、『クリスチャンを愛している』と書かれたその一文には、不思議と力が篭っているような気がした。

 

「その気持ちは、クィネラや前世に由来しない、お主だけの感情じゃよ」

「……私だけの、もの」

「ああ、そうだとも。そもそも、お主が己を確立した個人として認めようとしないのが全て悪いのじゃ。お主がいくらクィネラと前世の記憶が混ざって生まれようが、それはお主という個人を形成する一因であって、お主とは違うもの。ただそれらに影響されて、その仮面の内のクィネラを育て……そうして、誰かを愛することを知った今があるのではないのか?」

 

 それを聞いた時、《わたし》はハッとした。

 

 何故なら……自分自身、それをよく知っているはずだから。

 

『知ってる? 自分の人格ってものはね、他人や社会環境の影響を受けて育つの』

 

 そんなことを、少し前に言った記憶がある。

 

 自己同一性に揺れるアリスに、そう助言した。

 そうであるからこそ、アリスはアリス・シンセシス・サーティとして生きられるのだと。

 

 《わたし》も、彼女と同じなのだろうか?

 

「お主は、もっと自分を大切にせんか。利己の塊であったあのクィネラの要素なぞ、もう一欠片も無くなっておるぞ」

「……だって、わたしは」

「ほれ、そういう所じゃ! 全く、支配欲の化身がこんなにも卑屈になりおって、面倒くさい事この上ない……」

 

 椅子の上で、膝の上においた拳を握り締めて俯く。

 

 もう何度目かの溜息がカーディナルから漏れた。

 

「良いか? そんなくだらない考えは早く捨てることだ。ウジウジとしている間に……この()に掻っ攫われたくなればな」

「──え?」

 

 言いたいことを言い終えるのか、カーディナルがふんと鼻を鳴らすと、どこかに消えてしまった。

 

 残ったのは、呆然と顔を上げたままの《わたし》だけ。カーディナルは扉を用いて、さっさと図書館に篭ってしまった。

 

 突然の事だった。カーディナルの雰囲気が変わって、らしくない話し方になったのは。

 

 でも、呆然とする中で、頭で理解しなくとも、自ずと感じた。

 

 ──カーディナルは、恋敵(ライバル)だ。

 

 どうしてカーディナルがクリスチャンのことを好きになったのか、そんなものは分かりっこない。

 だからといって、湧き上がる醜い激情を誤魔化せなかった。大切なものを横から奪っていこうとするあの存在を、どうして認められようか。

 

 これ以上、日記は書けそうにもなくて、席を立った。

 

 机を地面に格納し、ベッドに転がって目を瞑る。

 

 クリスチャンに、《わたし》の口から気持ちを伝える資格が与えられるのは、自分が、クィネラや〝俺〟とも違うと証明出来た時だけ。

  そう、クリスチャンの腕の中でそう誓ったあの夜。

 

 カーディナルには、全部お見通しだったという訳だ。なぜ、ハッキリしない関係を延々としているのかを。

 

 その上で……《わたし》にアドバイスするような真似をしていた。

 言外に、お前はまだ土俵にすら立っていないのだと伝える為に。

 

「ふ、ふふふ……言ってくれるじゃない」

 

 こちらには敵に塩を送る余裕さえあると、挑発するようにマウントを取ってくるとは、なんて命知らずなことか。

 

「絶対に後悔させてやるわ、この私を敢えて土俵に引き込んだことを。あの子供面がクシャクシャに歪むまで……あははははっ! 想像するだけで楽しいわね」

 

 クリスチャンのいない夜から引きずっていた澱んだ思いが吹き飛んで、全てのしがらみから解放された気までしてくる。

 

 恋敵という存在が居るだけで、こんなにも背中を押されてしまうなんて……つくづく私は単純だ。

 

「せいぜい、束の間の安穏を謳歌するといいわ」

 

 でも、感謝しよう。

 

 まだ、心の底から《わたし》が私であると認めてられてはいないが……

 

 ……お前のお蔭で、それも頑張れるのだから。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年8月1日

 

 暗黒界の情勢がきな臭くなってきた。

 

 今日、整合騎士を経由して、暗黒将軍シャスターより届いた親書によると、暗殺者ギルドの首がすげ替わったらしい。

 

 これまでギルド長をしていたフ・ザと替わった者の名は、

 

 ──プー。

 

 十侯会議で、彼はそう名乗ったらしい。

 

 フードの中はよく見えなかったが、左眼の横に、縦に刺青があったとあり、ニタニタと嗤う表情が特徴的だったとも。

 

 それで、俺は確信した。

 奴は、笑う棺桶(Laughing Coffin)地獄の王子(Prince of Hell)だ。

 

 だが、奴があのラフコフのPoHであるのは確実としても、あまりに奇妙だ。

 

 まず、この時期にはやって来る筈が無いということ。千倍加速状態だとすれば、まだあちらはメインコン占領から五、六分しか経っていない。そんな直ぐに、アンダーワールド内部からのオペレーションを考えつくとは思っていない。

 

 それと、ガブリエルが一緒に居らず、暗殺者ギルドにいるのも奇妙だ。ガブリエルが現れたら、シャスターは真っ先にその事を伝えるだろう。皇帝ベクタが降臨したと。

 その上、PoHは最初、SAOのアカウントではなく、暗黒騎士のアカウントで乗り込んでくる筈。まるで意味が分からない。

 

 カーディナルもこの事態を重く受け止めており、暗黒界に幾つかユニットを放っている。俺の与知しない現実世界にまで何らかの異常が起きているのだから、これを無視することは最早不可能だ。

 

 

 

 

 わたしが死んでしまう前に、カーディナルと決着をつけなくては。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年8月11日

 

 ダークテリトリーの帝都オブシディアに侵入した。

 

 現地で調査をしていたシャーロットと合流してから久し振りに訪れたそこは、小説やアニメの印象とはまるで違う都市に仕上がっていた。

 街ゆく人々の身だしなみは、人族だろうと亜人だろうと、セントリア市民に劣らない衛生さがある。

 

 ここが本当に、禁忌目録ではなく、実力至上主義の《鉄の掟》からなる不文法主義国家だというのかと驚いたものだ。

 俺が介入しただけで、こうも変わるとは。

 

 しかも、俺がかつて教育者や学者として送り込んだ人界人との混血が進み、肌の白いもの、浅黒いものが一緒に暮らしている。自分のしでかした事の重大さに、今更気付いてしまった。

 これ、戦争になったら人界呆気なくやられない? 凄く不安になってきた。

 

 《空の心意》で存在自体を隠しながらの調査であったが為に、得られた情報こそ少ないが、様々な場所に侵入してまわった為、収穫はあった。

 

 どうやら、ダークテリトリーで暗黒神ベクタとは、以下の二人を指すようだ。

 

・天界より降りて、民を恐怖で支配し、オブシディア城を建てた、オブシディア帝国初代皇帝、悪神ベクタ

 

・それよりも遥か昔、村であったオブシディアの民に食糧を恵み、知恵と力を授けたとされる、女神ベクタ

 

 神立オブシディア帝国学院なる、俺が建てたあの学校にも、『飢えし民にパンを恵む女神』なるステンドグラスの絵があり、俺っぽい銀髪の美少女が、跪く暗黒界人に丸いパンを上げていた。

 

 《空の心意》を共有するために手を繋いでいたシャーロットが、それを見て呆れ返っていたのは記憶に新しい……うん、本当にごめん。

 

 でも、一つ光明が見えた。ここで俺が現れれば、ベクタの再来と《十侯》やオブシディアの民から思われるに違いない。

 

 あわよくば、皇帝として君臨して、戦争を回避という手も無くはないのか?

 そこは要検討か。

 

 そうして学院の図書館を出た後、二人でぶらぶらオブシディアを散策していると、街の中でリピアちゃんを発見した。

 

 これ幸いにと彼女を捕まえて事情を話すと、突然の来訪に驚かれたが、色々と融通を利かせてくれた対応の素早さは見事の一言だ。

 

 現在は、リピアちゃんが経営しているという孤児院の一室に宿泊している。

 オブシディア郊外だったが、俺の術なら一瞬で辿り着いたので、問題も無い。

 

 明日は、シャスターとの面会とPoHの調査のため、オブシディア城に潜入する予定となっている。

 

 成功したらいいけどなぁ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ──コンコン

 

「……んぅぅ〜?」

 

 ──コンコン

 

「……もう、誰よ〜。まだ寝てたいんだけど……」

『失礼致しました、リピアです。そろそろ、外出のご準備をと……』

 

 という声が聞こえて、一瞬で意識が覚醒した私は、掛け布団を引っくり返す。

 

 いつもの、ガラス張りになった我が家(カセドラル)ではない。質素ながら、清掃の行き届いた小綺麗な木調の部屋──孤児院の貸部屋だった。

 

「……すっかり家気分になってたわ」

 

 幼少(クィネラ)の頃の部屋によく似ているから、完全に寝入ってしまった。なんとなく、顔が熱い。

 

 腕を上によく伸びてから、いつものひらひらの服と俺仮面を着け、部屋を出る。

 

「おはよう、リピアちゃん」

「おはようございます、最高司祭殿。朝食は召し上がられますか?」

「うーん、別にいいわ。私、基本的に食べなくていい身体だし」

 

 ってか、シャーロットはどこ行った……

 

『ここよ、髪の上に居るわ』

 

 ぴょん、と飛んで、俺が出した手の上に飛び乗った。

 

 何の因果か、ユージオやカーディナル同様、あの戦いで生き残った愛すべき蜘蛛である。

 

 俺、虫は全般的に好きになれないんだけど、蜘蛛だけはなんか可愛く見えるんだよなぁ。

 

「……あ、貴方ねぇ。少しは遠慮ってものは無いの? 一応、お前の主の敵なのよ?」

『ええ。でもカーディナル様が、『彼奴は最近チョロいから、それくらい問題無い』と……』

「よし、次会った時に殴ろう」

 

 カーディナルは一体俺をなんだと思ってやがる……と反駁したいが、チョロいと言われて、頭ごなしに否定できない分殴りたくなる。

 

 シャーロットも特に言い咎めないし、やってもいい?

 

『…………』

 

 沈黙は肯定。それなら、是非とも一発殴らせてもらおう。

 

 シャーロットが頭の上に隠れてから、外套を羽織った俺は、リピアの後ろについて行く事になった。

 

 ……なんか、視線を感じるな。

 

 ここは孤児院であるので、子供がいるのは当然だ。昨日、少しの間だけ子供達とも会っている。性根の良い、優しい子達で、俺もつい構ってしまったのだが……

 

「……確か、シャーリーちゃんだったかしらね?」

「!?」

 

 顔を振り向きながら廊下の後ろに目をやると、曲がり角の部分でこちらを覗く赤い瞳が。灰色のミディアムヘアで、暗黒界人特有の浅黒い肌の少女。

 

 シャーリーと名の付いているこの少女とは、他の子供たちと一緒に少しだけ遊んだ仲だった。

 

 何をして遊んだのかというと、まあ、面白い神聖術を幾つか教えたり、実践的な剣技を教えたくらいで、遊びより寧ろ勉強だった気がしなくもない。

 

 その子は周りをきょろきょろと確認すると、小走りでやってきた。

 

「す、すごい……どうして、見てもないのに分かるの!?」

「こら、シャーリー。最高司祭殿にあまり無礼な態度を取るなと言っただろう」

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 リピアが叱ると、その子は直ぐに佇まいを正して、深くお辞儀をした。

 教養もあるのか、とても聞き分けの良い子供だ。

 

「別にそんな事でいちいち目くじら立てないわよ。ちょっと厳しいんじゃない?」

「い、いえ。最高司祭殿は人界の代表ですから。目上の方への礼儀というものは大事にしなくてはなりません」

「ふぅん……まあいいわ」

 

 シャーリーに向き直ると、膝を折って目線を合わせると、微笑んでやる。

 

「今のは心意よ」

「? シン、イ?」

「そうね……要するに、強く願うこと。何かをしたい、って気持ちを最大限に高められたら、できるようになるわ」

「気持ちを、高める……」

「今はまだ解らなくてもいいわ。でも、使えるようになれば、リピアちゃんみたいになれるわよ」

「リピア様みたいになれるの!?」

「ええ、きっとね」

「なら頑張らなくちゃ!」

 

 リピアに憧れているらしいこの子が可愛くて、頭を撫でてから、バイバイと去る。

 

「また来てねー!」

 

 と元気よく手を振っていたのがなんとも微笑ましい。

 まるで、昔のアリスを見ている気分だった。

 

 そんな私を、昨日と同じく不思議そうに見てくるリピア。

 どうも、俺が子供も関わる姿がしっくり来ないらしいのか、少し首を捻っている。

 

「……最高司祭殿は」

「ん?」

「その……子供が、お好きなのでしょうか」

 

 遠慮がちにそんなことを尋ねられ、俺も少し呆気に取られる。

 

 子供、子供ねぇ……

 

 う〜んと唸ってみる。

 子供ならなんでも好きな訳ではないから、強いて言うのならば。

 

「まあ、好きか嫌いかで言えば、割と好きなほうよ。でも、クソガキはムカつくからダメね」

『く、クソガキ……フフッ』

 

 おいこらシャーロット。何わろとんねん。

 

 誰だって、従順で無垢な子が好きに決まってるだろう。

 例えばアリスちゃんとか。

 

 クリスチャンはアリスちゃんがそこまで好きじゃないらしいけど……

 

「あなたもそうじゃないの?」

「……いえ。私は最高司祭様の言う〝クソガキ〟……手間のかかる子の方が好きですね」

「あら、なんで?」

 

 おっと、ここに例外が居たらしい。

 さてはリピアちゃん、かなりの世話好きだな……と内心で考えつつ、横を歩く彼女の顔を覗く。

 

 すると、思い出し笑いなのか、ふふ、と愉しげに口角を上げると、彼女は語った。

 

「手間が掛かった方が、思い出になるのです。私は騎士ですから、いつも使命に殉ずる覚悟を持っております。故に、いつ死ぬかは分かりません。ですが……死ぬ前に、出来るだけ多く、子供達と過ごした思い出を残しておきたいのです」

 

 ……ふーむ。なるほど。

 

 この価値観の相違は、珍しいものではない。

 寧ろ、整合騎士にもよく見られる類いものものだ。

 

 整合騎士になると、寿命という制約から解き放たれる。すると何が起きるかと言うと、時間の使い方、感じ方に異変が生じるのだ。

 

 俺は、出来るだけ面倒をかけたくないというか、時間をかけたくないだけだし、そこまで死に恐れを抱いている訳じゃない。

 リピアちゃんは、騎士という身分で、死ねと言われたら死ぬし、それが明日かも、もしくは今日かもしれない。それはとても怖いことだろう。

 

 ベルクーリ曰く、整合騎士は歳を取らない分、寿命のある暗黒騎士よりも鍛錬修行への熱意が冷めているらしい。

 

 いつだって、全力で。

 命が短いからこそ、出来ることを出来る間にやりたいと思えるのだろう。

 

「それは、きっと幸せね」

「…………」

 

 たった百年ぽっちしか生きれない地球の現代人だって、いつも全力を出すわけじゃない。

 

 そうなると、俺が如何にだらけきっている事か……全力で、とは言うが、今の今まで、俺は全力を出した事が無い。

 キリトとの戦いは、心意の使用法をかなり制限して戦っていたし。

 

「……礼を言っておくわ。ありがとね」

「え? ええと……」

「さ、行くわよ」

 

 リピアを置いて、帝都へのゲートを潜り抜ける。

 

 本気で、何かをした事がない。その事実が、俺に当たり前を気付かせてくれた。

 

 誰かを好きになったのなら、その気持ちと向き合って、全力で対処していかなくてはならない。

 

 本気でやらなくて、恋などできるもんか。

 

『……最終的には、カーディナル様が勝ちますけどね』

 

 ──なにおう!?

 

 

 

 

「暗黒騎士第二位、リピア・ザンケールが参上した! 門を開けよ!」

 

 リピアの声を聞くと、ゴゴゴ……と重い音を響かせて重厚な金属の門が開く。

 リピアちゃんの後ろ姿が非常に凛々しくて、思わず目をキラキラさせてしまう。

 

 ……一度は、ああいうのやってみたいなぁ。

 

 感慨と共に息を吐くと、《空の心意》で隠れながら、彼女の背中に引っ付くようについていく。

 

「……居られますか、最高司祭殿」

「居るわよ、すぐ後ろに」

 

 音を遮断していた心意を解除して話し掛けると、リピアちゃんがビクッと反応した。

 

「凄まじいですね……シンイなる御業は。気配を全く悟らせないとは……」

「まあね。特に、これは今の所私とクリスチャンしか使えない心意だから、今すぐやろうと思っても難易度は高いわよ?」

「そうでしょうね……いつかは、私も身に付けたいものです」

「ふふ……いつか、なんて言ってると、シャーリーちゃんに抜かされるわよ」

「ええ……あの子は素質がありますから。しかし、まだ抜かされたくはありませんね」

 

 リピアちゃんはお若いんだから、まだまだ成長の余地はあるだろうに。特に、ファナティオに指導させたら、整合騎士レベルに成長するんじゃなかろうか。

 

 そんな事を思っているとは露知らずに、リピアちゃんは階段をズンズンと上がっていく。なんか凄く速くて、普通に置いてかれそうだ。

 

 シャーロットが頭をつんつんし始めたので、これはもう最終手段を取るしかない。

 

 心意シリーズ第六弾──《心意の浮遊》。

 

 俺が最終決戦でも使用した、気を付けないとカトンボされてしまうアレである。空気椅子しつつ足組みとかできるから、それっぽい雰囲気を出す時に重宝している。

 あの時は、キリトの爆弾発言のせいで落ちたけど、普通は心意なんて切らさないからね?

 

 そんなカッコつけ専用みたいなこれだが、割と自由自在だ。簡単に言えば、アンダーワールド版ピー◯ーパンである。

 ほら、あれも自分は飛べるって信じないと飛べないとか、そんな感じなのだが、詰まるところそれは心意である。

 

 なので、個人的には飛んでいるつもりなのだ。たとえ《空の心意》で隠れながら、空気椅子状態でスイーッと斜めに移動しているとしても、飛んでいるつもりである。

 傍から見たらえげつないシュールな絵面だが。

 

 それでは示しが付かないので、足を組んで頬杖を突いているが……これ、どんな感じ?

 

『…………人前では、絶対にやらない方がいいわ』

 

 ですよねー。うん、知ってた。

 胡座かいて浮遊移動する方が、絵面的によっぽどマシに決まってる。

 

 下らない事に拘っている間に、階段を上がり終えたらしく、その階の廊下を歩く。

 

 すると、奥から、どこか見覚えのある人影が……

 

「あ〜ら? リピアじゃなぁ〜い?」

 

 無駄に間延びして、人を嘲る様な艶やかな声。

 露出の激しい衣装。

 白髪ロングに、青い瞳。

 

 あらゆる特徴に符合する彼女……俺も、頭の中にその名前が浮かんできて、目を見開いた。

 

「──ディー・アイ・エル……!」

「目の敵にされる謂れはないのに、リピアったら酷いわぁ……それも、この私は《十侯》なのに、ねぇ?」

 

 そんな、馬鹿な。

 

 頭が理解することを拒否する。疑問符が頭の中を埋め尽くす。

 

 まさか、どうして……

 

 

 

 なんで、肌が真っっ白なんだよ!!

 

 

 

 おかしい、これはおかしい。どうしてこうなった?

 

 しかも、口紅が赤い! アイシャドウも赤と青でグラデーション掛けてる!

 

 これがあのDILさんだって? あのお色気担当で、場の盛り上げに貢献してくれた、褐色グラマラス美女だって?

 

 

 

 そんな訳無いだろうがッッ!!

