○アドミン(アドミニストレータ、及びクィネラ)
前世とクィネラとしてのフラクトライトが絡み合い、またアドミニストレータを演じ続けていたせいで、心を壊しかけていた。現在、全員生存RTA中。
○クリスチャン(・シンセシス・ゼロ)
クソドヘタレ執事。あまりにもチュデルキンを雇いたくなかったアドミンが、たまたま自然発生していた禁忌目録違反のクソ強フラクトライトを拾い、元老長として育てた。少し長めな黒髪を後ろで纏め、スーツとペンは手放さない。アドミンが好き。
○ファナティオ・シンセシス・ツー
整合騎士になったばかりのキリトと実は決闘して、ベルクーリとの結婚フラグが既に立ってるという設定があったのに、今見返したら本編のどこにも決闘シーンが無くてビックリした人。フェノメアの親友。アドミンとよくお菓子を作っている。
○フェノメア・シンセシス・スリー
まれに出てくる社畜の男の娘。カーディナルシステムの偶発的なバグにより、フラクトライトの性別とアンダーワールド内におけるアバターの性別が食い違ってしまっている。整合騎士だが剣の腕は絶望的。大戦後期に超重要な役どころさんが出てくる。
○キリト・シンセシス・サーティスリー
ライオスとウンベールがカニにやられてイタズラフラグが折れたため、統一大会で優勝してしまった世界線のキリト。ガブリエルの襲撃による電流サージで昏睡しているため、ユージオやアリス達とルーリッドで療養中。
○ユージオ・シンセシス・サーティツー
統一大会にキリトと共に引き分けを演じ切り優勝。そしてアドミンとの決戦を経たが生存している。現在ルーリッドで数ヶ月のスローライフ中。大会前にティーゼと交わしたとある約束を忘れかけているが⋯⋯?
○アリス・シンセシス・サーティ
原典と特に変化無し。しかし下記の存在でややこしくなっている。
○アリス・ツーベルク
騎士アリスの魂を空きのライトキューブにコピペし、抜き取られた記憶の欠片を戻したことで人格が再構築されたアリス。騎士アリスとはキリトの世話の奪い合いでいがみ合っている。セルカは訳が分からなかった。
○イーディス・シンセシス・テン
原作に逆輸入された騎士。アリスの姉を名乗る不審者。エルドリエとは喧嘩しかしない。
ふええ、もう内容が飛んじゃったよう⋯⋯(自業自得)
『人界へようこそ、イーディス。気分はどう?』
『……えっと、人界?』
あたしが人界に降りてからの記憶は、今でもわりと簡単に思い出せる。
『そうよ。貴女は天界から私に招かれた。整合騎士、イーディス・シンセシス・テンとして、人界を守護する為にね』
記憶が無くて、何がなんだか分からない時にそんな事を言われたら、多分誰でも反応できないと思う。
だから、この時のあたしも、目の前に居る人達の事をよく認識していなかった。
『整合騎士……? すみません、ちょっとよく分かんないんですけど……ここに来てから、なんだか記憶が無いし……』
『無理も無いわね。なぜなら、貴女は召喚される際に、こちらでの生活に支障が出ないよう、天界の記憶を消してあるのよ』
記憶を消してある……そう聞いて驚くと同時に、なんだかちょっと怪しいと思ってしまった。
そんなあたしの様子なんかお見通しで、最高司祭様は穏やかに諭した。
『大丈夫よ。慣れていなくて、記憶が安定していないだけでしょうし。しばらくすれば、気にならなくなるわ』
『はあ……わかったわ』
不承不承、と頷いてみせるが、最高司祭様は気にかける事もなく視線を外して、隣にいた召使いみたいな格好の男に命令する。
『クリスチャン、案内は宜しく頼むわね』
『はい。お任せを』
……思えばこの頃から、最高司祭様に違和感を覚えていた。
人の機微には聡い方だとは思っていたけど……自分の勘の良さが恐ろしく思えてくるくらい。
他に気付いている人は、最高司祭様と一番付き合いが長い元老長とか騎士長、あとはフェノメアちゃんぐらいなものだし。
でも、まさか、最高司祭様の内面があんなだったなんて……この頃までは、思いもしなかった。
◯ ✖️ △ ◆
「イーディスちゃん」
「あっ……最高司祭様、おはようございます」
最高司祭様から、神器《闇斬剣》を頂いて一年くらい経ってからだったかな……たまたま会う機会があった。
