最新章では割と過去のお話が関わってくるので(と言ってもそこまで関わっては来ないんですが)
一応の説明は入れておかないと、というレベルで書き始めたのですが、
ダイジェストで済まそうと思ってたら割と長くなってしまっておりまして。申し訳ございません。
お付き合いいただければ幸いです。
何度目かの別作業。
モース退治はトール君。妖精の調停は私。
それぞれ互いの適性を加味した上での別作業。
妖精の調停はつつがなく終わった。無感動に、無感情に、決められた作業をこなすだけ。
魔女と罵られたがどうでも良かった。今は、そう、早く彼の元に行きたかった。
彼、トール君と出会ってからどれくらい経っただろうか。
モースを払い、厄災を払い、妖精の争いを調停する。
そんな作業をこなしていく日々。
お互いに、少しずつ打ち解けてきた。
彼も、言葉に違和感がなくなって来て。表情も少しずつ豊かになって来ている。
最初の言葉のぎこちなさはとうに消えている。話し方を完全に自分のものにしているようだった。
それもあってか本心でありながらどこか借り物のような彼の言葉も自然になって来た。
それは、彼自身の努力の賜物でもある。
ある日湖で水面に映る自分を見ながら、睨めっこをしているのを見つけた時は不謹慎だが笑ってしまった。
彼と色々な話をするようにもなった。日々の相談事はもちろんの事。
彼の、汎人類史かどうかも定かでは無い異世界でのお話。
どういう世界だとか、どういう生活をしていたのだとか、そう言った基本的な話題では無い。
何せ不死身の怪物が存在する世界だ。そういう話はきっと彼にとっても辛いものだろう。
話題に上がるのは、学術的な話題だ。量子力学がどうだとか、カオス理論がどうだとか。
不確定性原理がどうだとか。
魔術とはまた違う、科学という分野からの世界の認知。
そう言った話はとても新鮮で、彼の話す科学的理論は魔術的理論に近いようで遠いものだ。
この妖精國においても、汎人類史においても、世界の成り立ちの殆どを魔術的理論において説明する事が出来るが、彼の話す科学的根拠による摂理もまた。一つの解であるとも言える。
そんな知識を披露する彼に、たくさん勉強したんですね。と賛辞の言葉を送ったら、目を逸らされた。
「いや……そういう記述を
恥ずかしそうに顔を逸らすトール君。何だか可愛らしい、そんな場面も良く見れるようになって来た。
そんな風に、少しずつ会話を交えつつ、日々を過ごす。だがそんな中、一つ、不満があった。
厄災や妖精との戦いの際、彼はいつも私を庇うのだ。止めようとしても全く聞かない。私が怪我をしても魔術で治せるけれど、彼の怪我は治せないというのに。
彼のいっぱいのポケットに入っている治療道具も、いつかは底をつくと言っても言っても聞いてくれない。
自分のことは自分で守れると、何度も言っているのだが
「防御のタイミングが遅かった」
「後ろからの攻撃に気付いていなかった」
「その防御障壁だと貫かれそうだった」
「なんかボーっとしてた」
とまあ、グチグチとこちらの迂闊さを指摘するのだ。
正直な所腹立たしい。特に最後のは納得がいかない。
そんな事をしてばかりいるから、トール君は、たくさん傷を負ってしまって。
そのお礼にと治療するのが、私の役目になっていた。
私自身の怪我だったら魔術で簡単に治せるのに。
私自身の怪我は確かに減ったけれど、そのかわり、彼の治療という手間は増えてしまった。
そこばかりは不満は尽きない。
尽きないのだが、段々と、そうやって過ごすうちに、不謹慎ではあるけれど、その事を嬉しく感じてしまう私もいて――
厄災を払い、妖精を調停し、トール君に守ってもらってそしてトール君の世話を焼いて。
愛するブリテンの為のこの手段に、新たなサイクルが生まれていた。
これまで一人でずっとやって来たこの手段も、二人でする事に慣れて来て。
息も合うようになって来た。
彼が前衛。私が後衛。
最初は魔術を撃つ時に、下がるよう指示をしたりする様になっていたけれど、今は、こちらから指示をする事もなく、見ることもなく、私の魔術による攻撃を自然と避けながら動く様になっていて。
『でもそれは、どうか魔女様がお飲み下さい。とっても頑張っていたんですもの――』
元々気に入って来ていた手段そのもの自体に、更に新たな楽しさや嬉しさを見出すようになっていた。
そんな中、トール君も、妖精國での過ごし方を少しずつ学んで。少しずつ慣れて来て。だから、効率の為、それぞれ別れて作業をする機会も増えていった。
モースを彼が、妖精の調停は私が。そんな作業も何度目だろうか。
それまで、ずっと1人でやって来た。とっくのとうに慣れている。その筈なのに、今は、1人でいる事に寂しさを覚えるようになっていた。
時には2人で、時には1人で。そんな日々。
お互い怪我をする事もあった。トール君が私の怪我を見るたびに、慌てた顔をして、自分の治療道具をすぐに使おうとするのだが、私の怪我は魔術でどうとでもなるのだ。問題なのは彼の怪我の方。
ある日、別行動の後、合流したら、これまでに無いほどの傷を負っていた。
聞けば、想像以上の量のモースがいたらしい。
そのおかげで、彼の持つ治療道具の類も一気に減り、底をつきそうになっていた。
だから、やはり一緒に周ろうという提案もしたのだが、断られてしまった。それは厄災を、モースを、放置するわけにもいかないという私の想いを配慮しての事。
そんな彼の決意は固い。それがわかってしまうから、貴方に傷を負って欲しくないと、そう伝える事も憚られた。
ある日、互いの作業を終えた後、合流地点に向かってみれば、彼の姿は無かった。いつも、そう、一番怪我の多かったあの時だって、彼は合流地点に先にいたのだ。だから彼がそこにいないのは、はじめての事だった。
――ゾッとした。
モースが思ったよりも多かった? 他の妖精に襲われた?
あの時、彼の決意を押してでも、怪我をしてほしく無いと、訴えれば良かったと、後悔の念が襲いかかる。
モースや彼の残滓を追いながら、現場へ向かう。
異常を察知したのは、もうすぐ彼の姿が見えるかも、と期待を抱いた時だった。
空気がおかしい。いやそれだけでは無い、黄昏の空に暗雲が一瞬で現れた。厄災の前兆とも違うその空。
妖精國ではありえない、その異常。
その異変に気付いたと同時に、彼を見つけた。
彼は膝を突き、何かを抱えている。
周りには複数の妖精。
妖精は、どこか興奮しつつも怯えているように見える。
それを確認し、声をかけようとしたところで。
「トールく――!」
雷鳴が、轟いた。
***
彼女と出会ってから、どのくらい経っただろうか。
彼女の、妖精國平定のための救済行動。
その作業も殆どルーティーンと化していて、俺にとっても日常的な行動となっている。
そんな事もありながら、日々を過ごす。
彼女と触れ合いながら、俺は何のために今、彼女と行動をしているのかとより深く考えるようになった。
あの人のような光を照らす存在が苦しむのを見たくない。それがきっかけだとは思う。
ただ今は、いつからかは覚えていないが、彼女――モルガン自身の苦しむ姿を見たくない。笑顔でいて欲しい。そういう思いから、行動するようになっていた。
彼女がいると安心する。彼女が悲しむ顔をすると、嫌だ。その身体に傷がつくのを見た時は、心臓が張り裂けそうだった。
傷付けてはいけないと、より強く思うようになっていた。
だからこそ、彼女にどんなに護る必要はないと言われようと護るのだ。彼女が傷付く、僅かな可能性も排除する為に。
彼女自身が望まなくとも、それが自分のやるべき事、やりたい事だと自覚する。
彼女が、護る必要は無いとこれまで以上に強く言って来た時、そう言うわけにはいかないと、説得する為に彼女が傷付く可能性のあった場面をひたすら羅列して口に出したらこれまでに無い程不機嫌になった。正直焦った。
何もかも、度が過ぎてはいけないと言う事を学んだ。だから、例え危険であろうとも、彼女の望む事も尊重しなければならないと学ぶようにった。
いつも通り、二手に分かれて行動する。モースは俺が、妖精は彼女が。
その役割分担も板に付いて来た。
あの時の大量のモースも出会う事は無く、あれに比べれば消化試合のようなものだ。
厄災と言われる災害も、周期は長いそうで、しばらくは起こることはないとの事。
いつも通りモースを倒して終わり。
その筈だった。
モースを討伐し終わった森の中、周辺にまだ残りはいないかと探っていたその時、夥しい木々の群れの中。その中にあった木の無い空間。陽の光の入る、明るいその場所に。
