世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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ウッドワス③

「平伏せよ、献上せよ――」

 

いつも通りの大広間。いつも通りの前口上。

 

部屋の中心には巨大な玉座。そこに君臨する女王。

 

ひれ伏す妖精達。

 

上級妖精やキャメロットの妖精、氏族長達による会議である。

 

ただ少し、ガヤガヤと騒がしい。まるで信じられない報告を聞いたとばかりに、妖精達が何事かと騒いでいた。

 

その原因はウッドワス。彼の発言がその会議に波紋を呼んでいるのだ。

 

 

スプリガンによるノリッジの財産に関する進言に、ウッドワスが嫌味を言った後、ウッドワスの発言機会となった時だ。

 

「陛下、どうか、軍備の増強をお考え下さい。『モース』は年々増え続けております。円卓軍などという不届き者の始末もある」

 

ここまではいつも通り。人間の出荷数を増やしてほしいといういつもの依頼なのかと誰もが予想していたが、その内容は予想とは違うモノだった。

 

「1人、是非とも我が軍に迎え入れたい人間がおります」

 

その発言に、喧騒が波紋の様に広がって行く。あのウッドワスがわざわざこの場で、女王に許可を取るほどの人間とはどういう事か。

 

「我が軍は、モースの大軍と遭遇。私としては、数名の犠牲は免れないと覚悟したのですが、その男。風の様に颯爽と現れ、嵐の如くモースを蹴散らしたのです」

 

その後、ウッドワスによる当時の戦闘の詳細が語られる。兵士の持つ何の変哲もない剣を振り回せば、3体のモースが一度に薙ぎ払われ、槍を投げれば一度に4体貫通し、その他目にも止まらぬ技でモース達を仕留めていくその様子を。

 

「その男の強さ、未だ底が見えず。私の元で鍛え上げれば、あるいは妖精國一の武人になり得ましょう。陛下、その男、それなりの待遇で迎え入れる許可を頂きたい」

 

ざわざわとこれまで以上に騒がしくなって行く。当然だ。わざわざ人間を軍に迎え入れる為に、地位まで用意しろと言うのだ。

 

「かつては妖精國の剣と呼ばれたウッドワス殿が人間1人に絆されるとは、寄る年波には勝てぬようですな?」

 

スプリガンの発言に内心で同意する一同。それが、周囲の妖精の正直な意見である。

 

「だまれ青二才。その不快な舌を私に見せるな。陛下の御前でなければ首ごと噛みちぎっている!」

 

「もう、いけないわ。ウッドワス。あなたはいまや妖精達の尊敬の的、もっと紳士的に、ね?」

 

唸るウッドワスに通信越しにそう声をかけたのは風の氏族長オーロラである。

 

「でも、私は嬉しいの! ウッドワスが人間にそこまで入れ込むなんて! 初めての事じゃないかしら? その方のお名前は? 自由市民なのかしら?」

 

嬉しそうなオーロラ。彼女が統べるソールズベリーの中で唯一、人間贔屓の妖精でもある。

 

「う、うむ」

 

続きを発言をしていいものかと、女王を見るウッドワス。

 

「よい、申してみよウッドワス」

 

「は、その男、異世界から来た異貌の者にございます。本人曰くアフォガードという国の王子なのだとか」

 

再びざわざわと妖精達のざわめきが木霊する。

 

「まあ、王子様なんて! それに、美味しそうな名前の国なのね」

 

「異世界というが、それはつまり汎人類史からの侵略者という事なのではないのか!?」

 

オーロラの穏やかな答えの他に、大使達が心配事を口に出す。

 

「その男、以前はこの國にいたという記憶があるらしく、余生をこの國で過ごす為に戻ってきたとの事。異世界から渡る際、記憶障害を起こしているようですが、決して陛下への叛逆を企てているという事はありません! 昨日オックスフォードでのもてなしにて、陛下の偉大さに心底感服した様子も見せておりました。

ただ、世捨て人の如く安寧な暮らしを望むが故に軍入りは消極的ではありますが、前向きではある様子。待遇次第では我が妖精國の力となりましょう」

 

「その話本当かねぇ。アフォガードってのはデザートの名前だぜ? 汎人類史にはそんな國は存在しない」

 

そう訝し気に通信越しに発言したのはベリル・ガット。女王モルガンの夫という立場であり、ニュー・ダーリントンの領主でもある男。

 

「ウッドワス。アンタ、その男に騙されてるんじゃないか?」

 

「貴様、いくら陛下の夫という立場とて、この私を愚弄するとは許さんぞ……!」

 

怒りに唸り声をあげるウッドワス。それは自信が侮られたと言う事だけではなく、あの男(トール)が虚言を吐いているという事への侮辱とも重なっている。

 

スプリガンに向けた殺意以上のものが大広間に広がり、空気は最悪な雰囲気となっていく。

その場にいれば、それこそ八つ裂きにされていたのではないかと思うほどのものだった。

そこに待ったを掛けたのが、モルガンである。

 

「よかろう。ウッドワス。検討はしておいてやろう。その男、名は何と言う?」

 

モルガンのその言葉にウッドワスは、殺意を消し、女王へと向き直る。

 

「は、ありがとうございます! 男の名はトール。今は、あのティンタジェルにて居を構えているようです!」

 

その名前に内心で反応したのは僅か2名。

心内の事もあり、その反応は誰にも悟られる事はなかったが――

 

女王モルガンとその娘妖精騎士トリスタン。

 

奇しくも、親子関係にある2人だった。

 

その後、予測されていたトリスタンの暴挙も見られず、妖精騎士ガウェインにより、予言の子の存在が明示され、そちらの方に皆気取られ、その内容について記憶していたのは進言したウッドワス本人と女王とその娘だけだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「あたまいてぇ……」

 

オックスフォードの宴会から数日。トールは未だ仮住まいであるティンタジェルに帰れないでいた。『スリングリング』をどこかに無くしたことにより、次元のゲートを開けることができず、その足で帰るしか無かったからだ。

走っていくのも手だったが、体調が芳しく無く断念。

いまはゆっくりと帰路についている。

 

とは言うものの、後1時間ほども歩けば辿り着くという所までは迫っていた。

 

リングの予備もまだまだある。帰ればまた、どこへでも行く事が出来るようになる。

 

そう思いながら帰路に着く。

 

楽しい宴会の後の帰り道は寂しいものだが、ある意味では良い機会だった。

 

長い帰路の中、ウッドワスに誘われた軍入りを考える。

 

どうするべきか。そもそも軍隊というものが元々性に合わないというのもあるが、それを加味しても自分でも意外な程に消極的だ。

 

彼に言った通り、自分でも違和感を感じるほどにやる気が出ない。

 

妖精からは、人間という事で嘗められた態度ばかり取られていた為、身を挺してまで守れるかと言われるとそこまで使命感は滾らないが、ウッドワスやオックスフォードの住人達は別だ。たった1日の付き合いではあるが、彼らを守れと言われれば、納得して動こうと思う具合には、気を許している。

 

今後戦争などが起こった際、オックスフォードの住人が1人でも死んだら?軍に入らなかった場合、それはきっと自分のせいだ。そう考えると居ても立っても居られない。

 

そもそも自分は()()()()()()()()()()()()という考えを持っていたはずなのだ。

 

それは、ずっと昔からであったような気がするし、あのヒーロー達と接した事で得た倫理観でもある。

……ような気もする。

とにかくそう言う風に以前は考えていたはずなのだ。それはまさしく信念と言っても差し支えない程のものだった――筈だ。

 

と言うのにこの虚脱感はなんなのだろうか……

 

思考を誰かに誘導されているような気もするが、そう言う風に自分を操れるとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この國への転移の過程で記憶障害が起こるとは分かっていた為、そこに原因があるのかもしれないと。そう考え、ひとまず思考の迷宮から脱出を果たした。

 

 

 

 

――そんな時だった。

 

 

 

 

村の一角。自分が今仮住まいとしているその家のドアの前に1人の女性が佇んでいるのを見つけたのは。

 

 

敵意は感じない。

 

何か悪さをしているようにも見えない。

 

たまたまここに立ち寄ったこの妖精國の住人だろうか。

 

あるいは、ティンタジェルを故郷にしていた妖精が帰省しに来たのか。であれば不憫な話ではある。

 

さまざまな可能性を考えながら、警戒を崩さずに近付いていく。

 

あえて、見つからないようにしたり、後ろを取って警告をするなどの攻勢に出なかったのは、自分でも意外だった。

 

警戒しつつも、存在感は消さずに近付いていく。

 

やがて、トールの足音に気付いたその女性が振り返る。

 

瞬間、時が止まった気がしたのは、気のせいだろうか。

 

 

美しい碧色の眼。

 

透き通るような銀の髪。

 

整った顔立ち。

 

黒いドレスに包まれた女性的な体。

 

その全てが、魅力的で。視界に収めるだけで高揚感が湧いてくる。

 

こちらを見る陶器のような無機質な表情。

 

廃村故の暗い雰囲気のティンタジェルに、そよそよと優しい風が吹いた。

 

ベールがスローモーションで靡き、あり得ないほど大きな月が輝いているビジョンは間違いなく幻覚だろう。

 

だがその幻覚は、誰かがどこかで言っていた。人が恋に落ちる瞬間のビジョンであり。

 

それをまさしくこの身で体現した気分だった。

 

夢で見た朧げな女性のイメージそのもののような存在。

 

だが、そもそもその夢の女性なのかもわからなければ、目の前の人物に心当たりは全くない。だから、まずはキミは何者なのかと、そう尋ねる為に出てきたセリフが

 

「キミ、は……?」

 

自分でも、もっと良い会話の入り方があったんじゃ無いかと、猛省しつつ訪ねてみれば、女性の無機質な表情に悲しみの感情が宿ったのは気のせいだろうか。

 

暫くの時が過ぎる。

 

一瞬だった気もするし、5〜6分は見つめあっていた気もする。

 

こちらを見つめたまま答えてくれない女性に、一歩近づき、声を再びかける。

 

「その――大丈夫?」

 

「あ――」

 

ここに来て表情がようやく崩れた。

ほんの少しではあるが、驚きの感情をその顔に宿し、彼女は答える。

 

 

「私――」

 

一度、言葉を飲み込んだような仕草を見せた後。

 

「私は、ヴィヴィアンと申します」

 

そう、自身の名前を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『……』

 

『あんなの誰も予想できない。あんな大人しかった奴が突然暴れ始めるなんて、誰も思っていなかった』

 

『……』

 

『あいつも厄災が怖すぎてどうにかなっちゃってたんだ。だから、あいつの言う事なんて気にする必要ない。誰も悪くない……』

 

『……』

 

『そもそも毎度のことじゃないか、今さら落ち込んでもしょうがないと思う。だから――』

 

『……』

 

『その、ごめん……失言だった……』

 

『……』

 

『とにかく元気を出して欲しくて……』

 

『……』

 

『えっと……』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

『そう、そうだ! もしもの事を考えよう!』

 

『え――?』

 

『あの人はいつも言ってたんだ。もし化け物から逃げ延びたら美味しいご飯を吐くぐらい食べようとか。もし、夜も安全に眠れるような日々になったら一日中踊り明かそうとか』

 

『だから、そう、ブリテンを調停し終わって、妖精達が争わなくなったら、どういう國にしていこうとか。そういう話をしよう』

 

『……』

 

『ダメ……か?』

 

『いえ、そうですね。お話しましょう。必要な事ですし』

 

『! そ、そうか! しよう! 未来のもしもの話!』

 

『……それなら――トール君はどういう國にしていきたいですか?』

 

『え――?』

 

『……なんで、そこでそんな反応になるんですか』

 

『いやその、えっと、あの……突然そんな事言われても……俺、國を作った事ないし、そもそも國ってのがどういうものかもあんまりわからないし、そういうのはモルガンに任せたいって言うか……』

 

『――』

 

『その、ごめん』

 

『――プッ』

 

『え……』

 

『フッフフ、 ごめん、なさい……今の、トール君の困り顔が、なんだか面白くて……』

 

『……』

 

『ごめんなさい、気を悪くしちゃいました?』

 

『いや、笑ってくれたから。安心したんだ』

 

『っ――』

 

『うん、そっちの方が絶対にいい』

 

『うん、ありがとう。トール君』

 




お読みいただきありがとうございます。

章のタイトルも変更致しました。

ウッドワス②ですが、本当は、こっそり帰って、酔い散らかしたウッドワスが落ち込むというギャグ落ちにしようと思ってたんですが、ギャグにさせるには、重すぎるし可哀想と思ってしまったのです。


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