転生最高司祭ちゃんが行く原作再現   作:赤サク冷奴

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もうちょっとだけ続くんじゃ……!

供養用と思われたこのネタ小説にも需要があったっぽいので、書きます。

ベルクーリに弓兵が混じっている気がするのは許してヒヤシンス……


裏話 ベルクーリ

 

sideベルクーリ

 

 

 俺が目を開いた時、目の前には二人の男女が立っていた。

 

 一人は、なんつーか覇気のある美丈夫な従者の男だったが、俺の真正面に立っていた美しい少女からは、得体の知れん何かを感じた。

 

「目覚めたようですね、ベルクーリ」

 

 ベルクーリ……ああ、俺の名前か。

 

 だが、何だ、このモヤッとした違和感は……

 

「……ここは何処だ? これまで何をしてたのかもサッパリ分からん。記憶までなくなってるみてぇだ」

「それを順を追って説明しましょう」

 

 俺は天界から召喚された騎士、整合騎士であること。

 目の前の少女は最高司祭アドミニストレータと言い、俺が来させられたこの人界っつう世界の最高権力者で、隣の従者は元老長クリスチャンとか言うこと。

 

 まあ要するに敵を倒す為の人手が欲しかったわけだ。俺はこの二人の下に付いてあれこれと戦えというのが、これからやらなくちゃいけねぇ事らしい。

 

 俺が天界とやらにいた記憶を消されたのは、人界で動く時に支障が出ないようにする為のようだ。

 

 まあいいか。細かいのを気にしてたら頭が痛くなる。

 それに、深く考えても答えなんか出ないだろうな。

 

「……まあ、よく分からんが、取り敢えず戦えばいいんだろ?」

「……ねぇ、その口調どうにかならないの? 私、貴方の上司なんだけど」

 

 そう言っている割に、怒っている風には見えなかったが……仕える相手にタメ口というのも無礼には違いねぇか。

 

「あぁ……コホン、最低限の範囲でならできますが、生憎と性分でして」

「……もうそれでいいわ。クリスチャン、カセドラルを案内してやりなさい」

「はい、承知致しました」

 

 アドミニストレータ様……長ぇな。なんかよく分からん宗教のトップらしいし、猊下とでも呼んでおくとするか。

 猊下が引っ込まれると、隣の元老長が俺に向かって恭しく一礼した。

 

「ご紹介に与りました、クリスチャンと申します、シンセシス・ワン。これから関わる機会が多々あると思いますので、どうぞ宜しくお願いします」

「お、おう、よろしく頼む」

「では、階下の設備を一通りご案内致しますので、こちらへ」

 

 少し驚きながらも、元老長に付いていく。

 

 どうやら、この元老長は変わった奴のようだ。教会のNo.2だと言うのに、俺に対して敬語が基本とは恐れ入る。

 こんな真似は俺には出来ねぇな。砕けた話し方の方が気が楽でいい。

 

「……気になるんだが、そのシンセシス・ワンって呼び方はなんだ?」

「シンセシスとは、神聖語で整合を、ワンとは、1を意味する言葉です。ベルクーリ・シンセシス・ワン、これが貴方の名前となります。ご不満でしたら、アドミニストレータ様へ直接お願いします。私としてはベルクーリ様とお呼びしたい所ですが、示しがつかないと咎められてしまいまして」

 

 ……敬称が無くても、言葉全体に敬語が掛かってたら大して変わらん気がすると思うが。

 

 何にせよ、ちゃんと話の分かりそうな男で一安心か。

 

「にしても、ワンか……2や3もあるのか?」

「今の所は予定されていませんね。ですが最高司祭様の事ですから、先を見越しての事でしょう。その時には、シンセシス・ワンは騎士長殿になってもらわなくては」

 

 ……この野郎、俺がそういう役目が嫌いだとわかった上で言っているな?

 

「……元老長、それは意地悪が過ぎると思うぜ」

「ははは、そうですかね。人員が少なければ管理も楽で、私の仕事も少なくて済みますし……おっと、つい本音が」

 

 苦笑しつつ肩を竦める仕草が、妙に様になっている。冗談ではあるのだろうが、俺が一人目な事を考えれば、人員も足りてねぇんだろう。

 

 やれやれ……この男は食えん奴だが、気の良い奴そうだ。

 

 こいつの下で働くのも、悪くは無いだろう。

 

「では、まずは九十九階から……」

「これ百階まであるのかよ……」

 

 九十九階から話聞くのは、流石に聞く気が起きねぇんだが……

 

 

 

 

 元老長のカセドラル紹介は、案外呆気ないもんだった。

 

 まだ何を作るのか決まってさえいない階が二十もあるそうだ。しかも、俺が使うような主要な階は十も無い。今いる階層だって三十階だ。

 

 「九十九階全て紹介すると思いましたか?」なんて言われちまった。

 小突きたくなるくらい微妙に腹が立つのが元老長のダメな所だな。揶揄うのも冗談もお好きらしい。

 

「しかし、お前さんは元老長なんだろう? そんな神聖術に堪能ってふうには見えねぇが」

「見た目で判断されては困りますよ。苦手な方でありますが、人界二番目の使い手と自負しております」

 

 人界二番目ってことは、そりゃ猊下の次に使えるのかい。

 そもそも、神聖術なんて小難しいもんはからっきしな俺からすりゃあ、嫌味にまで聞こえてくる。

 

「それのどこが苦手なのか聞きてぇな」

「ですが、剣術ならば一番目です」

「おいおい、猊下と張り合ってどうするんだ……」

 

 終始、俺はこいつの調子に翻弄されていたような気がした。

 

 振る舞いは年相応じゃなさそうだが、本質は悪ガキって所か。奴からすれば、俺はさぞからかい甲斐の無い人間だろう。

 猊下も随分物好きだな……まあ、俺みてぇのを召喚するくらいだ。常人とは考えが違うんだろうさ。

 

「早速ですが、シンセシス・ワンに任務がございます」

「ほお、まさか、初日から初陣になるとは思わなかったぜ」

「我がカセドラルには人手が足りませんのでね。丁度三十階にいる事ですし、専用の飛竜をご用意致します」

 

 すると元老長は風素術を唱え、助走路からカセドラルから外に飛び抜けた。偉い立場だというのに、とことんぶっ飛んだ真似ばかりする様は、正に悪ガキだな。

 

 少しの間、発着場の大扉から外の景色を眺めていれば、巨大な影が20メルもある助走路の幅を覆い尽くした。

 深い青色の体表を持つそれが、飛竜っつう生き物らしい。いきなり出てこられちゃあ、中々の迫力で驚いちまう。

 

 そいつの背の鞍に、元老長がいた。飛び降りると、飛竜の顎あたりを撫でてやっている。

 

「これが飛竜です。中々に可愛いものでしょう?」

「……可愛い、か? 寧ろ厳つい見た目じゃねぇか」

「シンセシス・ワンも長く飛竜と接すれば分かりますよ。そして、この子が貴方専用の飛竜、星咬(ホシガミ)です」

「ん? 元老長のじゃねぇのか?」

「いえ。私には雪綜(ユキヘリ)が居ますので。星咬は元より、貴方の為にとアドミニストレータ様がご用意なさった飛竜ですからね」

 

 俺みたいなのに、全く過分なご期待だ。最初から失敗出来ねぇとは無茶言うぜ。

 

「……元老長、武器はあるか? 出来れば手頃な両手剣辺りが欲しいんだが」

 

 そう言ったんだが、元老長は何を思ったか、筆を一本、懐から取り出した。

 まさか、こいつで戦えって事じゃねぇよな?

 

 顔を引き攣らせていると、それを俺に渡して……はこず、静かに口ずさんだ。

 

「……システムコール。リディフィニション・オブジェクト。アイディー・STPH1。グレートソード・クラス」

 

 聞いてもサッパリな神聖術を唱えると、瞬く間に筆は光を帯びて、その姿を大きな大剣へと変えた。

 

 コイツは……さっきのペンが形になったもんだろうが、何処か底知れない力を感じる。

 

「アドミニストレータ様はよく仰っていました……〝ペンは剣よりも強し〟と。ああ、ペンとは筆の神聖語でしてね。要するに、武力よりあれこれと言説を並べた方がより効果的という意味なのですが、ペンが剣になってしまってはお笑い草ですね」

