転生最高司祭ちゃんが行く原作再現   作:赤サク冷奴

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実は凄まじく本筋と絡ませる予定だったメンヘラ男の娘
付いてる方がお得(え


裏話 フェノメア&アドミン

 

 

 それは遡ること、キリトくん達が来る一年前のおはなし。

 

「ふーん……サーティワンくんの指導ねぇ」

「ああ、毎度済まない。指導役になっているアリスも、少し手が離せなくなったものでな……」

「いやいや〜、ファナちゃんがそう言うなら大歓迎だよ〜!」

 

 ボクのお仕事は主に三つ。

 

 先ず、枢機卿として、各地の司祭へ連絡を伝達したり、人事のあれこれも任されている。

 元老長ってこういう仕事しないんだよねぇ。No.2なのにさぁ〜。その分の負担がボクにのしかかるんだやぅ。はぁ……

 

 次は整合騎士としてのお仕事。

 ちょくちょく果ての山脈警護に駆り出されたり、整合騎士一人では難しい案件に対処する。これはサクッと終わらせられるし、楽な方だねぇ〜。

 

 最後に、神聖術師の先生として、新米整合騎士くんちゃんに神聖術の授業を行うこと。

 って言っても、大体みんな基本が出来てるから、高位の神聖術も教えればスラスラできる。

 

 ……いや、団長とシェータちゃんは苦労したよ。特に団長。

 

 団長ってあれで結構ぶきっちょなんだよねぇ。雑というか感覚派というか。神聖術は論理立てて構成されてるし、しっかり頭で考えないと術は発動しない。

 

 今ぐらいに扱えるようになるまで何年かかったことやら……もう団長に神聖術だけは教えたくないやう。

 

 まあ、たまに大変だけど、仕事の息抜きには丁度良い。

 

 他人との交流は、心を癒やしてくれるんだよぉ……

 今日の子も、教えがいがあるといいなぁ。

 

「……お待たせ致しました。何階をご利用でしょうか」

「やっほ~、ショーコちゃん。今日は一番下までお願いするね〜」

「かしこまりました。それでは五十階、《霊光の大回廊》まで参ります」

 

 ルンルン気分で昇降盤に乗り込むと、いつものように、暇つぶしの相手になってもらうべくショーコちゃんに話題を振った。

 

「あれからどう?」

「どう……とは」

「ほらほら、前にボクが教えた飛翔術式だよ! そろそろ自分だけでも空飛べるようになったかな〜って」

 

 ショーコちゃんに教え始めたのって、たぶん三年くらい前だったかな。

 

『……空は、広いですね』

『でっしょ〜? まあ、整合騎士は飛竜に乗れるから、ボクみたいに自力じゃなくても、空を飛び回れるけどね』

 

 下の食堂でお昼ご飯を食べてたショーコちゃんを、なんとなく空中散歩に付き合わせたのがキッカケだった。

 

『……私にも、使えるのでしょうか』

『できるよ、ショーコちゃんなら。風素の生成速度と運動操作の腕はピカイチだからね。上達さえすれば、空はもうキミのものだよ〜』

 

 空を飛んでみたいって言うから、ボクもついつい教えちゃって、昇降盤に乗ってる時とかに手解きをするようになった。

 

「いえ。まだ姿勢制御がままなっていません」

「うーん、まだかぁ〜。でも練習する時間も無いもんね……」

 

 この術式、整合騎士レベルならやろうと思えばみんなできるけど、問題は難易度の高さにある。

 まあ、飛竜に乗った方が楽だよね。ボクも術式使いながら果ての山脈まで行きたくないもん。

 

 でも、ショーコちゃんは修道士の扱いだし、飛竜なんて貰えない。空を飛びたいのなら、これしか道が無いんだ。

 

「……ずっと、考えている事があります」

 

 じゃあ、もっと分かりやすく……と説明を考えていると、ショーコちゃんは風素の入った筒を眺めながら、不安を露わにしていた。

 

「飛翔術式を修得しても、私はカセドラルの外には出られません。これからも出ることはないでしょう。……それでも、空に飛べる日が来ると思いますか」

「ん〜……」

 

 う〜〜〜〜〜ん。

 

 …………。

 

「うん、分かんないや」

「そうですか」

「でも、練習はしてて。アドミン様と会える機会があったら、ショーコちゃんのことお願いしてみるからね」

「……ありがとうございます」

 

 でも、アドミン様捕まえるの大変だからなぁ。

 うろついてる元老長にせがむのが一番早いんだけど、あの人のボクの避けようは半端じゃないから、後ろから奇襲でも仕掛けないと厳しそうだ。

 

 うまくいくといいんだけど……

 

「五十階、《霊光の大回廊》でございます」

「ん、それじゃあね〜!」

 

 ルンルン気分で降りて、ルンルンしながら階段を下りて五階に到着した。

 

 その頃には、もうルンルン気分より身体的疲労が勝っていた。

 死ねる。もう歩きたくない。

 

 やっぱ時間掛かるよぅ……ショートカットできる道とかあったら楽だって思うの、ボクだけ?