 

 

 

 はぁ、はぁ…………はぁぁぁ。

 

 ……最悪だ。また原作を変な所で壊してしまった。

 

 DILさんの肌の色だけ変更とか、誰が想像出来るのか。

 しかも、個人的に原作改変の中でも許し難い部類のやつだ。介入しようだなんて考えた過去の俺を呪いたい。

 

 これからも原作ブレイクが続出するのかと思うと先が思いやられる。

 何もかも自業自得で、諦めて受け入れるしかないというのが、かなり精神に来るな……

 

「にしても、こんな《十侯》の階まで上がってくるなんて……何しにきたのかしらぁ?」

「……将軍閣下のもとに、ですが」

 

 先程から、妖艶に笑うディーちゃんをじっと見ているのだが、非常に興味深いことに……どことなく面影が《わたし》によく似ている。

 

 髪色だって、白に近いが少し紫味があって、顔立ちも、親戚かな? と思えるくらいには似ている。

 

 だが、これだけは間違いない。

 

 ──《わたし》の方が、圧倒的に美少女だ。

 

「閣下……ああ、シャスター将軍ねぇ。なぁに〜、リピアったら、まだあんな年増のオジサンが好きなのかしら?」

「……っ!! 貴様、閣下を愚弄するか……!」

「そんなつもりはないのよぉ? ただ、貴方の為を思って言ってるだけで、ね」

 

 剣を抜きかけるリピアを諌めながら、その横を通り過ぎる。

 

 その一瞬、眇られた目が二人の間で交錯し、ディーちゃんが笑みを浮かべる。

 

「……じゃあ、また会いましょう? リピア」

 

 チラリとリピアを背中越しに見遣ると、彼女の姿が黒い粒子になって、床に吸い込まれた。

 

 ……しかも、ゲート要らずの空間転移術が使えると。

 

 う、ううむ。神聖術士としてのレベルが驚く程高いと見た。

 無駄な強化でリーファちゃんが苦労しなければいいのだが。

 

「……大丈夫? リピアちゃん」

「……申し訳ありません。怒りで我を失ってしまいました」

 

 非常に、申し訳なさそうに眉尻を下げているが、まあ、あんな言われ方をして、怒らずにはいられないだろう。

 

「……好きな人を酷く言われたら、誰だってそうなるでしょう?」

「す、好きな人……」

 

 ありゃ、顔を真っ赤に染めて可愛らしい。

 

「私にも居るから、なんとなく分かるの」

 

 クリスチャンが悪口を言われてる光景なんて想像もできないが、仮にあんな事を言われたら、速攻で消し炭にしているかもしれない。

 

「最高司祭殿にも……居られるのですか?」

「意外かしら?」

「は、はい……浮世離れした印象が強かったものですから」

「そんな事ないわよ。私も一応人間なのよ? 誰かを好きになることだってあるわ」

 

 まあ、俺がヒトの範疇に入るか、甚だ不安ではあるんだけど。

 

『……これは不味いわね。暗黒術士ギルド長が、あれほどの強さを持ってるだなんて』

 

 シャーロットの言葉には同意だ。もしかしたら、原作よりも恐ろしい術式を抱え込んでいるかもしれない。

 

 一応、調査は出来そう?

 

『……無理、とは言わないわ。でも、暗黒術士ギルドはカセドラル以上に罠が多いし、ギルド長の私室は暗黒界最高峰の護りよ。得られる情報は少ないかもしれない』

 

 いや、でも、団体である以上は、如何に恐ろしい術式と言えど訓練を行っている筈だし……そこを当たれない?

 

『やってみるわ。それじゃあ、アナタは暗黒将軍と、イレギュラーの案件を頼むわ』

 

 そう言い残すと、シャーロットはピョンと頭から跳んで、大きな廊下を反対方向に進んで行った。

 

 シャーロットと別れてからは、特に喋ることも無く、幾らか回廊を巡って……この階でも奥まった所にある一室の扉を叩いた。

 

「入れ」

 

 扉を叩いてきた者を誰何することもなく、独特の寂声が耳を打つ。

 

 リピアが素早く入っていくので、扉が閉められる前に、心意を用いて、部屋の中に《縮地》する。

 距離が一瞬にして縮められ、部屋の中に入り込んだ。

 

 ぶっつけ本番だったが、なんとかなって安心だ。

 

「突然の一報に加え、このようなお時間を頂き、重ね重ね申し訳ございません」

「気にするな。取り敢えず、そこにでも座ってくれ」

 向かいのソファにリピアちゃんが座ると、グラスに赤ワインが注がれる。結構美味しそうだ。

 この頃俺もご無沙汰だし、後で貰おうかな。

 

「それで、急を要する事態と聞いたが……そなたは二日ほどの休暇だった筈だろう? 一体どうしたのだ」

「それが……」

 

 心配するような、気遣いの篭った眼差しを向けられ、リピアちゃんの目が彷徨う。

 

 俺の姿を探しているのだろうが、目線は絶対に合わない。

 たとえ、こうして俺が真隣に座っていたとしても、まあ気付きはしないのだ。

 

 《空の心意》の概念を教えてくれたエオライン君には感謝しなくては。

 

「遠慮するな、言ってみろ」

「え、ええと……」

 

 さすがに、これ以上は可哀想なので、大人しく出てきてやろう。

 

 展開していた心意を全て解除すると、シャスターが口を半開きにして、まさかと無音で呟いた。リピアちゃんも、こんなところに座っているとは思わず、驚きで体を跳ね上げる。

 

「……貴殿が公理教会の最高司祭、アドミニストレータ殿か」

「ええ、そうよ。直接会うのは初めてね、今代の暗黒将軍さん?」

 

 そう言うと、真っ直ぐと目を見据えてくるシャスターの体が、緊張に震えた気がした。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideシャスター

 

 

 シャスターの思考には、もう先程までの甘いものが掻き消え、全てそれ一色に染まっている。

 

 ──最高司祭、アドミニストレータの来訪

 

 リピアが連れて来たらしい、美の極致にでもあるような少女。シャスターと同年代の男達であれば、ほとんどこれくらいの歳の子供を抱えているだろうが、かくもうら若き少女が、あの人界を統べ、整合騎士を擁する最高司祭だとは、リピアの報告を聞いてもなお信じ難い。

 

 だが、その溢れ出る気迫に、そして自分に悟らせずに部屋に入り、かつ目の前に居ながらも、今の今まで存在を全く気取らせなかったその力……心意に、シャスターは内心戦く。

 

 シャスターは、ベルクーリと斬り結んだ師の言葉を受け、《心意の太刀》を修練の果てに身に付けた。

 六年前、成長の限界を感じたシャスターは、整合騎士長ベルクーリに挑戦した。当然、かの整合騎士長に太刀打ち出来るはずもなく、最初の一合で敗北を確信し、死を受け入れたが、それにベルクーリは笑うと、一つ助言をして去っていった。

 

 その時受けた、ベルクーリの巌の如き心意を、シャスターは六年経った今でも忘れてはいない。それを糧に、更に強くなったという確信があり、去年、突発的に試合をした時、ベルクーリと確かに打ち合うことが出来た。

 

 そのシャスターが、胸中で断言した。まるで比較にならないと。

 

 言うまでもない。

 ベルクーリと最高司祭の力量が、である。

 

 姿を現した時に見せた、全てを拒絶する、苛烈とも表せる鋭利な心意。肌がチリチリと刺激されて、自然と居住まいが正されてしまうまでに強烈だった。

 

 そのせいか、シャスターは心意を解除した最高司祭を見てもその感覚が消えず、体が強ばっていた。

 

 何を話し出すのか、手に汗を握らせて、構える。

 この対話そのものが、ある種の戦いのようで、一瞬たりとも気を抜けない。

 

 気を抜けない、はずなのだが……

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、二人って付き合ってるの?」

「えっ!? なっ、あの……」

「あら、付き合ってないの? 随分仲良さそうなのに」

「……いえ、そういう関係には、一応……」

 

 最高司祭と交わす会話にしては、あまりに下世話で、シャスターはまたも固まってしまった。

 

「ほら、将軍さんはどうなのよ。リピアちゃんのこと、好きなんじゃないの?」

「──はっ!? あ、ああ……勿論、異性として、大変好ましく思っているが」

 

 ──待て、俺は何を言っている!?

 

 真っ赤に染まるリピアを目の当たりにして、シャスターは己の失言を自覚した。

 

 いや、そもそもがおかしいのだ。太古を生きる最高司祭が、他人の恋愛事情にどうこう口出しして楽しむタチの筈がないのだと。

 

 現人神と恐れられるアドミニストレータを、シャスターは元来のイメージと当て嵌めて考えていた。人の感性など微塵も持たない、機嫌を損ねれば直ぐに人など消し飛ばしてしまう、そんな人物に。

 

「じゃあ、もう結婚はしてたりしないの?」

「……い、いえ。閣下もお忙しい身です。……もう少し落ち着いたら、とは、思ってはいるのですが」

「……そう、だな。正式な婚姻もまだだ。さすがに、待たせ過ぎているとは思うのだがな」

「そんな! 閣下がお望みなら、私はいつだろうと……」

 

 健気で可愛らしい彼女に、シャスターもつい顔を綻ばせて……

 

「羨ましいわねぇ……」

 

 そして、憂鬱そうなアドミニストレータの姿に、またしても現実に引き戻される。

 

 ──だから、俺は何をやっているのだ!

 

 気を引き締めなくてはならないのに、どうにもペースを崩される。一つ深呼吸をしてから、本題を切り出す。

 

「……此度の来訪は、暗殺者ギルドの長となったプーの調査と聞いたが」

「ん〜? まあ、そうね。というか、その為に来たようなものだし」

 

 その返答は、シャスターを大いに驚かせた。

 

 プーはシャスターからしても、その実力は過去の暗殺者ギルド長とは比較にならないと言わせしめるが、所詮はそれだけだ。たかだか、新任の《十侯》が為にこの地に赴くなど、考えられなかった。となると……

 

「……それ程までの人物、ということか」

「まだ貴方は過小評価してるわよ。言っておくけど、アレは下手をすれば、私も殺されかねないわ。ベルクーリでもちょっと荷が重いんじゃないかしら」

「……!」

「しかも、中身は人が争う姿を楽しむ生粋の人格破綻者よ。こんなのが居て、どうして和平なんて叶うのかしらね?」

 

 シャスターは、ここで漸く現状を正しく認識することになる。

 

 現在、暗黒界でも最強と評されるのは、暗黒術士ギルド長のディー・アイ・エルであるが、その彼女をしても、あの整合騎士長には歯が立たなかったのだ。

 それよりも実力が上で、争いを好む性格となれば……和平も成らず、自分で弑することも不可能。

 

「……そちらにも、和平を結ぶ気はあると?」

「そうね。私の部下がどういうかはさておいても、私は別にいいと思っているわ」

「ならば……」

 

 次の言葉を紡ごうとした口が、強い心意によって閉ざされる。

 その力を発したアドミニストレータは、シャスターに向けて持ち上げた指をくるりと回して、口許にやる。

 

「言われなくても、それくらい協力するわよ。ただし、条件はあるけどね」

「……条件、とは」

「貴方達暗黒騎士団が、今月中に全員人界に来ることよ」

 

 少々驚かされたものの、出来ない相談ではなかった。

 

 暗黒騎士団は、暗黒界を護る為に存在する組織であるが故に、その人員には、多くの《和睦派》が在籍している。人界と手を組むことも、問題は無い。

 

 ただ、問題は別にある。

 大戦の事だ。

 

 大戦は確実に起こる。そうなれば、次に考えるべきは、その被害を最小限に抑える方法だ。

 

 大戦で敗北を生み出しては、被害が拡大するのみ。

 

 必然的に取るべき行動は、早期の講和となる。条約を結び、人界と暗黒界の間の争いを無くすのが効果的だ。

 

 しかし、ここでも更なる障碍が存在した。《侵攻派》と呼ばれる暗黒界における過激思想派閥だ。彼らは、人界に攻め入って、その肥沃な土地全てを奪い去ろうと目論んでいる。

 それを構成するのは、ゴブリンやオーク達《闇の五族》と暗黒界人の一部となっている。

 

  ──やはり、人界の力を見せつけねば。

 

 《鉄の掟》により、力あるものが頂点に立つという仕組みが成り立つこの世で、整合騎士の威光を知らしめることになれば……その時点で、誰もが戦おうとする意志を失い、恭順するだろう。

 

 整合騎士は、これまで自分達の世界を守る為にその力を振るってきた。だが、大戦で攻勢に転ずれば、その力の異常さに、《侵攻派》とて恐れ慄かずにはいられないはず。

 

 それ故に、

 

「……黙って見ている方が、寧ろ得策か」

「当たり前でしょう? 貴方達《和睦派》が目指すのは、犠牲が少ないまま、人界との停戦、そして国交の樹立が成されること。こっちで保護して、戦争に参加してもらわない方が、戦力も減って楽ってワケね」

 

 ハッキリと言い切ったアドミニストレータを発言を受けて、リピアが難しい顔をする。

 

 それではまるで、自分らだけ戦いから逃げ、安全な場所から高みの見物をしているという、筆舌に尽くし難い行いとなる。

 例え和平が成ろうと、暗黒騎士団の地位が落ちに落ちるだろう。

 

「……でも、穀潰しを作るのは、私の趣味じゃないの。貴方達には活躍の場を与えるわ。人界軍でもダークテリトリーの軍勢でもない、新たな勢力の相手をね」

「なに……?」

 

 シャスターが訝しむが、アドミニストレータは躊躇いもなく言い放った。

 

 

 

 

「簡単よ。ベクタの軍勢を倒してもらうの」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideアドミン

 

 

 シャスターの私室から出ると、思い切り背伸びをした。

 

 いや〜……外面ってのは、本当に疲れるもんだ。

 

 特に、アドミニストレータの仮面を着けている時が一番気が重くなる。元の《わたし》があまりにアレだからか、何とも言えない違和感が発生して、とにかく気疲れが激しい。

 

 ともあれ、無事にシャスターの引き抜きに成功したので、これで目標の一つが達成された。

 シャスターとリピアだけは、大戦前にガブちゃんに殺されてしまうから、その前に救う必要があったのだ。

 

 だが、人界で匿えばその点も問題無いし、ついでにアメリカや中韓のプレイヤーへの対応策として、彼らを用いる事が出来る。

 

 さて、後は軽く探索して帰ろうとでも考えていたのだが……これは大きな誤算だったよ。

 

 天井を見上げながら、口許を盛大に歪める。

 

「いるんでしょう? 地獄の王子様(PoH)?」

 

 首をそのままコテンと傾け、廊下の壁の一点を見詰める。

 

 そうすると、壁が不自然にボヤけて、人の輪郭を現した。

 手には、中華包丁の形をした片手剣──SAO時代の友切包丁(メイトチョッパー)が握られている。

 

「へぇ? よく分かったな、ベイビー。これでも全力でハイドしていたつもりなんだが」

「そっちこそ、私の《空の心意》を見破るなんて、貴方で二人目よ。褒めてあげるわ」

 

 因みに、一人目はクリスチャンだ。

 それと同レベルの心意となると……厄介だな、本当に。

 

「にしても、あんた、俺に負けらず劣らずかなりブッ飛んでやがるなァ。さては、俺と同類か?」

「……そうね。性格破綻者って意味なら、頷いてあげるわ。ただし、貴方みたく人が殺し合う様を見て楽しむような下賎な価値は、生憎持ち合わせていないの」

「そいつは残念だ。オマエがこっちに居りゃあ、良いPKerになっただろうに」

 

 おうふ、マジかよ……俺、一歩間違えたらPKするような奴になってたのかよ。

 嫌な評価だなぁ。

 

「ま、いいわ。 私としては、貴方をここで殺しても全然構わないのだけど」

「おいおい、もう戦うのか? つまんねぇな。オレとしちゃあ、兄弟(ブロ)が来るのを待ちたいってのに……ま、しょうがねぇか」

 

 ブロ……? ああ、ガブリエル(Brother)か。

 

 しかし、そのガブリエルが来る前に先に居るとは、やはり奇妙だ。となると、このPoHは一体誰だ……?

 だが何にせよ、これほどの不確定要素だ。この手で先に始末しておいた方が良い。

 

 そう思い、別アドレスに格納した剣を……取り出し……あれ。

 

「……そう言えば、壊れたままにしてたわね」

 

 PoHも武器を半ば抜いていたが、俺が手を虚空でグーパーするのを、目を点にして見ていた。

 

「……おい、どうした? まさか、剣がねぇとは言わねぇよな?」

「……そのまさかよ。全く、本当に予想外だわ」

 

 武器無しで相手をするには、あまりに相手が強力過ぎる。

 せめて、神器級の優先度がある武器が無くては、どうにもできない。

 

 下策も下策だが、見逃すしかあるまい。

 ここに来て、まさか自分の不準備さを呪う事になるとは……

 

「貴方も都合が悪いようだし、この戦いは、一旦大戦までお預けにしておきましょう。……それでいいかしら?」

 

 PoHは胡乱げな目付きをして、へぇ? と呟いた。

 

「オイオイ、そっちから誘っておいて逃げるのか?」

「逃げる訳じゃないわよ。ただ一方的に蹂躙するなんて、つまらないと思わない?」

 

 そう言うと、PoHが目をギラギラと、眼孔を収縮させて、獲物を狩る魔獣の如き心意を立ち登らせた。

 

「いいや? 寧ろ嬲りまくって、泣き叫ぶのが面白ぇんじゃねぇか。まァ、ソイツも、サルどもが殺し合いをするのにゃあ及ばねぇがな」

 

 ……サルども?

 

 何か言葉に突っかかりを覚えながら、垂れ下げた手の五指に風素を生成する。

 

「そんじゃあ────イッツ・ショウ・タァァァイム……!」

「フォーム・エレメント……ストリーム・シェイプ!」

 

 PoHの掛け声と共に、嫌な予感がして、巨大化した友切包丁(メイト・チョッパー)が縦に振り押されるのを、俺はその横スレスレを通り抜けた。

 

 その時、俺の髪が何本か宙を舞ったのを見て、嫌な予感が的中した。

 

 あの友切包丁(メイト・チョッパー)、どういう理屈かメタル属性扱いになっていない。

 金属であれば、髪一本とて切れないはずの俺のシステム障壁を軽々と超えて攻撃してきたのがその証拠だ。

 

 もし、油断してそのまま立っていたら殺されていた……という事実に冷や汗を掻きながら、城の廊下を風に乗って駆け抜けていく。

 

「逃げるだけじゃ芸がねぇよなぁぁ!!」

「っ!?」

 

 包丁が虚空を切り裂くと、突然殺到する強烈な負の心意。咄嗟に《心意の壁》を後ろに展開すると、それらは容易に俺の心意を砕き、廊下のあちこちに拡散して、爆発した。

 

 ……さながら、《ダーク・ショット》と言ったところか。

 

 心意には心意を、というのはアンダーワールドでも鉄則ではあるが、俺の本気の《心意の壁》まで破れるとか、さすが《空の心意》を見破るだけあるが……

 

 ……これは、ちょっとマズいかもしれん!

 

 壁を蹴り上げ、階段を下に降りていく。高速で追蹤するPoHの攻撃を躱しながら、術式の起句を唱える。

 

「システム・コール!」

 

 数多あるコマンドの中から、クィネラの天才的頭脳は、PoHへ対抗する為の最適解を導き出す。

 

 空中に二十個の鋼素と闇素を生成し、その二つを合成……からの、形状変化。

 

「──ミスト・シェイプ、ディスチャージ!」

 

 闇素の纏わりついた鋼素の粉塵がPoHを覆い隠す。

 

 闇素は生命体に対しての攻撃素因であるため、霧状の闇素を吸い込めば、それだけで天命は減少する。

 

 ただ、それだけでは効果が薄いので、鋼素に定着させて、体内に残留するようにしている。

 効果を考えると中々に非道な術式だが、鋼素の霧化は高等技術なので、難易度は恐ろしく高い。

 

「ゲホッ、ゲホッ! な、なんじゃこりゃ……ったく、ひでぇモン吸わせやがって」

 

 霧を払って出てきたPoHは、血を口から垂らしており、天命がかなり減っているのが傍目でも判る。

 

「あら、ガスを吸っちゃうなんて、それでも特殊部隊勤めの傭兵なの?」

「……テメェ、なんでそれを」

「くふふ……あちらの世界には少し詳しいの。今頃、貴方の兄弟(ブロ)達が、《オーシャン・タートル》のメインコントロールルームを確保した所じゃないかしらね」

「チッ……」

 

 明らかにイラついた。

 このまま舌戦で精神的に押し切ってやるか。

 

「だと言うのに、貴方と言えば、なんでこんなに早い時期にいるのかしら。今は1500倍くらいに加速している筈だから、来れる筈がないのに……しかも、SAOのアカウントでログインしてるなんてね」

 

 SAO、という単語が決定的だったか、ここで初めて動揺を見せる。

 

「Holy shit……アンタ、本当にリアルからダイブしてんじゃねぇだろうな?」

「いいえ? STLを確認しても私は居ないわよ。正真正銘、この世界のフラクトライトだもの」

 

 まあ、一生確認出来ないでしょうけどね、と皮肉って言うと、PoHは「ま、そうだろうな」と、何故だかわざとらしく首肯した。

 

「……だが、そっちも一つ勘違いをしているようだな。オレも、このアンダーワールドにはログインなんかしちゃいねぇし、STLにお前が居ない事も、何となく分かっていたぜ」

「ん……?」

「勿論、オーシャン・タートルのSTLは、《閃光》と《黒の剣士》、そしてオレと兄弟(ブロ)が使ってんだからなあ?」

 

 俺が驚かされる番となった。肩をトントンと《友切包丁》で叩きながら、形勢逆転とばかりに口許を歪めたPoHが腰を落とす。

 

 そして、友切包丁がライトグリーンに光った。

 

「なっ──!?」

「そおらよぉぉっ!!」

 

 ソードスキル、《ソニックリープ》。

 

 須臾にして真上に現れた巨大な中華包丁を、《心意の刀剣》を握り締めながら迎え撃った。

 

 心意が更に力を増す。思わずガクッと姿勢を崩し、立膝の様な状態になると、PoHが紅い瞳を炯々させて、嗤う。

 

「知ってるなァ……韓国の裏切り者を守る為に飛び出してきやがった《閃光》の奴をぶちのめそうとした時も、こんな構図だった気がするぜ」

 

 ……まさか、こいつ!?

 

 下段の不利な姿勢に耐えかねて、腕がピシリと悲鳴を上げて、心意の剣が押し戻され、首近くまで迫っていた。

 

 心意の出力を全て剣に使っている以上、術式を無詠唱で発動することは敵わない。

 だからと言って心意の出力を落とせば、この剣はたちまち破壊されてしまうだろう。

 

 ──だから、まだ耐えろ。

 

 まだ、まだだ……

 

 まだ……これくらい、《わたし》なら耐えられるはずだ。

 

「良いねぇ……その諦めの無い目、《閃光》そっくりだ」

「くっ…………!」

 

 くつくつと嘲笑うが如き悪魔の声音に、着けていた仮面も取り去って、力を引き出す。

 

 《心意の刀剣》の刃が首に一筋の傷を付けながら、力は一瞬たりとも緩めず、ひたすらに耐える。

 

 そして……

 

「ウオッ!?」

「はぁっ!!」

 

 ここに来て漸く、PoHの体内に蓄積していた闇素が、影響を与えた。

 

 天命がある程度のラインを下回り、力が制限されるタイミング……《わたし》は、これを狙っていたのだ。

 

 透明な剣を力強く押して、PoHの拘束から逃れる。

 

 今のうちに、転移術を……

 

「You bastard!! もう赦しちゃおかねぇ……今すぐ殺してやる!」

 

 その瞬間、右脚に何かが深く刺さり、途端にそこの感覚が消失した。地面に転倒し、心意で組み上げた術式が途切れる。

 その数秒後には、全身が麻痺して、完全に命令を受け付けなくなっていた。

 

「普通のソードスキルがあるなら、《投剣スキル》も持っているとは思っちゃあいたが……まさか装備中だった他のアイテムもまんま持ってるとはなぁ。まったくアンダーワールド様々だぜ」

 

 そう言って、力を失った《わたし》の首を掴むと、指に挟んだ四本の針をプラプラとチラつかせた。

 

「コイツはSAOでもそこそこ希少なアイテム、《ロベリアの花》ってのと、刺さっても抜けないっつうある蜂形モンスターの針を使っていてな。ウチのギルドでも重宝してたんだ」

 

 ……その名前、確かユナイタル・リングで出てきた。

 

 そんな回顧が過ぎっていくが、打開策が見い出せない。

 

 かなり移動してしまったが為に、シャスターやリピアの助けも期待出来ない。

 心意も、剣を生成していた時に損耗して、練るのが難しくなっていた。

 身体は、無論麻痺で動くことはない。

 

 つまり、完全な詰みだった。

 

「ま、んな事はどうでもいいか……。あばよ、お嬢ちゃん。オマエと戦えた事は忘れねぇぜ」

 

 右手の友切包丁(メイト・チョッパー)の刃を横に向けた。

 手が後ろに引かれる。

 

 《わたし》は半ば諦めの境地にありながら、ただ一つの事を思っていた。

 

 それは、生きたいとか、死にたいとか、ああすれば良かったとか、後悔の念でもない。

 

 

 ──クリスチャン。

 

 

 ただ一人に向ける唯一の感情を思い出していた。

 

 

 ──クリスチャン。

 

 

 今の《わたし》の原動力であり、生きる理由の一つ。

 

 ちっとも関係は進んでないし、いつもクリスチャンに甘えてばっかりで、迷惑しか掛けてないと思うけど……

 

 それでも……《わたし》はずっと、大好きだから。

 

 最後にはこうして、信じて頼ってしまうのだ。

 

 

 ──助けて、クリスチャン!

 

 

 

 

「……誰が、私のクィネラ様に触れていいと言いましたか?」

 

 

 

 激しい金属音が炸裂し、《わたし》とPoHの間に、金の意匠が施された漆黒の剣が挟まっている。

 

 たとえ、麻痺していなくとも、《わたし》は言葉が出なかっただろう。

 

 その闖入者の顔を見たPoHが、ぴゅうっと口笛を鳴らした。

 

「お決まりの、ピンチになってヒーロー登場ってか?」

「いえいえ……私はヒーローなんて柄じゃありませんよ」

 

 危険を悟ったか、《わたし》を手放したPoHを剣圧で吹き飛ばすと、倒れ込む身体を支えつつ、解毒術と回復術を行使した。

 コトンと針が抜けると、身体の感覚が戻っていく。

 

「……大丈夫ですか? クィネラ様」

 

 ──なんでこう、いつもタイミングが良いのか悪いのか。

 

 泣きたくなりそうなほどの激情を抑え込んで、ふんと鼻を鳴らして、不安げな漆黒の瞳に向かって反発した。

 

「これが大丈夫そうに見えるの? それに、来るのが随分遅かったじゃない」

「整合騎士への指導をしろって言ったのは、どこの誰でしたかね」

「……なんか最近、ちょっと生意気よね」

「はは、気のせいですよ」

 

 《わたし》の手を取って立ち上がらせると、至近距離で見詰め合う形になって、少し体が仰け反る。

 

「でも、本当に……間に合って良かった」

 

 それが、心からの言葉だと認識させられるのに、そう時間は要らなかった。

 《わたし》が恥ずかしくて自分から距離を離そうとする前に、クリスチャンが離れて、剣を構えた。PoHとやりあう気でいるらしい。

 

「……今回の罰、考えておくから」

「それはそれは……厳しいですね」

 

 軽口を叩き合うと、《わたし》も神聖術を組み上げる。

 

 二対一。しかも、クリスチャンが居るのなら、近接戦は安心して任せられる。

 

 そう、意気揚々と戦う気でいるこちらに対して、PoHは片腕をプラプラとさせながら、友切包丁を片手間に弄んでいた。

 

「あーあー、ったく。お前らのイチャイチャ(Lovey-dovey)なんざ見ていたら、興が冷めちまった。《黒の剣士》と《閃光》なら、まぁ良いんだがな」

「ほう、私達から逃げられるともでも?」

「Of course、なんたって、オレ様はSAO史上最悪のPKerだからな。これくらい隠れられなきゃ、今頃生きてなんかいねぇだろうよ。……そんじゃあな、お二人さん。また戦場で会おうぜ────」

 

 そう宣言した直後、PoHの気配が知覚できないほどに希釈して、姿が掻き消える。

 

 心意で探知を広げるも、ダミーのようにそこかしこにPoHの気配があって、どれが本物かも分からない。

 そして……

 

「…………逃げられ、ましたね」

 

 結局、PoHの気配は城全体から消えて、宣言通り逃がす羽目になった。

 

 溜息を吐くと、クリスチャンに振り返った。

 

「逃げてしまったものは仕方ないし、取り敢えず帰りましょう?」

「……では、先程私が来る際に用いたゲートを開けますね」

 

 開いたゲートを通ってカセドラルに帰ると、その晩は、最上階で一緒に寝る事にした。

 

 ……今日は心配かけてごめんね、クリスチャン。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年8月19日

 

 シャスターからの親書が届いた。

 

 曰く、あの日から不自然なほどPoHの姿を見なくなったらしい。次の《十侯会議》にも出るか怪しいという。

 

 見つけ次第叩こうと考えていたが、それも難しくなっていたようだ。

 PoHは頭が回るので、恐らくこの事も読んでの行動と見て間違いない。

 

 それと、27日には暗黒騎士団を人界に連れて行く準備が整うらしい。

 大規模ゲートの作成はカーディナルにしか頼めないので、今週の茶会で要請しておかないとなぁ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年8月24日

 

 今日もルーリッドを観察。

 流石は元木こりユージオか。《ホリゾンタル》でスパスパ切った木を、ものの一ヶ月でログハウスにしてしまった。

 ガリッタ老人もこれにはニッコリ。

 

 アリスと騎士のアリスは、母のサディナと共にアップルパイを作っていた。二人とも、かつて俺とやった菓子作りの経験が生きたか、火の扱いや器具の使い方も熟れている。

 後ろ姿がただの双子にしか見えない。

 

 しかも、セルカが「アリス姉さま!」って呼ぶ度に二人とも振り向くから面白くて仕方なかった。

 

 しかし、名前を変えようにも、二人とも元々アリスだしなぁ。どうしたものか。

 

 何か案が欲しい……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年8月27日

 

 シャスターが、騎士団の用意が出来たと手紙を送ってきたので、カーディナル作のゲートで全員を一斉に人界に招待した。

 

 諸々の都合上、南帝国に招待している。

 南国リゾートの気分は、彼らにとってもいい休暇になるに違いない。

 

 いや、にしても、皆なんで水着持ってるの……? ダークテリトリーにデカい湖なんてなかった筈なのに。

 ちょっと準備万端過ぎじゃね?

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年9月3日

 

 アリス・ツーベルクの術式権限レベルが60となった。

 

 来たる大戦に備え、彼女の自衛力を磨いてきたが、これくらい程なら大抵の術が扱えるようになる。

 

 生き物を殺して権限を上げるパワーレベリングに心を痛めていたようだが、それも終わった。後はフェノメアの下で実戦の神聖術行使を二ヶ月で叩き込み、神聖術士部隊に置いておくことにしようと思う。

 

 大戦までに間に合うといいが……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年9月7日

 

 セントリア市内では、明日から太陽神ソルスと地神テラリアに豊穣を祈る祭りを催すらしく、戦争前の緊迫した雰囲気から解放されて、楽しそうに準備をする民衆の姿が見られた。

 

 俺も、仮にも一国の統治者だからか、人界の民がこうしている様子に、気分が幾分か和らいだような気がした。

 

 

 

 

 それはそうと、これは祭りである。

 

 こんな時期に祭りをやると言うのだから、これは誰かの啓示に違いない。

 

 

 ……つまり、クリスチャンともう一度デートをしろと。

 

 

 これは二度とはないチャンスだ。

 

 大戦で俺が死ぬ確率は大いにあるし、何なら大戦が終わるまで……等々死亡フラグまで立てている。

 こんな機会、みすみす見逃す訳にはいかない。

 

 じゃあ、明日に備えて、おやすみなさい。

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

  界暦38 1年9月8日

 

 私はクリスチャンを愛する資格はない  なんで私を選んでくれないの

 

    クリスチャンがカーディナルがキスを

 私じゃダメだった       カーディナルに勝てるはずがなかったんだ

 

  最初は、私だけを愛していたはずなのに

(乱暴に書かれた文字を消した跡が残されている……)

 

クリスチャンは何も悪くない    私が無理やり連れてきたから 彼の人生は狂った

              諦められない こんなの

 

誰かを好きになるのは つらいよ

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年10月25日

 

 人界軍、約5000人。

 整合騎士、18人。

 

 これが、今回用意できた全戦力である。

 まあ、アリスとユージオが来れば、整合騎士も二十人になるし、俺やクリスチャン、カーディナルも居るので正しくはないが。

 

 また、前回暗黒騎士団を持ってきたのと同じ、カーディナルのゲートで東の大門前に送り込んだ事で、移動の手間を無くし、圧倒的な早さで人界軍野営地を建てられた。

 

 どんどん送られていく兵達に、ベルクーリがしばらくポカーンとしながら見ていたが、これが神聖術の力なのだ。

 

 もう俺に構わくてもいいのに、クリスチャンがいつも隣にいた。

 

 気付いておきながら、それでも甘い蜜に縋り付いている。

 私の馬鹿

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年11月2日

 

 アリス達が野営地にやってきた。なかなか丁度いいタイミングである。

 

 東の大門の天命も、俺が神聖術を放てば直ぐに壊れてしまうような段階にあるので、数日以内には開戦すると見ている。

 

 そろそろ、こちらからも一つ仕掛けたい所だ。

 

だからクリスチャン、お前は俺に仕掛けてくるな、頼むから

やられると、俺が虚しいだけなんだよ

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 この日、11月5日の夕方。

 天幕の外に出て、ぼうっとしていた俺は信じられないものを見た。

 

 天から降りてくる大きな光柱……あれは、間違いなく、現実世界側からのログインが入ったという証。

 

「……お主も気付いたか」

「ええ。もう少し遅いはずなのに、これは驚きね」

 

 天幕の中からカーディナルが出てきて、怪訝そうに、光柱のあった場所を睨んでいる。

 

 杖が振られると、ログイン座標へのバックドアが開かれた。

 

 その扉の先は、前線の補給部隊にほど近い高地。

 見下ろすと、《東の大門》と自軍全体を見渡せる場所だった。

 

 その反対に目を向けると、少し小高くなった丘の上に、それら(・・・)は立っていた。

 

「…………ふぅん」

 

 可能性としては、一番そうだろうと考えていた。

 

 だが、顔まで思わずにやけてしまいそうな光景がそこにあった。

 

「……で、ここは一体どこなの? 草原しかないじゃない」

「ええと、菊岡さんが言うには、キリトくんの最終ログに近い場所だって言ってたわ」

「でも、お兄ちゃんの姿なんてどこにも────あっ」

 

 新緑の瞳が、俺の姿を映し出した。

 

「あれ、第一村人発見!」

「……どう見てもただの村人には見えないわよ、リーファ」

 

 元気よく指をさす緑の剣士──リーファがそう言うのを、長弓を背負った蒼の女性──シノンが、こちらをじぃっと見ながら指摘した。

 

「えっ……? あ、ホントだ」

「もう、リーファちゃんもシノのんも、知らない人をじっと見過ぎだよ……完全に怪しまれちゃってるからね」

 

 そして、二人の肩に手を置いて、ムスッとしている純白の正妻──アスナ。

 

 それぞれ、スーパーアカウント01《創世神ステイシア》、02《太陽神ソルス》、03《地神テラリア》でログインしている。

 なんというか……物凄く、神々しいです。

 

 というか、SAOファンとして、メインヒロインがこうして集まってくれている光景に、感動さえ覚えている。

 アリシゼーションで三人が集まることは一度としてないのを考えると、原作改変も中々侮れないなぁ……

 

「行かんのか?」

「行くわよ、勿論」

 

 なんで三人が集まっているのかは分からないが、折角の接触の機会をむざむざと手放すのは惜しい。三人のいる丘まで歩くと、真っ先にアスナが飛び出してきて、ガバッと頭を下げた。

 

「ごめんなさい、ずっと様子を窺ったりしてしまって……」

「いいわよ、気にもしてなかったし」

 

 それより、と続けて、毎度恒例、威厳たっぷりの名乗りを上げる。

 

「初めまして、アスナちゃん。私は公理教会最高司祭────アドミニストレータよ。よろしく頼むわね」

 

  名前を知られていた驚きも去ることながら、といった具合に目を見張った。

 

「貴方が、キリトくんの言ってた人界のトップの方……なのでしょうか」

「ま、そうなるわね」

 

 軽い感じに首肯すると、アスナは今にも、顔に手を当てて天を仰ぎそうになっていた。どこからか、あちゃー……という声も聞こえてくる気がする。

 俺は寧ろ、見てくれた事に割と狂喜乱舞してるけどな!

 

「こちらこそ、初めまして。アスナと言います。アドミニストレータさんのことは、キリトくんから伺いました。大変お世話になったそうで……」

「ええ、本当にね。感謝してくれてもいいくらいなのよ? あの子、突拍子もないことするし」

「あ、あはは……」

 

 眉がピクッと上下した。キリトはどこにいようと、何かしら仕出かすのは、アスナが一番よく知っているだろうし、想像出来るのだろう。凄い申し訳なさそうにしている。

 でも可愛いので許す。

 

「それで、そちらの方は……」

「む? ……申し遅れたな。わしはカーディナル。最高司祭代理じゃ」

「……貴方のこともキリトくんからたくさん話を聞きました。どうしてか、ほとんど食べ物の話でしたけど」

「…………まあ、そうじゃろうなぁ」

 

 カーディナルがどこか遠くを見つめると、アスナさんがとうとう笑わなくなった。いや、口だけ弧の字を描いている。あまりのやらかしっぷりに、アスナさんのキャパを上回ったらしい。

 キリト君、ちょっと方々に迷惑掛けすぎでは……?

 

「あと、私の後ろにいる二人は、私の仲間のリーファちゃんとシノンと言います」

 

 小高い丘から、アスナと一緒に降りてきていた二人がアスナの両隣に並んだ。

 

「リーファです! さっきは、じろじろ見ちゃってごめんなさい……」

「シノンよ。私も貴方の事を見ていたけど、少し気になっただけで、他意は無いわ。よろしく」

 

 リーファがぺこりと頭を下げて、シノンが後に続いた。

 

 手を差し出して握手したい気持ちをぐっと抑え、余裕の笑みで接する。

 

「……それで、どうしてここに来たのかしら?」

 

 

 

 

 一通りの事情を聞くと、こちらからは不鮮明だった事の異常性が垣間見えてくる。

 

 リアルワールドの方では、アスナがこちらに降りてくる段階で、キリトの明確な治療法を編み出したらしい。

 

 そして、それには三人のキリトとの親密な関係を持つ者が必要であった。

 アスナがSTLを使うのは良いとして、残り二人をどうするかを考えていた所で、ラースの六本木支部に、その残り二人足り得る存在──つまりリーファとシノンが訪れたので、こちらもアンダーワールドへ接続させることにした、という事のようだ。

 

 原作を知る俺からすれば、これはとんだ異常事態である。

 そもそも、リーファとシノンは、ユイの連絡を受けてから遅れてやって来るはずだし、比嘉君が治療法を思いついたのはアスナがダイブした後のこと。

 

 ……つまり、この時点で比嘉君は、キリトのフラクトライトと三人のフラクトライトを接続する為にシャフトを降りている筈で。

 

「なんとなく分かったけど、ここに来た以上、貴方たちは手伝ってくれるのよね?」

「はい。最終負荷実験には、私達も参加します。ただ……」

 

 何やら言い淀むアスナに、何となく言いたいことを察したらしいシノンが、毅然と俺に言い張った。

 

「私達はあくまで、遊撃部隊として……余程のことがない限り、戦い自体に直接は関与するつもりはないわ。そのつもりでいて欲しいのよ」

「……私に、条件を叩きつけるのかしら? キリトを管理しているのも私だというのに」

 

