世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

24 / 90
メリュジーヌ編
湖水地方


生い茂る木々。巨大な湖。その周りを囲む廃墟の数々。

 

ここはブリテンの湖水地方。

境界の森と呼ばれるその森は、夥しく強力なモース達が生息しているという理由により。

もはや誰も近づかない地域となっている。

 

その一区画にさまざまな石造りの建物の残骸がそこらに散らばっており、ちょっとした古代遺跡のような様相を呈している場所があった。

 

そんな所に、場違いな巨大なテントが聳え立っていた。

 

ドームの形をしたそれは、中から光が漏れているおかげで、暗がりの森の中では一つ異彩を放っており、人も、妖精も寄り付かないはずのこの地域には似つかわしくない様相を呈していた。

 

 

外には複数のテーブルやアウトドアチェアはもちろん、焚き火台や、ランタンも完備されており、テーブルの一つに置いてある、スピーカーのような端末からは、ゆったりとした音楽が流れていた。

離れた場所を見れば、木々の間にはハンモックも設置されており、何より目を引くのが、遺跡や、木々を使ってピンと張られている巨大な白い布だった。

 

普通の森ならば違和感はまだ無いが、ここは妖精國。それも、危険地帯と呼ばれる地域。そこを鑑みれば

あまりにも異常だ。

そんなキャンプ設備達の一つ。

 

ハンモックに、男が1人、眠っていた。

 

 

ゆらゆら揺れるハンモックが心地いいのか、口からは涎を垂らしており、つけているアイマスクには漫画風の目が描かれているパーティグッズのそれだ。あまりにも幸せそうな寝姿。

 

最も危険だと言われている地域にて、休日の贅沢なキャンプを楽しんでいる。異常者がそこにいた。

 

彼の名は相馬透。

異世界からやって来て、この妖精國を救う為、ありとあらゆる手を尽くして、奮闘しなければならない男。

 

但し、残念事に彼には、心の底にあった妖精國への愛着は残っているものの、その他諸々の記憶を失っている。

 

自分に、誰かに、誓ったはずの使命を忘れ、故郷(と思っている)での生活をただただ楽しむ男の姿がここにあった。

 

 

「ねえねえ」

 

 

そこに、とある存在が現れた。

 

 

「起きてよー」

 

 

その存在は青くぼんやりと発光しており。

ハンモックに寝ている透に近づき異様に白く、異様に長い指を、ツンツンと、透のほっぺたに当てていた。

 

 

「ん、んんんん〜」

 

 

透はやかましいとばかりに、その指を手で払う。

 

「もー」

 

ぷんすかと、怒るような仕草をしながら、その存在は()()()()

仰向けに眠る透の真上に移動し、平行して横向きになりながら、仰向けになり、両手の指で、交互に頬を突っつき始める。

 

 

「起きろー」

 

 

ツンツンツンツンツンツンツンツン!

 

 

流石の鬱陶しさに透もゆっくりと目を開ける。

ボヤけた視界に青い発光物が映り込む。

 

一度顔をぐしぐしと擦り、改めて目を開ければ、青く発光する、()()()()()()()()

 

 

「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

あまりの驚きに、身体が浮き上がる。透の顔面が、指を突いた後に起きないかと、様子見の為に顔を近づけていた骸骨とぶつかり、その反動で、ハンモックがひっくり返る。それに透も巻き込まれ、そのまま、地面に墜落した。潰れた蛙のようだった。

 

「いたたー。もー、人の顔を見て悲鳴をあげるなんて失礼だなー」

 

ぷんぷんと顔を抑えながら怒る青い骸骨。骸骨なのに、痛覚があるのかは甚だ疑問だが、様子としては痛そうだった。

 

「っつ〜」

 

身体前面を土まみれにしながら。透は顔面を抑える。

何というか、唇にやたら硬い感触を感じたが、今は全体の痛みの方が重要だった。

 

「大丈夫〜?」

 

「ったく」

 

膝に手をつきながら、透はかろうじて立ち上がる。

 

「ミラー! 人が寝てる時に目の前にふわふわ浮くなって言ったろうが! びっくりしたわ!!」

 

透に注意された骸骨の名はミラー。

かつて鏡の氏族であった妖精であり、怨念や思念などによって、妖精亡主という、人間でいうところの幽霊となった存在である。最も彼女曰く、怨みつらみではなく、存在強度が強すぎてそうなったという話だが。

 

「あー! 透ったら酷いんだー。この間、あの子が来た時の音で、ビックリしてひっくり返ったから、起こしてくれって言ったのは透なのにー」

 

そういえばそんな話もした気がするな。と思いながら。テントからタオルを取り出し、顔を拭く。

 

「あぁ、そうだったな。ありがとなミラー」

 

「うんうんいいよー。ちゃんとお礼が言えるのは良い事だよねー」

 

なでなでと、透の頭を撫でるミラー。

感触が硬いし、体温もないので、正直な所少し痛い上に気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。

 

 

やたらと風の音が強いなと思いつつ、準備に入る。

 

 

「ほらほらーもうすぐ来る頃だよー」

 

「あ? もうだっ――」

 

 

 

 

 

瞬間、爆発が起こった。

 

 

 

 

 

その爆発の余波により舞い上がる土埃が、その威力を物語る。

 

 

 

 

「やあ、待たせたかな?」

 

 

爆心地から現れたのは、少女だった。

 

桃色がかった銀髪の髪。小柄な体躯。目元は青いバイザーに覆われており、それと同じ鎧で身を包んでいる。

 

妖精騎士ランスロット。

 

爆発の原因は、彼女が空から現れた事によるものだった。

 

そんな彼女に一言。

 

「とりあえずは、謝れ」

 

透は泥まみれの身体のまま、謝罪を要求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりはひと月程前に遡る。

世界の感覚で言えば何度目かの時間の巻き戻しが完遂された時、透の感覚で言えば、妖精國に異世界から帰ってきた後。

 

彼は、住処を探そうと、音楽を掛けることもなく、ミュージックビデオの撮影ごっこをする事もなく、足早に、道を進んでいた。

 

そこで辿り着いたのがマンチェスター。

弱肉強食をルールとした、妖精騎士ガウェインが治める街。

 

彼は、早速街の妖精達に、住処を探す旅の事情を話した。

違和感を感じる程に、あっさりと快く迎え入れられ、一先ずの集会所のような場所に案内してくれるとついて行ってたのだが、問題が起きた。

 

彼は、荷物を下ろすこともなく。一息つく間もなく。早々に、納谷にある人間達の死体を見つけてしまったのだ。

 

そこからは早かった。口封じのため、透を殺そうとした妖精を蹴り飛ばし、全力で走りながら、捕まえようと囲んできた妖精達も蹴り飛ばす。

ハードル走ですべてのハードルをなぎ倒しながら進むようなものだ。蹴り飛ばされ、妖精達がもんどり打っている間にマンチェスターを脱出した。

 

暫く追いかけて来たのだが、透が偶々向かった先は、湖水地方。強力なモースが出現する、妖精にとっては立ち入りたくない禁忌の地。

 

妖精達は追いかけるのを諦め、マンチェスターに戻って行った。

 

時間差で辿り着いたガウェインが、街の様子に気付き、慌てた妖精が逃げた透の仕業に仕立てようとしたのだが、即座にばれ、人間を弄んでいた事実を知ってしまう事になる。それにより、ガウェインの運命は、それなりの変化が訪れるが、それはまた、別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖水地方でのモース達の早速の出迎えは、透にとっては問題にもならなかった。

 

元より妖精に比べ、人間の方がモースの呪いに耐性があるというのもそうだが、本人に自覚はないが、ひっそりと、電磁バリアを生み出し、呪いの類を一切通さない。

 

元々の生身での戦闘能力だけでも圧倒的だが、何より、妖精國の終末装置の一端であるモースが、世界そのものを滅ぼす終末装置である透に勝てるはずもなく。

 

彼からすればちょっとした害獣くらいの感覚だ。

 

思考というものを持たないが故に、モースに僅かに残された本能の部分は鋭敏となっており、一部のモースは、透から発せられる本質的な部分から漂う圧倒的な破滅の気配に、恐怖のあまり、逃げていくのもいた。

 

モースの大半を追い出し、攻めてくるものが無くなった今。どうしようかと考えたが、妖精達の蛮行に、異世界へ転移する前の出来事を僅かながらに思い出し、妖精の本質を改めて考える。

 

少なくとも、自分を害さない妖精を見分けるには、時間と調査が必要だと判断した透は、一時的な拠点としてこの遺跡跡を選んだ。

 

結果的に、彼は、あっという間にモース達を追い出し、遺跡跡にテントを張り、拠点とした。

 

それを、こっそりと覗く、骸骨に気付かずに。

 

 

 

拠点の準備も終わり、彼は様々な道具を用意する。自覚なき記憶喪失である彼だが、自然と、本人にも気付かずに、記憶を取り戻すということがままあるが、その取り戻した記憶の一部として、異世界での生活や、そこから持ってきた道具達の知識があった。

 

その中に、別次元へ物体をしまっておけるアイテムがある。

 

彼が元々持っていたリュックサックには一般的なキャンプ道具しかなかったが、彼はそこから適当なものを取り出した。丸い盾。足につけるジェット装置。ナノマシンで形成されるヘルメット。

再現できるかどうかという点で言えば、似たような物は妖精國や汎人類史にも可能かもしれないが、その全ては原子レベルからして、存在しない逸品。異世界や宇宙由来の道具達。

 

それらを装備し、彼は探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「おおー」

 

透はその巨大な死骸を見上げながら感嘆の声を上げる。

 

遺跡跡から暫く進んだところに、沼地があった。

 

透からしたらお世辞にも綺麗とは言えない沼程度の認識だが、実際は人間はいるだけで、毒されるような場所である。

 

だが、それよりも、目を引く存在があった。

沼に沈む巨大生物の骨である。

 

妖精國ではまず見る事のない生命体。

 

宇宙において、ノーウェアと言う、天界人と呼ばれる。実質的には神に分類される存在の頭蓋を住処にしたはぐれ物達の街を拠点とした事もある。

SFから剣と魔法の世界、様々な異世界を渡った透にとっては特別珍しいというわけではないが、それでも目を惹かれる魅力が、そこにあった。

 

彼は早速、後ろポケットから革張りの手帳を取り出した。

 

とある世界。そこは宇宙人もいなければ、魔法生物も目立って存在しない世界であったが、そこで、ドレイクの子孫を名乗る、トレジャーハンターと冒険をしたことがある。

エル・ドラドの秘宝、砂漠に眠るアトランティス。

例を挙げればキリが無いが、共に旅したそのドレイクの子孫は、写真などでは無く、その情景を手帳にスケッチする癖があった。

そのアナログな方法ゆえに解決策を見出した事もあり、メリットと風情を感じ、透も真似するようになった。彼に習うように、同じようにその沼の情景を書き込んでいく。

とは言え携帯端末を使って、写真にも残してはおく。デジタル、アナログ。両方の手段をもって、思い出を刻むため、作業を続け、その冒険に思いを馳せる。

今の記憶には無いが、冒険をしながら、いつかトネリコを連れ出したいと願っていた事もあった。

 

情景を書き込んだ後、彼はまた別の作業を始める。

その骨を元に、どういった生物だったかを想像する遊び。両手の人差し指と親指で、フレームを形作りながら、その中から骨を覗き、画家が構図を決める時のような、それっぽい動作をする。妖精國を救う誓いなど、欠片も思い出す事もなく、この場所を楽しみ始めた。

 

 

マンチェスターにてトラブルはあったものの、彼にとって湖水地方は、しばしの生活に娯楽を提供してくれる絶好の生活場所になった。

 

空も翳り、辺り一面は暗く染まる。彼は一度引き返し、寝袋を外に出し中に入る。木々の間から覗く、美しき星空を眺めながら、考える。やはり妖精國の美しさは筆舌に尽くし難い。様々な星空を巡ったが、惑星内にいながらも、ここまで宇宙を感じる事はあまり無い。

黄昏の空の美しさもそうだが、この美しさが、透は好きだった。

やはり帰って来てよかったと、妖精國に思いを馳せながら、明日またこの死骸を観察しようと決めたところで、眠りに入った。

 

 

次の日、朝の支度をそこそこに、昼餉の下準備を終えて、彼は再び沼地へと訪れる。

装備は同じだが、先日と違い、彼はスケッチブックを手にしていた。

 

これまでの巨大生物との出会いを思い出しながら、骨の形状からその姿を洗い出す。

誰でも想像できそうであったが、ドラゴンの類だというのは想像に難くない。

赤い小さな奴から、それこそ機械で出来た巨大な奴に至るまで、様々なドラゴンと会って来た。

 

どの世界においても、ドラゴンという存在への憧れと畏怖は皆変わらない。例に漏れず、透もドラゴンには色々と惹かれるものがあった。

 

その、経験を活かしつつ、自分なりの解釈で、自分だけのドラゴンを考えたい。という子供のような好奇心で、スケッチブックに書き込んでいく。

 

一先ずは、オーソドックスな巨大なドラゴンの線画をスケッチし終えたところで――

 

 

まるでジェット機が上空を通った時のような、音が耳に入って来た。

 

妖精國ではありえない音に、首を上に向けた瞬間――

 

 

何かが目の前に落ちて来た。

それは自然落下というよりは、まさしく爆撃のようで、周囲に、泥や土埃を撒き散らしながらそれは現れた。

 

「妙な予感がして来てみれば――」

 

青い鎧、煌めく長髪。小柄な体躯。漂う強者の風格。

訝しげにコチラを見る妖精騎士ランスロット。

 

「ここは君のような人間が立ち入って良い場所じゃない」

 

両腕に装備した剣の入っていない鞘。その片方を透に向けながら、

 

「すぐに出ていってもらおう」

 

警告を発した。

 

「あふぉなぁ……」

 

警告を受けた透の顔は俯き、ランスロットからは表情は伺えない。

ただ、聞き取りにくいその一言目には、怒気を孕んでいるように感じていた。

 

「いふぃなり、ふぉんなふぉろまみれにされて、ペーっ! かしこまりました。ぺっ! なんて素直に言えると思うか!?」

 

全身に泥を被り、口の中に入った泥を吐き出しながら、透は答える。

 

それは警告への反抗の意思に他ならない。

 

 

 

「そう……従う気はないんだね……」

 

 

ランスロットの体に魔力が籠る。

 

 

「それなら、痛い目を見てもらおうか!」

 

 

 

言うが早く。ランスロットは戦闘態勢を取り、透へと肉薄していく。

 

「え、ちょ、そんな……いきなり!? いや、今のはちょっと、言い過ぎ――」

 

泥まみれになった腹いせについ、反抗してしまった事を後悔しながら、狼狽しつつも、透は地面に置いてあった、円形の盾を()()()()()。その反動で飛び上がった盾を一瞬で右腕に取り付け、攻撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドレイクの子孫:アンチャーテッド(超傑作)より。凄腕トレジャーハンター。人間とは思えない頑丈さと人体能力を持つが、普通の人間。

MARVEL作品をどれくらい触れていますか

  • MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
  • MCUの映画は全て視聴済み
  • MCUの映画を1本以上観た事がある
  • 一度も触れた事がない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。