世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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30話の時、後2話とか言ってましたけど、すみません。まだ続きます。


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Dog Fight②

キャメロット城、玉座の間。その玉座に女王モルガンが鎮座していた。

複数の上級妖精達も共におり、各方面からの報告をそれぞれが行なっている中、不意に、城を揺らすほどの暴風が吹き荒れた。

 

「む――」

 

マンチェスターによる妖精の蛮行が発覚して以来、紆余曲折あり、女王の近衛兵となった妖精騎士ガウェインが、その様子に顔を顰める。

 

何か起きたのか。そう思考した途端、天井から、物が破壊される音が響く。

 

メキメキと、軋む音がなったと思えば、その音に続くように、途端に、天井が崩れ去った。

 

「陛下!」

 

ガウェインが、モルガンを守る為の位置に着く。

 

天井から何かが凄まじい速度で落下し、玉座の間の床すらも突き破っていく。

 

偶然にも、上級妖精含め、直接瓦礫に踏み潰される者はいなかった。

 

「な、なんだ!」

 

「このキャメロットを破壊するとは!」

 

「予言の子の仕業か!」

 

「お気をつけください陛下!」

 

上っ面だけの心配を口に出しながら、慌ただしい上級妖精達。

その中でもモルガンだけは、表情の変化は見られない。

ガウェインも動揺は見せず。いつでも女王を守れるようにと天井と床の大穴を睨む。

 

すると、上の方の穴から赤い鎧に包まれた何かが現れた。足元から火を吹かしながら、ゆっくりと、ホバリングしながら降下していく。

 

「ったく、あんな所で、突っ込む奴があるかよ――」

 

ホバリングを切り、床に3点着地で着陸する。

 

人間にしても、珍しい魔力のないヒトガタ。その鎧の男は、戦闘の興奮冷めやらぬまま、状況を確認しようと辺りを見回した。

 

最初に見えたのは、体格の大きい、人間に近い姿の金髪の妖精。その次に確認したのは、巨大な玉座に座る黒いベールを被った女性。女王モルガン。

その碧い瞳と、スーツ越しに目があった。

 

「いや、いやいやいや……」

 

一気に目が覚めた。さらに周りを見回せば、ボロボロの大広間。最初に視界に入った2人以外にも、妖精達が、こちらを訝し気に見ているのが伺える。

 

最悪の事態である事を理解する。

 

「城を破壊し、あまつさえ、この玉座の前に無断で立ちいるとは、貴様、何者だ?」

 

ガウェインに剣を突きつけられる透は、大慌てで両手を上げ、降伏のポーズを取りながら言い訳を始める。

 

「ちょ! ちげぇ、いや、違うんですって! これは事故で。俺は色々と女王様のお力になろうと考えてるぐらいで――!」

 

「なに――?」

 

「そう! 俺は味方、味方だから! ちょいと交渉はしたいけど、別に害そうとか思ってるわけ――っ」

 

その言い訳を、最後まで言う事は出来なかった。

 

透の真下から、その床を突き抜け、メリュジーヌが、透の両腕を掴みつつタックルの要領でそのまま透を天井に叩きつける。

 

天井にめり込むものの、アイアンマンスーツの頑丈さ故、ダメージは入らず。そのままユニビームで反撃。

 

メリュジーヌに直撃はしたものの、ドラゴンとしての肌は強靭な装甲である為ダメージは入らず。しかしビームの圧力に体が押され、壁に叩きつけられる。

 

「ランスロット――!? 貴方一体何をー!? それに、その姿――」

 

「おい、ここお城!しかも玉座!女王様の前でこんな無礼なことして良いのか!?」

 

「トオルがあそこで絡みつかなければここに墜落する事もなかったんだから、貴方の責任よ!」

 

「そんな理屈が通るわけねーだろ!?」

 

「妖精騎士の私とただの人間のあなた。どっちの方が発言力があると思う?」

 

「なんてヤツだお前は!!」

 

ガウェインの叫びを無視して、2人は言い争う。

 

再び両者に熱が籠る。白熱しながらも無意識に気を使い始めたのか、飛び道具は使わず、近接武器で斬り合いを始める。

 

「ふざけんなよ! これから俺はあの女王様に色々お願いしないといけない事があるんだぞ! 印象最悪になっちまったろうが!」

 

「良いじゃない! どうせ、貴方は私のものになるんだから!」

 

「おい、お前達! 戦いを止めろ。ランスロット! 話を聞け! 陛下の御前だぞ!」

 

「そもそもなんでそんなに、お前は怒られない事に自信があるんだよ!」

 

ガウェインの警告を無視し、鍔迫り合いながら言い合いをする2人。

 

透はある程度焦りがあるが、メリュジーヌはどこ吹く風。と言ったところだ。戦いの熱に浮かされているのか、竜種としての性格故もあるだろうが。女王の前ですら臆する事はない。

 

女王は不思議な程に冷静に2人を見つめている中、上級妖精もざわざわと騒ぎ始める。

 

「あれが、妖精騎士ランスロットのあの姿!? あれが真の姿だというのか!?」

 

「あぁ! オーロラ様の言う通り。なんておぞましい姿なのかしら。醜い腐ったケダモノのよう――!」

 

「争っているのは、魔力も持たない人間ではないか!?」

 

「下等生物の分際で、この広間に無断で立つとは、存在すら許し難い」

 

そう、上級妖精達が2人を蔑見始めた途端――

 

 

透はリパルサーを、メリュジーヌは魔力によって形成した剣を。

 

それぞれ()()()()悪口を叩いた上級妖精に向け放った。

 

「ヒッ――!」

 

声を上げたのはどちらだったか。

 

その攻撃は、上級妖精を掠め、その先の壁に傷を残す。

 

「おい、次にこのクソ色ボケアホドラゴンの悪口を叩いてみろ。顔面に穴が開く事になるぞ」

 

「トオルは馬鹿だし意地悪だし無礼だし常識が無いしずる賢いけど、貴方達が下等生物扱いして良い存在じゃない」

 

歪み愛から一転。

上級妖精を睨みつける2人。

その圧力はガウェインをも飲み込むほどのだった。

 

戦闘は終わった――

 

今の様子から、2人の闘いは憎しみ等の純然たる敵対行為では無いと察し。これ幸いにとガウェインは声をかけようとする。

 

「お前達、いい加減にしないか。まずは落ち着いて――」

 

「「今、お前(貴方)俺(私)の事なんて言った!!?」」

 

――かに見えたのだが、再び互いに睨み合い、戦闘が始まった。

 

「クソ色ボケアホドラゴンって何!? 悪口にしても酷すぎる!!」

 

「馬鹿で意地悪で無礼で常識がなくてずる賢いだと!? しまいにゃ泣くぞお前!」

 

再び斬り合いが始まる。

 

「もう怒った!本当に怒った! トオルのバカ!! 私はもう手加減しないから!本気なんだから!」

 

「はー!奇遇だな! 俺だって全然本気じゃ無かったし。許してやろうと思ってたけど、本気出すわ、今まで50%しか力出してなかったけど、本気出すわ」

 

「私は40%だった!」

 

「あ、間違えた! 30%だ!」

 

「私は、今まで寝ながら戦ってた!」

 

「俺実はスーツの中で映画見てたから。見ながら戦ってたから!」

 

実にくだらない。あまりにも酷い言い合いを始める2人。しかし、戦闘力そのものは目を見張る程高度であり、戦闘での周りが見えなくなる程の興奮も理解できなくはないガウェインはどうしたものかと困り果て、不意に女王へと視線を向ける。

 

終始冷静に見えた女王だったが、いつの間にか、興味深そうに、あるいは驚いた様に、2人へ、いや、赤い鎧の男へと視線を向けていた。

 

「陛下?」

 

その女王の口から「トオル……」と、口が動いたようにも見えた。

 

 

「牙と触手と吸盤がついてるエイリアンと男がまぐわってる動画が好きな変態のくせに!!」

 

「ハァ!? それアスカヴァリア星人か!? そんなの見るわきゃねーだろ! というかそんなのどっから引っ張り出した!?」

 

「お気に入りに入ってた!!」

 

「うっそだろって―― あいつらか! ロケット達だな、クソ!!」

 

「フェチって言うんでしょう! 汎人類史では! 変態最低男! 触手フェチ!!」

 

「この――っ! そんな事大声で言うなぁぁぁぁぁあ!!」

 

ガウェインが女王を訝し気に見ている間に、透がメリュジーヌを吹き飛ばし、彼女は、玉座の後ろの大穴に続く窓の外へと放り出されて行った。

 

 

 

 

 

 

一度、大広間に静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

静寂を破ったのは赤い鎧の男、透だ。

 

ガシャガシャと音を立てながらランスロットが飛び出して行った窓の方へとそそくさと歩いていく。

 

とりあえず、顔はバレてない。このまま去ればどうにかなるはずだ。

 

たびたびメリュジーヌの口から名前が出ていたのだが、それに気付かずに、後頭部に手を当てながら、誤魔化して去ろうとするその姿は、あの妖精騎士ランスロットと凄まじい大立ち回りを演じていた者とは思えないほどに、情けなく見える。

 

「おい、貴様、何を勝手に去ろうとしている」

 

「……チっ、誤魔化せないか」

 

「当たり前だ!」

 

「悪いけど、見ての通り、今ごたついてるんだ。文句は後で受け付けるから――」

 

「――待て」

 

ここに来て、初めてモルガンが口を開いた。

 

その声に、ガウェインも口を紡ぎ、そのまま誤魔化して、去ろうとした透も足を止める。

 

「赤い鎧の男よ。お前の名を聞こう」

 

あまりにも重々しい。その言葉。ちょろまかして逃げようと思ったが、逃げるわけにはいかないと、誤魔化すわけにもいかないと、不思議と考えた透は、答える。

 

「トオル、相馬透だ――です」

 

慣れぬ敬語で答えた後、女王は、一度名前を呑み込むように一拍置いた後。

 

「ソウマトオル――そうか……」

 

1人、感慨深げに呟いた後、再び問いを投げかける。

 

「トオルよ。なぜ我が妖精騎士と戦う? ランスロットがあの姿を見せるという事は余程の事だ。場合によっては、双方、生かしおくわけにもいかぬ」

 

そう、問いを投げかけた。

 

これは、内容を選ばねばならない場面だが、何故か、嘘は絶対に見破られるという確信があった。

 

「別に、ただの喧嘩だよ。アイツがバカな事をしようとしてるから、俺が止めに入ってるだけ。ちょっと、夢中になりすぎて、その、色々ぶっ壊しちまってるけど……」

 

「貴様、陛下に何という態度を――」

 

「よい、許す」

 

噛みつこうとするガウェインを嗜めるモルガン。

 

その柔和な態度に一抹の安心を覚えながら。今後の問いかけを予想する。

 

(そのバカな事はなんだとか聞かないでくれよ?)

 

下手をすると、指示もないのにランスロットが反乱軍を虐殺しようとした事を罪に問われるかもしれないし、逆に、反乱軍を滅ぼそうとした事を邪魔した自分が罪に問われる可能性もある。

 

鏡の氏族長の死亡阻止による巡礼の邪魔。とかなんとか言ったところで言い訳になるかどうか……

 

「成程、では私に、敵対する意思は無いと?」

 

どつやら納得してくれたようだ。

その質問はありがたい。

 

「――ああ。逆に、俺は、アンタの治めるこの國を護りたいと思ってる」

 

「ほう――? それは何故だ?」

 

興味深そうにこちらを見る女王の眼は、やはり、カルデアや妖精達が言うような、悪の女王らしい恐怖や不快感を一切感じ無かった。

 

「故郷だからだよ。愛国心ってヤツ。それとあんたのイデオロギーにある程度は賛同してるからってのもある」

 

「故郷……お前は、汎人類史から来た訳ではないのか?」

 

「さあ、そこの所は覚えてないんだよ。この国では妖精歴って言われている時期にいたはずなんだけど、そっから異世界に行って、んで戻ってきたんだ」

 

「記憶がないと?」

 

「ああ、妖精國に関する記憶がな。ここに来る時に無理をした後遺症だってのは理解できるんだがな」

 

「では、何故愛国心を持つ? 記憶が無いのだろう?」

 

「なんとなくとしか言えない。魂がそう言ってる。みたいな理由じゃダメか?」

 

その言葉と、これが誠意だとばかりに、そう言って、アイアンマンの頭部をナノマシン上で分解し、顔を見せる。

 

その表情を見たモルガンは、一度間を置いた後、その口を開いた。

 

「この國を護るという言葉、信じよう。妖精騎士ランスロットとの諍いを終えた後、この玉座に再び来るが良い。貴様の言う交渉とやらも聞いてやろう」

 

「陛下!?」

 

「――マジ?」

 

透はその意外な答えにポカンとするが、ハッと気付いたように、片膝を落とす。

 

「――ありがとう。いえ、感謝致します、女王陛下」

 

「我が國最強の妖精騎士と謳われるランスロットと互角に争えるその力。期待しているとだけ言っておこう」

 

メリュジーヌのものだろう、ジェット噴射のような爆音が響く。

 

「ああ、どうも!」

 

急ぎ、大穴へと続く窓から飛び込む透。

 

暫くの落下の後、空を駆ける。そこに、青い光が合流し、再びのぶつかり合いが始まった。

 

 

 

モルガンとのやりとりを見た上級妖精及び、ガウェイン達は呆気に取られた表情をしていた。

 

「これで会議を終わる。妖精騎士ガウェインよ、今からこの場の修復に入る。お前も一度退室し、扉前にて待機せよ」

 

「ハッ!」

 

その言葉と共に、即座に気持ちを持ち直したガウェイン。何かを言いたげな上級妖精達も、逆らう事はできず、大広間から退室していった。

 

 

モルガンのみになった大広間。

 

モルガンが槍を振るう。瓦礫と化していた床や天井がみるみるうちに修復されていく。

 

その様子をどこか他人事のように見ながら、先程の彼を思い出す。

 

「まさか、本当に?」

 

妖精歴を共に駆け抜け、そして、死に別れたヒト。

 

名前も同じ、感じ取れるその気質も。

 

その顔も。

 

アルビオンの末裔である彼女にご執心のようだが、成程、苦しむ者を放っておかない彼であれば、あの境遇の彼女と惹き合う事もあるのかもしれない。

 

浮かぶのは喜びと少しの嫉妬心。わずかなそれを心の奥に隠しながら、今は彼本人である事を願い、今後のことを思考するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾度も幾度も、光の螺旋を描きながら、超高性能戦闘機がぶつかり合う。

 

「なんで、そんなにオーロラの為に働く!? あの妖精がお前に何をしたってんだ!?」

 

お互いを罵り合う子供のような喧嘩は形を潜め、いよいよもって本題と相なった。

 

「私が生まれたのは彼女のおかげ――!恩があるから――私の命は彼女の物。彼女の願いを叶える為に、私になった――!」

 

「大雑把すぎて納得できるかよっ!」

 

透がたまらず叫ぶ。

 

「私は――、私は、あの竜の腐り落ちた左手だった!」

 

「――!」

 

納得いかないと迫る透に、メリュジーヌはその重い口を開く。

 

「あの沼で、腐ってドロドロになった汚らしい肉片だった!」

 

ツインブレードとヴィブラニウムソードによる鍔迫り合いが始まる。

 

「そんな私を――掬い上げてくれたのが、彼女だ! その時――その時私は、カタチを持った。はじめて"美しいもの"を見たんだ! 」

 

徐々に、メリュジーヌの方が透を押していく。それは、意志の強さと連動しているようだった。

 

「考えることもしない細胞でしかなかった私が、オーロラのようになりたいと、はじめて意思が動いた!」

 

メリュジーヌが上から、ツインブレードを何度も叩きつける。その勢いに押され、段々と高度が落ちていく。

 

「私は、彼女の為なら何でもする! それが私の存在理由! それが私の喜び――!!」

 

その理由に透は逡巡していた。

 

ランスロットは、メリュジーヌが今ここにいるのは、オーロラによるもの。

 

恩人などという言葉で表現するには、足りない程に、オーロラは彼女にとって大きな存在なのだろう。

 

まさしく、彼女にとってのオーロラは、自分以上に大切な――

 

「だから――お願いだから、邪魔しないで!!」

 

 

その言葉と共に、両手のツインブレードを同時に叩きつける。その圧力に吹き飛ばされ、透は落下していく。

 

 

それは、メリュジーヌによるオーロラへの想いに、根負けし、敗北したかのようにも見えた。

 

長く長く、落下していく。

 

 

 

 

 

 

ああ、本当に彼女は――

 

 

 

 

 

 

なんて、苦しそうに――

 

 

 

 

 

 

 

自身に宿る愛を語るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ホロマップ投影機で見た鏡の氏族を皆殺しにする時の彼女の表情。オーロラを語る時もそうだ。

 

違和感が拭えない。

 

そのようなきっかけでオーロラを愛したのならば、それ程に心酔しているのならば、あれ程に愛を苦しそうに語る事があるのだろうか。

 

それ程に愛しているのならば、その愛の為の行動に、迷いを持つことがあるのだろうか。

 

ふと、城で、メリュジーヌを蔑んでいた妖精の言葉を思い出した――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーロラ様の言う通り。なんておぞましい姿なのかしら。醜い腐ったケダモノのよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイアンマンの、全身のスラスターが同時に稼働する。

 

落下直前に、体制を立て直し、足元をナノマシン操作によってブースターの形に。噴射剤を吹きながら、音を突破し、メリュジーヌへ一瞬で接近し、武器を振るう事もなく、そのまま突撃。

メリュジーヌの両腕に掴み組みついた。

 

 

「――っ放して!!」

 

 

飛行しながら組みつく2人、メリュジーヌも抵抗するものの、透の力、アイアンマンスーツの力、そして魔術による強化を施された力に、振り解くことが出来ない。

 

「なあ、最初に言ったよな……嫌そうな顔をしやがってって」

 

 

「それが、何!?」

 

 

「お前、オーロラからどういう扱いを受けてるんだ?」

 

「――っ」

 

 

メリュジーヌの表情が、絶望に染まる。

 

 

「なあ、オーロラはお前に何かをしてくれてるのか?」

 

「……めて」

 

「言葉でも、態度でも、ほんの少しでも、オーロラから、お前を愛してると、大切だと、示してくれてるのか?」

 

「……やめて」

 

「裏で何か陰口を叩かれてたりしてるんじゃないか? お前、それを知ってるんじゃないか?」

 

「やめてって、言ってるのに……!!」

 

 

メリュジーヌの全身から魔力が迸る。

 

それはまさしく、爆発そのもの。拒絶するかのように飛ばされた衝撃に、透は吹き飛ばされるものの、すぐに体制を立て直す。

 

その態度に答えの全てがあった。

 

そして再び、幾度となく繰り返した並走飛行が始まる。

 

「もう、やめろよ……」

 

「何が!?」

 

「何でそんな……っ! そんな馬鹿な事に心をすり減らして、オーロラに、そこまで捧げる価値があるのかよ!!」

 

螺旋を描くように光がぶつかり合う。

 

「貴方に何がわかるの!オーロラの事を何も知らないくせに! 愛する人の為に行動することの、それの何がいけない事なの!?」

 

「お前が、辛そうだからだよ!!」

 

「なにを――!」

 

「無償の愛とやらを否定はしねーよ! 見返りを求めない愛なんて物を、精一杯捧げてる奴を、何人も見た事もあるよ!」

 

「だったら!」

 

「でもお前とそいつらは違うんだよ!! お前は全然満足してねーじゃねーか!! 見返りがない事に苦しんでるじゃねーか!!」

 

透が叫ぶ度に、メリュジーヌの表情が苦しげなものに変わっていく。

 

「自分で自分を誤魔化せてない癖に、愛に縋って、心をすり減らして!」

 

「そんな事……っ!」

 

「このままこんなの続けてたら、お前はいつか壊れちまう!! そんなの俺は絶対に嫌なんだよ!!」

 

その言葉にメリュジーヌは苦し気に唸る。

 

「そんなの……そんな事言われてもっ!」

 

「反乱軍も関係ない!! 俺は絶対にお前を止めるぞ! これ以上お前が自分を傷つけるのを、黙って見てられるか!!」

 

家族でもない、主従でもない、対等な存在である彼の思いが、彼の怒りが、痛い程に言葉から伝わってくる。

 

今までずっと、捧げる側だった自分が、捧げられる”愛”に戸惑う事しかできない。

 

彼からの愛に、一抹の喜びを覚えても、何かがそれを否定する。

 

彼女への愛の為に数々の罪を犯してきた事実が、捧げて来た愛への思いが、彼女へのあこがれが、透の思いを否定する。

 

あまりにも辛くて、あまりにも苦しい。

 

「うああああぁあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

心いっぱいに叫ぶ。魔力を放出する。

 

その圧力で、透を吹き飛ばす。

 

どうして、どうしてどうしてどうして――!

 

メリュジーヌの圧力が、今までの比ではない程に膨れ上がる。

 

「くっ」

 

その圧力に押され、透が呻く。

 

メリュジーヌからの、これまでにない程の圧力を感じ取り、危険を察知し、一度体勢を立て直そうと、距離を放す為に、スラスターを噴射する。

 

それを、後ろからメリュジーヌが追いかける。

 

「どうして――!」

 

メリュジーヌが小さく呟く。

 

「どうして私を苦しめるの――」

 

その言葉が透には届かない。

 

「どうして、オーロラだけを愛させてくれないの――」

 

メリュジーヌの前方に光の輪が出現する。

 

「どうして、あの時、あの沼にいたの――」

 

その輪を潜ると、再び、輪が出現する。

 

「どうして、あの時、私をあの沼から掬いあげたの――」

 

2つ目を潜る。

 

「どうして――あなたが最初じゃなかったの――」

 

3つ目を潜り抜けた。

 

メリュジーヌの体が光に包まれ、その形を変えていく。

 

それはまさしく竜だった。人としての姿は消え去り、完全なる竜の姿へと転身していた。

 

「あなたさえ――」

 

竜の胴体が開き、中から剣のような物が現れる。

 

「あなたさえいなければ――!!」

 

 

 

こんなに苦しいことは無かったのに――

 

 

 

 

「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

――誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)

 

 

 

 

 

 

 

竜の胴部から発射された破壊光線が、透を襲う。

 

「クソッ」

 

悪態をつきながら、リパルサーとユニビームを同時発射し、破壊光線へと向ける。

 

全てのエネルギーをそこに注ぎ、破壊光線を推しとどめようと、抵抗する。

 

「ぐぅううううううううううううう」

 

しかし、完全に圧しとどめる事ができない。徐々に徐々に、メリュジーヌから放たれた破壊光線が、凄まじい熱量と共に迫って来る。

 

やがて、抵抗空しく、アイアンマンは、光の奔流に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁ、あぁぁぁ」

 

視界に広がるのは、どこまでも広がる美しき黄昏の空。

 

その空の中でも一際目立っていた赤い姿は、存在しない。

 

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 

空の中舞う竜の鳴き声が、空しく響き渡るだけだった。

 

 

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