 おっとまずい、アドミンムーブが。

 

 完全に上から目線で……って言うか、背丈の関係でどうしてもそうなってしまうのだが、シノンがあからさまに眉を顰めて、俺を睨む。

 

 シノンの誰だろうと物怖じしない性格、本当に好きだわぁ……

 

 シノンファンが多いのも納得だと思いつつ、相好を崩した。

 

「冗談よ。元々、人を殺すような事を命じるつもりはなかったもの。貴方たちの好きに動いて頂戴」

「えっ……いいんですか?」

「私だって、年頃の女の子に殺しを強要するほど鬼じゃないだからね」

 

 リーファちゃんめ、俺をなんだと思ってるんだ。

 ほら、その隣でアスナがすげぇ意外そうな顔してるし。絶対キリトがあることないこと吹き込みやがったな。

 

 シノンも、やれやれと肩を竦めて、眉をへの字に傾けた。

 

「貴方が言うと、全っ然冗談に聞こえないわ。普通に真に受けちゃったじゃない……」

「だって、敢えてそういう風に言ったんだもの。騙されたでしょ?」

 

 自信満々に訊くと、三人とも、そういう冗談はちょっと……と、あからさまに複雑な顔をしていた。

 むぅ。そんなにお気に召さなかったのか……残念。

 

「何をムスッとしておるのやら……。まぁよい、お主らはキリトに会いたいのじゃったな? わしが案内してやろう」

「わざわざすみません、カーディナルさん」

「構わんさ。ほれ、こっちじゃ」

 

 カーディナルの手招きに応じた三人に、小さく手を振って別れると、溜息が漏れた。

 

 ……リーファもシノンも、ああ見えて覚悟しているのだ。

 

 愛する人は、決して自分だけを想ってくれている訳では無いし、最愛は他にいる。

 

 だと言うのに、私は……

 

「…………つらいなぁ」

 

 ただの、腰抜けの大馬鹿だ。

 

 

 

 

 その夕方、ふと、キリトの居る天幕を通りがかった時、そこに誰かが入っていく姿が見えた。

 

 見ると、割と夜更けなのに灯りがついたままで、声も聞こえてくるようだった。

 

 これは……もしかしなくても、あれか?

 

 そう思い、期待を胸に天幕を覗くと、途端に幾つもの視線が俺を貫いた。

 

「あっ。アドミニストレータさん!」

「……はぁ、キリトってば、本当にもう……」

 

 リーファが元気よく手を振ってきて、その隣にいたシノンはやれやれ状態だ。

 随分と顔がげっそりしてるのは、まあ、キリトと関わった女の子の数がこれじゃなあ……

 

 キリトの眠るベッドに腰掛けて座るユージオとアリスちゃん。部屋の中央にアスナと騎士のアリスちゃんが突っ立っていて、

 

 そのうち三人は、俺の姿を認めると同時に平伏した。

 

「さ、最高司祭さま……」

「畏まる必要は無いわよ。ちょっと混ざりたくなっただけだから、この場では私もただの人よ」

 

 震え声で俺を呼んだのは、キリトの二番弟子、ロニエちゃん。

 髪が伸びていて、ムーンクレイドル味が増した容姿となっている。

 

 その隣にティーゼ、そしてリーナ先輩と並んでいて、現在進行形で平伏されている。

 普通の人からしたら、四皇帝さえも平伏す存在である公理教会の最高司祭が、いきなり目の前に現れたのだ。

 最近、あんまり普通の人の前に出てなかったもんだから、こういう反応をされる事をすっかり忘れていた。

 

「だから、公の場以外なら礼儀も要らないし、好きに接していいわ。分かった?」

「はっ……承知しました、最高司祭猊下」

 

 いの一番に返事をしたリーナ先輩は、素早く立ち上がって、硬い表情を和らげた。

 

「ソルティリーナ・セルルトと申します。あまり慣れておりませぬゆえ、敬語のまま申し上げる点はどうかご容赦を」

「……無理強いはしないけど、タメで話してくれた方が私は嬉しいわ。ロニエちゃんとティーゼちゃんもよ?」

「「は、はい」」

 

 二人も恐る恐る立ち上がって、少し奥の方に引っ込んでしまった。

 か、悲しいなあ……

 

「え、えーと、アドミニストレータさんを含めて、十人も集まっちゃったし、そろそろ始めましょう?」

「ええ……皆、キリトとは浅からぬ縁があるみたいだし、全員の話を聞くなら、早い方がいいわ」

 

 幸いに……というか、俺がキリトの為に用意したこの天幕は、優に学校の教室ほどの広さはある。

 念の為の大きさだったが、これなら十分に足るだろう。

 

 全員の丸椅子を円形に並べて、それぞれ座っていく。

 

 俺から左回りに、アリス、リーナ先輩、リーファ、アスナ、シノン、ユージオ、ティーゼ、ロニエ、騎士アリスという順番となり……必然なのか、アスナとアリスが正反対の位置にいて、両者の心意らしき何かがバチバチとしている。

 

  じ、女子社会って怖い……

 

「大丈夫よ、最高司祭様。私がついてるもの」

 

 今は、そう言ってくれるアリスちゃんだけが心の癒しである。

 

「では、私から自己紹介してもいいかしら?」

「……それじゃあ、貴方から左回りに行きましょう」

 

 ……となると、俺が最後か。

 

 アスナの言葉を受け、俺の右隣にいた騎士アリスちゃんが立ち上がった。

 

「私はアリス。アリス・シンセシス・サーティよ。キリトとは、同じ整合騎士として関わったのが一ヶ月。肩を並べて戦ったのが丸一晩。そのあと、一つ屋根の下で半年間、付きっ切りで世話をしたわ」

 

 最初から圧倒的攻撃力で捩じ伏せにかかったアリスの言葉に、アスナとロニエ、そしてシノンがピシリと固まった。

 

 アリスもすっごい自慢げに、どうだ、恐れ入ったかとばかりに泰然と席に座った。

 

 私のアリスちゃんが、すっかり大人になってしまった……

 

「え、わ、私……? は、はいっ! ロニエ・アラベル上級修剣士ですっ。キリト先輩とは、一年の間傍付きとして、身の回りのお世話と、《アインクラッド流》の剣術を教わりました! よ、よろしくお願いします!」

 

 これには、キリト好きの方々も少々体が仰け反る。特に《アインクラッド》の言葉を聞いたアスナは、目が真ん丸になっていて、今にも聞き出したそうな顔をしている。

 

 しかし、そうか。

 一年遅れてるから、ロニエは上級修剣士入りしているんだよな。

 

 と、いうことは……

 

「同じく、帝立修剣学院のティーゼ・シュトリーネン上級修剣士です! ロニエと同室で、ユージオ先輩の傍付きでしたので、私もキリト先輩に良くしてもらいました。お話は少ないですが、今晩はよろしくお願いします」

 

 対するティーゼは、この場にユージオのライバルが居ないからか、凄く余裕があった。

 

「ちょ、ちょっとティーゼ、なんでそんな緊張してないの……!?」

「もう、ロニエはどっしりと構えないと」

「ここでそれは無理だよぉ……!」

 

 少なくとも、クリスチャンのライバルが集まれば俺も正気ではいられないだろうし、ちゃんと自己紹介ができるロニエちゃんは十分凄い。

 

 そして、その次は、この場のキリト勢最強格の一人……

 

「初めまして。僕はユージオです。キリトは僕の幼馴染で、小さい頃からの付き合いが十一年、十七歳で再会して、そこから寝食を共にしたのが三年なので、もうかれこれ十四年は一緒だと思います。皆さんと、たくさんキリトの話ができたら嬉しいです」

 

 ほう、と、アリスが声を漏らした。単純にその年季に感嘆したようだ。そして、アスナは……目が輝いている。

 

 さっきから、アスナのテンションの乱高下が続いているけども、なんでユージオにだけそんな嬉しそうなの?

 

 うーん……と内心で考える暇もなく、隣に移った。

 

「シノンよ。あいつとは、一日……死線を潜り抜けて、それから大体半年間ぐらいの付き合いかしらね。よろしく頼むわ」

 

 うむ、普通でよろしい。

 しかし、あいつ呼ばわりは異色なのか、アンダーワールド組がどこか羨ましそうな感じだ。ツンデレ万歳。

 

「アスナです。キリト君と一緒にいた期間は、一緒に隣で戦ったのが二年、お付き合いが一年半で、その間に二週間、同棲していました。こちらのキリト君の様子が知りたいので、ぜひ情報交換できたらと思います! 皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 なん……だと……? と、某死神代行さんみたく固まるロニエとアリス。

 

 それもそのはず。

 悪魔の言葉、〝お付き合い〟を放ったということは、アスナが最大の牽制を繰り出してきたという証左。

 

 二人に対して、正妻という立場から完全にマウントを取る気でいるらしい。

 確かに、取られそうで怖くなるって気持ちは分かるけど……え、えげつねぇ。

 

 余裕の笑みで座ったアスナを、アリスが苦々しい表情で睨み、ロニエがプクりと頬を膨らませていた。

 

 ……蛇足だが、俺はキリアス派である。

 

「初めまして、リーファって言います! キリト君は私のお兄ちゃんで、リアルワールドでの暮らしぶりならかなり知ってる、のかな……? アスナさんには遠く及びませんけど、色々キリト君の面白い話が聞けたらいいので、仲良くしてくれたら嬉しいです!」

 

 そして次に回って来たのは、ラノベ界でも一二を争う義妹キャラ……?の直葉ちゃん。

 

 何故かアニメで胸が盛られ、随一の巨乳キャラとして圧倒的な存在感を放っている。

 現物を見ると……尚のことシリカとは似てない気がしてならない。

 

「ふむ……リーファ殿は、キリトの妹君との事ですが?」

「えーっと、まあ、義理になります。血縁上ではキリト君は従兄弟だけど、私がちっちゃい頃からキリト君が居たから、関係はすっかり兄妹って感じです。…………ちょっと前までは、別の意味でも好きだったりしたんですけど」

 

 そして、こんな所にも伏兵が。

 

