これでもまだこの子について書きたい話が書けてないという不思議。
ちゃっかり二話投稿です。
人界暦九○年十一月十九日
「このような夜更けに失礼します、フェノメア・ヴェラルド様……私は公理教会のクリスチャン・シンセシス・ゼロと申します。貴方を今から、禁忌目録抵触の罪で捕縛致します」
黒い髪に黒い瞳の、端正な顔立ちの執事さんは、私にそう告げた。
……ああ、もう、時間切れなんだ。
乾いた笑みを浮かべて、深く絶望した。
そして同時に……この理不尽な世界を憎んだ。
……クソったれだ……公理教会も、暗黒界も、最高司祭も、神も、禁忌目録も、人界人も、暗黒界人も、おしなべてクソだ。
「……ねぇ、執事さん」
「如何されたのですか?」
「……産まれてくるべきじゃない人って、居るのかな」
物心がついた時から、私はそれだけを考えて生きてきた。
なまじ頭の回転が早かっただけに気付いてしまい、私はそれにずっと悩まされてきた。
「……私も、実は幼少の頃、貴方と同じような事を考えたことがあります。恐らく、貴方と発端は異なるでしょうが」
「たはは……まぁ、私みたいな人は、この人界にも一人としていないと思うね」
きっと、この世界のカミサマが作った、初めての失敗作。
「先程の質問にお答えしましょう。『そんな人は居ない』です。たとえ、生まれが不幸であっても、望んだ境遇でなくとも、誰しも、自分の生きる意味を求めて探し回ったり、成し遂げたいこと、守りたいものの為に生きているのです。貴方にも、それがあったのでしょう」
「……でも、もうダメそうだ。私は、キミ達によって凍結させられるんだよね?」
「…………」
「無理に言う必要は無いよ〜。公理教会の実態は把握してるからね。だから、頑張って逃げ道を作ってたけど……人の口に戸は立てられないってのは、本当に厄介だ」
私が、一体何をしたって言うんだろう。
私は、ただ私が私でありたいが為に動いてきたのに。
何が禁忌だ。何が教会だ。
そんなもの、消えてしまえ。この理不尽な世界も、神も、全部。
「ところでさ……キミって、ボクの〝お兄ちゃん〟だったりしない?」
「……いえ、無いかと」
「……そっか」
……まあ、いいや。
もう何も考えなくていい。苦しむ必要さえ無いのだから。
「……出来るなら、貴方が私とお会いする日が来ないことを祈っています」
首に、ズンと重い衝撃が来ると、目の前が一瞬で暗くなった……
◯ ✖️ △ ◆
……そう、私は失敗作。
人間の、人という生物の在り方を違えた、世紀の駄作。
ねぇ、なんで私を産んでしまったの? なんで、私を育ててしまったの? なんで、私に知識を与えてしまったの?
なんで私は、あの人に恋をしてしまったの……?
心なんて、感情なんて、こんなに苦しいなら要らなかった。
お父さんとお母さんのせいで……私はもう限界だ。
それならいっその事、こんな私なんて……
「──殺してくれたら良かったのにっ!!」
ガバッと、体を包む毛布ごと上半身が跳ね上がって、ボクは目が覚めた。
体は汗でぐっちょりとしていて、呼吸が荒い。
一人ぼっちの少女の悲痛な叫びが、なんとなく耳に残っているような気がする。
……また、この夢かぁ。
なんか、妙に頭の中に残るし、嫌なんだけどなぁ。
「うへぇ……びっしょびしょだぁ。システム・コール。ジェネレート・アクウィアス・エレメント」
水素術で汗だらけの身体を丸ごとお洗濯。そして風素術と熱素術の掛け合わせでササッと服ごと身体を乾かして、素因で作られた水は消失術式で消し去る。
いやぁ、神聖術はこれだからやめらんないよ。
ホント便利なんだよね。お蔭様で〝
そもそも剣は使えないけどね!
さーて、今日はどうしよっかなー……
とか思ってたら、扉がコンコンコンと鳴った。
「──フェノメア、いるか? ベルクーリだ。猊下からお前さんに招集が掛かったぞ」
「……え? アドミン様から?」
団長の言葉にしばらく呆然として、返事が出て来た。
召喚されてから二年弱くらいだけど、アドミン様と会ったのは召喚された時と、あと何回か。一年ぐらい会ってないかな。
ボクと数ヶ月差でここに来ていた副団長のファナちゃんも、そう会ったことはないらしい。
急いで扉を開けると、浴衣姿のオジサンがいた。
いや、我らが三人の整合騎士の団長なんだけど……ファナちゃんとボクが十代後半か二十才くらいなのに、な〜んでか団長だけ四十歳くらいだから、ちょっと不思議だ。
あ、でも貫禄があるからって意見には一票だよ、ファナちゃん!
