世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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ウッドワス

 

言うなれば地獄絵図だった。

 

 

中央には煌びやかなシャンデリア。

 

白を基調とした壁や床。同じ様な色彩でクロスを掛けられた丸いテーブル。

 

フルコース料理を振る舞うような敷居の高い高級レストランだった筈のそこは、全てが荒らされ散らかされており。

 

そこそこの数の人間、及び妖精が倒れ伏していた。

 

まさしく死屍累々。

 

見るものが見れば大量殺戮の現場。

 

に見えなくもないが、そこかしこに転がっているジョッキやグラス等が一抹の不安を取り除く。

 

有り体に言えば全員酔い潰れていた。

 

その中に一人、巨大な狼男の胸の中で眠っていた男がムクリと起き出す。

 

「っつ――」

 

あまりの頭痛に頭を抑え、暫く経った後、周りを見回す。

 

その惨状を見回し。

 

「やっべ……」

 

そう一言、呟いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

正直なところ戸惑いしかない。

 

運ばれてくる料理に目を向ける。

 

俗に言うフルコース料理というやつだ。

 

一応、こう言ったテーブルマナーが必要な席についた事はあるが、知り合いの金持ちがジャンクフード好きで、パーティ形式の贅沢ばかりだっただけに、こういう形式は慣れていないのも事実。正直なところ緊張していた。

 

というかあまりにも意外すぎる。視界に入る全ての情報が、チグハグでなんとも理解し難い。

 

いかにも、素手どころか手を使わずに飯をかっくらってそうなビジュアルの狼男が、ジャケットを着こなし、ナプキンをしっかりとかけ、料理を待っている。

 

思えば始まりからして、意味が分からなかった。

 

あの妖精が、特に人間を弱者と見下しきっている牙の氏族が、それもその長が、人間である自分に礼を言って。

それどころかこうして街のレストランに案内するなど意外にも程がある。

 

目の前にいる妖精の名はウッドワス。場所の名はオックスフォード。

 

妖精國の中でも随一のレストラン街である。らしい。

 

料理が運ばれてくる。朧げながらテーブルマナーの記憶を引っ張り出しつつ、実行する。

 

「ほう、それなりのテーブルマナーは心得ているようだな」

 

感心したように呟きながら料理に舌鼓を打つウッドワスに、苦笑いで返しながら、料理を口に運ぶ。

 

コレが何とも美味い。

 

最初は味を感じられる気がしなかったが、戸惑いもそこそこに今は料理に意識を向けなければ失礼だと、ちょっとした会話を挟みながら食事を進めていく。

 

主に、ウッドワスの経歴。そして女王陛下への敬意と威光の説明。

 

2000年もの間、この國を護り続けた偉大な女王。上級妖精であるウッドワスは先代からの記憶を引き継いでおり、先代から数えれば、最初期から彼女に仕えていたという事である。

 

成る程、妖精國の全てが彼女を嫌っている。というわけでもないらしい。

 

他者を敬わない妖精には珍しく、忠義に熱いというかなんというか。不思議な妖精だなと感じていた。

 

今の所、トリスタン含め、2人目の、親切というか、俺にとっては良い妖精かもしれない。

 

それにしてもこちらの返答を待たずにどんどん会話が進んでいく。壁に話していても成立するのではないか。というぐらい、話が尽きない。

返答にこまるが、こういう時にはこう対象しろ。と言っていたのは、何かの恋愛雑誌だったか。プレイボーイ代表のトニー・スタークだったか。いや、どこかの学生が言っていたかもしれない。

 

「排熱大公ライネックの次代、『モース戦役』において、モースの王を倒した勇者――それが私だ」

 

「すごいな」

 

「ほう、この偉大さが理解できるか。そう、私はモルガン陛下と共にもっとも長くブリテンを護ってきた――氏族の誇りなのだ」

 

「なるほど」

 

「だが、ここ最近モースも増え、反乱軍の様な不届き者も出現している」

 

「悪いのは君じゃない」

 

「ふむ、ありがたい事を言ってくれる。だがわかっていても、嘆かわしいのだ」

 

す、凄い。本当に会話が成立している!

 

そんな事に1人感心しつつ、誰が言ったか覚えていないので、恋愛雑誌及び、トニー、及び、どこかの学生に礼をしつつ、相槌を返しながら料理に舌鼓を打つ。

 

――それにしても、このテリーヌっぽい何か。美味いな。ポートワインに凄く合う。グビグビいけるぞ……

 

思えば、この行動が良くなかった。

 

美味い料理に美味い酒。久々の他者を交えた食事。

酒もあって気分も高揚している。楽しんでいれば気が抜けるものだ。その為、つい、癖が出てしまった。

 

「このワイン本当に美味いな!」

 

「ふむ、そうだろう、それは、我がレストランの誇るソムリエ――」

 

「もう一杯!」

 

――パリィン!

 

 

 

 

 

 

 

 

――空気が凍った。

 

やってしまった。

 

その場にいた全員がこちらを見る。

 

そこかしこを世話しなく動いていた給仕も静止していた。

 

もう一つの故郷。アスガルドには、おかわりを要求する際、食器を叩き割る習慣がある。

 

殆どの文化ではあり得ない作法であり、基本的には控えていたのだが、つい、癖が出てしまった。

 

「わ、悪い。故郷の習慣でつい……! すぐ片付けるから」

 

慌てて、弁明をしながら割ってしまった食器を片すため席を立つ。

 

フリーズしていた給仕も動き出し、手伝ってもらいながら片付けを終える。

 

「わ、悪い、いや申し訳ない。ホントつい、楽しくて、俺の故郷だとこうするのがマナーで。癖が出ちまった」

 

「ふ、ふむ。突然何をと思ったが、成る程、國や文化によってはマナーも千差万別という事か」

 

――まずい、空気が宜しくない。周りの妖精がヒソヒソと何事か囁いている。何か、何か挽回しないと。あるいは会話を変えないと。

 

そう思いながら記憶を巡らし、ひとつ思い浮かぶ者があった。

 

「そう、そうだ! 詫びってわけじゃないけど。良かったら良い酒があるんだ」

 

魔術でとある酒瓶を取り出す。

 

美味い酒の礼には、美味くて珍しい酒で返すものだ。

 

「俺も、ウッドワス程じゃないが、そこそこの戦場を渡ってきた。これはその時の戦利品なんだが」

 

「ほう?」

 

「1000年物の酒だ。グランヘル艦隊の残骸の樽で熟成された逸品」

 

紹介しながら、給仕にもらったグラスに酒を注ぐ。

 

「並の者には耐えられない。命の保証は出来ない程強い酒だが、味は一級品だ。排熱大公の息子で、偉大な戦士ウッドワス殿ならイケるんじゃないか?」

 

「ふん、煽るではないか。並の者ではこのブリテンは守れん。良かろう、その挑戦、受けて立ってやる」

 

自信満々に酒が注がれたグラスを持つウッドワス。

 

トールも自身でグラスを持ち、互いに乾杯を交わす。

 

そう、並の者では飲んだ瞬間に倒れてしまう様な宇宙由来の特別な酒だ。

 

人間であればほんの数滴入ったものでも、飲んだ瞬間に倒れてしまう。そんな酒。

 

グラスいっぱいに注いだソレをグイッと一気に煽る両者。

 

――ぷはぁ

 

とため息を吐き出す2人。

 

「ふむ、確かに美味い。1000年もの期間熟成されたというのも納得だ」

 

「そうだらう。もったいなくて俺もなかなか飲むことはないんだ。きちような酒なんら。すっごくすっごくな」

 

ちなみにこのトール。寿命も長く、体も頑丈なアスガルド人の体を得たものの、酒の耐性に関しては、同種族と比べても強い方では無い。倒れる事はないが、一瞬で堕ちてしまった。

 

顔は真っ赤に染まっている。

対するウッドワスもトールほどではないが、心無しか浮ついた様子である。

 

本人は一杯のみのつもりだったが、一発で酔っ払い、酒を褒めるウッドワスの態度に機嫌を良くして、トール自ら酒を注ぐ。

 

それを無言で受け、今一度一気に煽るウッドワス。

 

「うむ、やはり美味いではないか!」

 

――パリィン!

