世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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仮初の再会

ベロニカから射出された余剰パーツによって、万全となったハルクバスターで獣と対峙する。

先程の花畑でのやり取りで、獣の方も若干落ち着いた様子に見える。コチラを警戒する様な動きに、先程の怒り任せの勢いは感じない。

 

とは言え凄まじい殺意が残っている事には変わりない。

 

一度、戦況が落ち着いた事もあって。

 

新たな変化に気付いた。

 

「なあ、あの曇り空って、バーゲストが厄災とやらになったからなのか?」

 

『いや、アレは――バーゲストが来るわ!』

 

「――っ」

 

 

突進してくる獣を再び受け止める。純粋な力勝負では向こうに軍配が上がる。

合気道の要領だ。力を受け流し、投げ飛ばす。再び、距離が開いた。

 

『アレは、何らかの魔術行使です。恐らくは私達かバーゲストを狙ったモノ――』

 

 

「誰がやろうとしてる!?」

 

 

『6時の方向。王都キャメロット。魔力量で言えばここ一体を消しとばす力は持ってるわ。どういう術かは心当たりはあるけれどこの國は幾度もあの厄災に襲われているのだから、アレはその対策でしょうね』

 

トールは、この世界における魔術への造詣も深いV2Nに疑問を抱きつつも、その内容に焦りを見せる。

 

 

「――クソっ! このままじゃまずいって事か!」

 

 

『今の私達にアレを止める事は不可能。バーゲストを殲滅するだけであれば逃げればそれで済むけれど』

 

 

「それなら――っ」

 

 

ユニットからガジェットを選択する。

 

 

『待ちなさい、トール。何をしようとしているの?』

 

 

「説得だよ! キャメロットに行く!術者は分かるんだよな!?」

 

 

『えぇ、術者には心当たりはあるわ。城のどこにいてもこのスーツならば、発見する事は可能でしょうけど――』

 

 

「なら問題無いな」

 

 

『本当にやるつもりなのね』

 

 

「――ああ」

 

 

左腕を獣に向けて電磁パルスを放つ。

 

効果は薄いが、多少の動きを止める事は出来た。

 

そのまま別のガジェットを選択。

 

放たれたそれは、紐のような形になり。獣の口、前脚、後脚をそれぞれ縛り付ける。

 

拘束用の特殊ワイヤーだ。特殊な電磁パルス付きで、アイアンマンの世界の人間はもちろん。巨大な宇宙生物にも有効な代物だ。

 

そのまま横に倒れる獣の背中に近づき、ハルクバスターの腕を変形させる。それは両腕で作ったマジックハンドのような形をしており。リング状の金属を、背後から腹にかけて巻き着くように掴み、そのままスラスターを全力稼働して、バーゲストごと空を飛ぶ。

 

 

「このままキャメロットに飛んで、魔術を止めてもらうよう術者を説得する!」

 

 

一瞬で音の壁を突破し、キャメロットへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「術者は!?」

 

バーゲストを抱えたままキャメロット上空を飛行する。背中から抱えられたバーゲストが暴れているが、手脚も口も拘束されている状態だ。いつかは破られるだろうが、だったとしても、この体制でならば牙も爪もこちらには届かない。

 

一瞬自由に体の形を変えられるのでは、と危惧したが、どうやら問題ない様だ。

 

 

眼下を見れば、凄まじく立派な城が見えた。気になるのはその側にある超巨大な大穴だ。底が全く見えないが、どれ程の深さなのだろうか。

 

 

『発見した。大穴側のあの部屋。大広間の玉座で間違いないわ。やはり術者はこの國の女王』

 

「女王自ら厄災退治って事か。それなら話は早い。説得したら上司に確認します。なんて言われたら嫌だったからな」

 

部屋を見る。あそこに見えるのは巨大な何か。アレが玉座ならば随分と豪華なモノだ。角度的にその部分しか様子は伺えないが、赤外線等を駆使した透視技術により、玉座に誰かが座っている事は明白だ。部屋にはその人物以外いない事も確認できた。

 

そのままハルクバスターである程度の距離まで近づいて行く。

 

「V2N!ここで待っててくれ!!」

 

説得をするのならば生身を晒して誠意を見せるべきだ。

 

アイアンマン及びハルクバスターの背中側を解放し、ハルクバスターから飛び出る。ハルクバスターの操縦をV2Nに任せ、そのままハルクバスターの頭を足場にして、跳躍する。

 

こちらの様子に気付いたのか、玉座に座っていた女王であろう人物が立ち上がったのと、自分が大広間へ飛び込んだのは同時だった。

 

跳躍の勢いを殺しながら前転。ふと顔を上げれば、玉座の斜め前に着地しており、その玉座の人物と眼が合った。

 

 

 

 

 

 

――身体中に電撃が走るような感覚だった。いや、事実少し電流が流れてしまったが。

 

 

 

 

 

 

美しい銀髪の長い髪。

黒い王冠から垂れ下がるベールの奥の顔は恐ろしい程整っており、唇と同じ色をした碧い双眸は吸い込まれるようだった。

 

恐らく彼女が、この國の女王。

 

突然の来訪者に驚いているのか、それとも別の理由か。

 

目を見開いてコチラを見ていた。

 

 

 

暫くお互いに見つめ合う。

 

その場はまるで時が止まっているかのようで、外のハルクバスターによるスラスターの噴射音も耳には入って来なかった。

 

 

「あなた、は――?」

 

 

先に口を開いたのは彼女だった。

 

 

「――あぁ……いや……」

 

戸惑いを隠せない。彼女を見た時の衝撃が治らない。その美しさに見惚れていた? いや、それも1つの理由ではあるが、自分にとってもっと別の大事な――

 

 

 

 

 

 

パチリと右腕のブレスレットから小さい衝撃が走る。

 

 

 

 

 

 

――そうだ。今はそんな場合ではなかった。

 

 

「あーその、突然、ノックもせずに申し訳ございません。女王陛下」

 

片膝を付き、精一杯の敬語で話しかける。

 

「俺はトオル。ソウマトールと言います」

 

「トール……」

 

反芻するように名前を呟く女王。冷酷な女王だというイメージだったが、思ったよりも、感情を出す気質のようだ。呆けているように見えた。

 

 

「改めて突然の無礼申し訳ございません。実は、女王陛下に急いで頼みたい事がありましてここに参りました」

 

首を垂れ、その言葉に自分の気持ちと、誠意を込める。

 

その言葉を女王はどう受け止めたかはわからないが、少なくともすぐに打ち首。みたいな事はないらしい。

 

無表情のまま、応えてくれた。

 

「ソウマ、トール……ですね。良いでしょう。話をする事を許します」

 

「ありがとうございます」

 

つくづくイメージが違う。

一回無礼で殺されかけるぐらいの事は覚悟していたのだが。

 

「お願いがあります! あなたが今アイツにぶつけようとしてる魔術を止めて欲しいんです!!」

 

「アイツ――」

 

首を垂れたまま、外を促す。そこには、V2Nを操作するハルクバスターによって拘束されたバーゲスト。

抱えられたまま拘束を解こうと未だ暴れ回っていた。

 

見れば、女王はさほど驚いた様子は無く。バーゲストを一瞥した後、トオルへと言葉を投げる。

 

「そう、トール、貴方が厄災への対処をしてくれているのですね。ですが、何故?今私が行使しようとしている魔術は、あの厄災を確実に滅するもの――貴方にとっても手間が省けるはずですが」

 

「それが違うんです」

 

「違うとは?」

 

「あの厄災の正体をご存知ですか?」

 

「魔犬バーゲスト。妖精騎士ガウェインの成れの果てでしょう?」

 

知っていたのか――

 

驚いて言葉の出ない自分に構わず女王は続ける。

 

「彼女がいずれ厄災になりうる存在という事は既に把握していました。だからこそ妖精騎士という着名を与え、彼女の精神のみならず、その力で以って抑えるように努めさせたのですが――」

 

女王は、今一度バーゲストへと視線を送る。

 

「いかな着名(ギフト)とは言え、限界はあります。とはいえ、何らかのきっかけがなければ起こりえない事であることも事実。何があったか、貴方は知っているのですね」

 

ここに来て嘘などは許されない。過去に妖精國にいて、そこから異世界へ飛び戻ってきた事。肝心の妖精國での記憶が無い事。紆余曲折あって。バーゲストの家で世話になった事を明かす。そして、アドニスの事、洗脳されていたバーゲストの状態。モース退治の帰りに妖精に襲われ、最後に迂闊な事をしてしまった事によってバーゲストがああなってしまった事も。

 

「全部、俺のせいなんです。俺が気付かなければ妖精達に襲われる事もなかったし、バーゲストがああなる事もなかった。だから、だからアイツを殺さないように俺が責任を以って――」

 

続きを言おうとしたが、その言葉が止まってしまった。

 

いつの間にか膝をついている自分と同じ目線になった女王が目の前にいて、その手をトオルの頬に充てがった。

 

手袋越しの手は、冷酷な女王とは全く思えない程、柔らかくて暖かかった。

 

 

「そう……やはりそうなのですね。貴方は――」

 

「あの……?」

 

戸惑っている内に彼女はその体制のまま、言葉を発する。

 

「良いですか、トール。この件を貴方が気に病むことはありません。バーゲストが厄災となったのも、妖精達の蛮行も。この私の管理が行き届いてなかった所に原因があります。だから、貴方が全てを背負う必要はありません。だからとは言いませんが、貴方の優しさと、異世界の力というものに期待し、魔術の行使を取りやめましょう」

 

想像もしていなかった。その優しさに、少しあてられてしまう。胸の奥がじんわりと暖かくなっていくのを感じる。

 

頬に当てられた手を両手で握り、感謝の言葉を伝える。

 

「ありがとう、ございます」

 

少しだけ、心が軽くなった気がする。もちろん自身の罪から逃れるつもりなど毛頭ないが、それでも少しだけ、楽になったのだ。

 

それを罪とすら思ってしまうほどに、優しい対応だった。

 

少し長く握りすぎてしまったかもしれない。

 

その手を見つめながらどこか頬を染めている気がする女王を見て、その手を放す。

 

「ですが、困難な道のりです。二千年の歴史において、厄災を殲滅以外の方法で撃退した例は存在しない。アレは我がブリテンを滅ぼす破滅の呪い。いざと言う時、貴方が根を上げた時、私は彼女を滅ぼす。それは覚悟しておくように」

 

何事もなかったかのように女王はトオルへと忠告する。それは当然の事だ。

 

だが全く問題は無い。

 

 

 

「ああ、それなら大丈夫」

 

 

 

そう、自分が根を上げる事など決して無い。

 

 

 

「絶対に諦めない」

 

 

 

簡単に諦めるような柔な人間達の元で、戦ってきたわけでは無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

外を見れば、未だバーゲストを拘束中のハルクバスター。

トオルは大穴への落下の恐怖心は一切見せず。その上に跳び乗り、背中から中に入りコアであるアイアンマンを再び纏う。

 

「戦闘場所はマンチェスターとキャメロットを結ぶ平原にしなさい。そちらに妖精達が向かわないよう取り計りましょう」

 

「ああ!ありがとう女王様!!」

 

そちらに向かおうと踵を返すが、一つ思い出した事があった。

大穴の上、空中で、建物の外から彼女に振り返る。モニター越しに彼女と眼が合った。

 

 

「そうだ。女王様に伝えたい事があったんだ」

 

 

そういえば、いつの間にか、敬語の事は忘れていた。

 

 

「なんです?」

 

 

「女王就任おめでとう」

 

 

「――っ 何を、突然……」

 

 

「きっと忘れてる記憶が関係してるんだと思う。 でも君を見て、絶対に言わないといけないって思ってたんだ」

 

 

「そう、ですか……」

 

 

「異世界に行ったのも、そしてそこから帰ってきたのも、記憶はないけど、きっとブリテンの為だと思うんだ。だから君の國は絶対守るし、バーゲストも絶対助ける。約束する」

 

その誓いに、女王モルガンは、一度顔を伏せた後、女王歴が始まって以来、初めての表情を作り出した。細やかな、しかし確かに笑顔とわかる表情だ。

 

「良いでしょう。それが出来たのならば、特別な報酬を約束します」

 

「――ああ、ありがとう。すっごく力が出てきそうだよ」

 

そう返して再び目的地へと振り返る。スラスターを噴射させ、平原へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残された大広間にて、機械の巨人が飛んでいく先を見つめ続けている女王。モルガン。

 

「変わらないのですね。トオル」

 

愛おしげにその名を口に出す。

 

「相変わらず気の多い……泣いてるヒトや妖精がいれば、あなたは放って置けない人だった…」

 

変わらない彼に思いを馳せる。

 

生きていてくれた。そして、記憶を失いながらも、妖精國の為に帰ってきてくれた。

 

しかも、異世界等という、飛び切りの土産物を持ち帰って。

 

異世界での旅がどれ程過酷だったのか。本人は気づいていないが、モルガンから見たその身体や魂はボロボロだった。

 

「どうか、無事でいて――」

 

まずは妖精たちへ平原へと向かわないように取り計らう。上空のアレに気付いている妖精も多いだろう。厄災などに近寄ろうと言う奇特な妖精は存在しない。これは造作もないことだ。

 

だが、彼女のやろうとしてることはそれだけでは終わらない。

 

ブリテンの為、そして何より彼の為、行動を開始する。

 




トオル
大変な時だってのに、美人に見とれるサイテー男。

モルガン
水鏡用の瞑想中に厄災は飛んでくるわ、死んだと思ってた恋人のそっくりさんが飛び込んできたのでビックリ。とはいえ数千年生きてた経験と妖精眼により、黄金の理解力を発揮。
そっくりさんではなく本人である事に歓喜するものの、向こうは記憶を失っているのもあって未だ現実味がない。

バーゲスト
UFOキャッチャーのように抱えられる。色々空気を読んで大人しくしてくれた。

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