「どう? あれから記憶解放術の扱いには慣れそうかしら」
「うーん……暴走とかは特に無いですけど、まだ何とも言えないかも……」
「焦る必要は無いわ。まだ日も浅いのだし、これから慣れていけばいいのよ。それはそうと、イーディスちゃん」
「はい?」
「今から私とお茶をする気はある?」
あたしを引き止めたまま、衝撃的な一言を発した。
「えっ……と。お茶、ですか?」
「そうよ、九十五階でね。ツルコ餅とお茶もあるわ。……まあ、別に来たくないならいいのだけれど」
「い、行きます行きます! もちろん!」
「それじゃあ、付いてらっしゃい」
最高司祭様の背中を置いながら、なんであたしを誘ったのか不思議だったのを覚えてる。今になって考えたら、最高司祭様にも深い意味は無かったんだと納得している。
カセドラルの高さから央都を見下ろせる、外周に近い場所で卓と椅子を用意して、とりとめのない話で盛り上がった。
「カセドラルで一番好きな場所ですか? それなら《大浴場》ですかね〜! もう、あんな広いお風呂でのびのびとできるなんて、カセドラルに来て一番嬉しかったなぁ〜」
あれはとても良かった。広いし、いい匂いがするし、眺めも最高。言う事無しで最高のお風呂だった。
「それなら、ちゃんとベルクーリにお礼を言う事ね。あれは、褒美に欲しい物を聞いた時に、ベルクーリが願ったものなのよ?」
「そうなんだ! やっぱり騎士長とは気が合うわね……」
「ふふ……まさかお風呂が欲しいんだなんて言うとは思わなかったから、あの時はつい笑っちゃったわ。あ、でもイーディスちゃんまで変わった褒美をお願いしてきたら、私も困っちゃうんだから」
「そんなお願い、簡単に思い付きませんって。それに、褒美なら貰い過ぎるくらい貰っちゃいましたよ」
「そんな事は無いわ。相応の成果には相応の褒美を。当然の帰結ね」
お茶を啜りながら、そうやって話に興じるのは、とても楽しかった。
それに、最高司祭様自ら作ったっていうツルコは、あまりに美味しくてついつい食べすぎちゃったりしたし、結構可愛い趣味もあるって知ったら、益々親近感が湧いちゃって。
ほんと、良い人で良かったなぁ〜!
◯ ✖️ △ ◆
ふんふんふ〜ん、今日っから〜、カッセドッラル〜勤務〜♪
アーリスちゃ〜ん、で〜ておいで〜!
今日から私と遊びましょ────
「きゃっ!?」
「うおわっ!」
角を曲がった途端、誰か思い切りぶつかってしまった。
これからの楽しい事に気を取られて、前方不注意に陥ってしまっていたみたい。
うう〜、不覚だったわ……
「ご、ごめんね! 大丈夫────って、あれ?」
「あ、あー、すみません……ちょっとぼうっとしてたみたいで」
ぶつかったのは、黒髪の男の子。一瞬クリスチャンかと思ったが、声とか顔立ちが微妙に違う。
しかも、着ている服は下位整合騎士の修道服だから、間違いない。
「えーっと、怪我はない?」
「は、はい。特に……あ、その、貴女も整合騎士なんですよね?」
「うん。イーディス・シンセシス・テン。そういう君は、もしかして新しく来た整合騎士?」
「はい、キリト・シンセシス・サーティスリーです」
キリト。ちょっと不思議な名前だ。
まあウチにも色んな名前の人いるし、そんなもんだよね。
「キリトね。私の事は普通にイーディスって呼んでいいよ。敬語も堅苦しいなら、無しでも良いからね」
「なら、タメで話させてくれないか? ここの所、ずっと敬語使いっぱなしで疲れててさ……」
「あははっ、珍しいね」
縛られたりするのは得意じゃなさそうで、私と波長が合いそうだ。
なんだか、この子とは長い付き合いになりそうな気がする。これで女の子だったら文句無しだったんだけどなぁ〜。
「あ、ねぇねぇ! サーティスリーって事は、もう一人来てるでしょ? もしかしてその子は女の子だったりする!?」
「あ、いや、全く。普通に男だよ」
「えー……そっかぁ、残念……」
ううう、あのエルドリエ含めて立て続けに三人も男の子が……楽しみにしてたのになあ。
「なんか、凄くガッカリしてるな?」
「そ、そんな事ないから! 大丈夫、可愛ければ問題無いよ!」
「え、えぇ……?」
キリトは結構女顔だから、おめかしすればきっと化けるはず!