「……お、おう。そうかい」

 

 元老長から大剣を受け取って腰に提げる。

 

 ……重いな。だがしっくり来る。これなら不足は無いと見ていいだろう。

 

 だが、元老長は実際の性能を知りたかったのか、大剣に向かってステイシアの窓を開いた。

 

「優先度は43……さすが、アンダーワールドの初期配置物か……神器級の優先度を持ってますね。使用には耐えうる性能ですよ」

 

 ほぉ……まさかとは思ったが、神器級を簡単に作り出すとは。おっかねぇったらありゃしねぇ。

 

「それはいいんだが……こいつをどうやって飛ばすのか教えてもらわないことには、任務にも行けんぞ?」

「ああ、その事でしたか。軽くお教え致しますので、後は実際に乗って慣れてください」

 

 元老長から、実際に乗っての飛ばし方、止め方といった基本的な乗り方を教えて貰ったが、単純そのものだ。なんなら、馬とそう変わらん。

 

 これなら、俺でも任務とやらに向かえそうだ。

 

「くるるるっ」

「おう、よろしくな、星咬」

 

 こいつも、俺と一緒にいて不満はねぇみたいだ。俺も気に入っていた所だから、安心したぜ。

 

「そんじゃあ、任務とやらについて教えてくれ」

「ええ。シンセシス・ワンへの最初の任務は、イスタバリエス東帝国にある東の大門の────」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 任務をこなしたり、そうこうする内にあっという間に二十年度経った。こんなおっさんだからか、時の流れがずいぶん早ぇように感じる。

 

「猊下、少し良いか? ちょいと報告がある」

「……ん〜? ベルクーリ? 勝手に入ってらっしゃい」

「分かった、失礼する」

 

 夜更けだからか、緩い格好をされた猊下が、帳面に何かをしたためていらっしゃる。

 猊下曰く日記だそうだ。何かを忘れてしまった時の為の記録用とも仰っていた。

 

「それでなんの用かしら」

「それが、最近人界の魔物達や暗黒界のゴブリン共が妙に活発になり始めたようで……」

 

 二十年前よりも確実に数が増えている。こりゃあ、なんの前触れだかな……収まってくれば万々歳だが、どうもきな臭い。

 

 その他にも、色々と気になった事を幾つか報告した。

 

「とまあ、こんな所だ」

「……なるほどね。下がっていいわ、ベルクーリ。以後も監視の目を強めるように」

「ああ、承知した」

 

 猊下の書斎から出ると、ふぅと一息つく。

 

 この二十年間、実に色々な事があったもんだ。

 

 暗黒将軍と戦い、惨敗して命からがら帰ってきたこと。《システム・クロック》なる神器を剣にした《時穿剣》を猊下から拝領したこと。武装完全支配術っつう、時穿剣の力を最大限に引き出す神聖術。数年に一度猊下のもとに来る男の来客。

 

 ま、たかが騎士如きが気にしちゃいかん事も混じっているが、最高司祭という立場がいかに忙しいかは分かったつもりだ。

 

「おや、シンセシス・ワン。クィネラ様……ではなくアドミニストレータ様にご報告でも?」

「いや、今し方終えた所だ。つうか元老長、そのクィネラ様っての、隠す気が無くなったみたくわざとらしいぜ」

「つい口が滑ってしまいまして。二人きりの時はよく名前をお呼びするので」

 

 そうおどけた様子のクリスチャン。こいつは猊下との関係性が全く読めん。よく抱き込んで頭を撫でているなどとよく言いふらすが、あの性格の猊下がまさか……とは思ってしまうな。

 さて、真実はどうだか……素が俺の思う通りなら、本当にあり得るかも知れんな。

 

「それで、あの話は前向きに検討してくれそうなのか?」

「前向きに検討どころか、クィネラ様は新たな召喚を行う準備をしておられます。恐らく、女性の方だとか」

「ほう、そいつは気になるな。女で剣が強いってのは戦ってみたいもんだ」

「それならば、猊下と試合のご予定でも組まれますか? 喜んで仕合われるかと」

「……そりゃ本当かい? 是非ともやって貰いたいと思っていたんだが、機会があればやるしかないな」

「では、私からアドミニストレータ様に上奏して参りますので、組まれ次第お伝えしましょう」

「おう、すまんな元老長」

「いえいえ、お気にならさず」

 

 では失礼致します、と元老長が一礼して通り過ぎる。

 

 ……あれが教会の二番目に権力の高いお偉いさんだっつうのが、今でも不思議なくらいだ。

 元老長と言えば、なんだ、もっと喧しくて人の話を聞かねぇ奴みたいな印象が勝手にあるんだが……てか、どうしてそんな印象を持っちまってるのかさえ分かんねぇけどな。

 

 まあ、気にしても無駄か。猊下との試合に臨んだ時のことを考えて、剣でも振っておくかね……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 約束を取り付けてから、ひたすら任務に向かい続けて三日後。元老長の奴が、今日この日に猊下との手合わせが叶ったと伝えられた。

 まさか当日に言われるとは思っていなかったが、まあ、仕合えるのならそれでいい。

 

 場所は五十一階の第一修練場。任務の無い時には、ここでちょっとした鍛錬したりするが、だだっ広い上に無駄に綺麗でな……あんまし使う気にはなれねぇってのが本音だ。

 

「ふふ、時間通りね。感心するわ」

「そりゃあ、こいつがありますからな。そうそう間違えやしません」

 

 《時穿剣》。銘の通り、時を穿つ剣だ。これを使う為には、いかに俺が正確に時間を数えられるかに掛かっている。

 

 ある意味、こいつのお蔭で時間が分かると言っても過言ではあるまい。

 

「……ふうん? 神器でやり合うつもり?」

「いや、別にそういうつもりじゃないんですがね……そこに訓練用の真剣がありますが、そっちの方が良いんですかい?」

「えー? それじゃつまらないじゃない。折角なら、命のやり取りでもどう?」

 

 そう言うと、猊下の手もとに純白の剣が現れた。まるで儀礼用みたく細身で、衆目じゃとても打ち合えるとは思えんだろう。

 

 ……だが、ありゃあ間違いなく神器だ。俺の時穿剣とも、いや、それよりも膨大な力を感じる。

 

「……元老長、いいのか?」

「ええ。ですが、天命全損となってはならないので、神聖術及び武装完全支配術は禁止とし、天命が三分の一を切った時点で終了とします」

「なにそれぇ? 十分の一じゃダメなの?」

「本来なら初撃決着で済ませたい所ですよ。これでも譲歩している事をご理解下さい……」

 

 元老長が自分の次に剣が強いとか言っているが、普段猊下はカセドラルに籠って、寝るなり神聖術の実験なりで、剣なぞ持って戦うとは露ほどにも思った事はねぇからな。

 

 ま、ここは元老長の言葉を信じて、少し本気で行かせてもらうとするか。

 

「では、試合を開始して下さい」

 

 何とも判然としない合図に、猊下がこちらへ歩み寄り始めた。

 

 そっちから来るか。貴女の剣筋、見させてもらうぞ。

 

「……心外ね。せいぜい互角以下ぐらいにしか思ってないでしょう? この私を品定めするなんて、不敬にも程があるんじゃないかしら」

「と、言われてましてもなぁ。猊下が剣を振る所を見たことがないもんですから。今も半信半疑ってとこですよ」

「あら、じゃあこれは見えるかしら?」

 

 ゆっくりとした歩調から、早足になって距離が詰まる。俺は攻撃を迎え撃つ為に中段に剣を構えた。

 

 猊下を視界の中央に捉えて……っ!? 消えっ──

 

 ──ゴォォン!!

 

 左を見れば、真っ直ぐ振り抜かれた剣が、大剣の側面で防がれ軌道を逸らされている。

 

 おいおいおい、これはマジかよこれは……切っ先すら全く見えなかった。

 剣士の勘が無けりゃ、今頃は心臓を一突きされていた所だったぜ。

 

「今のは本気を出してみたんだけど……流石に今の貴方には見えなかったようね。……リニアーは出さないでおこうかしら

 

 ……どうやら、猊下はあれでも本気を出していねぇようだ。

 

 最後にボソリと言っていたが、猊下はまだ秘奥義を隠し持っていやがる。

 俺なんて、あれが秘奥義なんじゃねぇかと思ってしまうぐらい早かったな……

 

「次は突きじゃなくて、ちゃんと剣を振ってあげる」

 

 なんて事ないように横に振り抜かれた剣を受け止めると、凄まじい衝撃に腕が悲鳴を上げた……しかも、踏ん張るのもやっとな程の凝縮された力だ。ただ埒外の力を叩き付けられた訳じゃない、

 剣が打ち合った瞬間、隠されていた剣気を垣間見たが、あれは暗黒将軍なぞとは比べ物にならなかった。相当な修羅場を潜り抜けてきた、稀代の剣豪の如き気。

 

 要するに、あれはなんて事ないように振られた剣なんかじゃねぇって事だ……猊下が見出した剣術の一つの完成系、いや、剣を振るって事自体の究極系なのかもしれん。

 

 これを二合、三合と打ち合えば、腕は勿論、脚まで痺れちまいそうだ。

 

「……意外に鈍ってないものね。もう二十年も持ってないのに」

「それでいてこの剣捌きは、ちと洒落になりませんな……」

「ふふ、もっと褒めてもいいのよ? 元々天才の私が、十年以上も掛けて鍛錬と実戦を積み重ねた結果がこの剣だもの」

「たった十年でこの重みってのは、間違っている気がしますがね」

 

 顔が引き攣るのが分かるくらいには、戦慄しているしな。

 

「そんじゃあ、今度は俺から行かせて貰いますぜ」

 

 こんな事をしようもんなら、オチが見えちまうが……戦いになってすらねぇのは俺の矜恃に反する。

 ま、やれるだけやってみるとするか……

 

「ふう……セェェェッ!!」

 

 上段から、大剣を勢いよく振りかぶった。威力も速度も相当のもの……だが、猊下は片手で軽々と受け止めやがった。

 

 あの細っこい腕の何処に力の源があるのか見当もつかん。

 

 剣と剣がギチギチと火花を散らして拮抗するが、俺には分かる。

 猊下は既に、手を抜いてる。

 

 言わば、俺が剣で押している所に、ただ剣を置いて防いでいるみてぇなもんだ。猊下は俺の剣を弾き返す力を入れていない。難攻不落の要塞って事だろうな。

 その気になりゃ、俺なぞ紙っぺらみたく吹き飛ばせるだろうに。

 

「あら、そんな程度なの? 私、そろそろつまらなくなってきたわ。早く本気でも出しなさいよ」

「……本気で、ねぇ」

 

 はぁ……何でもお見通したぁ、ちょいと卑怯ってもんじゃねぇか?

 

「……端っから奥の手っつうのも、品が無いってもんでしょうに。それに、猊下がこれ程とは思ってもみなかった。正直、純粋な剣技じゃあ猊下と勝負さえ出来る気がしませんな。まあ、こちとら、騎士としての威厳もあるもんですから、簡単に負ける気も無いですがね」

「まだ、手があるのかしら?」

「なに、そりゃ単純な話ですよ」

 

 ニヤリと笑えば、直後、拮抗していた双方の剣が一方に傾いた。

 

「……なっ!?」

 

 傾いたのは猊下の剣。思わず驚いたようだな。

 

 まあ、それも仕方ねぇだろう。

 こいつはかなり特殊でな。純粋な力以外のもんを込めている。

 

 猊下を弾き飛ばし、一旦距離が離れたとこで、自らの鼓舞の意味合いを兼ねて一言、

 

「整合騎士、ベルクーリ・シンセシス・ワン、参る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんてやっていたのが、今じゃあ懐かしい思い出だ。

 

 あの試合は、今でさえ、俺の中で一二を争うくらいの大激戦になっちまった。

 心意を使い、己の剣気を全て剣に注ぎ込む俺と、比類なき力と剣技で翻弄する猊下。結局、試合は猊下の勝ちだったが、心意が尽きていなけりゃ俺が勝ってたと断言出来る。

 

 つっても、当の猊下は無数の秘奥義を会得していて、その頃から自在に心意を操れたそうだ。敢えて使わなかったんだろうが、もしも秘奥義や心意の剣で来られたら、簡単に負けただろうさ。

 

「ねぇベルクーリ、話聞いてるの?」

「おっと、こいつは失礼……いつぞやの猊下との試合を思い出しましてな。思わず耽っていましてな」

「……あぁ、あれね。ソードスキル……じゃなくて秘奥義を使って戦おうと思ってたのに、思ってた以上に貴方が不甲斐なかったから、ものすごく手加減したのよ?」

「今なら、それなりの戦いを約束しますよ。あんなヒヨっ子の頃とは格段に違う……よろしければ、一つ試合でもどうですかな?」

 

 そう尋ねれば、猊下はこれまでに見たことも無いほど悩ましげな顔色で、顎に指を当てていた。

 

「……ごめんなさいね。私もそんなに時間が残ってないの」

 

 お、おいおい……今、なんつった。

 

 聞き間違いじゃなけりゃあ、猊下が〝ごめんなさい〟と謝ったのか?

 

 当たり前だが、猊下はこの公理教会の最高権力者だ。部下にわざわざ謝罪をするなんて万一にも有り得ない筈だが……どうなってやがる。

 

 仮に断るとしても、「やりたいけど、生憎と私には時間が残ってないの」みたく、意見やら嘆願やらを突っ撥ねる形なのが常だ。

 

 ……不安が拭いきれねぇな。

 

「……時間、と言うと?」

「そのまんまよ。まあ、きっと貴方達整合騎士は、常に寝てまともに仕事もしない体たらくな最高司祭とか思ってるでしょうけど、深い事情があるの」

 

 猊下が眠られている理由か。

 考えてもみなかったが、イーディスはよく、元老長と最高司祭様は強いのにどうして出向いてくれないのかって愚痴っていたな。

 

 そう考えるのはあまりに不敬ではあるが、確かに二人が出てくれれば、こちらの仕事はかなり楽になるだろう。

 

「少なくとも、猊下を卑下するような奴はウチには居ませんよ。全員、猊下が何をされてきたのかをよく知っていますし、感謝もしている。まあ、イーディス辺りは少しあれですが……」

「……イーディスちゃんにそう言われるのは無理ないわね。昔から奔放だもの、あの子は」

 

 ……んで、これだ。猊下は、召喚された整合騎士の性格とかまできっちり把握しておられる。

 

 副長のファナティオなんか、猊下と関わった時間はそう長くねぇ。それにも関わらず、猊下は俺の知らないファナティオの側面まで知っていた。後で確認した時は驚いたもんだ。

 

 こう言っちゃなんだが、猊下は整合騎士を管理しやすい駒として扱うそぶりを見せながら、その実、一番俺達を心配しておられる。

 

 この外面と内面の不一致が、最初は疑問に思うが……もう二百年も居る俺からすりゃあ、猊下は最高司祭という責務を負わされた一人の少女にさえ見えていた。

 随分と長い間を生きておられるからか、初対面の頃から威厳や風格は備わっていたが、外見の印象とは全くもって別もんだろうさ。

 

 今なら、元老長が言っていた、甘えてくる発言も理解出来る。

 

「奔放と言えば、フェノメアちゃんはちゃんと仕事してる? あの子、いっつもふらふらしてるし」

 

 話題がコロッと変わったな……

 

 フェノメア・シンセシス・スリー。ファナティオの次、三番目の整合騎士だ。

 んでもって、整合騎士最大の問題児でもある。

 

 仕事は言われた通りこなすし、かなり優秀な騎士の一人だ。ここまではいいが、問題はこいつはカセドラル内をあちこち歩き回っているもんだから、任務を伝えようと思っても途方もない時間がかかっちまう。

 入りたての頃は、元老長もよく頭を抱えていたぐらいだ。

 

 もう一つ変わっている所は、あいつは男なんだが、どういう訳か女の格好をしていてな。その筈なんだが、風呂に入っている所も見たことが無かった。本当に男なのか疑いたくなるが、フェノメアの骨格は男のそれにしか見えねぇし、何より本人がそう言っているから、間違いではないのだろうがな。

 

「……長く居ますが、あいつの事はさっぱりと分かりませんな。似たような感覚を覚えたのは……そうだ、シェータと会った時だったか……。二人とも、何か深い闇みたいのを抱えているような気がしてならない、ってのが俺の所感です」

「……そうよね。フェノメアも、シェータも特別だもの」

 

 猊下は事情を知っておられたようだが、ワイングラスを傾けて、その話はもうされないようだ。何がどういう風に特別なのかってのは気になるが、天界の記憶は人界で暮らすのに支障が出ちまうらしいから、俺も深くは詮索しなかった。

 

 代わりに、こんな質問が降り掛かった。

 

「──死を予感したことはある?」

「死の予感、ですか」

 

 突然の問い掛けで、オウム返ししながらも心当たりを探る。

 

「まだヒヨッコだった頃、先代だか先々代だかの暗黒将軍に軽くひねられた時は、さすがに危ない、と思いましたね」

「でも、そいつの首は、貴方と試合する少し前くらいに取ってきたじゃない?」

 

 二十年経てば、歳を取らない俺は強くなって暗黒将軍は老いには勝てなくなり、普通に勝っちまった。

 

 歳を取らないっつうのが情けなく感じ始めたのもこのくらいだったか……

 

「それ以降は、もうないの?」

「うーむ、ちょいと思い出せませんな。しかし、なぜ急にそんなことを? 猊下には、無縁の感覚でしょうに」

 

 いくら実戦の経験があるとは言え、死の予感なんてもんは猊下ほどなら感じる事さえねぇだろうさ。

 極まった神聖術ってのは、そんくらいの力を秘めているからな。

 

 だが、猊下は鼻で笑うと、横たわらせていた姿勢を正して、グラスをゆっくりと傾ける。

 

「分かってないわね、ベルクーリ。毎日よ……私は、毎日死を感じてる。朝、目を覚ますたびに……いいえ、夢のなかですらも」

 

 俺の口からは、言葉が出なかった。それどころか、ポカンと空いていたさえある。

 

 そもそも、猊下は死さえも無縁の概念だと思えるほど長く生き、こと戦いに置いちゃあ人界一の強さだ。

 

 そんな人物が、一体どうやって死ぬってのか。

 

「なぜなら、私ではこの世界を支配できないから。私は、あまりにも甘かった。

 

 

 

 

 そして────私は、そう遠くない未来のいずれかの時点において、必ず死ぬ運命にあるから」

「なっ……!?」

 

 そん時の猊下の顔は、全てを悟ったような諦念の満ち満ちていやがった。俺は、暗黒界で何人もこういう奴を見てきたから、直ぐに解った。

 

 さっきまで自信で溢れていた猊下の姿は微塵にも感じられねぇ。だが、俺にはこっちが猊下の本性だと確信した。

 

 猊下の外面と内面の矛盾の理由は、恐らく、あの言葉に集約されている。

 

 死ぬと分かっているから諦める。諦めたから、逆にそれを受け入れて堂々としていられる。

 

 仮に、死を粛々と受け入れようとせず、この人界に留まらず暗黒界まで統べる飽くなき支配欲を持っていたなら、こんなちぐはぐな猊下ではなかっただろうが……今ならはっきりと解るぜ。目の前の猊下は、運命を背負わされた少女そのものだ。流れるまま、あるべき姿で居続けるのが自分の役目だと思わんばかりに、受け入れてやがるんだ。

 

 だが、それでも今夜になって、謝罪の言葉出るほどに精神が弱っていたのは、死期がそう遠くない事を改めて認識しちまったからだろう。

 俺だって、天命が凍結された天界の騎士とは言え、死ぬのは怖いさ。ましてや、長い時を生きる猊下にはもっと酷だろう。

 

「……猊下は、それで良いのですか。全てを諦めて、何もせずに殺されると?」

「抗うわ」

 

 ふと考えていたらつい尋ねちまった無遠慮な質問に、猊下は即答なさった。

 

 随分、おかしな事を仰る……諦めているのに、抗うってのは、一体全体どういう意味なのか。

 

「抗って抗って……私は死ぬ。私にだって信念はあるもの。それに易々と殺されたら、申し訳が立たないし」

 

 抗っても、行き着く先は死ぬという結末になると猊下は思われているようだ。

 死に方に拘っているのか……それとも、抗うという事が猊下にとって何かを意味するのか……

 

 きっと、猊下の言葉を真に理解するのは俺には無理だろう。

 何せ、立場が違うんじゃなぁ……それに、猊下の境遇なんてものを知らんことには、表面でも理解できねぇ。

 

 しかし、俺は案外耳聡いんでね。聞かなくていいような事を、不意に聞いちまうんだ。

 

「……誰に、申し訳をされるので?」

 

 尋ねたことが意外だったのか、猊下は目を丸くされた。

 まあ、これが他の奴なら気にも留めんだろうが、猊下が申し訳を立てる人が居るってなると話は別だ。

 

 ワインのグラスを空にされると、そのまま暗闇の虚空に目を向けた。

 

「……そうねぇ。私が……唯一先生と呼ぶ人。この世界を作った天界の神を作った、全てを統べる存在。世界の行く末を決める人よ」

「世界の行く末が決める、猊下の先生、ですかい……。そりゃまた、大きい存在ですな」

「ええ。私にはとても大き過ぎる。私は所詮、先生のいちストーリーのアーチェネミー*1だもの。……でも、あの人にこの手が届くなら、嬉しいのになぁ……」

 

 ソファにぼふっと倒れ、ここからじゃ見えない〝先生〟とやらに手を伸ばされたるのを、俺はただじっと見ていた。

 

 ストーリーだのアーチェネミーだの、俺には解らない神聖語だらけだったが、まあ、そうさなぁ……これだけは一つ言える。

 

「……あっ!? い、今の無しだから! じゃなくて無しよ! 今のは聞かなかった事にしておいてちょうだい! そ、それと今の話はクリスチャンにもしてないから、あれこれと吹聴するのも禁止! え、えーと、そう! 守れないならお皿に変えるわよ!?」

 

 ……目を回しながらあたふたされる猊下は、なんだか愛くるしいって事だ。

 

 

 


おまけ

 

 

 ベルクーリが去った後の最上階にて。

 

「やばいやばいやばい……ベルクーリに素で喋っちゃった……!」

 

 え、どうしよう、どうしよう……と、アドミンが慌てふためきながら、ソファの上でゴロゴロ転がっている。

 

「べ、ベルクーリだし、約束は守ってくれるよね……? 守ってくれないと俺が社会的に死ぬし、アドミンムーブ続けた意味無くなるよ? 良いの? いやダメでしょ、アカンよそれは……川原先生に怒られちゃうっての……」

 

 日記や心の声では男っぽい感じだが、意識せずに出される口調から滲み出るヲタ女子感が半端ではない。クリスチャンに素を曝け出している時もだいたいこんな感じだったりする。

 

「しかもあんな事言っちゃってるよ俺ぇ……! 川原先生は神だった……? まあシナリオ書いてるし、この仮想世界と現実世界の住人にとっては神様だよなぁ……はぁ……」

 

 苦節三百年。アドミンムーブを続けてきた結果、根本にあったはずの三十代サラリーマンは消え去り、女性のフラクトライトの上に刻み込まれた男の魂は気付かぬうちにすっかりメス堕ちしていた。

 

 因みにだが、人間は誰しも最初、お腹の中では女性として産まれるらしい。これは人間に限らず哺乳類全般に言えることで、卵子に染色体のXやらYやらが加わる事で性別が確定し、男性か女性のホルモンが分泌されて脳みそ……つまり精神が男性化、もしくは女性化するのだと言われている。これらが正しく行われなくて、心身の性別が異なってしまうのがトランスジェンダーと呼ばれる人のようだ。

 

「……ううぅ、本当にどうかしてるよ、俺……」

 

 フラクトライトの基本情報が女性であるなら、それに適応してしまうのは普通である、のかもしれない……

 

 

 

 

*1
アークエネミーもしくはアーチエネミーの英語的発音。英語表記は『archenemy』。アドミンは英語が堪能なのです。




しばらくは、アドミンが三百年ムーブやってた最中の裏話を、各主要キャラの視点からお送りする話が続くと思われます。
それが終わったら、可愛いアドミン先駆者の泥人形ニキが言った《ウルトラヌルゲー・アンダーワールド大戦編》が始まる……のかな?
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