倒れている少女を見つけた。
いや、見つけてしまったと言うべきか……
その姿には身覚えがあった。
あの時、水をくれた、妖精であり――
誰かの為に施しを与える事ができる。優しい少女で――
手足がもがれている状態だった。
「な……ア――?」
トールの喉からおかしな声が漏れた。
少女の側に即座に駆け込む、ボロボロになったその体を持ち上げる。
息はある。まだ生きている。
「おい、なんで、何が――!」
答えられないのは分かっていても、声を掛けずにはいられなかった。原因を探る。選択肢など、そこまで多くはない。モースか、獣か、それとも――
そう思考を巡らしたところで、木々の向こうから、複数の影。
「あれ、人間がいるぞ」
妖精だった。
「なんだ、せっかく遊べるおもちゃを見つけたのに」
「邪魔をするなよ人間」
「いまから、ソイツでもっと遊ぶんだから」
そう、続け様に語る彼ら。
「あ――?」
その言葉だけで、全てを察する。
ふつふつと何かの感情が湧き上がってくる。
頭の中を何かが乗っ取ろうとしている
本能のようなものが、体を動かそうとしている。
――ダメだ。
トールの理性が、それだけはヤメロと、体を静止するよう脳から電気信号を発信する。
――ダメだダメだダメだダメだ!
微弱な筈の脳からの電気信号を
それは、電気信号が稲妻となって体外に排出され、可視化できるほどのものである。
本能を抑え込もうと、力を込める。
絶対に、力を振るうわけにはいかないと、手を尽くす。
――そうだこいつもおもちゃにしちゃおうよ
だが、それも無駄だった。
本能を、怒りを抑える為、理性を以って制御しようとしていたその行為。だが、これは上位世界の者によって与えられた力。常に感情を制御され、常に操られている様なものだった彼。
当然ながら制御する訓練すら行っていない。
怒りという本能と、力を振るうわけにはいかないと言う理性の戦い。
そこに妖精からの殺意と攻撃によって、防衛本能が加われば、理性など、勝てるはずもなかった。
トールの身体から、紫電が迸った。
トールを襲おうと近づいた妖精が、一瞬で灰と化した。
「――――ッ!!」
トールが叫ぶと同時に、妖精國そのものを揺るがしかねないほどの雷鳴が轟く。
残りの妖精達の耳に、その音が届いた頃には、既に、体は分解され、灰となっていた。
***
『雷帝』
トールのセカイの元となったセカイにて、
ある意味ではトールのセカイが出来上がる事になったきっかけでもある存在。
天野銀次という青年が、様々な事象をきっかけに変貌する。感情を持たない攻撃本能そのものの様な存在。
その力と同様の物を与えられたトール。
覚醒のスイッチは様々あるものの、その基本は同じ、
覚醒した途端、トールの苦しみを消し去るためだけに容赦ない攻撃を繰り返す殺戮兵器。
その苦しみを消し去る対象はどこまでを設定してしまったのか。それは、トール本人でさえわからない。
だからそう、トールの名を呼びながら近づいてくる少女が雷帝にとって、どう認識されているか。
それはトールにも分からない。
量子力学:ゲットバッカーズの根幹を為す考え。MARVELであればアントマンが関わってくる。MCU版アベンジャーズにおいてはこれがなければ、エンドゲームは成り立たなかった。
カオス理論:ランダムな現象を数学的に予測しようとする試み
不確定性原理:ゲットバッカーズにおいて、とある人物の能力を説明する例として使われている。
その人物が想像出来ない現象は起こりえないというモノで、これによってその人物は死を想像できないという理由で不死身であり、この世の全てのものを切断する光のナイフもそんなナイフは想像できないという理由で無力化している。あくまで例えとして言われているだけで、能力名と言うには語弊がある。
上記3つに関しては全てゲットバッカーズ内で語られてはいますが、実際の学術理論としては作者はちんぷんかんぷんです。
量子力学、わかりやすく。不確定性原理、わかりやすくとかで検索したら、結構楽しめた事だけはご報告しておきます。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない