世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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妖精騎士トリスタン

目の前の事が信じられなかった。

 

確かに彼は()()()と言っていた。

 

それに応えることはしなかったが、また会いたいという気持ちは確かにあった。

 

だけど、まさか。こんなところで再会。というかこんな所で()()()()なんて――

 

 

国立殺戮劇場。今やトリスタンが管理するニュー・ダーリントンを象徴する施設であり、ベリル・ガットによって作られた。

最後の勝者には自由にさせるという名目で、人間同士で命をかけて戦わせ、最後には自由を与えると言う名目で勝利者も殺してしまうと言う残虐な施設。

 

現在ベリルはいない。いつも通り独自で動いており、トリスタンしか今はいない。

 

ベリルであれば、より楽しい演目になるようにさまざまな趣向を凝らすのだが、トリスタンにとってはそれは面倒で、せいぜい全員一斉に戦わせて適当に殺し合わせてしまおうという腹づもりであった。それだけでも楽しいからだ。

 

そんな形で、今回の参加者を見てみれば。彼が手錠に繋がれながら、他の罪人と同じように殺戮劇場の闘技場にいたのを発見してしまった。

 

どうすれば良いのか。トリスタンは迷ってしまう。

 

この殺戮劇場には、人間同士を戦わせるというルールがある。

 

別に人間なんて娯楽以外の何物でもない。彼が死んだところで、自分には何の関係もない。そうだ。そうに決まっている。だが、どこか、それも嫌だった。

 

そう迷っているうちに、仕切りをさせていた者によって進行は進み、人間同士の戦いが始まってしまった。

 

いつもであれば、殺し合うさまを観客席で楽しむのだが、今は、そんな気分になれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しくじった。

 

スピネルとの一件により、妖精の中に混ざって生きていくことも案外できるんじゃ無いかと、ソールズベリーに行ったのがまずかった。

 

長のオーロラは人間に対してはお優しいと言う話を聞いていたのだが、街そのものはそうでも無かった。

 

入った瞬間、いつもの町以上に酷い視線を感じていたが、最終的には、人間牧場からの脱走者として捕われてしまった。

 

血統書だのなんだのと言われても無いものは無いし、外から来た旅行者だと言ってもわけわからない顔をされてしまった。

 

このまま逃げてしまおうと思ったのだが、マンチェスターとは規模も違う。そのまま囲まれたら、流石に抵抗はしづらい。大人しく捕まるしか無い。

 

屋敷に連れられ、そのまま処刑されるかと思いきや、その場にやって来た羽がピカピカした妖精。人間に優しいとお噂のオーロラの計らいとやらで、ニュー・ダーリントンとか言う所へと送られる事になった。

 

脱走した犯罪者である以上、罰しなければならないが、それも、心苦しい。

ニュー・ダーリントンとやらに行けば、解放してもらえる可能性があると、そう言っていた。

 

周りの兵士の、何という慈悲深きお方だ!みたいな態度が鼻についたが、まあそう言うのであれば断る理由もない。

 

目的地に辿り着き、ソールズベリーの兵士に、背中を蹴られ、檻のような扉をくぐらされたと思ったら、勢いよく閉められた。

 

「次会ったら、お前に同じことしてやるからな」

 

捕らえられた捕虜として、定番の台詞を吐いておく。

 

周りを見れば、同じように拘束された人間達。

どいつもこいつも今にも死にそうな、絶望的な表情しかしていない。

 

嫌な予感しかしないが。

 

それはまさしく正解だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにいる者はトールと同じような罪人達。

闘技場のあちらこちらにボロボロの武器が置かれており、どうやらそれで殺し合え。と言うことらしい。

生き残れば、解放されるのだとか。

 

まさしく中世でありがちな人間を使った娯楽だ。ローマのコロッセオ。惑星サカール。そういう催しは歴史を辿れば、ありとあらゆる世界、星において必ず起こる定番の娯楽。

 

(オーロラとやら。救いがあるかのような態で言っていたが、わかっててここに送りやがったな)

 

トールは今度会ったらオーロラの羽に落書きでもしてやろうかと心に決めながら周りを観察する。

 

(出口は複数。それぞれに見張りがいるが――)

 

考えている間に殺し合いが始まった。

 

暴れまわる罪人達。躊躇などなく、その武器で命を奪おうと襲い掛かる。それはそうだ、何せ命がかかっている。

こんなところで他人の命を気遣うなど阿呆のする事だ。

 

 

トールは、襲い掛かる罪人の攻撃を避けながら、拳や蹴りで反撃していく。

 

(こんな茶番に付き合ってもいられない。とっとと出るか)

 

そう、判断したところで、一つの出口に眼を向ければ――

 

 

 

黒いモヤのような生物を見た。トールも妖精國を歩く途中、良く見かける、モースという存在だ。

 

だが、少し違うのは、いつもの芋虫が直立しているかのような形状ではなく、人間のように、四肢を持った形をしているという点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気分が悪い。どうすれば良いかわからない。奴隷剣士同士の殺し合い。

ベリル程上手にセッティングは出来ないし、面倒くさいのだが、あれはあれで楽しいものだ。そう、楽しいもののはずなのに。

 

アイツがそこにいるというだけで、嫌な気持ちになって来る。

 

 

いっその事彼だけを逃がそうか。そんな事も考えついたのだが、

いつも褒めてくれる事と真逆な行動。そんな事をすれば、きっと()()()()()()()()()()()()

 

最早、トリスタンに、選択肢は存在しない。

 

催し者を見ずに、別室でやり過ごす事ぐらいしか、彼女にできる事は無い。

 

そんな時だ。急に外が騒がしくなった。

 

闘いに決着でもついたのか。そう考えたところで、大きな音を経てて、別室の扉が、吹き飛んだ。

 

解放された扉の先から現れたのは、今まさに考えていた件の人間。

 

「また部屋か!」

 

トールがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だ。突然だった。トールにとっては仰天同地の出来事だ。モースの人間版、みたいなのが現れた。

 

そいつはゆっくりと、殺し合いをしている人間に近づいていき、その身体に触れたのだ。

 

触れられた人間はその場で呻き始め、黒いモヤが浮かび上がってくる。

 

そのモヤがやがて触れられた人間を包み込み、そのまま、最初に現れたモース人間と、同じような存在に変化した。

 

「おい、マジかよ……」

 

パニックが起こった。

 

近くにいた人間が、モース人間と化し、更に、その近くの人間も巻き込まれていく。ネズミ算式に増えていくモース人間に、その場にいた人間達にはどうする事もできない。阿鼻叫喚の嵐である。

 

周りを見回し、状況を確認する。殺し合いどころでは無い。今は敵味方関係なく逃げるべきだ。

 

こういう時は転移が一番だと、次元の扉、ゲートウェイを開けようと考えるが、肝心の物が無い。

 

「スリングリングは無くしたんだった!」

 

独り言ちながら、思考を切り替え、行動に移る。

モース人間が現れた扉から一番遠い扉。見れば、見張りの人間が戸惑っているのが見える。

これは、ここの施設の奴らにとっても予想外の事態だったのだろうか。

 

動くべきか動かないべきか。迷った様子を見せる見張りに近づき、声をかける。

 

「おい、こいつらを出口まで誘導しろ!! お前だってこのままじゃああなるぞ!!」

 

「し、しかし、ここから離れたら私たちも、トリスタン様に殺されてしまう!!」

 

トリスタン。それがここの責任者の名前か。

 

事情は察するが、ぐだぐだ説得している場合では無い。

 

見張っている扉を蹴り飛ばしてぶち破る。

 

「今ここで、この扉みたいになるか、バイオハザードに巻き込まれるか、どっちが良い?」

 

「ヒッ!」

 

「そのトリスタンとやらなら、俺が説得してやる。運が良ければ、そのまま外に逃げて、別の町に逃げれるかもしれないぞ?」

 

「わ、わかりました」

 

心底怯えながら、応える見張りを視界から外し、まだ生き残っている人間達に声をかける。

 

「おい、こっちだ! こっちに来い!」

 

駆け込んでくる、人間達を誘導し、どんどんと出口へ送り出す。

尚もモース化はウイルスのように広がっていく。

 

そんな中、一人の人間がモース人間に囲まれていた。

 

「チッーー」

 

舌打ちをしながら、跳躍し、モース人間達を飛び越えながら着地。その人間を抱え、出口の方へとぶん投げる。

その人間はもんどり打ちながらも、起き上がり扉の先へと逃げて行った。

 

生き残った者はこれで最後、囲まれているのは自分だけ。最悪の状況であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば運が良かった。モース人間達は、物越しであれば触れる事はできる為。

トールは足元にあった槍でそいつらを蹴散らしながら、闘技場を脱出する事が出来た。

 

闘技場以外にはモース人間達は広まっておらず、後は出口を目指して逃げれば良いだけ。

透は迷いながらも、片っ端から扉を蹴破っていたら、なんとグロスターで出会った赤い妖精。スピネルが部屋の中にいたのだ。

 

「スピネル?」

 

「お、お前——」

 

透は、驚くスピネルを見ながら、一瞬動きを止めるが、直ぐに再起動。

今はゆっくりしている場合ではない。

 

「なんで――」

 

「お互いに聞きたいことがあるだろうが、すぐにここを出るぞ。ここにいるとヤバいんだよ!」

 

「ハァ!? いきなり何言ってんだお前——」

 

「モースとかいう化け物が人間と合体して、どんどん溢れてってんだよ。闘技場はもうヤバい。早く逃げないと――」

 

「!?」

 

そう告げた瞬間、スピネルは反射的にトールを突き飛ばし、闘技場の方へと駆け出していく。

 

「あ、おい!」

 

トールもその後に続く、放っておくことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スピネルの足は予想以上に早く、追いついたころには、スピネルは闘技場につながる扉前におり、弦が幾重にも張られた弓のような物を持っていた。

スピネルがその弦を鳴らした瞬間、モース人間達の体に裂傷が出来ていく。通常の敵であれば、あざやかに切り裂けるであろうその刃も

体に裂傷を残すのみ。その数が数体であれば、攻撃をし続ければどうにかなったかもしれないが、何にせよ数が多すぎる。

 

「おい、何やってんだ! 無理だって!! 逃げるぞ!!」

 

「離せ! テメェだけで勝手に逃げてろ!!」

 

トールが腕を掴み、引っ張るが、その手を振りほどかれてしまう。

 

スピネルのその行動に、トールは一瞬戸惑うが、再びスピネルに近づき。その腰をむんずと掴む。

 

「やぁっ―― 止めろ! 放せよ、クソ!!」

 

「放っておけるわけねーだろうが!! 無駄死にする気か!!」

 

トールは肩にスピネルを担ぎ上げ、再び、闘技場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この――離せっ!」

 

スピネルを抱えたまま逃げる途中。スピネルの膝が腹に辺り、痛みに呻き、拘束が解ける。

 

互いに床に転がってしまう。スピネルが再び、闘技場に戻ろうとするが、それをまたトールが羽交い絞めにして、その進行を防ぐ。

 

「離せよ! 離して! このままじゃ、あいつらが溢れちゃう! 知られたら、お母さまに怒られちゃう!!」

 

「お母さまって……」

 

その言葉に思わずトールは拘束を解く。

 

しかしスピネルも戻る気力を無くしたのか、そのまま、頭を押さえながらその場にしゃがみ込んだ。

 

「ダメッ……ダメッ……! お母さまに任されたのに……私はお母さまの娘なのに……!」

 

うわごとのように呻くスピネル。

 

その言葉を聞く限り、一つの事実が思い浮かぶ。

 

「まさか、スピネルの本名ってトリスタンなのか……?」

 

この闘技場。胸糞悪い催し物の主催者。

 

呟くトールに、スピネルーー妖精騎士トリスタンは答えない。

 

変わらず、母親への謝罪の言葉を呪文のように繰り返すだけだった。

言葉が出て来ない。確かに口はやたら悪いし、妖精嫌いは筋金入りだが、根は良い妖精だと思っていただけに。驚愕の事実ではあった。

 

「お母さまにここを任されたのに。ベリルが作ってくれたのに、私は女王の娘なのに……」

 

「女王……」

 

この妖精國をまとめる女王。姿形も見たことが無いが、評判は最悪で。国中の妖精達が嫌っている。

おおよそ理解不能な、矛盾を孕んだ統治をする女王。妖精に弄ばれた経験のあるトールにとって、あながち悪だとも取れないが何にせよ自分には関係ないと思っていた存在。

 

どうやらスピネル、トリスタンは複雑な家庭の事情があるようだ。

 

家庭の事情。思えば、出会ってきた者皆、親という物に色んな事を抱えていた。

かくいう自分の親代わりだった存在も、とある者にとっては偉大な王だったが、ある者にとっては残虐だという評価だった。

 

どうしようかと考える。自分にとってのトリスタン。スピネルの事を考える。

 

口は悪い。妖精が嫌い。プレゼントをくれた。根は優しい。……と思う少女。

 

トールは、しゃがみ込む少女をじっと見る。

 

彼女は子供だ。見た目よりもずっと子供。そんな子供がこんなにも苦しんでいる。

 

トールは頭を掻く。どうしたものかと考える仕草。

だが、それは、ただのポーズである。心に決めた事を実行に移す勇気を持つまでの、ポーズ。

とっくに、答えは決まっていた。

 

トールはスピネルの頭を撫でる。

それはまるで、子供をあやす父親のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、本当。何やってんだろうな俺……」

 

トールは周りを注視する。

黒く染まったヒトガタのナニか。

 

モース人間達。数にして数十体。

 

この行動が正解かはわからない。

 

妖精國の世論で言えば、彼女の為に動く事は紛れもなく悪である。

 

この事実を知られれば、大半の人間は馬鹿だと言うし、悪の女王とその娘に味方する愚か者と揶揄されるだろう。

 

だが、まあ、どんなに世間が悪と罵ろうと自分にとってはスピネルという妖精で、自分に初めてプレゼントをくれた優しい少女なのだ。

 

戦う理由としては十分だろう。

 

「さて、やりますかね……!」

 

不敵な笑みを浮かべながら、トールは右手を開き、肩まで上げ、その腕を伸ばす。

 

しばしの静寂。

 

モース人間はゆっくりと、トールに近づいていく。

 

何かが起こるわけでもない。トールは首を傾げた後に、再びその右腕を広げる謎のポーズを取る。

 

結局何も起こらない。

 

「ハァ……」

 

近づくモース人間を見回しながら。一度ため息をつき、

 

「ストレッチしてから来るんだった……」

 

一人呟きながら、足元にあった槍を蹴り上げ、その手に掴み、戦闘を開始した。

 

 

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