 

彼も堕ちた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その後は、もうてんやわんやだった。

 

「フハハハハ! この作法! なかなか気分が良いではないか! そら、もう一杯だ!」

 

――パリィン!

 

「そう、そうなんらよ! でもコレをやると大体怒られるんらよぅ」

 

――パリィン!

 

「それは、不憫な事だ! 良かろう! 貴様の故郷()()()()()式のマナーを取り入れたレストランを考えてやらんでもない!」

 

――パリィン!

 

()()()()()だっつーの! でもうれピー! ()()大公万歳!」

 

――パリィン!

 

()()大公だたわけ者め!」

 

――パリィン!

 

 

もうめちゃくちゃだった。

 

ウッドワスとトールの周りは砕けたグラスまみれになっており、それを片付ける給仕達もてんやわんやである。

 

それを見たトールが、給仕達に勝たす必要は無いと指示を出し、変わりに、どこからともなく取り出した酒の入ったジョッキを給仕に手渡し、同じ様なジョッキを持ったまま、机の上に乗り上がり、ジョッキを天に掲げる様にして宣言する。

 

「この様な美味い酒と飯を与えてくれたウッドワス殿と、誇り高きオックスフォードの戦士達に感謝を!! その礼に、このアホガルドの第一王子、トールと、ブリテンを守る大英雄! ウッドワスの出会いを祝して、宴を始めたい!こっから二次会!レッツパーリィだ!」

 

「ハハハハ! 貴様、自分で言えていないではないか!!」

 

 

そう宣言した途端、トールは手を広げ印のような様なものを指で描く。

 

瞬間、全てのテーブルに、さまざまな酒が現れた。

 

カマータージの魔術をもちろんアスガルドに伝わる魔術もある程度習得しているトールにとっては酒を出現させるなどお手の物である。

 

トールは元々娯楽の類に全く興味の無かった人間である。

それは妖精歴時代でも培われることはなかったが、その後訪れた異世界で触れ合った人々は皆裕福であり、パーティを多用する文化圏の者達だった。

郷に入りては郷に従え、これぞ人生の楽しみ方だとばかりに仕込まれ、最後に叩きこまれたのが、異世界転移実験にて訪れ、1000年近くの時を過ごしたアスガルドである。

 

アスガルド人は祭り好きだ。凱旋などの度に國を上げた宴会を行う程にである。その世界で王子として育っていったトール。

現在アスガルド人としての記憶が最も濃い今、感謝の印のお持て成しと言えば、無限に酒を煽り続けるパーティ一択なのである。

 

トールの宣言に、戸惑うばかりのオックスフォードの住人達。長であるウッドワスを前に何をするのかとオロオロとしている妖精や人間一同。それに対してべろんべろんになったウッドワスがトールから手渡されたジョッキを掲げる。

 

「構わん! 今夜は無礼講というヤツだ! 皆、アホガルドの王子トールの礼を受け、楽しむが良い!! 」

 

殆どの娯楽を禁ずるオックスフォードの領主とは思えない発言。

殆ど全ての娯楽を封じているオックスフォードだが、唯一許される食事という行為の一環という事が、一つの言い訳になり得ている。

真の原因はトールの持ち出したグランヘル艦隊の残骸の樽から作られた1000年物の宇宙酒ではあるが、アスガルド人、というかトールによって作られるパーティ気分の扇動も大きい。

パーティ気分が世界中に広まり、星すらも滅ぼしかけるのが、アスガルド人。というより雷神ソーである。その同一存在となったトールも、その才能を引き継いでいたのかもしれない。

 

 

日ごろ娯楽を封じられ、鬱屈したものを抱えていたオックスフォードの住人にとっては、初めてと言っても良い解放の機会。

 

何より、日々、誰よりも自らを律し、他者にも厳しいあのウッドワスがこう言ったのだ。その場にいる皆が、その欲を解放し、どんちゃん騒ぎになるのは明白だった

 




グランヘル艦隊の残骸の樽から作られた1000年ものの酒:アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロンより。



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ウッドワス、結構人間の兵士に優しかったり。
強さを認めた者には凄く寛大なイメージ。

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