 

 いやそんな訳ない。アドミン様も元老長もよく風素で加速して壁蹴ってるし。

 絶対皆めんどくさがってるじゃん。

 

 そんな中で、必死に歩いてるボク、ちょーエラいと思う。

 

 ふふん、と自信満々に第一学習室の戸を引き放って、大股でズカズカ入り込む。

 

「おっはよ〜! 今日からキミの先生になった、フェノメア・シンセシス・スリーでっ────」 

 

 す、と言おうとした口が、《え》の口のまま固まった。

 

 同じく、相手も固まっている。それが何でかは分かんないけど、ボクがこうなった理由は一つ。

 

 

 ……とっても、カッコよかった。

 

 

 ボクが、思わず見惚れちゃうぐらいの、美人さんだった。

 

 ひたすら綺麗で、スラッとした男の子だった。

 

「あ……がっ……!」

 

 頭に鋭い痛みが走る。

 初めての感覚で、足がもつれて、尻もちをついた。

 

「はっ……フェノメア様!? しっかりなさって下さい! 今すぐ治癒をお掛け致します!」

「だ、大丈夫、大丈夫だから……」

 

 なに、これ……

 

 ダメだ……この子の顔を見るだけで、頭がどうにかなりそうになる。

 

 ズキズキする頭をどうにか持ち上げて、痛みに抗いながら、教壇を支えにして立つ。

 

『……イ……!…………てよ……!……は……』

 

 頭の中に流れる風景。

 必死になって誰かを追っている。

 

 霞がかかったその顔は、でも、とてもエルドリエ君と似ているような気がして……

 

「──おりゃーっ!!」

 

 腰に装備してる《宝晶典》で頭を殴った。

 

 あううぅ……痛いっ、過去最大級の打撲攻撃だよこれ!

 

 優先度47は伊達じゃなかった……自業自得だぁ。

 

 荒い息を出しながら、深く呼吸する。

 うん、問題ナシ。

 

「そ、それで……キミはエルドリエくんだよね」

 

 また見つめてみたけど、やっぱり美形だった。

 

 でもさっきと違って頭も痛くならなかったし、本当に良かったなぁ。

 

「はい。今日はファナティオ殿より、フェノメア様の講義を申し付けられ、参った次第ですが……どうやら身体の具合は宜しくないご様子。私など捨ておいて、どうかご静養を」

「いやいや! これくらい普通だよ普通! うん、平常運転なまである!」

「……顔も血の気が薄れて見えます。やはりお休みになられては」

「ボクは色白なんだい!」

 

 あれぇ、おっかしいなぁ。

 ファナちゃん直伝の化粧で誤魔化せてると思ったんだけど……この子、もしかして鋭い?

 

 はへぇ……アドミン様も凄い逸材見つけてくるねぇ。

 

「それじゃ、一応自己紹介ってことで。ボクはフェノメア・シンセシス・スリー。是非メアちゃん先生って呼んでね!」

「はい。よろしくお願い致します、フェノメア様」

 

 ズコーッ、だよ! 本当に転んでやろうかと思ったよ!

 

 なんてノリの悪い。

 模範的な優等生だなぁ〜、キミは。イーちゃん(イーディス)なんて、すぐメアちゃん呼びしてくれたのに。ぶーぶー。

 

「遅ればせながら、私はエルドリエ・シンセシス・サーティワン。先月より天界より召喚され、我が師アリス様より薫陶を賜る身であります。しかし、何分まだ若輩者ゆえ、フェノメア殿のお手を煩わせてしまうご無礼を、先んじてお詫び申し上げる」

「え? いや〜、そういうのは」

「──先んじてお詫び申し上げるっ!!」

「意外に熱血系!?」

 

 う、ううむ……ボクとあんまり性格が合う気はしない。

 顔は良いけどね。カッコいいし。

 

 でもほらボクって引きこもりだからさぁ。声とか張り上げるの、そんなに得意じゃないんだぁ……

 

「ほ、ほーら、さっさと席座った! メア子のパーフェクト術式教室、始まるよ〜!」

 

 渋々席に座ったエルドリエ君に、とびっきりの笑顔でいつもの口上を繰り出した。

 

 

 

 

「先生、御指南頂き有難うございます」

「ああうん、結局それで落ち着いたんだ……」

 

 フェノメア様から、フェノメア殿になって、メアちゃん先生って呼ばせようとしたら枢機卿閣下呼ばわり、最終的には普通の先生呼びにされてしまった……

 

 本当にただの先生と生徒だ。

 そのノリのまんま真面目に授業進めちゃったよ。いや良いけどさ。

 

「……ねぇねぇ、エルドリエくん」

「どうなされましたか、先生」

 

 なんか、声掛けただけで嬉しそうにしてるのは気のせいかな……?

 こういう貴族っぽい子は、大抵ボクみたいな人間が嫌いなのに。

 

 典型的なのはネギくんだね。

 あの子、ボク見たら、うわぁークッッッソ面倒くさいのと会っちゃったわーって感じに、複雑そうな顔するし。

 

 そういう感覚にはならないのかな、不思議。

 

「エルドリエくんって、割りとボクに優しいよねー。自分で言うのもあれだけど、結構いや〜な感じじゃない? ボク」

「優しい……? 術師の、何より整合騎士の先達として敬うのは当然の事でしょうに。それに、嫌な感じなど……」

 

 これは、うん。

 話してても平行線になりそう。

 

 でも、仲良くなれればそれに越した事はないよね。

 

「まぁいいや。それじゃあ明日も宜しくね〜」

「はっ。これよりご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」

 

 ……ピシッと整合騎士の礼をするエルドリエくん、凄いカッコいい。

 

 

 

 

「先生、できました! 如何でしょうか!」

 

「先生、この熱素術式の感覚が分かりません。どのように考えれば良いでしょうか?」

 

「先生! 総合すれば、晶素術式は光を介して利用される、という事でしょうか?」

 

「先生!」

 

「先生っ!」

 

 ここ一週間の、エルくんの言動だ。

 

 ……何だか、大きな子供を持ってしまったみたいだ。

 

 ボク、先生であって母親じゃないんだけどなあ。

 

 でも、成功とかする度に、褒めて褒めて! って感じに目を輝かせてくるから、いやー、つい褒め倒しちゃうんだよね〜。

 

 犬って皆こんな感じだよね……忠犬エルくん。うん、素晴らしいと思う。ボクなら飼うね。

 

「おおっ、いいねーエルくん。片手で五つの素因が生成できたら中々だよ〜」

「では、今度は両手で五つずつと……」

「えー、それはいいかな。整合騎士って武器持つから、片手で素因が使えれば良いんだよね〜」

「……ふむ。では先生も片手でしか素因を使われないのですか」

 

 そういう話に持ってきたのはボクのせいだけど、容赦無く古傷を抉ってくるね……勘が良いのも考えものだよぅ。

 

 武器……武器かぁ……使えたら良かったんだけどね。あはは。

 筋力、女の子より無いもんね……物質操作権限なら団長にだって引けを取らないのに。理不尽だ。

 

「い、いやぁ、ボクはちょっと特殊なんだ。近接戦闘できないし」

「……? その本で殴るのでは?」

「違うよぉ! やろうとした事あるけど!」

 

 一時期、この本に鎖でもつけようか迷った事もある。

 

 ただ、剣を振ったら手からすっぽ抜けて、弓を使えばそもそも弦が引けなくて、槍を使えば狙った所に刺さらず、鞭はいつの間にか体に絡まるし、レンリくんの使うような投げ物は、大体十メル先で地面に落下して終わり。

 

 一応団長とかに教わったんだよ? でもこれだよ?

 

 お蔭で、暗黒騎士達から付けられた二つ名は《剣無しの騎士》。

 もっとこう、《金木犀の騎士》とかみたいに格好良いのが良かったけど、努力も空しく……ははっ。

 

 やっぱり、人って向き不向きあると思うんだ。

 

 男児たるもの、潔さが肝心だよ。

 

「キミは……その調子なら、直ぐに神器貰えそうだし、才能もあるから頑張ってよ。ボクみたいな落ちこぼれには、羨ましい限りだけどね」

「……先生が落ちこぼれである筈がないでしょう。卓越した神聖術の腕前に、畏れすら抱いております」

「いやいや〜、これは純然たる事実だよ。だってボクよりできる人、三人はいるもん」

 

 エルくんがそう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。

 

 まあ、近接戦闘ができない分、ボクはやれる事が少ないから。

 整合騎士第三位を名乗ってるけど、もう譲ってもいいと思う。

 

「三人、となりますと、最高司祭様、元老長閣下と……」

「二人はそうだね。あと一人は、キミのお師匠さん」

 

 行使権限の高さなら、ボクの方が上。

 

 ただし、アリスちゃんは術式の扱い方に才能がある。

 神聖術専門のボクより、よっぽど上手く使えるって何……? どういうこと……?

 

 教えていた側が自信を失くすぐらいには才気煥発な子だったなぁ。

 アユハちゃんがやってたら涙目になってたよ。説明しただけでできるし。

 

 ああいうのを、反則っていうとボクは思います。

 

「なんと……!? 我が師にそこまでの力が……流石はアリス様。お見逸れ致します」

「わーお。団長と戦った時のアリスちゃんみたいな反応してる」

 

 アリスちゃんはここまで酷くないけどね。

 

 でも、憧れちゃうのは分かるんだ。

 アドミン様とよく話してるし、剣技も術も神器も強いし、何より可愛いし。

 

 ……そう思うと、何だか胸の奥がむかむかした。

 

「今日はこれで授業おしまい。明日は……無いんだっけ?」

「ええ。今日の午後より一週間ほど、アリス様とダークテリトリーの方へ向かいますので」

「……はえ?」

 

 体がピクリとも動かなくなった。

 

 意識を埋め尽くしたのは、疑問と激情。

 

 ……どうして、キミはいつも隣にいるんだ。

 

 どうして、いつもいつも、()の邪魔ばかりするんだ。

 

 おかしいだろう、不公平だろう。私が一番彼に寄り添ってきたんだ。愛を与えてきたんだ。私が、私が私がわたしがわたしがワタシガ────

 

「……うん、分かった。頑張ってきてね、エルくん。応援してるよぉ〜」

「ありがとうございます、先生。では、行ってきます」

「行ってらっしゃ〜い」

 

 バタン、と扉が閉められて、ボク一人が残された。

 

 足音を聞き届けると、取り敢えず宝晶典で頭をぶっ叩いた。

 

「だっ……!!」

 

 ゴンッ、と音がして、視界が斜める。

 ひんやりした床に背中を預けると、溜息が漏れた。

 

 

 ……最低だ。

 

 

 こんな醜い嫉妬、ボクらしくない。

 

『あははっ、本性現れてきたね〜。それが私だよ。そろそろ自覚しなって〜』

 

 む、うるさいよ!

 

 全くね、何がわ・た・し、だ!

 ボクはボクなんだ。そこ、間違ってもらっちゃ困るよ!

 

 そうやって言い返してやれば、もう聞こえなくなった。

 あ〜……メアちゃん、クソデカため息。

 

「はああぁ……」

 

 エルくんと会ってから、何だか幻聴が酷くなり始めた。

 

 しかも洗脳のオマケ付き。

 前から私呼びが出てくることはあったんだけど、こんなに思考までやられるなんて。そろそろ、アドミン様のお世話になる頃合いかなぁ。

 

「鬱い……」

 

 おまけに、エル君がどっかに行っちゃうから、ボクは仕事漬けの日々に逆戻り。しかも、いつもよりハード。

 

 まずは四皇帝家に圧力を掛けに回って、《南の回廊》に出た魔獣の討伐して、足りなくなった希少素材の調達……

 

 駄目だ、考えるだけで嫌になってくる。

 メアちゃんもう無理かも……

 

 完全に消沈していると、コンコンコン、と扉を叩く音が聞こえた。

 

「……はぁ~い」

「フェノメア殿」

 

 その声に、バッと体を起こした。

 

 扉の方を見ると、山吹色の鎧を着けた騎士がきょろきょろと教室の中を見回している。

 

「……アリスちゃん?」

「お邪魔してしまい、申し訳ありません。エルドリエを迎えに来たのですが……」

 

 こうして相見えると、嫉妬なんて吹き飛んでいった。

 

 ボクが教えてた時からそう。アリスちゃんは心根の優しくて、素直な子だ。

 間違っても、ボクなんかが嫉妬していい相手じゃない。

 

 はー……ボクも耄碌したもんだね。

 エル君はボクだけのもんじゃないっての。

 

「エルくんなら少し前に出てったよ。わざわざ迎えに来てあげるなんて、弟子想いな師匠だねぇ〜」

「なっ、フェノメア殿にまで……ああもう、どれだけ流布すれば気が済むのですか、エルドリエは……」

 

 呆れ返ってても、師匠は否定しないんだね……

 

 でも、師匠かぁ。

 なんだか負けてられない気がする。

 

 一応、こっちも先生だからね!

 

「でも、勉強熱心だし、あとよく懐いてくれるし、ちょっと可愛いよね」

「か、可愛い……? あのエルドリエが、ですか?」

「えっ、分かんない? こう、『先生、先生!』って言うし、めちゃめちゃ元気いっぱいな子供っぽくて、結構好きなんだけど」

「……たし、かに?」

「ほら、『アリス様、アリス様!』って具合に、子犬みたいにじゃれついてこない?」

「……そう考えてみれば、ちょっと可愛い……かも……?」

 

 本人からすれば、不名誉かもしれないけどね~。

 

 いやでも、そうだよね?

 

「……しかし、彼はあまりに私を盲信していますから、少し怖くもあります」

「ふっふっふ〜、そこは教育者の腕の見せどころだよ~! 自立するまで、二人でちゃんとお世話しなくちゃね」

「フェノメア殿……」

 

 なんだかアリスちゃんの目が遠いところを見てるような……

 でも大丈夫だよ! ボクはしっかり者だもん。ちゃんと最後まで面倒を見るつもりだよー。

 

「……やはり、先生にお任せして良かった」

「……うん?」

 

 むふん、と意気込んでるボクに、アリスちゃんは柔らかい笑顔でそう言う。

 

「私が見習いから上級騎士になったばかりの頃……術を教えてくださった時から、フェノメア殿とは話しやすい印象がありました。恥ずかしながら……その、母親のように思ったことも」

「うそん」

 

 いやこんな格好してるけどさー……女の子じゃないんだけどなぁ。

 ううう、でも今更男でしたーって言うのも面倒だし……メアちゃんどうしよう。

 

 自業自得だけど、困った。

 うえええ、アリスちゃんに嫌われたくないよぉ〜。

 

「い、いえ! 決して、フェノメア殿を貶している訳ではなくてですね……」

「も、もぉ~、ボクはお母さんって立場じゃないってばー。全面的にふざけてるし、ちょっと面倒見が良いくらいなだけだって。ファナちゃんの方がよっぽどお母さんっぽいよー、絶対」

「そ、そうですか……」

 

 これファナちゃんに言ったら容赦無く磔にされるけど。

 忙しいのに何かとボクの事を気にかけてくれてるし、これは疑いようがないよね!

 

「では、私はこれで失礼致します」

「ああー、引き留めちゃってごめんね〜。じゃ、お仕事頑張って!」

「ええ。無事に帰ってきますよ、フェノメア先生(・・)

 

 ばいばい、と振ろうとした手が上がりきらなかった。

 

 え? と思考を手放した隙に、アリスちゃんは扉の向こうに消えていて、すーっと冷静になって考えた。

 

 いやー……いきなりは反則だよねぇ。

 嬉しい事言ってくれるじゃんか〜、むふふ。

 

 ちょっと鬱屈とした気持ちが晴れて、なんだか身も心も充実してる気がした。

 

 ……だから、端的に言って。

 

 この時ばかりは、物凄くカッチーンと来た。

 

『えー。あのアリスって娘、わたし気に食わないんだけどなぁ~』

 

 軽い調子で、そんな事をのたまった。

 

 折角の気分に水を差された、ってのもまあ、結構ムカつく。

 でもそれだけじゃない。

 

『正義とか善とか、そういう全面に信じてそうでさぁ……ほんと馬っ鹿みたい。ああいう純真な娘って、一度くらい絶望させてやりたいよねぇ〜』

「────ちょっと、キミさ。そろそろ黙ってくれないかな?」

『…………はえ?』

 

 自分でもかつてないくらい暗い声が出た。

 思ってたより、怒ってたっぽい。

 

 まあ、ハッキリしたよ。

 いつもボクを知ったようなそぶりをしてくるけど、完璧じゃないってことに。

 

 全然分かってないよ。

 何も、なにも。

 

「ボクは教師だ。教師は、教え子を大事に守る義務がある。だから教え子を悪く言われて、腹が立たない教師は居ないとボクは思うけどね」

『……へぇ〜。それが嫉妬しちゃうぐらいの相手でも?』

「寧ろ、ボクらは一生教え子に嫉妬する仕事をしてるんだ」

 

 ピタリ、と調子づいていた雰囲気が消える。

 

 教師をなんにも分かってないのなら。

 全部斜に構えて、他人を見下す事しかできないなら、多分キミには理解できない。

 

「……もっと言うとね。教え子の良いところを粗捜しするのが、教師の役目だよ。たとえ成績が悪くても、他と比べて才能が無くても、欠陥があっても……それでも、嫉妬するような良いところを見つけて評価する。手塩にかけた教え子を良く言われた方が、ボクも嬉しいからね」

『……意味、分かんないよ』

「えー、そうかな? キミだって、人にものを教えた事ぐらいあるよね」

『っ……いちいち癇に障る言い方だね、(キミ)のくせに』

キミ()だから、でしょ?」

 

 さっき、アリスちゃんに何を言ったのか、忘れるボクじゃないよ。

 

 アリスちゃんは真面目だけど、根は子供っぽくて、でも努力だけは欠かした事がない、教えがいのある可愛い子だった。

 

 その分、羨ましく思わない日は無かった。

 団長とファナちゃんとボクのいいトコ取りみたいだし、アドミン様から可愛がられるし。

 

 ……でも、ボクはアリスちゃんの先が見たかった。

 

 この子なら、どこまでもいけるって思った。

 いつか、団長や元老長、アドミン様に追いつく存在になるって思ったから、二年掛けて教えこんだ。

 

「教え子に心を砕くんだから、愛着が湧かないはずがないし、それを馬鹿にされて黙っていられるほど、ボクは大人しくないよ」

『……そんな熱血気質だったかな、私』

「さぁね。キミにも、何かに入れ込んでたことぐらいあるんじゃない?」

 

 そう言うと、もう何も言ってこなかった。

 

 

 それから、声を聞くことはなかった。

 

 

 

 

 

 エルドリエ君に教えるようになって、もう一ヶ月くらいは経ったかな。

 

 神聖術は得意らしくて、一部詠唱を省略出来るようになったし、後は上位騎士になった時に貰った《霜鱗鞭》を上手く使いこなせるようになれば、《武装完全支配術》を教えることができる。

 

 極たまに、何か思い出しかけたり、凄まじく心がブラックになるけど、その度に殴って消してるから大丈夫……だよね。

 

 大丈夫じゃない事も、一つだけあるけれど。

 

「先生、どうなさいましたか? 先程から、心ここに在らずと言ったご様子ですが……」

「ううん、何でもないよ。さて、《形状変化術式》について、ここまでいいかな?」

「……はい、理解しました」

「うんうん! じゃあ、これを持って詠唱してみよっか」

 

 ひと塊の鉄鋼をエルドリエくんに手渡し、術式を唱えさせる。

 この術式は、文面で見れば複雑だが、やってる事はとても単純。

 

 操作の対象を指定し、それをどのような形にするか決め、形状変化の結句を唱える……ただそれだけ。

 頭の中で形を意識できていれば、

 

「リフォーム・オブジェクト」

 

 眩く発光し、鉄鋼がぐにゃりと形を変えて、一振りの剣となった。

 

 指定した通りの形になっているし、特に問題も無さそう。

 

「おおっ、一発で成功するなんて、キミは才能あるねぇ〜。ボクの下で働いてもいいくらいだよ」

「なっ!? し、しかし、私には敬愛する我が師が……」

「いや冗談だってばぁ〜。そんな真剣に悩まなくても大丈夫だから、ね? アリスちゃんを大切にしてあげて!」

 

 そこでボクとアリスちゃんを天秤に掛けちゃダメだよもう。

 ボクなんてアリスちゃんの前には路傍のホコリだし!

 

「ええ、勿論です。ですが先生も、見ていない所で無理をなさらないよう────」

「ぬふふ、エルドリエくんは心配症だなぁ。大丈夫だって、健康管理は怠ってないよ〜」

 

 ま、嘘だけどね。

 

 健康なんて気にしてる余裕は無い。

 いちいち気にしてたら、それだけで時間無くなるもん。

 

 でも、もう何徹明けになるのかも忘れてるぐらいだしねぇ。

 まともなご飯も食べてないし、神聖術で無理やり体調を調節してるけど、そろそろ休みが欲しいかも……

 

 はぁ……ボクだって、徹夜したくてしてる訳じゃないのに。

 

 一人にかかる仕事多すぎなんだやう。

 もっと働いてよぉ、元老長さんや〜い。

 

「ほーら、メアちゃんの心配ばかりしてないで、行った行った。キミにはこの後任務があるんだからねー!」

「せ、先生!!」

 

 エルドリエくんの背中を押して学習室から追い出し、溜息と共に去っていく足音を聞いてから、扉に背中を付けてへたり込む。

 

「はぁ……」

 

 胸に手を当てれば、心臓の鼓動が伝わってくる。いつもより速くて強くて、明らかに異常だった。

 

「教え子に恋って、いやいやエル君は男の子じゃん……! 手を出したら禁忌目録違反だって……」

 

 ただの可愛いもの好きだと思ってたけど、男の人好きになっちゃったら、もう言い訳できないよね……

 

「なんで、こうなっちゃうかなぁ」

 

 ボクは男の子だ。

 少なくとも、体はそうだ。

 

 でも、それが気持ち悪い。これは自分の体じゃないって、心のどこかで否定する。本当の()の姿はこうじゃないって、拒絶する。

 

「……だからって、どうしろっていうのさ」

 

 ボクには、なんとなく分かってしまった。

 

 あの記憶が、幻聴が、まだ天界にいた頃の自分のもので、今のボクと全く同じ悩みを持っていたんだろう。

 

「せめて女の子らしくなりかった、かぁ」

 

 思考が理解できてしまうことが、あの子の発言を裏付けていた。

 

「ほんと……難儀だね、ボクやキミみたいな生き物は」

 

 迷うことなく、足は階段に向いた。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

 85階、談話室。

 

 そこの小さな机を挟んで、俺とフェノメアは向かい合っていた。

 

 重々しい空気の中、俺はそっと目を閉じる。

 

「結論から言いましょう────無理よ」

 

 これを言うのは、とても心苦しかった。

 だが、フェノメアの提案、《身体の性別を変えることはできるか》という問いに対して、俺が返せる精一杯の答えは、これしか残されていなかった。

 

「この世界を操る絶対的法則が、貴方をそう規定した。そうなった以上、私でも変えることは不可能なの」 

 

 つまるところ、この問題の原因は、俺という管理者権限でさえ侵入が拒まれる主記憶装置、《メイン・ビジュアライザー》の基幹システムにある訳だが、そもそも、何故フェノメアのような存在が産まれたのだろうか。

 

 フェノメアをシンセサイズをしてから、あの子の事になると、いつもそれを考える。

 

 驚くべきことに、《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》を挿入された時点では、心の性は確定しないという事が、長年の研究で判明している。平均化された《精神原型》には男女といった性の傾向を決めるものが存在しないのだ。

 

 最初は無性と言っても差し支えない訳だ。

 これには俺も前提の誤りを認めざるを得ず、数ヶ月の思慮に入るくらいの衝撃であった。

 

 では、何が心の性を決定付けるのか。一概に環境や親のフラクトライト遺伝によって決定される訳ではなさそうだが、一体どんな要因なのか。

 俺は長い実験の中で、何千と犠牲を生みながらも、終ぞその確証を得られなかった。

 

 だが、確実に言える事はある。

 それは、フラクトライトの性別は、身体──アバターの性別に合わせるようにして決定される、ということだ。

 

 だが、性的指向がどこ向くのか、はたまた無いのか、そういった部分がどの様に決定されるのかは、実の所まだよく解っていない。

 

 そして、フェノメアはなぜ身体の性別に合わせて心がそう成長しなかったのか、という事に対する答えも、確定的な仮説は一つも立てられていないのが現状だ。

 

 しかし、一つ言える事があるとするなら……システム上では予期しえなかったバグの産物、それがフェノメアという存在であることだ。

 

 ラースは、フラクトライトが身体の性別に合わせて性分化すると想定した上でシステムを構築した。

 だから、フェノメアのような存在が産まれる事はイレギュラーなのだ。

 

 ……一旦、話をフェノメアが抱える問題の解決に戻そう。

 

 もしフェノメアの様な存在が現れたとして、その子のアバターの性別を変えることができるのか、という点に関して。

 これには明確に、ノーと言える。

 

 フラクトライトと紐付けされたアバターの性別は、一度生成されれば一切の変更を受け付けないからだ。

 

 《精神原型》挿入からアバター生成までの一連の流れを請け負うのは、カーディナルシステムであってカーディナルシステムの範疇にない、管理権限の更に外側の基幹システムだ。

 空のアバターの作成実行は幾らでもできるが、フラクトライトが挿入されてからのアバター作成プロセスに介入はできない。

 

 そこまで来ると、最早システム自体、つまりソースコードの改変になってくる為、外部からの直接操作が必要になるのだ。

 

 だが、抜け道はある(・・・・・・)

 

 フェノメアがもし、女性の身体になりたいだけなら、手はある。

 あの子のフラクトライトを、そこら辺から拾ってきた女性のフラクトライトに上書きすればいいのだ。

 

 用意されたアバターを弄る事はできないが、別アカウントのアバターを乗っ取る分には問題がない。

 要するに、俺がリセリスちゃんに自分のフラクトライトをコピーした時と同じことをすればいい。

 

 ただ、フラクトライトの共鳴崩壊を防ぐ為、コピー元のフラクトライトを破壊しなくてはならないし、そもそも乗っ取られる女性のフラクトライトは消失してしまう、という欠点はあるが。

 

 でも、心根が素直なフェノメアの事だから、乗っ取りを望むはずもない。

 仮にこれを提案したとしても、あの子に余計な混乱しか与えないだろう。

 

 この子が願うアバターの性別変更に関して、俺が打てる手立ては、それこそラースに掛け合うぐらいだ。

 ただ、それはあまりにリスクが大きい。相応の理由付けや、多少の交渉も覚悟しなくてはならないからだ。

 

 俺にはもう、後を誰か(キリト)に託すことしかできない。

 

「悪いけれど、今の私じゃ力になれないわ」

 

 だから、フェノメアをシンセサイズする時、せめてこの事で苦しまないようにと認識に改変を加えていたし、何度も調整した。

 

 それでも、あの子は異性装を続けて、決して女の子を恋愛対象にしなかった。

 ベルクーリも、フェノメアとは風呂で会ったことが無いって言うくらい裸の付き合いを避けてたし、違和感を消し去っても、無意識の内に、自分の心が女であると感じていたんだろう。

 

「やっぱり、アドミン様でも難しいよねぇ……」

 

 予想外なのは、フェノメアが俺でもできないと承知した上で訪ねてきたことだ。

 

 なら、本題はまた別にある……のか?

 

 これが前置きという事実に、あまり実感が湧かなかった。

 

「解ってたのなら、どうして私を呼んだわけ?」

「え? なんでって……恋愛相談?」

「────ブフッ!」

 

 首をこてんと倒しながら、何てことないように本音をぶち撒けた。

 

 クリスチャンが飲んでいた紅茶でゲホゲホ噎せているの傍目に、俺も紅茶を一口……

 

「……え? れ、恋愛相談って、まさか私に?」

「いや〜、アドミン様なら含蓄ある言葉が聞けるもん。元老長に片想い三百年なんだよね? 団長が言ってたよ?」

「んなぁっ!?」

「────ゲホッゴハッ!?」

 

 は、はぁ!? いや別に片想いとかじゃねーし! てか本人の前で言う奴がいるか!

 

 なんか前々から気になるっていうか、ドキドキするっていうか……いやちがーう、落ち着け、俺。

 一時の感情に身を任せていたら墓穴を掘ることになるぞ。

 

 そもそも、情報源ベルクーリかよ。

 あのアーチャーめ、とことん口軽いな。ちょっと気になるんだよな〜って晩酌でポロッと漏らしただけなのに。

 

 曲解誇張、ダメゼッタイ。

 

「違うから! クリスチャンは私の親友で、それ以上でもそれ以下でもないし、もし好きになったら友情への裏切りになるじゃない。クリスチャンもそう思うでしょう? ね?」

「……………………ええ、まあ、はい」

 

 ほ〜れ見たことか。

 ふふん、俺とクリスチャンの絆は絶対なのだ。

 

「あと言っておくけど、私だって純粋に女じゃないんだからね」

「…………それって」

「一応、心は男のつもり。……だからクリスチャンとは何もないからね? そっち系じゃないし」

 

 ほんとほんと。

 今は女の子にすら性欲湧かないけど。

 

 そう言ったからか、フェノメアは俺を矯めつ眇めつで観察しだした。

 

 外見で見られてもどうしようもないんだけどな。

 これでも、三百年以上アドミニストレータとして生きてきているわけで、ちょっとやそっとでボロは出ない。

 

「アドミン様に男要素って残ってる気しないけどなぁ」

「当たり前でしょう? 私が《俺》なんて言い出したり、ガサツだったら普通に引くわよ。印象の問題なの、こればっかりはね」

 

 クリスチャンにこれやると、何とも言えない表情されるしな。

 日記ではフラストレーションも発散できてるし、表に出さなくとも問題はない。

 

「……この通り、男も女も興味無いから、私じゃ相談になれるかわからないわよ」

「それでも、アドミン様に聞いて欲しいな」

 

 そこまで真剣に言われてしまうと、断りづらいものがある。

 

 頼りにしてくれているのだし、俺はこの子の上司という立場でもある。部下の悩みくらい聞けないで、組織のトップは務まらないよ。

 

「……いいでしょう。貴方の話、聞かせてちょうだい」

 

 十分後。

 

 俺はゲ○ドウポーズで考え込んでいた。

 

 恋愛相談、などと言っていたが、俺からすれば非常に頭の痛くなる問題だった。

 

「つまり、貴方はエルドリエを好きになってから、その記憶を思い出す事が多くなったと……」

 

 フェノメアが耳にする幻聴については、俺が調整する時に存在を知って、正体も分かっている。

 

 知ってる上で放置しているのだから、俺としても良心の呵責が……ね。

 でもあの子の問題を解決するには、彼女の存在はおよそ不可欠だった。カセドラルにいる限り、フェノメアに対して己が何者であるかを問いただしてくれるからだ。

 

「内容からしても……やっぱりボクの記憶だよね」

「まあ、天界の記憶でしょうね。以前の貴方も、男の人を好きになった事があって、それが今の状況と重なってる、と考えられるわ」

 

