今更ですが、この作品、武器等や設定でマーベル作品を盛り込んでおりますが、それだけではなく、設定等とは関係なしに台詞の一部だったりに、マーベル作品のオマージュがございます。
いつも感想ありがとうございます。
お気に入り登録もありがとうございます。
励みになります。
鏡の氏族長、ガレスへの説得という名の脅しを終わらせ、空を行く。
我ながら甘ったれだ。彼女に白状した通り、ミラーディメンションに閉じ込めておけば殆どの事は解決するのに。つい解放して、しかも盾まで貸してしまった。
ロンディニウムの住民も含め、大きな荷物を抱えてしまった。
正直なところ、カルデアという存在が無ければ、妖精達の自殺願望なんてどうでも良かった。
女王の圧政に苦しもうが、この妖精國を維持する歯車にさえなっていればそれで良い。
きっかけは忘れたが、自分はそのぐらい妖精に対して冷めている。
なんだったらガレスに話した、圧政の中にある優しさ。なんて言うものは余計だと思っていたぐらいだ。
アレのせいでこの妖精國に隙が生まれてしまった。カルデアの、予言の子による侵略を許してしまった。
それこそ女王に物申したいぐらいだが、甘ったれてしまったのは自分も同じ。
ミラーもそうだし、ランスロットもそうだが、ガレスのような妖精もいるとなると、少しは信じても良いんじゃないかと言う気になってしまったのだ。
(まあ、まだまだ問題だらけだけどな)
女王も、そういう出会いがあったのだろうかと1人薄ぼんやりと考えながら眼下を見る。
今いるのはランスロットの体と、アストラル体を切り離した場所の真上。
彼女はアストラル体を理解したのか。視界の中で、体に戻っていくのを確認する。
自分の体を触りながら、魂が肉体に戻ったことを、その熱を確かめている。その姿に、クスリと笑いが漏れる。そうだった。
自分も、初めてエンシェント・ワンにアストラル体と身体を切り離された時、ああやって慌てた物だ。ランスロットに比べれば、自分の方がもっとみっともなかったが。
彼女は、俺の存在に気付いたのか、こちらを睨みつけている。バイザー越しにでも分かる程、イタズラをされた子供のように怒っているように見えた。
青い光を撒き散らしながら、空中に上がり、こちらと同じ高度へ。
「まさかあんな術を内緒にしてたなんて、狡いよ。しかも、トドメを刺さずに放置だなんて。僕をバカにしてるの?」
ぷんすかと怒る彼女は酷く可愛らしい。
「そりゃ。まさかお前に使うなんて、夢にも思って無かったからな。わざわざ言う機会も無かっただろ。それに、お前を殺す気なんて一切無いからな」
そう、最初の出会い以降、ランスロットとこうして戦うことになるなんてカケラも考えてなかった。
「まあ、目的は果たした。ガレス――鏡の氏族長とも色々話を出来たから。あとはお前を追い返して、仕事は終わりだ」
言いながら魔術を発動、自分の体に、強化の魔術を掛ける。光の魔法陣で作られた鎧のような物が身体を包む。
「正直、ロンディニウムの連中はどうでも良かったんだが、今となってはそうも言えない。確認するが、オーロラは、ロンディニウムを落とさないと気が済まないんだな?」
「それが、彼女の望みだ」
「そうか……」
やはり、ランスロットの彼女への心酔っぷりに、隙は無いのかもしれない。
「僕を殺す気は無いと言ったね。でも僕は違う。君を……全力で殺しに行く」
最強の騎士ランスロットの警告であれば、誰もが震え上がる死の警告。
だが、わざわざ口に出す辺り彼女にしては珍しい。
死にたくないなら殺す気で来いという気遣いか。
あるいは、先程本心では戦いたく無いと言っていた通り、殺すつもりで来てくれないと、決心が鈍るからと取るべきか。
「別に構いやしねえよ。けど、殺されるつもりは微塵もない」
どちらだとしても。乗る気は無い。
そもそもとして、最強の妖精騎士、ランスロットを殺してしまえば女王との交渉が拗れる可能性もある。
それに、この妖精國において、今となっては唯一の、気の許せる友達を殺せるはずもない。
ふと、ひとつ、伝えなければ事があった事を思い出した。
「なあ、始める前に。伝えときたい事があるんだ」
「……何かな?」
「いや、俺がコヤンスカヤとか言う女にやられた時に助けてくれたって聞いたからな」
そう、ミラーが教えてくれた。あの一件。彼女のおかげで、今、俺はここにいるのだ。
「ありがとうランスロット。君のおかげで、俺はここにいる」
精一杯の礼を彼女に告げる。
これから先、その言葉を言う機会があるかどうかはわからない。後悔の無いように、今のうちに伝えておきたかった。
そして、これは、お互いに後腐れのない関係へとなるための、儀式でもある。
「そんなの――」
ランスロットはその礼に、一度驚いた後、バイザーを下げ、素顔を見せる。
「そんなの当然じゃ無いか。君は、ずっとずっと、僕の、大切な友達なんだから」
嬉しそうに答えるランスロットの表情はコレから戦いを始めるとは思えない程に、見惚れる程の笑顔だった。
――妖精國一のモテ妖精とは良く言ったものだ。
「ああ、本当。男にはグッとくるフレーズだよそれ」
軽口で返しながら、ナノマシンによるヘルメットを装着。
ランスロットがバイザーを戻したのは、ほぼ同時。
それが、戦闘の合図。
二つの影は、眩い光の線と化した。
⁑
「ハアアアア!!」
「ッラああああ!!」
飛行によるスピードが乗りに乗ったお互いの拳がぶつかり合った。
ランスロットはそのナックルパーツが、透は魔術によって包まれた光の魔法陣が、その威力を倍増させる。
ぶつかり合う余波が暴風となって、辺りを揺らす。
威力そのものは全くの互角。
しかし、その攻撃によるダメージは、透の体のみを傷つけた。
拳が、その攻撃に耐えられず、血まみれになっている。
魔術の強化が甘かったようだ。
「——チッ!」
舌打ちをしながら、最大まで出力をいじったジェット装置を吹かす。
ランスロットもそれについていき、並走飛行となる
「あの盾で殴れば!傷がつくこともないのに。わざわざ彼女に盾を託すなんてね」
「——ハッ! 別にこの程度怪我の内にも入んねーよ!! それに、あいつにはロンディニウムを守ってもらわなきゃならないんでな!」
「強がりを――っ!」
ランスロットの鞘の鯉口から、アロンダイドのレプリカが出現し、ランスロットは拳を前に突き出した。
それはまさしく一本の槍である。
魔力が一気に噴き出し、軌道を変え、並走飛行していた透へと迫る。
この妖精國において唯一飛行ができるランスロット。
その飛行速度の乗ったランスロットという必殺の槍は、これまで避けた者も、耐えた者も存在しない。
一直線に透へと迫る槍。その必殺の槍を、透は、空中で宙返りの要領で、容易く避けた。
体を丸くした透の下を槍が通過する。ランスロット本体が真下を通り過ぎた瞬間、透は思い切り体を伸ばす。
極限まで体を丸め、さらにジェット装置のパワーを得た事により、体のバネを極限まで効かせた屈伸運動は、魔術も相まって最高峰の蹴りとなる。
「——シッ!!」
両足が、無防備になったランスロットの背中を、空中で踏みつけた。
その衝撃は爆音を響かせながら、ランスロットを地へと突き落とす。
「ぐぅっ」
透の蹴りに呻きながらも、空中で体制を立て直し、地面への墜落は避けられた。
「スペック頼みの戦闘しかしねえからそうなるんだよ。自分より強いヤツと戦った事がないんだな。俺との闘いは良い経験になるぞ。色々教えてやるよ、お嬢さん」
「——っ!生意気!!」
再びの並走飛行。
度々、ぶつかり合いながら、絶え間ない攻防を交わしあう。それはお互いに決定打に欠ける闘いだった。
(まずいな……)
内心透は焦っていた。
現状互角に見えるが、それは単純に、戦闘経験の差だ。
様々な異世界で、人間から宇宙人から、怪物から様々なものと戦ってきた経験が、スペックの差を補っている。
しかし、それも限界がある。自分の飛行は装置による物。対して彼女の飛行は生来の物。
飛行そのものに対する体感が、あまりにも違う。
その上、このジェット装置では限界がある。取り外しも可能で、使いやすく、汎用性も高いが、所詮は量産品。
最高速度ではランスロットには及ばない。体捌きやテクニックでいなしてるが、いつ、こちらが敗北を喫しても不思議ではない。
その危惧はその考えの後、ほんの一瞬で訪れた。
数度のぶつかり合いの際、肩口をアロンダイドが切り裂いていく。
傷は浅い物のその余波に吹き飛ばされ、体制が狂ってしまった。そのまま、地面に落下し、何度もバウンドし、地面を転がっていく。
「っつ……」
あまりの痛みに、呼吸が出来ない。
脳への衝撃にしばらく視界がかすんでいたが、くっきりと見えたころには、目の前にランスロットが仁王立ちしていた。
「良い経験になるんじゃなかったのかい? トール?」
先ほどの透の軽口を返すランスロットを睨んだまま立ち上がる。
「うるさい……ちょっと、朝飯食いすぎて、動きが鈍かっただけだ」
「強がらないほうが良い。アロンダイドの傷は浅いけど、あれだけ吹きとばされたんだ。足がふらついているよ」
ファイティングポーズを取る透に、ランスロットは構えもとらず、言葉を発するだけだ。
「全然、全く問題ねえよ。このとおり――なっ!」
一瞬で間合いを詰め、ランスロットに拳を放つ。並の妖精兵やサーヴァントでも対応は難しいはずのその一撃を、ランスロットは余裕で交わし、カウンターをくらわした。
「ガッ!!」
そのまま背中から倒れる透。
「キミとはそれなりに一緒に過ごしたんだ。曲芸飛行勝負や模擬戦も大分やってる。君の手の内は、読めないわけじゃない」
「ああ、そうかよっ!」
再び立ち上がり、ランスロットの余裕の態度を崩すべく、今までの戦法には無い方法での攻撃を繰り出す。
しかし、それも振るわず、今度は腹を殴られ、その場に膝間づく。
「その攻撃が最初だったら、少し驚いたかもしれないけどね。動きが鈍くなってるよ」
腹への衝撃に呼吸が狂う、呼吸音が奇妙なものになる。
「そのまま、そうしてた方が良い。本当に死にたくなかったらね」
そう言って踵を返すランスロット。
そのランスロットに、透は俯せのまま上半身と手を伸ばし、行かせまいとランスロットの手を掴む。
「ゼヒッ、グ……いガせるカ……」
ある程度、予想はしていたのだろう。特に驚いた様子も無く、ランスロットは、透を見つめた後、意識を失わせるため、その顔面を蹴り上げた。
「ふがっ!」
間抜けな声が出た。頭がカチ上げられ、鼻が折れる。その後頭を支える事もできず、そのまま顔面を地面にぶつける。
その痛みに意識が刈り取られそうになるが、精神力で持ちこたえ、再び背を向けたランスロットの足を掴む。
ランスロットは、意識を失っていなかった事実に驚きながらも。
「——っしつこいっ!」
足を振りほどき、再びの蹴りを見舞う。
しかし透は、その蹴りを受けながらもランスロットに飛びかかる。彼女の足を体全体で抱えるような無様な体制になった。
「この、どれだけしつこいんだキミはっ!」
その動きに戸惑いながら、その手で透を引きはがそうと両腕を掴む。
「っくく」
ふと、透から笑いが漏れた。
「なに、を、笑っているんだキミは」
「いや、ああやって殺すとか宣言しておきながら、気絶すらさせられてねえじゃねえかと思ってな……」
「——っこの」
透の言葉を皮切りに、ランスロットは、透を仰向けに倒し、その胸倉を掴み。
殴りつけた。
「この、この、この!」
何度も何度も殴りつける。
無防備な顔面に注がれる拳は、しかし、透の意識を刈り取ることは出来ない。
「彼女の為に、使命を果たす! これ以上邪魔するなら、本当に――」
「なら、やれよ。殺してまで果たしたい使命なら、お前の為なら受け入れるよ」
「~~~っ」
予想外の言葉にランスロットは動揺し、一度透を吹き飛ばす。
受け身も取れず投げ出されるが、透は、まるでなんてことの無いように立ち上がった。
かなりのダメージは与えているはずで。見た目には満身創痍にも関わらず尚も気を失わない透にランスロットは動揺を隠せない。
