世界を敵に回しても   作:ぷに丸4620

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妖精騎士トリスタン③

「ああもう、ムカつく、ムカつく、ムカつく!!」

 

妖精騎士トリスタンにとっては、二度目の出会いだった。

 

城での会議の後、グロスターでのお忍びショッピング。

 

イライラしない相手に出会った。

 

だがその相手はあの『予言の子』だった。

 

グロスターのオークションでの魔術勝負。

 

結果で言えば敗北だ。

 

言い訳はいくらでも思い浮かぶし、あれが実力差だとも思っていないが、最終的にはムリアンに言いくるめられた。

 

嫌いなはずの妖精なのに、嫌な感じがしなかった。

トリスタンにとっては、無自覚ではあるが喜ばしい事だった。

そんな相手が、まさかの『予言の子』で、母である女王の敵対者。更にそんな相手に屈辱を味合わされたのだ。

 

落差というものは、その感情に更なるバイアスをかけるものだ。トリスタンは今、リフレッシュのためにグロスターへ買い物に出る前以上に不機嫌になっていた。

 

このイライラを晴らすものが今は存在しない。

 

ベリルはどこかに行っている。

 

国立殺戮劇場も、先日の件もあり使えない。そもそもとして気が乗らない。

 

そして、トリスタンはふと思い出す。件の国立殺戮劇場。あの騒ぎを収め、どこかへ去っていった男。

 

トールだ。

 

ウッドワスとどうやら交流があるらしいあの男。

 

その事に、イラつくような、そうでもないような。自分でもわからないえも言えぬ感情が湧き上がったのだが、そう。その話は別としてだ。

 

あの男も先程と同じ。あの予言の子と同じ。何故かイラつかない存在だ。

 

何も言わずに去っていったが、ニューダーリントンの騒ぎを納めてくれた。

 

あの時の頭の感触を思い出す。

 

見た目より大きな手だった。

 

温かい手だった。

 

優しい感触だった。

 

何だかずっと昔、誰かにおんなじ事をしてもらったような――

 

「ま、ティンタジェルなんて田舎。誰もいないだろうし」

 

雑な思考を振り払い、一人呟く。

 

それは自身への言い訳か。

 

同時にもう一つ()()()()()()()()()を思い浮かべながら女王モルガンから賜った水鏡を発動する。

 

空間を繋げ、どこへでも転移ができる。モルガンが用意する妖精國唯一の御業。

 

移動は一瞬。水鏡を通して、ティンタジェルへと転移する。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

眼を疑うとはこの事だった。

 

ティンタジェルに辿り着いた。

 

そこまでは予定通り。

 

辿り着けば、まさしくボロボロの廃村と言った体の風景だった。

 

だがそんな中にほんの一種、ほんの一瞬だが。

 

ここにいるはずの無い、姿を見つけてしまった。

 

(……今の)

 

いや、きっと間違いだ。こんな所にいるはずもない。

 

見えたのはほんの一瞬にも満たない、それこそコンマ1秒にも満たない時間だ。

 

脳が認識できるかどうか定かでも無いその一瞬。普通であれば、気のせいとすら思えない。

 

だが、トリスタンにとっては、誰よりも大きく、誰よりも大事な相手。

 

故にその感覚を無視する事は出来なかった。

 

今、この廃村に、自身の母親、女王モルガンがいた――気がした。

 

今はその姿も、残滓も、何も感じ取ることは出来ない。

 

万が一、いや億が一、気のせいではないとして、何故ここにいるのか?

 

まさかあのトールに会いに来たのか?

 

様々な理由がトリスタンの頭をグルグル回るが、考えすぎて知恵熱を起こしそうだった。

 

「……気のせいよね」

 

だからこそ、トリスタンは考えすぎて、頭がパンクする前に考える事を放棄した。

 

偶然か、廃村も規模が小さいとはいえ、建物は複数あるが、件の母親がいたであろうその場所に、一際小奇麗な建物がある。

 

トリスタンは手間が省けたと、トールはあそこにいるであろうと確信し、何の遠慮もなく、そのドアに手をかけた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢だったのだろうか……

 

気付けばベットの上だった。

 

ハッキリと覚えているのは、オックスフォードで飲み明かして、頭痛を抱えたまま家に帰ってきた事。

 

そこから先の記憶が曖昧だ。

 

だが、そう、凄く劇的な何かがあった気がするのだ。

 

具体的に言うと、夢に登場していた女性が目の前にいたような。そんな感覚。

 

何せ起きる直前まで見ていた夢だったであろう。あの女性。今回は大分曖昧だったディティールが多少マシになっていたのだ。

 

――酔い過ぎて妄想が加速したか?

 

一応はと、家に仕掛けている侵入者対策のカメラや会話ログを起動するが、自身が帰った時、自動的ににプライベートモードになる設定にしていた事を思い出した。。トニーのラボで手伝いをしていた際、メカニックとしての腕もメキメキと付いていた為、自身が開発し、取り付けた機能。残念ながらそれが裏目に出てしまった。

 

記録は何も残っていない。トニー辺りだったら、実は録画はしていて、強固なプロテクトで、本当にいざという時だけ観れる。みたいな機能を付け加えていたかもしれないが、残念ながらその発想はトールには無かった。

 

これといって誰かが出入りした形跡もない。

 

だが、この胸に疼くものは何だろうか。

 

あと少し、あと少し何かがあれば何かのきっかけで、わかりそうなものだが。今は全く心当たりがない。

 

とりあえず、頭痛は消えたが、まだアルコールが残っているような感覚があったので、水を飲む。

 

1日経てば大体酒は抜けるはずだが、何というか体が重い。

 

まあしょうがないと、思いながら水を飲み干す。

 

肝心なのは夢の美女だ。いや、考えたところで答えは出ないのだが、モヤモヤは晴れない。

結局何だったろうと思考の海に埋没しそうになったところで、玄関の外から、足音が一回。

 

そう、一回だ。歩いて来た。と言うよりは、空から現れて着地した。という感覚の足音だった。

 

空中に手をかざす。外に仕掛けたカメラの映像が空中に映し出される。

 

そこに、見覚えのある姿を見かけて驚愕した。

 

何故?

 

と疑問を抱きつつ、玄関のドアを開ける。

 

「あ――? お前、なんで気づいたんだ?」

 

赤い髪に赤いドレス。全身これ以上ない程に赤に彩られた。

 

レディ・スピネル――妖精騎士トリスタンがそこにいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、どうぞ」

 

「狭いけど、センスは悪くないじゃない」

 

なんだか失礼な事をのたまう少女。

 

彼女の毒舌はいちいち気にしていたらキリがないので、スルーする。

 

というよりむしろ最後の言葉によって相当に褒めてくれているんだろうと解釈した。

 

その程度を把握するくらいには彼女の事を理解しているつもりである。

 

なぜここに来たのかとか、なぜこの場所を知っているのかとか、いろいろ聞きたいこともあるが、正直なところ気まずかった。

 

何せ、ニューダーリントンの国立殺戮劇場にて、モース人間を片付けて後は放置。などという中々最低な去り方をしてしまったのだ。

 

トールにとってトリスタンは自身を蔑ろにしてきた妖精達の中で初めて親切にしてくれた妖精でもあるが、

國の妖精を好き勝手に殺しまわっている悪女でもある。

その二面性や、女王の娘であるという事実に、少なくとも今、記憶を失い、さらに度重なるループの影響の結果。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という自身でも理解出来ていない思考の誘導によって、トリスタンはの関わりに躊躇いをもたらしていた。

 

とは言えだ。そんな遠回しの思考の誘導程度で、この國で1番最初に親切にしてくれた恩人を追い出すという選択肢は無かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

やはり、女王の娘という所か。

 

口から出る言葉は汚いの一言に尽きるが、トールが差し出した紅茶を飲むその姿には気品があった。

 

全身赤と派手さは目立つが、その容姿に関して言えば、女性にしては高身長なのもあって、口を開かなければ、貴族のご令嬢や王族と言われても全く違和感はない。

 

そんな彼女をじっと見ながら考える。

この妖精國の彼女の評判は最悪だ。オックスフォードでウッドワスと、少しだけ彼女の話になったが、國中の誰もが、彼女が女王の娘である事に疑問を持っているらしい。

その影響で、女王への忠誠を失うものもいるとか。

会議中に気に入らないからと官司を殺す事もあるとのことだ。

妖精は子供を産まない。故に何処からか突然連れてきた下級妖精が娘として次期女王になるなど、あり得ないとされ。更にその妖精が残虐性を備えているとなると……

 

結果は今の妖精國の予言の子ブームがそれを物語っている。

 

女王はそんな蛮行もウッドワス曰く『家庭の事情』という事で済ませているらしいが果たして、どういう意味なのか……

 

「――おい、何ボーッと見てんだよ」

 

と、じっと見ていたせいか、訝しげに声をかけられた。

 

「いや、本当に女王の娘なんだなーと思って」

 

「何だよ、今更ビビったってワケ?」

 

「いや、改めて関心してるんだ。会った時は気づかなかったけど、佇まいがちゃんとしてるから」

 

それが正直な感想だ。

 

彼女、口は確かに悪いが、その姿勢から動作に至るまでの所作一つ一つは確かに優雅で華麗である。

 

前の世界での都合上、こういった上流階級の連中を良く見てきたが、まったくもって劣る事はない。

 

「ふ~ん……見る眼はあるってわけね」

 

「で、なんでここに?」

 

「まさか、この間、何にも言わずに出てったから捕まえに来たのか?」とは言わなかった。

わざわざこちら側の不利になるような事をほじくりかえしてもしょうがない。

 

「この間の、件よ、その、ニューダーリントンの……」

 

と思っていたらまさしくその話題だった。

 

まさか、勝手に出てったことを責められるのか?

 

(というか俺、一応罪人としてあそこに送られたんだった……)

 

肝心な事を忘れていたと、内心で焦りながらも次の言葉を待つ。

 

出方次第では、この家のありとあらゆるギミックを使って、脱出せねばなるまい。

 

と、一人、神経を研ぎ澄ませていたら。

 

「その……礼よ、礼。お前、そのままどっかに行ったから礼の言葉も言えてないと思って」

 

そんな、意外な事を言い出した。

 

そちらの方かと、ひとつ安堵したところで、礼なんていらないと答えようとしたところで、

 

彼女はおもむろに立ち上がり、スカートの裾を上げた。

 

「我が、ニューダーリントンを救っていただきありがとうございます。異邦の国の王子、トール様。

ブリテンの女王の娘として、改めてお礼申し上げますわ」

 

それはあまりにも優雅なカーテシー。

 

そこにいるのは、グロスターでトールを振り回した我儘で口が悪い令嬢では無く、

 

間違いなく、女王の娘であると納得できる気品と優雅さを兼ねそろえていた。

 

そして何より、その礼の言葉にはその、たたずまい以上の真摯な思いを感じ取った。

 

自身の知る人間に比べれば、自分勝手なのが妖精だ。

 

だが、彼女のそのお礼の言葉は、あるいは、トールの知る異世界の善人達以上に、心に響く礼の言葉。

 

それはきっと、その佇まいのみが理由ではない。

 

 

『ありがとう魔女様、改めてありがとうトール様——』

 

 

そして同時に、トールの頭に一瞬だけよぎったビジョン、それは無意識下のもので、本人は自覚すらしていない。

 

だが、そのビジョンが、間違いなく。トールの心にその礼を響かせた。

 

そんな理由もあって、惚けていたら、

 

「さ、これで貸し借りはなしという事ね。ホラ、今日はすっげぇイライラする事があったしすっげぇ退屈だったんだよ。とっとと私を持て成せよ、奴隷君?」

 

全てを台無しされてしまった。

 

思わず苦笑いの表情を作る。

 

なんだか、その落差がむしろ、彼女の個性という風に感じられ、そんな姿が面白くも可愛らしいと思ってしまった。

 

なんとなく予想していた部分もあった事だし、むしろ外行き用の以外な姿を見せてもらえたという事で、得をしたと思う事にする。

 

彼女のエスコートは経験済みだ。

 

トールは考える。

 

確かに彼女は、妖精國の嫌われ者で、残酷で、悪の権化みたいな存在なのだろう。

 

だが、自分にとっては口が悪いだけの、むしろ、自身の知る妖精、先日持て成してくれたウッドワスよりも、素直な性格だと思っている。

 

妖精國では悪魔でも、自分にとっては、生意気だが、どこか、優しくて、かわいらしい少女にすぎない。

 

だから、せめて、そういった色眼鏡なしに、彼女に付き合ってやろうと、改めて心に決めたのであった。

 

それは、トールの懐の広さというよりは、無自覚な過去の出会い故なのかもしれない。

 

だが、それは確かに、今のトールにとっての決意であり、心からの誓いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・トリスタン
トールによって、イラつかない相手に対し、本編よりも良い印象を持っていただけに、キャストリアとのやり取りでイラつきは倍増。

謹慎命令も、そもそもグロスターにお忍びで行った時点でバレなければOKのスタンスだったので、お礼を口実にストレス発散の為トールに会いに。

・トール
モルガンとのやり取りはほぼ記憶に無し。
ただ、何らかの影響を受けてはいる状態。



大筋はもちろん変わらないのですが、

各ルート。口調等、ちょくちょく変更を加えている途中でございます。

そのついでに若干の台詞回しや、展開の順番を若干変更したりしております。


展開に矛盾が出るほどの変更はしておりませんが。違和感を感じた際は、遠慮なくご指摘していただければと思います。

今後もよろしくお願い致します。

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