 妹と聞いて安心していたアリス達が、えっ、と小さく声を漏らしたが……まずいと感じたか、ユージオ達幼馴染組が咄嗟の機転を見せる。

 

「にしても、こんな礼儀正しそうな子がキリトの妹かぁ……うーん、想像できなかったよ」

「きっと、キリトを反面教師に育ったのね。あんなお兄ちゃんが居たら、私もそこそこ真面目だった自信があるわ」

「い、いやー……あはは」

 

 リーファちゃん、そこを否定はしないらしい。

 しかし、アリスも酷い言い草である。キリトが起きた時が非常に心配だ。

 

「さ、次行きましょ?」

 

 リーファが隣を急かすと、隣のリーナ先輩が立ち上がった。

 

「ノーランガルス帝国騎士団所属、ソルティリーナ・セルルトと申します。ロニエが彼の傍付きであったように、私はキリトに傍付き修剣士として、一年間にわたり身の回りの世話をしてもらいました。キリトの興味深い話を知る機会に、私も混ぜて下さった事を、誠に感謝しております。どうぞ、よろしくお願い致します」

 

 こちらも、キリトLove勢が侮れない難敵である。

 数々のライバルが現れているにも関わらず、本人は目立った反応一つ表に出さずにいる。

 

 しかし、この場にいる大抵の人物は、キリトを世話している側だが、リーナ先輩だけは例外だ。

 あのキリトに世話をされると言うのは、一体どんな気分なんだろうか。

 

 キリトが整合騎士見習いだった時に、俺もやって貰えば良かったなぁ……残念。

 

「私はアリス・ツーベルクよ。キリトと二人で色々やった事もあるけど、大体キリトのやんちゃ話で、格好良いところとかは知らないから、話の足しになればいいと思うけど……」

「キリトのやんちゃ話……」

 

 やんちゃ話、という言葉にアリスが反応した。

 

「というか、僕が想像するに、キリトの話の八割近くは、やんちゃ話だと思うけど……」

 

 すると、ロニエやアスナ達が、頻りにコクコク首肯して、それを見たアリスが絶句していた。

 いやでも、アリスちゃん、カセドラルでのキリトの所業を見てない訳が無いだろうに。

 

「色々やってるわよ? 私が見た限り、禁忌目録──法律に違反する行為を取ったり、学院の門限をあれこれ理由をつけて破ったりしてたわね」

 

 例えば……と罪状を読み上げていくと、その全ては比較的軽いし、中には禁止してもしなくても良いようなものもある。

 

 でもまあ、中には笑い飛ばせるようなものもあったりしたし、途中でユージオやらアスナやらがやんちゃ話を公開し始めたから、キリトの黒歴史暴露大会になっていたが……

 

 まあ、なんだかんだ楽しかった、とだけ言っておこう。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年11月6日

 

 天命の減り具合から計算して、明日の18時、東の大門が崩壊する。

 

 ……この場だから白状しよう。私はまだ不安だ。

 

 この大戦の為に打った布石は、それこそ大量にある。

 

 だが、それは人界も暗黒界も、被害を最小限に抑える為のもの。

 

 原作よりももっとスマートに、そして悲しむ人が少なくなれば……

 

 それで人界が負けてしまっては終わりだと気付いているのに、そんな希望が中々捨てきれない。

 

 しかも、今回はイレギュラーだってある。

 

 外面である俺の方は比較的気丈に振る舞えているものの、私は気弱で、最悪ばかりを常に考えて嫌になりそうだ。

 

 少しはマシになってきたかと思っていたが、いつまで経っても変わらないようだ。

 

 あと二日……それさえ乗り切れば、どうにかなる。それでの辛抱だ。

 

 

 

 

 

 転生最高司祭が行く原作改変RTA part Final

 はーじまーるよ〜。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 そう日記に記すと、天幕の外に出る。

 

 星が綺麗な夜だ。

 こんな日は、ただボーっと夜空を見上げたりして、よく時間を潰している。

 

 天幕の近くにある緩やかな丘の上にやってくると、その草むらの上に寝そべって、大の字になった。

 

 ……アンダーワールドの夜空は、ニーモニックビジュアルで描写されるものの例に漏れず、現実と……いや、現実よりもきっと綺麗だ。

 

 だからか、この世界にも天文学が成立している。

 

 私が真っ先に見つけたあの青白い星は、一等星のダフネ(沈丁花)と言い、他の二つの一等星……ガーデニア(梔子)チモナンサス(蝋梅)と共に正三角形の形に並んでいる事から、三つの中で一番明るいダフネと神聖語にちなんで〝ダフネ・トライアングル〟と呼ばれている。

 

 汎用語では、〝夏の大三角〟と呼ばれているものだ。

 前世ではデネブ(白鳥)アルタイル()ベガ()と呼ばれ、そのうち二つは、織姫星(ベガ)彦星(アルタイル)として、天の川伝説で有名だろうか。

 

 しかし、このアンダーワールドの大三角は、前世と違って正三角形という稀有な形をしている。

 手で三角形を作ってみて、その大三角に合うように手を掲げると、ピッタリ形が合うくらい、綺麗な形をしている。

 

 だから大三角が見える夜は、こうして三角形を作って楽しむのだが……

 

 

「きみは誰とキスをする────……」

 

 

「わたし、それともあの娘────?」

 

 

 ふと、夜空の三角形を見ながら口ずさんだのは、そんな(トライアングラー)だった。

 

 それをオープニングテーマにしたのが、前世でも有名なあるアニメ……オープニングとしては、『ライオン』という歌の方が有名だろうか。

 

 この星達を、前世の大三角と照らし合わせて考えるなら、まるで織姫(チモナンサス)彦星(ガーデニア)の間に、何か(ダフネ)が割り込んでいるようで……

 

 ……あの日の祭りを思い出すと、心がズキりとした。

 

 カーディナルとクリスチャン。二人の関係が、私には全く分からない。

 ただの協力関係故の仲にしてはあまりに気安いし、恋人というには、どこか少し違う気もする。

 

 でも、

 

「こころ揺らす言葉より──無責任に抱いて、限界──……」

 

 確かな物が欲しいと思うこの気持ちが、ここにはあった。

 

 どうせ死んでしまうのなら、嘘でもいいからクリスチャンに愛されて死にたい。……まあ、あのチュデルキンの様に、炎で焼き殺されながらはさすがに勘弁蒙りたいけど。

 

 ……私なのか、それともあの娘(カーディナル)なのか。

 

 普段なら考えないだろうこんな事も、仮面を外した今は、ずっと思考に纏わりついてくる。

 

 彼が射た言葉が嘘だとは思えない。

 でも、クリスチャンの目に映っているのは、ひとりじゃない。それは、もう分かってしまったから。

 

 

「一人きりでも平気、と……こぼれ落ちた────……強がり────……」

 

 

「二人の、眩し過ぎた日が……こんなに────……悲しい」

 

 

「一人で────生きられるなら…………」

 

 

「誰かを……愛したりしないから────……」

 

 

 曲調は大きく違うが、別の(unlasting)のフレーズが頭に浮かんで、思った通りに口が動く。

 怖いほどに的確で、乾いた笑いが出る。

 

 アリスにとってのキリトと同じように。

 私にとっての心の支えは、クリスチャンだった。

 

 クィネラと前世のフラクトライトの側面を持ち合わせた私だが、その感性は限りなく前世に偏っている。

 

 それが意味するのは、この世界の誰よりも、私は弱いという事実。

 

 

「貴方の香り────貴方の話し方…………」

 

「今も身体中に、愛のカケラが残ってるよ────」

 

 

 抱き締める度に香る、爽やかな梔子の匂い。

 ちょっと慇懃が過ぎる穏やかな声。

 

 どれも、思い出せなかった日は無い。

 

 ……それに、私が諦めきれない理由も明白だ。

 

 もしも、家族や親しい人を無くして、一人きりになった私を慰めてくれる人が居なかったら……

 

 もしも、一人でフラクトライト解析を行っていたら……

 

 隣で支えてくれるクリスチャンが居てくれなかったら……きっと、私はアドミニストレータでは居られなかった。

 

 一人じゃなくて、二人で背負っていこうと言ってくれたから、私は前に進むことが出来た。

 

 私が彼に依存しているから、ずっと割り切ることは出来ないんだろう。

 

 

「私の願い────私の願いは────ただ……」

 

 

 クリスチャンは、私の救いだ。

 今までも、これからも。

 

 私は弱い人間だから、その分、守ってくれる人に対する独占欲が、誰よりも激しい。

 

 だから、あの二週間の日々のように、彼が離れていく事を、何よりも恐ろしく感じてしまうのだ。

 

 独占欲が強くて、弱虫で、人でなしで、何百年と生きて、男か女かも釈然としないような奴を、誰が愛せるのか。

 

 ……これまで、クリスチャンはよく尽くしてくれた。

 

 私なんかに縛られてはならない。

 

 戦いが終わったら、やっぱり、私は潔くこの世界を去ろう。

 

 私の存在が邪魔である事は、いつだって同じなのだから。

 

 

「どうか……あなたが、幸せで────……ありますように………」

 

 

 その時、星が一つ煌めいた。

 

 私の願いに応えるように現れた一筋の流星を呆然と眺めつつ、三角形を描く両手を芝生に落とした。

 

 そして、目をパチパチとさせていると、どこかからか草を踏む音が聞こえてきて、輝点がそこかしこに広がっていた幻想的な夜空は、漆黒の闇に変わっていた。

 

 風がそよいで、黒が揺れる。

 オニキスの如き双眸が露わになって、それをジロッと睨みつけた。

 

 

「……ねぇ。星、見えないんだけど」

「おっと、失礼致しました……クィネラ様」

 

 

 頭の傍でしゃがみこんで、顔を覗きこむ(好きな人)は、いつもの柔和な笑みを湛えていた。

 

 

 

 




『Unlasting』(covered by坂本真綾)って良いなって……

次回は、アドミンがこうなってしまった経緯から。
その後は蛇足的な女子会の様子とか、三女神の様子とか、クリスチャンとカーディナルとか、祭りのこととか、ちょろっと出てきたエルドリエとかの事とかやって、大戦ですかねぇ……
(なお、受験戦争の為、続きは来年になる模様)
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