世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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2022/1/25

申し訳ございません。過去編、一部変更し、断章として前半の方に投稿させていただいたなですが、大まかな流れはこれからの話に変更は無いのですが、細かい言葉遣いなどに若干の矛盾が生じるかもしれません。
こちらに関しても鋭意修正中でございます。
申し訳ございません。


過去(妖精歴)編
旅の途中


彼と同行するようになってから、当然ながら旅路に変化が訪れた。

 

 

「この魔女め――!」

 

 

とある森の中。

いつも通りの罵倒が木霊する。

 

妖精達のいつもの仕打ち。

 

彼らは石を投げようとそこら辺から拾い上げる。

比較的優しい方だ。石を投げられる程度で済んでいるのだから。

 

正直な所、ショックを感じる事もない。慣れたというか、飽きたというか。

 

いつもと違うのはもう一人同行者がいる事。

彼はどう思うだろうか、嫌な気分になっただろうか。同行するのは嫌だと言い出し始めるかもしれない。

それはそれで構わないと思いつつ、魔術で石を防ごうと呪文を唱えようとした瞬間、突然彼は、私の肩を抱き、引き寄せた。

 

「――ひゃっ」

 

集中が途切れ、魔術が発動できなくなってしまった。そのまま、庇われる様な体制になり、妖精との間に彼が間に入る位置取りとなった。彼は私の体からその手を離し、飛んでくる石を腕で庇う。

 

その彼の行動に少しばかりの高揚感を覚えてしまって。

 

「――どうする?」

 

「え――?」

 

飛んでくる石から私を庇いながら、訪ねてくる。

 

気が動転して、ボーッとしてしまっていた。

 

そうだ、そんな場合ではない。

 

「とりあえず、逃げましょう」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

退却の判断を下した瞬間、彼は私を抱えあげ、思い切り跳躍した。木々を突き抜け、空へと上がる。飛行と見紛うばかりの高さの跳躍に驚きつつ、一瞬で彼らとの距離を離す。

 

そのまま落下。再び木々の中に突っ込んで行く。

地面に着地し、体を下ろしてもらう。

改めて彼に視線を向けると、心底不思議そうな顔をしているが、それ以上に気になってしまう事があった。

 

「頭――」

 

額から血が出ていた。恐らく先程の石が当たったのだろう。

 

「いけない!」

 

慌てて、怪我を治そうと魔術をかけるが、全く効かない。

 

「……そんな!?」

 

何故なのか、異世界の人間だから? 厄災に触れても平気だったのはそれが理由?

 

慌てふためく私を尻目に、彼は、倒れている木に座り込み、上着のポケットから取り出した布を額に当てた。

 

「大丈夫。すぐ治る。多分」

 

言いながら、彼は、流れる血をふき取っていく。

 

しかし、拭った傍から血が溢れ出し、また顔を汚していく。

 

当て方が下手というか、何だか凄く不器用に見えて、いてもたってもいられなくなり、彼の手から布を奪う。

 

「……?」

 

不思議そうに見る彼を置いておいて、傷口に布を当てる。

 

「やらせてください」

 

「…………」

 

押し黙る彼に許可を得たと判断し、布をそのまま傷に当て続ける。

 

正直な所、怪我の類は魔術でどうにかしていた為、治療の仕方がわからない。

 

彼の自然治癒力にまかせるしかないのだろうか。

 

そのまま布を当て続けていると、彼は自由になった手で、たくさんある上着のポケットから箱を取り出した。彼のセカイの物品だろうか。その箱には絵が描かれており、読み取る限り、傷に当てる類の物か。

 

「それは?」

 

「傷を塞ぐテープ」

 

説明され、一度当てていた布を離す。止血は済んだ様だ。

 

そのテープとやらを貼ろうとしているのだろうが、何せ額だ。自分自身んでは見えないだろう。

位置取りがうまくできるようには思えない。

 

「私にやらせてください」

 

了承を得る前に言いながらテープを彼から取る。

 

「……傷に直角に貼るんだ」

 

彼も素直に使い方の説明をしてくれた。

指示通りにテープを貼る。これで良いのだろうか。

 

「大丈夫。多分」

 

先程から”多分"ばっかりだが、本当に大丈夫なのか。

 

訪ねてみれば。

 

「あの人がこうしてたから、合ってると思う」

 

どうやら、自分で傷を処理するのは初めての事らしい。

 

相変わらず話題に出て来るあの人。

 

彼に多大なる影響を与えたであろう誰か。

 

私と重ねている誰か――

 

問い質したい思いと触れてはいけないという思いに焦燥感に駆られるが、心の中に推し留める。

 

何にせよ、今後ああいった事はしないようにと伝えておかないと。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

訳のわからない事を言いながら石を投げる妖精達。

 

咄嗟に体を動かす。

 

彼女、モルガンを抱き寄せ、体勢を入れ替える。

飛んでくる石から彼女を庇いながら、思う。

 

どこの世界も変わらない。妖精も、人間も、不死身の怪物も、他者を傷付ける事を主目的に動いているのは同じらしい。

そこに嘆きも無い。何の感情も湧いて来ない。

 

モルガンの指示に従い、退却する。

 

その後の流れで、傷を治療する事となった。最初は彼女の魔術で治してくれようとしていたらしいが、どうやら俺に魔術の類は効果が無いらしい。

 

元より構わなかった。怪我等覚悟しての行動だったし、そもそもこの程度の怪我でどうこうなるとも思わない。

 

上着から治療道具を取り出す。元のセカイで手に入れた。どこに何を入れたか、わからなくなるくらいポケットが沢山あるこの上着。

 

指示通り、治療道具は常にいっぱいに補充していた。そこら辺の薬局で揃えられる様な簡易的なものばかりだが、こういう時に役に立った。

この妖精國ではもう手に入らないが。

 

自分で治療をしていると、見るに見かねたモルガンに全部取られてしまった。彼女が治療をすると、そう言った。

そこにまた、あの人を感じ取る。必要もないのに誰かの為に行動するその性質。

 

治療をするその手際は、あの人に遠く及ばないが、あの時は気付くことが出来なかった高揚感みたいなモノが体を巡る。自分の体が熱を持ち始めるのがわかった。

 

そんな事を思っていると、一つ彼女に忠告された。もう自分を庇う様な事はするなと。あの程度なら自分でどうにかできると。

 

だがそういうわけにもいかない。

 

彼女は、この世界に必要な存在だ。彼女の様な存在がいなければ、いつかセカイはどうしようもなくなり、ある日自分の様な存在が生まれてしまう。外様の自分と彼女。どっちがこの世界にとって大切な存在か。

 

考えるまでもない。キミは大切な存在だと、その事を懇切丁寧に説明する。

 

その言葉に、彼女はなぜか頬を染めたが意に介さずにもう一つ、事実を突きつける。

 

「魔術で防御すると言っていたけど、最初の何発かは間に合う様には見えなかった」

 

彼女の顔が更に赤く染まり、ばつが悪そうな表情になった後、顔を顰め、そのまま顔を逸らされてしまった。

 

怒らせてしまったのだろうか?

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

自分でいうのもなんだが上手く会話が出来る様になって来た気がする。

 

何をすると喜ぶか。何をすると怒るのか。何をされると悲しむのか。わかるようになってきた……気がする。

 

俺は、彼のように喋れているだろうか。彼のような表情を作れているだろうか。

 

湖に映る自分の顔を見て表情の練習を試みつつ、彼を思い浮かべ、彼の行動を参考にしながら。彼女との旅は続いていく。

 

 

 

主な仕事は厄災の縮小版。モースという存在らしい。そいつを討伐する事。

そして、争いばかりの妖精の調停を担う事。

 

前のセカイの様に逃げ続けるだけとは違う。

戦わなければならない。それは、非常に難しい事だが、不死身ではないのが救いではあった。

 

何度も何度も戦って、モースを倒して、妖精を説得して、恨まれて、襲われて、同じことの繰り返し。

彼女はそれでもめげずに戦い続ける。

自分はそれを支えるだけ。添え物の自分にできる事はそれだけ。

 

彼女が傷つかない様にと、時には相手を倒し、あるいは庇う事で、彼女を守る。

その行動に最初は彼女も色々と言ってきたが、今は受け入れられていた。

 

そんな風に過ごしていると、ある日、彼女とは別行動を取ることになった。

モースの出現と、妖精同士の争い。

 

近くで、同時に起こってしまった。

 

どちらか一人しかいないなら、切り捨てることで諦めもつくが、彼女は諦めきれなかった。

 

彼女が願うのならば、それを叶えるべきだろう。守る以外にも役に立てる事もある。そう訴えたのは彼女自身。

 

だからこそ、彼女を護るばかりではない選択肢を選び取った。

 

モースは俺が、妖精の調停は彼女が。

 

また妖精に石を投げられたり、殺されかけたりするのではと心配だったが、話し合いに自分は不向きだ。

適材適所という意味では、その選択は正しかった。

 

「任せてください!」

 

そう言って、グッと力瘤を作る彼女に手を振って、モースの発生場所へと向かっていく為に、道を別れた。

 

 

 

モース毒の効かない自分にとって、彼女が対峙するよりも余程相性が良い。

モース程度、どうとでもなる。さっさと済ませて、早くモルガンと合流しなければと、そう思いながら向かってみれば。

 

現場へ辿り着いた時。その解釈は誤りであると気づいた。

これまで、彼女と共に相対していたモースの数は最大にして十数体。

 

今、目の前にいるモースは、それこそ数えきれない程の数だった。

視界いっぱいに広がるモース。数十、流石に百は超えていない事を願いたいが、これまでにない程の圧力を感じてしまう。

 

危険を察知する本能が、警告を上げる。死の予感とまではいかないが。どうなるか予測がつかない。

だが、このまま放置しておくわけにもいかない。

 

呼吸を整え、戦闘の思考へと切り替える。気をつけるべきは体を変化させ、出現させるもはや刀剣の類と言っても差し支えない鋭利な爪。

 

戦術を練り、モースの大群と対峙する。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

拳を当てる。叩き潰す。蹴り飛ばす。

数体ならば余裕で対処もできるが、ここまで多いと手こずるどころか命がけだ。

 

攻撃をギリギリで交わしながら対峙していくが、無傷という分けにはいかない。

大きい攻撃を回避するために、あえて小さい攻撃を受ける選択も必要になって来る。

 

ギリギリのラインを攻めながら相対していく。

 

そんな闘いの中、数ある選択肢の中に、あの力が思い浮かぶ。どこか、冷静な自分が、すぐに使えと警告を放つ。

前のセカイの神の如き存在。上位世界者に与えられた雷帝の力。その一端。

 

だが、それだけはダメだ。その力だけは絶対に使うわけにはいかない。何が起きるかわからない。

 

このまま暴走してしまえば、あるいはこの妖精國を滅ぼしてしまう可能性がある。

 

モースからの背後からの攻撃に、即座に反応、反射的に雷撃を放ちかけ、それを全力で静止する。

その思考が、行動に隙を与えてしまう。結果無駄な傷が増えていく。

 

それは、モースとの闘いだけではなく、自分自身との闘いでもあった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハッーー」

 

膝を就く、そのまま、倒れこんでしまう。

 

どうにか、致命傷を避けながら、戦闘を終了した。

 

仰向けになる。黄昏の空を見ながら呼吸を整える。喉が渇いた。近くに川はあっただろうか。

考えあぐね、そのまま眠ってしまいそうになったが、すんでのところで意識を保った。

 

横合いから声がかかったのは、そんな時だった。

 

「大丈夫ですか?」

 

――それは、妖精だった。

 

緑を想起させる様なその見た目。服は少しほつれていて、所々に怪我があるように見受けられる。

モースにやられた傷ではない。妖精同士の争いか、獣に襲われたか……

 

疲労困憊な今、上半身を起こすので精一杯。

そんな俺に彼女は木の器を差し出した。

 

「どうぞ、お水です」

 

「え――」

 

「ぜひ飲んでください」

 

「何故?」

 

「だって、とっても頑張ってくれたんですもの――」

 

「頑張ってくれた……」

 

彼女の言葉を反芻する。妖精から、そんなふうに言われたのは初めてだった。そもそもとしてモルガンならまだしも、添え物のような俺に、声をかけるなんて。不思議な暖かみが体から溢れてくる。

 

「そう、あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

 

「……トール、だけど」

 

答えながら木の器を素直に受け取った。

 

「では、トール様」

 

中には綺麗な水が入っている。

 

「いつも、わたしなんかを、わたしたちを、まもってくれて、ありがとう」

 

「あり……がとう……?」

 

 

 

 

その言葉に、色んな出来事がフラッシュバックする。

 

助けてくれた彼、それに集まる自分以外の子供達。

 

ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう。

 

そう、口に出す子供達と、それを笑顔で受け取る彼。

何も言わずにそれを遠巻きに見ている自分……

 

ああ、俺は、なんて――

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「――」

 

彼女の言葉に意識を戻す。

 

「あ、ああ、うん、大丈夫……ありがとう。飲まずに大切に保管しておくよ」

 

「え――?」

 

「……いや、何でもない」

 

食料の分杯の際、受け取るときにあの人が良く言っていた言葉なのだが、周りの人と何か反応が違う。あの時は皆笑っていたが、彼女の表情は絶望に染まっていた。

 

何がいけなかったのだろうか。

 

考えても思い浮かばないので、ひとまず、彼女からの施しを受けることにする。

 

目の前で水を呑む。美味しい水だ。恐ろしい程に体が回復していくのは何故だろうか。

 

「ありがとう。美味しかった」

 

あの人の顔を思い浮かべながら、習うように表情を作る。

 

このまま倒れこんでしまいたいが、せっかくの施しだ。

 

水のおかげで体が回復したと、アピールしなければ。

 

「——よかった」

 

そう言い残して、彼女は去って行った。

 

不思議な気持ちだ。ああやってわざわざ声をかけて礼をしてくれるような妖精には初めて出会った。

 

そんな気分のまま。彼女を見送った。

 

この時、彼女の状態にもっと疑問を持つべきだった。

 

大群のモースとの戦闘。妖精に礼を言われたという意外性。言い訳はいくらでもあるが。この時、何も考えずに彼女を見送ってしまった。

 

それを後悔する事になるとは、この時、微塵も思っていなかった。

 

 

 

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