この章・バットエンド編には、藤丸立香達に対する。アンチ。ヘイト要素がふんだんに入っております。
モルガンのイデオロギーに賛同している者から見たカルデア。
という解釈が入っているからです。
読まれる際はご注意ください。
忌々しい男だと思っていた。
『君はなぜそうまでしてアルトリアに巡礼の旅をさせたくないんだい?』
『予言だなんていう曖昧なものに従ってやりたくない事を無理やりやらせるなんて気分が悪いだろう。そもそも予言を成就させたからどうなるって言うんだ? モルガンを殺した後、アルトリアが王としてこの國をまとめられると思うか?』
苦労して導いた予言の子。アルトリア。
彼女の巡礼の旅が自分にとっての最大の要である。
『だが、そうしなければこの妖精國に救いは無い。モルガンの圧政がいつまでも続くんだ』
『別にそれでも良いじゃないか。使命だか何だか知らないが、あいつは本音では乗り気じゃない。それを曲げさせてまで圧政に苦しむ妖精を助けようとは思わない』
『モルガンの統治に反対ではないという事かい?』
『あぁ、良いとは言わないが、ひとつのこの國の答えだとも思ってる。妖精達が殺し合い続ける歴史の話は聞いただろう? ”アイツら”は何故かそこを無視して突き進み続けてるけど』
この男はアルトリアを甘い言葉で誘惑し、元より意思の弱かった彼女の使命への決意を誑かす存在だ。
『だが、モルガンは厄災に対処せず、自分以外が滅んでも構わないと豪語している。彼女が巡礼を終え、モルガンを打倒しなければ君も含め、妖精達が滅んでしまう』
だからこそ、理論詰めで彼を説得し、この蛮行を止めなければならない。
『アルトリアがそれを知った上で巡礼に乗り気じゃないんだ。だったらそれが原因で死んだとしても構わない。モルガンが支配してなければ、俺はとっくに妖精に奴隷にされて殺されてただろうし、アルトリアがいなければ同じように殺されてただろうしな』
――そう思っていた。
『つまり君は、アルトリアが使命を放棄して、自分が、世界が滅んでも構わないっていうのかい?』
『まあ、有体に言えばな。どうせモルガンとアルトリアに拾われたようなものだし文句を言う権利は無いね』
これは予想外だった。彼は本気でそう考えている。アルトリアの為ならば自分が、世界が滅んでも構わないと、本当に思っている。
『まあ、もちろん素直に滅ぶ気は無いけど。本当にアルトリアが自分の意思で選ぶんだったら別の方法を探すさ。女王に土下座でも何でもして城に入れてもらおうかな』
これは嘘だ。大人しく滅ぶつもりは毛頭ないだろうが、生き残る事ができると、欠片も思っていない。
彼に対して上辺だけの返事をしながら思考を巡らす。
確信を持った。この男は、本気で世界を敵に回す気概を持つ異常者だ。
その思考回路の根源がどこから来るのかは不明だが成程、ここまで精神が突き抜けているのならば心を壊してやろうと画策した数々の悪夢が効かなかったことも頷ける。
プランは一瞬で思い浮かんだ。この男を『駒』として利用する。
大した効果は無いかもしれないが、計画をより盤石な体制とするための駒だ。
巡礼を続けたアルトリアの最期を知れば、彼は絶対にそれを許さないだろう。
これまでの経験から彼の肉体的な特性は把握した。悪夢を見せる精神攻撃は通用しないが、眠らせるだけの力に対しては一切の抵抗が無い。
ダ・ヴィンチによって、汎人類史と異聞帯関連の情報は秘匿されている。その情報を厳選し、多少の嘘を混ぜる事で彼に伝えておき。その後、彼を眠らせる。
アルトリアが巡礼を終え、汎人類史という正しい歴史の為に自らを差し出し終わったその時に、彼を目覚めさせる。
故郷である妖精國を失い、アルトリアすら汎人類史の為の犠牲となったと知った時、彼はどんな反応を示すだろうか。
カルデアの異聞帯の旅を聞くのならば、滅ぼされた側からの恨みつらみの類は無さそうだった。情けなくも異聞帯の王たちは道を譲る形で彼らの旅を見送った。
なんともみじめな負け犬共。
だからこそ、この男の恨みの慟哭は効果があると、確信していた。
『君の覚悟と考えは受け取った。その上でひとつ話があるんだ』
――汎人類史と異聞帯の真実を聞きたくないかい?
ただ消化されるだけの哀れな物語の端役を多少は彼らの心に刻む手伝いはしてやろう。
⁑
これはとある完成された感動的な物語に泥を塗る一幕。
そのはとある森での出来事だった。
「いやいや――」
羽の生えた妖精と金髪の少女のやり取りに、乱入する一人の青年。
「こんな雰囲気の子にアルトリア・キャスターなんて、合わないよ。どう考えても」
「な、なんでいるの!?」
「いや、そこでお花を摘んでたら声が普通に聞こえてきたから……」
「なんで、こんな時にそんな似合わない事してるの!!?」
「あーそうか、意味が伝わらないのか」
「あ、なんか変な意味だったんだ!?」
それはまさしく嵐の中の星という物語に土足で入り込む最低な行為。
「いや、まあそれは良いんだけど、キミ、記憶が無かったわけじゃなかったんだな」
「う……」
「ま、その話は置いといて。名前なんて所詮他人が決めるもんだし、その名前を人に渡すのもそれはそれで選択の一つだけど」
「……」
「名前をやるんだったらその子に似合う名前を上げた方が親切だよ」
「そ、それならトール君はどんな名前が良いっていうの?」
「妖精達はホーなんたらって言ってたんだから、せめてホーから始まる名前にしてやらないとだな……」
観客の誰もが涙したその物語にその愚か者はどんどんと侵食していく。
「というわけでホーキング!なんてどうだ!滅茶苦茶頭が良い科学者の名前だ!」
「え……」
「今この子ちょっと嫌そうな顔しなかったか!?」
「トール君。こんな可愛らしい雰囲気の子にそんな名前は似合わないよ?」
「だったらマシュかっこアルトリアかっこ閉じもちゃんと考えれば良い」
「かっことじって変なのつけるなー!!」
「ふふっあははっ」
何がおかしかったのか。妖精の少女は突然笑い始めた。
「あ、ご、ごめんなさい。二人のやり取りを見ていたら何故か笑っちゃって」
「まあ、箸が転んでもおかしい年ごろってあるし」
「箸さんが転ぶと笑っちゃうの? 箸さんかわいそうじゃない?」
「いや、今のはそういう意味じゃなくて」
本来であれば名前そのものに意味はなく、名前を渡すという行為そのものに価値があり、そして名前を渡す側が救われるという物語。
「うーんホークアイ……いや、これはいるな」
「ホンコン!」
「語呂は悪くないがなんか違う。ホーレス!」
「それも微妙だよ。ホースカラー!」
感動の物語だったそれは一種の
やがて2人の名前づけホー合戦は、少女の一言によって決着をつける。
「ホープ」
「おっ……」
「あ……」
「ホープなんてどうかな?」
「希望か……良い名前だな」
「ありがとう」
『——っ』
喜劇という余計な一幕を挟みながらも、大事な大事なその物語は、余計な一人を加えつつも。
特に影響は無く予定通りに進んでいく。
しかし、ここに来て、小さい変化が訪れた。
⁑
「あれはモース。もう語る事も、聞く事もできなくなった生命」
目の前には黒い物体。元はホープと名付けた少女であったもの。
呪いの泥に包まれたその姿にもはや面影は欠片もなかった。
それが目の前でこちらに襲い掛かろうとしていた。
「ただそこにあるだけで世界を汚す黒い藻——妖精を殺すブリテンの呪いです」
赤髪長髪の騎士がトリスタンが弓に手をかけ、金髪の少女。アルトリアがその杖を握る。
二人の青年の内の一人。藤丸立香も、モースを倒すべく、心を決めていた。
その3人が構え、臨戦態勢を取った時。残った一人の青年が違う動きを見せた。
その青年は3人の前に立ち。モースへと向き。
突然、服を脱ぎ始めた。
「トールさん!?」
「な、なにやってるの!?」
「あまりのショックに心が壊れてしまったのですか。私は悲しい」
そんな3人の嘆きを意に返さず。下着すらも脱ぎ去り、全裸となった。
鍛え上げられた肉体には、無事な箇所を探すのが難しい程に夥しい傷がある。
その姿に息を呑んだのは誰だろうか。
「生物に寄生されたホープだろ?だったら、どうにかして引きはがすんだ。まかせてくれ。全裸なのはふざけてるわけじゃない。まずは敵意が無い事を示す。これは世界で一番偉大な医者を師に持つ名医に聞いたやり方だ。日本のコミックで読んだ!」
「ち、違うよ!アレは、生物じゃなくて呪いなの!彼女には声も届かないんだよ!?」
「悪いが呪いだのなんだのってのは信じないタチなんだ。あれは、呪いって名付けられたそういう生物って事にしておくさ。それにああいう黒い泥みたいな生物はなじみがある。例え意識が無かったとしても元はホープだ。 だったら根っこの部分のどっかには、本能みたいなもんもあるはずだ……」
「だから無理なんだって! あれはもう元には戻せない!触れるだけで大変な事になる! 魔術や妖精の知識がないあなたでも感じてるでしょう!?」
「その戻せないっていうのは博士号を7つとった科学者が実験でもして、到達した答えってわけでもないんだろ? 悪いが、俺はまだ、アイツを元に戻せないっていう結論を納得できてないから!」
その言葉に、その分析に、嘘が混ざっている事にアルトリアは気づいてしまう。ただの強がりだと気づいてしまう。
「博士号って、分けわからない事を言わないで!! いいからバカなことは止めて――」
「とりあえず、今は見ててくれ。無理だなんだと切り捨てるにはまだ早い」
そう言いながら全裸の男、透は両手を開き、上に掲げた。子供がやるような怪獣のポーズ。
「聞こえるかホープ! 俺だ! トオルだ! 見ろ! 俺は決して、お前を傷つけない!!」
どどん!という効果音でも聞こえそうな迫力に、本気で彼女を救おうというその覚悟に当てられ、3人は身動きが取れない。
彼はそのままどう見繕っても危険な存在に、両手を掲げ、威嚇のポーズにも見えるその姿のままゆっくりと近づいていく。
誠に不思議な事ではあるが、モースが1歩後ずさったように見えた。
それに気づいたのか、透の1歩はより大きなものとなった。全くの躊躇なく。触れるだけでも死んでしまうはずのモースへと近づいていく。
一瞬の戸惑いを見せたように感じたモースはしかし、その身体の一部を切り離し、近づいてくる透にその一部を投げつける。
触れた妖精はもちろん。人間でさえただでは済まないその呪いの塊を、透は真正面から手を上に掲げたまま受け止めた。
「嘘……」
「なんだ、触っても問題ないじゃないか……」
その呪いの塊を真正面から喰らったはずの透に、傷などはもちろんの事、苦痛に感じる様子も無かった。
信じられないという表情のアルトリアを含め、一同はその状況を見守るしかできない。
その間に続くモースの攻撃も真正面から受け止める。その身体を鋭利な刃に変え、鞭のように振るった攻撃もその身のまま受け止める。
袈裟切りに裂かれ、血が飛び散るが、意に返さない。
「トール君!!」
アルトリアの叫びを他所に、とうとう透はモースへと近づき、そのまま飛びつき、押し倒した。
「捕まえたぞホープ!!」
全裸のまま伸し掛かり、無理やり押さえつける。
「ホラ、大人しくしろ!」
じたばたと暴れるモースを押さえつけようと力を込める。
透はモースの表面をわしづかみ。その外皮を、まるで菓子の袋を破るかのように、その両腕に力を込める。
「いい加減に、離れろ!この寄生生物!!」
そう叫んだ瞬間
――バチリと
一瞬だけ電流がモースの体を巡るが、それに気づいた者はいなかった。
その一瞬をきっかけに、ずるりと、黒いモヤがまるで皮のようにめくれ上がる。
中から現れたのは先ほどまで共にいた羽の生えた妖精の少女。その姿を確認し、透はその外皮を引きはがす。
その様はまるで、蝶の羽化のようだった。
ずるりと、皮は向け、それと同時にモースであった黒いモヤは消え去っていく。
「おい、ホープ? 大丈夫か!? 生きてるか!?」
眼を瞑るホープを地面に寝かせ、ペチペチと頬を叩き声をかける。体は暖かい、まだ生きている鼓動を感じる。
その様子に、固まっていた3人は即座に透の元へ駆け出した。
「あ、わたし……」
「良かった!! 気づいた……!!」
感極まったアルトリアは、そのままホープを抱きしめた。
お互いに涙を流しながら言葉を交わす二人に気を使い、透はそっと、数歩下がってその様子を見ていた立香達の隣に並ぶ。
「いやぁ、良かった良かった」
「うん、本当に良かった……ただトオルさん」
「ん? どうした?」
腰に手をあて、仁王立ちし、満足そうな顔でうなずく透に同意しつつ、立香は気まずそうに眼を逸らす。
「とりあえず、服を着ましょう」
こうして、妖精國の最初の悲劇はホープが生き残る事によって台無しになった。
嵐の中の星という物語は泥に被って汚されてしまった。
しかし、ここまで見れば、理想のスタート。
ホープがいたところで、そしてホープを救う為にその大半の力を使い果たしてしまった透がいたところで、その後の物語は大体の大筋は変わらない。
しかし間違いなく。透と、何よりもホープによってアルトリアの春の時間は彩られていく。
藤丸立香にとっても、相馬透にとっても、妖精國を救おうとするこの巡礼の旅は、掛け替えのない楽しい旅となっていく。
そういう意味では、物語の美しさをかろうじて保てる事はできただろう。
だが、肝心なところに綻びがあった。
この妖精國を救うという名目で始まったこの旅において、藤丸立香とトールは絶対に相容れない。
この妖精國を間違った歴史。そして元々自滅する世界として、認識している立香達。
間違った世界だという常識を、勝手な理屈だと憤慨するトール。
立香達にとっての救済とは、死よりも辛い圧政を敷き、終わってしまったどうしようもないこの國を無理やり維持し、汎人類史までも飲み込もうとするモルガンを殺し、せめて穏やかな滅びを迎えさせること。
トールの思う救済とは、巡礼の旅が救いになると信じた上での故郷でもあるこの妖精國の維持である。
大半の住民はそうだと思っているが。
その存在への抵抗を諦め、穏やかだろうとなんだろうと結局は滅びを迎える立香達の言う救済は到底認められるべきではない。
多元宇宙の知識は記憶には無くとも、その考えはもはや信念として心に宿っている。
この救済の認識のズレは、トールを汎人類史の人間だと誤解したダ・ヴィンチと様々な企みを持つオベロンの計らいにより、判明する事は未だに無い。
ダ・ヴィンチは、妖精國を故郷だと勘違いしているトールに気を使い。話がこじれ、この旅路にトラブルが起きる事を避ける為。全ての事が終わった後に、説明すれば良いと考えていた。
真実を知った時に彼が怒り狂おうとも、前述した透の事情を知らない彼女は、妖精國が滅ぶべき世界であるという事を説明した上で説得できると考えていたからだ。
大してオベロンは、計画の要であるアルトリアを『使命に従う必要は無い』と幾度も甘い言葉で誘い込み、巡礼の旅を邪魔しようとした彼を警戒し、どうにか修正しようと対話を続け。
その思考の性質に気づき、ここぞというタイミングで、藤丸立香への精神的攻撃に利用しようと企んでいた。
そして、結論から言えばオベロンの企みはこれ以上無く成功し、ある意味では予想以上の結果になったのだ。
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