「おいおい、フェノメア……お前は少し薄着すぎるぞ」
「いいもん、なんたってボクは男だからね? それとも、ボクが本当に男の子かどうか、団長は見たい……?」
「あのなぁ……俺が悪かったから、取り敢えず下げようとすんのはやめろ。女に間違えられても知らねぇぞ?」
「はーい」
団長が疲れたように溜息を吐き出したけど、実はそんなに女の子に間違えられた事が無い。
アドミン様は召喚した人だからボクの性別は分かると思うけど、元老長と団長は身体の動かし方や骨格で直ぐに分かったらしい。
あ、でもファナちゃんは勘違いしてたね。ふふ、ボクが男って知った時の反応は見ものだったなぁ。
「ともかく、招集だな。午前11時に百階に来いだそうだ。遅れるなよ?」
「ん、りょーかい」
「それじゃあな、俺は任務に行ってくるぜ」
「気をつけてね〜」
「おう」
持つのも一苦労しそうな剣を携えて歩いていく団長の姿を見届けてから、大きくぐいっと両手を伸ばす。
「……着替えよ」
部屋に戻って、修道服と騎士の正装──ちなみにボクは鎧じゃなくてローブなんだけど──にちゃちゃっと着替えた。
団長はあんまり鎧がない軽そうな正装で、ファナちゃんは全身カッチカチな鎧を着込むのが正装らしいから、整合騎士って、もしかして服装はバラバラなのかなぁ?
そうなら団長ズルいよねぇ、着替え楽そうだし。
あ、それとズルいと言えばファナちゃん! ファナちゃんってば、ボクが来て直ぐくらいに神器貰ってるのに、ボクは二年経っても神器無し!
酷い! 今日アドミン様に言いつけてやる!
「……でもまあ、一番酷いのは元老長なんだけどね」
心の中はアドミン様への不満で一杯なのに、ボクの声はあのイケメン腹黒執事くんを示した。
あの人は、立ち振る舞いこそ丁寧だけど、やたらとボクを避けるような態度、目線、言動を節々に感じてる。
会話も最低限、そもそもボクの方から会うことも無い。
それに、元老長が、ボクの前で一回でも本当の笑顔を見せただろう……?
ベルクーリ団長、アドミン様、ファナちゃん……元老長が楽しそうに話している相手は、これくらい知ってる。
というか、ボクの周りにいる知り合い全員が仲良さそうなのに。
「……なんか、嫌われてるんだろうなぁ」
元老長は、一番アドミン様に近しい人物だ。
彼がボクに、神器を授けないようにしているのかも知れない。
……でも、本当に可能性の話だけどね〜。元老長がどうしてボクを避ける程に嫌っている理由が分からないと、どうしようもないし。
「ま、神器なくてもよゆーだけどね!」
はいはい、シリアスさんの元になる元老長を頭の中からすっ飛ばして、今日もポジティブシンキングでいこう!
わざわざ武器使わなくても、神聖術で木っ端微塵! 殺られる前に殺る! それがボクの流儀だしぃ? 貰えなくても問題にはならないなぁ。
あっ、でもでも、神器無かったらこれから来る後輩への威厳の保ち方ってどうすればいいんだろう。
ボクだけ神器無しって、絶対後ろ指指される。
あいつぅ、三番目のくせに神器無いクソザコナメクジだっ て!
えー……
そんなこと言われたら、普通に病みそう。
誰だよ、ポジティブシンキングとか言ったやつ……ボクだわ。
「……寝よう」
アドミン様の招集まで時間あるし、おやすみなさーい……
「で、遅れたことに対しての申し開きは?」
「す、すみませんでしたぁーっ!! 二度寝してましたぁーっ!!」
腕を組み、完全に蔑むようなジト目でアドミン様にそう言われ、土下座しながら謝罪と言い訳を述べた。
はい、無事にメアちゃん遅れました。
うへぇ……なんてこったい。
「はぁ……そんなんじゃ、神器あげないわよ?」
「えっ!? ボクの神器ってあるの!?」
「今日、その為に呼んだのだけど」
嘘ぉ!?
そんなことある? 寝過ごした日がそれって何さ!?
頭が痛い……神器を貰える機会が、目の前を通り過ぎてしまった。
はぁぁ。これだから人生ってのは難しい。
この世界が一つの遊戯だと考えたら、間違いなく一番の難度だ。
なんでこんな時に限って……はぁ。
「ベルクーリを見習いなさい。適当そうな見た目なのに、いつも時間ピッタリに来るのよ?」
「う、うぅ〜……」
団長は《時穿剣》を持ってるから、時間はそうそう間違えない。
いや、間違えていられないと言うのが正しいのかな。団長があの剣の《裏》を使うことが出来るのは、正確に時間を測れるからだし。
頭を抱えていると、アドミン様がやれやれと肩を竦めて、キリッとした表情で告げた。
「……今回は不問とします。次からは時間通りに来るように」
「はい……申し訳、ございません」
一礼して、とぼとぼとした足取りで昇降盤に向かう。
気分、落ち込むなぁ……
「システム・コール、ジェネレート・ルミナス──」
「……フェノメア」
「エレメン──はい?」
名前を呼ばれたような気がして振り返れば、アドミン様が左手をふっと挙げ、その背後から四角いものが浮かんだ。
それを、指の一振りでボクの前に飛んできて、思わず出した両手の上に落ちる。
見た目は、宝石が散りばめられて煌びやかに装丁された、大きく分厚い一つの本だけど……
「忘れ物よ。名は《宝晶典》……せいぜい大事に使いなさい」
「……!? ああ、ありがとうございますっ!」
バッと直角に頭を下げて、光素で昇降盤を起動する。
ボクにくれるなんて、思いもしなかった。
「……ふふ、ボクの神器……ボクだけの神器かぁ」
ぎゅっと胸に抱きかかえると、嬉しさが溢れてくる。
アドミン様、ありがとう……
◯ ✖️ △ ◆
人界暦三七九年六月
「ずーいぶん長旅になっちゃったよね〜。
「キュルルッ!! キュルルッ!!」
「えー、ボクのせいじゃないって。文句ならダークテリトリーの奴等に言ってよ。ふあぁ……まさかゴブリンの殲滅にここまで時間がかかるなんてさぁ。最近は敵の量が多いから、すぐ神聖力がなくなるしさ……」
はぁ……カセドラルまでが遠い。
ほんと、こんな仕事より内職が一番だよぅ。そして好きなだけゴロゴロして眠りたい……
「キュルルルッ!!」
「うわぁっ!? な、なにするのさ! え? 働け? ちょっ、なんでボクの内心読んでるの!?」
天擢に振り回され、数時間かけてカセドラルの飛竜発着場へ着陸する頃には、ボクの身体は疲れてヘトヘトになっていた。
体力の少なさはかなり問題だね……うへぇ、ファナちゃんに怒られそう。
ドスドス厩舎に歩いていって、厩務員さんに世話されていく天擢を見送っていると、カチャカチャと甲冑の音が二つ聞こえてきた。
……えっ、まさかこっち来る? ちょっ、退避、退避!
「はい、とうちゃーく! ここが飛竜の発着場だよ!」
「これが……飛竜ですか。想像以上に雄々しいですね」
「それだけじゃないよ? 一緒に居ると分かるんだけど、結構可愛いところとかあるんだ〜」
「そうなのですが……ところでイーディス殿」
「ん? どうしたの?」
「あの、端の方でフードを被った方は一体……」
デスヨネー……
後ろを向いてるから詳しくは分かんないけど、片方がイーちゃんで、もう片方は見知らぬ誰かさんなのは確かだ。
う、うーむ……男子たるもの、バート君*1みたく、礼節を重んじて接し合わなければならないか……うん、そんなのボクには無理だね!
でも、第一印象は大事って言うから、ここはボクのキャラクター性を見せつけるべきかな? かな?
「あのシンボル……公理教会のものでしょうか? となると、司教様……?」
「あ……ええとね、司教より偉いよ。公理教会の司教、上級司教を一纏めにする司教統括の統括をする役職、枢機卿だからね。元老長と騎士長の次に偉いはず」
まぁね〜。仮にも3番目だし、神聖術なら、元老長とアドミン様以外なら一番上手く使えるもん。
でも、公理教会の人事の抜本的改革は特に辛かった思い出が……みんな腐り過ぎだよぅ……上級司教どうなってんのマジで……
「……しかし、その様な方が何故こちらに?」
「んーと、取り敢えず話せば分かると思うよ。おーい! フェノメアちゃーん!」
名前まで呼ばれてしまっては、流石に無視はできないから後ろに振り返る。
灰色の髪に赤い眼という珍しい容姿をした、イーディス・シンセシス・テンことイーちゃんが一人、そして隣には金髪碧眼の美少女ちゃんがいた。
や、ヤバい……可愛さならボクが誰よりも勝っていたと思っていたのに、なんかえげつない子が来てるしぃっ!
「お、イーちゃん! ひさしぶり〜」
「遠征帰り? 今回は結構長かったわねー」
「色々異常が起きちゃってさぁ……」
チラチラッと金髪美少女に目を向けていると、イーちゃんも気付いたのか、咄嗟にその子の背後に回って、両肩をガシッと掴んだ。
「んふふ、紹介するねー! この子はアリス! 30番目の整合騎士なんだよ!」
「は、はい……ご紹介に与りました、アリス・シンセシス・サーティと申します。宜しくお願いします、フェノメア枢機卿閣下」
んぐっ……この子礼儀正し過ぎるよ!
ボクに枢機卿閣下なんて言うの、ふつうは司教さんくらいだからね……? そんな堅苦しい呼ばれ方をされていたら、ボクの身が持たないよ。ネギオ君とか特にさぁ。
「そんな枢機卿閣下とか付けなくていいよ、ボクの肩凝っちゃうし。まあ、改めて。ボクはフェノメア・シンセシス・スリー。3番目だから、キミの大先輩だ。同じ3が付く同士、頑張ろうねぇ〜」
「は、はい……フェノメア殿は、整合騎士でもあるのですね」
「騎士っていうか、バリバリ術師だけどね。神器も本だもん」
「なるほど……」
で、でも一時期は剣とか弓とか練習してたんだよ! ただ、武器を扱う才能が絶望的で……神聖術が使えなきゃ、本の角で殴るくらいしか出来ないんだよぅ。
ぐすん……なんでアドミン様はボクを騎士にしたのさ……
「神聖術を教わるなら、フェノメアちゃんに教えて貰うといいよー! 何せ、私に神聖術を教えてくれたのはこの子だからね〜! 大好き!」
「ふひゃぁっ!?」
ちょっ、ま、待って、抱き着かないで! ボク男! 男なんだけど!
いや、人界に来てから女の子に欲情したこと一度もないし、絶対男として枯れてるけどさ……あんまり分け隔てないとメアちゃん対応に困ります!
精一杯叫んだボクの心の声は、イーちゃんには通じなかった。
というか時々、本当にボクを男だと思ってるのか不安になるよ……
「うーん、本当に可愛いよねぇ〜。アリスも負けてないけど!」
「い、イーディス殿……フェノメア殿が困っています」
振り払うのもなぁ〜と思ってたら、まさかのアリスちゃんから助け舟が。
まあ、大抵の可愛い女の子はイーディスにガバってやられてるけど……ボクが含まれるなら、女顔のレンリ君も含まれていいのになぁ。
「ありゃ、今日はダメなのかな」
「いつもボクは許してないよ……」
「ええー! じゃあアリスちゃーん!」
「なっ、や、やめて下さいイーディス殿!」
なんてやっていたら、厩務長のハイナグさんにお叱りを貰った。あんまり騒ぐと、飛竜もそれを敏感に察して気が立ってしまうのだとか。みんな仲良く正座である。
悪いの、全部イーちゃんだよね……? ボクとアリスちゃん、被害者なんですけど……という心の声は届かず、五分ほどのお叱り後に三十階から退却した。
それから、色々な階層を見て回り、九十階の大浴場でイーちゃんにボクの性別がバラされそうになりながら、その日は解散になった。
それからというもの、ボクはますます多忙になった。アリスちゃんに神聖術を教えたり、ときおり公理教会の管理をしつつ整合騎士の務めである果ての山脈の監視と防衛まで任されたちゃってさ……
うへぇ、幾らなんでも働き過ぎだよこれ……完全にボクを殺しにかかってる。
あと自分が何人か欲しいなぁ。イーちゃんに《闇斬剣》の記憶解放術でも使ってもらったりできたら早そうなのに。
はぁ……めっちゃダルいよぉ。
机の上でぐでぇ〜っと倒れ込んでだらけていると、ドアを叩く音が聞こえた。
まったくぅ、大忙しのメアちゃんに何の用だよぅ。
「私だ。失礼するぞ、フェノメア」
この声……ファナちゃん!?
やばっ、怠けてるの見られたら叱られる!
ヒヤヒヤしてバラバラになった書類やらを整えると、扉が開いた。
相変わらず、ずっと兜を外さずガッチガチの鎧を着ている。
理由は知ってるけど、ズケズケと人の事情に深入りするのは良くない。残念なことに、ボクじゃファナちゃんの悩みを解決できないんだ。
心の内でそっと溜息を吐くと、枢機卿モードを起動する。
「一体何の要件かな、シンセシス・ツー」
「ああ。今日、新たな整合騎士が召喚された」
書類がパッと渡されて、それに一通り目を通す。
名前は、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。
天界からの召喚騎士かぁ。性格は高潔なよくあるタイプ。
ふああ、アドミン様もお勤めご苦労様です……
「登用ではとはいえ、一先ず三ヶ月は試用期間を設けて、実力把握と。ひとまずの指導は……シンセシス・サーティに任せようかな」
書類をササッとしたためて、団長宛として封蝋を施す。
「じゃあ、これを騎士長にお願い」
「はっ」
ファナちゃんの鋭い了解を聞いて数秒、またもぐでっと倒れる。
「……ファナちゃ〜ん。ボクいつまで働けばいいのぉ〜?」
「知らぬ。最高司祭様のお考えなのだろう」
「うへぇ、アドミン様ぁ〜……」
終わりのない書類との戦い、正にダークテリトリーの軍勢と同じ。仕事に忙殺されるのが役目みたいなものだよ……
「……あんまり無理すると、最高司祭様が心配なさるわよ、フェノメア」
「……あれ、ボクの前で兜外すの、二、三年ぶりかな?」
ボクや元老長とはちょっと毛色の違う、紫がかった黒髪を惜しげも無く晒すファナちゃんは、綺麗な化粧をしていて、美人さが引き立っている。
いつも兜外してたら、団長も振り向いてくれるだろうに……
「ほら、話を逸らさないで。貴方、寝ても食べてもないでしょ」
「う……だって、仕事終わんないんだもん。ボクが仕事しないと……」
机から起き上がろうとすると、うつらうつらと、段々船を漕ぎ始めてきた。
だましだまし使ってきた闇素術の催眠が切れて、眠気が復活しちゃったっぽい……まずい、まだ全然終わってない。
「システム、コール……んぐっ!?」
「もう、駄目よ? 貴方はもう寝なさい。残りの仕事は私がやるから、ね?」
「ちょ……それ……」
あ、やば……ねむ……
…………はっ、いや、まだ寝てない!
「それ、ボクの仕事だからぁ! ってあれ」
コクコクしていた頭を起き上がらせると、見慣れたボクの自室だった。
ということは、つまりここまでファナちゃんが運んでくれた……ってこと!?
これで仕事まで無くなってたら、後で泣いて詫びるしかない。
「う、うへぇ……凄い迷惑掛けちゃってるし。てゆーか、ボク一応男なんですけど……やばいなー……本気で女の子になった方がいいんじゃないか、
最後に溜息が出た時に、自分の言葉が不意に反芻した。
……私? いま、私、だって?
いや、その一人称は敢えて使っていない。こんな格好ではあるが、ボクという一人称は、男であると意思表示をするの同時に、自分自身への暗示を掛けているからだ。
私、なんて使っちゃったらそれこそ、振る舞いが完全に女の子になっちゃうからね……
唐突に、頭がズキッと痛みだして、どこからか囁くように声が聞こえてくる。
『決まってるじゃん。私は女の子なんだから』
それは、たまに夢に見る女の子の声。
なりたいものになれなかった、女の子の叫び。
『ボクって言って仮面を着け続けて、もう疲れ果ててるのは自分自身で分かってるくせに……意地張るの、やめたら?』
そんな事はない。
ボクはボクだ。一人の男なんだ。
心の中にいる少女にそう言ってやると、もう声は聞こえなくなった。
黒髪の、ボクと瓜二つの少女。『私』と名乗る、記憶の中の誰か。
「ボクが男じゃないなら、何なんだ……」
うへぇ……難しくて考えたくないよぅ。
脳内にりあむちゃんを流してたらめっちゃ病んでそうになった
メンヘラ系男の娘に需要はありますか……?