世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

23 / 90
希望

 

立香達に纏っていたプラズマが、消失する。

 

血液が沸騰直前になるまでの熱量を浴びた。マシュと立香はそのまま気絶しているが、命に別状は無さそうだ。

 

「アル……トリア」

 

雷帝は、倒れ込む2人を気にせずに、こちらに駆け込んでくるアルトリアを見ながら、その名を呟く。

 

既に、滅びの意思は弱まり、それを示すかのように嘶いていた稲妻も、範囲を狭めていた。

 

それを見たアルトリアの顔に安堵の表情が浮かぶ。一難去った。とでも言うべきか。

 

復讐すら果たせず、故郷を失った彼が、今後どうするのかと言う絶望は残るが、それでも人理を、全てを失わずに済んだ。

奈落の虫すら意に介せず、滅びを与える神の如き災害を止める事が出来たのだ。

 

だからこそ、今更に気付いてしまった。

 

 

『おいおい、そこで止まるってのは無しだろう。トール?』

 

 

雷帝という規格外の存在に、肝心な存在を失念していた事に。

 

雷帝の背後から一突き。

 

鋭利な爪を持った巨大な虫の足の様なものが、雷帝の体を貫通し、その歪な形は、さらにその奥にいる、折り重なって気絶しているマシュと藤丸の心臓を貫く事を可能とした。

 

 

「オベロン――!!」

 

 

アルトリアが叫ぶが既に遅い。

 

用は済んだとばかりに、虫の足は刃を引き抜き、夥しい量の血が、噴出する。

 

どう見ても致命傷。

瞬く間に広がる血溜まりが、その絶望を示している。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。奈落の虫に穴が空いたからって、俺が消えたとでも思ってたかい?」

 

 

奈落の虫に風穴が空くという異常事態。

本体にダメージがあった事により端末である彼も現界できなくなったと何処かで勝手に思っていた。

 

そのようなはずがないにもかかわらず。そう言った疑問は、雷帝の存在に全て持っていかれていた

 

「このまま高みの見物を決め込んで、彼の復讐を見守っていようと思ってたんだけど、まさか止まるとは思わなかったよ」

 

心底馬鹿にした様に、アルトリアを見ながら再び、オベロンは舞台に上がる。

 

「中にいる連中も、本当に殺しておいた。これで、完璧だ」

 

 

彼は全てを一瞥した後、雷帝に体を向ける。

 

 

雷帝は腹に風穴が空いたまま。しかし全く意に介せずに、佇んでいた。

 

稲妻が迸り、瞬く間に、腹の穴が修復されていく。

 

まるで、体そのものが雷に変質している様だった。

 

オベロンにとっても予想通り。あの程度で死ぬはずがないとも思っていた。

 

彼はその様子を確認した後。

 

姿勢を正し、片膝を着き、

 

「本当に、ありがとう」

 

驚く程丁寧に、雷帝。透に対して頭を下げた。

 

その様は、幕引き後に観客に礼を言う舞台役者のようだった。

 

「まさか、御同輩だとは思わなかったよ。トール」

 

再び雷帝の体に稲妻が灯る。

 

「ただの端役でしか無かった君は、まさしく創造主たちの思惑を超えてくれた。まさか、こんな力があったとはね」

 

雷帝はオベロンにその手を向ける

 

「雷帝という名は兎も角、無限城っていうのは聞いた事も無いが、君はどこから来た存在なのかな? 何にせよ素敵なサプライズだ。僕にとってはね」

 

何かを溜める様に、その腕に稲妻が迸る。

 

「まあ、予想外ではあったけれど、結果的に、そんな君も利用したのはこの俺さ、モルガンも、君も、アルトリアも、ブリテンを守れなかった愚かな負け犬。カルデアも、君と言う存在により、ブリテンを混乱に陥れた報いを受けた。勝ち馬に乗ったのはこの俺だけ」

 

これから放たれる死の奔流に、オベロンは意に介せずに言葉を続ける。

 

「改めて礼を言おう、『雷帝』。君のおかげで、汎人類史は滅ぶ。俺の目的は、果たされた――」

 

感謝の言葉を発する彼の表情はどこか晴れやかで。しかし気だるげだった。

 

 

ありえない賛辞の声。

それが本当に言葉通りの意味なのか、それとも勝利者故の上から目線の物言いなのか。

 

オベロンは、全てをやり切った達成感に溢れている様だった。

 

 

「――消えろ」

 

「ああ、君にはその権利があるとも」

 

「消えろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

オベロンは、何の戸惑いもなく、勝利の余韻に浸りながら、その滅びを受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでにないほどの稲妻が周囲を破壊する。無限に落ちる異界空間であるはずの奈落の虫は、その内部から稲妻によって破壊され、同時に、足元のストームボーダーも原子レベルまで分解され、砂状に変質して行く。

 

奈落の虫は消え去り、黄昏の空が、広がった。

 

美しい妖精國の空。

 

しかしその美しさに反比例して、その大地は、醜く剥がれ落ちていた。

 

 

 

アルトリアに、最早出来る事は存在しない。

縁も消え去り、消滅を待つのみのこの身体。

 

ストームボーダーの消滅と共にブリテンの大地へと自然落下して行く。

 

守護者としての矜持も守れず、彼を止めたいと言う願いを持った少女の意思も通す事が出来ず。

 

失意のまま、落下する。

 

そこに、追い討ちをかける様に、アルトリアよりも遥か上に位置しながら、同じように落下する雷帝が、彼女へと視線を向けていた。

 

 

 

奈落の虫を消滅させ、破壊の意思がますます増加した雷帝は、残りの生命体であるアルトリアを滅ぼそうと行動を開始する。アルトリアに手を向け、プラズマを生み出し、その莫大な熱量で持って消し去ろうと、力を溜める。

 

このままアルトリアが消滅する運命だと言う事も雷帝にとっては知った事ではない。

 

間違いなく滅ぼそうと、その手をアルトリアに向け、プラズマを放つ。

 

アルトリアは、その光景を他人事のように認識しながら、その滅びを受け入れるだけだった。

 

 

 

 

 

 

そこに、高速で飛来する存在が、雷帝の横を追い抜いていった。

 

 

 

 

 

 

それは、アルトリアと雷帝の射線上に飛来した。放たれるプラズマに飲み込まれてしまう位置。

 

その光景に、アルトリアは目を見開く。

 

水色の髪に、美しい蝶のような羽。出会った時はボロボロであった羽。

彼女と彼にとっての共通の友達。

 

夢の中でいつも輝いていた、希望の星。

 

「ホープ……っ!?」

 

1翅の妖精だった。

 

放たれたプラズマを受け止める。万物全てを一瞬で蒸発させるプラズマは、ホープによって推しとどめられた。

 

守護者ですら止められない、その雷を、ただの妖精が受け止める。それは一体どのような奇跡なのか。

 

見れば、雷帝の発するものと同じような稲妻が、ホープを包み込んでいた。

 

連続して放たれるプラズマを防ぎ続けながら、ホープはアルトリアを確保し、その場を離脱する。

 

その速さは雷光の如く。

 

元より備わった妖精の羽による飛翔と、電子を操り、磁場を操ることによって加速力を増し、雷帝の射程距離から一気に離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどの地点より、遠く離れた地。コーンウォールへ、着地する。

 

 

 

「アルトリア。無事でよかった」

 

「ホープ、どうして?」

 

何故、彼女が無事なのか。

 

ストームボーダーに乗り込んでいたはずの彼女。万が一オベロンによる殺害から免れたとしても、ストームボーダーごと消失してしまったのではとも思ったが。

 

彼女を包んでいるプラズマが、その答えなのだろうというのは想像に固く無かった。

 

アルトリアを横座りさせながら、ホープは笑顔を向ける。少女の記憶と変わらない、朗らかな笑顔。

ホープは、懐から、掌に乗るサイズの装飾品を取り出した。

 

「ごめんね、アルトリア、本当はもっと早く渡すはずだったのに」

 

髪飾りと、ブレスレット。

 

旅の途中に渡せなかった。透とホープからのプレゼント。

 

「コレは――」

 

「あなたへのプレゼント。ありがとうって感謝の気持ち」

 

そう言って、戸惑うアルトリアの手に、ブレスレットを取り付ける。

 

「これは、トール君から」

 

「そんな、私は、受け取れません。だって私は――」

 

「うん、わかってる、貴方は、私の知ってるアルトリアじゃない」

 

言いながらブレスレットを取り付けた左手を両手で握る。

 

「でもやっぱり貴方はアルトリア。優しくて、臆病で、でも勇気があって。どこにでもいる普通の女の子」

 

「ホープ……」

 

「はい、この髪飾は私から。貴方に似合うか、確かめさせてね」

 

言いながら、横座りするアルトリアの頭に、蝶をあしらった髪飾を取り付けた。

 

「うん、すっごく素敵! やっぱり似合うと思ってたんだぁ」

 

自分で自分を褒めちゃった…と恥ずかしそうに笑うホープにアルトリアは放心し、何も答えることが出来なかった。

 

「アルトリア」

 

ホープは彼女を抱きしめる。

 

「ねぇ、アルトリア。やっぱりブリテンは嫌い?」

 

それは半ば確信を突くような問いで。

 

「やっぱり滅びるべきだって思う?」

 

「それは……」

 

答えられなかった。

 

既に、自分はオベロンへと宣言していた。ブリテンは見苦しいと、オベロンの終わらせようとする行為は正しいものだと、そう宣言してしまっていた。

 

それを、ホープに、言う事は憚られた。

 

「うん、私もね。この世界は間違ってたんだって、そう思う」

 

だが、わかっていたかのように、そう、ホープは答えた。

 

抱きしめた体を放し、ホープはアルトリアの眼をまっすぐに見つめる。

 

「でもね――」

 

続きを言おうとして、二人は同時に異変に気付く。

 

 

 

雷鳴が轟き、空に雷帝の姿を映し出す。

早くも追ってきていた。

 

 

 

地面に舞い降りた雷帝に、アルトリアは立ち上がり、せめてホープを守ろうと抵抗しようとするが、その本人に止められる。

 

「大丈夫」

 

言いながら、再び、雷帝のように、雷を、ホープが身に纏う。

 

 

 

 

 

 

勝負は、一瞬だった。

 

 

 

 

 

雷帝のプラズマを容易く搔い潜り、当たったとしてもそれを弾き飛ばす。

同じプラズマを纏う彼女に、その攻撃は効果は無く、雷速で、雷帝に接近し、その頭に両手を置いた。

 

プラズマは弾け、眼も開けていられない程の光が、辺りを覆った。

 

 

 

 

やがて光が止んでみれば。

 

 

 

纏っていた雷は消え。髪は戻り、膝を落とし、頭をホープに抱きしめられている、トールがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うあ、うあぁぁぁっ……」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

「おれ、おれは……っ」

 

泣きわめく透を、ホープは胸に抱きしめる。

 

「おれは……なんてことを……っ」

 

その様子を見て、アルトリアも、彼に近寄っていく。

 

「俺の……せいで……」

 

「うん……うん」

 

「だめだったんだ……! ゆるせなかったんだ……っ みんなが!ブリテンは滅んで当然だなんて言ってて!しょうがないんだって言ってて!!」

 

「そうだね……」

 

「ぜんぶ、黒幕のせいだって……! 最初から、ブリテンが滅ぶ事が前提だったのに……!あいつらだって、関わってたのに、ブリテンが滅んだのも、他人事で……!」

 

頭を撫でながら、ホープは落ち着かせるように、透の嘆きに応える。

 

「でも、あいつらは、本当にいいやつらで……! しょうがないことだって!!」

 

会話の内容が支離滅裂。みっともなく喚く透を、ホープは再度、落ち着かせるように背中をさする。

 

「落ち着いて……」

 

「ああ。あぁっ……!」

 

尚も泣きじゃくる透を抱きしめる姿は、姉弟のようでもあり、子を慰める親のようでもあった。

 

近づいてきたアルトリアに、ホープは再度会話を投げかける。

 

「私はね、アルトリア。やっぱりブリテンが好き」

 

その言葉に、透の啜り泣きも、一瞬止まる。

 

「ひどい目に遭ってばかりだったけど、この黄昏の空が好き。ソールズベリーの情景も好き。トール君や、アルトリアや、皆のお陰で、一部の妖精にも良いヒトはいるって気づくことができた」

 

笑顔で話すホープに、アルトリアも、透も何も言うことは出来ない。

 

透はブリテンを守れなかったから、アルトリアはブリテンを滅ぼす為に巡礼の旅をし続けたような物だから。

 

「だからね、トール君。今度はしっかり、ブリテンを救ってあげて」

 

「え……?」

 

不思議な言葉だった。まるで、ブリテンはまだ滅んでいないかのような――

 

 

「私はね、本当はあの時、ここでモースになって、オベロンに殺される運命だった」

 

「何を言って」

 

「その運命を、貴方が変えてくれた。あなたのこの、雷の力で」

 

戸惑いながらも、アルトリアは、納得する。自身の知るモースという存在の知識において、あり得ない解呪の現象だった。あれは、モースというルールを丸ごと消滅させた結果だったのだ。

 

「私の命はね、トール君が分けてくれたんだ。この雷を通じて」

 

更なる驚愕の事実に、自覚のない透は元より、アルトリアも息を呑む。

 

「それと一緒に知ったの。あなたの事。今は忘れてるあなたの記憶」

 

そう言いながら一度、透から離れ、その両手に雷を纏わせる。

 

「だから、あなたに、この命を、返します。そして、記憶を取り戻して」

 

そんな、とんでもない事を言い出した。

 

「な――っ」

 

「だめ――」

 

そう、静止の言葉を掛けるより先に、透もアルトリアも、ホープから発せられた雷によって拘束された。

 

「ごめんね、絶対止められると思ったから……」

 

申し訳なさそうに謝るホープに、声も出せない。何故だと、目で訴える事しかできない。

 

 

「アルトリア」

 

ホープはアルトリアに笑顔を向ける

 

「妖精達に罪を償わせるっていうあなたの『楽園の妖精』の使命には反するかもしれない」

 

言いながら、アルトリアの頭を撫で、髪飾に触れた。

 

「でもね、やっぱりその為に、あなたが死んじゃうのは嫌なんだ――」

 

アルトリアは、やめてと、心の中で叫ぶ。

 

「だから、できれば、その運命に抗って。もっと良い未来を見つけられたら、嬉しいな」

 

その後、今度は透の方へ向き直った。

 

「トール君」

 

なんだ、と、やめろと透は心の中で繰り返す。

 

「アルトリアと、あの優しい女王様の事を助けてあげて」

 

そんな、不思議な事を言い出した。

 

「あなたの大好きな二人を頑張って幸せにしてあげてね」

 

そう言い残して透を抱きしめ、その雷を流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん。ごめん……!」

 

再び、泣きながら膝を付く透。

先ほどと違うのは、その涙を拭うホープがいなくなった事。

アルトリアは、一瞬迷った後、ホープと同じように彼を抱きしめた。

彼女達ならばきっとそうすると思ったから。

 

彼の悲しみを受け止めた瞬間、自分の目にも涙が溢れてきたのがわかった。

 

今の二人は全てを失い、悲しみを共有する。負け犬の二人だった。

 

 

 

 

 

 

「俺は、元々、この世界の人間じゃない」

 

涙は枯れつくし、落ち着いたところで、取り戻した記憶と共に、身の上話が始まった。

 

二人揃って。倒れた木の上に並んで座る。

 

その語りだしの後、世界の事、セカイの事、上位存在の事、反逆を企て、その過程でこの妖精國に訪れた事を語る。

 

「その時に出会ったのがトネリコっていう女の子だった」

 

その名前にアルトリアは内心、驚愕しながら話を聞き続ける。

 

「あの子はたった一人で厄災に立ち向かってた。救った当人たちに裏切られながら、石を投げられながら、それでも自分のやりたい事の為に、あの子は頑張ってた」

 

そう語る透は眩しいものを見るような表情だった。

 

彼は、妖精歴で死にかけたとき、この妖精國へ来た時と同じように、異世界への扉を開き、その扉を潜ったらしい。

 

そこからは怒涛の展開だった。彼の転移した先は、今の汎人類史に似ているものの、全く違う世界だった。

宇宙から来た神達。

地球産の超人や汎人類史ではおよそ信じられないようなオーバーテクノロジー。並行世界を容易く行き来する魔術師達。

太陽系どころか銀河を数個超えても足りない程の広範囲にわたり、星同士での交流が進んでいるらしい。

並行世界と簡潔に語るにはあまりにも違いすぎる世界。

 

透は、一度息を付き、話の一つの区切りだとばかりに、深呼吸した。

 

 

「その世界で、まあ正確には、そこからまた別の世界だが、手に入れたのが。コイツだ」

 

そう言って、どこからともなく彼は、緑色の石を取り出した。

 

「インフィニティストーン。この世の理の全てを司る無限のエネルギーを持つ石」

 

摘まむように持ち上げられたそれは、直接指には触れておらず、空中に浮遊しているようだった。

 

「これはそのうちの一つタイム・ストーン。時間を自由に操ることができる」

 

 

 

――俺はコイツを使って、この結末をやり直す。

 

 

 

 

 

 

 

お互いに話を終え、二人は、向かい合うい、これから始まる闘いに、思いを馳せる。

 

 

 

「頼むぞV2N」

 

『了解した』

 

合図とともに、緑色の魔法陣が現れる。

 

それは、透の左腕と、アルトリアの左腕に巻き付いた。

 

『本来であれば、タイムストーンによって世界の理を乱せば、別の時間軸が生まれるが、この世界そのものの性質なのだろうな。この時間操作でマルチバースが生まれることは無い』

 

「それなら、安心できるな。異聞帯と汎人類史でもややこしいってのに、マルチバース同士の戦争が始まったらどうしようもない」

 

『時間が戻った段階での記憶は保持できない。そこはいい? 特に女。お前のほうだ』

 

「アルトリア、です。少し口が悪くない? トール君のブレスレット」

 

「人見知りなんだよ。でも凄く頼りになる相方だ。メカもいじれるし、魔術も操れる。超天才だ」

 

誇らしげに語る透にアルトリアは納得がいかにような顔をしていた。

 

『女、お前の体は特殊だ。お前の意識が残るかどうかも定かではない。下手をするとこのまま消える可能性もある』

 

その警告を聞き、透は心配そうな表情になる。

 

「構いません。もとよりこのまま消え去るはずの身ですから」

 

彼女の決意は固い。

 

『ではやるぞ。言い残す事はあるか?』

 

言われ、トールは咳払いをひとつ。

 

 

「俺の目的は、モルガンと、妖精國と、キミを救う事」

 

言いながらアルトリアと眼を合わせる。

 

「正直、人理も汎人類史も、楽園も全部滅ぼしてやりたい。俺を騙していたカルデアだって正直大っ嫌いだ……」

 

その眼には戸惑いは無かった。

 

「でも、その前は本当に良い奴らだと思ってたから。思っちゃったから……」

 

「トール君」

 

「見捨てる事はしない……」

 

 

その宣言はアルトリアにというよりも、自分自身への誓いのようだった。

 

「リセットのタイミングは、俺が死ぬことと、まあ色々だな」

 

彼は最も困難な道を選ぼうとしていた。

 

「今の所はノープランだ。ぶっつけ本番。作戦もない。記憶も無いから、立香達や君とも何度も戦うことになるかもしれない」

 

一呼吸置いて、宣言する

 

「それでも俺は。何度だってやり直す。」

 

ホープを思う。彼女のおかげで、世界事破壊しつくさずにすんだのだ。取り返しがつかなくなる前に。この方法を選択することが出来た。

 

「それが俺の贖罪で、ホープのくれた希望に対する決意だ」

 

そう言って、言葉を閉めた。

 

『長すぎよ。スピーチのコツをスティーブに聞いておけばよかったわね』

 

「……やる気を削ぐこと言わないでくれる?」

 

そのやり取りにくすりと笑い。アルトリアも決意を口にする。

 

「私は、”あの子”にとって、良き結末になることを祈ります。今はもう、それしか考え付きません」

 

その答えに透も笑う。

 

そのやり取りを見届けて

 

『では行くわよ』

 

その言葉を合図に、この異聞世界は、別の世界からきた絶大なるパワーによって。

世界そのものが巻き戻るという、あり得ぬ奇跡を体感する事となった。

 

 

ホープによってもたらされた希望が、どういった結末を迎えるのか。今は誰もまだ知ることは無い。

 

 




これで、本当にバットエンド編は終了です。

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。


オリ主が最強設定を引っ提げて原作主人公含めバットエンドの原因となるという展開に皆さん、ご気分を損なわれた方もいらっしゃるかなぁと思います。

そこだけがだとは思っておりませんが、そこが大きいかなぁと。

このバットエンド編で評価が一気に下がりまして、改めてそれを実感致しました。
正直軽く考えていたところもありまして、反省するばかりでございます。


とは言う物の、評価ボタンを押してくださりありがとうございます。

今後も色々踏まえまして、可能な限り皆様に楽しんでいただける物語を書けたらなぁと思っております。

その参考にというだけではありませんが。良くないところも含めて、ご意見、ご感想いただけると助かります。

改めてありがとうございました。今後もよろしくお願い致します。


MARVEL作品をどれくらい触れていますか

  • MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
  • MCUの映画は全て視聴済み
  • MCUの映画を1本以上観た事がある
  • 一度も触れた事がない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。