世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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ちょっと話が長くなったので分割しました。
明日か明後日にでも続きを投稿しようと思います。




アルビオン

カルデア一同が、全速力でロンディニウムに向かっていた。

 

ニュー・ダリントンにて、地下からの脱出を果たした後、どうやらランスロットと何者かが暴れ回ったらしく、状況がしっちゃかめっちゃかになっていた。結局、予想していたベリル・ガットの強襲も無く、そのまま建物を脱出し、色々合流した後。

ロンディニウムが女王軍に襲われている。という情報が入って来たのだ。

 

アルトリアは杖をより強く握る。

 

――巡礼の鐘は氏族長の死体である。

 

その事実が、彼女のガレスの安否に言いようのない不安を募らせる。

 

何よりも、何故かわからないが、彼女の死を、確信してしまっている自分がいるのだ。

 

最期の鐘を鳴らす自分を明確に想像できてしまう。

 

それは、まるで実際に経験したことがあるような感覚で。

 

その先の未来を覚悟しなければならないと、自分に言い聞かせていた。

 

遠くに響く竜の慟哭や凄まじい魔力に、周りが慌ただしくしている中、アルトリアは杖を強く握るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁあぁ――っ!」

 

メリュジーヌ。アルビオンの化身たる存在。

 

ブリテンの黄昏の空に竜の慟哭が広がっていく。

 

 

殺した。殺してしまった。

 

オーロラのように、愛する人のように、戸惑う事なくあの泥から掬い上げてくれるような素敵なヒトを、私の為に、私と戦ってくれたヒトを。

 

私への愛を示してくれたヒトを。

 

私は、私の愛の為に、もう一つの奇跡を、もう一つの愛を消してしまった。

 

ごめんなさいミラー。

 

ごめんなさいトール。

 

 

 

鏡の氏族を虐殺した時と同じか、それ以上の贖罪の思いが駆け回る。

いつまでこのような苦しみを味わえば良いのか。

そう思ったが、その苦しみから解放したいと、そう言ってくれたヒトはもういない。

自分の手で殺してしまった。

 

それは、ある意味ではこれまで以上の絶望だった。

 

このままでは、メリュジーヌは、妖精の姿へ戻る事もできないまま、悲しみに暮れ続け、いずれは厄災へと至る可能性を孕んでいる。

あるいはオーロラがメリュジーヌに愛を示すなどの行動を取ればどうにかなったかもしれないが、空を飛ぶ彼女に近づく事もできなければ、そもそもとして、今この状況を知る事もない。

状況は絶望的である。

 

徐々に、メリュジーヌのとしての意識が薄れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに、変化が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

メリュジーヌの遥か上、丁度背中の真上に当たる位置に、()()()()()()()()

その輪は、別の場所と次元を繋げる特殊なゲート。

 

 

今この妖精國に、そのゲートを開くことが出来るのはただ1人。

 

その男は、ゲートから飛び出し、スカイダイビングのように両手足を広げて、メリュジーヌの背中へと、落下していく。

 

メリュジーヌの誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)に消しとばされたはずの、相馬透だった。

 

 

透は、気付かないままのメリュジーヌの背中に着地し、その両手を背中に当てる。

 

「俺の、勝ちだ――」

 

「――ッ」

 

その宣言と共に、稲妻が、メリュジーヌの体を迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

透から発せられた雷によるショックで、意識を取り戻したメリュジーヌ。

 

先程までの絶望感が薄れ、意識を体に向けてみれば、わずかな痺れを感じたものの、それ以外さしたる変化はない。

 

それよりと、今重要なのは――

 

 

「トール……っ トール!」

 

「何だよ、死んだかと思ったか?」

 

「無事だった……!」

 

「――たりまえだろ」

 

オーロラと彼の間で板挟みに合い、結局のところ、オーロラを取った。取ってしまった。

その形として、本能のまま。最大の攻撃(ホロウハート・アルビオン)を放ってしまった。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、それ以上に、生きていてくれた事が嬉しかった。

一度失ったと思ったからこそ、その存在の大切さに気付くものだ。

 

――戦意は、既にお互いに消失していた。

 

 

「この通りピンピンしてる。ま、マジで死ぬかと思ったけどな……」

 

言いながら透は、やってくれたな。と背中を2回軽く叩く。お仕置きのつもりだろうが、むしろなんだがくすぐったかった。

考えてみれば、背中に乗られているのだ、気恥ずかしさが込み上げてくるが、それよりも聞きたいことがある。

 

「どうやって……?」

 

その問いに透が動く。自分からは見えないが、何かをしているらしい。

少し経つと、突然、前方に巨大な光の輪が現れた。その輪の中には、小さく自分の背中が見える。

 

その現状に驚愕するが、回避も間に合わず。その輪を通った瞬間、視界と共に重力の向きが変わった。

地面に対して平行に飛行していた筈の体が、真下に向かっていたのだ。

 

「……っ」

 

「っとと」

 

バランスが崩れ、急ぎ体制を立て直す。その際に、落下しそうになった透が羽の付け根をギュッと掴んだ。

 

「――ひぁ」

 

「あ、悪い! 痛かったか!?」

 

「い、いえ、そ……そんな事はないわ。大丈夫」

 

今まで受けた事のない感触に、思わず声が出てしまった。

 

「今のは、空間転移?」

 

「そういう事だな」

 

 

光線を受け、赤い鎧。アイアンマンのビームで対抗したものの、徐々に押されていくのを確認した透は。背中からスーツを脱いだ。

 

アイアンマンは自立行動も可能なスーツであるため、脱いだとしてもそのまま稼働する。

 

ビームへの抵抗をアイアンマンスーツに任せ、自分は空間転移で脱出。という事らしい。

残念ながらアイアンマンスーツは破壊されてしまったが、元より、ナノマシンの集合体だ。修理は可能。その為の施設もある。

 

しかしこれ程まで気軽に空間転移の魔術を使えるとは、透は実は凄い魔術師なのだろうか。魔法と魔術の違いもわからないのに。

 

メリュジーヌはそう思いながら、飛行を続ける。

 

「ま、切り札は最後まで取っておくってな。卑怯だなんて言うなよ? お前だって、この姿を秘密にしてたんだからおあいこだ。それよりも、この戦い俺の勝ちで良いよな? 最後のヤツは手加減したたけで背中をとって、無防備な所に一撃決めたんだから。俺の勝ち。決まりだ」

 

 

そのあっけらかんとした態度に、本気で殺そうとしていたという罪の意識が薄れていってしまう。

そして、こちらは殺す気であったのにも関わらず、尚変わらない態度に安心してしまう。

一度自分の手によって失なってしまったと思っていた大切な存在が、生きていてくれたその事実に嬉しさがこみあげてしまう。

勝敗などどうでも良かった。

そちらの勝利で構わないと、答えた後、

ひとつ――聞きたいことがあった。

 

「怖くないの?」

 

「何が?」

 

「見ての通り、私は竜よ、鏡の氏族を皆殺しにして、貴方まで手にかけようとした。罪深い、恐ろしいドラゴン。それも既に腐り切った肉が元となった残骸。気味が悪くないの?」

 

 

「……」

 

 

その問いに、透はしばし無言になる。

真剣に考えているのだろうか。

と思えば何だか、背中でゴソゴソし始めた。

「フンフン」と息を荒げている気もするが。

 

 

「別に臭くないぞ。うん、どっちかと言うと良い匂いだ。クセになりそうな匂い」

 

体が傾いた。

 

「あっぶな! おい!」

 

「こっちは真剣に聞いてるのに!」

 

本当に、この男は――

 

そのやり取りの後、透は背中を撫で始める。優しい手つきだった。

 

「まあ……そうだな」

 

しばらく、背中を撫で続ける透。その感触が既に答えのようなものだった。

 

「俺さ、ドラゴンの背中に乗るのが夢だったんだよ」

 

 

「夢を叶えてくれてありがとう」と、伝えられたのは感謝の言葉。それが彼の答え。

受け入れてくれた嬉しさと、腐り落ちるだけだった自分が誰かの役に立てた事への感激と、そんな自分を気遣ってくれる彼の優しさに、胸の奥が熱くなる。涙が流れそうになる。

 

「それに――」

 

「……それに?」

 

透が何事か呟こうとしたのだが、彼は言葉を止めてしまった。

 

「ああ、いや、その……さ……」

 

言いにくい事なのだろうか。

 

彼は暫く迷った後、口を開いた。

 

「俺さ、大元の、俺が生まれた世界をさ、滅ぼしちまったんだ」

 

それは、言い渋るのも当然の、とてつもない内容だった。

 

「元々俺の世界はとある世界の代替品だったんだ。色々調べたけど、この世界で言う汎人類史に近い歴史を辿ってるっぽい。凄いだろ? 人間が、その叡智の力で、世界そのものを作り上げたんだ」

 

彼から語られる内容は、信じられないことばかりで。

 

「そこで、俺はその世界を作った創造主に、神の子として選ばれた」

 

それを語る彼が震えているのを、背中の感触から感じ取る。

 

「世界を作るのは2度目らしくて、一つ目は内部に裏切り者がいたりだとか、その世界の人間の反乱があったりだとかで失敗したんだ。ウケるよな。そんでさ、大半の人間が世界創りを諦めて。諦めなかった奴らで作ったんだけど、その2個目の世界は欠陥だらけ。俺は、神の子なんて言われたけど、程の良い欠陥部分の処理係。俺は、欠陥、その世界の生命体全部をこの手で皆殺しにしたんだ」

 

そう語る彼はとても苦しそうで。その話が決して、作り話ではない事を物語っていた。

 

「――なあ、俺の事、怖いと思うか?」

 

きっと、この話を始めたのは、自分を気遣っての事なのだろう。

俺の方が恐ろしいと、俺の方が罪深いと、他人を上げる為に自分を下げる不器用な慰め。

 

そして、彼があの湖水地方で、1人でいても構わないと宣言していた理由も納得できた。

彼は、本音では誰かと共にありたいと思っていても、世界を滅ぼしたという罪が、自身が怪物であると言う自負が、孤独でも構わないという考えに至っているのかもしれない。

 

私の為に、震えながら身の上を語る彼を、優しくて不器用な彼を、恐れるはずは無い。

 

怖くないと、直接言うのも何だかそれは違う気がして。

 

「私、背中に人を乗せるの、初めてなの」

 

「? ああ、そうなのか?」

 

「乗せる事すら考えたことがなかったけれど。貴方を乗せて、飛んでいると思うと。貴方の夢を叶えてあげれたと思うと、それがね、それが、凄く嬉しい」

 

精一杯、彼を受け入れたいという思いを言葉に変えた。

 

「――ありがとう」

 

その会話を最後に、2人は純粋に、空の旅を少しばかり楽しんだ。

 

お互いの罪を、弱音を、色んな事を共有した二人。その絆はより一層深まっていった。

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