やはり、彼女は、本当の意味で使命を果たしたいわけじゃない。
そんな事を考えると、ふと、左手のブレスレットが視界に入った。
思わず、笑みがこぼれる。
――本当に、何故こんな大事なものを忘れていたのか。
「何を笑ってる!? 」
ランスロットの激昂に、透は嫌らしい笑みで返す。
「ああいや、ちょいとな。何て自分は馬鹿なんだろうって。笑っちまった」
「何だい、観念したってこと――」
ランスロットが言葉を返した瞬間。
透の体に粒子が纏わりついた。それは、確かな形となって、透を包んで行く。
「それは――なに?」
メタリックレッドを基調としたデザイン。所々に金の配色が施され、そのカラーリングはスポーツカーを連想させる。
「超天才が作った、無敵のアーマーだよ」
足元から頭まで、その鎧によって包まれていき、最後にガコンと、音を立てながら、マスクが降り、透の顔を覆い隠した。
「名前はアイアンマンだ。是非堪能してくれ」
戦いは、再び加速する。
⁑
アイアンマン
ナノマシンで仕上がったこのアーマーは形も変幻自在であり、強度も凄まじい。さらに、カマータージ由来の強化の魔術によりさらなる強化が施されている。
速度も、強度も、武器の豊富さも圧倒的である。
ランスロットの真横からハンマーの形になった腕で殴りつければ青い鎧に傷が入り。
距離を離し、リパルサーを撃てば、ランスロットは否応なく空中で停止させられる。
「くっ、この!」
スタンプの形になった腕による叩きつけを鞘で防御し、お返しにと、アロンダイドを振るえば、既に透の姿はそこにはいない。
加速力も、体捌きも、
「この、バカトオル! こんなのまで隠してたなんて! 本当に卑怯だ!」
「しょうがねえだろ! 忘れてたんだから!」
「こんな鎧を忘れるなんて! どれだけぽけっとしてるんだ!」
「やかましい!」
罵り合いながら攻防が続く。
無傷のアイアンマンスーツに比べれば、致命打は無いものの、ランスロットの鎧は傷だらけになっていた。
「さっきとは逆の立場だな! そら、そろそろ降参したらどうだ!?」
「くっ――」
透の挑発に、返す言葉も出ないランスロット。傍目には既に勝負はついている。
透はひとつ。拘束兵器を選択。
腕をランスロットに向け、それを射出する。
「な――」
それは、幾重ものロープとなり、ランスロットへと絡みつき、同時に、電流が流れる。
電気による、光が、眩しくあたりを照らす。
「ぐぅぅぅぅぅ!」
「いくらお前でも結構キツイだろ。このままおねんねしてもらう」
うめき声を上げながら、苦しむランスロットを見る。
心苦しさはあるが、気絶する程度のものだ。
このまま終わりかと思われた戦いは、しかし、ランスロットの激昂によって変化が起こる。
「なめ、るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、電流とはまた違う光が、放たれた。
凄まじい衝撃波が、透を襲う。
気付けば、ランスロットのシルエットが変化していくのを確認した。
「なるほど……これがミラーの言ってた」
最早、彼女の姿に騎士然とした要素は皆無だった。
最初に印象的だったのは巨大な黒い翼。そして頭の角。
「この身は、騎士ランスロットにあらず――」
腕や足は、鎧でもなく、人間のものでもない。別の生物のものへと変質している。
「私の
鞘であった装備は巨大なツインブレードに変質していた。
「もっとも美しいものから名を授かった、アルビオンの末裔——」
妖精騎士ランスロットの皮を破り、その力をさらけ出した。
顔や体そのものにはわずかしか変化はないものの。
まさしく竜そのものと言える存在が、そこにいた。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
-
MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
-
MCUの映画は全て視聴済み
-
MCUの映画を1本以上観た事がある
-
一度も触れた事がない