変わらずご意見、ご感想など書いて下さるとうれしいです。
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死を覚悟していた。
走馬灯に近い体験すらしていた。
もはやこれまでと思った矢先に気づいてみれば、自分は――
全くもって無事だった。
感じる浮遊感に足元を見れば、先ほどまで殺されかけていた獣の姿。
理由は明白。自分の体を包んでいる鎧の様な何か。
被り物をしているのにも関わらず視界は良好。
最早肉眼以上に鮮明に周りが見える。
左手には半透明のシールドの様な物を携えており、右手を見れば、腕全体が赤い鉄鋼に包まれており、その掌には、光玉がついている。
顔を下げれば、胸元から足元に至るまで、腕と同じようなメタリックレッドに染まっていた。
考えるまでもない。
今自分が身につけている。この鎧。
自身が最も関わりが深いと言える異世界。
その世界にいる一人の男。
稀代の天才メカニックにして天才実業家。世界一の金持ちとまで言われ、色々自称他称はある彼が宇宙の脅威から地球を守るため、生涯をかけて本人曰く趣味で作り続けているパワードスーツ。
『アイアンマン』
彼自身の別名であり、このスーツの名前でもあるそれと同一の物だった。
『久しぶりね、トール』
女性の声が頭に響く。
それと同時に視界の周辺に数字や図形を羅列したようなさまざまな情報が次々と表示されていった。
肉眼よりも鮮明に映し出されているのではないかと見紛う程の視界。
その向こうでは相対していた巨大な四肢の獣が熱線を吐き出そうとしていた。
操作方法は把握済み。噴射剤を放出している両手足を操作し、空中できりもみ回転をしながら回避する。
「——っきみは!? V2Nって言うのか!?」
『どうやらまだ完全に記憶が戻っているわけではないみたい』
先ほど聞いた同質の声ではあるが口調が変わっている事に戸惑いながら、記憶の引き出しを開けようと努める。
記憶喪失の自覚すらなかった頭の中の記憶が少しだけ鮮明になっていき、バーゲストとの触れ合いで思い出したその記憶がさらに補填されていく。
最も長く滞在し、最も深く関わった世界。
その世界では、自分はアベンジャーズというチームのメンバーで宇宙の脅威から地球を守るため、日夜紛争していた。
『随分とこの世界の解析に時間がかかってしまったわ、トニー・スタークより譲り受けたユニットを起動する事がようやく出来た』
丁寧な謝罪の声がトオルの頭に響く。
「いや、いいんだ。本当に助かった。ありがとう、V2N」
獣の上空を飛び回りながら、その攻撃を回避していく、地を這いつくばる獣には、空を飛ぶ鳥を捕らえることはできない。
『私の事は……覚えていますか?』
その言葉には悲しみの感情を感じてしまう。
罪悪感に苛まれる。彼女の言う通り、思い出す事はまだ出来ない。出来ないのだが、
懐かしい気持ちが湧き上がる。共に苦楽を共にした相棒に出会えた様な。
運命の相手に巡り会えた様な。
心の奥にある感情が、彼女への自分の思いを証明している。
「ごめん。君のことを思い出す事は出来てない」
だから――
「君が俺にとって心の底から大切な存在だってのはわかる」
申し訳なさを込めながら、正直な思いを口にする。
『――っ』
「……?」
不自然に会話が止まったが大丈夫だろうか?
『いいでしょう。あれだけ忘れないと言っておきながら未だに思い出せない貴方に仕置きをしてやろうと準備をしたけれど、止めてあげる』
「お仕置きって……」
先ほどの優しげな雰囲気はどこに行ったのか。
聞き逃せないことを言いながら、彼女はそこから一泊置き、言葉を放つ。
『ほら、来るわよ』
「っ!あぁ!!」
乱暴な口調になったV2Nの警告に再び、熱戦を回避。
次の展開をどうするべきか、旋回して牽制しながら、思考する。
⁑
「何あれ何あれーーっ!!」
大興奮のダ・ヴィンチに若干戸惑いながらも。
藤原立香は目の前で起こり、度々切り替わる展開に驚愕していた。
バーゲストが厄災に変貌し、マンチェスターの妖精を皆殺しにしたと思われる男性が、その厄災に殺されたと思ったら、SF映画に出てくるようなパワードスーツを着こんでいた。
まとめるとこういう事だが、色々と受け入れるのに若干の時間を要した。
そのパワードスーツは、掌と足の裏から出力されているエネルギー噴射で空を飛び、獣の攻撃を誘導しながら、周辺をグルグルと飛行する。
時折、足のみでも飛行は可能なのか、掌を獣に向け、光線のようなものを発射していた。
「ギリシャ系統の宝具!? でも相変わらず魔力は感じないし、純粋な科学技術だとしたら、この妖精國で使えるのはどうしてかな!!? でも見てよ!あの飛行方法!?あのフォルム、あのカラー! 機能美の塊だけど、どこか無駄もある構成!! まさしくアレは浪漫の塊! 製作者の趣味がふんだんに盛り込まれてる!!」
