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モルガンはその碧の瞳を見開き、目の前の光景を驚愕の表情を浮かべ、見つめていた。
不死身の怪物がいる世界から、事故でやって来たという青年。
短くはない旅の中、彼の不器用さに世話を焼き、彼の優しさに触れ、常に自分を守る為に尽くしてくれた。異世界の青年。信頼のおける対象となっていたヒト。
その彼が、今までに見たこともない異様な力を発揮し、妖精達を灰にしてしまった。
そう、信頼できるヒトではあるのだが、彼が言いたがっていなかった過去の出来事を、知らないままと言うのも一つの事実だった。
彼は素直だ。素直に過去の話はしたくないと、そう答えた。
理由は明白。彼が、最初にこの世界のことを聞くために話していた不死身の怪物。
その単語だけで、その世界がどう言う世界なのかを察することが出来るから。
そういう記憶は、口に出す事は愚か、思い出すのも辛いモノだ。
きっと良い世界ではないのだろうと、気を使って確認することすらしなかった。
今を以てモルガンはその事を後悔していた。
彼は今、
ここ最近は表情もだいぶ豊かになって来ていたというのに……今目の前にいる彼は、出会った当初の時よりも、無感情で、その冷たい目に見つめられるだけで、身体が震え上がりそうになってしまう程だった。
なによりも着目すべきは、彼の身に起きている異常。
彼の体には、紫電が走っており、雷で出来たプラズマの球体が彼の周囲を囲む様に浮かんでいる。
アレが彼の体から出たモノなのは明白だ。
どう見繕っても臨戦態勢。
その対象は恐らく自分。
まさしく一触即発の空気の中、モルガンが選んだ選択肢は、声をかける事だった。
「トール、君?」
そう、名前はトール。その名と、あの雷。
汎人類史からもたらされた情報、その知識にある北欧神話に出てくるとある神を思い浮かべるのは考えすぎなのだろうか。
あんな目は知らない。あんな能力も知らない。
少なくとも彼は、石を投げつけられようが、襲われようが、一度も妖精たちに危害を加える事はなかった。身をもってモルガンを庇い、その場から逃げるだけ。
あんな風に、何の躊躇もなく命を奪う人ではない。
本当に自分の知る彼なのか、まず知りたいのはそこだった。
「違う」
そう言葉を発した事が意外だった。ある意味では安心できる答えではあった。
「俺は、雷帝――」
問いに答えてくれた。会話が出来るという事で、どうにか交渉の余地があると希望を抱く。
「雷帝、というのですね、では雷帝さん。何故あなたはこんな――」
そう、さらに問いかけようとしたところで。
「無限城の支配者――」
1人勝手に話し始めた。
「セカイを滅ぼすモノ」
先程の問いは、こちらに答えた訳ではなかったらしい。
まるで自身が何者かである事を確認する様に呟くその姿に、モルガンは更なる不安に苛まれる。
段々と周囲のプラズマが増えていき、雷の激しさも増していく。
その言葉の内容も、その状態も、彼が抱えている少女も、無視できるものでは無い。
モルガンは臨戦態勢を整える。
彼は雷帝と名乗ってはいるが、間違いなくトールその人に見える。別人格か、あるいは、そう見えるだけで別の個体なのか。では自分の知るトールはどこにいるのか。
無限城、彼の言っていた元のセカイにある城。その支配者という事は、雷帝は当然そのセカイに準ずる何かだ。
アレは、あの雷は、魔術に準ずるモノでも、自然の猛威として発生するモノでもない。
雷の特性を持った。違うナニか。
思考を巡らす。このまま大人しく黙っていては事態は好転しない。彼の、セカイを破壊するというその言葉。
抱えた少女、自分の知る彼女であろうあの妖精。
逃げるわけにはいかない。
そう考え、意を決して構える。
「キエロ――」
彼のその言葉が、攻撃の合図。
「キエロォォォォォォ!」
その慟哭から怒りと悲しみがどうしようもなく伝わってくる。
その感情はモルガンの心をも侵す程に強い。
彼の周囲のプラズマが、モルガンへと向かう。
それを防ごうと、魔術障壁を展開する。
だが、それは悪手だった。
あの雷は、こちらの世界の理とは違うモノ。かと言ってこちらの障壁が通用しない理由にはなり得ない。
だが、本能を刺激する恐怖が、あの力には抗えないと、そう伝えてくる。選択肢を間違えたと、悟ってしまった。防ぐのではなく、避けるべきだったと、後悔の念が襲いかかる。
迫るプラズマがゆっくりと見えるのは、死を直前に迎え、神経が異様に研ぎ澄まされた結果だろうか。
