転生最高司祭ちゃんが行く原作再現   作:赤サク冷奴

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If We Could Come To Walk Hand In Hand
転生最高司祭ちゃんが行く原作再現 2


 

 人界暦381年4月10日

 

 今日は例の茶会があった。

 

 徹底的にアドミンムーブを続けていたが、その度に揚げ足を取ろうとするカーディナルにはムカついた。

 ほんと、お前も悪いんだからなクリスチャン!

 

 結局、話は毎週安息日の正午、《暁星の望楼》で集まり、キリト達が新しいケーキを持ってくる限りは続けるという事で決まった。

 

 多分、キリトよりも俺の方が遥かに豊富なレパートリーを揃えているが、そこをどう創意工夫していくのか、これから注視していきたいものである。

 

 あとクリスチャンや。日記書いてる最中に抱き着かないで?

 結構今困ってるよ? ねぇ伝わってる? ジンカイゴ、ワカリマセンって片言で言われてもわかってるからね? ほらここ見てよ。書いてあるでしょ?

 

P.S.

 最近クリスチャンが妙に甘えてくる。

 一応、俺はまだ男の心のつもりでいるのだが、一方で悪くないとも思って──(ここから先は黒塗りで滅茶苦茶に消されている)

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月15日

 

 丸四日寝てから起きた今日、久々に十階まで降りて気軽な飯でも頂こうと思ったら、キリトとユージオが厨房に入っていくのが見えた。

 

 気になって覗けば、キリト達はベイクドチーズケーキ作りに苦心しているようで、「ふりゅむぐうううううううん!」とか「ふぬうううん……」とか、意味の分からない雄叫びを上げるキリトを、ユージオが諌めていた。

 

 面白そうだったので俺が乱入すると、キリトとユージオが腰を抜かして、トレイに乗っていた焦げたチーズケーキをこっちに吹っ飛ばしてきた。

 心意の盾を使わなければ、危うく顔にベチャッとなっていた。お笑い番組じゃないんだぞ。

 

 ここですかさずアドミンムーブ。ムカついた風を装い、二人が苦労しているチーズケーキを、二人には不可能な別の形で作り上げてやった。

 その時の二人の顔ときたら、あれは傑作だったな……

 

 《ザ・シード》パッケージ規格の料理にベイクドチーズケーキは存在しているが、どうしてなのか冷やして作るレアチーズケーキは存在しないらしい。作れないと悟った時は、汚いな流石カヤバーン汚いと殺意を抱いたものだ。

 しかし、どこにも抜け道というものはあるもので、その《世界の理》を心意で捻じ曲げ、《インカーネイテッド・レアチーズケーキ》とも言うべきものを二人に振舞った。

 

 俺はベイクドよりもレア派なのだ。

 万歳、レアチーズケーキ万歳!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月16日

 

 クリスチャンがキリト達に軽く指導をしてきたらしい。

 

 シェータから出された、鉄柱を両断しろという課題の達成は至難の業だ。あの鉄柱は練習用の鋼剣よりもかなり優先度が高いので、必然的に心意と己の技によって優先度に勝つ必要がある。

 

 因みに指導後、キリトがソードスキル、《ジェリッド・ブレード》で、剣を柱の半ばまで食い込ませていたという。少し教えただけでそれならば、直ぐにでも上位騎士になれそうなレベルということ。

 

 そろそろ頃合いになってくるだろうか。しかし道程はまだまだ遠い。

 

 

 

 

 

 

 ──全ては、俺の究極の目的のために。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 4月17日、安息日の正午。

 

 二度目の茶会が現在進行形で行われている。

 

 目の前のチーズケーキをフォークで綺麗に一片切り取り、口に運ぶと、濃厚なチーズでしっとりした味わいと、サクサクしたクラストが実によく合っている。

 

 訂正しよう。ベイクドもアリだ。

 

「……ふうん、お菓子の心得はあるのね。これなら、跳ね鹿亭でも出してもいいかも……」

 

 ポツリと呟いた言葉だったが、キリトとユージオにはバッチリ聞こえていたらしい。特に、キリトが突然バッと立ち上がって、驚いたような目を向けてくる。

 

 カーディナルやアリスも、キリトの突飛な行動に奇異の目線を向けた。

 

「あ、ああの……最高司祭、今なんて、仰いましたか……?」

 

 非常にテンパって、蚊の鳴くような声で尋ねてくる。

 

 ふっふっふ、そんなに気になるかいキリト君……いいだろう教えてやろうとも!

 

 ニヤリとしながら、言葉を改めて言う。

 

「ん〜? まあ悪くないし、跳ね鹿亭の新メニューとして出して良いかなぁ〜って思っただけよ」

「そ、それですよ! 跳ね鹿亭! どうして最高司祭様が、セントリアの店を?」

「だって、あの店は三百年と五十年前から私が監修してるもの」

「ま、マジか……」

 

 俺独自のレシピなので、原作とどれくらい差が出ているのかは分からないが、三百年も何代にも渡り作り続けられているだけあって、最近買ったパイの味は自分のものより洗練されていた。

 

 しかし、元は俺の開発したお菓子なので、元ネタは俺といって過言じゃないのである!

 

 キリトがあわあわそわそわと忙しなくする中、ユージオが小さく手を挙げて言った。

 

「あの、例えば、跳ね鹿亭で一番人気の蜂蜜パイは、最高司祭様御自ら作られた……という事でしょうか?」

「そ。元は私が作ったお菓子を、料理の得意な女の子に教えてあげただけ。そしたら、なんかお店になってたのよ」

「な、なるほど……」

 

 つまり、彼らは最高司祭が開発したお菓子を常日頃から、最高司祭作だとも知らずにバクバク食べていた訳だ。

 マジかとも言いたくなるだろう。

 

 すると、カーディナルが鼻眼鏡をかちゃりとした。

 

「ほう……二人の様子からして、貴様の作った蜂蜜パイはかなり美味のようじゃな。屈辱ではあるが、食べ物に罪はあるまい……帰りに寄ってみるとしよう」

「あら、狡いわね。人の開発したお菓子を、ただお金だけで買うなんて」

「なんじゃ、わしは対価を支払って正当な物品を受け取ろうとしているだけじゃ。文句はあるまい」

「あるわよ。あなたに売るパイなんて一欠片もありはしないわ」

「それを売る売らないは、販売する当人に委ねられておる。貴様に邪魔される謂れはないぞ、クィネラ」

「ふぅん。でも、あのお店を監修してるのはわ・た・し。少しの口利きなんて造作もないわ。目の前にいるようなちっこい眼鏡をかけたちっこい女の子には売るなってね?」

「おのれ、なんと非道な真似を……!」

 

 ふははは! ざまあみろ!

 

 

 

 

 ケーキを食べ終えて解散すると、何を話したっけなと先程の記憶を辿る。

 

 クリスチャンを傍に控えつつ行われた今日のお茶会の議題は、《東の大門》の今後についてだった。

 

 《最終負荷実験》の嚆矢(こうし)となるのは、人界と暗黒界を貫く渓谷を塞ぐ《東の大門》の崩壊。人界軍と暗黒界軍の凄絶な戦争が始まるのだ。

 

 これを防ぐため、俺は長年に渡り《東の大門》の修復を行ってきたが、それもそろそろ限界に近い。

 

 が、多少は先延ばしに出来るので、今日も大門を修復する事にした。

 

 その前に……

 

「あら、みんなお勤めご苦労様ね」

 

 カセドラルが聳え立つふもとの地面。四方を白の《不朽の壁》に囲まれ、カセドラルに住まう者しか中を拝むことができないその場所の西側。

 

 そこには、壁と同じ大理石で作られた、四角い施設がある。前面がスライド式のドアとなっていて、その様相は大型倉庫だ。

 まあ、将来的には自動車とか機竜も格納しておけるようにと設計したから、そうなるのも仕方ないが。

 

 という訳で、俺は飛竜厩舎に来ていた。

 

 十数人以上もいる厩務員達に騎士礼されながら進み、一番奥の厩舎に向かう。

 

 一番奥なので、そこにあるのは最も厳重に管理されている飛竜。

 最も厳重に管理されるとなれば、つまり最高司祭専用の飛竜となる。

 

 俺の《雪織》は、元老長専用──クリスチャンの《雪綜(ユキヘリ)》と共に、首を絡め合うようにして眠っている。

 

 眠っているといっても、二頭は完全に石となっている。凍結術式《ディープ・フリーズ》によるものだ。

 滅多に乗ることがなく、飛ばさないままでいさせると身体にも悪いので、こうして状態を凍結させて眠らせているのだ。

 

「システム・コール……ディソリューション・ディープ・フリーズ」

 

 雪織の体表に触れながら術式を唱えた瞬間、ピキピキッという音ともに石化が解けて、白銀の煌びやかな竜鱗が姿を現す。

 

 やがて全体まで石化が解ければ、夕闇色の瞳がパチリと開いた。

 

 絡めていた首を器用に離すと、未だ眠ったままの雪綜に頭をコツンと合わせてから、俺に頭を擦り付けてきた。

 

「……後で雪綜も起こしてあげるからね」

 

 雪織に体を預けながら顎をさすってやると、クルルッと喉を鳴らした。

 

 雪織と雪綜は(つがい)の飛竜。

 子供こそ居ないが、片方目覚めさせたままでは可哀想だ。

 

 それは《東の大門》の修復作業後にやるとして、今回雪織を目覚めさせたのには訳がある。

 

 いつもなら、飛行術式ですいーっと行けばいいが、カーディナルの手助けもあるので道連れを用意したのだ。

 

「ハイナグ〜、ミスカンってある〜?」

「はっ、ただいま持って参ります」

 

 厩務長のハイナグが、すぐさま持ってきた数個のミスカン──もとい夏みかんを皮ごと雪織に食べさせてやってから、鞍に跨る。

 

 進むように手綱で指示を出して、厩舎のスライド式ゲートが開かれる。力強く手綱を引っ張ると、それに応じてドスドスと歩み始め、加速して外に飛び立つ。

 

 世界最古の飛竜の一体なだけあり、体に吹き飛ばされそうなほどの風圧を食らいながら高度を上げていく。

 発着場に滑り込み急ブレーキを掛けると、眼下には思わず仰け反っているキリトと、腰を抜かして唖然とするユージオ、そして驚きの表情を浮かべるアリスの姿が。

 

「さ、最高司祭様……雪織を目覚めさせたのですか?」

「たまには、この子を飛ばしてあげたくてね」

 

 鞍から飛び降りると、雪織の顎を撫でながらさっき貰ったミスカンを一個ずつ全部食べさせてやる。

 

 そんじゃあ、行くとしますか。

 

「ユージオはアリスちゃんの後ろ、キリトは後ろに乗りなさい」

「……へぇ!?」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideキリト

 

 

 整合騎士と言えば? 

 

 そう聞かれたら、大抵の人は真っ先に飛竜という言葉を挙げるだろう。

 

 飛竜は西帝国にしか生息しておらず、また整合騎士達以外駆る事を禁じられている。その上あの偉容を見せられれば、整合騎士=飛竜に乗ってるというイメージの等式が自然と生まれてくる。

 

 そして現在、俺は雪織という飛竜の手網を持っていた。

 

 どうしてこうなったと言いたくなるが、目の前にはキラキラした銀髪をはためかせる少女……最高司祭アドミニストレータが居るので、ここはグッと堪える。

 

 俺達の向かう《東の大門》は、セントリアから700キロル東にある。飛竜がかなり速く飛んでも七時間は掛かる距離にあるが、セントリアから一時間の所にあるシュンカ山にカーディナルが大門に繋がる転移門を設置したらしいので、そこへ向かっているのだとか。

 

 そしたら、突然のこれだ。最高司祭曰く、雪織は利口だから勝手に風を読んで飛んでくれるらしい。

 

 それ、俺に持たせる意味無いですよね……?

 

 愚痴りつつ、ふと隣を並走する雨縁(アマヨリ)に乗るユージオが目に入った。

 

 手綱は持っておらず、同乗するアリスと何か話している。会話の内容は、空を飛んでいるから全く聞こえないが、様子を見るに、アリスと距離を縮めようと頑張っているようだ。

 

 思い返してみれば、彼が傍付きのティーゼと打ち解けたのは、俺がロニエと打ち解けるよりも早かった気がするので、あれで案外女の子と接するのは不得手というわけではないのかとしれない。

 

 だが──。

 

 以前にも考えた事だが、騎士アリスと距離を縮めようというユージオの努力は、いつかまったくの無駄になってしまうかもしれないのだ。

 

「……シンセサイズか……」

 

 無意識のうちにその言葉が呟かれて、前席のアドミニストレータがぴくりと肩を動かして反応した。弁明のしようもなく、自分の失態に頭を抱えたくなっていると、振り向いて目を眇める最高司祭と目が合う。

 

「……ちびっ子が余計なことを言ったみたいね。たぶん、大まかには理解してるわよね」

「は、はい。記憶の欠片を抜き取り、記憶を封印して、《敬神モジュール》で公理教会と最高司祭への忠誠を強制する……って、教わりました」

「まあ合ってるわ。……それで、何が言いたいの? サーティスリー」

「……えっ……と……正直に言っても、お皿やニンジンに変えたりしませんか……?」

「しないわよ、たぶん」

「じゃ、じゃあ言いますけど……シンセサイズの是非はさておき、《整合騎士は神界から召喚された》っていう話はちょっと無理があると思うんですが」

 

 勇気を振り絞ってそう言うと、アドミニストレータは溜息を吐いて、同意とも取れるように肩を竦めた。

 

「ま、普通そうよね……でも、これには事情があるの。全ての騎士の記憶を調整してまでわざわざこんな事をする、大事な事情がね……」

 

 アドミニストレータは、こちらに一瞥もくれず、正面を向いたままそう話をした。

 

 ──騎士をシンセサイズする度に、その騎士と接触した騎士の記憶を書き換えてまで貫き通す理由か。

 

 それが、俺には妙に気になった。

 

「……それって、前言っていた《剣機兵計画》と何か関連が……?」

「全く無いわね。アレの制御の仕組みに関係しないわ。……あんな仕組みにはね」

「……なら率直に尋ねます。どういう理由で、やるんですか?」

 

 すると、ようやくアドミニストレータは肩越しにこちらに振り向いて、その顔を見せた。

 

 その視線に、何が込められているのか……冷淡という訳でも、慈愛という訳でもない、何か別の感情が渦巻いているようで。

 

 いや……見た事があった。脳裏にその光景がフラッシュバックして、瞼の裏に鮮烈に焼き付いた。それは全て、あの剣の世界でのこと。

 

 ──ソードアート・オンライン

 

 あの剣の世界で──アインクラッドの中で、俺は一体、何度あの目を見ただろう。

 

 始まりの街で、茅場晶彦にデスゲームを宣告された人々の目。親しい友達に裏切られたと思い、死ぬなら最後まで自分らしく在りたいと剣を取った少女の目。恐怖に打ち勝とうと敵に立ち向かい、そして俺が殺してしまったショートヘアの少女の目。自分がデリートされる事を承知で俺とアスナを助けた、愛する娘の目。

 

 諦念、絶望……いずれも、生きることを諦めて、自分の事なんてこれっぽっちも考えてはいない。生きる意味を無くしたのか、生き残れないと悟ったからか……どちらにしても、自分の命を気に掛けていなかったのだ。

 

 ……だから、どうして目の前の彼女がそんな目をするのか、尚更不思議で仕方なかった。飽くなき支配欲を持ち、それを満たす為にこの世界を手に入れようとしているというのに、どうしてなのかと。

 

「……それを貴方に話して、何か意味があるとでも?」

 

 気が付くと、彼女の顔は能面の如き無表情になっていて、返って来た言葉は明確な拒絶。目線は冷たくて、細められた瞼の奥から俺を突き刺してくる。

 

 それでも、グッと堪えてアドミニストレータに言い返す。

 

「何か有用な方法があるなら、共有すべきじゃないですか?」

「……ん〜、だってこれ、最終負荷実験用の計画じゃないもの。強いて言うなら……そうね。この世界で最も邪魔な存在を排除する為の計画よ」

「つ、つまり、カーディナルを倒す為のもの……ですか?」

「え? 違うけど」

 

 呆気なく、しかも何を馬鹿な事を、みたいな怪訝な視線を向けられた。思わず鞍の上でズッコケそうになりながら、考えてみる。

 

 アドミニストレータの言う事が本当であれば、現時点でアドミニストレータはカーディナルをそこまで敵対視していない、と捉えられる。これはとても喜ばしい事実だが、じゃあ逆に、アドミニストレータが恐れているものは何か。

 

 現実世界……ラースの研究員達。確かに恐れるべき相手だが、こちらからはどうする事も出来ないので、まず真っ先に除外できる。

 

 人界人……禁忌目録がある以上、反乱は起きるはずが無いのでこれも除外。

 

 暗黒界……は言うまでもない。その為の計画を、茶会を通して練っているのだから。

 

 じゃあ何だと思考に耽っていれば、アドミニストレータは俺の様子を見て、何がおかしいのかクスクスと笑った。

 

「因みに計画を主導させる騎士はキリトの予定だから、精々頑張る事ね」

「…………え、えぇ!? 無理ですよ、そんなの!」

 

 数瞬硬直して、手をバタバタ、首をブンブン振って断るが、対するアドミニストレータは意地悪な笑みを浮かべてクスクスと笑っていた。

 

「……それじゃ、少し眠るから。シュンカ山に着いたら起こして」

 

 ひとしきり笑い終えたアドミニストレータは、前を向いて鞍の背もたれに寄りかかった。

 

 ──あの、俺、その山がどんな形をしているのか知らないんですが。

 

 と言おうと思ったが、彼女が眠る意味を思い出して、俺は開き掛けた口を噤んだ。代わりに手綱を握る手を少し緩め、雪織に行き先を委ねた。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月17日

 

 今日はやることなすこと多くて大変だった。

 

 お茶会にてカーディナルと《東の大門》対策について議論したが、やはりと言うべきかあちらもこちらも、同じ結論に至った。

 

 ──何をしようと、あと半年で大門は崩壊する。

 

 これは如何な神聖術を使えど、無理だと判断した。

 

 そもそも大門周辺はダークテリトリーと近いので神聖力が少なく、新たにカセドラルの大理石みたいな最高優先度かつ自動修復機能を有した物を設置しても、神聖力が無いから自動修復機能は意味を持たず、すぐに壊される。

 

 尤も、俺にとってはそれが一番望ましい事だ。

 

 キリトは戦争を止める為に戦っているようだが、俺は違う。

 

 俺がかねてより考えてきた真の目的────それが絡んでくる。

 

 

 

 

 で、あのさ。

 

 クリスチャンや。その真の目的をメモっておこうと思ったのに、君が居たら書けないから。覗かないで?

 

 毎回毎回、日記というより筆談になってきてるからさ?

 

 まあ、そっちがその気なら、こっちにも用意がある。

 

 

 The true purpose which I have prepared previously is that I’m executed as a archenemy by “Kirito” as a black swordsman.

 

 

 なんかいざ書き起こしてみれば、熊みたいな名前の地獄の王子のセリフにしか見えない。このプ◯さん──PoHさんめ。

 

 とまあ、そういう訳なので、アンダーワールド大戦は、何としてでも、絶対に引き起こす。是非もないね!

 

 閑話休題。

 今、このカセドラルには暗黒騎士のリピア、ベルクーリにも劣らないイケおじ将軍、《十侯》シャスターの恋人が来ている。

 

 大門の修復作業後に、飛竜に乗って大門近くまでやって来たのだ。

 理由は、シャスターの命でベルクーリに会いに来たのだとか。

 

 追っ手から逃げていた最中でもあったらしく、空腹だった彼女の飛竜に水と食糧を与えて、キリトの提案でひとまずカセドラルに連れて行く事にしたが、その時にはもう夕方を通り越して、ルナリアが東帝国の空に浮かんでいた。

 

 なので、リピアの話とやらはまた明日にでも聞いておいて、今日は寝ることにする。

 

 明日は、色々忙しくなりそうだなぁ。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

sideリピア

 

 

 キリトやユージオと別れたリピアは、与えられたカセドラルの一室に入って、騎士の鎧と剣を脱ぐと、ベッドにだらりと倒れ込んだ。

 

 シャスターより、命令を受け取ったリピアは、一刻も早くカセドラルに向かわなければならなかった。その理由は簡単で、リピアに下ったであろう命令を予想していた者達……暗黒術士ギルドの存在が居たからだ。

 

 彼女らが放ったミニオン三体が、澪懸に乗ったリピアに襲いかかり、どうにか逃げおおせながら《東の大門》を目指した。

 

 しかし、その頃には澪懸も疲弊しており、あわやと思った所で、閃光がミニオン達を貫いて、倒し尽くした。

 

 見れば、《東の大門》の上に、二体の飛龍と、それに乗る銀髪銀瞳の若い少女、そして黄金の騎士の少女がおり……思わず銀髪の少女を二度見した。

 

 ──あれは、ベクタ様か!?

 

 リピアの脳裏に過ぎったのは、五年前まで通っていた《神立オブシディア帝国学院》にある、『飢えし民にパンを恵む女神』という題名の色硝子の絵だった。

 

 そもそも、闇神ベクタは二人いるというのが現在の暗黒界での通説であり、片方は悪逆非道な皇帝、そしてもう一人は、民に知恵と力を与える女神とされている。

 

 中でも文献での記述や姿絵などで風貌が遺されているのは、女神ベクタのみ。

 その姿は総じて淡く紫が混じった銀髪銀瞳で、17か18ほどの少女として語られている。

 

「……公理教会の最高司祭が、女神ベクタ様」

 

 その等式は、今もリピアの中で強固にこびり付いて離れない。

 そうであるなら、かの《鉄血の時代》に降臨しなかったのも当然であるし、薄氷のような関係にある現在の《十侯会議》による統治を見過ごすのも当然だろう。わざわざ敵に塩を送る様な真似はしても意味が無い。

 

「愛想を尽かされたか……」

 

 ベクタ──もといアドミニストレータは、《闇の五族》にも対等に知恵を与えたが、その五族が持つ生来の欲求……人界人を殺したいという闘争心が強く、やがてその余波が暗黒界人にも回ってきた。それが《鉄血の時代》の端緒となっている。

 

 なぜなら、少なからず暗黒界には肌の白い暗黒界人も居る為である。

 

 かつて、アドミニストレータが暗黒界の学校建設にあたってやって来させた教育用の人材なのだが、暗黒界では人界人と暗黒界人との混血が進み、現在では白い肌の暗黒界人として馴染んでいる。しかし、五族は白肌の暗黒界人を人界人と勘違いして襲うケースが多々あったのだ。今では教育も行き届いているが、未だ闇の五族と白肌の暗黒界人達の諍いは多い。

 

 それに比べて人界は、諍いも起こらず五族の様な者達も存在しない。

 暗黒界に愛想を尽かし人界に移るのもまた当然かと、溜息を吐いた。

 

 だが、何にせよ今回の和睦はどうにか成功させなくてはならない……最高司祭の事は考えている場合ではないのだ、と自分を叱咤する。

 

『可能であろうとなかろうと、成さねばならぬのだ、何としても』

 

 シャスターは半年前、リピアにそう語っていた。

 

 人界と暗黒界を隔つ大門が崩れ落ちようとする今、人界との全面戦争が起これば、また《鉄血の時代》に逆戻りどころか、それよりも凄惨だろう。整合騎士相手に、自軍がどれだけ持つかどうか……

 

 いや、そんな最悪の結末を愛する閣下に見させる訳には行くまいと、リピアは両手を強く握り、決意を新たに床に就いた。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月18日

 

 ベルクーリをまたも強制帰還させて呼び戻した。

 

 理由は言うまでもなく茶会だ。ファナティオでも良かったけど、あっちは暗黒界人絶対殺すウーマンなので、代わりに話の分かるベルクーリを連れて行ったのだ。

 

 ベルクーリをお供にしながら、十階の大食堂へ訪れ、ケーキを運ぼうとするキリトとユージオも一緒に転移術で九十五階に飛ばしてから始まった茶会は、それはもう錚々たる面子だった。

 

 ──最高司祭 アドミニストレータ

 ──元老長 クリスチャン

 ──賢者 カーディナル

 ──使い魔 シャーロット

 ──整合騎士長 ベルクーリ・シンセシス・ワン

 ──枢機卿 整合騎士第四位 フェノメア・シンセシス・スリー

 ──整合騎士第三位 アリス・シンセシス・サーティ

 ──整合騎士第五位 イーディス・シンセシス・テン

 ──整合騎士第八位 シェータ・シンセシス・トゥエルブ

 

 ついでにキリトとユージオだが、今回はケーキ係なので頭数には含めない。

 

 この豪華公理教会重鎮セットに、さしものリピアも泰然にとは……と思ったが、冷や汗を流しながらも堂々たる歩みで席に着いていた。

 全員帯剣させずに修道服姿だが、面子が面子。その中であの態度は素直に賞賛されるべきだろう。

 

 そんな不幸中の幸いか、イーディスがリピアと剣を交わした顔見知りだったようで、どうにか緊張は解して、茶会は始まった。

 

 毎回、ケーキは話し合いがひと段落してから食べるので、今回も例に漏れず俺が開始の言葉を掛けると、リピアが自らの飛竜、《澪懸(ミオカケ)》を世話してくれた事への感謝を述べた後、ここに来た要件を話した。

 

 それは……《暗黒界》側からの、《人界》への和睦交渉だった。

 

 勿論、和睦であるから、戦争をやめてこれから仲良くしようという事だが、その《暗黒界》側に少々問題があった。

 

 と言うのも、和睦の申し入れを行ったのは、暗黒界の《十侯》の内、たった二人しか連名していないのだ。

 

 この事を、フェノメアが真っ先に追及した。普段からは考えられない程真面目な表情で、それでは和睦の交渉にならないとキッパリと斬り捨てた。

 

 普段ふざけてそうな人物が途端にああなると、すげーかっけぇーってなるよね。

 

 交渉は不可能だと言うフェノメアをベルクーリが諌めつつ、他の十侯はどうにかならないのかと訊ねると、リピア曰く、可能性があるのは、《拳闘士ギルド》の第10代チャンピオン、イスカーンなら、或いは話は分かるらしいとのこと。

 

 それ以外……特に《オーク族》と《暗黒術士ギルド》は以ての外で、絶対に和睦は認めようとしないらしい。まあ、最初は人族絶対殺すマンのリルピリンと、あのDIL(ディー・アイ・エル)さんだしね。

 

 では、何故そんな状況で和睦を申し入れたのか……(あるじ)、シャスター曰く、『大門の崩壊で、間違いなく暗黒界の機運が高まる。その前に、最低でも《諸侯》を四人斬らねば和平は成らん。その為に、整合騎士殿の助力を乞いたい』と。

 

 まあ、ここから会議はますますもって大論争。慎重なフェノメアに、更にクリスチャンが加勢。シャスターの案にほうほうと納得するベルクーリやイーディス、「なりません小父様! それにイーディス殿も!」と制するアリス。それを傍観する俺、カーディナル、シャーロット、シェータ……

 

 その時、どうにかしなさいよと隣のカーディナルに目線で訴えかけたが、ふるふると首を振られた。

 

 ってか、四割が黙り込む会議ってのも酷い話だ。全く、俺が昔居た会社の定例会議みたいだな……いや、どこの会社もそんな感じか。

 

 流石に長引き過ぎなので、心意で全員の口をムギュっと封じると、ケーキにありつくべくキリトに目配せして、二倍盛りショートケーキとチーズケーキを頂いた。

 今日もご馳走様でした。

 

 やはり相変わらずのケーキの出来に、全員が舌鼓をうった。特に今回初参加のイーディスとリピアはこの甘味の素晴らしさに興奮気味だった。リピアちゃん意外と乙女チックな所あるんだね……

 

 だが気になったのは、ダークテリトリーにも似たようなお菓子があるとか何とか。

 

 書いていて思い出したが、そう言えば昔あっちでショートケーキを振舞った覚えが……いや、あれが伝わっていたら凄いもんだ。

 

 長くなったのでここで切ろう。明日も忙しくなりそうだが、容量には気をつけないとな……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月19日

 

 キリトが今朝突然伺いを立ててきて、向こう側の世界について、重要な話があると言われてしまった。

 

 百階に招いて話を聞くと、リアルワールドからダイブしてきてる人間ということをカミングアウトとしてくれたので、一度バトってシステム・コンソールを貸してあげた。

 どうしてキリトと戦ったのかと言えば、向こうから仕掛けてきたので仕方ない。俺は心意でちょっと足をかけただけ。つまり不可抗力だ。俺は悪くない。

 

 これにより、人工フラクトライトを巡って菊岡さんとキリトの大論争が勃発したり、アスナと画面を通して再会が叶ったようだ。

 いやー、寝てる振りしてちょっと盗み聞きするぐらい良いよね? キリアスもっと流行れ。

 

 しかし、時間も時間なので、明日アスナとコンタクトを取って、アンダーワールドで実際に会うとか。クリスチャンがよろしいのですかと聞いてきたが、それくらいどうってことは無い。

 

 さてと、明日はすぐにアスナを招いた後のことを考えよう……

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月20日

 

 はい。結果から言うとアスナは来なかった。

 

 理由は簡単で、オーシャン・タートルが襲撃されたからである。

 

 ……いや、やっぱりおかしいんだよな。Ifによれば、ガブリエルは腹を壊して作戦を延期したはず。それで一年以上も猶予が出来たから、キリトは整合騎士として覚醒する流れなのに……

 

 取り敢えず、起こったことは仕方ない。菊岡さんが危険を承知でFLA倍率を5000倍にしてくれたので、幸い、キリトはまだ無事だ。

 ただ問題は、いつオーシャン・タートルの電源が切られるかだ。キリトが突然倒れて貰っては困る。

 

 となれば、計画を変更せざるを得ない。前倒しにして、無理矢理その状況を作り出さなくては。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年4月21日

 

 ユージオから、キリトに何をしたんですかと問い詰められたので、何事かと思って話を聞いてみれば、キリトが凄い暗そうな感じで、いつもの元気はすっかり無くなってしまっていたらしい。遠隔監視術式で確認すれば、何もかも絶望しきっていたようにベッドの上で膝を抱え、塞ぎ込んでいて、見るに堪えなかった。

 

 シェータもこの豹変ぶりを変に思って、指導を中断し休ませたとか。

 

 アスナの件とかで事情を知る俺がキリトの部屋に押し入って、色々言ったので、キリトならすぐに立ち直ってくれる筈だと信じたい。立ち直らなかったら、アリスでも呼ぶか。

 

 因みに、その時にキリトに膝枕してやった事をクリスチャンに言ったら、物凄く複雑な目線でジトっと睨まれた。仕方ないから膝枕してやったが、個人的にはされる方が好み──

 

 

 

 

 まだ、メス堕ちはしてないから!

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年5月4日

 

 脳みそ弄って記憶の整理をしていたら、いつの間にか5月を迎えていた。

 

 そんなに長い間起きてた気はしなかったんだけどなぁ。

 

 ともあれ、午後の訓練を見てみると、キリトは元気に鉄柱を……切った。

 ユージオとハイタッチしてる姿も見えた。

 シェータがうんうんと頷いていた。

 

 クリスチャンによれば、昨日からこんな調子らしい。

 

 ユージオも目覚ましい成長を遂げていて、キリトとの模擬戦で一本取ったとか。

 

 もうこいつら、上位整合騎士にしても良いんじゃない?

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 人界暦381年5月23日

 

 今日はキリトを百階に呼んだ。

 

 襲撃によって、いつSTLにサージが起こるか分からない。その前にキリトに計画を実行してもらわなくてはならなかった。

 

 計画の概要(大嘘)を話すと、キリトは訝しそうな顔をしつつも、了承してくれた。まあほぼ嘘だからね!

 

 計画実行は明日だ。キリト、ユージオ、アリス以外の在駐整合騎士を大規模な遠征に向かわせたので、邪魔する者は誰もいない。

 

 ああ、いや、まだ一人いるのを忘れていた。

 

 

P.S.

 今日は久し振りにクリスチャンの腕の中で眠ろう。

 

 今まで、心は男のままとか、あーだこーだ理由付けをしていたが、認めよう。俺はホモだと キリッ

 

 いや自分で何書いてんだこれ。キリッじゃねぇよ。馬鹿か私は。

 

 まあ、ようするに。

 

 クリスチャンを、一人の男として好いていると。

 

 あかん、これ、どんどん文字が震えてきた。

 いつの間にか一人称まで変わってるし。メス堕ちってこんな感覚なの? 好き好きパワー全開なの? こちとら恋のコの字の欠片も無いラスボス、アドミンちゃんだよ? 支配欲の化身が恋する乙女になるんだよ? いいの?

 

 

 もうやめよう! 今日の日記終わり!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 人界暦381年5月24日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごめん、クリスチャン。

 

 

 

 騙すような真似をしてごめん。

 

 

 

 でも、これが、私が死ぬのには最善だから。

 

 

 

 お前には、死んで欲しくなかった。死ぬ所なんて見たくない。

 

 

 

 そんな私のわがままを許してくれ。

 

 

 

 だから、わがままに付き合ってくれたアリスやキリトを、どうか恨まないでやってほしい。

 

 

 

 今まで、私に仕えてくれてありがとう。

 

 

 

 それと、ずっとずっと、貴方のことが好きでした。

 

 

 

 元気で居て下さい。

 

 

 

 さようなら。

 

 

 

 Sincerely

 Quinella Centria

 

 

 

 

 

 

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 こちらこそ、

 

 

 お慕いしております、クィネラ様。

 

 

 貴方様に仕えられて、俺は幸せです。

 

 

 貴方様を、俺は一生放しません。

 

 

 そちらで会った時は、覚悟しておいて下さい。

 

 

 

 クィネラ様の忠実なる執事より

 

 




次々回、アドミニストレータ死す!()
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