毎度の事ではありますが、お読みいただきありがとうございます。
感想や評価等、アドバイスまで、色々と書いていただいて。本当にうれしいです。
更新速度含め色々続けていけるのは皆さまのおかげでございます。
お手間でなければ今後も本当によろしくお願い致します。
グロスター
滅べ――
膝を地面に付いたまま、胸に抱く少女を見る。好き勝手に弄ばれ、好き勝手に傷つけられ、もはや息は無い。ただの死体。
――滅べ
周りを取り囲む醜いなにかが声を発しているのがわかる。
――滅べ
身体中に力が溢れてくる。
頭の中に悲しみが広がっていく。
滅べ――
周りで喚いたナニカが、灰と化した。
滅べ――
コレでは足りない。全て、全て滅ぼさなくては――
もっともっと。この國ごと滅ぼさなければ――
そう、この世界ごと――
それを実行しようとしたところで。
何かが、体にしがみついて来た。
「ダメ、ダメです。これ以上は――!」
少女だ。金の髪に。碧の瞳。黒いリボン。
「お願い……っ、目を覚まして、お願い――!」
自分にしがみつきながら、涙を流しながら何事か喚いている。
身体中の力が抜けていく。混濁していた意識が、クリアになっていく。
「トール君……っ」
金髪の少女が、死体となった少女を抱いたままの自分を、胸に抱いた。
朦朧としていた意識が戻り、襲って来たのは後悔の念だった。
「うぅ、あああぁぁぁ」
嗚咽が漏れる。涙が溢れる。
「助けられなかった……っ」
腕に事切れた少女を抱えたまま呻く自分を、何も言わず。金髪の少女は、ただ抱きしめ続けた。
空からはいつの間にか、雨が降っていた――
⁑
端的に言えば、やる気が無かった。
故郷に帰って来たという思いはあった。何となくの愛国心はあった。だが、それだけだ。それだけ。
それを実感できるほどの記憶など無い。
外を歩けば黒いモヤのような生物が襲ってくるし、すれ違う妖精は基本的に人間である自分を見下している。
とある街では、凄まじい歓迎を受けたのだが、裏で自分を殺そうと算段していたのを知り、逃げだした。スリルはあった。料理事皿を投げつけてやった時の反応は面白かったかもしれない。
この世界の人間は、自分がいた世界で言うところの家畜のようなものだ。食用という訳ではないあたり、マシとも言えるかもしれないが。
まあ、別に珍しい事ではない。自分が旅していた宇宙。様々な星でもそういう奴隷制度などザラにあった。地球文明だって地域によってはもっとエグい場所もある。
表だって明らかな奴隷という扱いをするのは禁じられているようだし。街や妖精次第では、自分の知る世界よりマシな生活をしている者もいる。
だがそれだけだ。
特別な愛着など湧いて来ない。
なんだか色々と熱い思いを抱いていた気もするが、良い人生を送るために良い街に住もう。みたいな感じだった気もするし。この妖精國を守護らねばならぬ。みたいな使命感だった気もする。良い嫁さん見つけて、幸せな家庭を作ろう。だったかもしれない。
まあ今となってはどうでも良い。
――今、何か変な
今は、誰もいない廃村の一画にて。日がな1日、過ごしている。
過去の出来事を映すホロマップ投影機で見たところ、どうやら村人同士での殺し合いがあったらしい。言うなれば事故物件。
人間である自分ではモルポンドを稼ぐ手段も難しい。必要以上に妖精と関わりを持とうとも思わない自分には、そもそもとしてまともに取り合ってくれるような妖精を探すのも大変だ。そんな自分には十分に贅沢な場所と言える。
この美しい黄昏の空と、美しい夜空を見ているだけの1日。
それはそれで悪くない。この景色は格別だ。
宇宙から見る星々も確かに最高だが、オゾン層を隔てた星空というのも良い。
そしてこの星空は、少なくとも文明の発展した自分の知る地球では見られない。
人間の扱いには思う所はあるものの、そこを抜かせば、妖精の作る街の情景も悪くない。偶に街に出て、妖精の文化を感じて、この美しい國を堪能するだけで、ただ十分だった。
とまあ、さもミニマリストっぽいような程で、思ってみたが、むしろ生活そのものはかなり充実していた。
幸い、この世界に戻る前に、様々な生活道具を用意している。
この世界。電気は通っていないが、捨てる程あったお陰で譲り受けたアーク・リアクターによって電力は十分。
ナノマシン関係の技術はスターク社やワカンダはもちろん、地球どころか銀河数個分の規模の星々の選択肢の中から厳選して補充しているので、家具を作るのも、家を補強するのも楽である。
補強された家は、この妖精國では考えられない程高い技術で守られている。例え宇宙人がやって来て目からビームを出そうとも壊れない。
テーブルをヴィウラニウム製にしようと思ったが、当時のイ○アの秋の新作が良い感じだったのでそれにした。
娯楽も豊富だ。新作は手に入らないが、地球のみならず、様々な星の映画等もある。ゲーム端末も同様に。それこそ100年引き籠っても退屈しない。
兎にも角にも、透は、この妖精國において、ある意味では誰よりも充実していて、苦労も無く、豪華な暮らしを満喫することができる。
とは言え。人と触れ合う選択肢がありながら、永遠に孤独でいられる程、一人上手という分けでもない。偶に人寂しさに、街へ出てしまうこともあった。
グロスター
恐らくこの妖精國で、ある意味最も騒がしく、ある意味最も発展した街。
都会。というヤツだ。
ヨーロッパ調の建物が並ぶその街は、常に生き物のように変化する。
小さいものが大きかったり、男が女になったり、流行によって、そこにいる住人や、街そのものが変わっていくのだ。
この街は比較的、人間に対する扱いも良く。偶に立ち寄っては、寂しさを癒す。
人間が単独で街にいることで訝しげに見られるが、グロスターは比較的、そういった視線も少ないし。
その程度の視線など気にもならない。むしろ視線が集まる分孤独感が薄れて、心地良いぐらいだ。
そう、視線が心地良い。
流石は流行を追う街の妖精達。いつもよりも、こちらへの視線に圧を感じる。
思わず、いやらしい笑みを浮かべてしまった。
今着ている服の価値に気づいているらしい。
黒のパンツに、襟付きシャツ。軍服風アウターもキメキメだ。ポケットがいっぱい付いてて、カッコいいし便利である。
ついでとばかりにアクセントに、背中にはキャプテン・アメリカの盾。
実用性も兼ねたイケイケファッション。
妖精達の視線に、嫉妬の感情を感じながら、その承認欲求を満たしていく。
最高だ。外に歩けば、人間だと蔑まれ続けたせいで、承認欲求への渇望が爆発していた分快感が凄い。
そんな思いを抱きながら歩いていると、ネズミが数匹、こちらに駆け込んできた。
「誰かー!そこにいるだれかー! 捕まえてー!」
どこぞの妖精が叫んでいるが、さて、手助けするのが人情というものだろう。
近づいてくるネズミが遠近法とは別の理由で、大きくなる。その姿はまさしくドラゴンのそれ。
だがそれは織り込み済みだ。
数は6匹。
駆け込んでくるネズミの懐に入り、盾を使って殴り上げる。
1匹のネズミが空中にカチ上げられた。残りのネズミに盾を投げつける、加減されたその盾は跳ね返りながら、3匹のネズミに当たり、その衝撃に横に倒れる。
そして残り2匹。最初に空中にカチ上げたネズミが、他のネズミを踏み潰し、事態は終了。
トドメとばかりに魔術を発動。火の粉のようなものが散る光の縄が、ネズミ達を縛り上げた。
おお、と周りで見ていた妖精達が感嘆の声を出した。
快感だ。
鼻の穴がピクピク動いてしまう。
成る程、妖精も悪くないじゃないか。
「ありがとう。暇で物好きなお方。はいこれ、感謝の割引券」
そう言って、そそくさと去っていく妖精に視線を向けていたら、横合いから声を掛けられた。
「あなた妖精だったんだね。人間なのに高級そうな召し物で、でもセンスは最悪だから、どこかの上級妖精から盗みだしたモノを適当に着ているんじゃないかと思ったよ」
「――は?」
「成る程、今の流行は『他人が羨む持ち物』魔力を隠して、あえて見窄らしい人間のフリをする事で着ている服を目立たせる。服も、その円盤も、着こなしも悪いし、バランスも悪くてセンスは最悪だけど、質は凄い良い。あえてダサくして、着飾るのでは無く、所有している感じを出す演出。成る程、参考になったよ」
「……」
前言撤回。妖精は、最低だ。
近くの店の大窓にボンヤリ映る自分の姿を思わず確認する。
悪くないじゃないか
妖精はセンスも最悪らしい。
とりあえず今はあえて人間のフリをしている妖精と思われているようだ。
身体能力か、カマータージ由来の魔術を妖精の能力と捉えたか。
わからないが、こちらにとっては朗報だ。
割引券ももらった事だし、冷やかしに行ってみよう。割引したところで手持ちのモルポンドで買えるとは思わないが。
道中ふと、ブティックのショウウインドウが目に入った。
黒を基調としたドレス。
それを見て、何となく思い出した事がある。
時折、夢で見る女性。
その女性は、金髪の少女だったり、銀髪の女性だったり、シルエットぐらいで顔なんかは色々と曖昧なのだが、何となく、同一人物だという確信がある。
今、自分の記憶は曖昧だ。元々この妖精國にいた。という事はわかる。だが、その時にどう過ごしていたかがわからない。
初めてフューリーと会った時、自分が死にかけていた事を覚えている。死にかけていたという事は碌な目に合ってないとは思うのだが、それだけだ。
この世界に帰る際、記憶障害が起こるだろうと予測していた事も覚えている。異世界での出来事も、明らかに抜けている項目はあるが、大体は覚えている。転移実験の際に巡った世界も思い出せる。だが、この妖精國における思い出がカケラも思い出せない。偶然なのかはわからないが、彼らと、転移実験の際に、手に入れた
夢で、その女性を見る度に、心苦しい思いがのしかかるのだ。夢で見るという事は少なくとも自分の記憶の何処かにはいるのだろう。
家族か。近しい友人か、もしかしたら恋人だったとか――
我ながら気恥ずかしく、思春期真っ盛りな男子みたいな妄想を抱いているのだが、そんな事、前の世界の人間に話せばそれこそ爆笑されるだろう。キャップなんかが優しそうに肩を叩くのが想像できる。
トニー辺りにはモンタージュによって生み出された理想の女性像に違いないとか言われかねない。
まあ、最終的に馬鹿にされるのがオチな気もする。
だが違う。彼女は間違いなく存在していて、そして自分にとって何か重要な存在であるという確信がある。
ショウウインドウにある黒いドレスは、そんな彼女を想起させるデザインだった。あるいは、着たら似合いそうだなとも思う。
そのドレスを基準に、どうにかして彼女の事を思い出そうと、じっと見ていたら。
「何? そのドレスがお気に入り? プッ。お前が着たって気色悪いだけだっつーの。いや、むしろ笑えてくるかも」
そんな、毒舌満載な声が掛かった。
「お前、チグハグな格好してんなぁ。質は良いのにバランスは最悪。その背中の丸いのとか、ププッ。どんなセンスで付けてるんだっつーの!!」
それは、妖精だった。足元から、それこそ髪色まで、赤く染まったワンカラー。
足はスラリと伸び、体付きも人間の女性らしい。
見た目には深窓の令嬢と言われても違和感のないものなのだが、その口から出る汚い言葉が全てのイメージを覆す。
その妖精の毒舌の畳み掛けが、あんまりにもあんまりなので、流石に黙ってはいられない。
自分の服装を確認しながらも言い返す。
「ま。まあ、この服装は、俺の故郷に伝わる特別な召し物だ。常人には理解出来ない着こなしだっていうのは、理解してるさ。わかってくれる奴がわかってくれれば……」
「あ? 何、お前本気でその服装、センスが良いと思って着てたの? おいマジかよ。不憫すぎてむしろ泣けてくるんだけど……」
「……」
酷すぎる、泣けてくるのはこっちである。
「わざわざ魔力を殺してまで人間のフリをしたりとか、変わりものねアナタ、どこの出身なワケ?」
「……アスガルドってとこだが」
どうやら妖精と勘違いされているようだ。わざわざ訂正する必要も無い。
下手な嘘をついてもアレなので、
この妖精國には存在しない街だが、
まあ、色々誤魔化す事はできるだろう。
「あっははは! 聞いたこともねーよそんな街!? どんだけ田舎なワケ!?」
失敗だった。自分のせいで故郷が凄まじく馬鹿にされている。
「い、田舎じゃねーよ! そりゃ甘い物は木の実と葡萄しかないけど! 」
「プププッ! マジモンの田舎じゃねーか! そういうセンスも納得だわ!」
ヒイヒイ苦しそうになるまで笑いやがって。あんまりな言い草だが、マジで爆笑されている辺り、最早反論するのも疲れて来た。
「あーはいはい。どうせ田舎ですよ。ったく、都会の奴らは皆こんな感じなのか?」
まいったなと頭を露骨に掻きつつ、彼女を見る。
なんというか、不思議な感覚だ。どこかで会ったような。そうでも無いような……
と考えているうちに視線を感じた。
周りの妖精がこちらを訝し気に見つめていた事に気づいた。
「……そっか、どうりで……私を見ても怯えないわけね」
なんだ、そんな表情をするくらい俺のセンスに文句があるのか畜生。
「……でもなんだろ、それだけじゃないような……」
睨み返してやれば蜘蛛の子を散らすように妖精達が去っていく。
フン、造作もないわ妖精どもめ……
そんな事をしている間に、彼女は一人、ぶつぶつと何事か呟いていた。
「なあ、そろそろ行って良いか? 正直もう色んな妖精達にバカにされ続けて、疲れちまったんだ。ほんと、嫌な奴らだよ」
「あ? なにアナタ、妖精嫌いなわけ? だからわざわざ人間のフリをしてるってコト?」
「色々嫌な目に遭ってきたし、散々馬鹿にされたからな」
「――へぇ、碌な目に合わなかったみたいね……」
お前が一番酷い言いぐさだったからな……!
嫌味も効かないとは、無敵かこの妖精……!
「白状すると俺は人間なんだよ、田舎出のな。コネだのなんだのもないし、都会のルールもよく分からないし、もう帰って寝ることにするよ」
「人間だァ? だとしても魔力のカケラも無いってのは……ふーん……」
人を値踏みするようにジロジロと……なんだ、またも人のファッショにケチつける気か……
なんだか憐れみの意思も感じるぞ……苦労してんのねぇみたいな。こんだけの毒舌少女に憐れまれるとか、俺はどんだけ酷い扱いなんだ。
すると、良い事考えた。とでも言うように、表情が晴れていくのを観察する。
笑顔、と言っても良いが、邪悪だ。こっちとしては嫌な予感しかしない。
「よし、決めたぜ☆ お前今だけ私の
「ハ――?」
「丁度良かったわ。どいつを脅して荷物持たせようか考えていたの」
「いやいや、そんな急に言われても」
「でも貴方これから寝るだけって事は暇なんでしょう? 人間の分際で、一時的にとは言えこの私の
どうやら、断る事は出来ないらしい。
「ホラ、いくわよドレイ! まずはテメーの最悪なファッションの修正からな。一緒に歩かせてやるんだからせめて最低限の身嗜みは整えろよ」
「俺の格好、奴隷レベルにも達してないのかよ!」
そんなに?そんなに酷いか?
悲しんでいる間に、彼女はとっとと行ってしまう。
「ホラ、ボサッとしてんなよ!」
観念するしか無いだろう。
「あー、その、なんて呼べば良い?」
そういえばお互いに名前を名乗ってなかった。
「スピネルよ、スピネル様って呼べよな」
「……俺はトール。よろしく」
「ええ、私の荷物持ちになれる事、光栄に思いなさい」
本当に、ついていくしかないらしい。
「ああ、田舎出として、色々勉強させていただきますよ。スピネル様」
「ふーん、そう言う最低限の嗜みは持っているワケね。ま、どうでも良いか。行くぞドレイ!」
「……トールなんだけど」
まあ、良い。退屈しのぎにはなりそうだ。
トール
何故かはわからないが、やる気なし。
過去、この妖精國に戻る為、マルチバースの研究や実験もかねて、いくつか異世界移動を経験したのだが、その折、特殊な転移をしたことで、ひとつ、故郷が増えている。
V2Nという存在も、同じ現象の、別の世界への転移が由来である。
妖精に色々いたずらされるが、生来のやる気がないため、暴れまわる事もあまりない。
世捨て人みたいな暮らしをしようとしているが、寂しいので、偶に妖精の街に行く。
出会った毒舌少女にどこか会った事があるような気がしている。
退屈しのぎに絡んでも良いかと思っている。
スピネル
本編より少し前の時間軸。
何故か嫌悪感を感じない。妖精だか人間だかわからない存在に出会う。
妖精を好いてないその様子に、若干のシンパシーを抱く。
暇つぶしに絡もうとしている。
イ〇アの秋の新作:エターナルズ予告編より、本編も最高でした。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない