世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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申し訳ございません。編集しようとしたところで誤って消してしまいましたので、こちら再投稿したものとなっております。


断章
断章:楽園の妖精との出会い


夥しい数の怪物。夥しい数の死体。

それが、日常的に見る光景。

 

建物同士が歪に入り組み、至る所が老朽化しており、景観も何も考えられておらず

日中であっても日の光もわずかしか入らない為、いつも薄暗い。

 

壁にも床にも天井にも、ありとあらゆる所にこびりついている赤い液体は、書かれた落書きよりも多い。

何より、不快なのは、何処へ行っても、腐臭が漂っている事だ。

 

その発生源は人間や動物の死体である。

 

 

 

 

『無限城』

 

 

 

東京都、()()宿()に存在している、表向きは幾度もの違法建築により無秩序に建てられたビルの集合体。

その建物の性質が故に、ありとあらゆる犯罪の拠点となりえる施設。

 

一般人が入り込めば、つけているネックレスは首ごと奪われ、腕時計は腕ごと持っていかれる。

 

住人全てが悪鬼羅刹の非人間達であり、薬品で顔を焼き、老婆のふりをして獲物に近づき、物を騙しとる年端も行かない子供もいる。

 

そこには通常ではありえないような現象が発生しており、無重力空間が存在している地域もあれば、時空の歪みも発生している地域もあり、迂闊な場所に踏み込めば、誰にも気づかれず消え失せる。

 

 

不死身の化け物が日々人間たちを襲い続け、そしてその襲われる人間同士は、お互いに徒党を組むことは無く、醜く争い、殺し合いを続けている。

 

怪物は名前の通りに驚異的な破壊能力を備えているが、人間達も常軌を逸した能力を有しており。

その力はコンクリートを容易く砕き。中には、音よりも素早く動く人間も存在している。

 

およそ常識という枠組みから外れた、悪鬼の巣窟。

 

 

まさしく地獄の体現のような場所だった。

 

 

 

不死身の怪物が跋扈し人間同士が醜く争い、明日どころではない、今この瞬間を生きる為に、搾取し合う。

 

誰もが、生き残るという当然の目的の為に、方法はどうあれ、行動している。

 

そんな地獄のようなセカイをポツリと歩いている少年がいた。

 

ボサボサの黒髪。傷だらけの体。

 

切長の目は子供の割には鋭いが、その瞳から生気は失われていた。

 

彼の名は(トオル)

 

苗字は無い。そもそも本名かもわからない。

名前の由来は定かではなく、物心ついた時から無限城にいて、いつの間にか透と呼ばれていただけ。

 

両親が死んだのか、親に捨てられたのか、あるいは、()()()()()()()()()

 

この無限城では珍しくはない類の子供。

 

ただ生きるという()()()()()()()の為に行動する人形。

 

終末世界ではありがちな、どこにでもいる不幸な子供。

 

それが彼だった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

その男は、奪い合うしかないこのセカイで、他人の為に動く不思議な人間だった。

 

何か、特別な力があったわけじゃない。

 

だが、彼の行動そのものは、そのセカイでは特別だったのかもしれない。

 

彼は、無力で何の希望も持っていないような子供達を世話していた。

 

数にして9人。集団としてはこれでも多い方だった。

 

彼は複雑な構造の無限城を知り尽くしており、逃げ道も、隠れ住む場所も豊富だった。

 

彼はいつも楽しそうだった。

 

楽しそうに未来を語っていた。

 

「俺、無限城が平和になったら結婚するんだ……」

 

時々、変な事を言い出すのだが、それもまた彼の不思議な魅力を増加させていた。

 

「誰とだよー!!」

 

「そもそも相手もいないのに?」

 

「バ、バカヤロー! いつか美人な姉ちゃん見つけるに決まってんだろうが!!」

 

そんな青年の明るさに絆され、心を失った子供達も、

いつしか笑うようになっていた。

無限城という地獄の中で唯一その集団だけが、明るい雰囲気を纏っていた。

 

「ホレホレ透! お前さんは!?」

 

少年、トールも例に漏れずその青年の世話になる身だった。ただ、新参者故に、他の子供達ほど溶け込んではいない。

わいわいと騒がしい集団の外、少し離れた場所で、廃材に腰掛けながら本を読んでいた。

 

この集団に加入したのも、青年によって半ば無理やり引き連れられたようなものだ。

 

「……思いつかない」

 

「――そうか、それなら考えてみないとな」

 

素っ気ない透の態度にもめげず、酷く優しい表情を浮かべて彼の頭を撫でる青年。

 

トールは頭から感じる彼の体温に不思議な感覚を抱いていた。

 

「でも……そういう風に戦いが終わったら――みたいな事言う人から死んでいくんだって」

 

透はいつしか、無限城に捨てられていた本の知識を披露する。

 

「なんだなんだ?そんな突然……」

 

「……」

 

答えなかった。答える事が出来なかった。何故そんな事を言い出したのか、自分でも理由は分からない。

 

「そうか、ひょっとして気を遣ってくれたのか? そんな話をしてたら死んじまうぞーって?」

 

青年はそんな透を好意的に捉えていた。

そんな所が彼のさらなる魅力の一つである。

 

「まあ、物語の中じゃあ、帰る理由があるんだ!って奴から死んでいくのが定番だしな……」

 

透の頭を軽く叩きながら青年は続ける。

 

「死ぬ覚悟を持った奴が死ぬよりも、死にたくない!って奴が死ぬ方が、盛り上がるし心にも残る。でも、そんな盛り上がりの為に、神様だかなんだかわからない奴の勝手な理屈に殺されるなんてたまったもんじゃないよな」

 

「ほんと、嫌なジンクスだよ」自嘲気味に笑う青年に、透は、不思議そうな表情を向ける。

 

「でも、物語は物語。ここは現実で、透は生きてる! 生きてるからにはもっと未来を向いて生きないとな」

 

青年の快活な態度に

 

「ほら、何がしたい? 美味しいものが食べたいとか――あ、いつか恋人作って、結婚したいとかでも良いいんじゃないか?」

 

俺は結婚派だ! と底抜けに明るい青年に、トールは、目を逸らし地面を見つめる。

 

「……そんなの、わからないよ」

 

感情の無い透の表情に、初めて悲しみの雰囲気が宿った。

 

「美味しいってのもよく分からないし、死ぬ理由が無いからたまたま生きてただけだし」

 

「そんな悲しい事言うなよ。今からでも見つければ良いじゃないか」

 

「別に、今更生きるための希望なんて必要ない。家族もいないし、死ぬ理由がないだけで。そもそも、僕が死んだって悲しむ人なんかいないし――」

 

親もいない。何故ここにいるかもわからない。何故生きているかも分からない。目の前で命が弄ばれていく。

今は明るい子供達も、皆トールのように、生きる意味を見出せないでいた。

 

だが、そんな子供達の凍った心を溶かして来たのが――

 

 

 

「俺が悲しむよ」

 

 

 

この青年である。

 

 

 

「それじゃあ、ダメか?」

 

 

 

 

その青年は、無限城を照らす太陽よりも暖かい。

トールの心を溶かしていくのに、時間は掛からなかった。

 

残酷な世界の中、懸命に少しでも幸せに生きようと抗う者達。

 

それは、殺戮渦巻く無限城の中で奇跡のような存在だった。

 

だが、そんな奇跡も、こんな交流も、全て神のシナリオだという事を、この場にいる誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

彼は死んだ。彼らはしんだ。殺されてしまった。

 

別に不思議なことでもなんでもない。

逃げる道も、隠れる場所も、当然ながら限界はある。

何より敵は怪物だけではなく、同じ人間もそうである。

不死身の怪物たちも無機質に暴れる存在ではない。

 

人間を追い詰め、弄ぶための知恵がある。

 

時には、人間を利用し、こちらを追い詰める手段にも出る。 

発端は保護されていた人間だ。正確に言えば、最初から罠だった。

 

彼は来るものを拒まない。

それが良くなかった。

 

彼は、用意された罠によって怪物に殺された。保護されていた者達ごと殺された。

 

トールが生き残ったのは、偶然にも突き飛ばされて倒れこみ、そのまま積み上げられていく死体の山の一番下にいた事により、見つからなかったに過ぎない。

 

このような事態は、いつ起こってもおかしくは無かった。だから、少なくとも今は、悲しみも何も無かった。

 

今のトールにできるのは、自分が死ぬまで、ただ生きていくだけ。

感動も、後悔もない。このセカイに生きるひとつの生命体として、生きるようにプログラムされた人間として、死ぬまでただ生きていくだけだ。

 

だから今も生き残る為に、死体の山から這いつくばったまま脱出する。

 

脱出した先に、その男の死体があった。

共に集った者達のもある。

 

周りには誰もいない。人間も怪物もいない。

 

 

 

 

 

自然と、動いていた。

 

 

 

 

コンクリートジャングルの中にあって数少ない。土の地面があり日の光が当たる場所。

墓を作るには絶好の場所だった。

 

視界には、墓石代わりのコンクリートブロックがおいてあった。

彼が、死んでいった者達のために作ったものだ。

 

全員の死体を運び終わった。

 

死体を処理し、墓を作り終える。ブロックを置く。

墓に向かって手を合わせる。

見様真似だが、こうだったはずだ。こういう事は覚えている。

手を合わせる事に何か意味はあるのかと、甚だ疑問だに思うが、実行する。

 

手を合わせ、眼を瞑った瞬間、視覚意識が遮断された事もあってか、脳裏に彼や、共にいた者たちの顔が思い浮かんだ。

 

いくつも、いくつも。

 

その時、そう、その時初めて、涙が出た。

彼の事が好きだったことを初めて自覚した。彼を尊敬していたことにようやく気付いた。

風みたいだった彼。こんな地獄の中で楽しそうだった彼。

彼は今を楽しんでいた。一瞬一瞬を楽しく生きていた。

 

炎熱の中の日陰だった。

砂漠の中のオアシスだった。

雲のように、自由だった。

彼は光で、生きる為の道を照らす存在だった。

 

その光はもう存在しない。そんな光に集まっていた者達ももういない。

 

今まで感じた事のなかった孤独という現実に、寂しいと言う感情に、後悔という罪の意識に、涙が止まらなかった。

 

その後、彼の様な生き方をしようと、彼の様な光を照らす存在になろうと奮起するのは、まあ定番な話である。

 

透の瞳に光が灯る。

 

新しい生き方を始める為の第一歩。

 

そんな一歩を踏み出した瞬間に、彼の体から稲妻が迸った。

彼の決意に、呼応するかのように目覚めたその力。

 

透と言う名が誰によるものかは分からない。

 

だが、北欧神話の雷の神、”トール”と同じ読みなのは偶然なのだろうか。

 

透は、そんな突然目覚めた力を、何の疑問も持たずに、不思議と受け入れた。

 

そして、この力ならば、彼のように、力のない人達を救う事ができると、そう考えた。

 

大切な存在の死をきっかけに、生き方を変え、力に目覚める。まさしく希望に満ちた王道の物語。

 

 

だが、その力は、決して人々を救う為の力では無かった。

”神"はそのようなつもりでその力を与えたのでは無い。

 

それが、判明するのは、少年が青年へと成長した後だ。

 

 

 

先に結果から伝えておくと――

 

 

彼は結局、誰一人救うことなく、セカイを滅ぼす装置(雷帝)となって、彼のセカイは終了した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

妖精國ブリテンを巡り、道行くモースを払いながら過ごす日々。

 

いつも通りモースを払い、時折訪れる厄災を祓う。

感謝する者もいなければ、手伝う者もいない。

 

わたしは、『私』のブリテンを築くため、そんな日々を過ごしていました。

 

そんなある日の事です。

 

いつも通りの赤い空の向こう。

 

()()()()()そんな空から、雷が落ちました。

 

響く雷鳴は國中に響いているのではないかと思うくらい大きく、赤い空は雷の青に染まりました。

 

魔術ではありません。厄災でもありません。

 

このブリテンでは起こりえない現象。

 

嫌な予感がしました。

 

ですが、嫌な予感がするからこそ、無視しないわけにはいきません。

 

そう決意して、雷の落下地点であろう場所に向かったのがつい先日の話。

 

雷の落下地点まであと1日くらい。

 

そうやって目的地まで向かっている途中。人影を見つけました。

 

良く見れば人間の、男の人でした。

 

でも少し様子が変です。

 

ゆっくりと歩く彼は、今すぐにでも死んでしまうのではないかと言うぐらいフラフラで、何故かはわかりませんが、怖くて思わず立ち止まってしまいました。

 

だんだんと近づいてくる彼は、私に気づいていないようで。

 

「あの……」

 

声をかけて近づいても、全く反応が無くて。

そのまま私の横を通りすぎる時に肩がぶつかってしまいました。

 

「——っ」

 

ぶつかった時にようやく私を認識したのか、彼は、私に顔を向けました。

 

彼の表情は見た事が無いくらい絶望に染まっていて、光を失ったその眼が、確かに私を捕らえました。

 

ゾッとしました。吸い込まれそうなその眼はまるで世界の終焉を想起させるような暗い瞳で。

 

――そんな彼は、こちらをその眼で認識した後。

 

「あぁ、すいません」

 

そう、口にしました。

 

この妖精國で初めて聞いた謝罪の言葉。

 

その言葉に嘘はありません。

 

そんな珍しい言葉を聞いたので、また動揺してしまって、動けなくなってしまいました。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

こちらを一瞥した後、視線を正面に戻し、まるで呪詛のように謝罪の言葉を繰り返しながら、彼は私に構わず歩き始めました。

その言葉は今度は私に向けられたものではありません。

繰り返される言葉に嘘は無く、心の底からの懺悔の言葉。

 

 

その姿があまりにも痛々しくて――

 

 

放っておく事なんてできませんでした。

 

 

 

「あの!」

 

「……」

 

彼は声をかけても止まりません。

 

フラフラ歩き続けるだけです。

 

「ちょっと!」

 

今度は服の裾を掴みましたが力足りずに、手を放してしまいました。

 

「……もう!」

 

だから今度はもっと強く掴みかかってみたのです。

 

そうしたら、

 

「あ……」

 

彼は、思い切り私に引っ張られたせいで後ろに倒れてしまったのです。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

これが、最初の出会い。

 

自分達の居場所を作るという同じ目的を持った同士との初めての出会いでした。

 

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