世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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ガレス

夥しい死体。燃え盛るロンディニウム。

 

何度も何度も見た光景。

 

誰も救えず、何も残せず。

 

そんな絶望の光景。全ての終わり。

 

 

 

 

 

 

「あ、わたし……」

 

 

はたと気付く。どうやら未来視によって意識が跳んでいたらしい。

 

あたりを見回せば、ロンディニウム城塞の入り口だ。

襲いかかって来た反乱軍の兵士が倒れていた。

 

突然、ロンディニウムが襲われた。

 

それも襲って来たのは反乱軍の兵士達。

 

戸惑いながら迎撃しているうちに、辛うじて反撃したのを覚えている。

 

今の光景、いい加減、自覚すべき時だ。

 

「わたし――やっぱり鏡の氏族なんだ」

 

「みんなを滅びの未来から守ろうとして――結局、誰も救えなかったエインセル」

 

「今回も結局――」

 

 

言いながらロンディニウムを見る。

 

そうだ、現実と未来が曖昧になっていたが、まだ――ロンディニウムは燃えていない!

 

まだ、出来ることはある筈だ。

 

 

「急げ、わたし!」

 

震える足に喝を入れ、城の中へ入っていく。

 

すると、足音が聞こえて来た。

 

先程の反乱軍の仲間だろうか、対峙しようと盾と槍を持ち直す。

 

角から現れたのは反乱軍の兵士。その雰囲気から、暴れ始めた者の一人だと、予測する。

 

「貴様、ハンパ物のガレ――っ」

 

――ガァン!!

 

と、けたたましい金属音と共に、何事か宣おうとしていた兵士が最期まで口にすることなくこちらに倒れこんできた。

 

「な、なに!?」

 

倒れた兵士によって開けた視界の先には、何かを振り投げおわった後の構えをとった、少年セムと、複数人のロンディニウムの住人達だった。

 

「あ、当たった……」

 

「すごいすごいセム! キャプテン・アメリカみたいだった!!」

 

「あ、きしさま! 皆! きしさまだよ!」

 

「良かった! ガレスが来てくれた!」

 

わいわいと、今起こっている出来事が嘘であるかのように明るい子供たち。

 

非戦闘員も含めて、かなりの数が無事だった。

 

丸い、派手な盾を拾うセムを見て。他の4人の子供たちも確認する。

 

ホッと息を吐く。だが、それと同時に、あの光景がまだ確定ではない事に安心する。

 

いや、まだ完璧に覆されたわけではない。これから、その未来が起こるのかもしれないのだから。気を引き締めなければならない。

 

とはいえ、この子達が無事でいてくれた事は嬉しいのだ。

 

「ああ、良かった、無事で――」

 

いや、無事ではないのだろう、酷い火傷を負っている。

だが、そうとは思えないほどに、彼らは元気だった。

 

「僕達は大丈夫! キャプテン・アメリカが皆を助けてくれてるんだ!!」

 

子供達の1人が、興奮気味に声を上げる。

 

「きゃぷてんあめりか?」

 

「すごいんだよ! アイツらを何十人も1人で倒して!」

 

「盾を投げて!その盾がガンガンガンガンって、生きてるみたい!」

 

「光の縄でアイツらを縛り上げてた!」

 

「足から火を出して、空も飛んでたんだ!」

 

まくし立てる子供達に、戸惑いながら、その名を反芻する。

 

この子達を守ってくれた。誰か。入ってくる情報がめちゃくちゃすぎる。妖精なのか人間なのか。

きゃぷてんあめりか。聞かない名前だ。

 

「そうだ! ガレス!お願いがあるんだ!」

 

セムがガレスに手に持っていた盾を渡す。

 

「これ、キャプテン・アメリカが貸してくれたんだ。返さないといけないんだけど。俺は、足手纏いになっちゃうから……」

 

「え、でも――」

 

今はここにいて、皆を守らないと。

 

そう言い返そうとした時に、奥の方で戦闘音が聞こえて来た。

 

「行ってください!」

 

その音を聞きつけて、声を出したのは子供達の後ろにいた円卓軍の兵士だ。

 

「皆は私たちが護ります。彼のおかげで殆どの敵兵は気絶しておりますので大丈夫です!それよりも、一人で戦ってくれている彼の事を!」

 

セムの提案に逡巡していたが、兵士のその力強い言葉は、信頼に値する。覇気のある言葉だった。

 

「わかりました!」

 

言葉で返して、セムから盾を受け取る。

真ん中の星が目立つ、派手な色の盾。

持ってみれば、とてつもなく軽い。

だが、この盾から感じる言いようの無い迫力は、なんだが勇気を奮い立たしてくれるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで走る。

道を進むたびに、こちらに向かってくるロンディニウムの住民達とすれ違う。

全員、やはりキャプテン・アメリカと言うヒトに助けてもらったらしい。

 

改めて、自分が来たところに、仲間達がいることを伝えながら、彼の向かったであろう道を行く。

 

先程までの絶望は既にない。

少なくとも今は、彼らが死ぬ事は無いのだと、確信している。

それが、とてつもなく嬉しかった。

 

今は、彼にこの盾を届けなければ――

 

そう、改めて、決意を抱いたと同時、風を切る音が響いた。

 

目の前に何かが、凄まじい砂埃を巻き上げながら、着陸する。

 

途端、目が霞むほどの砂塵の中から――

 

青い鎧の騎士が、拳を突き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

暴れ回る兵士を殴り、蹴り、たまに魔術で縛り上げ、気絶させる。

 

やってしまった。

 

兵士に襲われ、無抵抗のままでいる彼らを見た時、つい彼を、彼らがよぎってしまった。

地球を守り、宇宙を守るヒーロー達。

 

彼らならばどうするか、ともにアベンジャーズとして戦った自分であれば、痛い程わかるのだ。

だから、つい、彼らを思い出し、助けてしまった。

 

だが、この妖精國において、自分の目的はこの國を守ること。

女王による圧政を敷くこの國を肯定する自分に、反乱軍を人々を助け、礼を言われる権利等ありはしない。

 

だからこそ、名を聞かれたときに、焦ってしまった。

どう応えるべきか迷ってしまったのだ。その末に名乗ってしまったのが

『キャプテン・アメリカ』

ありとあらゆる次元、世界において、もっとも尊敬すべきヒーロー。

弱気を助け、強気をくじく。絶対的な正義の権化。

自由・平等・博愛

この妖精國において、最も縁遠いアメリカンスピリッツに身を委ねる男。

 

「ここまでの道に兵士達はもういない。ここを真っ直ぐ行け、先に君達の仲間が向かってる」

 

第一の目的は鏡の氏族長を見つける事。

だが、キャプテン・アメリカを名乗った以上、彼の名に恥じぬ行いをするべきだ。

今は、何者かに虐げられている、彼らを助けるために、全力を注ぐ。

 

「我々もお手伝いを――」

 

「必要ない。それよりも、早く、集まって皆を安心させてやるんだ」

 

 

簡易的に指示を与えながら、突き進む。これで、この城跡の殆どを回った。

鏡の氏族の妖精らしき者はいなかった。大雑把にしか場所を特定できない上にそもそも姿すらわからない。憤りを覚えるが、やれる事をやるしか無い。

 

途中、襲いかかってくる奴らに覚えのある雰囲気を感じた。初対面の時は、顔は見えなかったが、案外動きでわかるものだ。ここにきて、下手人は確定したとも言えるだろう。

 

鏡の氏族はどこに居るのか、一度、元いた場所に戻ろうかと、踵を返したところで……

 

 

 

聞き馴染みのある。

 

 

 

風を切る音が聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも有名。あまりにも強い。

 

その名は妖精騎士ランスロット。

 

彼女が、空から、ガレスの前に突然降りてきた。

 

最強の妖精による砂塵の中からの一撃を不意打ちで受けたのだ。

 

本来であれば、盾も鎧も、纏めて突き抜ける筈の攻撃。

 

ガレスでは防ぐこともできなかった筈の、一撃。

それを偶然、持っていた星条旗の盾が受け止めた。

 

その盾は衝撃を吸収し、逆にランスロットを吹き飛ばし、同時に、吸収しきれなかった衝撃がガレスを吹き飛ばした。

 

背中から壁に叩きつけられながらも、意識を失う事はなく。どうにか体制を立て直しす。

 

先を見れば、同じように、体制を崩していたランスロットと、バイザー越しに視線が合う。

 

ガレスほあの時の事を思い出す。一言も発することなく、無慈悲に鏡の氏族を皆殺しにした彼女を。

なすすべなく鏡の氏族が殺されたあの時を。

 

予感しながらも防ぐことができなかったあの惨劇を――

 

 

「何故――」

 

「え?」

 

彼女の口から言葉が発せられる事に驚いた。

 

「何故君が、その盾を持っている――」

 

 

その詰問には動揺と、怒りが含まれているように見える。

 

この盾。ロンディニウムの住人を守ってくれていたキャプテンアメリカさんの盾。

 

これが無ければおそらく自分は――

 

「これは――」

 

迫力に押され、素直に答えようとしたところで――

 

「貸したんだよ。俺が」

 

空から、男の声が響いた。

 

その男は、軽い風邪を切る音と共に、ランスロットと自分を挟む位置で、彼は、3点着地で舞い降りた。

 

 

「よお、久しぶりだな、ランスロット」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き慣れた風邪を切る音、ランスロットが空を飛ぶ音。

その音に釣られて来てみれば。ランスロットと、鎧の少女が対峙していた。

 

状況は明白だ。分析した波長も同一のもの。つまりは、鎧の少女が、ミラーと同じ。鏡の氏族。そしてその長、エインセル。

 

そいつを襲うランスロット。

 

さて、どちらの命令で動いているかだが――こちらの分析としては、確定している。

 

「よう、久しぶりだな。ランスロット」

 

あっていようがいまいが、どの道、止める以外の選択肢は無い。

 

 

 

 

 

「トオル……」

 

「偶然だな、ランスロット、こんな所に最強の妖精騎士様が来るなんて、女王も大分反乱軍を恐れてるんだな。戦略的には意味は無いように思えるが――」

 

「……」

 

茶化してみるが、目の前で、仁王立ちするランスロットは黙秘を貫く。

 

話ながら、立ち位置を調整する。鏡の氏族の妖精を背に、ランスロットがこちらに仕掛けてきても、いつでも対処できる立ち位置に。

 

「……君こそ、どうしてこんなところに?」

 

今の動きを悟られたのだろう。ランスロットは戦闘態勢を崩さない。

問答無用で来ないだけ、ランスロットの俺への扱いに安堵を覚える。

 

「あぁ、予言の子に鐘を鳴らさせないために、こっそり鏡の氏族長を攫っちまおうと思ってな」

 

「——」

 

後ろで、息を呑む音が聞こえる。

 

「しかし女王も戦争下手だよな。ロンディニウムを落とす為に兵士を潜伏させてたんなら、牙の氏族長がやられる前にやっとくべきだったのに。今更、最強の騎士にキャメロットの警護を抜けさせてまでやることじゃないだろ」

 

わざとらしく子馬鹿にしたように捲し立てる。

 

「それとも、予言の子やカルデアの誰かが、鏡の氏族長を直接殺すのに忍びないから、色々裏で暗躍していたとか?世界を滅ぼそうとしながら、妖精達や反乱軍を取り込む戦上手だ。実はランスロットはカルデアの一味だったりするのか?」

 

これ見逃しに推理もどきを披露する。

 

「つっても鏡の氏族が死んで鐘になれば予言の子にも特になるが、ロンディニウムを落とすのは意味がわからないしな。場合によっては威信も落ちて全体の士気に関わる」

 

いやらしく、挑発的になるように意識する。

 

「となると、今回の件、予言の子に鐘を鳴らせて、女王殺しを推し進めつつ、威信を落とす事で特になる奴が犯人って事か? わざわざ、こんな事をさせてまで、威信だとかくらだない事にこだわる奴に心当たりはあるか? ランスロット?」

 

全く乗ってこないが、こちらの意図は伝わっているだろう。

彼女の仕業だと確信していると、伝わっているだろう。

 

「……鐘のことはミラーに聞いたのかい?」

 

「ミラー……」

 

当然心当たりがあるのか、その名前に、背後の妖精も反応した。

 

「いや、直接は聞いてない」

 

言いながら、彼女の事を思い出す。

 

「あいつは、やるべきことは終わったっつって行っちまった」

 

その事実に、ランスロットも、後ろの妖精も、二人の感情の揺れを感じ取る。

 

「本当に急だったよ。まだまだ、見て欲しい映画もあったし、話したいこともたくさんあったんだけどな」

 

「そう……なんだね」

 

残念そうに答えるランスロット。

 

「まったく、意味わかんねえよ。終わりの鐘だの、ブリテンが終わることが救いだの。カルデアの奴らか神様だかの仕業がしらないが、妖精達の大半が何にも考えねえ自殺願望持ちばかりなのは、それが理由か?」

 

その言葉に、2人の妖精から、悲痛な雰囲気を感じ取る。

やはり、自覚というものがあるのか。

 

「だがな、妖精が、この世界の神様とやらが、滅びを望んでようが、そんなモノ俺には関係ない。カルデアが正しい世界の住人で、そいつらにとってこの世界が間違っていようが、他人の物差しで世界の良し悪しを判断されるのを許せる程、人間出来ちゃいないんだ」

 

それは世界への宣戦布告。

 

「この世界を維持できるのは女王モルガン以外ありえない。予言の子にも、ノクナレアだって不可能だ。いつか妖精同士で足を引っ張り合って、全滅するか厄災にやられてお終いだ。内乱の主力であるカルデアは、モルガンを倒した後は知ったこっちゃないっつー無責任ぶりだ。そりゃそうだよな。カルデアからしたらブリテンは滅びなきゃ困るんだしな」

 

そしてランスロットへの宣戦布告でもある。

 

「俺は、この世界が泡沫の夢だなんて認めない。この世界が間違っていたなんて甘ったれた事を言って死にたがってる奴がいたらぶん殴ってでも心変わりさせてやる。後先考えずに馬鹿な事をしようとしてる奴がいるなら引きずり回してでも止めてやる。この妖精國を守る為なら、なんだってしてやるさ」

 

こちらの意思は伝わったはずだ。

 

「……嫌だよ」

 

見れば、ランスロットの体が震えている。

 

「僕は、君を傷つけたくない……」

 

その言葉はこちらとしては嬉しい限りではあったが。

 

「でも、止める気はないんだろ?」

 

その一言にこちらの意図を全て込めた。

こちらこそ止まる気はないと、そう、伝わっただろう。

 

「そうだ、僕は彼女の騎士だ……彼女の為なら何でもする」

 

「わかってるよ」

 

「邪魔をするなら、例え君でも、加減はしない……」

 

「構わない」

 

ランスロットの宣言は、静かで、まるで自分に言い聞かせているようで。

 

「本当に、やるんだね?」

 

「ああ」

 

「本当にいいんだね?」

 

「こっちの台詞だよランスロット」

 

俺を傷付けたくないと、戦いたくないと、悲しむ彼女を見たくなかった。

 

「俺に気をつかってくれてるみたいだが――そもそも、俺がお前に負けるわけないだろ?」

 

だから一言、挑発で返す。

どうせやりあうなら、お互い遠慮なくだ。

 

「あまりのボロ負けっぷりに情けなくなっても、泣くんじゃないぞ? ランスロット」

 

ランスロットは一瞬ポカンと呆けた後。

 

「本当に、君は、人間の癖に生意気だ」

 

呆れたように少し笑った。

 

こちらもニヤリと笑顔で返してやる。

 

「お前こそ、俺よりちっこいくせに、生意気だぞ?」

 

それは戦闘の合図としてはあまりにもお粗末だった。

 

「本当に、口の減らない子だ――っ!」

 

大気が震える。ランスロットからジェット噴射の如く、光が吹き荒れる。

 

「あ、盾を――っ」

 

「下がってろ――っ!」

 

言いながら突撃してくるランスロット。

真正面から、ジェット機の如く迫り、右拳を放って来る。

 

初手が肝心だ。ランスロットはスペックからして圧倒的。

ほとんど全ての相手は、一撃の元に敗北を喫する。

後ろから盾を渡そうとする妖精を突き飛ばし、その拳を紙一重で避け、カウンターの如く、左手で掌底を当てる。

本来であれば、ダメージにもならないその攻撃。だからこそ、ランスロットも甘んじて受けたのだろう。

 

その油断が、こちらにとっての好機となる。

 

 

打撃音すら響かない、柔らかな掌底。

それは、ランスロットの体から、文字通り意識を切り離した。

 

「嘘……」

 

後ろで呆然とする鏡の氏族長を他所に、気絶したように倒れかけるランスロットの体を受け止め、その場に寝かせる。

 

一か八かだったがどうにか成功した。

 

カマータージの魔術の概念にアストラル体というものがある。言うなれば魂であり、魔術師は自由に幽体離脱をしてアストラル体を体から切り離すことができるのだが、その魔術を、掌底と共に叩き込んだのだ。

 

自分の体と意識が切り離され、それを認識出ている現象に驚愕している。半透明化したアストラル体のランスロットを見る。

 

自分の状態に気づいたのだろう、こちらを一瞥してくる。

彼女ならば、体への戻り方もすぐわかるだろう。

 

「じゃあな!」

 

間髪入れずに、後ろにいた鏡の氏族の妖精の手を掴む。

 

 

「えっ!? えっ!?」

 

戸惑う、妖精に構わず。そのまま抱え込んだ。

 

 

本格的に戦う前に、彼女をどこかへ隠さねばならないし、話すべき事もある。

 

その手段も考えているが、それにはある程度の集中が必要だ。

 

まずは、戦場を離れなければ。

 

「舌噛むなよ!」

 

言いながら、ジェット装置を稼働させ、一気に空へ舞い上がった。

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