こんな時だと言うのに、ダ・ヴィンチは大興奮で捲し立てていく。
しかしダ・ヴィンチの気持ちもわかるのだ。目の前で命が失われたかと思えば、突然にパワードスーツを一瞬で着込み、空中にて獣の攻撃を避けながら、大立ち回りを演じている。
ピンチの時に、変身する。
それはどこかのヒーローSF映画のようだった。
そして彼女の言う通り。あのスポーツカーの様なメタリックレッドに一部金色が施された派手派手なデザインや、遊びのあるような機能は、ギリシャ異聞帯のようなオーバーテクノロジーとはまた趣が違う。エンターテイメント的な要素を持ち合わせている。興奮を拭う事はできなかった。
空中を飛べる利点があるからか、相性は良いようで、獣とスーツの闘いはスーツの方が優勢に見える。
そのパワードスーツは、金属とは思えぬ挙動で変幻自在。
液体のように金属がうねり、一瞬で腕や足の形を変え、攻撃や防御。回避に活かしていく。
SF映画知識や、ギリシャ異聞帯の経験から、アレがナノマシンと言われる、超小型機械によるものではないかと予測する。
腕の形をハンマーに変え、各部から出るジェット噴射によってパワーを増した一撃が、獣の眉間を殴りつける。
金属と何か固いものがぶつかる凄まじい轟音が響く。
獣の頭部が押しつぶされ、アゴが地面にめり込む。凄まじい一撃だ。
物理的な効果で言えばかなりの有効打に見える。
だが、あの獣はただの獣ではなく厄災という呪いによって作られた存在。
獣はダメージが無いかのようなふるまいを見せ、今一度大きく咆哮を上げた。
いい加減に傍観者でいるわけにはいかない。自分達もどう動くべきか思考する。
今の最優先事項は、汎人類史に訪れる。予測される崩落の原因であるモルガンの殺害。
彼女は妖精國の範囲を広げ、汎人類史を乗っ取る気でいる。
正直な所、汎人類史を思えば厄災を放っておいた方が、都合は良いとも言えるかもしれない。
だが、今の自分達は、いずれモルガンを殺害し、結果的にはモルガンによって維持された妖精國を自滅させてしまう事になっているとはいえ、予言の救世主。
例え明日滅びゆくとしても、何もしないのは嫌だった。
「ダ・ヴィンチちゃん、アルトリア、村正」
闘いを注視する3人に声をかける。
「あの人を援護しよう」
村正は刀を構え、ダ・ヴィンチは笑顔で応える。
アルトリアはまだ浮かない顔だが、杖を強く握る動作をする。
「了解!」
ダ・ヴィンチの応答後、藤丸立香は魔力を起動する。
カルデアのマスターである自分がもつ力。英霊の影を召喚し、戦力とする。
目標は、厄災の獣。3体のサーヴァントの影と同時に村正が駆け出していく。
第一刃は村正だ。スーツの彼に「援護をする」意思表示を示した上で、敵ではない事を示し、厄災の獣に切りかかろうとした瞬間。
空中にいたパワードスーツの男に蹴り飛ばされた。
「なんでさ―――!!」
村正であれば絶対に言いそうにない言葉だったが、馴染んでいたのは気のせいだろうか。
戸惑いを隠せない。そのまま続けてパワードスーツの手の平から発射される光線により影がひるみ、その後、獣に踏みつぶされた。
ひとまず村正は無事なようだが。
眼を丸くしていると、パワードスーツから声が響いた。
『いきなり切りかかるな! 盆暗半裸侍!!』
スピーカーだろうか、反響しながら響く言葉に、狼狽する。
「意味がわからない!!、彼、どうするつもりなんだ!!?」
藤丸の気持ちを代弁するかのように、ダ・ヴィンチが叫ぶ。
その疑問に答えたのは未だ表情が優れないアルトリアだった。
「……バゲ子を助けようとしてるんだ」
その答えに驚愕する。相対するだけでも震え上がるような厄災と化した彼女をどうにかして救おうとしているのだ。
「そんな、確かに元は彼女だったんだろうけど、見た目だけじゃない、魔力の質から、観測できる生体情報も全てが別物になっているんだ。そもそも厄災は見るだけでも妖精に異常を来す存在だ。妖精であるバーゲストが無事なわけない。そんな事可能なの!?」
「ひょっとしたらあの人に何か秘策があるんじゃないかな?」
ハッとするダ・ヴィンチ。彼女は叫ぶ。
「邪魔してすまない!! 君はその獣がどういう存在かわかっているのかい!?」
『この國の妖精騎士ガウェインだよ!! 今はちょっと……食欲が暴走してるけどな!!』
こちらの声は聞こえているようだ。会話が始まった。
「今の彼女は、この國を滅ぼす厄災と呼ばれる現象だ!! このまま放置していると妖精國が大変な事になる!! それはわかってるのかい!?」
『違う!! 現象なんかじゃない!! 間違いなく一人の妖精だ!! 勝手に、災害みたいな言い方するな!!』
「でも――!」
『お前等はコイツをちゃんと解析したのか!!? 分子や原子!!量子レベルまで研究をしたのか!?』
「無茶苦茶だ!! 近づくだけでも危険な存在だ! そんな事できるわけがない!!」
『文句があるならとっとと、どっかに逃げとけ! コスプレ!』
彼自身、戦闘によって気が立っているのもあるのだろうが、酷い言われようだ。ダ・ヴィンチちゃんもその言葉にムッとする。
「失礼な!! 厄災が妖精國を滅ぼす存在であることは妖精國の住民自体がそう判断しているし、事実多大な被害を出している! 君のほうがめちゃくちゃな事を言っている自覚はあるのかい!? コスプレスーツ君!!」
『コスプレとは失礼なクソガキだな!』
「先に言い始めたのは君じゃないか!!」
売り言葉に買い言葉だ。珍しく熱くなっているダ・ヴィンチを嗜める。
「ほ、ほら、秘策を聞くんでしょ? ダ・ヴィンチちゃん」
「あ、そうだった…ごめんね立香君」
一度、整えるように咳を出し、ダ・ヴィンチは改めて、声をかける。
「そこまで言うのなら何か秘策はあるのかい!?」
そうだ。あそこまで言うからには何か彼自身が持つ情報に何かがある筈だ。
『…… どうだ? V2N?……まだ検討中?』
今何か嫌な会話が聞こえたような…
『あ~……作戦はバッチリある!』
「今検討中って聞こえたぞう!? 」
『うるさいな! 作戦はちゃんとあるんだよ! 部分的に!12%くらい!!』
「12%じゃ精々コンセプトじゃないか!!」
「でも11%よりかはマシかも」
「立香君も何を言ってるんだい!?」
つい思った事を口に出してしまった。自分も相当戸惑っているらしい。
「で、結局どうする?少なくとも盆暗半裸侍はアイツにとっては邪魔モンらしいがな」
一度戻った村正が、不満げに呟いた。なんだかいじけているように見えて可愛らしいと少し思ってしまった。
「アルトリアはどう思う?」
この妖精國を故郷とする唯一の存在であるアルトリアに問いかける。
先程から精神的に参ってそうではあるが、預言の子である彼女の意見を通さないわけにはいかなかった。
「それは……出来れば、バゲ子を戻してあげたいとは思うけど……」
アルトリアの答えに迷いが混じる。当然だ。ノリッジの厄災。妖精が見ただけで、精神が狂ってしまうような極大の呪い。
戦う事すら危ないのだ。その厄災に取り込まれているであろうバーゲストを救う。最早会話すらできないであろう存在をどうすれば良いか皆目検討もつかない。
だがアルトリアがそう言うのであれば自分達は協力するだけだ。
逃げるという選択肢は無い。
だが中途半端に手を出せないのも事実。
このまま手をこまねいているべきか、彼にまかせるべきか。迷っている内に、また一つ、戦局に変化が生まれた。
空から、目の前の戦闘程では無いが、かなりの音で風を切る音が聞こえてきた。
上空を飛行機が通った時の爆音。
一瞬で一人の妖精が思い立った。妖精騎士ランスロット。ガウェインと同じ女王直属の騎士にして、ジェット機のように空を飛ぶ妖精。
どこから来るのか、上空を見上げれば、その発生源を眼に捉えた。
それは、青い鎧を纏った、少女のような妖精ではなかった。
今まさに戦闘を繰り広げているパワードスーツと同じ、メタリックレッドの何か。
木の実のように見えるそれは、しかし、そのような生易しいサイズでは決して無かった。
空中に浮遊する機械仕掛けの巨大な木の実。
そこから、何かが射出されるのを確認する。
その何かは噴射剤を巻きながら、一度獣と距離を取っていたパワードスーツの彼へと向かっていき、あわや激突しそうに思われたそれは、形を変えてパワードスーツに装着されていく。
次々と射出された物体が装着し終わったころには、彼の赤いパワードスーツは、二回り以上も大きくなっていた。
飛びかかる厄災の獣を、真正面から殴り、カウンターの要領で吹き飛ばす。今までの回避を重視した戦い方とは全く違う。力と力のぶつかり合い。
『さあ、バーゲスト、第2ラウンドだ』
彼の宣言と共に、戦況はまた一変する。
トオル
絶対にバーゲスト助けたいマン
余裕に見えるのは、戦闘時はそう意識するよう訓練しているだけで。
実際はめちゃんこテンパってるが
V2Nが凄まじいほどの心の助けになってる。
V2N
トオルより偉そう。
妖精國で機械が使えるのも、最後に色々飛んできたのも、全部V2Nがいたから。AIなのか、それとも別の何かか。優秀なトオルの相方
藤丸達
厄災は一度経験があるので、ノリッジよりかは若干余裕。
トオルという珍客がいるので、意識がそっちに向いているのも余裕の理由。アルトリアはバゲ子が厄災になったショックもあるが、別の理由で曇り中。
アイアンマン Maek.86
MARVELシリーズより。
トニー・スタークが開発したパワードスーツ。
設定諸々はMCU基準。Mark85とそこまで変わらず
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない