『この國の女王。モルガン。美人でしたねトール?』
女王とのやり取りの後、指定された平原に向かう途中、V2Nから野暮な話を振られる。
「何だよ突然」
『いや? 獣と化した女を助けようとしている中、他の女に見惚れ、我を忘れ、あまつさえ電気まで流すはしたない貴様を見てそう思っただけよ』
「……悪かったよ。あの時はありがとうV2N」
事実ではあるのだからぐうの音も出ない。あの時ブレスレットからのV2Nの気付が無ければ、会話が成り立たなかったかもしれない。
『結果的には上手くいったけれど、彼女が話通りの女王だったなら、そもそも会話すら許されなかったでしょうね。本当に運が良かっただけよ』
「ああ、もう、色々迂闊だったのは反省してるよ。でも緊急だったんだからしょうがないだろ。それに結果的には上手くいったんだ。これ以上はやめてくれ。心が砕けそうだ」
目的地の平原へと、到着。それと同時にバーゲストの両手脚の拘束具が千切れていくのを確認する。
そのまま変形させた腕による拘束も解き、自然落下させる。
空中で体を捻り、上手いこと着地するバーゲストと、改めて相対する。
女王からの許可も得た。この闘いに介入する存在はもういないはずだ。
しかし、彼女を救う。そう啖呵を切ったのは良いが、現状、消耗戦しか選択肢がないという事に憤りを感じていた。。
内心で、トニー・スタークならば、スーツの操縦も、交渉も、もっと上手くやれたのではないかと、考える。
――いけない
今までに出会った人間が、あまりにも偉大すぎて、彼らならばどうにかできたのではないかとつい考えてしまう。
他人と比べてしまい、他人を真似て何かをしようとするのが自分の悪い癖だと。散々言われたではないか。
今ここにいるのは、トニー・スタークでもなく、キャプテン・アメリカでも、マイティ・ソーでもない。他の異世界の皆でも無い。彼らは居ない。偉大なヒーローは側にはいないのだ。
今この場にいるのは自分だ。何かを成し遂げる上で最も重要な要素は、そこにいる事。
そこに存在する事そのものにまず第一の意味がある。
誰が言ったかは忘れたし、本当にそんな言葉だったかも定かではないが、自信を奮い立たせる言葉の一つではあった。
獣の口から再び熱光線が発射される。それを、掌から出る光学兵器。強化方リパルサーでもって対抗する。点と点がぶつかり合い。着弾点を中心に小爆発が起こる。光線に光線を当てるという目を見張る神業を、容易くこなして次に備える。
根気と根気のぶつかり合い。呪いと自分。どちらが根を上げるかの勝負。
呪いなどという曖昧なもの相手に。その戦いは圧倒的に不利だった。
残念ながら目論見通り。ダメージを与えることの出来ないこの戦いも少しずつ劣勢となっていく。数度のユニット交換を繰り返し、そろそろ予備も尽きかけてきた。
『今からでも、目標を殲滅に変えても?』
「ダメだって! 頼むよV2N! 俺は諦めることはないんだから!諦めてくれ!!」
『だが、このままではユニットもそこを尽きます。生身で相対できる程、貴方は万全ではない。貴方は私のモノでもあるのよ。無茶をして死ぬ事など私は許さない』
「だったら、成功するように祈っててくれ……!」
そう言い返して向かってくるバーゲストを殴り返す。
拘束具も底をついた。残る武器は強化方リパルサーと肉弾戦のみ。
そして、本能か計算かはわからないが、こちらの攻撃が通用しないことは理解してきているらしく、攻撃をあえて受けてその隙を反撃というパターンも増えてきた。
「クソっ!」
V2Nによる解析はほぼやり尽くし、出来ることはほぼ尽きた。途中呪いそのものへの対処とは別に魔力切れを狙うと言う手段も提案されたが、結局やることは変わらない。呪いに根を上げさせるよりも現実的ではあるが、魔力切れそのものを狙うにはまだまだ戦闘を続けなければならない。
そして、今まで通りの流れでは、その魔力切れにすら対応できない。
諦めるつもりは毛頭無いが、精神論でどうにか成る程、今の現実は甘くは無い。
今後の絶望的な展開が頭の端に掛かっている。
――だから、という事では無いかもしれないが。
今までで1番の危機が訪れた。
数ある攻防の中で、バーゲストの両前足によって、仰向けとなったハルクバスターの両手が押さえつけられてしまったのだ。
今までであれば本能のようにその顎で噛み付いてくるのだが、今回は違っていた。目の前の顎がバクリと開き、その喉奥が露わになる。そこから感じる熱気は覚えがあるモノだった。
――マズイ!
いくらハルクバスターであれ、この距離で喰らうのはマズイ。これがただの科学的に生成された熱光線であれば表面を削る程度だが、測定できる熱量とは別の、不思議な力がその威力を増しているのだ。
この距離で直撃してしまえばタダでは済まない。
運が良ければハルクバスターの溶解。悪ければ、伝導熱で先に中にいる自分が丸焼きになる可能性がある。
選択肢はあるにはある。ハルクバスターを諦めて、コアのアイアンマンである自分だけ脱出する事。
しかし、その選択肢を取れば、魔力切れや呪いの根気切れを狙う戦略がさらに難しくなってくる。
他の戦術を模索するが、この一瞬で思い浮かぶ事はない。
――それしか……無いか
脱出という選択を選ぶのに数瞬かかってしまう。
故に、熱光線が直撃する事は避けられない。
一瞬であれば喰らった所で表面を溶かす程度。ダメージに関しては問題はないが、ハルクバスターを捨てて脱出以外の方法を思い浮かぶ隙は無くなってしまった。
視界が赤い光に染まっていく。
その直撃を覚悟した瞬間――
――
周りに花が咲いたような幻視を見た。
気付けば、見えない何かが、目の前の熱戦を防いでいた。
「トールくん! 早く逃げて!!」
呆けてるうちに、何処からが声が聞こえた。
その声に反応し、どうにか判断を下すことが出来た。
「V2N! 腕を外して、スラスター全開!!」
その指示のまま、両腕が着脱される。抑えられていた両腕が外れる事で拘束が解け、仰向けになったままスラスターで低空飛行。そのまま脱出を果たすことが出来た。
予備ユニットをV2Nに申請しつつ、モニターやセンサーで周りを見渡せば、複数の人間。その中にいる1人の少女が、杖を上に掲げていた。
――何処かで見覚えのある少女。
その見た目は何故かはわからないが先ほど出会った女王を想起させるような――
「大丈夫ですか!?」
先ほどから思考の渦に巻き込まれて過ぎている。声がかかりハッと気付く。
青年が走り込んで来る。
先程、支援すると申し出て来た青年だった。それを自分は断った訳だが。
「その、迷惑かもしれませんが、やっぱり放っておけないんです! 彼女を、ガウェインさんを助けるのを、俺達にも手伝わせてください! 絶対に邪魔はしません!」
思えば、あの時、彼そのものをちゃんと見ていなかった。しっかりと見れば、その目は、その気迫は、本当に真っ直ぐで、少ししか関わってない自分でも信用できると確信が持てる雰囲気だった。
だからこそ巻き込むわけにはいかないと思う。
「ああ、ありがとう。でも危険なんてもんじゃ無い。俺は彼女を殺すなんて事は絶対にしない。だから普通よりもよっぽど危ない。殺すよりもよっぽど難しいんだ」
敵を殺さない。コレは、想像以上に難しい。言うなれば手加減をして勝利しなければならないのだ。
格下相手にすら手こずる可能性のあるこの選択。
再び熱光線が迫ってくる。
先程の少女による障壁は残っていない様子だ。こちらに駆け込んでくる途中だったのだろうが、慌てた彼女が再び障壁を張ろうとしているのを確認する。
リパルサーを当てるにしても、腕は今失っており、予備ユニットもまだ届いていない。
「俺の体に掴まれ――」
抱えることも出来ないため、少年をしがみつかせて回避する事を選択するが若干遅い。彼を守ることは出来るがハルクバスターの一部のパーツを犠牲にする事はやむおえない。
その前に、また別の人影が射線状に現れた。
その人影が振るったのは刀だ。
見た目には普通の刀だったが、その斬撃範囲は刀身よりも遥かに長く。線状の熱光線を縦に切り裂いた。
「――どうだ小僧、凡骨半裸侍でもこれくらいの事は出来るんだぜ?」
悪戯っ子の様な笑みでこちらを見る侍は、先刻蹴り飛ばした男だ。
「アンタ――」
「何、お前さんの無茶を知った上で、藤丸もアルトリアの嬢ちゃんも、覚悟決めてやって来たんだ。少しはその意を汲んでやれ」
「村正の言う通りです。あなたの闘い方は見てました。その難しさもわかってるつもりです。だから、その我慢比べ、俺達も混ぜて下さい」
何というか……今日はしょっちゅう胸がジンジンして来ることが多いというか。
青年とモニター越しに見つめ合っている間。
今一度迫り来る熱光線を、その目標を視界に入れる事もなく、タイミング良く飛来したユニットによって瞬時に換装した左腕のリパルサーで相殺してみせた。
その神業に一同驚き感心した様子を見せるた。
トオルはハルクバスターの前面を開き、青年にその姿を晒す。
「名前は?」
「え?」
「君の名前は?悪いけどさっき聞いた時、聞き逃しちゃってたんだ」
その問いはトオルにとっての受け入れる証だ。
それに気付いた青年は、嬉しそうに名乗ってくれた。
「俺は藤丸立香」
日本人の名前だ。
「この人は千子村正」
同意するように頷く侍。
「そして、この娘はアルトリアです」
丁度駆け込んできた少女はその紹介に続くように頷いて見せた。何処か嬉しそうなような気まずそうなような。ぎこちない雰囲気を纏っている。
トオルは一同を眺め。
「藤丸立香」
「千子村正」
「アルトリア」
それぞれの名前を反芻する。
「駆けつけてくれてありがとう」
口に出したのは感謝の言葉。そう、ただの善意だけで、来てくれるだけでも感謝しかない。
「アイツがああなったのは俺のせいだ。俺がアイツの世話にならなければ、起こらなかった事だ」
申し出は嬉しいと思っている。正直なところ手伝って欲しいとも思ってる。
だがそんなつもりは毛頭無かった。
「だから、君達みたいに善意でやってる訳じゃない。これはただの償いだ」
そう、ただの償い。救いたいという思いは確かにあるが、その根底にあるのは自分が存在している事そのものによって、起きてしまった悲劇への清算。
「そんな俺個人の贖罪に付き合わせるなんて――」
「そんなの関係ない!!」
――出来ないと断ろうとしたのを遮ったのは、エメラルドグリーンの眼が美しい金髪の少女。
何処かで見覚えがあるような。不思議な少女。
「善意だけでやってるわけじゃない! 私がやりたいからやるの! 私だってバゲ子を助けたい! もう、あなたがボロボロになるのなんて見たくない! だから手伝うの! 手伝いたいの!」
比較的大人しいように見えた少女の張り上げる声がその空間にやけに響いた。
「全部自分のせいだとか!1人でやるだとか! 格好付けてないで、素直に受け入れろこのバカトール!!」
その場の誰もが面食らっていた。立香も、村正も、もちろんトオルも何も言うことができない。
そのフリーズからいち早く回復したのは村正だった。
「女がここまで言ってんだ。受け入れてやらにゃあ男が廃るぜ格好つけ」
「――っ」
ここぞとばかりに揶揄ってくる村正。横では同じように回復した藤丸が期待をしているような眼でこちらを見ていた。
少女の心からの一括に、逆らうことなどできはしない。
恥ずかしい話だが、心変わりを見抜かれているようだ。
「あ~それじゃあその……」
何処か気恥ずかしさを感じながら
「よろしくお願いします」
せめて丁寧に救援を依頼した。
その言葉に、一同は笑顔で応え改めて、バーゲストと対峙する。
やることは変わらない、致命傷与えないよう。直接的な傷をなるべく傷つけないよう。
バーゲストの魔力切れ、あるいは呪いそのものの根気切れを狙う長期戦。
新たな共闘仲間は得たものの。やはり余裕とは言い難い。
全員が過酷な道だと覚悟する。
⁑
立香による英霊の影がバーゲストを牽制し、村正の刀が熱光線を切り裂き、アルトリアの障壁がバーゲストの進行を阻み、ハルクバスターがその巨体で持って、投げ飛ばす。
即席のチームではあるが、連携は悪くない。
とは言え、この消耗戦。V2Nによる分析を続けてはいるものの構造解析には至らず、突破口は無く、唯一現状できる消耗戦だが、バーゲストの魔力も呪いも全く底が見えていない。
対してこちらは、魔力も、精神も、体力も、それぞれに限界がある以上、非常に困難な道のりだ。
そんな長期戦を続けていれば、誰かしらが窮地に陥るのは当然と言えた。
バーゲストの口から、相変わらずの熱が発生する。定番の熱光線。馬鹿の一つ覚えではあるが、これ以上とない協力で効率の良い。攻撃方法。
「アルトリアーー!!」
叫んだのは藤丸立香。
その口の先にいるアルトリアは、全くの無防備だった。魔術障壁はつい先ほど数メートル先にいる立香を守る為に展開した直後で、即座に使用することが出来ず。
かといって容易く回避できるほど、身体能力があるわけでもない。
村正はバーゲストの左腕に吹き飛ばされたばかりで体制を立て直すのが精々。
当然ながら守られたばかりの藤丸も本人ではどうしようもなく、頼みの英霊の影もその攻撃を防ぐ程の物には至らない。
「——俺が行く!!」
その場で唯一動けたのはハルクバスターを纏ったトオルのみ。
しかし、リパルサーによる相殺は間に合わず。光線の発射前にバーゲストを攻撃できる距離にはいない。
唯一選択出来たのは、射線上に立ち、自らが盾となる事だけ。
「トール君!!」
アルトリアの叫びに構わず。その身体を晒す。
自分の事情に巻き込んでしまっている以上。その危険を冒すのは当然だ。、しかもこの身は生身ではなく、強力なアーマーに包まれている。
どのみち彼女がいなければ、同じ目に合っていたのだ。彼女の命を失うくらいならば、当然の選択と言える。
アルトリアをかばうように立ち。凄まじい熱量を察知し、身構える。
それは先刻のやり直しだ。先ほどと同じように赤い光が視界を覆う。2度目の光景。今度こそと覚悟する。
――しかし、先ほどと同じように、その光は見えない壁に遮られた。
「なん――だ?」
――アコーロン
トオルの呟きの後、耳に入ってくる呪文らしき声。
その声はトオルにとって、いや、その場にいる全員にとって聞き覚えのあるものだった。
忌々しげに呻くバーゲストの体から赤い何かが放出され、アルトリアとトオルからみて左後方へと向かっていく。
振り返ってみれば。見覚えのある姿。
黒を基調としたドレスに美しき銀の髪、青い相貌は見る者が吸い込まれてしまいそうに成程に美しい。その手には巨大な黒い槍を携えている。
――女王モルガン
キャメロットの玉座にて鎮座しているはずの冬の女王がそこにいた。
「——モルガン」
「噓でしょ……」
「——アコーロン」
トオルが名を呟き。アルトリアが信じられないといった表情で言葉を放つ。その視線を見つめ返しながら、それに応えたのは、再びの呪文。
今一度、バーゲストから赤いモヤがモルガンへと吸い込まれていく。
それは、バーゲストの魔力だ。
放心しているアルトリアを他所にトオルはモルガンへと声をかける。
「手伝ってくれるのか?」
「えぇ」
「女王様が、こんな所に来ていいのか……?」
「あなたが心配する事ではありません」
もはや敬語を使おうとすらしないトオルの問いに短く答える。
その場にいた。トオルとアルトリア以外の誰もが、その姿に驚愕していた。
そのやり取りは、アルトリア達があの大広間で出会った。妖精を圧政で苦しめる冷酷な女王の気配は一切感じられない。
「私の助力は、この妖精國へと舞い戻ってきたあなたへの帰郷祝いと受け取りなさい」
「ハハ、帰郷祝いって……」
たまらず苦笑するトオルに、モルガンはその黒いベールの下から、トオルにしかわからない程に微かではあるが、笑顔を向けた。
「さあ、トオル。歓談している場合ではありません。前を向きなさい。この女王がいるのです。勝利は約束されているとはいえ、動かなければそれは叶いません」
女王の号令が再びの戦闘の始まりを告げる。
藤丸立香:主人公。補正がバリバリ働いてるのでタイミング良く現れる。
村正:反骨ではないけど半裸ではある。
アルトリア:色々あるし何にも解決してないけど今はちょっとだけ元気
モルガン:色々解決してくれると信じているが、それはそれとして心配すぎるので来た。
玉座?でえじょーぶだ。ちゃんと一人座ってるから。
トオル:色々と感動しているが、この陣営が実はむっちゃ殺伐としているのを知らない。どういう流れになろうと、例え崩落を阻止できようと、モルガンがブリテンを放棄しない限り、藤丸立香が汎人類史を諦めない限り、異聞帯と汎人類史の成り立ちが変わらない限り、最終的には殺し合うことになる。それを彼は知らない。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない