世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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思ったより長くなってしまいました。

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励みになります。


ガレス②

「ひゃぁあああぁぁぁぁぁ!!」

 

鏡の氏族の妖精を抱えながら空を飛ぶ。

 

音速とまではいかないが、かなりの速さで飛んでいるため、風圧が凄まじい。

 

一気にロンディニウムの城の最上階に飛ぶ。ぼろぼろで吹き抜けになっており、視野は広く。ロンディニウム全体を見渡せる位置。

 

突然の飛行に、目を回すガレスを下ろし、ランスロットや、反乱軍の生き残りの場所を確認する。

 

間髪入れずに、何もない空間に手を向け、意識を集中させ、魔術を発動。

 

すると、手のひらの先、空間そのものに、ガラスが割れたかなようなヒビが入る。

 

それはとある次元への入り口だ。

 

「こ、これ何ですか!?」

 

「ほら、ここ入って」

 

「入ってって……」

 

そのヒビに向かってガレスを無理やり押し込み、一緒に中に入り込む。

 

入ってみれば、そこは先程と遜色のない風景。

訳の分からない状況に、混乱しているガレス。

 

「あ、あの、入りましたけど。ここ、何か変わったんですか!?」

 

「ああ、ミラーディメンションだ」

 

「ミラーでぃめんしょん?」

 

「ここにいれば、誰も外から干渉できない」

 

「よ、良く分からないんですけど……」

 

ミラーディメンション。

別次元に作り出した仮想現実空間。

カマータージの魔術師達は戦闘の際、現実に被害を出さないために、このミラーディメンションへと相手と自分を閉じ込める。

ここでならいくら物を壊そうが現実に損害は出てこない。

それだけではなく、こちらから現実の様子を見ることはできるが、現実から視認することもできないため、監視や隠れたりするのに最適な場所である。

 

 

「さて、鏡の氏族長、エインセルだっけ?」

 

「は、はい! いえ、今はガレスとお呼びください」

 

「じゃ、ガレス。話があるん――」

 

「あなたがキャプテン・アメリカさんですよね!?」

 

「あ、ああ」

 

話を切られた。そう子供達に名乗ったものの、直接呼ばれるのは、何というか……

 

「いや、それは偽名だからトオルで良い。それより――」

 

「はい!トオルさん!そ、その!さっき言ってた攫うとかいうのは一体——」

 

こちらの話を食い気味に乗ってくるガレス。

思ったよりも元気なのは結構な事だが、話が進まないのは問題だ。

 

「――ガレス!」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

肩を掴み無理やり黙らせる。

彼女のペースに合わせてはいけない。

 

 

「ロンディニウムの人達を助けたのは俺だ。わかるな?」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

「ガレス、俺は、君にとって恩人だな?」

 

「え? はい、もちろんです」

 

「俺の頼み。聞いてくれるよな?」

 

「はい! わたしに出来る事なら!」

 

「それならガレス。予言の子に協力するのを止めてくれ」

 

「——え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう」

 

行っちゃった。

ロンディニウムの住人を救ってくれた恩人。

『キャプテン・アメリカ』。またの名をトオルさん。

 

異世界、汎人類史の人でありながら。沢山の幸福がある世界の人間でありながら、妖精國を愛する人間。

 

終わりしかないこの世界の運命に、全力で抗おうとするヒト。

 

エインセルである私自身が出した予言。

 

その運命は既に決まっていて、本来であれば、これから私は死に、予言の子の為の巡礼の鐘となる。

 

それが運命。予言の子を導くのが私の使命。

 

それでも、そのために、それ以外のものが失われるのがイヤだった。氏族のみんなが、死んじゃうのがイヤだった。

 

わからずやのガレス。わからずやのエインセル。

 

未来が見えているのに、なぜ未来を受け入れないの。

 

使命を、運命を受け入れるべきだというのはわかってる。

 

運命に逆らうなど、愚か者のする事だと。

 

そう思っていたのに――

 

「ガレス、君には何が何でも生き残ってもらう。悪いが、運命だの使命だの、そんな神だのなんだのが勝手に決めたくだらねぇもんとは縁切りだ」

 

そんな思いを真っ向から否定された。

 

「反乱軍も、カルデアに強力するのをやめてもらう。アイツらは最終的にこのブリテンを滅ぼさないといけない立場だ。そんな奴らを希望と勘違いして、それに対抗できる最高戦力の女王を自分達で殺そうとするなんざ、はた迷惑な事をされても困るんだよ」

 

つらつらと、捲し立てられるものだから頭が全く回らない。

 

「もちろん反乱軍の奴らは、助けたからには面倒は見る。君達の事は女王と交渉するし、例え、決裂したとしても安心して暮らす為の場は整える」

 

言ってることが無茶苦茶だ。そんな事出来るのだろうか。

 

「で、でもわたしに、そんな事を決める権利なんて……パーシヴァルさんやアルトリアに聞かないと……」

 

「それなら、全力で説得してくれ」

 

掴んでいた肩をさらに引き寄せ、トオルさんの顔がさらに近づく。その迫力に気圧される。

 

「辛い事だが、妖精國の住人である俺や君にとって、カルデアが本当の敵で、女王は味方側だ。彼女が死ねば、間違いなくこの國は終わる。それをわかってるカルデアの連中は既に500人だけなら妖精を連れて行ってやっても良い。なんて話をしてるんだ。意味がわかるな? 女王を殺した後はこの国の奴等にまかせるって言ってんのは、女王が死ねば妖精國が滅びるってわかってるからだ。500人だけ妖精を連れてって、『悲しいけど、しょうがないよね。滅ぶ前に悪い女王を倒して妖精を解放できて良かったね』とかなんとか言って帰って行くのさ」

 

「そ、そんな……でも」

 

「あいつらにとってこの世界は現実じゃない。既に滅ぶはずの間違った歴史で、偽物の世界でしかない。楔である女王はただの圧政をしく愚かな女王。カルデアは正しい世界という旗を振りかざす正義の騎士。俺達はあいつらがモルガンを殺すまでの物語に彩りを添える程度の端役だ」

 

彼の言葉に耳を塞ぎたくなる。眼を背けたくなる。眼を逸らしていた事実を突き付けられて、涙が溢れてくる。

 

「だがな、俺は端約で終わるつもりはない。どんなに悪党扱いされようが、どんなに愚かだと言われようが、全力で抗ってやる。この物語に泥をぶちまけてやる。この國の妖精自身が嫌がってもな」

 

彼から迸る漆黒の意思に気圧される。

 

「君も、この國は滅びるべきだなんて自殺願望があるのか」

 

「そ、そんな事ありません!」

 

そう、そうではない。この國は終わるしかないという未来を見て。見たからこそ、

それが嫌だから自分は必死に走り回ったのだ。

終わりしかない未来が嫌だったから。鏡の氏族の皆が死ぬのがいやだったから。

 

「それなら選択肢は一つだ。悪いが、拒否権は無いぞ。今、生殺与奪の権利を握ってるのは俺だ」

 

「……っ」

 

それは、事実だ。彼がいなかったら、ランスロットが来た時点で、自分も死んでいた。

 

「言ったとおりだ。俺は、妖精國を守る為ならどんな事だってする。あんたが嫌がることでも、遠慮はしない」

 

「そんな、立花さん達を、裏切るなんて……」

 

「むしろ騙していたのはアイツらの方だろ。あいつらが正しい世界から来た正義の使者だったとしても、アイツらのやってる事は君達からすれば最低の裏切りだ」

 

そんな、それしか選択肢がないなんて……

 

「でも、それならブリテンは……ずっとこのままなのでしょうか。ブリテンを、立香さん達の世界のように沢山の幸福があるような世界にする事はできないのでしょうか」

 

このまま、何も変化のないままの世界で生き続ける。

 

それは、ある意味では滅びを迎えるよりも辛い事なのではないのだろうか。

 

そんな訴えに、彼は意外のような者を見る目で、こちらを見つめていた。

 

「夢を壊すようで悪いがな……」

 

俯くわたしに、彼は、一度肩から手を離し。

鎧の肩の埃を払う。

 

「汎人類史は別に全てが幸福に溢れてる訳じゃ無い。上級妖精の暮らしだけを見て、妖精國は素晴らしい。なんて羨ましがるようなもんだ」

 

今までの勢い良く捲し立てるような態度から一転、落ち着いたような、申し訳なさそうな声色へと変化した。

 

「確かに今のブリテンが、良い國であるとは言えねえよ。けどな、汎人類史に比べて格段に劣ってるって言えばそうじゃねぇ。今この瞬間生きていくのすら苦しいなんて不幸は、汎人類史にもいくらでも存在する。歴史を辿れば、今のブリテンが100倍マシに思えてくるような、時代だってある。相手の最高点と自分のとこの最底辺を比べて、卑下するのは止めとけ。ますますヘコむぞ」

 

「でも、でもやっぱり、私は――誰もが助け合い。認め合って、許しあって、自分を大切にして――」

 

「……」

 

「まわりのひとたちも大切にするそんな世界になってほしいんです」

 

例え、彼らの世界の良いところしか見えていなかったとしても、そんな世界があるというのは事実なのだ。

 

焦がれるのだ。

 

「なあ女王様がなんでこんな法律を作ったのか考えた事はあるか?」

 

「え、そんなのは――」

 

女王が酷いヒトだから――ではないのだろう。

それだけはきっと違うのだろう。

 

「圧政の理由はわかるんだ。だけどな、圧政を敷く割には繁栄を許したり、何故か動物を酷使する事が禁じられてたり。しんどい内容の割に、ところどころに謎のやさしさがあるんだ。そこが、わからない所で。この國の良い所で、悪い所でもある」

 

そう、なのだろうか。

 

「この國は女王よりもむしろ妖精そのものに問題が多い。圧政以外の法律を敷いたって、今のままじゃ弱い妖精や人間が淘汰されて終わりだ。むしろ女王のおかげでかろうじてまともな國になってるぐらい。だから、今以上に幸福なセカイってのは正直難しい……」

 

女王を倒せば世界はきっと良くなる。

エインセルとしての記憶が蘇る前に信じていた概念が音をたてて崩れ去っていく。

そんな事も考えずに行動していたことへのショックと。この先への不安がのしかかってくる。

そして、記憶が蘇ったからこそ、妖精の存在を性根から理解できる。

聞けば聞くほどどうしようもない。

 

「でもな、結構どうにかできるんじゃないかって思い始めたんだ」

 

「なんで……なんでですか」

 

そんな、ついさっきで考えを変えられるような事が起こったのだろうか。

聞いてみれば――

 

「あんたみたいな妖精もいるって知ったからだよガレス」

 

「えーー」

 

そんな以外すぎる理由だった。

 

「確かに妖精は問題だらけだ。女王の圧政でようやく大人しくできてるレベルだ。でもな、妖精全てがやばいわけじゃない。お前みたいな。他人を思いやれるような奴もいる。とんでもなく少ないが――」

 

そう言われて、気恥ずかしい思いになる。

 

「……簡単にはいかないし、時間だってかかる。できるかどうかもわからない上に、それこそ本当の意味で良くなるのは俺達の世代じゃないかもしれない」

 

それは、希望と言うには弱すぎる理由だ。

 

「でもな、世界を変えるってのはそういう事だ。一朝一夕でできるもんじゃない。少なくとも、今この瞬間で判断して諦めて、滅んだ方が良いって思うのは絶対に間違ってる」

 

だがそれは、確かに希望の光だった。

 

「まあ、そこについてはおいおいだ。まずはロンディニウムの住民が、安心する暮らしができるようにする。そこについては秘策はある」

 

「そんなの、どうやって……」

 

「ノリッジの厄災。誰が祓ったと思う?」

 

「え、それはアルトリア達じゃあ」

 

「実は俺なんだよ。笑えるよな?」

 

そういえば、実際に厄災を消滅させた謎の存在がいるなんていう話を聞いたような。

 

「俺は結構強いんだぜ? 妖精國最強の騎士をああやって手玉に出来るんだからな」

 

それは、確かにそうだった。なんだかズルい戦法だった気がするが。

 

「女王相手にだって、負けるつもりはねえよ。宇宙を簡単に滅ぼすような、もっとやばいヤツといくらでも戦ったことがある」

 

内容はよくわからないが、何故か説得力のある言葉だった。

 

「言い方は悪いが、戦局的に反乱軍の存在はそれ程重要じゃない。それ以上のメリットをあげれば応じるだろうさ」

 

「その、メリットって?」

 

「俺自身という戦力と兵器――後は『眼』と『耳』だ」

 

なんの事だろうかはわからないが、信じてしまうような力強い言い方だった。

 

「ま、カルデアには妖精國から出てってもらう予定だからな。いざという時は、そのノアの箱舟に乗せるよう、お前が交渉するのもいいかもな。まあカルデアがどうしても妖精國を滅ぼす為に残りたいって言うなら話は別だが……その時あんたらがカルデアにつくなら容赦はしないが」

 

その言葉にゾッとする。

 

「ま、とにかくだ。ランスロットをどうにかした後、厄災を葬った功績も含めて、女王に交渉だ。まずはそれから……」

 

言って彼は再び、空間に手を向ける。

 

ミラーディメンションという空間の出口。

先ほどのような空間のひび割れが現れた。

 

「その盾は持ってて良い。ランスロットは俺が抑えるが、ソールズベリーの兵士が来るかもしれないからな。それで、あの子たちを守ってやれ」

 

「え、でも、良いんですか?」

 

「いいよ。今の俺よりも、お前が持ってる方が”らしい”からな」

 

そう言って微笑む彼の表情はしかし、どこか寂しそうだった。

 

「ほら、出るぞ」

 

「は、はい……」

 

彼より先にひび割れをすり抜ける。やはり見た目には変化はない。

 

振り向けば、彼は片膝を付き、足の横についている。何かを弄くりながら――

 

「本当の事を言うとな……」

 

「はい」

 

「俺は、あんたをミラーディメンションに閉じ込めようと思ってたんだ……」

 

「え?」

 

そんな、とんでもない事を白状した。

 

「巡礼をさせないのが一番の目的だったからな。妙な自殺願望を持ち出して、命を差し出すようなバカな真似されても困るし、カルデアに殺される可能性もゼロじゃ無いしな」

 

彼への回答次第では、一生閉じ込められてしまっていたかもしれないと思うとゾっとする。

 

「んじゃ、説得の件。頼んだぞ。さっきも言ったけど、拒否権は無いからな。破ったら――」

 

その言葉に、ゴクリと喉を鳴らす。正直なところ全く決心がついていないのだ。

 

彼はその事に気づいているのかいないのか。ニヤリと笑う。

 

「ま、考えといてくれ」

 

ある意味、一番怖い回答だった。

 

言って彼は、足元から火を噴き、空を飛ぶ。それにつられるように、青い影が彼へと猛スピードで近づいていくのを確認した。

 

「どうしよう……」

 

口に出しながら、この先の事を考える。ひとまずはロンディニウムの住民の所へ。

 

その後の説得はどうするべきか。カルデアの人たちはどうするべきか。

 

だが、今のこの妖精國の状況は自分の予言によって発生した物でもある。

 

逃げるわけにはいかない。

 

左腕につけた。キャプテン・アメリカの盾のベルトを今一度、締め直しながら、一歩、足を踏み出した。

 

 

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