テーブルの上に次々と映像が現れる。
彼の、トールの妖精國に来るまでの変遷が語られていく。
予想通り、彼のいた世界は汎人類史などでは無かった。
汎人類史には確かに異星の神が降りてきた。だが、目の前の映像にあるような類の存在ではない。
文字通りの地球への力づくの侵略行為。異空間に繋がる穴には宇宙が広がっており、そこからワラワラと飛行装置に乗った鎧を纏った異星人や巨大な生物が溢れ出ている。
――この人がトニー・スターク。超天才の科学者で、アイアンマンって言うスーツを作ってる
。お金持ちで、慈善家。で超ナルシストなんだが、凄い面白くて、俺にとっては、まあ人付き合いの師匠でもあるかな。ジョークが多くて、面白いんだ。
まあ、それが嫌だって人もいるけど、俺は大好き。
赤い鉄の鎧を纏った男が次々と、宇宙からの侵略者を撃ち落としていく。
――スティーブ・ロジャース、キャプテン・アメリカだ。さっきの盾は、この人が持ってるやつの予備なんだ。
色々あって氷漬けになって、70年間歳も取らずに眠っていたんだ。
身体能力も中々だけど、それよりも凄いのは心の強さ。
正義の権化みたいな人で、そうだな、ピンを外した手榴弾に未装備で飛び込める人で、仲間の為に戸惑いなく命を投げ出せるような人。そこがある意味恐ろしいんだけど、やっぱりヒーローって言ったらこの人かな。
俺が1番憧れている人かもしれない。
胸に星のマーク。群青色の戦装束を来た男が、星条旗の盾を投げる。壁を、床を、襲い来る敵に当たったと思えば跳ね返り、一度に複数の敵を撃退する物理法則を無視した動きを見せる。
――ソー・オーディンソン。
これは驚いたね。宇宙から来た神様だ。
雷を操る神様で、持ってるハンマーも特別性。
実を言うと、このソーとは色々無関係じゃなくなってるんだけど。そこはまあ、長くなるから省くけど、俺達が想像する神様って、人間離れをした思考回路をしてて、何もかも達観してる。
みたいに勝手なイメージを持ってるけど、真逆も真逆。すっごい人間臭くて熱い男なんだ。
そこがもう最高で、所詮人間の想像する超存在なんて、想像でしかないんだなって思ったよ。
赤いマントに鎧を纏った大柄の男が、大槌を振り回す。
宇宙から来た神。
ソーというのはこの国特有の発音らしい。
モルガンに馴染みがあるのはトールという名前。目の前の彼と同じ名前だが、それが本当なのであれば、北欧神話の雷の神だ。
ミョルニル、別名ムジョルニア と言われる文字通りの神造兵器だろう大槌を振り回せば、竜巻が起こり、自ら空を飛び、手元から離れても戻って来る。概ね神話通りの能力を持ったモノ。
他にもハルクという緑色の大男やホークアイと言う弓の達人。ブラック・ウィドウと言う女スパイの話などが、映像と共に彼、トールの口から紡がれていく。
そんな彼の口調は、これまでモルガンが聞いたことのないような抑揚のある話し方で。実に嬉しそうである。
次々と様々な人間の映像が流れて行く。
超能力を有する女性ワンダ・マキシモフ。機械生命体のヴィジョン。アントマン――スコット・ラング。
ワカンダの王、ティ・チャラから迸る威厳は、モルガンの知る憎きアーサー王のそれに勝るとも劣らない。
そして、Dr.ストレンジ。
――コイツは、元医者の魔術師。
俺の兄弟弟子で同期ってヤツ。エンシェント・ワンって言う人の元で一緒に魔術を学んだんだ。
魔術師は、魔術的な脅威から世界を守る為の存在で、マルチバース。まあ色んな次元とか並行世界だな。
そう言う所から襲って来る脅威から地球を守ってる。
コレがトールの扱った不可思議な魔術の発端だろう。自身の知る魔術とは根本から異なる技術。
別次元や、並行世界と繋がる事が前提の力。自身の知る並行世界関連の力は魔法の領域だが。
この魔術師達にとってはそもそもの第一歩が並行世界や別次元にアクセスする事らしい。あまりにも違いすぎて解析が出来ないのも納得の事である。
至高の魔術師ソーサラー・スプリームとして、世界を守り続ける道を選んだDr.ストレンジとは違い、トールは、あくまで目的の為の手段として、魔術を学んだとの事だ。そんな彼の独白には、寂しさと申し訳なさが見て取れた。
そして、舞台は宇宙へと移る。
様々な惑星。様々な異星人。巨人の頭蓋骨を住まいにしているような生活圏もある。
宇宙では、惑星そのものが意思を持ち、言葉を発する事は最早常識であるらしい。この地球においても、ガイアという意思を持つ星そのものの化身は観測しているが、あくまで魔術的な解釈であり、一般に普及はしていない。
ここもトールにとっての得難い出会いがあったようだ。
ガーディアンズオブギャラクシー 、惑星ザンダー、スクラル人、キャプテン・マーベル。
これまでの説明に彼自身の事はほとんど語られず。どんな出会いがあったとか、彼らはどんな素晴らしい存在だったとか。そういう他人の話ばかりだ。
自分の怪我を考慮せずにモルガンを守り続けた時と同じ、他者を優先しがちな気性が垣間見えて。表向きは変わったように見えても、実際のところあの時の彼のままなのだと感じる事が出来て。それに安堵する。
映像から目を逸らし、彼の横顔を見る。
冒険を語り、尊敬する人々を語る彼の表情はどこか見覚えがあった。
それは当時、視線を感じて振り返った先にトールがいた時、よく見ていた表情だ。
大きい笑顔ではない。ほんの少し頬が緩み、微笑むような、そんな顔。眩しいモノを見つめるようなあの表情にどんな感情が込められているか、あの時は何となく察してしまって恥ずかしかったけれど。
――私は、トールのそんな表情が1番好きだった。
今の彼の表情はそれと同じだ。
彼が、異世界でどれだけ充実した日々を過ごすことが出来たのか、これ以上ない程に伝わってきた。
トールが無事でいた事が嬉しい。
また会えた事が嬉しい
以前よりも、明るい雰囲気を纏いながらも、芯の部分は変わっていない事が嬉しい
良い意味で成長している事が嬉しい
だが――
記憶を失っている事が悲しかった。
その成長が、自分とは関係のない場所で、関係の無い存在によるモノだと言う事が悲しかった。
思ってはいけない事なのに、彼が新たな仲間を得ている事が、悲しかった。
思ってはいけない事なのに、喜ぶべき事なのに、彼の幸せは私の幸せのはずなのに――
そんな、邪な考えを抱いてしまった。
だからそう、つい、ダメ元で、魔術が効かないとわかっていながらも、彼の記憶が戻らないかと、記憶が戻れば、今度はあの顔を自分に向けてくれるはずだと。
記憶を覗き込み、意識を共有する魔術を発動してしまった。
そう、ダメ元だ。効かないとわかっている。無駄だとわかっている。いや、効かないと思っているからこそ、魔術を唱えてしまった。
だからこそ、驚愕した。
魔術は成功してしまった。
モルガンの視点が彼の見てきたモノへと変化していく。
彼の、異世界での出来事が、彼視点で流れて行く。
概ね、映像と共に彼の語る内容と同じモノではあった。
違うのは、殆ど語られなかった彼自身の視点である事。
トニー・スタークがジョークを交えながらトールを揶揄う。彼の発する雷の研究をしているらしいが、軽快なジョークに笑う彼の温かな気持ちが彼を通して伝わって来る。
スティーブ・ロジャースと湖の周りをジョギングしていた。会話の内容は、ノイズがかかっていてわからないが、トールが、彼に相談事をしているようだ。スティーブ・ロジャースに向ける敬意が、彼を通して伝わってくる。
ソー・オーディンソンとトールが、襲い掛かる宇宙人の集団に、同時に雷撃を放つ。その姿は歴戦を潜り抜けた相棒のようだ。良くやったと、ソーがトールの肩を叩く。その頼もしさに心強さを感じるのを彼を通して伝わって来る。
他にも様々な人間や、宇宙人との交流が、流れていく。
トールがどれほどに得難い仲間を得たのかが、彼視点で体感してしまった。
それだけでは無い。
トールが摩天楼が聳え立つ街を歩いている。
すると街ゆく人が皆彼に声をかける。遠くの者は手を振り、近くのものは握手をせがみ、中には写真撮影を求める者もいる。
目線の先には、巨大なスクリーン。
トールの顔をモデルにしたであろうイラストが書いてある、菓子商品の広告映像が流れていた。
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
街ゆく人皆が彼に礼を告げ、彼を称えている。
それは一つの国に収まらず、星を超え、銀河を超えていく。
トールがどれほどに、異世界でどれだけの数の人、いや人のみならず、全ての生命体に好かれているかを彼の視点で体感してしまった。
嬉しかった。これ以上ない程に嬉しかった。
だが、これ以上ない程に、苦しかった。
そして、映像が切り替わる。
いつの間にか、そこには、見たこともないような美しい情景が写っていた。
美しい空、その空を征く船。
見たこともないような建造物。
巨大な黄金の宮殿。
妖精國においても、汎人類史においても、見た事のない、絢爛煌びやかな。まさしく絵に描いたような、理想の世界。
神の国アスガルド。
――色々事故があってさ、俺の知ってるソーがいた世界とは別の、並行世界のアスガルドに流れ着いたんだ。
北欧神話で語られるその世界。この異世界においては、真実地球の神話世界では無く、完全なる別の惑星である。
彼は、その世界でも記憶を失い。そして北欧神話の主神オーディンに拾われたと言うのだ。
彼の知るソーは生まれておらず。義理の息子として、迎えられたらしい。アスガルドで過ごした彼の話を耳にする。
ヨトゥンヘイムの氷の巨人との戦い。
スヴァルトアールヴヘイムのダークエルフ達。
ムスペルヘイムでの炎の巨人スルトとの和平交渉。
その他様々な戦いと出会いを体感する。
――そして、目の前に、神がいた。
黄金の玉座に座る隻眼の男性。
老人でありながらもその身体の逞しさには全くの衰えを感じ無い。ただの記憶だと言うのに、この身に刺さる圧迫感は、体感した事が無いものだ。
北欧神話の主神オーディン。
この世界においては宇宙人であるのだが、まさに神話の神と言われても納得するほどの力を持っている事は明白だ。
9つの世界を平定してみせた事で、オーディンからの賞賛を受け取るトール。
これ以上に無いほどの栄光を受け取る瞬間を、身を持って体感した。
そして映像が切り替わる。
次に現れたのは、金髪の美しい女性だった。
その顔を見たトールの心に暖かいものが広がるのを感じ取り、ほんの少し、嫌な気持ちになってしまった。この女は誰なのかと、暫し考えるが、名前を聞いて解決した。
オーディンの妻フリッガ。トールにとっては母親に当たるのだろう。
彼女の慈愛の瞳がこちらを射抜く。見られるだけで安心してしまうような母性。愛しい息子を抱きしめようと迫る彼女とそれを受け入れるトール。
体に感じる暖かさと胸の痺れをモルガンも体感する。
母の慈愛をその身に受けて、彼はこれ以上のない幸福感に包まれる。
そして暗転。
モルガンが読み取れる記憶はこれで最後だという事だ。
再び記憶をたぐり寄せる。
似て非なる、様々な場面が、流れてくる。
その一部には彼の体に関する研究なども含まれていた。
その他、何をどう手繰り寄せても、彼の更なる過去、自分と過ごした記憶に繋がらない。
モルガンの事を思う場面が、1つも見当たらない。
モルガンに後悔の念が襲い掛かる。見なければ良かったと、魔術を使わなければ良かったと。
彼から伝え聞いた話だけならば、こうは思わなかったかもしれない。
だが、彼の記憶を通して、身を持って体験してしまった今となっては……
――あなたは、もう自分の居場所を手に入れているのですね。
これ程の幸せは、きっとモルガン私には与えられない。
あれ程の美しい国を、あれ程の輝かしい栄光を、あれ程の数の称賛を、この妖精國で彼に与える事はできない。
今はもう、人理が、國中の妖精が、予言の子が、カルデアが、モルガンを殺そうと企てている。
だから――
意識が覚醒する。
今は彼の住まいの中。
彼は、記憶の共有の影響でテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。
魔術で体を強化し、彼をベットまで運ぶ。
成長した彼の寝顔は、あの頃の彼のようだった。
彼の頭を優しく撫でる。
そんなモルガンの表情は愛おしさと悲しみに暮れていた。
モルガンはその顔をトールの顔にそっと近づけ――
離れた頃には、妖精國の女王の、冷酷な表情に戻っていた。
魔術を解けば、そこはいつもの大広間。
モルガンは女王騎士を呼び、告げた。
「ウッドワスに伝えろ。件の人間。貴様の軍に入れる事は許さぬと。所詮異世界の来訪者。外様の人間をあてにするなと。敵対しない限りは放置せよともな」
一礼し、女王騎士が消えていく。
静まり返った玉座のある大広間。
冬の女王は、いつも1人。愛するブリテンが永遠に続く事を願っている。
感想、お気に入り登録ありがとうございます。
誤字報告も大変助かります。
お手間を取らせてしまい申し訳ございません。
筆者のPCの調子が良く無いので、ここ最近スマホ入力なのですが、不備はございませんでしょうか。気になる点有れば遠慮なくおっしゃっていただければと思います。
アンケート解答、ありがとうございます。
MARVEL関連に触れていない方も思ったよりもいらっしゃるようでして。
随所に出てくる用語やキャラクター等、ご質問あれば遠慮なくおっしゃってくださいませ。
感想、評価などなど、よろしくお願い致します。本当に励みになります。
MARVEL作品をどれくらい触れていますか
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MCU含め、他媒体の作品も嗜んでいる
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MCUの映画は全て視聴済み
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MCUの映画を1本以上観た事がある
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一度も触れた事がない