自身の死を否応なく想像させられたがしかし、プラズマは、障壁にすら当たることはなかった。モルガンの横を通り過ぎるか、あるいは当たる直前に消失した。
「え――?」
声が漏れる。何故なのか?疑問が浮かぶ。
見れば、雷帝が、こちらを見ながら震えている。
「お前――ッ」
苦しげに呻く雷帝
「お前は、なんだ……ッ」
苛立ちを隠さず、睨みつけてくる。
再びプラズマを放つ雷帝。だが、今度は危機感も、死の恐怖も皆無である。当たらない事が確信できている。
モルガンの横を素通りしていく、雷帝の攻撃。
「モル……ガンッ」
雷帝の苦しげな口から漏れた声は、自身の名前だった。モルガン自身は名前を名乗ってはいない。
雷帝が、その名を知るはずは無い。知る理由があるとすれば――
「トール君……?」
その名を再び呼びかける。
「チッ……ガ……う」
苦しげに呻く雷帝。察せる事はただ一つ、やはりトールと雷帝はそれぞれが別人格であり、彼の中で、肉体の所有権を争っているのではないか。これはチャンスだと。モルガンは彼へと声をかける。
「いえ、あなたはトール君です。じゃないと私を知っているわけがない」
稲妻が消え、雷帝は胸に抱いた少女を片手で抱えたまま、もう片方の手で頭を抱え始めた。
「オレは……トー、ル……じゃ……」
モルガンは杖を下ろし、地面へ投げ捨てる。抱きしめようとするかの様に両手を広げ、敵意はない事を示しながら近づいていく。
「ヤメ……ロ! 寄るな……!」
これ程に強力な力を持った存在が、少女にたじろいでいる
「お願い、トール君。貴方と、戦いたくない――」
心の底から敬う様に、徐々に近づいて行く。
「寄るなァ!!」
叫びと共に放たれる雷撃がモルガンを掠める。頬を焦がし、少しばかりの髪を焼く。
だが、モルガンは動じることも無く、距離を詰めていく。
「キエロ、キエロキエロキエロ――!」
呻きながら雷撃を放つ雷帝。
だが、繰り返す雷撃の全てが、モルガンに当たる事はない。
いよいよ手が触れそうな距離まで詰めた時、モルガンの背筋にゾワリと、冷たいものが走った。
彼の体から帯電する雷。攻撃の予兆。トールの抵抗によって、当たる事はないと思われたその攻撃に、これまでとは違う、明確な殺意が込められているのが感じ取れた。
予兆でなんとなく確信してしまう。これから放たれる雷撃は全方位に放つ類のものだ。
――まずい
そう思った時には遅かった。
体内に溜まっていた雷が放たれる。
かに見えた。
「魔女様?」
それは、平凡な言葉だった。
それは、迸る雷鳴によるけたたましい音の中で確かに響いていた。
それはトールの腕の中に抱えられていた四肢を失った少女の声。
少女が視界に入ったモルガンを呼ぶ、なんてことのない声で、雷帝の動きが止まったのだ。
「バーヴァン・シー……」
声を出したのは少女の名を呼ぶモルガンの方だった。
雷帝の腕の中で首だけを動かしてモルガンを見つめる少女。バーヴァン・シー。
「ああ、魔女様、
バーヴァン・シーが、モルガンに向かってそう挨拶の言葉を掛ける。
「あら?」
四肢の失ったその体で、バーヴァン・シーはなんて事のない様に首を動かす。
「あなたは、トール様」
そう声をかけられた雷帝は目を見開いたまま動かない。
彼女のこの態度は、今この状況にあって明らかに異常だった。
「2人一緒に、いるところに出会えるなんて、とても嬉しいわ。トール様だけじゃなくて、魔女様にも伝えたかったの」
呼吸は乱れ、声も掠れている。今この瞬間、絶命してもおかしくない程に衰弱していることがわかる。
だというのに、自分の今の状態など、なんの問題もないとばかりに、二の次だとばかりに、彼女の表情は晴れやかである。
「ありがとう魔女様、改めてありがとうトール様。わたしたちを助けてくれてありがとう。どうか、おふたりに幸せが訪れるよう、に――」
そう言いながら、バーヴァン・シーは、あまりにも呆気なく息を引き取った。
それを見ることしかできない2人。静寂が訪れる。
先に動いたのはモルガンだった。
視線をバーヴァン・シーからトールに移す。彼の表情はどうしようもない程の悲しみに染まっていて。
「俺、は……」
「トール君?」
「ああ、ああああああ――!」
「……!ダメっ――!」
トールの様子に、危機感を覚えたモルガンの静止も、意味はなさなかった。
バーヴァン・シーによって止まったトールの力の解放もあくまで一時的なものだ。内に溜まったそのエネルギを押し留める事は出来ない。
トールの体から解放される雷が直撃したモルガンは、意識を手放した。
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