まあでも、キリトが引いてるし、後輩弄りはここまでにしておこうかな。
「あ、そうだ! キリトはまだ来たばかりなんだよね? ここは先輩として、分からない事があったら何でも教えてあげるよ。何か気になってる事とかあったりする?」
「え、ええと、気になる事……?」
「そう、何でも聞いていいよー」
そう言うと、キリトはちょっと考えた素振りをしてから、声を小さくして、ひっそりと尋ねてくる。
「あー⋯⋯それじゃあ、最高司祭アドミニストレータ様の事を聞いてもいいか? ちょっと気になる事があってな」
思わず、目が細まる。真っ先にこんな事を聞いてくるとなると、本当に私と同じ人種なのかもしれない。
「……んー。別に構わないけど、あたしでも最高司祭様について知ってる事はそんなに多くないよ?」
「それでも、気になってることがあったんだ」
キリトは腕を組んで、うーんと首を捻りながら、ポツリと話し出した。
「なんだか、こう、不思議な印象だったんだ。思っていた人と結構違くって」
「あら、そうなの?」
「初めに顔を見た時はイメージ……じゃなくて、想像通りだったんだけど、性格は意外と普通なんじゃないかと思ってさ」
そっと察して、最高司祭様に同情しておく。多分、その場でクリスチャンに揶揄われたんだと思うけど、まさか新人の前でやるなんて酷いことするわね……
と言っても、最高司祭様って偉ぶるの下手だからね。何ヶ月もすれば、最高司祭が結構抜けてる人だって分かっちゃうし。
世間にまで広まっちゃったら、流石にまずいかなーとは思うけど。
「あたしもそう思うな。最高司祭としての外面はあっても、元々は普通の人間だったらしいし。ちょっと素っ気ない素振りしてても、いつもあたし達を気にかけてくれてるからね」
「へぇ……なんていうか、理想の上司像だな」
上に立つ者としては理想よね。こう、偉くて強いだけじゃない! みたいな感じで遠慮も無くなってくるし、色々上申しやすい環境にはなっていると思う。
「でも、色々噂があったりしてさー。元老長と二人きりの時は口調が変わるとか、たまにお菓子を焼いてカセドラル中に配るとか、年始にやってる皇帝達の式典に寝坊した事があるとか。実態が謎だから、整合騎士の中でも憶測も飛び交ってるんだ」
「最高司祭様の噂とか憶測をしても、特にお咎めは無いんだな」
「ないない、全然ないよー! 最高司祭様を悪く思ってる人なんていないし、何してるのか想像してみるのも割と面白かったりするからね。たまに騎士が何人か集まって話してるんだー」
エントキアとネギオは大抵いて、フェノメアもよく混ざってるかしら。そこにアリスとか、ごくまれにベルクーリとファナティオが参加してくる時もあるわね。
いやー、中々聞けない裏話もあるから、ついつい飛び入り参加しちゃうのよ〜。
「同好会みたいなもんか……」
「え? どーこーかい……?」
「ああいや、こっちの話だよ。……となると、総評としては、やっぱり良い人って事なんだな」
「ちょっとー、良い人って言葉で片付けないでよねー。最高司祭様は奥が深いんだから。それだけで分かった気になってたら、大間違いだよ新人くん」
「あ、あははは……以後、気を付けます、整合騎士殿」
「うん、よろしい!」
そうして、キリトと初対面を終えた。
それから何度か顔を見かけて話しかけるうちに、いつの間にか上位整合騎士になってて、そして……
騎士長がほぼ全員の整合騎士を五十階に集めて、そこであたしは全てを知ることになる。
◯ ✖️ △ ◆
「……皆さん。心して聞いて下さい。これは全て、嘘偽り無き真実にございます。ですから……どうか気を確かに、受け止めて下さるようお願い致します」
そう言って始まった元老長と騎士長の話を聞き終えてから、あたしは暫く、思考がうまく纏まらなかった。
今回の騒動は、最高司祭様自ら引き起こしたもの。
その目的は、キリト達に自分を殺してもらうため。
……ふざけんじゃないわよ! っていきり立てられたのは、最初の方だけ。二人の話を聞けば聞くほど、何も言えなくなってしまった。
三百年という長い月日の中、《魂の寿命》とかいう避けようの無い死を前にしながら、暗黒界とカーディナル様への対処に追われてただなんて三重苦、誰が想像できただろうか。
最近はいつも寝てるような……と思ったのは一度や二度では無いけれど、それは限界まで記憶が蓄積すると、《魂の寿命》を迎えて死んでしまうかららしい。それは、あたし達も例外じゃない。
定期的にやってる調整は、教会にとって不都合な考えを消すのもあるけど、それも《魂の寿命》を解決する為に必要な事だった。
でも、それがいけなかったんだ。
あの人が、元はと言えばただの女の子だったってことを、あたしはずっと認識してたのに、何も分かってはいなかった。
《シンセサイズの秘儀》を繰り返す事がどれだけの苦痛だったのか……それを推し量る事もできないけれど、実験の過程で何人もの命を奪ってしまったそうだ。
整合騎士の《製法》は、そんな技術の上にある。大切な人に関する記憶を奪って、公理教会への忠誠を強制するなんていう、とても正気じゃない外道な術だった。
じゃあ、最高司祭様はどんな思いで、あたし達整合騎士を作ったのか。どうして、あんな優しく接してくれたのか。
重責を押し付けたまま、何も考えていなかった事が悔しいし、それに無力な自分が恥ずかしい。
私でさえこんな事を思うんだから、一番後悔していたのは元老長でしょうね。常に側に居て、最高司祭の事も好きっぽさそうな雰囲気出してたし。
だから、その負い目っていうかなぁ⋯⋯見た目の距離感こそ変わって無さそうだけど、遠慮がどこかに見え隠れしているような気がした。
最高司祭様を幸せにしてあげられるのは、多分アイツだけ。
……いけない。任務帰りになると、つい考えてしまう。
「……憂鬱だなぁ」
「クエェッ!!」
ポロッと口から流れ出た言葉に、飛竜の霧舞が鳴き声を上げた。
「霧舞? もしかして、励ましてくれてるの?」
「クルルッ」
ぷいっと顔を逸らした霧舞の、「別にそんなんじゃないし!」という声が聞こえた気がした。健気な姿に、笑みが零れてしまう。
んもぉ〜、全くツンデレさんだなぁ〜!
「クェクェェッ!!」
「ちょっ、ごめんって!」
あっ、やばい、落ちるぅぅぅ────!!!
「はぁぁぁ……疲れたぁ」
霧舞がいつもの倍くらいの速さで飛ばしたから、しがみつくのがやっとで、カセドラルに着いた頃にはあたしも霧舞も疲労困憊になってしまった。
霧舞にはお詫びに好物のお魚を沢山あげたから、機嫌直してくれたけど、あたしはまだやる事が残っている。
それは…………そう、お風呂だ。
任務帰りには必須、カセドラルに着いたらまずコレと言ってもいいと思う。
「……お待たせしました。何階をご利用でしょうか」
「八十階までお願いね」
「……畏まりました。それでは八十階、《雲上庭園》まで参ります」
昇降係ちゃんにいつもの階を指定して、八十階から足早に駆け上がる。
まだ女湯の時間だから、今のうちに入っておきたい。
さっと着替えて浴布を身に着け、大浴場に入ったら、話し声が聞こえてきた。
でも、先客って言ったって、女の子で積極的に話す子なんて中々居ないし……
「もう、お風呂でそんなにはしゃぐものではありませんよ」
「だって、こんなに広いんだもの。これだけあるなら、お風呂で泳いでも全然余裕があるわね!」
「あ、こらっ! 泳がないで下さい! 行儀が悪いですよ!」
……あれ、おかしいな。何だかアリスが二人見えるんだけど。
もしや、ここが天界……?
「こら、いい加減に⋯⋯って、イーディス殿ではないですか。任務から帰還されたのですね」
「あ、そうそう。ついさっきね〜……って、違う!」
きょとん、と可愛らしく小首を傾げるアリスから目を離し、その近くで同じくきょとんとしている、小さめな方のアリスと目を合わせる。
目を擦るが、変わらずそこにはアリスちゃん。もう一度視線を、いつものアリスちゃんに向けて、また戻す。
「……あたしのアリスちゃんが、増えたっ!」
「増えてなどいませんよ!」
じゃあ、それ以外になんて言えばいいの!?
訳が分からないまま、混乱状態になってしまったあたしに、もう一人のアリスが話しかけてくる。
「……えっと、イーディスさんでいいのかしら」
「そうだよ? でも、〝さん〟なんて他人行儀な呼び方じゃなくて、イーディスお姉ちゃんって呼んでくれる?」
「い、イーディス殿! 彼女に勝手な事を吹き込まないで下さい!」
「イーディスお姉ちゃんね!」
「ぐほあっ!!」
可憐な声でその言葉聞けるだなんて……私もう死んでも良いかもしれない……
しかし、この子もアリスって名前なんだ。見た目もまんまだからいいんだけど、どうやって呼び分ければ良いんのかねぇ……?
「まあいいや。……えーと、あたしが居ない間に、一体何があったの?」
「はい。つい三日前の話なのですが……」
曰く、最高司祭様がやった。
曰く、このアリスは、シンセサイズされる前のアリスである。
という事を、お風呂に浸かりながら聞いていた。
うん、解りはしたけど、なんだろう……こうしてアリスが二人居ると……もうダメ、抑えきれないわ!
「もう辛抱たまらん! えいっ!」
「ふわっ!?」
「なっ!?」
二人ともまとめて抱き着いちゃったりして〜。えへへ〜。
「く、くっつくのはやめてください!」
「え、えーと……?」
「うーん、幸せ! アリスちゃんが実質二倍っていうこのお得感! なんて最高なの!」
うひゃー、たまんねー! ってばかりに抱き着いてたので、二人から怒られてしまった。すみませんでした……
○ ✕ △ □
お風呂でアリスちゃん二人を堪能しつくした後、思わず「うげっ」と声が出てしまった。
エルドリエ・シンセシス・サーティワン。あたしの嫌いな奴番付の堂々一位を飾っている。
アリスちゃんに付き纏って、アリスちゃんの弟子とかいう立場に収まってきた不届き者だ。
アリスちゃんの素晴らしさを理解してるのはいいけど、気障ったらしい性格も相まって、根本から反りが合わなかった。初めて会った時から喧嘩しかしてないし、もはや筋金入りね。
今日という今日は邪魔させないわ。出でよ、二人のアリスちゃん!
「わ、我が師がお二人も……くっ、もしや私は夢でも見ているのかっ」
流石はアリスちゃんだ。あのエルドリエが一瞬でこの通り。
さて、いきなり壁に頭を打ち付け始めた不審者は無視無視っと……
「え、エルドリエ!? そんな頭を強く叩きつけて、一体何をしているのです! ほら、額から血が出ているではありませんか!!」
「だ、大丈夫!? システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント!」
と思ったら、二人のアリスちゃんが甲斐甲斐しく世話を焼いてた。
くっ、なんて羨ま……サイテーな奴! さては狙ってやったわね、こいつ。
「お、おお……このエルドリエ、無上の悦びにございます! 御身の神聖術を賜るとは、もう死んでも良いかもしれませぬ」
「縁起でもない事を言わないで下さい。それに、治癒術を使ったのは彼女の方ですよ」
「なんだか変わった人ね……私の神聖術、そんなに凄いことはしてないのに」
あーあー……アリスちゃん、引いちゃってるよ。可哀想に。
「む……よく見れば、もう一人の我が師は幾分か幼いようですが」
「別に、貴方の師匠じゃないもの。私はアリス・ツーベルク。貴方が師匠呼びしてるアリスとは違うわ」
「なんと……! ですが、口調こそ違えどやはりその在り方は我が師そのもの。そして私より卓越した神聖術の腕をお持ちの様子。ここは敬意を表し、我が師と……」
「……普通にアリスで構わないのに」
というかそもそも、年下の女の子に絡んでるって構図自体マズイわよ、これ。たたでさえアリスを盲信し過ぎて信用が無いのに、どうするのよ。
「なりませぬ、師よ。貴女様と私では、存在の格すら違うのです。敬意こそすれ対等な関係など……」
「なによ。貴方ってば、師匠の言葉が聞けないの?」
「く、くっ……しかし、こればかりは譲れませぬ……」
「へぇ〜。言う事が聞けないなら、エルドリエは私たちの弟子じゃないわ。聞き分けのない弟子は要らないの」
「なっ!? そ、そんな……」
うひゃ〜! アリスちゃんカッコいい〜!
エルドリエを打ち負かす姿に、心の中で黄色い歓声が上がってしまう。
「こ、こらアリス、やめなさいっ。ああ見えてエルドリエは繊細なのですから、もっと言葉遣いに遠慮というものを……」
「──グハッ!?」
あっ。そっちのアリスちゃんまで追い討ち掛けちゃったかぁ……
「よーし、じゃあ二人共こっちだよ!」
「あ、あの人、放っておいていいの?」
「いいのいいの! アイツ、図太さだけは整合騎士でもピカイチなんだから」
明日にはケロッとして戻って来るわよ、多分。
○ ✕ △ □
アリスちゃんとアリスちゃんが、北帝国にある洞窟前の村まで旅立っちゃった。
折角私はカセドラル勤務なのに……ぐすん。
アリスちゃんが居なかったら、私のやる気は半減では済まないよ。妹が居ない悲しみを、一体どうやって埋めたものかしら。
「あら、イーディスじゃない」
「んげっ、ファナティ……オ?」
振り向けば、会いたくない人番付第二位にして、整合騎士第二位のファナティオ・シンセシス・ツーが、小さく手を振ってきた。
兜無しで、しかもお化粧までして。
目を疑った。一瞬、夢でも見ているのかとさえ思ったほどだ。
「えっ、あれ⋯⋯ファナティオ……だよね? どうしちゃったのよ兜外して! 何か悪いものでも食べた? それとも騎士長絡みで何かあった? 困ってるなら相談くらい乗るよ!?」
「い、イーディス、あなたねぇ……」
一大事だ。口調まで変になってる。
ファナティオと言えば、ネギオやエルドリエと並んで堅物の極みみたいな人なのに、料理できたりお菓子作れたり、騎士長相手だとあからさまに態度が変わったりと、結構可愛い所もある人なんだけど、女の子っぽい所は全然見せてくれない人だった。だから、私はめっちゃくちゃ苦手だったし、私にはかっなーり辛辣な態度を取られていた。
あと、騎士長と仲良いからなのも原因ではあるんだけどね⋯⋯
会った時から百年間同じだったし、私もしょうがないと納得してた。でもまさか、短い間にこんな変わるなんて。
「そう言われても、仕方の無い事だとは思うけれどね。でも、あの子が決闘で教えてくれたのよ。貴女は女である事に囚われ過ぎてるって……その上で、負けたわ。清々しい程にね」
「誰と戦ったの? まさか、暗黒騎士に?」
「いいえ。整合騎士の、それも新米の見習い騎士によ? 人界から登用された、キリトっていう坊やの騎士にね」
「あ〜、あの子かぁ〜」
キリト・シンセシス・サーティスリーの名前は、今や教会の中で最も話題に出てくるぐらいだ。
最高司祭様を一対一で打ち負かして、凶行に終止符を打った最新の騎士。最高司祭様が生きているのはその子のお蔭だと、あの集会にいた騎士達みんなが知っている。
「お蔭で、閣下とも……その、ね。前より、ずっとお近付きになれたというか……」
「うそ、もしかして……!」
「⋯⋯ええ。戦いが終わったら、正式に結婚する予定なの」
「っ……やっと、騎士長とファナティオが……ぐずっ、お、おめでとぉぉぉ!!」
涙腺が緩むと、一欠片も躊躇いも無く抱き着いた。
暗い話ばかりのこの頃に、まさか結婚の話が飛び出してくるなんて。
ああ、でも、本当に良かった。ファナティオってば、ずっと拗らせてたし、見てるこっちがヤキモキしちゃうぐらいだったもの。
「そっかぁ……やっと、なんだ」
騎士長とファナティオの幸せそうな姿が思い浮かんでくると共に、もう一組の男女が脳裏を掠めた。
このカセドラルで、恋愛沙汰になるような人達はそう多くない。男女比で六対四くらいはあるのに、堅物だったり変わってたりして、全然色恋に発展しないのだ。
私も男の子に興味が無いという訳でもないけど……ってぐらいな感じだし、恋愛ってめんどくさそうで、あんまり乗り気になれないっていうのよね。多分、こう思っちゃうのも整合騎士なんだからなんだろうけど。
そんなカセドラルでも、公然の秘密となったカップルがいる。
百年以上も拗らせちゃって、空回りに空回りを繰り返している、我等がトップのアドミニストレータ様とクリスチャンだ。
「……最高司祭様と元老長も、結婚して幸せになってくれるのかな」
「あのお二人は……まだ先が長いでしょうね」
カーディナル様の報告だと、夏至祭で一気に距離が近付いたそうだけれど、あれから進歩は一切無いんだとか。
もっと嫉妬心を焚き付けてやろうと苦心しているそうだけど、カーディナル様の方も限界が近付いてきている。
「大戦が終わって落ち着けば、おのずと進展があるとは思うのだけれど」
「無いわよ。断言するわ、あの二人は一度崖っぷちに立たせてからが本番。死の間際か、第三者がちょっかい出さないと、本音出さないわよ」
「……思わずも納得してしまった不敬をどうかお赦し下さい、猊下、元老長閣下」
「わざわざ口に出す方が失礼だと思うわよ、それ」
ぷっ、とファナティオが吹き出した。
本当に、変わったわね。調子が狂わされるというか、口煩かった頃がちょっと恋しくなってしまう。
素の性格がこんなに茶目っ気があるって知ってたら、ずっと前から打ち解けてたはずのに。なんかちょっと損した気分。
「大戦終わって、平和になったらさ。一緒にお菓子作ろうよ。ファナティオ、得意でしょ?」
「ふふ、それも良いわね。久し振りに、ショコルでケーキとかパンを焼いてみたいわ」
ショコル。
それは、カコルの実を砕いて、砂糖と練り混ぜて作るお菓子だ。
何でも、アドミニストレータ様がショコルの製法を作ったんだとか。最高司祭様のお菓子作りの才能は計り知れないと思う。いっそ天職をお菓子職人しても良いぐらいだ。
「ファナティオは南国菓子好きだよね〜。でも、私がショコルに一番合うと思ってるお菓子は……ズバリ、東帝国のイマガワ焼きよ!」
イマガワ焼きも、アドミニストレータ様が作り、四帝国に広まったんたんだとか。小麦にアズラ豆煮を詰めて焼くだけだから、万人受けするお菓子だと思ってるし、その中身も多種多様に変化を遂げている。
しかし、ビシッと指を突きつけた途端、辺りが静まり返った。
「……あれ、イマガワ焼きって、分かる?」
「カイテン焼きなら、知ってるわ」
口許がピクついた。
この時、理解した。きっと、私とファナティオは、このお菓子の事では永遠に分かり合えない事を。
「む、今あの菓子を何と呼んだのです?」
「うわ、エルドリエだ……」
そんな最悪のタイミングに、最悪の奴が顔を出してきた。
しかも、最悪の言葉を吐き捨てて。
「アレは、オヤキというのです。全く、栄えある整合騎士団ともあろうものが、何故こんな事も分からぬのですか?」
「「は?」」
本気で殺意が湧いたのはいつぶりだろう。
今なら、衝動のままに武器を取ってしまいそうになる。
堪えなさい、イーディス・シンセシス・テン。
私は強い子優しい子。この程度でプッツンしてちゃ、戦いなんてできる訳が…………
「違う。あのお菓子の名前、オオバン焼き」
と、そんな聞き捨てならない単語を繰り出したのは、偶然通りがかったシェータちゃんだった。
普通なら、あの《無音》で知られるシェータちゃんが喋ったという事実に驚く所だけど、今だけはそんな事を気にしている場合ではなかった。
「⋯⋯シェータちゃ〜ん?」
「西帝国では、当たり前」
「……ほう。かのシェータ殿と言えども、アレの名前は譲れないと」
「皆、いい度胸をしてるわね? 副騎士長として、他の名前の存在は断じて認めないわ」
「この後暇? 修練場で決着を付けにいこうじゃない」
「良いでしょう。騎士として、剣で語らねば恥というもの」
四つ巴の戦いに闘志を燃やし、いざ、修練場へ……
「⋯⋯ふぅん? またそうやって争う気なの? それなら、最高司祭の権限で、名前をベイクドモチョチョで統一するわよ?」
……行けなかった。
ペタペタという滑らかな足音と、澄み渡った美声が廊下に通った瞬間、私達はすぐに居住まいを正して、騎士礼を取った。
元老長を伴って現れた最高司祭様は、「いいわよね?」と言わんばかりの圧力で私達四人を見据えた。
「…………え? ベイクド、モチョチョ?」
思考が追い付いたのは、その後だった。
この御方は、一体何を言い出したのだろうかと。
「元々はおふざ──じゃなくて、ちょっとした実験の為に、四帝国それぞれで名前を変えて売り出したんだけど、やっぱりこうなったわね。だから今決めたのよ。一つだけの名前を」
「そ、それが、ベイクドモチョチョという、妙ちきりんな名前に……?」
「あら、何か文句あるの、エルドリエ?」
「ぐっ……い、いえ……」
エルドリエが目を抱えて蹲った。
ベイクドモチョチョ……語感からしてなんとも言えない、風情の欠片もなさそうな名前だった。
最高司祭様が考えるような名前じゃない。口には出せないけど。
「……何やら、皆さん不満がお有りのようですが。いかがしますか、クィネラ様」
自ら切り込んでいったクリスチャンに、よく言った! と感謝していると、流石の最高司祭様も首を一捻り。
「えー? 例のアレとか言うよりはマシでしょ?」
「⋯⋯いつものクィネラ様にしては、名前付けにセンスが感じられませんが」
それ、と多分全員が心の中で頷いた。モチョチョとか絶対美味しくない食感してるでしょ。
「じゃあアンコリーノとか」
「あんこではない場合は?」
「チョコリーノとか、カスタリーノとか」
「なるほど」
まあ、悪くは無いと思う。
悪くはないけど⋯⋯
「最高司祭様⋯⋯」
「何かしら?」
「名前、やっぱりそのままにしませんか」
私は、この親しんだ名前が好きだった。私が人界に下りて⋯⋯シンセサイズの秘儀を受ける前から、その名前で呼び続けていたんだろう。
皆も、きっとそれぞれの生まれた場所で、それぞれ違う名前で食べていた。
「一つになんて、決めなくていいと思います」
「いつまでも不毛な争いを続ける必要は無いでしょう?」
「不毛じゃ、ありません」
不思議そうに首を傾げる最高司祭様に、私のありったけの想いを込める。
「こうして名前のことで言い合うのが、イマガワ焼きの⋯⋯アレの、醍醐味だと思うから! だからお願い、最高司祭様⋯⋯」
私だって、他の名前を認めてる訳じゃない。でも、でもだよ。
それを根っから否定して、新しい名前に置き換える事だけは、絶対にやっちゃダメだと思う。
「どうか、この不肖エルドリエからも、名前の保全をお願いしたく⋯⋯」
エルドリエが、私に続いた。いつもいけ好かない奴だって思ってたけど、この時ばかりは、感謝しかなかった。
「ご無礼とは存じております。ですが今一度、改名のお考え直しを」
「⋯⋯私も、そのままが、良いと思います」
皆も、慣れ親しんだ名前を好きだったみたい。
四人して頭を下げていると、最高司祭様が溜息を吐いた。
「そこまで言うのなら、呑まざるを得ないわね」
「っ、ほ、ほんとですかっ!?」
「全てが完璧である必要は無いもの。どんなものにも、クスッと笑える部分があった方が楽しいでしょう? ⋯⋯じゃ、そういう事だから」
さらっと現れて、さらっと消えていった。本当に神出鬼没な人だよね⋯⋯
「それとこちら、皆様に最高司祭からの差し上げでございます」
「えっ」
一体どこから出したのか、ぽん、とお皿を渡された。
その上には、四つの今川焼きが。
何がなんだか分からない内に、元老長クリスチャンが一礼して、最高司祭様に付き従った。
皆の方に向き直ると、皿の上のものをまじまじと見つめてきた。
「えっと⋯⋯食べる?」
「頂くわ」
「言うまでもないでしょう」
「⋯⋯⋯⋯美味しい」
もう有り得ないくらい美味しかった。
⋯⋯粒あんじゃなかったのを除けばね!
何を書いていたのかも割とスッパリ忘れてしまったので、ものすっごいしょうもない話を書いてしまった⋯⋯
次回は、レンリ&ユージオ&ティーゼ編のようなアドミン編を予定