 そもそもフェノメアがここにいる理由は、《同性愛の禁止》で連行されたからだ。

 かつてフェノメアが好きだった人物に関する記憶を抜き取って《敬神モジュール》を埋め込んだので、十中八九、男の人を好きになってしまった事がトリガーだろう。

 

「で、フェノメアはどうしたいわけ?」

「……う〜、流石に告白は駄目だよね」

「いいんじゃない? あなたができるなら」

 

 投げやり気味に言うと、フェノメアが目をパチクリさせて、クリスチャンに似た黒髪をくるくると弄った。

 

 頭の中でシミュレートしているのか、上の空で髪をくるくるし続けて、三十秒くらい。

 ぶわっと顔を赤くして首を激しく横に振ると、肩を落とした。

 

「メアちゃんの勇気じゃできませんねぇ……」

 

 それはそうだよな。

 エルドリエだって、普通に女の子好きだし。マザコンだけど。

 

 付いてるからお得、って考えられる人種(日本人)だったらいいんだけども。

 いや無理だな。想像できない。

 

「でも、エル君の事は好きってことは、間違いないから。いつか決着をつけたいよ、必ずね」

 

 覚悟は固いようで何よりだ。

 

 それに、フェノメアがこの調子で居てくれるなら、俺が居なくなった後、大戦でもエルドリエを護ってくれるかもしれない。

 どうか幸せになってくれよ……見れないのだけ残念だけどさ。

 

「もし辛いようなら、これからも遠慮なく相談してくれていいわよ。調整も前倒しにするわ」

「ありがと、アドミン様。でも、できるだけ、アドミン様頼りにならないように頑張ってみるよ」

 

 そう言い、フェノメアは席を立った。

 扉に手を掛けて、一礼をしようとして……何かを思い出したかのように焦って戻ってきた。

 

「あ、あのアドミン様! もう一つ、ショーコちゃんの事でお願いが……」

「──は? ショーコちゃん?」

 

 えっ、待って誰?

 

 

 

 

『ショーコちゃんは、昇降係のショーコちゃんだよ。名前も覚えてないっぽいし、昇降係って言いにくいから、愛称? みたいな? もうずっとそう呼んでるかなあ』

 

 ショーコなる謎の人物が、いつかエアリーと名付けられるであろう昇降係である事が判明し、意図せぬ改変に自己嫌悪を起こした後。

 フェノメアが居なくなった談話室で、俺は気持ちを引き摺りながら、冷めきった紅茶をくるくると回していた。

 

「良かったのですか。昇降盤の自動化なんてものを確約して」

「良いのよ、私がやるんじゃないんだし。キリトがなんとかしてくれるでしょ」

 

 ユナリンだと、ただのエレベーターになってたはず。

 

 そもそも、もう来年くらいには俺死んでるよ。

 なので頑張れキリト。後はお前に任せた。

 

 残った紅茶を飲み干して、はぁと息を吐き出す。

 

「にしても、男の娘って良いわよね……」

「……少し、その感覚は理解できそうにありません」

「分からなくていいのよ。もともと日本人特有の感性なんだし。あんまり考えてると性癖狂うわよ? 私みたいに」

「血の繋がった弟にそんな事思いませんよ」

「だからこその背徳感でしょう?」

「ちょっともう黙ってて下さいクィネラ様」

「あだっ……!?」

 

 チョップが脳天に落とされた。

 武道を嗜んでるだけあって鋭い一撃だった。

 

 うう、脳が震える……こういう時は豆腐の要領でって偉い人が言ってたような……なんだっけ。

 

 痛みで涙目になりながら、非難の目を浴びせる。

 

「……ちょっと、最高司祭に暴力振るわないでよ。私、貴方の上司なんだけど」

「その上司が変態じみた事言うからでしょう……」

「変態じゃないもん。一般性癖だもん」

 

 因みに俺はセーラー服のアス○ルフォに狂わされた。

 あれはズルい。

 

 フェノメアが似たようなヘソ出し衣装着だしたら、俺の情緒はどうなるやら。

 黒髪ミディアムで大分前世の性癖ドストライクなんだよな、あの子。

 

「可愛いなぁ……」

 

 ニマニマしていたからか、クリスチャンがこれまた何とも言えない渋い顔で紅茶のカップを片し始めた。

 

 でも、かわいいは正義だ。

 これだけは譲らないからな、クリスチャン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 人界暦381年10月7日

 

 

「システム・コール」

 

 永きを生きたフェノメアは、何となく、死の予感というものを感じていた。

 

 それは、単に過労で限界が来ていたから……ではないと思いたいが、それを目の前にした時、自分の死地を悟った。

 

 大切な教え子達が見ている中で、飛竜を翔けて自分の方へ来る彼の姿を左目に見た。

 不意に、その姿にぼんやりと、見知らぬ少年の姿が重なる。

 

 護るべきものは、ここにあるのだ。

 

 ならば、教師の自分に出来ることは。

 

「アドミン様、ごめんなさい……。

 

 

 

 ────リリース・リコレクション」

 

 

 

 右眼が、鮮烈な輝きと共に弾け飛んだ。

 

 

 

 




エルドリエ……霜鱗鞭……リリース・リコレクション……ウッ頭が
まさか男の娘に身代わりになれなんて……ねぇ?(ゲス顔)
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